2008年、秋、東京。
俺はカメラ片手に小さな公園にやってきた。
遊具で遊ぶ幼女を盗撮するとかそういうワケではない。
そもそも、最近はアレな人々のせいで遊具が少なくなっているし。
俺は都会に住む
ゆっくり達のみすぼらしい姿を、ドキュメンタリー風に編集してyoutubeにアップロードしている。
それに関連したブログを日本語、英語の二ヶ国語で配信。
最近ではブログ運営もだいぶ軌道に乗ってきた。
アフィうめえと言える日は遠くないだろう。
「ふー・・・」
さっき自販機で買って来た缶コーヒーを開ける。
今日はどこへ行ってみようか。
そんなことを考える。
いつもはどこに行くかを考えてから動くのだが、たまには気の向くままに動こうと思ったのだ。
「お!」
そんな俺の視界の隅に、何やら丸いものが入った。
早朝の公園にいるものなんて、野良猫かゆっくりくらいなもの。
俺はさっそくカメラを構えた。
「・・・ありす種か」
公園によくある、コンクリートで固まったカマクラ的なもの・・・土管が貫通していてトンネルになっているアレだ。
その土管に、1匹のゆっくりアリスがいた。
ありすも俺の姿を確認したようで、ビクビクと様子をうかがっている。
「よお、ゆっくりしてけ」
掌を上に向けて4本の指が触れるように親指をつけ、腰を落としてその手を突き出した。
こうするとゆっくり達はエサをくれるものだと勘違いして寄ってくるのだ。
寄ってこないにしても、逃げだしたりはしない。
これは人懐っこい野良猫にも通用したりする。
「ゆ・・・・ゆっくりしていってね・・・!」
ずりずりと底部を引きずりながら、ありすは俺のほうに寄ってきた。
だが、「警戒してます」オーラが出まくりだった。
簡単に気を緩めないあたり、賢い個体だと思う。
大きさはバレーボールより一回り小さい。
それなりに死線をくぐってきたのだろう。
「お前は1匹か」
「ゆ・・・ありすは、ありすだけよ」
たまには独り身のゆっくりでも撮ろうか。
俺はありすに撮影の話をすることにした。
ありすは先ほどから俺の手をしきりに見ている。
まだ俺がエサを持っていると思っているようだ。
「・・・ゆ。おねがいがあるよ」
撮影についての解説を簡潔に終えると、ありすは何かを決意したような顔で俺を見上げた。
「なんだ?言ってみろ」
「・・・ありすを・・・い・・・いなかに・・・つれていってほしいの」
凄く言いにくそうだった。
「東京から離れたいってことか」
「ありすは、とかいはじゃなくていいわ・・・」
東京には、野良のゆっくりがかなりいる。
ただ、田舎や山に住むゆっくりと比べると大きく違う点がある。
それはありす種がヤケに多いという点だ。
田舎や山などに100匹のゆっくりがいた場合。
40匹がれいむ種、35匹がまりさ種、10匹がありす種、5匹がぱちゅりー種、残り10匹はその他の種だ。
だが、東京では違う。
35匹がれいむ種、30匹がまりさ種、30匹がありす種、残り5匹がその他の種になる。
その時のブームによって捨てられる野良ゆっくりが変化するので一概には言えないが、大体こんな感じになるのだ。
多くのありす種は「とかいは」という謎価値観に従って生きている。
特に、元ペットのありすは東京に激しい憧れを抱いていることが多い。
そのため、ありすは帰巣本能のような感じでジワジワと東京に群がってくるのだ。
だが野良ありすが想像した「とかいは」は東京にない。
連日保健所の職員に追われ、残飯をあさり、同族さえ喰らわねば生きていけない地獄なのだ。
「とかいは」に絶望したありすは田舎へと帰ろうとするが、アホなので帰り道など分からない。
都会に来たことを後悔しながら死んでいく運命だ。
「お前、どこらへんから来たんだ?」
「ありすはここでうまれたのよ」
詳しく話を聞くと、ありすは東京生まれということがわかった。
親のゆっくりが上記のアホ理由で東京に来たという。
そして意外なことに、親のゆっくりは東京の生活に慣れたらしい。
しかし、その子供のありすは東京での生活に耐えられなかったとか。
ありすは他のゆっくりから聞いた田舎の素晴らしさに感動し、東京脱出を目指しているのだ。
「そんなに東京は嫌か」
「ここはゆっくりできないよ・・・ありすはずっとひとりなんだよ・・・みんなとゆっくりしたいの」
親ゆっくりはどうしたのか、そう聞いたがありすはうつむいたまま喋らなくなってしまった。
今も生きてるというニュアンスを感じたため、近くに住んでいるものと思ったのだが。
「ま、わかったよ。撮影が終わったらお前を田舎に連れて行くよ」
「ゆ!おにいさんは、とてもとかいはなおにいさんね!」
ぱあっとありすは明るくなる。
俺はささっと小型マイクを仕込んだ。
もちろん撮影が終わったら放置だ。
田舎に送るなんて、誰がそんな面倒なことをするものか。
「じゃ、ありす。ちょっと体をよく見せてね」
「ゆっくりりかいしたよ」
毎度おなじみの身体検査をする。
ボロカスみたいな皮に、ぼっさぼさの髪。
小枝や砂が入り混じった髪の毛は実に汚らしい。
まさに野良ゆっくりだ。
そう思っていると瞳すら濁って見える。
埃で化粧をしたような肌は、油ぎったネットリしたものよか幾分かマシであった。
「よし、もういいぞ。じゃあありすはいつもみたいに生活しててくれ」
「ゆっくりりかいしたわ。これから、かりにいくわ」
「そうか。俺は隠れて撮影してるから」
ありすが公園を出て行った。
俺は距離を開けて、ありすを追うことにする。
「狩り・・・ねえ」
今まで何度も見てきたが、都会のゆっくりが言うところの「狩り」とはゴミ漁りor乞食だ。
満足に虫もいない大都会では仕方がないとはいえ、なぜ狩りというのだろうか。
全くもって疑問である。
「やっぱな・・・」
予想通り、ありすの目的地はゴミ捨て場であった。
だが朝も早いせいか、数えるくらいしかゴミ袋はない。
他の野良より早めに行動することで、エサを確保しようというのだろうか。
「・・・」
しかしありすは動かない。
ゴミ捨て場から少し離れた場所で、警戒態勢をとったまま。
「なにしてんだあいつ・・・」
せっかく早起きしても、ノタノタしてたら他のゆっくりが来てしまうだろうに。
「お・・・」
と思っていたら、ぼよんぼよんと跳ねながら1匹のゆっくり霊夢がやってきた。
大きさはソフトボールより一回り大きいほど。
成体一歩手前ってところだ。
「ゆゆっ!ありすもかりなんだね・・・!れいむにもちょうだいね」
「・・・いいわよ」
ありすの警戒が一気に濃くなった。
返事を返しているものの、れいむを強く意識していることが分かる。
が、当のれいむはゴミ漁りを始めていて気が付いていない。
「ゆっゆゆーん♪きょうはれいむもごはんをたべられるよ~♪」
ふりふりと左右に後頭部を揺らすれいむ。
それとは対照的に、上下に伸び縮みをするありす。
まるで準備運動でもするかのような動作だ。
そして、次の瞬間。
ありすの「かり」が始まった。
「れいむぅううう!!ゆっぐりじでいっでねぇえええええっ!!!」
「ゆぁあっ!?な、なんなのぉおお!?」
飛びかかるような勢いで、ありすはれいむに体当たりをした。
転がったれいむの底部がむき出しになる。
その底部を、瞬時にありすが噛み切った。
「ゆぎゅうあああああああっ!!」
閑静な住宅街に、れいむの醜い悲鳴が轟いた。
だがそれも一瞬のこと。
ありすは大きな石をれいむの口に突っ込み、声を封じてしまった。
あんな石を用意してあったとは。
俺は少し関心してしまう。
「・・・・ッ!!ゅ・・・ゅうううっ!!・・・・っ!?!・・・・ッ!」
「・・・れいむ・・・ゆっくりしていってね」
漏れた餡子で髪を染めたありすは、ゆっくりとれいむの頬に近寄った。
「ゆぅうううううっ!!!」
「・・・ッ!!・・・ッ!」
ありすが寝転がったれいむの頬に、自身の頬を押し付けた。
あれはゆっくりの交尾だろう。
ありすはものすごい勢いで頬を擦り始める。
「きったねぇ・・・」
じんわりとコンクリートの色が濃くなっていく。
遠くからでも、ねっとりとした体液がにじんでいる様子がわかった。
ありすの体もれいむの体も、光に照らされ不気味に輝いている。
「んっ!!すっすっきるぃぃぃいいいっ!!!」
「・・・・ゅぃ・・・!!」
ありすの体が動きをやめると、れいむの頭から茎がニョキニョキと生えてきた。
底部の穴から餡子が漏れていたが、れいむはまだ生きているようだ。
「ゆっふぅうう・・・・ゆふぅう・・・!!!」
茎に一瞬だけ視線を移したが、ありすはすぐにれいむに向き直った。
息も絶え絶えになりながら、再び交尾が始まる。
「ゆぐぅっ!!ゆぐっ・・・!ゆぅぇぁああっ・・・!」
4度目の交尾が終わると、ようやくありすはれいむから離れた。
交尾の潤滑油となる体液は2度目のすっきりあたりから枯れていたため、今のありすは酷い姿をしている。
頬は擦りキズだらけ、髪の毛は乱れまくりだ。
後半は交尾の痛みに小さな叫び声を上げながら、ありすは頬を擦っていた。
それはれいむも同様で、頬はキズだらけだし、底部から餡子が結構漏れている。
そして頭からは4本の茎が伸び、もはや死を待つのみだろう。
「ゆぐぅ・・・ゆぐ・・・!」
ありすは泣きながら、れいむから漏れた餡子を食べ始めた。
底部から飛び出した餡子は、赤ちゃんのゲンコツ1個分ほどにもなる。
食べ終わる頃には、れいむは真っ黒に朽ち果てていた。
「ゆっきゅりしちぇいっちぇね!」
「ゆきゅーり!」
「ゆっくち!」
10分もしない内に、赤ゆっくりは生まれ落ちた。
1本の茎から約8匹。それが4本なのだから、大体30匹近くの赤ゆっくりが生まれたわけだ。
「・・・ゆぅ」
興味無さそうに、ありすは赤ゆっくりを見下ろす。
「まんまー!おにゃかしゅいたー!」
「れーみゅも!」
「れいみゅ、おかーしゃんとしゅーりしゅりしたい!」
そんな赤ゆっくり達を尻目に、ありすは用が済んだ茎を口に挟んだ。
「むーしゃむーしゃ。しあわせー・・・」
そのまま茎は、ありすの口内へと消えていく。
赤ゆっくりの最初の食事となるはずの茎は、4本ともありすの腹に収まった。
「おきゃーしゃん!れーみゅ、おにゃかしゅいたー!!」
「みゃみゃ!!ありしゅもごはんたべちゃい!」
ワラワラとありすに群がる赤ゆっくり。
しかしありすは視線すら移さず、茎を4本食べると母体として朽ち果てたれいむの亡骸まで食べた。
「ゆ・・・いくわよ」
それだけ言うと、ありすはゴミ捨て場を去った。
「まっちぇー!!」
「れいみゅをしゅてないでぇえ!!」
「みゃみゃ!ありしゅとゆっくちちてー!!」
赤ゆっくり達は、親に捨てられたくない一心で、そのあとをピョンピョコ跳ねてついていく。
ありすも赤ゆっくりのことを考えているのか、ゆっくりと進んでいた。
「まーま、ありしゅ、おにゃかしゅいたの・・・」
「れーみゅもだよ・・・おかーしゃん・・・」
公園に戻ってくると、ありすは30匹ほどいた赤ゆっくりのうち20匹を食べてしまった。
あっちでママとゆっくりしましょうね、と言って見えないところに誘い、そのままパクリと。
悲鳴すら上げる間もなく、赤ゆっくり達はその短いゆ生を終了した。
それでようやく腹が満たされたのか、ありすは残った10匹の赤ゆっくりを食べることはしなかった。
れいむ種が6匹、ありす種が4匹残っている。
特に種に関してこだわりはないようだ。
「うるさいよ・・・しずかにしてね」
ギロリと赤ゆっくりを睨むその目に、親としての愛はまるで感じられない。
「ゆ・・・ごみぇんね・・・れーみゅ、しじゅかにするよ・・・」
「ありしゅも、いいこにするよ・・・」
きっと次の食事までの命なのだろう。
親しか頼れる存在がいないとはいえ、あまりにも惨めなものだ。
それは昼すぎにやってきた。
「でけえ・・・!」
バスケットボールよりも一回り大きいゆっくりアリス(以下、大ありす)が公園にやってきたのだ。
かなりの大型だ。
大ありすは何か探しものをしているかのような動きで、公園を散策していた。
苦労のかいあって、土管の中に入っているありす一家を発見した。
「そこのありすたち、ゆっくりしないででてきてね!」
ありすが土管から現れる。
赤ゆっくりはまだ生きていたようで、ありすの後頭部に隠れて震えていた。
「おきゃーしゃん・・・!たちゅけちぇ・・・!」
「こわいよ!ありしゅ、こわいよぉお!」
「みゃみ゙ゃー!!!ごわいぃいいいい!!」
大ありすの巨体は、赤ゆっくり達には相当な恐怖のようだ。
悲痛な叫びがマイク無しでも伝わってきた。
「ゆ゙っんっ!!」
ボン、という音が聞こえてきそうな勢いで、ありすが威嚇をした。
空気を含み、体を通常よりも大きく見せるものだ。
人間相手には全く効かないが、ゆっくり同士では効果がある。
が、大ありすはまるで動じていなかった。
「ゆふ・・・ふぅ・・・!」
大ありすは一気に膨れようとせず、ゆっくり空気を含んで膨れていく。
じんわりと、確実に。
プレッシャーをかけながら、それでもまだ膨張は終わらない。
「・・・!」
ありすはもはやこれまでと思ったのか、空気を吐き出し、元のサイズに戻った。
「お、おきゃーしゃん・・・!」
「まきぇにゃいでっ!!みゃみ゙ゃぁあああ!!」
「ゆっくりりかいしたようね。おチビちゃん」
勝ち誇った顔で、大ありすはありすを見下ろす。
ありすはその顔を見ようとせず、赤ゆっくりに振り返った。
「 "よん" でいいわ」
「・・・ゆっくりりかいしたよ」
ありすは、親を心配する赤ゆっくりに笑顔を見せた。
赤ゆっくりにとっては、生まれて初めての笑顔。
「あかちゃんたち、ママのおくちのなかにかくれてね」
「ゆっ!」
「おきゃーしゃん!!」
「こわかっちゃよぉお!!」
外敵から子を守る際、ゆっくりは口内に子を入れる。
それを本能で理解しているため、赤ゆっくりはすんなりとありすの口に入って行った。
大ありすはそれをニヤニヤと眺めている。
「ぷっ!ぷっ!ぷっ!ぷっ!」
ありすの口から、まるでスイカの種でも吐き出すかのように、4匹の赤ゆっくりが飛び出した。
そして、大ありすの目の前に転がっていく。
「じゃあこのこたちはおいしくいただくわ。あなたたちもゆっくりしていってね」
「お!?おきゃーしゃんっ!?」
「みゃみゃ!たちゅけちぇー!!!」
「どぼじじぇっ!?おぎゃーざー!!」
「だぢゅげでぇええっ!!」
やかましく騒ぐ赤ありすを大ありすは口に入れ、悠然と去って行った。
「あのデカいありすは、お前の親だったのか」
「・・・そうだよ」
夕方。
あらかた撮影を終えた俺は、ありすへのインタビューをしていた。
赤ゆっくりはもういない。
午後になると、町を彷徨う野良ゆっくりが多くなる。
ありすはあまり体が大きいほうではないため、殺し合いでは勝てない。
そのため、赤ゆっくりが必要になるのだ。
数匹渡す代わりに命を助けてもらう、いわばトカゲのしっぽのようなもの。
6匹の赤ゆっくりは、午後に出会った成体サイズのまりさに奪われてしまった。
「ありすは、ありすのおチビちゃんとおなじだったんだよ」
このありすはかつて、大ありすの命乞い用のゆっくりだったという。
捨てられていく姉妹を見て、いち早く危険を感じ取ったありすは大ありすのもとから逃げ出した。
それからはゴミをあさったり、乞食をしながら生きてきたのだという。
しかし、今では親である大ありすと同じ方法で生きていた。
「・・・ごはんとちがって、じぶんでうごくからべんりなの」
命乞い用の食糧を持って町に出るより、赤ゆっくりをひきつれて町に出た方が楽なのだとありすは言う。
それに加え、赤ゆっくりがいると食料を恵んでくれる人が多いらしい。
「あのれいむみたいになりたくないよ・・・」
今朝のれいむのことかと思ったが、違った。
都会に住む親ゆっくりには、2タイプあると聞いたことがある。
一つはこのありすのような、子供を動く食糧であるとみなしているタイプ。
いざとなれば子供すら捨てる、どちらかといえば少数派である。
大抵は、もうひとつのタイプになる。
それは子供を溺愛するタイプだ。
都会にはゆっくりできるものなど何もない。日々食糧争いを繰り返し、保健所職員に追われ、同族にすら気を許せない。
そんなゆっくり達にとって赤ゆっくりはまさに「真のゆっくり」として写るのだ。
溺愛というより、依存に近い。
子を失うことは、ただ一つの「ゆっくり」を失うこと。
それを極端に恐れ、子に依存してしまう。
ありすは昔、その典型例のようなれいむを見たのだという。
「バカなれいむだったよ」
その日、動く食糧を確保しようと、数匹のゆっくりがれいむ一家を襲撃したという。
1匹のまりさが赤ゆっくりを捕獲すると、親れいむは闘うことすら放棄した。
自分はどうなってもいいから赤ちゃんを助けてくれ、そう言って泣き崩れたのだ。
それを聞いたゆっくり達は、赤ちゃんは食べないから代わりにれいむを食べさせろと要求する。
そんな約束など守るわけがないのに、れいむはわずかな可能性にかけたのか、生きながらにして食糧にされてしまった。
赤ゆっくりが食後のデザート感覚で食べられてしまったのは言うまでもない。
それを物影で見ていたありすは、れいむの愚かさに腹が立ったという。
「ありすは、れいむみたいにはならないよ・・・!いなかにいって、みんなでゆっくりするんだから・・・!」
強い意志を感じた。
きっとこのありすなら、多分千葉あたりまでならいけるんじゃないかな。
俺はありすからマイクを外し、公園を去った。
全力疾走で。
おわり
最終更新:2009年02月14日 03:23