- 俺設定あるがもだどー☆
- 虐待少な目だどー☆
- ゆっくりを多少美化してるどー☆
- 普通の東方キャラがでてくるどー☆
気がつくとすぐ目の前にちゃぶ台の足があった。
いつの間にか寝てしまったようで、部屋中散らかしっぱなしだ。
昨日の夜は久々にゆっくりを捕まえたので、時間を忘れて虐待してしまった。少しハッスォーしすぎたかな。
俺はあくびをすると、いざ動かんと足を動かそうとした。
その時妙な違和感を覚えた。
……あれ?立てない?
そういえばずいぶんと視点が低い場所にあるにもかかわらずちゃぶ台の足が視界に対して直角だ。
手を動かしてみる。自分の顔の前に手を持ってきた…つもりだったが、入ってきたのは白いフサフサ。
な、なんなんだこれはァーッ!?
「わわわわ、わからないよー!!」
思わず叫んだ言葉に再び驚き手(と思っているもの)で口をふさいだ。
急いでちゃぶ台の上に飛び乗った。確か手鏡がおいてあったはずだ。
ぽよんぽよんとちゃぶ台の前まで移動する。
鏡を覗き込むとそこに映っているのは虐待鬼意さんの顔……ではなく、ゆっくりちぇんのそれだった。
まあちぇんには胴体がないから当たり前っちゃ当たり前だが。
「わがらないよー!わがらないよおぉぉー!!」
何かを叫ぼうにも「わからない」という言葉以外出てこない。
ヤバイぞ俺、これ相当ゆっくりに毒されてないか……
さっきだって足を使わなくとも感覚で前に進む方法がわかった。
このままでは何があっても普通の生活だけはできない。
よし、まずは何故こうなってしまったのかを考えよう。
そう、それは昨日、職場から帰ってくる途中に道を占拠しているゆっくりに会ったところから始まる。
週はじめ、あと4日も仕事があるのかと憂鬱な気分だった鬼意さんの目の前に現れた4匹。
「ゆっ!おにーさん、ここは まりさたちの ゆっくりぷれいす なんだぜ!
まりさたちの ゆっくりを じゃまするんだから つうこうぜいを よこすんだぜ!」
「そうすればどいてあげるよー。ゆっくりわかってねー」
「れいむも ちょうど おなかが すいてきた ところだよ!ゆっくり おかしを ちょうだいね!」
「とかいはの ありすは ちょこれーとな きぶんだわ!」
例のごとくそれぞれ勝手なことを抜かし始めた。
だがこいつらは格好の獲物だ。欲求不満の俺に喧嘩を売ったのが失敗だった。
いつもの様にもっとゆっくりさせてあげるだの有り勝ちな嘘を餌に4匹をうちへ連れ帰った。
その後ゆっくり共を透明の箱にぶち込んで腹ごしらえ。
それから久々の虐待に心を躍らせながら計画を練ったのだ。
まりさは「ドキッ!水浸しランニングプレイ (主に底辺の)ポロリもあるよ」プレイで胴体の底が抜ける様子を楽しみ、
れいむは「門番は見た!紅魔館門前8枚卸殺人事件」ごっこの被害者役をやらせ、
ちぇんは「風流サイバーマルチバケーション」プレイで真っ暗な中辞世の句を無理やり作らせ、
ありすは「都会派アリスの被お料理教室」プレイで焼きプリンの材料にした。
そういえばまだアリスプリンが半分残ってるな……いやいや、そんなことはどうでもいい。
別に何か特別怪しいことをした覚えはないんだが、どうしたものか。
冗談だろ……悪い夢なら早く醒めてくれ!
俺は自分の顔をぺしぺしと尻尾でひっぱたいた。
……痛い現実をつきつけられ尚のこと悲しくなった。
「うーん、わからないよー……」
考えをめぐらせていると再びこの言葉が出てきた。
たぶん今の俺を誰かに見られていたら、間違いなく「知るかぁっ」という蹴りか殴りの突込みが入るに違いない。
原因はわからない。何にせよいつまでもこの格好で居るのは100%危ない。
かと言ってこの格好で友人に会うのは自殺行為だ。誰だって信じてくれまい。
特に俺の交友関係ならなおさらだ。
俺の姿を見るや居ないや「ヒャッハー!」という奇声と共にナイフやフォークや鋏が飛んでくる。
どこぞの天才先生にみてもらうか、あるいはスタンダードに紅白のめでたい巫女様に相談するのがベターだ。
何にせよこの状況を打開するには外出が必須だ。
だが困ったことにここは人里であり、周りは畑だ。
それというのはつまり、
- 畑の近くを通ると必ず農家のオッサンが飛んできてつぶされる。
- 他の虐待鬼意さん、あるいは天敵のれみりゃやフランに見つかっても隠れる場所がない。
- 別のゆっくり複数と会った時に攻撃されるとマズい。特にレイパーやゲス。
ぜ、絶望的だ。その上ここから神社や永遠亭は決して近くはない。
普段加工所の中の事など頭をかすりもしないがもし連れて行かれたら……と思うと震えがとまらない。
いままでゆっくり達を虐待してきた罰なんだろうか。
人間は自分に降りかからない限りその不幸の味が分からないというのはこういうことなのか。
周りを見回す。
不思議なことに周りは散らかってはいるものの、特にゆっくりの残骸が転がっているわけではなかった。
寝る前に片付けたのか?くそっ、こんなことになるなら虐待なんかしてなきゃよかったのかも知れない。
あいつらだって痛いんだろうし、たまには別に何とも無しに視界に入っただけで絞め殺したくなる事もあるし……
いや、こいつらに同情する必要なんてある訳ない。
こいつらが悪い。自分の立場をわきまえず、罪悪感を持たず、常に回りを否定して自分を正当化する。
つぶされて当然、排除されて当然だ。
じゃあ何故俺はこんな目に会っているんだ。おかしいじゃないか!
俺は悪くない。こんなのはおかしい。早くなんとかしなくては。
ぷるぷると頭を左右に振ると目を瞑り、ここを出るべく頭の中で思考をめぐらせた。
しかし今一つぱっとした物が思いつかない。
「わからないよ……わからないよ……」
ぶつぶつとつぶやきながら必死にない脳みそ……ではなく餡子を捻って考える。
と、その時だった。
ド派手な音と共に部屋の中の空気がかき回される。
振り向くと比較的大きなれいむとまりさがガラスを叩き割り部屋に飛び入ろうとしているところだった。
「にんげんさんの おうちを ゲットしたよ!
こんな うすいので ふたをするだけなんて にんげんさんは やっぱりバカだね!」
「やっぱりまりさのいったとおりなんだぜ!
かしこいまりさに かかれば こんなもん らくしょうだぜ!」
こんなときに限って家を乗っ取りに来やがったのか!
虐待したくてうずうずしてる時には来ないくせに!
「ゆっ!なんだかへんなこがいるよ!」
「ここは まりさたちの ゆっくりぷれいすなんだぜ!
よそものの ちぇんは とっとと でていってね!」
それはこっちの台詞だ。
「ここはちぇんのお家だよー。馬鹿なんだね、分かるよー」
言ってからしまった、と後悔する。今の俺は輝く拳を持った鬼意さんではない!
不用意に喧嘩を売ったのは失敗だった。
「なまいきな ちぇんは ひつようないよ!
れいむたちに さからうやつは ゆっくりしんでね!」
「ゆっくりを じゃまする ちぇんは きえてほしいんだぜ!」
俄かに乗っていたちゃぶ台が揺れて突然まりさが視界を覆う。
そして間髪居れずに自分の頭上からまりさがのしかかってきた。
「ゆべっ!」
自分の体が自分のものとは思えない悲鳴を上げた。
のっしのっしとまりさが体を揺らすたびに自分の中身が外に押し出されそうになるのが分かる。
吐きそう、そして裂けそう。ダブルの苦痛が全身を支配する。
視界がチカチカとまたたく。耳鳴りがする。
踏まれるだけでもこんなにキツいとは、やっぱりゆっくりは相当柔な生き物だ。
「ゆっくりしねぇ!」
まりさが一際大きく跳ねた。この隙に一気に体に力を入れてその場を飛びのく。
そして後ろから飛び来る罵声を尻目に先ほど割られたガラスをめがけて走った。
どっすどっすという音が迫り来る。
畳に散らばるガラスの破片を尻尾で払いながら猛進し、穴にダイブした。
「ゆ゙ゔゔゔうぅぅぅぅぅぅ!れ゙、れ゙いむ゙のおめ゙め゙がぁぁー!」
飛び散ったガラスが目に入ったらしい。
本当は振り向いて苦しむザマを見てやりたいのだが、今はそんなことをしてる場合ではない。
庭を飛び越え垣根をくぐり、あぜ道をただひたすら走る。
もうここまでくれば追ってこないだろうと後ろを振り向くと、玄関前から高々100mほどしか離れていなかった。
あまりの身体能力の低さに改めて絶望を覚える。
俺はずりずりと体を引きずりながら余りの惨めさに打ちのめされそうになっていた。
多分、先は相当長い。
いや、なんとしても「短い」のだけは避けなければ。
長い時間歩いた気がする。気づけばもう既に畑は過ぎ、山の裾にかかっていた。
日差しも高くなってきた。時折人間とすれ違うが、その度に草むらに隠れる。
今のところ一度も危険を感じることなくやって来れた。
だがここから近い方の博霊神社でさえ歩いて30分、しかもそれは人間の足での話である。
ここまで歩いてきて気づいたことがある。
ゆっくりは一般的に羽がない限りは飛び跳ねて移動する。
その為最初はすぐに底の皮が痛くなるかと思ったが案外そうではない。
はねる際に全身の力を使うためか余り疲れも感じない。
「タフなんだね、分かるよー」
タフなんだな、と言ったつもりだったのだがすべてがゆっくりちぇん口調になってしまう。
起きたての頃よりも酷くなっている気がして歩みが尚のこと速くなる。
そういえば腹が減ってきたな。
思えば昨日の夕食以来何も食べてない。
腹ごしらえをする前にまりさとれいむに家を追い出されてしまったからなぁ。
ちぇんもムカつくがやはりあの2匹もダントツでムカつく。
だが今は誰にも当たることはできない。尻尾がむなしく地面をパシパシと叩いた。
「無力だね、惨めだね、分かるよー」
思い通りに進まないだけに焦りは募る一方な上にこの口調。
自分で言っているのだが、なんとなく別のゆっくりちぇんから言われているような気がしてしまう。
うるせー。誰の所為だと思ってやがる。
流石にいらいらして来たが自分で自分を痛めつけるほどバカじゃない。
元の体に戻ったら思う存分痛めつけてやる。覚えていやがれ。
木漏れ日の中をゆっくりゆっくりと進んでいく。
片側だけだった林が両側になり、道路はいつしかT字路にさしかかった。
ここを右に行けば博霊神社、左に行けば永遠亭だ。
正直距離が変わるといっても1km強程度のものだが、ここは迷わず博霊神社を選ぶ。
「近いし安全だよー、わかるよー」
そう、単に距離だけの問題ではない。より安全で確実な道を選ぶのだ。
それというのも、最近永遠亭の近くでドスまりさを見かけたという話を小耳に挟んだからである。
小さい上に余り力も強くないちぇんだ。ドスに絡まれたらひとたまりもない。
何かを要求される事も怖いが、何より怖いのは自分の群れに入ることを共用される事だ。
それでなくても自分がすこしずつゆっくり化している気がしてならないのに、その上ゆっくりに囲まれたらきっと今の自分のままでは洗脳されてしまう。
おお、こわいこわい。
とにかく博霊神社に急ごう。
何処かで鳥が鳴いている。なんていう鳥だったかな。
確かあの笛のような鳴き声はウソの鳴き声だったような。
最近神社で巫女様が儀式に失敗して大量のウソを呼んでしまったという話だ。
ウソを呼ぶ、か。これもそんな鳥が運んで来た嘘であって欲しい。
ああ、早くこんな厄介ごとから抜け出して家でのんびりしたいもんだ。
帰ったら何をしようか。とりあえずゆっくりでも虐めながら、菓子でも食うか。
少しでも気楽なことを考えないと気が滅入ってしまいそうになる。
そう、俺は誇り高き「虐待鬼意さん(ファイター)」ではないか!
こんな小さな饅頭ほどの器に納まる男ではない。ほらみろ殺気があふれ出ている!
待ってろ馬鹿共俺の拳で木っ端微塵にしてくれる。
復讐に燃える一人のちぇんの皮をかぶった男が森の中をしっかりしっかりと進んでいく。
だがやはりどんな生き物も空腹には抗えない。
先ほどから感じていた空腹もそろそろ限界に達しようとしていた。
何か食べないとな。
辺りを見回すがうっそうとした森が茂っているだけで食べられそうなものはパッと見では見つからない。
「……さがさないとだねー」
正直森の中に入るのが怖くて仕方がない。
一歩踏み入れればゆっくりが収穫して肥料にするほどいる。これは相当な脅威になる。
森でなければ他のゆっくりのように畑のものを取るにしても元着た道を戻らないといけない。
しかしそんなあの餡子脳と同じような行動を取るだなんて事は俺のプライドが許さない。
仕方がなしに道をそれて森の中に入っていく。
高い幹を見上げれば、そこには無数の木の実が風に揺られている。
一応飛び跳ねてみるものの、やはり到底届くような高さじゃなかった。
周りに落ちてないものかと辺りを徘徊していると不意に近くの茂みがガサガサと揺れた。
飛び上らんばかりに驚きすくみ上り振り返った。
「むきゅ!」
ぱちゅりーだった。
「ゆっくりしていってね!」
視線を合わせたままぱちゅりーがこっちにちかよってくる。
「ゆ、ゆっくりしていってね!」
怪しまれないように即座に返すが思わず噛んでしまった。
「ここは にんげんさんの とおりみちの ちかくだから あぶないわ!もっと おくで ゆっくりしましょ!
おくに いけば ドスがいるから にんげんさんなんて こわくないのよ」
なん……だと……?よりによってドス……?
冗談じゃない。適当にあしらってこの場を離れるしかない。
お腹がすいてるから、といいかけたその時、
「ぱちゅりー、なにしてるんだぜー?」
「はやくかえって ゆっくりするんだぜ!」
ゲゲェッ、ま、まりさァーー!?しかも2匹もいるじゃァないかーッ!
「むきゅっ!じつはいま このこをみつけたの!
ひとりぼっちだし このちぇんも いっしょに ドスのところに つれていってあげましょ!」
余計なお世話だ!
「おせわやきだね、わかるよー」
あーもう、言いたい事はそんなことじゃないっての!
「じゃあ そこのちぇんも いっしょにくるんだぜ」
「ゆゆっ!ドスにあわせてやるんだぜ!」
事態はとんでもない勢いで急降下していく。
ここでこいつらの誘いを断ったら「ゆっくりできな(ry」とか因縁をかけられて殺されかねない。
かといって仲良しごっこしながらゆっくり馴染むだなんて事も本当はイヤだ。
だが命には変えられない。畜生。ついていくしかないのか。
まるで俺が逃げないようにみはっているのかの様に、ぱちゅりーが俺を先導し、うしろからまりさが追ってくる。
まりさ同士が何かをしゃべっては「早く行け」とばかりに時折煽ってくる。
もう腹の減りすぎで気がとおくなりそうだわイライラするわで頭がバクハツしそうだ。
その時ふいにぱちゅりーが足(?)を止め、こっちをふり向いた。
「むきゅ!ここがわたしたちの ゆっくりプレイスよ!」
そう叫んだぱちゅりーの向こうがわに、がけに面したこもれ日の差し込むきれいな開けた場所があった。
俺はその光景にアゼンとした。
何十匹とも分からないゆっくりたちが、その小さなスペースで気ままに思い思いにうごきまわっていた。
「とってもすてきな ゆっくりプレイスなんだぜ!」
そういうと2匹のまりさが先をあらそうように、その輪の中に入っていった。
しばし呆然としていると、ふいにぱちゅりーが耳をかんで引っぱった。
「さあ、ドスにあいにいきましょ!」
彼らの「ゆっくりプレイス」を横切りきる前になんど「ゆっくりしていってね!」と声をかけられたことだろう。
その度に顔に一発お見舞いしてやろうかと思っていたが後半にもなると半分麻痺してもうどうでもよくなってきた。
ガケの影にぽっかりと穴が開いていた。
中は相当広い。おそらく人間が立って中に入れるだろう。下手すりゃ荷台も数台入る。
風のない分外よりあたたかい。さっきの外と同様に、なかでも数匹のゆっくり達がたむろしていた。
あるものは歌を歌い、あるものは赤ゆっくりを眺めて「しあわせー!」している。
そしてその最深部にはドスがどっしりとかまえていた。
「ゆっ、しんいりさんだね!ゆっくりしていってね!」
「ゆっくりしていってね!」
お決まりのやりとりだ。
「ここはドスまりさが つくった ゆっくりぷれいすだよ!
くるもの こばまず さるもの こばまず!」
ゆっくりのくせにずいぶんと小ムズカシ言葉を使うんだな。
「あたまがいいんだね、わかるよー」
こうとでも言っておけば食べ物の一つや二つ分けてくれるだろう。
バカとハサミは使いよう、とはよく言ったものだ。
「ゆっふん!ぱちゅりー、ちぇんに おかしをだしてあげてね!」
ふっ、計画どおり……
そそくさとぱちゅりーが移動した先には、おそらく保存食とおもわれる食べ物で小山ができていた。
そしてもどってきたぱちゅりーの口元から何かが落ちた。
何だこれ……これは確か加工所で限定発売されていた、「乾燥まんじゅう(12個パック税込み\2,800)」!!
「おちかづきの しるしだよ!」
「あ、ありがたやー!」
われを忘れて包装紙をかみちぎり、なかのまんじゅうを頬張った。
ドスとぱちゅりーがわらう声が聞こえた。
「ゆっくりたべてね!」
「だれもとらないのよー」
なんとなく、悪い気はしなかった。
心の中でこのままじゃいけないという激しい警鐘がなっている。
だがいつの間にかイライラが消え、のんびりとした気分になる。
そしてついに俺の口からあの言葉がもれそうになった、
「むーしゃ、むー……」
その時だった。
きょうれつな破裂音と共に俺はドスまりさのすぐそばにぶっ飛ばされた。
「ゆげっ!」
今朝のふみつけとは比べ物にならないしょうげきが全身を走る。
べちょりと地面に落ちると、コチンと頭に何かが当たった。
月をかたどった金色の飾り……。
「くぉらあああぁぁぁぁッ!ドスてめーこのヤロー!」
なんだかバカっぽい怒声と共に人間達が流れ込んで来た。
虐待鬼意さん……。目がランランと輝くその姿はまるでえものを見るもうじゅうのようだ。
その手には先日発売されたばかりのゆっくりしょぶん用ニトリ印のバールのようなもの「ザ・マダガスカル」が握られている。
マダガスカルにTheはつかないよー。
などと冷静に突っ込んでいる場合ではない。
最も恐れていた事態になってしまった。このままだと他のゆっくりと一緒に加工所に連れて行かれてしまう。
「にげないところされるよ、わかるよー……」
そんな言葉がぽろりとこぼれた。
そうだ。逃げないと殺される。ここで人生が終わることになる……
幸いにも大したダメージはない。出し切れるだけの速度で洞窟を飛び出した。
そこで待っていたのはゆっくりたちにとっての地獄絵図だった。
頭に棒切れが刺さっているれいむ、餡子を垂らしながら母親に擦り寄ろうとする赤ゆっくり。
帽子をかばって成すがままになるまりさ、指をほほに突き立てられ泣き叫ぶみょん。
尻尾を持って振り回されるちぇん。台車の車輪と荷台の間に挟まれぎりぎりと体をつぶされるゆかりん。
崖に押さえつけられまるでクレヨンのごとく身を削るぱちゅりー。赤ゆっくりを目の前で殺され発狂するありす。
もしこれが人間だったらどうなるんだろう?ふとそんな事が頭をよぎる。
もしこれが俺だったら……どう思うだろう?
不意に後ろから強い衝撃を受けて前につんのめる。
頭に星が散った。動けない。
「よぉ、ちぇん。お友達を置いて逃げるとは、腐った根性してるじゃねえか」
男の声がする。うるさい。俺にはゆっくりのことなんて関係ねえ。
「へぇ〜、黙って白を切るのか。いいのか?こいつがどうなっても?」
どいつがどうなっても知ったことじゃない。
「うぎゅう……」
ぱちゅりーの声だ。
そう、こいつに見付からなければ俺はこんな目に会わずに済んだのに。
「いいのかぁ?本当にいいのかぁ?冷たいねぇ〜、ちぇんはぁ。」
いいんだよ。余計なおせっかいを焼くからいけないんだ、バカなんだよ。
お前みたいなバカさえ居なければ今頃博霊神社についていたかもしれないのに。
ムカつく。一発ぶん殴ってやりたい。声が出なくなるまで叫び声を挙げさせてやりたい。
やすりですこしずつ足回りを削ってやれ。きっと痛い。気絶するほど痛い。
自分の体がどんどん削られて小さくなって、恐怖に縮み上がってそのまま消えちまえよ。
「残酷なやつだな、お前って。仲間が死んでも構わないんだなぁ?」
饅頭の仲間を持った覚えはない。お前もしつけえ奴だな。
「だってこいつ、お前のこと助けてくれたんだろう?」
だから言ってるだろ、余計なお世話だ!恩着せがましい嫌な生き物だな、最低だ。
「この辺はレイパーも多いし薄暗いとこ多いかられみりゃが昼間っからうろうろしてるのにな」
……だからなんだ。そのぐらい俺一人でなんとか
「なるわけないでしょう?貴方は一匹のゆっくりなんだから。
貴方の目の前に広がるものは貴方と同じ生き物じゃないの」
目の前にあるもの。目を覆うほどの阿鼻叫喚。
そこにあるものはまんじゅうとにんげん。
そこにあるものはおれのにちじょう。
そこにあるものはまんじゅうのかわとなかみ。
そこにあるものはひめい。
そこにあるものはぜつぼう。
そこにあるものは……うんめい?
こんなのは俺の運命じゃない。
こいつらの運命だ。饅頭として、意地汚い生き物として生まれてきたこいつらの運命だ。
――でも今の貴方……饅頭じゃない?
違うんだ。俺はまんじゅうになっちまっただけだ!
こんなのは夢だ。俺はむしろ加ぎゃく者側だっ!
――なるほど、夢ねぇ。
そうだ、夢だ。
夢でもなければこんなゆっくり共に同じょうするはずがない。
夢だからこんなむちゃくちゃなりろんがまかり通るんだ。
――これが夢だとしたら……誰の夢?
バカか!これいじょう怒らせるな!
俺はオレだ!俺のユメを見るのはおれだけにきまってる!
――俺って誰?
俺ってだれのこと?
当たりまえだよ、それはぎゃくたい鬼いさんの――
……あれ?そういえばなんでさんづけなのかな。
――我、夢に胡蝶となるか、胡蝶、夢に我となるか。
どういういみ?わからないよ。
――そうね、貴方で言うのであれば…
ちぇんが虐待鬼意さんになった夢を見ているのか。
それとも虐待鬼意さんがちぇんになったユメを見ているのか。
どっちが現実でどっちが夢想か見分けなんてつかない、という意味ね。
なんとなくわかったよー。
――じゃあ貴方はどちらが正解だと思うの?
わからない、わからないよー……
――ゆっくり達を虐げていたのが現実?
それともぱちゅりーやドスまりさ、そしてたくさんのゆっくりと一緒に居たのが現実?
わからないよー……でも、みんなやさしかったんだよ。
ひとりのちぇんと、ゆっくしりてくれたんだよ。
――そう。それは良かったわね。それじゃ、そろそろぱちゅりーやドスの所に戻ってあげたら?
そうするよー。みんななかよしなんだよ。
なかよしなのはいいことだね。わかるよー。
――それじゃあ、起きましょうか。
「おはよう。気分はどう?」
ゆっくりと目を覚ますと、そこはどこかの軒下だった。
頭に包帯が巻かれたちぇんは紅白の巫女さんのひざの上で目を覚ました。
「むきゅっ、おきたわ!」
巫女さんの足元でぱちゅりーが飛び跳ねていた。
「……ぱちゅりーだね、わかるよー」
むきゅん、とぱちゅりーがうれしそうに飛び跳ねた。
「貴方は洞窟の中でご飯を食べている最中に突然倒れてしまったそうよ。
それでそこにいるやたらとデカイ饅頭と、このぱちゅりーがつれてきてくれたって訳」
ちぇんはほっと胸をなでおろした。
庭先でドスまりさが「デカイ饅頭」発言に対し不満げに頬を膨らませていた。
「ゆーっ、まりさデカイまんじゅうじゃないもんっ!」
「でもドスはとってもおっきいわよね!」
「そう、デカイって言うのは大きいって意味なんだから間違いじゃないでしょ」
「間違ってないよねー。わかるよー」
あはははは、と笑い声が上がった。
夕日が辺りを橙色に染め上げる。
ちぇんはとても穏やかだった。とてもゆっくりしていた。
こんな時間がいつまでも続けばいいと思った。
「あ、そういえばあんた」
不意に巫女さんが声を出した。
「貴方うわごとみたいに何度も何度も博霊神社がって言ってたらしいけど、家に何のよう?」
……ちぇんは首をかしげた。そういえば何か忘れている気がする。
「用事があって博霊神社に行きたかったんでしょ?たとえば……
何か私に頼みごととか、相談事でもあったんじゃないの? 」
視界が真っ白になった。どこかに落ちていくような――不思議な感じがした。
気づけばちぇんは先ほどの洞窟の前に戻ってきていた。
そして目の前でぱちゅりーがまるで雑巾のようにあんこを搾り取られていた。
「むぎゅあああぁぁぁぁぁぁぁ!!ぢぇ、ぢぇん、ぢぇえええええぇぇぇん!だぢゅげでえええぇぇぇぇぇ」
ぼたぼたぼた……と、餡子が地面に落ち無残に飛び散る。
表情が引きつった。一歩後ずさる。
ぱちゅりーを絞っている鬼意さんと目が合う。
「やぁ、目が覚めた?友達の苦痛を尻目に現実逃避とは……ひでえもんだな」
……あぁ、やっぱりゆっくりなんて現実じゃない。
だって、こんなにも苦しいなんて。
「あがああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
自分を受け入れてくれた優しいぱちゅりーがこんな酷い目に会うなんて。
「ゆ゙っゆ゙ゔゔぅぅ……に、に゙げでえぇ、み゙んばにげでえ゙えぇ…」
おいしいお菓子をくれたドスまりさがぺったんこになって引き摺られて行くなんて。
「も、もっどゆっぐじじだがっだあぁぁぁ……」
れみりゃに捕まらないように促してくれたまりさが炎の中に消えていくなんて。
わなわなと体が震える。失禁し、足元に水溜りができた。
「よし、れみりゃ。もうこいつも食っていいぞ。
よ〜く味わってやれ。しっかり、ゆっくり噛み砕くんだぞ」
羽音に振り向くと、そこにれみりゃの巨大な顔が迫っていた。もう遅かった。
「いだだぎまずー☆だべじゃうぞー!」
口が近づく。ぱちゅりーやドスやまりさ達、そして他のゆっくりたちとのサヨナラが近づいてくる。
この世とのサヨナラが近づいてくる。
目をぎゅっとつぶり有らん限りの声で叫んだ。
「ゆ、夢だっ!こんなの夢だっ!こんなはずないんだあああぁぁぁぁぁぁぁ!」
――気がつくと布団の上で一人で涙を流し叫んでいた。
「ゆ、夢かよ……」
ふらふらと布団から立ち上がるとちゃぶ台の上においてあった冷め切ったお茶を飲んだ。
なんか悲しい夢を見ていた気がするな……いや、でも少し幸せな気分だった気もする。
「ま、夢なんてそんなもんか」
鬼意さんは自分に言い聞かせるようにつぶやくと、部屋を見回した。
日めくりカレンダーが日曜日になっている。
毎朝めくることにしてるから……そうか。今日から仕事か。
ビリッと豪快に破くとゴミ箱に投げ入れた。
ストン、と一発で命中した。今日はラッキーだ。
仕事場につくと早速虐待仲間から火曜日の市場休みにゆっくりを探しに行かないかと誘いを受けた。
なんでもれみりゃを調教して従順に仕上げたらしくそれを見せびらかしたいそうだ。
「調子乗ってドスとか探してみようと思うんだけど、どうよ?」
「調子に乗りすぎると痛い目みるぞ。ほどほどにして調子から降りろよ」
「うわー、そういう使い方する奴始めてみたわ。調子を降りる、ねえ?」
くっそー、なんかしつこい奴だな。言い回しがしつこい。これが虐待向きであるといえばそうなんだが。
確かに最近虐待から一歩離れた場所に居るので久々にスカっとやりたいというのもあったにはあったが気乗りがしない。
オレはその誘いを丁重に断るとさっさと仕事に取り掛かった。
帰り道、妙に疲れた気分で畑の真ん中を歩いていると、4匹のゆっくりが道の真ん中を占拠していた。
「ゆっ!おにーさん、ここは まりさたちの ゆっくりぷれいす なんだぜ!
まりさたちの ゆっくりを じゃまするんだから つうこうぜいを よこすんだぜ!」
「そうすればどいてあげるよー。ゆっくりわかってねー」
「れいむも ちょうど おなかが すいてきた ところだよ!ゆっくり おかしを ちょうだいね!」
「とかいはの ありすは ちょこれーとな きぶんだわ!」
例のごとくそれぞれ勝手なことを抜かし始めた。デジャウって奴かな。見覚えがあった。
俺は黙って懐からチョコレートを取り出すとゆっくりに投げてよこした。
ゆっくりたちがうれしそうにチョコレートに集っているのを横目に俺はすたすたと前に歩き出した。
「おにいさんやさしいんだね、わかるよー」
その言葉に一瞬足が止まったが、またすぐに歩き出した。
疲れててお前らの相手なんかしてられないからだよ。まぁいい。
「じゃあな。仲良くしろよ」
俺は一人、その場を後にした。
おわり
あとがき
うっうー☆はじめてSSかいたんだどー!
ごほうびにざぐやのぶっでぃーんをたべるんだどー!
訳(はじめてSS書かせていただきました。
お見苦しい点あるかと思いますがご堪忍ください、それでは。)
最終更新:2009年01月19日 20:18