「ユックリシテイッテネ!!!ユックリシテイッテネ!!!」
朝、寝ている俺の横で尻に充電ケーブルを指されたれいむが、
目覚ましがわりのアラームを鳴らす。
俺は朝なんて来なければいいのにと思いながら体を起こしれいむへと手を伸ばす。
伸ばした手が部屋の冷え切った空気にふれ急速に体温を奪われていく。
「ユックリシテイッテネ!!!ユッ」
れいむの横についているボタンを押しアラームを止める。
早めに鳴らす様に設定しているので出社の時間まで、まだ寝ていてもいい時間だ。
一様背面ディスプレイに表示される時間を確認し、布団の中に戻って後5分後5分と眠る事にする。
5分後……
「ユックリシテイッテネ!!!ユックリシテイッテネ!!!」
再びアラームがなり始める。
スヌーズ機能を5分に設定しているので、横ボタンだけだとアラームは再び鳴る。
この機能によって誰の手を借りる事も無く後5分が出来る。
そして時間的にはまだ余裕があるので再びれいむに手を伸ばし後5分を始める。
20分後……
「ユックリシテイッテネ!!!ユックリシテイッテネ!!!」
あれから何度か後5分後5分を続け20分が経過した頃、
さすがにそろそろ起きないといけない時間だ。丁度30分、これが最後の後5分となるだろう。
俺は悲愴な決意と共に最後の後5分へと挑んだ。
5分後……
「ユックリシテイッテネ!!!ユックリシテイッテネ!!!」
遂にこの時が来てしまった。
畜生、こんな事があるか、俺はただ寝ていたいだけだというのに、
まったくなんで朝なんて来るのか……。
「ユックリシテイッテネ!!!ユックリシテイッテネ!!!」
悲しみに暮れている俺を、れいむは容赦なく攻め立てる。
この瞬間れいむに対して殺意すら浮かぶ。
「ユックリシテイッテネ!!!ユックリシテイッテネ!!!」
とは言え、起きないという選択肢はなく、
だるい体を無理やり起こし身支度を整えなくてはいけない。
「ユックリシ」
とりあえず横ボタンでアラームを留めるが、
横ボタンではスヌーズ機能を止められないので
れいむを開いて中央のボタンを押しアラームを止める必要がある。
「いーち……にーい……」
れいむを開くと中からは小声で数を数えているれいむの声が聞こえてくる。
次のアラームまでこうやって数えているのだろう。
俺はポチポチとれいむを操作しアラームを止める。
ようやく朝のお勤めが終わりれいむもほっと一息ついていた。
準備を整えた俺はれいむをポケットにいれ会社へと向かった。
れいむは俺の携帯電話だ。
俺がれいむと呼んでいるだけで携帯自体は普通の携帯電話で、
れいむはその中にいる待ち受けキャラクター的なものだ。
携帯の画面をウロウロしながら、メールや着信をまってそれを俺に知らせてくれる。
朝の様にアラームをセットしておけばそれも声で知らせてくれる。
他にも色々機能はあるが基本的には電池の無駄遣いになる程度の機能でしかない。
そんなものをなぜそのままにしておくかと言うと、れいむを設定してから設定を変える事が出来なくなってしまったからだ。
設定を変えようとするとれいむが俺に暗号の入力を求めて来て、その暗号とやらが判らず設定が変えられないといった具合だ。
「あんごうをいれてね!」
携帯の暗証番号や電話番号、あとは適当に関係ありそうな言葉をいれてもダメ。
「あんごうがちがうよ!!ゆっくりしていってね!!!」
まあ、このままでも特に問題なく、めんどくさいという理由でそのままになっている。
昼休み
携帯でプライベートなメールを確認すると、
件名が無く差出人も見覚えのないメールが届いていた。
気になって開いてみると、本文が表示されるところには文字化けしたような
意味不明の文字列が表示されていた。
なんなのか判らなかったが、とりあえずメールを削除する事にした。
メールを削除すると、何処からともなくれいむが現れ、削除したメールを食べてくれる。
「む~しゃ♪む~しゃ♪しあsdfghjk」
メールを食べると、れいむは奇妙な声を上げそのまま動かなくなった。
顔は笑顔のまま硬直し、その他の操作も一切効かない。
電源ボタン長押しで電源を切って再起動すると特に異常は無かったので、
まあ、この端末にしてから結構たっているからなんか壊れてるんだろうと気にしないことにした。
携帯を再起動して残りのメールを読んでいると
画面端かられいむが
ゆっくりと姿を現した。
「ゆっくりしていってね!!!」
そういって画面の中をうろうろと、携帯を操作していない時の様に動いている。
何時もは、メールを読んでいる時に待ち受けキャラクターは表示されないのだが、
その時はなぜか表示され少し不思議に思いながらもメールを読んでいた。
すると
「とってもゆっくりしたもじさんだね!!!」
意味がわからなかった。
まあ、文字は動かないしゆっくりしているのかもしれない。
そんな事を考えているとれいむはおもむろに動き出し。
「む~しゃ♪む~しゃ♪しあわせ~♪」
目の前にいるれいむは口を動かしながら幸せそうな顔をしている。
一息つくと隣の文字まで移動してもう一度。
「む~しゃ♪む~しゃ♪しあわせ~♪」
2~3回その様子を見ていてようやく異変に気づいた。
文字が、れいむが通った所に表示されていたメールの本文が消えている。
まさかれいむが食べているのはメールの本文なのか?
俺は訳が判らなくなり、れいむを止めようと慌ててメールを閉じた。
メールを閉じ何時もの待ち受け画面に戻ったが、そこにれいむの姿はない。
れいむもそうだがメールも気になる。
ただ表示がおかしくなっただけならまだメールは無事かもしれない。
俺はもう一度メールを開いた。
メールは無事では無かった。
そこにはムシャムシャとメールの本文を食べ続けるれいむがいた。
「む~しゃ♪む~しゃ♪しあわせ~♪」
結局、大半の文字を食い尽くすまでどうする事も出来ず、
後に残された意味不明な文字列では内容を推測する事も出来なかった。
れいむは満腹にでもなったのかその場でゆーゆーと寝息を立てている。
その日はその後直ぐに電源を切った。
翌日
恐る恐る電源を入れる画面の中央に何時もと変わらない様子のれいむがいた。
「ゆっくりしていってね!!!」
昨日の事がありすこしイラッとしながらも
もうメール食ったりするなよと心の中で言いながら携帯を閉じる。
「ゆっくりわかったよ!!」
なにか返事のようなものが聞こえた様な気がするが気のせい気のせい……。
その日の夜、食事を取りながら携帯を弄っていると、またもやれいむが不振な動きをしだした。
あっちへ行ったりこっちへ行ったり、顔の真ん中あたりをヒクヒクさせたり、口からはだらだらと涎を垂らしている。
「とってもいいにおいがするよ!!ゆっくりしていってね!!!」
臭い……臭いねぇ、そんな事わかるはずは無いのだが、一昨日から続く不可解な現象に一瞬信じてしまいそうになる。
「おにいさん!れいむおなかすいたよ!!」
そうだね、お腹空いたね、だからこうして食事を取っているのだけどね。
「おにいさんのほうからにおいがするよ!!ゆっくりそっちにいくよ!!!」
そーか、こいこい、これるもんならだけど。
そう言うとれいむはこちらを向き、少しずつ大きくなっていった。
今までやや右向きか左向きの顔しか見たことが無かったが、正面から見るとあまり可愛くない顔をしている。
それよりこっちに来るといったれいむはどんどんと大きくなっている。
これはひょっとしてこっちに向かって近づいてきているのだろうか……。
「ゆっくりいくよ!!ゆっくりしていってね!!!」
徐々に大きくなってくれいむの姿は、既に画面からはみ出るほどだ。
それでもまだ止まることなく大きくなり続けるれいむ。
遂に画面には顔半分程しか映ってない。
「ゆー、せまくてとおれないよ!!!」
こいつこんなにでかかったのか、しかも画面に写っている顔の一部がこちら側に盛り上がってはみ出している。
「ゆゆ!くすぐったいよ!!」
はみ出している部分を指でつつくと、携帯の液晶とは明らかに違ったぷにっとした柔らかい感触がする。
「ゆっくりひっぱってね!!!」
俺は言われるがまま、はみ出している部分をつまみ思いっきり引っ張った。
引っ張るとれいむはびみょ~んと伸び、徐々にではあるがこちら側に出てきた。
「ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛!!」
後ちょっとで顔半分が出るといった所で引っ掛かり、それ以上はなかなか出てこない。
引いてダメならもっと引く、つまんでいた部分を鷲掴みにして思いっきり引っ張る。
スポーンという音と共にれいむがこちら側に飛び出した。
「ゆっくりしていってね!!!」
まさか本当に出てくるとは、直径20cmはあるれいむが俺の部屋でゆっくりしていた。
「ごっはん♪ごっはん♪」
れいむはテーブルの上に上りそこにある俺の晩御飯のチャーハンに顔面から突っ込んだ。
「む~しゃ♪む~しゃ♪しあわせー!!」
「あっ!」
と言う間にチャーハンを平らげたれいむは満足そうにふんぞり返ってゲップをした。
部屋の中には甘ったるい臭いが広がる。
「ゆー!まんぞくしたよ!!」
そう言うとれいむは携帯の方に跳ねていき、携帯の画面に顔面を押し付けだした。
だが、出てきたときと同じ様に自力では中に入れず、俺に助けを求めてきた。
「おにいさん!ゆっくりおしてね!!」
押して欲しいなら押してやろう。
俺はれいむの後頭部に手をあて体重を掛けながら思い切り押した。
「ゆぎゅっ……ゆっくりおしてね!ゆっくりだよ!」
ゆっくりじっくりたっぷり押してやるよ。
ズボッとという音と共にれいむが携帯の中に入った。
「ゆっくりしていってね!!!」
台無しになってしまった晩御飯を片付けて、代わりにインスタント食品で晩御飯を作る。
食事を済ませて一息ついているとれいむが突然鳴った。
「プルルルルルル!プルルルルルル!デンワダヨ!!ユックリデテネ!!!」
携帯に表示されている電話番号はアドレス帳には登録されていない。
誰からの電話だろうと考えてみたが判らない。
そうこうしている間に10秒ぐらいはコールがあっただろうか。
段々とコールの音が小さくなっていく。
コールの合間にはれいむの息継ぎの音が聞こえる。
電話に出るとそれは良く知った友人からで、色々あって携帯の番号が変わったそうだ。
用件は番号が変わった事だけだったが、その後しばらくたわいも無い世間話をしていた。
「ゆふー……ゆふー……おにいさんゆっくりしすぎだよ……」
友人の声とは別にれいむの声も時折聞こえてくる。
話に加わりたそうにしているが、友人の方に聞こえていないようだ。
しばらく話をしていると、左頬をなにかにこすられている様な感じがした。
携帯を左耳に当てているので頬にも当たるのだが、携帯とは違うなにか柔らかいもので擦られている。
そういえばすこし前にもこんな感触のものがあったような気がする。
「す~り、す~り、すすすすすっきりー!!!」
ビクンビクンと痙攣が伝わり、擦られる様な感覚も痙攣もしなくなった。
友人と話を終え電話を切った。
突然便意を感じトイレに向かった俺は、手にれいむを忘れずに持っていった。
5分ほどで大き目の様を足し、携帯のカメラを起動し便器へと向ける。
「ピンピロリーン」
今日も体調はバッチリだ。取った写真は携帯に保存しておく。
俺のデータフォルダには既に毎日の健康状態が既に2年分ほど溜まっている。
「とってもゆっくりしてるよ!!!」
そういってれいむは涎を垂らすが、どういう意味なのかは判らない。
「プルルルルルル!プルルルルルル!デンワダヨ!!ユックリデテネ!!!」
再び掛かってきた電話に驚いた俺はついうっかり手を滑らせてしまう。
「プルルルルルル!プルッ!ガボッゴボガビュグビャイ!!!」
落とした携帯は浮いているティッシュペーパの上にのりゆっくりと水中へと沈んでいった。
急いでゴム手袋を装着しれいむを救助したがれいむは既に事切れていた。
おわり
作者:モテカワスリムの愛されレイーム(笑)大好きあき
最終更新:2009年02月24日 18:56