静かな森の中をひたすら歩き続ける。
どこへ向かうというわけではない。気まぐれと思いつきと暇つぶしを実行するための材料、
ゆっくり探しだ。
用が無いときは嫌というほど目にしている気がするが、いざ探してみるとなかなか見つからない。
たまたま出くわさないだけで何が原因だというわけではないのだろうが、そうなると諦めがつかず余計に厄介だ。
「なんでこういう時に限って・・・」
ブツブツと文句をたれながら歩いていると、少し先の茂みがガサゴソと動くのが見えた。
「ゆっくりしていってね!」
すかさず茂みが動いたあたりに向かって思いっきり叫ぶ。すると・・・
「「ゆっくりしていってね!」」
「「「ゆっきゅりしていっちぇにぇ!」」」
ビンゴ!元気な返事とともに茂みから飛び出してきたのはれいむ種とまりさ種で構成されたポピュラーなゆっくり一家。
親であろう成体のれいむとまりさが一匹ずつに、赤ゆっくりが三匹。子供の内訳はれいむ二匹にまりさ一匹。
思ったより子供の数が少なかったが、この際仕方ない。これ以上探し回るのはごめんだ。
「ゆ!おにいさんはゆっくりできるひと?」
「もちろんゆっくりできるよ。その証拠にお菓子をあげよう」
「ゆ!おかち!?」
「れいむあまあまたべちゃーい」
「さっさとおかちをもってくるんだじぇ!じじい!」
「はいはい。ほら」
鞄からクッキーを取り出してゆっくり達の前にばら撒いてやる。
昨日テレビの裏から出てきたもので消費期限を見たら一年以上前だった。
「「む~しゃ♪む~しゃ♪しあわせ~♪」」
「「「む~ちゃ♪む~ちゃ♪ちあわちぇ~♪」」」
潰してぇ。いや、いかん。 落ち着け。ここでこいつらを殺したらまた探し直しじゃないか。
自分を抑えて我に返る。しかしこのままもっとよこせだとか言われ日には自制できる自信がないので先手を打つ。
「ところで最近おもしろい遊びを思い付いたんだ。お兄さんと一緒に遊ばないかい?」
「ゆ?おにいしゃんあしょんでくれるの?」
「れいみゅもあしょびたーい」
「しかたないからまりしゃしゃまがあしょんでやるんだじぇ。かんしゃしゅるんだじぇ」
「というわけだけどいいかな?」
一応親ゆっくりに訊ねてみる。
「いいよ!れいむのちびちゃんたちのかわいさにおにいさんもめろめろだね!」
「せいぜいまりさのこどもたちをよろこばせるんだぜ!」
「それじゃあみんなを遊び場まで連れて行くからこの籠の中に入ってくれ。少し狭いけどすぐに着くから我慢してね」
正直わざわざ運ぶのは面倒くさいが、ゆっくりの足に付き合っていたら日が暮れてしまうので仕方ない。
こうしてゆっくり達を籠に放り込んでいく。少し狭いとは言ったものの、それなりに大きい籠なので
底に親ゆっくりを並べて入れて、その上に赤ゆっくりを置けば全員問題なく収納できた。
五匹のゆっくりが入った籠を背負って歩き続ける。
籠の中のゆっくり達は楽しそうな声で何して遊ぶんだろう、楽しみだねと語り合っていた。
よほど期待しているのか歌まで歌い始めた。ここまで無警戒なのもどうかと思うがおかげで手荒な真似をせずに済んだから
責めちゃいけないな。警戒されるようなら無理矢理掻っ攫うしかなかったのだから素直に付いてきてくれたのはありがたい。
嫌がるゆっくりを無理矢理・・・っていうのは趣味じゃないし。
たどり着いたのは崖のてっぺんだ。垂直に切り立った崖はとても高く、下を見れば目が眩むまさに断崖絶壁だが
それ故に見晴らしは最高だった。崖の下にはさっきまでいた森が広がり、それほど遠くない場所に広い川が流れている。
崖っぷちに籠を下ろし、ゆっくり達を出してやる。
「ほーら、ついたぞー」
「ゆ! ここどこ?」
「ゆゆ!たきゃーい」
「おちびちゃん!あまりまえにでちゃだめだよ!おちちゃうよ!」
「しゅごいよみゃみゃ!もりしゃんがちっちゃくみえるよ!」
「みりょ!ひとがごみのようだじぇ!」
初めて見る絶景にゆっくり達は思い思いの感想を述べる。
早速鞄から今日の本題を取り出しゆっくり達に説明を始める。
「それじゃあ遊びについて説明するよ。みんなにはこの崖からジャンプしてもらうんだ」
「そんなことしたらしんじゃうよ!そんなこともわからないの?ばかなの?しぬの?」
「わかってるって。だからみんなにはこのパラシュートを付けてもらうんだ」
「ゆ?ぱらしゅーと?」
「そう。これを付けてると高い所から落ちても平気になって空を飛ぶような気分を楽しめるんだ」
「おしょらをとべるの?」
「おもしろそー」
「さっさとそにょぱりゃしゅーとをよこすんだぜ!」
空を飛べると聞いて一気に食いついてきた。早速始めるとしよう。
「それじゃあ一人ずつ飛ぶから順番を決めるよ。まず子供たちが先でお母さんたちがその後。いいよね?」
「わかったよ。れいむたちはおかあさんだからちびちゃんたちにさきをゆずるよ」
「それじゃあ次は子供たちの順番だね。最初はこのれいむでその次にこのれいむ。まりさは最後だ」
「どぼじでまりしゃがしゃいごなんだじぇぇぇぇぇ!!!」
「さっきじじぃって呼んだからに決まってんだろうが糞饅頭。つかお前さっきから際立ってむかつくんだよ」
なんて声に出したりはしない。
どうにかこうにか赤まりさをなだめすかしてパラシュートの取り付け作業に入る。
まずは一番手の赤れいむ。ゆっくりサイズのお手製小型パラシュートを頭頂部の髪の毛に取り付けてやる。
「さて、こっちは準備完了だ。れいむ。心の準備はいいかい?」
「ばっちりだよ!」
「じゃあいくぞ!せーの・・・そいやぁ!」
崖に向かって思いっきり赤れいむを投げる。
赤れいむはしばらく弧を描いて飛んだ後、空気抵抗によりゆっくりと落下していった。
「ゆゆー♪れいみゅおしょらをとんでるよー♪」
大成功だ。赤れいむは風に乗ってゆっくりと崖を離れていく。
「すごーい。れいむおそらをとんでるよー」
「かっこいー」
「おにぇーちゃんいいなー」
「れいみゅ!れいみゅがとばにゃきゃまりしゃのばんがこないんだよ!はやくしちぇね!」
「だってさ。次いくよれいむ」
「ゆ!ゆっきゅりわかっちゃよ」
先ほどの赤れいむと同じ要領でパラシュートを付けてやる。
「準備はいいかい?」
「ゆっきゅりじゅんびできちゃよ!」
「それじゃあ・・・そいやぁ!」
まるでデジャヴを見ているかのように、先の赤ゆっくりと同じ様に風に乗っていく。
と思いきや突如強風が吹き荒れ、それに煽られたパラシュートはあれよあれよというまに明後日の方向に飛んでいく。
「ゆゆ!れいむすごーい。あんなとおくまでとんでるよ」
ゆっくり達は呑気なことを言ってるがパラシュートは川のほうに向って飛んでいく。
吸い寄せられるかのように川に向って飛んで行き、とうとう着水した。
赤れいむを付けたままのはずのパラシュートがそのまま流されていく。これでは赤れいむはとっくに水を吸って崩れているだろう。
ゆっくり達が騒ぎ出すんじゃないかと心配したが、見ると呑気に自分の番を楽しみにしている。
どうやら川のあたりが見えていないようだ。心おきなく次に執りかかれる。
「お待たせ!じゃあ次はまりさの番だね」
「ゆ!さっさとぱりゃしゅーとをちゅけるんだじぇ!」
「はいはい。でもまりさ。まりさの場合は帽子が邪魔で頭にパラシュートを付けられないんだ」
「どぼぢでぇぇぇぇぇ!!!」
「大丈夫だよ。帽子をとればいいんだ」
「しょんにゃこちょできるわけないでしょぉぉぉぉぉぉ!!おぼうしがないとゆっきゅりできにゃいんだよぉぉぉぉ!!!」
「じゃあこうしよう。お母さんにまりさの帽子を預かっててもらうんだ。これなら安心だろ?」
「ゆ!おきゃーしゃんがあずかってくれりゅにゃりゃあんしんだにぇ!」
「そういうことだ。まりさの帽子預かっててくれるか?」
「まりさがぱらしゅーとするためだからね。おかーさんがゆっくりあずかるよ!」
問題解決。早速まりさの頭にパラシュートを取り付ける。
「それじゃあ逝くぞまりさ!あーゆーれでぃ?」
「いえー!」
「おーけー・・・そいやぁ!」
三度目。今度は突風も吹かずにまりさはふわふわと空を飛んでいく。
と、そんなまりさに背後から近づく影が一つ。
「あー、あれは・・・」
「うー♪うー♪」
「「れ・・・れみりゃだぁぁぁぁぁぁ!!!!」」
これは珍しい。夜行性のれみりゃがこんな真昼間から出現するとは。
小さな羽でぱたぱたと羽ばたくれみりゃは少しずつ赤まりさに近づいていく。
「ばでぃざぁぁぁぁぁ!!にげでぇぇぇぇぇぇ!!!」
「れみでゃはぢびじゃんにぢがづぐなぁぁぁぁ!!!」
親ゆっくりは崖の端ぎりぎりから半狂乱になって叫ぶが声が届いている様子はない。
そうこうしているうちにれみりゃが赤まりさを捕まえてしまった。
「ゆ? れ・・・れみりゃぁぁぁぁぁ!!!???」
「うー♪あまあまいただきまーす♪」
「ゆぁぁぁぁぁ!!!はなちぇぇぇぇぇ!!!まりしゃはおいちくにゃいんだじぇぇぇぇぇ!!!」
「そんなことないどー♪あまあまとってもおいしいどー♪」
「ゆ・・・ぐぁ・・・。もっど・・・ゆっくち・・・ちたかっ・・・」
結局、赤まりさはれみりゃのお腹の中に収まってしまった。
元々赤ゆっくりが補食種から逃れること自体困難なのに、逃げ場がない空中で捕まってしまったのではどうしようもない。
れみりゃは赤まりさを残さず食べるとどこかに行ってしまった。
「ゆう・・・れいむのおちびちゃん・・・」
「れいむ、しっかりして。しんじゃったれいむのぶんもまりさたちがゆっくりしよう?」
足元では親まりさが親れいむのことを必死に慰めていた。
こいつらはもう素直に飛んではくれないだろう。この辺が潮時だ。
「ゆ゛っ・・・!?」
「ゆげっ・・・!?」
右手でれいむの髪を、左手でまりさの髪を鷲掴みにし崖に向かって突き出す。
「ゲームオーバーだね。君たちはもう必要ないから死んでもらうよ」
「どぉゆうごどぉぉぉぉぉ!!??」
「どうゆうことって言った通りの意味だよ。どうせ君たちもうパラシュートはやってくれないだろ?」
「あだりまえだぁぁぁぁ!!!」
「じゃあこれでおしまい。嫌がってるのに無理矢理飛ばすってのは面白くないからね。もうパラシュートは意味がないんだ」
「いみがないならごろざなぐでもいいでじょぉぉぉぉぉ!!!」
「そんなことないさ。君たちが死ねば早く家族そろってゆっくりすることができるんだよ?あっちでね」
「どぉゆうごどだぁぁぁぁぁぁ!!!」
「まず赤まりさはすでにあっちに逝ってるだろ?あと君たちは気づいてなかったみたいだけど二番目の赤れいむは川に落ちたんだよ」
「ゆ゛っ!?うぞをづぐなぁぁぁぁぁ!!!!」
「本当さ。今頃お魚さんの餌になってるよ。そして最初に飛んだ赤れいむも近いうちに後を追ってくるからね。これで一家勢ぞろいさ」
「でいぶがあどをおっでぐるっでどういうごどぉぉぉぉ!!!??」
「簡単さ。あんな小さな子が一人で生きていけるわけないだろう?。そう遠くないうちにれみりゃなり野犬なりに食べられちゃうさ。
まぁそれを言ったら他の赤ゆっくり達も無事に飛び終わったところで同じことになってたんだけどね。
こんな広い森で探せるわけないじゃないか。今の今までそんなことにも気付かなかったのかい?」
「ふざげんなぁぁぁぁ!!くぞじじぃぃぃぃぃ!!!」
親ゆっくり達は自暴自棄になって喚き散らし、ひとしきり手の中でもがいた後おとなしくなった。
もう正気ではいられないのか、虚空を見つめてブツブツとうわ言を呟いている。
これではもう遊べないし気持ち悪いからさっさと捨ててしまおう。ポイッとな。
ひゅ~~~~~~~~・・・・・・
二匹のゆっくりの姿がどんどん小さくなっていって、とうとう点になってしまった。
「さて、帰るか」
夕飯何にしよ・・・。
「たちゅけてぇぇぇぇぇぇ!!!」
静かな森の中で、一匹の赤れいむの叫び声が響いていた。
赤れいむの頭に取り付けられたパラシュートは木の枝に引っかかり、赤れいむは宙づりの状態になっていた。
叫び声に気づいた付近に住む大人まりさが駆け付ける。
「ゆ!?ど、どうしたんだぜ!?」
「たしゅけてぇぇぇ!おりょしてぇぇぇぇ!!」
「わかったぜ!いまたすけるんだぜ!!」
まりさは木の幹に思いっきり体当たりをした。木を揺らして赤れいむを落とすつもりなのだろう。
しかし赤れいむが引っ掛かった木はなかなか大きく、ゆっくり程度の体当たりではびくともしなかった。
「だめだぜ・・・まりさじゃどうにもできないんだぜ・・・」
「しょんにゃぁぁぁ!たしゅけてぇぇぇ!!」
「ちょっとまってるんだぜ!いまどすをよんでくるんだぜ!!」
「ゆ・・・どす?」
「そうなんだぜ!どすならこんなきなんかひとひねりなんだぜ!」
こうしてまりさは群れの長たるドスを呼んでくることとなった。
しばらくするとどこからか地響きが聞こえてきて、それはだんだんと赤れいむに近付いてきた。
そしてドスは姿を現した。普通のゆっくりを何百匹も積み上げたかのような巨体を持つドスまりさ。
ドスは赤れいむを安心させるために声をかける。
「ドスが来たからにはもう安心だよ。今助けるから待っててね!」
「さすがどすだぜ!たよりになるんだぜ!」
しかし赤れいむが引っ掛かっていた場所はドスの巨体でも届かなかった。
そこでドスは先ほどのまりさが行ったように木に体当たりを仕掛けて赤れいむを落とすことにした。
落ちた赤れいむが潰れないように、赤れいむの真下に大人ゆっくり達を密集させてクッションにする。
そして幹を挟んだ反対側でドスが気合いを入れる。
「それじゃあいくよ!せーの・・・そいやぁ!」
ドーーーーーーーーーーン!!!
轟音とともに木が大きく揺れる。と思いきや・・・
「た・・・たおれるぅぅぅぅぅ!!!」
「ゆあああああぁぁぁぁぁ!!!」
「ゆぶぇ!!」
「げぶぅ!!!」
「ぐぎぇ!」
ドス渾身の体当たりは木を揺らすどころか思いっきりへし折ってしまった。
木は赤れいむの方向に向かって倒れ、赤れいむはおろかクッションとなっていたゆっくり達も潰してしまった。
こうしてゆっくり一家はその日のうちに家族全員が揃うことができたのだった。
ちなみにその後例のドスは同族殺しとして群れの信用を失い、ほどなくして群れは解体したという。
おしまい
【あとがき】
初投稿なのでお見苦しいところが多々あったかもしれませんがご容赦ください。
赤ゆっくりのしゃべり方が思ったよりめんどくさかった・・・。
それはそうと皆さんもテレビやたんすの裏からクッキーとかポテチとか出てきたりしますよね。え?ない?
最終更新:2009年02月05日 22:17