※既出ネタかもしれません。
つよいよわいつよいよわい
通りがかった田吾作さんのところの畑を荒らしていたゆっくり……まりさ種、れいむ種、ありす種、ちぇん種、ぱちゅりー種の五匹を捕まえた。畑はあまり荒らされておらず、どうやら畑に侵入した直後に発見できたようだ。
ちょうど用事を終えて帰ってきた田吾作さんから礼として収穫し終わった野菜を受け取り、おなじみの透明な箱(防音)に入れた五匹を担いで、私は日課となりかけてることをするために我が家へ足を進めた。
私が暮らすこの長屋(に近いもの。外の世界でいうアパート、というものらしい)の一室、まず自分の部屋に戻り、田吾作さんからもらった野菜を河童印の冷蔵庫に仕舞う。
続いておとなりの部屋──この長屋に暮らす人々は、世間では虐待お兄さんと呼ばれており、ゆっくりを愛でる人からは疎まれ、ゆっくりの被害に悩まされる農家の方々からは感謝されている──に住む友人を訪ねる。ちょうど彼は赤ゆっくりを食べながら天狗の新聞を読んでいた。
「お、どした?」
「大猟だったからおすそ分け。今日使うのは三匹くらいだから」
「あんがとさん。あ、コレ食う?」
「一個もらうよ」
友人が差し出した赤ゆっくりを受け取り、口に放り込む。赤ゆっくりの絶叫を聞きながら歯で押しつぶすと、穏やかな甘さが口の中に広がった。
「美味いな」
「じゃ、ちぇんとぱちゅりーでいいか?」
「ああ」
透明な箱の中で白目を向いたり泣いたりしている五匹(多分赤ゆっくりを食べたことが原因だろう)の中からちぇんとぱちゅりーを取り出す。箱を開けたとき、
「あがぢゃんになにずるのぉぉぉ!?」
「ゆっくりできないにんげんはさっさとどっかいくんだぜ!」
「とかいはじゃないわー!?」
「わからないよぉぉぉ!」
「むきゅ……むきゅ……」
何か聞こえた気もするが、ただの雑音である。
ちぇんとぱちゅりーを出そうとしたときに他の三匹が逃げようとしたが、動きが遅いのでさっさと箱の中に戻しておいた。あとぱちゅりーが弱っていたのでオレンジジュースで無理やり回復させておいた。
「それじゃ」
「おう」
友人があの二匹をどう使うのかは聞かなかった。友人も私がこの三匹をどう使うのか聞かなかったし、そういった互いの嗜好に深入りはしないのだ。
部屋に戻り、箱を開ける。途端に三匹が騒ぎ立てた。
「しね! あかちゃんをたべちゃうにんげんはしね!」
「ゆっ! ここはなかなかいいへやなんだぜ! ここをまりささまのゆっくりぷれいすにするんだぜ!」
「いなかくさいへやね! ここはありすがとかいはにこーでぃねーとしてあげるわ!」
れいむは私の足に体当たりを仕掛けるが、所詮饅頭なのでむしろ気持ちがいい。まりさとありすは私の部屋を「おうち宣言」しているが、どうやら彼女たちはこの部屋に染み付いたゆっくりの死臭に気付かないようだ。
まぁそもそも、この部屋にゆっくりの死臭なんてないのだが。
さて、はじめるとしようか。
「なあ、れいむ、まりさ、ありす。人間とゆっくり、どっちが強いと思う?」
「ゆゆっ? なにばかなこといってるの? にんげんがゆっくりにかてるわけないでしょ?」
「ゆっへっへ、まりささまのつよさをしらないのかだぜ?」
「いなかもののにんげんがとかいはのありすよりつよいわけがないじゃない!」
三匹はゆっくり特有の高慢さから、ゆっくり>人間の関係を疑わない。
老いた個体やぱちゅりーならば不等号の向きが逆であることを知っていただろうが、ここにいるのはゆっくりの中でも特に高慢な三種(余談だが、捕食種ではれみりゃが圧倒的に高慢である。そしてれみりゃ以外の捕食種にはほとんど高慢さは無い)であり、しかも人間の恐怖を知らないであろう若い個体である。
食料事情が切羽詰まる晩秋はまだまだ先であり、この三匹とちぇんとぱちゅりーが勝手に生えてくる野菜(とゆっくりの大半は信じている)を腹いっぱい食べようと山から下りてきたのは明白だ。
「そうか。じゃあ私を殺してみろ。殺せたらこの部屋は君たちのものだ」
「「「ゆ?」」」
私の言葉に、三匹は一瞬固まった。直後、まりさが私の足に体当たりをし出した。
「ゆっへっへ! まりささまのちからをおもいしらせてやるんだぜ!」
柔らかい饅頭が、ぽすぽすとぶつかってくる。もちろん痛みなんてない。
れいむやありすも攻撃に加わるが、柔らかいものが三つに増えたところで特に何もならない。
五分ほど体当たりを続けていたまりさたちだが、体力が尽きたのかぜぇぜぇと息を切らし始めた。
「ゆひぃ、ゆひぃ」
「痛くも痒くもないぞ。本気でやってるのか?」
「ゆぅっ!? や、やせがまんはよくないんだぜ!」
「やせ我慢も何も……傷ひとつつけられないじゃないか。
……まりさの力を思い知らせてもらったよ、この程度か」
「ゆうううう! そんなことないんだぜぇぇぇぇ!!」
「れいむ、ありす。おまえたちもその程度なんだな。二人がかりでも傷ひとつ負わせられない」
「ゆぅぅぅぅぅ!?」
「なあ、本当にゆっくりは人間より強いのか?」
「あたりまえだぜ! ゆびゅっ!?」
「まりさになにすびゅっ!」
「と、とかいはのありすにびぃっ!」
三匹にデコピンをかましてやった。三匹とも唐突な痛みに転がりまわっている。
「痛いか?」
「ごのぐぞにんげん! まりざざまになにずるんだぜぇぇぇ!?」
「どぼじでごんなごどずるのおおぉぉぉ!?」
「い、いたくないわ!」
三匹とも涙目である。ありすだけは痛みを堪えたようだ。
「痛いよな? 今の痛かったよな? なんでゆっくりより弱い人間に痛みを与えられず、ゆっくりより弱い人間から痛みを受けているんだ?」
「ゆ゛っ!?」
「なにいってるんだぜ!? だからにんげんはゆっくりよりよわいからだぜ!?」
「だから何でそのゆっくりより弱い人間のデコピン一発でおまえたちは痛がっているんだ? 言っておくが、デコピンなんて人間の持つ攻撃手段としては最低ランクだぞ?」
「いたくないわっていってるじゃびゅっ!?」
もう一度ありすにデコピンをかますと、ありすは壁の方まで転がっていった。
「何で人間より強いゆっくりの、最大の攻撃手段である体当たりを受けて、ゆっくりより弱い人間が微動だにしないんだ?
何でゆっくりより弱い人間の、最低ランクのデコピンを受けて、人間より強いゆっくりがあんなに吹っ飛ぶんだ?」
「ゆぎぃぃぃぃぃ……!」
「なにいってるのかさっぱりわからゆぎゅっ!」
何か言おうとしたまりさにもデコピン。
「ゆっくりは人間より強いんだろう? ならば人間程度、簡単に殺せるだろう?
何故殺せない?」
「ゆわぁぁぁぁぁぁ!!! ごべんなざいぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
「まりざがわるがっだでずぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」
「いだがっだでずぅぅぅぅぅ! ゆるじでぇぇぇぇぇぇ!!!」
三匹とも泣いてわめきだした。だが、彼女らの心の中は悟りでなくても読める。
「(にんげんはばかだから、こうやってないたふりをすればゆるしてくれるよね!)」
「(まりささまをばかにしたつみはおもいんだぜ! ぜったいにふくしゅうしてやるんだぜ!)」
「(ないたふりなんてとかいはじゃないけど、しかたがないわ!)」
まぁ、大方こんなところだろう。
私はなるたけ優しい笑顔を作り、ゆっくりと言った。
「許す? 何を言っている。ゆっくりより弱い人間に許してもらう必要なんてないだろう?」
「「「ゆゆっ?」」」
私のその言葉を聞いた途端、三匹とも涙を止めて顔を上げた。やはり泣き真似だったようだ。
「ゆゆっ! そのとおりなんだぜ! だからゆっくりできないにんげんはさっさとまりささまのゆっくりぷれいすからでていくんだぜ!」
「たべものもよういしてね! ぜんぶでもいいよ!」
「いなかものはゆっくりしないででていきなさい!」
デコピン。
「ゆぎっ」「ゆびゅっ」「ゆべっ」
「そして私は許さない。君らを絶対に許しはしない」
「どぼじでぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
「どういうことなんだぜぇぇぇぇぇぇ!?」
「うそつきぃぃぃぃぃぃ! いなかものぉぉぉぉぉぉぉ!」
「嘘? 何が嘘だというんだ? 私は君らを許すなんて一言も言ってないよ? 『許してもらう必要は無い』とは言ったけど、それがどうして嘘になるんだ?」
「ゆっ……」
「そ、それは……」
と、ここでようやくまりさが、まりさ種特有の行動を見せた。
「れいむとありすはどうなってもいいから、まりささまだけはみのがしてほしいんだぜ!」
「ゆ゛っ! どぼじでそんなごどいうのおぉぉぉぉぉ!?」
「まりさ、うらぎるつもりなのぉぉぉぉ!?」
「うるさいんだぜ! れいむとありすはおとりになるんだぜ!」
そう言い放ち、まりさは私に媚びた視線を向けた。
だが、
「おいおい、ゆっくりは人間より強いんだろう? まりさ、君がそう言ったんだ」
「ゆっ……!?」
「……なんでゆっくりより弱い人間に『見逃して』ほしいんだ? ゆっくりは人間より強いんだろう?」
「ゆぎいいいぃぃぃぃぃ!?」
見逃すつもりなんて無い。
「どうして人間より強いゆっくりが私程度も殺せないんだ? 強いんだろう?」
「人間はゆっくりより弱いんだろう? なんで弱い人間に命乞いするんだ?」
「ゆっくりより人間のほうが弱いんだろう? そんな相手に許してもらう意味はあるのか?」
「殺して? ゆっくりより弱い人間相手に殺して、と言ったのか?」
「まりさは人間より弱くなんかないよ。そうだろう? だって、そう言ったのはまりさじゃないか」
「れいむより人間のほうが強い? 違うだろ? れいむのほうが人間より強いんだろ?」
「ありすが田舎物なんて、そんなことあるはずないだろう。ありすが都会派と言ったのは、他でもないありす、君だろうに」
「おうちかえる、だって? ここを自分のゆっくりプレイスにするって言ったのは、君だろう?」
「なぁ、ゆっくりと人間、強いのはどっちだ?」
「に゛んげんでずぅ……」
「に゛んげんざまのほうがづよいんでずぅ……」
「だがらぁ……もうゆるじでぇぇぇ……」
「違うだろ? ゆっくりのほうが人間より強いんだろ?
そういったのは、君らじゃないか!」
「ゆぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
「ゆっぐりざぜでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「もうい゛や゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
翌日、友人の部屋を訪ねると、とてつもない量の赤ぱちゅりーと赤ちぇんが箱の中に入れられていた。
「ちぇんのほうを母体にして無理やり繁殖させてみたんだ。これでしばらくは楽しめる。……ああ、おまえからもらった二匹だけどな、菓子にしてみた。うまくできたら後でみんなにもわけようかと思うんだが」
「味見していい?」
「ああ」
「いただきます。……うん、いいね。甘すぎないし、後味も悪くない。やっぱり君はこういうストレスの調整がうまいなぁ」
「いやいや、うちの師匠に比べたらまだまだだよ。……で、それは?」
「ああ、『ゆっくりは人間より強い』って言いながらデコピンしてたらこうなった」
「まりさはつよいまりさはつよいまりさはつよいまりさはつよいまりさはつよいまりさはつよいまりさはつよいまりさはつよいまりさはつよいまりさはつよいまりさはつよいまりさはつよいまりさはつよい
まりさはつよいまりさはつよいまりさはつよいまりさはつよいまりさはつよいまりさはつよいまりさはつよいまりさはつよいまりさはつよいまりさはつよいまりさはつよい」
「ゆっくりしていってね!!! ゆっくりしていってね!!! ゆっくりしていってね!!!」
「おうちかえるありすはおうちにかえるんだからここからだしてありすはおうちにかえるおかあさんたすけてよおうちかえりたいんだからありすかえりたいおうちおうち」
「……俺、たまにおまえが怖い」
「いやいや、この程度まだまだだよ」
あとがきかもしれない
ども、前回「実力の無い話」というものを投稿したものです。その際は多くの評価、感想をいただきありがとうございます。
今回の話、「つよいよわいつよいよわい」ですが、……セリフ部分多いなぁ。
田吾作さんって誰だ。
以上、EGSでした。
11/12 二時半頃改訂しました。失礼いたしました。
過去に投稿したもの
最終更新:2008年11月14日 04:22