永琳×ゆっくり系11 八意永琳のアルティメット・サイエンス

 八意永琳のアルティメット・サイエンス


 カコーン……と身の引き締まるような鹿威しの音が、時おり静寂を破る。
 永遠亭――。
 竹林に面した広い座敷に、ブレザー姿の鈴仙・優曇華院・イナバは座していた。
 かたわらにはピンクのワンピースの因幡てゐ。同じく正座姿だが、居心地が悪い
らしく、もじもじと落ち着かない様子だ。
 二人の正面には、紺と緋に染め分けた道服を身に着けて、美貌の女性が端然と座
している。
 八意永琳、一億歳。
 紅魔館の大魔女パチュリー・ノーレッジを魔の泰斗とするならば、こちらは幻想
郷きっての理の碩学。その永琳から重大な話があると申し渡されて、鈴仙とてゐの
二人はこうして出頭したのだった。
 カコーン……。
 ――お師匠様、今日は一体なにを。
 鈴仙は緊張していた。このように改まって話をされることなど、近頃はなかった。
 永琳が口を開く。
「鈴仙、てゐ……」
「はい」「へいー」
「われわれはいよいよ、あの重要極まりない件について、真剣に議論しなければな
らない時期を迎えました」
「と、おっしゃると……」
「それは……ゆっくりのことです」
 カコーン……。
 鹿威しの音が、沈黙を埋めた。
 こてんと、てゐが横に倒れた。

「あの、お師匠様、ゆっくりとは、あの餡子のつまった……」
「ええ、博麗霊夢や霧雨魔理沙に似た、あの不思議な生き物のことよ」
 まさかと思いながら言った鈴仙の台詞は、あっさりと肯定される。
「あれがどうかしたんですか? あんなのは妖精たちといっしょで、たいしたこと
のない虫みたいなものなんじゃ……」
「鈴仙」
 永琳の透徹した黒い瞳が、鈴仙を見つめた。てゐがごろんと横になってあくびを
する。
「私たちはこの星を支配しています」
「し……支配」
「支配です」
 静謐に、永琳はうなずく。
 その傲慢極まりない台詞を、あたかも自らの名を名乗るがごとく自明のものとし
て。
「私たちはいかなる者よりも長くこの地に留まり、あらゆる者の最後にこの地にし
ろしめします。それが支配でなくて、なにかしら?」
「は……はい」
「永遠の命。それが私たちを支配者たらしめている。マクロビアンであることはあ
らゆる力を越える者だということを意味するのです。……おまえは不死ではありま
せんが、おまえに及ぶ永遠亭の威光は、そこから発しているのです」
「はい」
 ごくりとつばを飲み込む。ものものしい言いようだ。
 しかし、それとゆっくりとのつながりは、まだわからない……。
「私たちは生命の終わりを掌握し、自家薬籠中のものとした」
 独り言のように永琳がつぶやく。カコーン……と鹿威しが鳴った。
 てゐはうなぎのようににょろけている。
「ゆっくりは」
 永琳の一言が、裁判官の槌音のように響く。
「この私たちの権威に、挑戦しています」
「と、おっしゃられても……ゆっくりは不死ではありませんが」
「そう、ゆっくりは不死ではない。それどころか、いかなる意味でも強靭ではない。
寿命は長くて数年に過ぎず、生態系における地位は低く、知能、運動能力、個体数、
希少性、ほかさまざまな見地からしても賞賛すべき点はない。ありていに言って幻
想郷の、いえ、この惑星上の生命すべてを冒涜する犯罪的な存在でしかない」
「そ……それがなぜお師匠様を」
 これほどまでに、苛立たせているのですか。
 鈴仙はいまや、その言葉を口に出せずに飲み込む。座敷に無形のプレッシャーが
満ち満ちている。永琳の発する、ゆっくりに対する針のような怒り、疑問、いらだ
たしさの波を、鈴仙のやわらかな兎の耳は敏感に捉えている。
「たいくつウサ~」
 てゐは仰向けに寝っ転がってお茶菓子の饅頭を食べている。
 その饅頭を、永琳がすっと取り上げた。
「鈴仙」
「はい」
「これはなにかしら」
「は……ま、饅頭……だと思いますけど……」
 いかなる深遠な難問かと疑いつつ、そんな浅薄な答えしか返せぬ自分を内心で罵
りながら、鈴仙はおそるおそる言った。
 永琳はあっさり首肯する。
「饅頭よ」
「は……はあ」
「これは生き物かしら?」
「いえ。無生物、だと思いますが……」
「これがしゃべったり移動したり繁殖したりすることは、ありえる?」
「ありえません――たぶん」
「多分ではないでしょう」
「はい、ありません!」
「そう。ないのです」
 そこで一気に、永琳の苛立ちが膨張した。無数の針のような危険な感情の波が、
座敷を満たし、縁側にまであふれ出し、竹林へと散じていく。鈴仙は総毛だった。
傍若無人なてゐですらも、びくりと起き上がって、逃げ出すようなそぶりを見せた。
「ゆっくりは」
 永琳が、押し進む氷河のような冷ややかさで言う。
「生きている」
 手のひらに饅頭をかざす。
「饅頭のくせに、生きている。ただの加熱調理された、無生物の、有機物の分際で!」
 ぶるぶると震えだした饅頭が、突如、パンとはじけた。見守る二人は戦慄する。
一億年を生きた月人の恐ろしさを痛感する。
「私たちは生命の終わりを左右できる。しかしゆっくりは生命の始原を左右してい
る! 無から有を生み出している! かつて人の族のパスツールが生命は生命から
しか生まれずと断じ、またユーリー、ミラーが硝子の器具中にその誕生を夢みてつ
いに達せられなかった、生命の自然発生を! あの冒涜的な饅頭たちは! その一
挙手一投足によってこの上なく傲慢にも宣し続けているのです! わかるかしら?
 鈴仙!」
「は、はい!」
 いまだ師匠の怒りの万分の一も感得してはいなかったが、思わず鈴仙は背筋を伸
ばす。永琳は彼女に指を突きつける。
「わかるかしら? 私がなにを言いたいのか」
「ゆ、ゆ……ゆっくりを、掃滅……」
「掃滅などしてしまっては、その謎が解き明かせないでしょう?」
「はい!」
「とっつかまえて調べるウサ~?」
 何か言わなければいけない、という義務感にかられたのかどうか、部屋の隅まで
退避していたてゐが、ぼそっと口を挟んだ。すると、永琳がちらりと冷たい目を向
けた。
「調べる?」
 永琳の右手が上がる。
 ぱちん! と指が鳴らされる。
 途端、ごうッと音を立てて畳の床が降下した。鈴仙もてゐも度肝を抜かれる。
「おっお師匠様、これは!?」
「私が今まで、何もしてこなかったと思って?」
 ごうごうとすさまじい勢いで降下した床が、次第に速度を落とし、やがて静止し
た。高みから落とされる細い光の筋が、三人だけを照らしている。
「この私が、手をつかねてゆっくりを放置してきたと思って? ――てゐ」
「ひいいいいいごごごごめんなさい」
「どうなの?」
「しっ調べたと思うよ! ししょーはちゃんと調べたんでしょ?」
「そうよ」
 ぱちん! とまた指の音。
 それに続いて、立て続けに光を放って浮かび上がる、数々の円形のメーター。
 ぼぅん ぼぅん ぼぅぼぼぼぼぼ 
 あっというまに三人の周囲は凹型のメーターに埋め尽くされた。床、壁、天井に
並ぶ数々のメーターが、その広大な地下室内の光景を照らし出す。
「ひぃぃぃぃ」
 今度こそ鈴仙とてゐは悲鳴を上げて抱き合った。
 そこにあったのは、多数の、実におびただしい数のゆっくりたちの標本だった。
 ゆっくりれいむ、ゆっくりまりさ、ゆっくりぱちゅりー、ゆっくりれみりゃ、ゆっ
くりフラン、ゆっくりちぇん、ゆっくりみょん、ゆっくりチルノ、ゆっくりゆかり
ん、ゆっくりれーせん、ゆっくりてゐ、きめぇ丸、ゆっくりえーき、ゆっくりにと
り、ゆっくりめーりん、ほかありとあらゆる幻想郷住人の醜悪なデフォルメが、立
ち並ぶ円筒形の水槽の中にホルマリン漬けにされている。
 それも成体だけではない。指先ほどの赤ちゃんゆっくりから、妹ゆっくり、姉ゆっ
くり、普通ゆっくり、ふくれゆっくり、母ゆっくり、奇形ゆっくり、両面ゆっくり、
それに鈴仙たちが一度も見たことのない、雄ゆっくり、ヒゲゆっくり、ハゲゆっく
り、黒ゆっくり、長ゆっくり、広ゆっくり、車輪ゆっくり、節足ゆっくり、有翼ゆっ
くり、メカゆっくり、泥ゆっくり、粘土ゆっくり、金属ゆっくり、氷ゆっくり、布
ゆっくり、米ゆっくり、パンゆっくり、ゴムゆっくりなど、ありとあらゆる形態・
亜種のゆっくりがそろっている。
 また一方には、ゆっくりれいむの水槽だけがずらりと数十本も並べられた列もあっ
た。それは最初母ゆっくりの正中線輪切りで始まっており、よくよく見ると、餡子
層の奥に小さな小さな点のような胎児が見つけられた。
 そこから一成長日刻みで断面標本が続き、出産直前の、母ゆっくりの無様に膨れ
た腹の中で、十分成長した胎児ゆっくりがうじゃうじゃとひしめきあって、一頭目
が今まさに産道へと押し出される瞬間を輪切りにしたものまで、一日の抜けもなく
完璧にそろえられていた。
 また別の棚には、水平なプラスチック様の板が数十枚重なった標本もあった。そ
れを周りから見ると、一体のゆっくりれいむの解剖学的構造が下から上まで五ミリ
刻みで見ることができた。目が開いているところを見ると、生きている間にプラス
チックで包埋したものだろう。それを頭頂から順に丁寧に輪切りにしていって、中
身をくまなく見ることができるようにしたものだった。
 また一方には、中形のゆっくりによく見られる、繁殖枝の模型も、やはり二十体
あまりの連続標本として並べられていた。その一セットを作るために、固定に失敗
した繁殖ゆっくりが、百体以上も無残に捨てられたことは明らかだった。
 その他にも、その他にも、その他にも――ゆっくりの詳細な生態学的記録図、深
催眠、自白剤、精神誘導剤などの各種方法で導かれたゆっくり自身の告白や精神分
析、ゆっくりの器官標本、ゆっくりの組織顕微鏡写真、ガスクロマトグラフやX線
蛍光分析によるゆっくりの元素分析表、ゆっくりの味・匂いの詳細な比較同定研究
などなど、ありとあらゆる、微細にわたるゆっくり調査の成果が、そこには集大成
されていた。
「ね」
 ファナティックとしか言いようのない、徹底的なまでの調べっぷりに、狂気を操
る鈴仙やてゐですら、真っ青になってガタガタと震えている。永琳が静かに告げる。
「調べたのよ、すでに」
「は、はひぃぃぃ……」
「およそ考え付くことはすべてやった。ゲノムすら読もうとしたわ。けれどすべて
無駄だった。ゆっくりにはゲノムがなかった。DNA、RNA、ほかいかなる遺伝
物質もなかった。それどころか細胞構造がなかった。顕微鏡に写るゆっくりはαグ
ルコースがグリコシド結合した高分子、すなわち加熱した米粉と小麦粉以外の何物
でもなかった。つまり――つまり、私たちの科学を信じるならば」
 永琳は立ち上がり、手近の標本の一つに触れた。
「存在しえないのよ、こんなものは」
 カシャァァァァァン……!
 涼しげな音を立てて、すべての標本が砕け散り、飛び散った。
 同時にすべてのメーターの灯が消えた。室内は暗転する。
「そういうわけよ、鈴仙、てゐ」
「は、はいっ?」
「ばかね、聞いていなかったの? 私は生物物理化学的なすべての方法を試したけ
れど、ゆっくりが生きている理由を突き止められなかった。となれば、あとできる
ことは、ただひとつじゃない?」
「どどどどどんなことでしょう」
「聞くのよ」
 さらり、と永琳は言う。
「聞くの。おまえはどこから来たのか。もとは何者だったのか、と。そうやって――」
 ひそやかに歩いた永琳が鈴仙の後ろへ回り、すっかり萎えきった耳をつまみあげ
て、ささやいた。
「最初の一頭へ遡る」
「最初の、ですか?」
「そうよ。いかに理解を絶した不思議存在であるゆっくりといえども、かつて存在
せず、いま存在するものである以上、それが幻想郷に現れた瞬間、というものがあ
るはず。私は、その非連続な特異点を、見つけ出したいの」
「し、しかし、お師匠様――」
 次第に永琳の意向がわかってきた鈴仙は、懸命に心を落ち着けようとしながら、
たずねた。
「ゆっくりの寿命が短いのはご承知でしょう。最初の一頭どころか、先代、先先代
のゆっくりすら、すでに死んでしまっているんじゃありませんか」
「だから?」
 にっこりと、永琳は笑う。
「死が、どうしたというの? 幻想郷でそのような障壁が意味を成すと思って?」
「というと……まさか、白玉楼に協力を?」
「だけではないわね、必要なのは」
 目を閉じて、永琳は人差し指を宙で回す。
「非生命であるゆっくりが動いていることについては、人形使いに一家言あるはず。
 魔法的な生命体であるかもしれないから、魔女の知恵も役に立つかもしれない。
 ゆっくりと饅頭を分け隔てる境界については、境界を操る程度の彼女が詳しいで
しょう。
 過去の世代に属するゆっくりの馴れ初めについては、あの獣人に頼ることも出来
そう。
 ゆっくりは一種の奇跡のようなものだから、奇跡を帯びた巫女にも手がかりがあ
るわね」
 聞くにつれ鈴仙は凍りつく。この人はこんな件で、なにを言い出すのか。
 てゐはと見れば、尻尾を巻いて向こうのほうへ行って、必死になって脱出を図ろ
うとしている。
「そういうわけで」
 永琳が振り返って、鈴仙の肩を叩いた。
「総力戦」
「ぴ」
「全員、口説き落とす。行くわよ、鈴仙」
「ちょっ、待っ、お師匠様」
「てゐ、てゐ! このためにおまえを呼んだのよ、ウサギを全頭呼んでちょうだい!
 私たちが出かけている間、『手始めに』『すべての』ゆっくりを捕まえてきて!」
 ごぉぉん……と床が迫り上がり、やがて座敷に差し込む陽光が鈴仙たちを迎えた。

 交渉は、当然ながら多難を極めた。永琳が協力を要請したのは、幻想郷屈指の個
性派の人物ばかりだった。図書館に閉じこもって出てこない者、寝てばかりで起き
てこない者、嫌がって会おうともしない者たちを交渉の席に引きずり出すだけでも、
多大な苦労を要した。
 それに対して永琳は、あるときは頭を下げて頼み、あるときは月ゆかりの貴重な
宝物を対価に差し出し、あるときは部下の鈴仙ともども泣き落としをかけ、あると
きは決死の弾幕戦さえ挑んで、驚くべき粘り強さで説得を続けた。
 これだけの大きな試みともなると、当然、博麗神社の巫女の耳にも入り、博麗霊
夢と霧雨魔理沙のコンビが臨戦態勢で飛んできた。永琳はその膨大なキャリアに物
を言わせ、理非の限りを尽くした弁舌によって彼女らをも仲間に引き込んだ。
 霊夢の仲裁はかなり事態に影響を与え、まあ彼女が出てくるのなら、ということ
で、半分お祭り気分で参加する者も増え出した。
 ついにはもっとも厄介だった八雲紫、西行寺幽々子の二人が現れるにあたって、
四季映姫ヤマザナドゥ、洩矢諏訪子の両実力者までなんのつもりか顔を出し、錯綜
する人間関係を監視仲裁する霊夢たちともども、祭りでありながら戦争前夜のよう
なわけのわからない緊張した状況へと至った。
 これらの全員ではないにしても、相当数の人々が、「ゆっくりの出自を突き止め
る」というひとつの目標に向けて集まったわけで、これは前代未聞の出来事だった。
 泡を食ったのは竹林のてゐである。
 のんきな彼女は巫女が介入してきたと聞いた時点で、このわけのわからない事態
もいつも通り鎮圧されるものだと楽観していたが、どういうわけか巫女が鎮圧する
どころか手助けする側に回ってしまい、雪だるま式に膨れ上がった参加者すべてが
ゆっくりの捕獲を待っていると聞くに及んで、すべての責任が自分の双肩にかかっ
ていると理解した。
「わ、私はそんな肉体労働する柄じゃないんだけどー!」
 泣き言をぶいぶい漏らしつつも長老ウサギの威厳にかけて、逃げ出すわけにもい
かず、配下のウサギすべてに招集をかけた。その数五万と五千匹。
 博麗神社から妖怪の山までくまなく走り回ったウサギたちが、目に付くゆっくり
をすべて狩り出して集めたのは、七日七晩の後だった。その間大御所たちがほぼ全
員杯片手に騒いでいたのは言うまでもない。
 集まったゆっくりは妖怪たちが張り巡らせた結界に囲まれ、霧の湖のほとりの平
原に積み上げられた。

「ゆっく「ゆっ「りして」ゆっ「いっ」ね!ゆっく」りっく」していっ」「ね」っ
くり「ゆ」ゆっ「ゆっくりしていってね!!!」「り「ゆっくりしていってね!!
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していってね!!!」っ」ね!」ゆっ」ね!ゆっく」「ゆっくりしていってね!!
!」ゆっ」ね!ゆ」ゆっ」ね!ゆっ「ゆっくりしていってね!!!」

「お師匠様……」
「なに、鈴仙」
「これ、何匹いるんでしょうね……」
「計算しなさいよ。円周と高さで見当がつくでしょう。まあ五十万は越えないんじゃ
ないかしら」
「ごじうまん……」
 妖怪としては例外的に常識派の鈴仙は、うんざりし果てたようなすこぶる血の気
の失せた顔で、うぞうぞとうごめく巨大粘菌のようなゆっくりたちの群れを見つめ
た。
 だが、永琳の次の言葉を聞いて、うんざりどころか気絶しそうになった。
「これはまだ手始めよ。このゆっくりたちを元に、先祖へと遡るんですから」
「もう、私の想像を超えるんですけど……」
「じゃあ黙って見ていなさい。幽々子、お願い!」
「わかったわ~」
 手を上げて答えた西行寺幽々子が、おびただしい数のゆっくりたちに向かって、
両手を広げた。
「行くわよぉ――えーい!」
 突如、ゆっくりたちの姿が陰影反転し、ぎくしゃくとそれまでとは逆の動きをし
始めた。
 スペルカード「反魂蝶」の発動。それも、霊夢や魔理沙でさえ見たことのなかっ
た、『満開』モードでの使用だった。その効果はすさまじく、ゆっくりたちは凄ま
じい勢いで生命の流れを逆流させられ、悲鳴を上げてもだえ苦しみ始めた。

「ゆっぐりできないよぉぉ!!!」
「なんでこんなごどするのぉぉ!!?」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「あ ん ご が 漏 れ ち 
ゃ う よ お ゛ ぉ ゛ ぉ ゛ ぉ ゛ ぉ ゛ !」」」」」」」」」」
」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
」」」」」」」」」」」」」

 悲鳴とともに数多くのゆっくりが、どばぁぁと噴水のように餡やクリームをを噴
き出す。
 続いてさらに、「リポジトリ・オブ・ヒロカワ」、「完全なる墨染の桜・亡我モ
ード」が多重発動。ゆっくりたちの正常な自我を失わせ、故人の思い出にひたらせ
た。

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「お が あ ざ ぁ あ ぁ 
ぁ ぁ ぁ ん ! ! ! 」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 発狂し、生命の元である餡子を噴出しながら、失った故人の思い出を叫びあげる
ゆっくりたち。すると、噴出した餡子があちこちでにわかにむくむくと立ち上がり、
彼女らの先祖に当たる古いゆっくりたちの姿を形作り始めた。
 それら故人の霊たちが、エコーのかかったような幽冥なる声でいっせいに挨拶を
し始める。

『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『
『『『『『『『『『『『『『『『『『『『ゆ ゆ ゆ ゆ ゆ ゆ ゆ っ く 
り し て い っ て ね ね ね ね ね ね ね ね ね ね ぇ ぇ ぇ
 ぇ』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』
』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』

「おえっ……ぷぶ」
 莫大な死霊の鬼気にあてられた鈴仙が、口元を押さえてうずくまる。年季では並
ぶもののない永琳は吐きこそしないが、この異様極まりない光景に当てられたか、
瞳をぎらぎらと光らせて全身から陽気を漂わせている。
「すばらしい……なかなか見られる光景じゃないわ。鈴仙、しっかり見ておきなさ
い」
「うっぐ……は、はい……」
 師匠の命には逆らえない。鈴仙は蒼白な顔で、かろうじてうなずく。
 永琳は幽々子に手を振ってから、逆の方向に合図をする。
「紫、早苗」
 合図に答え、八雲紫と東風谷早苗がスペルカードを切った。結界「生と死の境界」
および秘術「忘却の祭儀」、それぞれが逆発動する。

『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『
『『『『『『『『『『『『『『『『『『『ぐ ゆ ぶ ぶ ぶ ふ ぶ ぶ ぼ 
ぼ ぼ ぼ ぁ あ あ あ ぁ あ あ あ ぁ あ ぁ 』』』』』』』』』
』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』
』』』』』』』』』』』』』』

 立ち昇った餡子に降霊した霊魂でしかなかったはずの先祖ゆっくりたちが、死と
生の境界を取り除かれ、一時的に生命そのものになる。そして忘却したはずの記憶
を強制的に取り戻され、もだえ苦しむ。
「これはさすがに都会派の私の出る幕じゃないわぁ」
「むきゅ……見てるだけで体に悪いわ……」
 体育座りで並んだアリスとパチュリーが、壮絶な餡子霊生物たちの苦悶の踊りを
見て、呆然とつぶやく。
「さて、そろそろ仕上げね――慧音、準備はいい?」
 上白沢慧音のOKの合図を目にした永琳が、自ら前に出て手に持った弓をかざし
た。
「覚神・神代の記憶――および蘇活・生命遊戯(ライフゲーム)!」
 八意永琳、スペルカード多重発動。
 生命そのものを任意に操る力と、はるかな記憶を呼び覚ます力が、餡子霊生物の
故人ゆっくりたちに対して振るわれた。涸れた井戸の底を掘り起こし、出てきた水
脈を汲み尽くして搾り取るような、霊魂と記憶に対する猛烈な無理強い。餡子霊生
物たちは苦しみに苦しみ抜き、絶叫して暴れ狂い、失われたさらに古い記憶を搾り
出す。
 霊生物たちを支える、地上の現代ゆっくりたちにいたっては、その千倍万倍もの
苦痛を受けている。踊り狂い、ぶつかり合って潰しあい、絶叫に次ぐ絶叫を上げて
声は涸れ、生きながらにして次々と黒く涸れていく。

『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『
『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『
『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『
『ゆ゛ っ゛ く゛ り゛ 死゛ ん゛ し゛ ゃ ゛う ゛よ ゛ほ ゛お ゛
ぉ ゛ぉ ゛ぉ ゛ぉ ゛! ! ! !  』』』』』』』』』』』』』』』』
』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』
』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』
』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』

「師匠、師匠、これちょっと、ひどすぎないですか?」
 三度も吐いてげっそりと青ざめた顔で、鈴仙は永琳に取りすがる。
 すると、師匠が彼女を見下ろした。
 そのときの永琳の上気した美しい顔を、鈴仙は生涯忘れることが出来なかった。
「ここに真理が来るのよ、鈴仙!」
 彼女の手の一振りで、上白沢慧音が最後のスペルカードを発動した。
「虚史・幻想郷伝説――」
 鋭い星型をした光の花が、混沌としたゆっくり霊生物たちの群れを取り囲み、激
しく照らし出した。慧音の力、歴史を作る程度の能力が最大限に発揮される。
 やがて、からみあう餡子色の臓物めいていたゆっくり霊生物たちが、渦巻きなが
ら中央に集まり、ひとつの巨大な何者かの姿をとり始めた。
「来たわ――!」
 永琳が歓声を上げる。もし彼女の考案した手順が正しかったならば、降臨するの
はゆっくりの先祖のそのまた先祖へとさかのぼった、初代ゆっくりであるはず。
 無と餡子しかなかったそもそもの始まり、いかにしてゆっくりが生まれたのかが、
解き明かされるのだ!
 巨大な餡子塊は、じょじょに輪郭を整え、ついには小山ほどもあるひとつの丸い
顔面へと結合した。永琳は目を細めて、それが一体何者なのかを見極めようとした。
「あれは――」
 不意にそれが、ひどく見慣れた誰かの顔に変わったような気がした――その時。
「永琳、何をしてるの~?」
 背後から場違いな――およそここで聞くとは思わなかった声がした。
 振り向いた永琳は顔を引きつらせる。
「ひ……姫?」
「なんだか幻想郷じゅうの人が集まってるみたいだから、見に来たのよ」
 外へ出ないことが多い幻想郷実力者たちの中でも、出なさ加減では屈指のはずの
永琳の主君、蓬莱山輝夜がなぜかそこに立っていた。
 彼女を見た瞬間、永琳の精神集中は途切れた。テクノロジーの乱用で彼女の身を
危険にさらしたことは、永琳にとって過去最大の過ちである。いまのこの状況は、
それに限りなく近いものだった。何しろ、一発だけでも多大な犠牲者を出しかねな
い強力なスペルカードを、大勢の実力者たちに何枚も同時発動させているのだ。
 ――大変なところに、輝夜を来させてしまった。
 そう思った途端、巨大ゆっくり霊生物を成立させていた彼女の魔力も、雲散霧消
した。いままさに何者かの形を完成させようとしていた餡子からは、空間をきしま
せるような巨大な悲鳴を上げて霊が飛び去っていき、あとに残った餡はただの物理
的実体として、ぼたぼたと地面に降り注いだ。
 それらはすべて、ほんの数秒の出来事だった。永琳がそれに気づいて、あわてて
振り返ったときには、すでにすべては終わっていた。
「あ! ……あああ……」
 居並ぶすべての人々が、失望のため息を漏らした。彼女たちは皆、それなりに力
を振り絞って各人の術を保っていた。それが破られた反動のためか、いっせいに座
り込んでしまった。
「なぁんだ、失敗か……」
「やる気なくなっちゃったわ~」
 永琳ががっくりと肩を落とす。戸惑いがちに辺りを見回しながら、輝夜がその背
を叩いた。
「ええっと、何かまずいことしたのかしら、私」
「いえ……」
「うーん、まあなんとかなるわよ、何事も!」
 無責任に言って、輝夜は微笑んだ。
 鈴仙はその有様を見てから、結界の中へ視線を移した。
 数十万のゆっくりのほとんどが餡子の海の中で死に絶え、残りも絶命しかかって
震えていた。

 結局、ゆっくりの生い立ちを調べるという永琳の計画は、成功しなかった。
 あのとき集まった人々は、いかにも幻想郷の住人らしいのだが、珍しいものが見
られたし宴会も堪能できたからという理由で、さほど怒りもせず帰っていった。
 およそ四十八万頭が死亡したゆっくりは、三ヵ月ほどで元の数に戻った。
 骨折り損のくたびれもうけだったてゐは、不貞腐れまくっていた。これに限って
は、さすがの鈴仙もいささか同情しないでもない。今回は彼女が一番の貧乏くじだっ
た。
 永琳はすっかり落ち込み、以後二度とゆっくりに関わろうとしなくなった。
 鈴仙がゆっくり関係の仕事を命じられることもなくなった。

 だが――鈴仙は、思うのだ。
 永琳すら気づかなかった、ある事実について。
 それは永遠亭にある一鉢の植木のことだ。
 その植木は優曇華という。月の都から持ち込まれた植物で、地上の「穢れ」を取
り込んで成長する。成長した優曇華は、枝分かれした先端に七色に光る玉を実らせ
る。そのために優曇華はまたの名を蓬莱の玉の枝とも呼ばれる。
 地上の穢れを取り込んで成長する――。
 枝分かれした木に、実を実らせる――。
 そういった性質を、あの餡子生物たちも備えているではないか。
 そして、その優曇華を実際に栽培しているのは、退屈を公言している人だ。とて
もとても退屈していて、千年や万年の永いときよりも、短い今の一瞬を大切にする
と称している。何もする事がないのは何もしようとしていなかった為だとも言って
いた。
 退屈しのぎのために何かとんでもないことを始める人がいたら、この人を置いて
他にはないんじゃないだろうか。彼女が「最初の一頭」を自ら作り出して、野に放っ
たのでは……?

「鈴仙、手伝って!」
「あ、はい、ただいま!」
 師匠の声に、鈴仙は我に返って走っていく。
 言えるものではない。鈴仙の師匠が求めているのは美しい真理であって、脱力モ
ノの馬鹿げた冗談などではないのだから。


fin.

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最終更新:2008年09月14日 05:15
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