家のれいむが、どこで覚えたのか
「ゆゆ!れいむにふーせんちょうだい!」
と言ってきた。
「どうして風船が欲しいんだい?」
俺は聞いてみる。まあ聞くまでもないことだが……
「ゆゆ!ふーせんさんはとってもゆっくりしてるよ!」
例のごとくだ。
「……たまにはゆっくり以外のこと考えられないのか?お前ら……」
つんつんと突っつく。
「ゆぶ!やめでね!ゆっぐりざぜでね!」
俺はふとあることを思いつき、れいむにこう話を切り出した。
「ふーせんさんだって、色々大変なんだぞ」
れいむはそれをふーせんを買ってくれない口実と察知し、ぽよんぽよんと飛び跳ねて抗議する。
「そんなことないよ!ふーせんさんはとってもゆっくりしてるよ!」
まったく、話が通じづらいことこの上ない。
「それじゃあ聞くが……れいむはゆっくりしてるか?」
何言ってるの、という表情で、体をかしげるれいむ。
「もちろんだよ?れいむはゆっくりしたゆっくりだよ?」
「何が、”れいむはゆっくりしたゆっくり”だ。そのセリフは聞き飽きたぜ」
俺はさっきよりも少しだけ強く、れいむを上からべんべんと叩く。
「い、ち、い、ち、ゆ、っ、く、り、を、主、張、し、す、ぎ、な、ん、だ、よ、
第、一、ゆ、っ、く、り、し、た、ゆ、っ、く、り、っ、て、の、は、形、容、詞、的、用、法、で、
俺、が、聞、い、て、る、の、は、今、ゆ、っ、く、り、し、て、る、の、か、ど、う、か、っ、て、
い、う、動、詞、的、な、意、味、合、い、の、ゆ、っ、く、り、な、ん、だ、よ、
曲、解、し、て、ん、じ、ゃ、ね、ー、ぞ」
「ゆっ!やべ……!やめで……!ゆぶっ!!
うばあああああんん!!!どぼじでごんなごどずるのぉぉぉぉ!!!!!」
「なんでもてめーに都合よく解釈するからだ。
……それにほら、ぜんぜんゆっくりできてないだろ?」
俺は言ってやった。
「おにーざんのぜいでじょおおおおお!!??」
「それはそうだが、たった今ゆっくりできてなかったのは事実だ。だろう?
……つまり、それと同じでふーせんさんにも色んな苦労があるってこった。
れいむみたいにゆっくりできないゆっくりには買ってあげられないな」
「ゆぐうううんん!!!がっでよぉぉぉ!!!ふーせんがっでぇぇぇぇ!!!!」
* * * *
工房でちょっとした工作をして戻ってくる。
「おにーさん!かわいいれいむにふーせんちょうだいね!」
まだ言うのか。……いやしかし、この場合好都合だ。
俺は早速取り付けにかかった。
れいむを箱から出し、片手で底部を支え持ち上げる。
「ゆゆー!おそらをとんでるみたい……!」
実はこうやって下から眺めると、あんよ部分がうねうねと動いて若干気持ち悪い。
俺はそのあんよの中心に、ビーカーを突き立てる。
「ゆぐっ!!!!いだいよぉぉぉ!!!!おにーざんなにじだのぉぉぉぉ!!??」
ビーカーはかなり長く大きい。れいむの餡子を収納するためだ。
「おぢるぅぅぅぅぅ!!!でいぶのあんごがおぢぢゃうよぉぉぉぉ!!!!
ぎぼぢわるいぃぃぃぃ!!!!!」
「安心しろ、てめーのあんよのがよっぽど気持ちわるいから」
「どぼじでぞんなごどいうのおおおお!!!」
程なく餡子がビーカーに落ちきると、俺はれいむの頬に穴を開け、ガスボンベから水素を注入する。
「ゆゆゆぃ……おしょらを……とんでりゅみたいぃ……?」
「そーら、ふーせんさんだぞ」
「ゆ?ふーせんさんどこ?」
「れいむがふーせんさんになったんだよ。ほら、浮いてるだろう?」
れいむはビーカーを尻尾のように垂らして、床からわずかのところを浮いている。
「ゆゆーーふーせんさんだよーー」
俺が浮いていることを指摘したとたん、れいむはふわふわと漂いはじめる。”思い込み”によるもので、
驚くほどではないというか、まあよくあることだ。
「ゆっくりしてるかい?」
「ゆーっくりしてるよー!」
れいむは気持ちよさげに漂う。
「れいむふーせんさんになったよー!
ゆっくりしていってね!
ゆっくりしていってね!」
俺はお菓子を取り出した。
「ゆゆーー!れいむにあまあまちょうだいねー!!」
「いいとも、取りにおいで」
俺はお菓子を手に持ち、待つ。
「ゆっゆっゆっゆっゆ!……ゆゆ?
ゆゆゆゆゆゆゆ!!!ゆゆゆゆゆゆゆ!!!」
れいむは顔をしかめたり、膨らんだりしぼんだりするがこちらへ来る気配はない。
「やっぱりな……」
俺はほくそえんだ。
「お菓子はいらないんだね、じゃあお兄さんが食べちゃうよ」
「ゆっぐりまっでね!でいぶにぢょうだいねぇぇぇぇ!!!!」
俺は口元まで運んだクッキーを一度袋に戻す。
「しょうがないな、じゃあ10秒だけ待つよ。いーち、にーぃ……」
「ゆぐん!ゆぐん!」
れいむは鬼のような形相でへこんだり膨らんだりを繰り返す。
「さーん、しーぃ……」
「まっでね!!ゆっぐりじでよぉぉぉぉ!!!!」
やっと推進力を得たようで、ほんの少しずつこっちへ向かってくる。
だがその移動速度はきわめて遅く、とても間に合いそうにはない。
「ごーぉ、ろーく、しーち、はーち」
「ゆー!ゆー!ゆゆーー!!!」
涙を流しながら、へこへこと伸縮するれいむ。
(やっぱきめぇわ……)
「きゅーう、じゅう!!はい食べたー!今お兄さんお菓子食べたよー!!」
「でいぶのあまあまぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
おしまい。
最終更新:2009年01月30日 10:18