※オレ設定の塊の様な話です。
虐待とは違うかもしれない。
途中までパロ。
まりさは喧嘩をしてみたかった。
別に特別気性が荒い分けではない。
むしろ群れの中では温厚な方だ。
身体能力もまあまあいい方の筈。
ただ今まで喧嘩をしてまで張り合おうと思う事も意地も持ち合わせてはいなかったから機会が無かっただけ。
理由はと言えばさっき好意を寄せていたれいむに番になってくれと言った所
「まりさは
ゆっくりしているけど少し頼りないよ。」
と言われたからだ。
だから自分が頼り無いのかどうか試してみたかった。
相手の目星は付いている。
群れでも素行が悪く、度々仲間をれいぷし、殺しかけているありすだ。
こいつなら少々痛めつけても文句を言うヤツもいないだろう。
まりさ種が好みなのは分かっていたからちょっとモーションを掛けてやったら簡単に目に付かない集落の外れに誘い出せた。
「んほおおおお!!!
もう我慢出来ないわあああああ!!!
とかいはのてくを見せてあげるからねええ!!」
等と、ひん剥き、血走った目に涎塗れの醜い顔で身勝手を言いながら突進してくるありすを横に跳ねて避わし、横から体当たりをしてやった上にひるんだ所をプレスしたら丁度地面にあった尖った石ころが相手の底を切り、プレスの重みで中身のカスタードが漏れ
「こんなのとかいはじゃないわああああ!!!!」
と、これまた醜い断末魔を上げて死んでしまった。
殺すつもりは無かったのに。
ただ喧嘩という物を試してみたかっただけなのに。
こんなにも、こんなにも自分達は脆く、脆弱に出来ているのか。
その事実はまりさにとって驚愕だったが、それより重大な問題があった。
同属殺しは最大のタブーである。
これは人間の社会でもそうなのだろう。
いくらありすの方から襲ってきたという理由があったとしても、これがばれれば自分は群れでは絶対ゆっくり出来なくなる。
幸い断末魔は誰も気づいていない様だったが、このままではいずれ死体は発見されてしまい、群れの中で調査が始まり、万一にもここに来る途中の目撃証言でもあればアリバイの無い自分は疑われてしまう。
どうすればいい?
しばらく餡子をフル回転させて考えてまりさは答えを見つけた。
何だ簡単な事だ。
何故こんな簡単な事をすぐ思いつかなかったのだろう?
ゆっくりという種族の餡子脳故か?
それもあるかも知れない。
いや、もう一つ決定的な理由があったが、それを考えようとする前に目の前の問題を片付けようと、実行に移した。
目の前のありすの死体。
醜い顔で潰れ、地面にカスタードの花を描いているそれに近づくと先ず皮の端から齧りついた。
同属の味は甘くてこれまで野生から採ったどんな物よりも美味しかったが、今のまりさには関係ない。
ただただ一心不乱に目の前のそれを片付けるだけだ。
三分の一程度食べ終えた所で、一息ついた。
自分と同じ大きさの個体だ、一気に食べるには少々キツい。
「何故食すのを止める?」
「ゆ?」
唐突に後ろから掛けられた声に振り向いてみれば、そこには黒い外套を纏った男がいた。
暗くて顔は良く見えないが、声からして若くはないだろう。
「何故最後まで食さない。
饅頭として、群れの道徳に囚われたか?
ならば何故それを始めた?」
「こうするのが…自然だと思ったんだよ。」
「そうか、ならそれはお前が特別だという事だ。
同属の殺傷という極限状態において選んだ選択肢には無駄が無い。
人間を含め多くの者は自らの罪からの逃亡を計る。
だがお前はお前にしか出来ない方法でそれに立ち向かった。
例えそれが同属を食うという常識から壊れた方法であったとしてもそれを非に思う事は無い。」
そういえば何故自分はこんな事を思いついた?
同属殺しの上に今それを食っているのだ。
しかもそれに違和感や罪悪感は無い。
当然の様に思いつき、実行に移した。
「まりさは…壊れているの?」
「そうだ、お前は異常者だ。
常識という世界において異常者が異常を行うのは当然の事だ。
そこに善悪の秤は無い。
お前は既に壊れている。
ならばどうすればいい?」
男の声にまりさは答えない。
近づいてまりさの頭に手を置いた。
れいぱー、飾り無し、ゲス…
違う、自分はそんなゆっくりしてないやつじゃない。
けど…確かに狂っているなら。
同属を殺してしまっても仕方ない事なんじゃないだろうか?
「まりさはおかしい…ゆっくりして…ない?」
「そうだ、お前は正常じゃない。
壊れてしまっているのだろう?
ならば…」
完全に壊れてしまえ。
男の声は、何だか心地ご良く、全身にゆっくりと浸透した。
ああ、そうだその通りだ。
自分は普通じゃない異常だ、それを受け入れただけでこのゆっくり出来ない気持ちも、ゆっくり出来ない未来への恐れも気持ちのいい爽快感に変わって行く。
目の前は真っ白で身体の内側から焼かれる様な苦痛は、
この爽快感はどんなすっきりでも味わえないだろう。
ワケの分からない人間に鷲掴みにされながら生まれて初めてボロボロと泣いた。
嬉しくて、熱くて、叫びたいくらい感動した。
だから、まりさはここで壊れる事にした
一時間程掛けてまりさはありすの死体を食べ終えた。
やっぱりそれを美味しいとも何とも思わなかった。
ただ何となく地面に広がるそれを食らい、這うように嘗め尽くし。
けれど一秒たりとも止めようとはしなかった。
結果、この群れの集落の外れからはありすの死体は跡形もなく消え失せていた。
「一時間か、中々優秀だがそれが限界でもある。
自らの起源を知った所で覚醒させなければカタチにはならない。
このままではお前は同族を食らった異常者としてその人生を終えるに過ぎない。
それはお前の望む所ではあるまい?
ゆっくり等に囚われない超越者として、常軌を逸したゆっくりとしての特別性。
欲しくは無いか?」
まりさはカスタードに塗れたまま神に救いを祈る様に一度だけ静かに頷いた。
「承諾した、お前が一匹目だ。」
ゆっくりによる被害。
これは大抵何処の人里でも抱えている問題だ。
畑荒らし、家屋への進入、etc…
各里は罠や山狩り等といった方法でそれらの問題を対策した。
この近辺にある人里も例に洩れず、里の外れに住む魔術師の男に駆除を依頼。
本来魔術とは研究のそれを言い。
実用を目的とした魔法とは違う。
だから村人は男を説得するのにある程度の苦労を覚悟していたのだが、彼はあっさりと引き受けてくれた。
利害が一致しているから。
男の知識欲は"根源"を求めていた。
万物を発生させ、人を霊長たらしめたモノ。
この地上においてそれは繁栄という法則で動いている。
しかし近年発生したこのゆっくりと呼ばれる生物はその法則から大きく外れていた。
生態系狂わせ、自らをも崩壊へと向かわせる気性と生態、到底機能するとは思えない身体構造。
そこに今までの法則は見られない。
常識は当てはまらない。
だからこそ男は興味を持った。
この明らかに自然界の常識から外れた愚鈍な生物の起源を探れば根源に近づけるのではないだろうか?
だから男は丁度村人の依頼を受けた事で、ある実験を試みた。
対極の作成。
人、獣…。
ゆっくりの天敵は数知れないが、それは結果としてそうなったに過ぎない。
彼らはその存在維持にゆっくりを必要としない。
ただ目の前にあり、それがたまたま障害となるか、自らの娯楽に排除するだけ。
凡そ生命活動に必要としない。
ある日ゆっくりが消え失せてしまっても何ら問題は無いだろう。
だから男はその魔術を持って生命活動にゆっくりの捕食を必要とする生物を作り上げる事にした。
ゆっくりをゆっくりさせない事が存在意義である生物の作成。
これによって根源が何かしらの動きを見せるかもしれない。
ゆっくりが本当に世界にとって必要ならば、根源は男の作り上げたそれを排除するだろう。
そして男は目の前のまりさ種に目を付けた。
ゆっくりの枠から外れかけているそれは男にとって好都合な逸材だ。
男はまりさの存在を書き換えた。
力を与え、邪魔な常識を排除した。
結果まりさは男の望むモノとなった。
身体と魔力の付与された翼を与えられ、常軌を逸して同種を食い殺す捕食者が完成した。
それから男は同様の異端の個体を探し回り、存在を書き換える事で力を与えた。
先のまりさ同様に同族を食らい、知識を欲さず、ひたすらに力を求めるぱちゅりー。
緩慢を嫌い、空へ憧れ、同種を達観する歪な表情のれいむ。
彼らは偶然にも今までの種と同様に幻想郷の有名人を模し、ふらん、れみりゃ、きめえまると呼ばれ、互いに交配し、数を増やす事で、
ゆっくりにとっての常識を異常で染め上げていった。
つまり、結果として世界は彼らを排除する事なく受け入れたのである。
それが意味するのはゆっくりという生物が世界にとって望まれていないという事実だ。
彼らは根源とは別の目的で生み出された。
それを成したのは恐らく霊長。
自分と同様の魔術師か、似たものか。
そういった者が何らかの目的でコレらを生み出し、野に放った。
根源への接近を試みたか、ただ結果としてこうなったのか。
それは分からない。
ただ、生物として余りにも歪で不完全であった為、これらはその境界でゆっくりと排除されながら、「ゆっくりする」という存在目的を果たせず、
こうしてもがき、苦しみ続けている。
だから根源が彼らに介入し、その意思で彼らの中から異端を作り出したのなら、男も世界の一部となり、根源への手助けをしたに過ぎない事になるだろう。
結果として男はまだその手の平の上であり、今回の試みで"根源"に近づく事は出来なかった。
世界その物に否定され続ける生物が安息を手に入れる日は来ない。
最終更新:2009年01月30日 09:54