その他 変身

「ゆ~、ゆ~……ゆっ!」
 目が覚めた俺はゆっくりと伸びをして体を起こそうとした。
「ゆうぅぅ……っくりしていってね!!!」
 自分の口から飛び出した異様な言葉に驚いた。
 何でそんな台詞が出るんだ? それに声も、女のような甲高い声、いや、女に似た奇妙な声だったのだ。
「ゆっ? ゆゆっ、誰かおしえてね!!!」
 辺りを見回して、ベッドから身を起こす――と、ぼてんと重い感触とともに、体が床に落ちてしまった。かまわず俺は顔を洗おうと、洗面台に向かった。
 洗面台はやけに高くなっていた。俺の身長の五倍はある。よじ登ろうとしたら、異様なことに気づいた。俺には手がない、足がない!
「ゆっ、ゆめなら早くさめてね!!!」
 異常だ。異変が起きている。俺は気が狂ったように部屋を這い回り、やっと机の上にある小さな鏡のことを思い出した。そうだ、昨夜、PC前であのスレに書き込みをしてから、鏡を見てひげを抜いてから寝たじゃないか……そんなことも忘れるなんて、俺の頭はどうなっちまったんだ?
「あ、あたまは悪くないよ! 霊夢ふつうだよ!!!」
 相変わらず意思と異なる台詞が飛び出る。動揺しながらベッドに這い上がり、そこからなんとか机に飛び移った。
 鏡を覗き込んだ俺は、呆然とする。
「ゆっ……」
 紅白饅頭……! これが今の俺なのか? どういうことだ、いったいどうなっちまったんだ!
「……くりしていってね!!!」
 だめだ、驚くとあの台詞が出る。落ち着け落ち着け落ち着け……。

 日向に出て五分ほど休んでいたらおちついた。

「ゆっくりしていってね!!!」
 この台詞も、なんだかきぶんがすっきりするようだ。唱えればとなえるほど、元きになって、活りょくがわいてくる気がするよ。
「うぃーす、**、いるかー?」
 あっ、だれかが来た。そういえば今日は約束していたんだ。友だちの……友だちの、だれだっけ? まあだれでもいいや。おれは、玄かんに迎えに出た。
「入るぞー。まだ寝てんの……うひゃあっ!?」
「ゆっくりしていってね!!!」
 わあ、大きな人だ。だいじょうぶ、このひとはゆっくりできる人だったはず。おれは気やすい調子で、そのひとに飛びついた。
「ゆっくり!! ゆっくりしていってね!!!」
「な、なんだこりゃあ!?」
 あ、かばんなんか振り回して、楽しいのか、
 なっ、
「ゆぐぅぅぅっ!!?」
 いたい! あたまの角に、かばんがぐしゃっと当たったよ! 皮が「ぬぢぃっ」と裂けて、中を「どりゅっ!」とえぐられたのがわかったよ! 
 あんこが「ぐちゃぁっ」と飛び出しちゃったよ!
 いたいいたいいたい、やけるみたいだよ!!!
「い、いたいからやめてね!? なぐらないでね!!」
「よ、寄るなよるな、来るなぁー!」
 あ、行っちゃった……。
 まあ、いいか!
 ああ、それにしてもおそとはいいてん気だなあ。
 そうだ、お出かけしよう! おそとには、楽しいことがあるかもしれないよ!
 おいしいばったや、ちょうちょや、ラーメンがあるかもしれないよ!
 ……ラーメン? ってなんだっけ。
 まあ、
「ゆっくりかんがえるよ!!!」

 そうやって、おれはおそとへ出たよ。
 おそとにはたくさんの小さな人があるいていたよ。おれはうれしくなって、みんなにこえをかけたよ。
「ゆっくりしていってね! ゆっくりして、ゆっくりしていってね!!!」
 そうしたら、みんなはきゃあきゃあと楽しそうにはしっていったよ。
 おにごっこだ! みんなおにごっこするんだね!
「ゆっくりにげてね!!!」
 おれはうきうきとはねて行ったよ。
 そうしたら、いきなり横みちから、なにかが飛びだしてきたよ!
「ヴァウワウ、バウッ!」
「ゆっくりしていっ、でねぇぇぇぇ!?」
 ガブッと、ほっぺたをかまれたよ!? やわらかいほっぺたに、あついいたいとがったものが、ズブズブささってきたよ!
「ゆっ、ゆっくりはなしてね、はなして、はなじでぇぇぇ!」
「アヴヴヴヴ!」
 いだいよいだいよ、こわいよぉぉ!
 やめでぇ、ふりまわざないで、ちぎれっ、ちぎれぢゃっ、うっ!
「アヴっ!」
「ゆぐぅぅぅぅぅっ!!」
 ぶぢっ! て……
 ちぎれたよ!
 かべにべちゃっとぶつかって、下にどぼんとおちたよ! くさい水がどろどろ中に、中にぃぃっ!!
「ゆっ、ゆっくり入ってこないで、ごないでねぇぇぇぇ!?」
 みっ、緑のぐちゃぐちゃしたどっ、どろが、おれの中にねろねろながれこんでっ、そのっ、その中から、これなにっ、なに!?
 ちっちゃな糸みたいなうにょうにょがたくさん、たくさん、たくざんんんんんん!!
 かわっ、皮のなかに、にちにちもぐりこんでっ、でっ、きぢゃっ、うっ!
 むずがゆっい! むずむず、むずずずずずずぅっ!!!
「ゆぐぅぅ!! ゆぐぅひぃぃいぃ!??」
 や゛っ、おれっ、きもぢわるびいだいぞわぞわぞわぞわぞわぞわぞわ
「ゆっく゛りでぎないよお゛お゛お゛お゛
 ゆっぐり狂っぢゃうよお゛お゛お゛お゛お゛!!!?」
 ひ、ひ、ひ
 ひっじではいだしだよ!!!
「ゆっ……ゆっ……くり……しだいよ……」
「あれです、あいつ!」
「うちの園の子を追い回したんです!」
「ようし……」
 あれっ、だれかな……?
「この怪物め!」
 ぽぐじゃばぁっ!!!
「ゆぶぷぱっ!?」 
 ぼ、ぼうでおもいっぎりなぐらないでねぇぇぇぇぇ!?
「あっ、待てっコラ!」
「ゆっぐりしてでねぇぇ!!」
 おれはがんばって、がんばってにげたよ!
 ほそいみちにはいって、青っぽいふくの人からにげたよ!
 ずっとずっとにげて、そうしたら、青っぽいふくのひともいなくなったよ!
 やっと……
 やっと……
「ゆっくりーーーー!!!」
 ゆっくりできるよ!

 でも、おでことほっぺにあながあいて、何かぼたぼたもれているよ……
 もれるとつかれてきて、あだまがいだくなるよぉ……
 穴のまわりでは、なにかむずむずうようようごいでいるよぉ……
 ぶたれたあたまもさけで、ガンガンいたいよぉ……
「ゆっ、ゆっくり、たすけで……」
 なんで、こうなったのかなあ……
 ぎゃくたいSえすなんか、かいたからかなぁ……
 ……ぎゃくたいえすSって、なんだっけ?

 おひざまが、あづいよぉ……
 あ、ひかげだ。
 ひ、日かげにはいって……
「ゆっぐり、やすむね……!!!」

 プーップーップーップーッ
 チンコーン
『バックします ご注意ください
 バックします ご注意ください』

 なにか、きこえるよ……。
 あたまのうえの屋ねが、ごろごろうごきだしたよ……
 もうちょっと、ゆっくり

 ミチョ

「じでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!??」
 はっ、はさまれたよ!?
 くろくて丸いものが、ゆっくりのってきたよ!!
 ものすごくゆっくり、ゆっくり、こっちへ……!
「ゆっ、ゆぐっ、ゆぐっりもっ」
 いわなきゃ、はやくいわなきゃ、
 ゆっくりもどってねっていわなきゃ!!!
「ゆっ、ゆぐぅぅぅ! ゆっゆっ、ゆひ、っゆぐゆぐっ!!」
 いっいえ゛ない゛っ、ほっぺ、ふまれぢゃっ、
 こえっ、こえ出なっ、でなぃっい、つぶれっ、
 つぶれてしんじゃうよぉぉぉぉぉ!?
 ごめんなさいごめんなさいごえんなざっいっ
 もっミチもうミチチョッぎゃっぎゃくだっミチブチッえすっかっ
 書ぎまぜっミヂブッゆるっゆるしゆるしおねがぐるじだめがふチチつぶれつぶっ
「ゆぐぶぶぅぅぅぅ……っ!!」

 ぶばちゃぁぁぁぁぁっっっ!!!

「おーい、止めろとめろ。なんか踏んでる」
「ああ? なんだこれ、クッソ汚ねえなあ。うんこか?」
「いや、餡子みたいだぞ。この匂い」
「あんこでもうんこでも一緒だろ。おーいホースもってこい」

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最終更新:2008年09月14日 05:12
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