ゆっくりいじめ系2330 永夜緩居6前編-1


それは何の変哲も無いある日のことだった。
蟲達のリーダーであり蛍の妖怪である少女
リグル・ナイトバグはいつものように妖怪として平凡な日々を過ごしていた。
その日も氷精やら大妖精やら夜雀やらと遊んでいて
たまたま出くわした霧雨魔理沙と口げんかして弾幕ごっこして

そしてあっさり負けた。

弾幕ごっこで完膚なきまでに敗れたリグルは地面にふらふらと落下していく。
星の弾幕のシャワーを浴びてズタボロになった男物のシャツや半ズボンに
トドメを刺すかのようにべったりと地面の土が汚していった。
地面に突っ伏してうつぶせに倒れる様は裏地が赤の黒いマントを着ているせいもあってか
地面を這い回る蟲を思い起こさせた。
「うぅ??なんでこうなるのぉぉ!?」
呻きながら力なく片腕を伸ばし、そのまま力尽きて地面にぺたんと腕が落ちる。
緑色の髪の間から伸びる触角が一本、力なくへたった。


「そりゃお前弱いんだぜ」
立ち上がり、地団駄を踏んで口惜しがるリグルをさして魔理沙はそういった。
あっさり言ってのける魔理沙に対して
ギリギリと歯軋りをたてながらリグルは睨み付けるが魔理沙は意にも介さない。
「そもそも蟲自体弱いし、ほら見ろよ」
そう言って魔理沙の指差した先にはゆっくりれいむと、その周りを飛び交う蝶が居た。
ゆっくりれいむはぴょん、と飛び跳ねるとぱくりと蝶を食べて言った。
「むーしゃ、むーしゃ、しあわせー♪」
「ゆっくり以下」
「ぐっ……ぐぅ……!」
魔理沙のあまりの言い草に頭に血が上ったリグルは何か言い返してやろうと口を開いた。

その瞬間、さっと氷精のチルノがリグルと魔理沙の間に入って叫んだ。
「ちょっとあんたいい加減にしなさいよね!」
チルノは氷精らしくもなく顔を真っ赤にして魔理沙に詰め寄った。
「チルノ…あんたって奴は…」
リグルは感動の余り少し目を潤ませた。
「あ、すまんちょっと言いすぎたかも」
魔理沙の方も不穏な場の空気を感じて流石にやりすぎたとたじろいだ。

「リグルは確かにめっちゃくちゃ弱いけどもしもの時はさいきょーのあたいが守ってあげるから弱くってもいいのよ!!」

「………」
場が凍りついた。

リグルは体の力が抜けて再びその場にへたり込んだ。
考えてみて欲しい。
正直自分より下かなーと思っていた相手が力いっぱい自分を守るべき弱者としてかばってくるという状況を。
はっきり言ってかなりへこむこと請け合いである。

「だ、大丈夫ですかリグルさん…?」
大妖精が気を使ってリグルに話しかけたが、リグルはがっくりと項垂れたまま無言でその場を去っていった。



「あんな言い方ないじゃないのぉー……」
リグルは多少気を持ち直して愚痴りながらふらふらと彷徨っていた。
「はぁ……」
さっきから数えて五度目の溜息がその口から漏れた。

「あら、随分と落ち込んでいるご様子ね」
「あ、あんたはいつぞやの」
どこから現れたのか
ウェーブのかかった金髪にシンプルな紫のドレスを纏った美女が日傘をさした美女がリグルのすぐ横に立っていた。
彼女は以前の異変の際リグルをこっぴどい目にあわせた妖怪の一人
八雲紫がいつの間にか傍らに立って居た。
聞くところによると大妖怪らしいがリグルはぷいとそっぽを向いて目をそらす。

「お困りだったら、相談にのってあげましょうか?」
以前弾幕勝負でコテンパンにのしにきた時とは打って変わって親しく接してくるその態度にリグルは胡散臭さを感じてこう言った。
「いいわよ別に……今はぼーっとしてたい気分だからほっといてよ」
「そんなことならお安い御用」
「へ?」
リグルがうめくと同時に足元にスキマ空間が現れてリグルを飲み込んだ。



「いったぁ?……」
その後スキマから吐き出されてまっさかさまに落っこちて
リグルは頭を擦った。
「やっぱり酷い奴ね全く……ん、ここは……?」
リグルが辺りを見回すと一面に彼岸花が咲き乱れていた。
「三途の……川?」
体を起こして見ると目の前には静かに静かに川が流れていた。
「ひ、ひぇぇ」
ひょっとして今ので殺されてしまったのかと思い自分の体をペタペタと触って確認するが
特別透けてたり冷たかったり死後硬直が始まっていたり離れたところに眠るように横たわる自分の姿が無いことを確認して
どうやら生きているようだと胸を撫で下ろす。
そして静かに流れる三途の川を眺めながら言った。
「確かにぼーっとするにはちょうどいいか」

リグルはそう思ってごろんと寝転んだ。
そしてそのままうとうとと眠りに落ちていった。

――??……!


頭に直接響くような叫びを聞いて、リグルははっと目を覚ました。
体を起こして寝ぼけ眼をこすり、辺りを見回すと辺りにはふわりふわりと漂う幽霊、幽霊また幽霊。

「ひ、ひぇぇ」

またさっきと似たような妖怪にあるまじき情け無い上ずった悲鳴をあげてリグルはあとづさった。
「ななななんで私の周りに集まってくるのよー!?」
流石にリグルもただ幽霊がよってきたくらいではこんなにうろたえたりはしない。
ただその数、量が異常だった。
辺りを埋め尽くすのではないかという量の幽霊の群れにリグルも気圧された。
群れる霊達一つ一つから湧き上がる恨み、無念がまるで群れ自体を一つの生き物のように見せた。
慌てふためきながらどんどんあとづさるが幽霊達もリグルについてふわふわと拠って来る。
リグルは首をぶんぶんと横に振りながらなみだ目で逃げ出そうとしたが腰に力が入らない。

幽霊達はそんなリグルの周りにどんどんと集っていった。

「……?」
ふと感じた奇妙な感覚にリグルは足を止めた。
正確にはお尻を引き摺るのをやめた。

その幽霊達は、確かに何かを恨んでいたがその対象はリグルでは居ないようだった。

「……あんたらひょっとして蟲?」
リグルは恐る恐る霊体の一つに触れてみた。
ひんやりとした感触とともにどこか懐かしさを感じさせる。

「やっぱり蟲だ」
リグルは指を動かして幽霊をくすぐった。
見た目からは全く分からないが感覚で彼らが生前は自分と同じ蟲だということだけはリグルにはわかった。
恐らく同じ蟲で生者であるリグルに何かを訴えたいのだろうということがわかった。
彼女は気の抜けたような顔をして再びごろんと転がった。
「早く成仏しなさいって、恨みつらみで現世にしがみついたって仕方ないわよ」
寝ながらリグルは何か達観した様子を感じさせながら蟲の霊達を諭した。
そして目を瞑ってすぐにすやすやと眠りだした。
霊達の冷たさが寝るのにちょうどいい気温を作り出してくれたのかもしれない。

「ふぁぁ?……うぇ!?」
再びリグルが目を覚ますと、さっきの十倍、二十倍はあろうかという霊達が回りに集まって辺りを埋め尽くしていた。
「な、なにこれ……みんな蟲なの……?」
流石にリグルも事態の異常さに背筋が凍る。
霊達のおかげで実際の気温も非常に低い。

「ひーふーみー……えーっと」
ためしに数えようかと指を折ってみたが無論数え切れるわけも無い。
とにかくたくさんである。

幻想郷内でこれだけの蟲が死滅したのならそれこそ簡単に生態系のバランスが崩れてしまいかねないほどたくさん。

「――……!」
息を詰らせながらリグルは飛び立った。
そして彼女は幻想郷中を飛び回った。


いつもは素晴らしい合唱を聞かせてくれていたコオロギ達が、悲しげに独唱をしていた。

花の周りに舞う蝶は、たった一匹で寂しげに舞っていた。

樹液の染み出る木の周りに居るのは一匹の蛾だけだった。

理由は分からないが、幻想郷の蟲達は減少していた。

「ど……どうなってんの!?」
リグルは愕然として息を呑んだ。
確かに最近は他の妖怪とたむろしてることの方が多かったし、普段出会う蟲達も結構限定されていた。
それでも定期的に幻想郷の蟲達全体の動向には妖怪なりのペースで目を通す。
リグルが今しがたまで気付かなかったとなるとそうとうの短期間、十年あるか無いかの間に蟲が減ったことになる。
そんな短期間でこれだけ蟲達が減るというのは異常だった。
放って置いてこのままのペースで減少していけば近い未来には幻想郷の蟲達の種族の多くは絶滅しかねない。

リグルは何故こんな事態に陥ってしまっているのか訳が分からなかった。
だが原因はここ数年、リグルが他の妖怪と絡む時間が増えてからの内にあるはずだった。
その間に起こった異変を必死に脳内で洗いなおしたが蟲が激減してしまうような異変というと検討も付かない。

リグルは茫然自失の体で、近くにあった花畑に降り立って膝をついた。
「どうして……一体誰が……」
巫女にでも相談すべきかとリグルは頭を抱えた。

近くを飛んでいた蝶が心配そうにリグルの足元を舞った。
リグルがその蝶を見て何か応えようとした瞬間、その命は途絶えた。

「むーしゃ、むーしゃ、しあわせー♪」

蝶は、ゆっくりれいむの口に飲み込まれて、その短い一生を終えた。
「……」
リグルにとって目の前で同胞が食べられたのは非常に腹立たしいことには違いが無かったが
取り立てて怒る様なことでもない。
仲間が食べられるのを妖怪の自分がいちいち怒っていてはキリが無いし、摂理に反する。
妖怪は、人間を襲うものなのだ。
蟲を襲う生き物をいちいち襲って殺していくわけには行かない。
いつものようにこうやって世界はうまく回っているのだと言い聞かせる。
多分それは今食べられた蝶への後ろめたさに対する言い訳も兼ねていることを心中認めながら
儚くもこの世を去ったその蝶の冥福を祈る言葉を後ろめたいものを感じながら胸中で唱えた。

毎度毎度それに怒っても無駄に敵を作るばかりだしキリも無いし、何より自然の摂理をひっくり返そうとするのは
一妖怪としての分を超えている。

本当に無益に殺されるか、種族の危機にでも面しない限り妖怪のリグルがいちいち出てきて怒るべきではないのだ。

そう、種族の危機に面しない限りはだ。

「……あ」
リグルははっと気付いて顔を上げそのゆっくりれいむを見つめた。
「ゆ?おねえさんゆっくりしていってね!」
リグルの視線に気付いたゆっくりれいむがリグルの方を向いて
食事にありつけた幸せな気分を分けたいとでもいうかのように嬉しげに声をかけた。
「まさか……」
「ゆゆ!?いたいよ!ゆっくりはなしてね!」
リグルは暴れるゆっくりれいむを掴むと三途の川に向かって飛び立った。

「ゆ?!?おそらをとんでるみたい?!」
実際飛んでいるのだがそのことをいちいち突っ込む余裕はリグルには無かった。
瞬く間に、さきほど蟲達の霊が居た場所へとたどり着く。
「ゆ、そろそろはなしてねおねえさん!もうとぶのあきゆぅ!?」
喋っている最中のれいむを、リグルは霊達に向かって投げ捨てた。
「ゆぅ?、いたいよ!ちゃんとあやまっぎゃああああああああああ!?」
瞬く間に、周りに漂っていた蟲霊達がれいむの体に触れていった。
まるで、一つの生き物のように一体となり、餌を食べる肉食獣のように一瞬でれいむの体を蟲霊達が覆いつくした。
「ぢべだい!ぢべだいいいいいいいいいいいいいい!?」
れいむの悲鳴を無視して、蟲霊達はれいむにその霊体を押し付けて体温を奪っていく。
「ひゃぎいいい!お゛ね゛えざん!だずっだずげひゃぁあああああああ!?」
霊体のスキマから覗くれいむの顔色は黒く変色して今にも全身が凍傷で腐れ落ちそうだった。
「ひ……ゆ……っく……た……か…………」
やがて、れいむの声がしなくなると同時に蟲霊達はれいむの体から離れた。
黒ずんで凍てついたれいむの躯が姿を現した。

「やっぱり、あんた達みんなゆっくりに喰われたのね」
リグルは全てを理解して近くに居る丸く固まった蟲霊達の頭を撫でた。
ひんやりとした感覚が手のひらに広がりとても心地よかった。



三途の川を眺めながらリグルは悩みに悩んだ。
蟲達がゆっくりに喰われたのは仕方ない。
野生とはそういうものである。
弱肉強食、それに文句を言うことは筋違いだ。

探せば強い蟲も居るところには居るが、生憎と幻想郷の蟲達はあまり強くない。
はっきり言ってしまうとむしろ弱い方だった。
昔はそうでも無かったらしいのだが、少なくともリグルの生きている時代の蟲は弱い。

リグルは自分がやりたいのは復讐か、と自問した。
それは違うだろうと答えを出した。
考えるべき問題は同胞達がどうやってこの先生き残るかである。
このままのペースで喰われていけば、遠くない未来に多くの蟲達がゆっくりに食われつくして絶滅しかねない。
何にせよ放置しておける状態には無い。
それほど幻想郷におけるゆっくりの勢いは凄まじかった。
「私が代りにやるしかない?でもこれだけの規模でどうやって…」

最初に思いついたのはゆっくりを滅ぼすこと。
滅ぼすまではいかなくてもその力を削ぐこと。
蟲達を滅ぼしかねないその勢いを止めてしまうこと。
しかし凄まじい勢いで繁殖し、人の生活にも密接に食い込んでいるゆっくりたちを滅ぼすのは
いくら妖怪のリグルでも力が足りなかった。
リグルの下に全ての蟲達を集め、その能力を持って戦わせても幻想郷中のゆっくりを全て絶滅させるなどできるわけも無い。
狭い狭いといっても幻想郷はリグル一人の手には余る。
それにリグルはともかくそれについてくる蟲達の体が保たない。
結局どちらも数を減らして手痛い目にはあうが、ゆっくりがまた持ち前の繁殖力で増えてしまうだけだ。
また仮に、リグル一人でゆっくり達を滅ぼせるだけの力があったとしても
それだけの力を持って幻想郷中で暴れれば今度は途中で異変として博麗の巫女に処理されるだろう。
幻想郷に居る以上、異変とみなされれば博麗の巫女から逃れる術はない。

リグルはかぶりを振って別の方法を考え始めた。

「だったらその博麗の巫女に頼めば……」
幻想郷のバランスが崩れかねない異変として解決してくれるかもしれないと考え
実行に移そうかと思った瞬間ある光景がリグル脳裏を過ぎった。
「やっぱり駄目だ」
ふるふると頭を横に振った。
リグルの脳裏には博麗の巫女、博麗霊夢がコウリン堂から殺虫剤を手に笑顔で出て行くところがリフレインしていた。
あの無機質な円柱の形を思い出すだけで寒気がして顔が青くなった。
「あんな大量殺戮兵器もってスキップしながら家に帰るような巫女絶対信用できるもんか……」
リグルはさらに力強く頭を振ってそのおぞましい映像を頭から振り払って寝返りをうつ。

「なら……」
そこで思いついたのが蟲達自身が強くなることだった。
その方法としてすぐさま脳裏を過ぎったのが、蟲毒だった。
太古において、壷の中に毒蟲達を入れ最後に生き残った毒蟲達を
さらに集めてを繰り返して力を得るある種の外法であった。
その毒蟲の毒は人間は愚か妖怪でさえ殺しえるという。

その力さえ得ればゆっくりなど物ではない。
リグルはそれを行うのに必要なものの算段をし始め、やめた。

「これも異変じゃないの、どう考えても」

そんな危険な蟲を作るのを幻想郷を管理する妖怪の賢者達や博麗の巫女が見逃すとは思えない。
リグルの力では瞬く間に解決されてしまうだろうし仮に力があっても
最終的には目的を果たせず解決されてしまうだろう。
幻想郷の異変というのはそういうものなのだ。

異変が解決されたのなら、その異変の目的たる部分はどうなるのだろうかとリグルは考えた。
その辺りはよくわからないが、少なくとも自分の思い描いていた結果にいたることはあるまいとリグルは思った。

「なら、人間が困らない程度の強さなら別に異変じゃないわよね」
リグルは寝転んだままぽん、と手を叩いた。

ゆっくり以上人間以下の適度な能力
それが今の蟲達に必要な力だった。

「あとは私に任せて、あなた達は好きなときに成仏してちょうだい」
そう言って、リグルは顔の傍に漂う蟲霊を一匹撫でた。
すると安心したかのように何匹かの霊達は成仏していった。
残った霊達は成仏こそしないものの優しくリグルを見守っているようにその場でふわりふわりと漂った。


それからリグルはどうすれば目的であるゆっくり以上、人間以下の力を手に入れられるかを考え始めた。
蟲を操る程度の能力を使い、群で襲えばそこらのゆっくりにも勝てるだろうというのは分かっている。
が、年中操れるわけでも無いし幻想郷中となるととても手が廻らないのもまたわかっている。
リグルの力無しでも蟲達がゆっくりに勝てなくてはならないだろう。

となるとやはり交配して世代を重ねて進化していくということになるだろう。
また、そうして産まれた強い蟲をリグルの能力で強化して次世代につなげていく。
方法としては蟲毒が近い。
だがそのまま際限なく力を手に入れようとすれば異変として目を付けられる。
加減が重要だった。
そんなやったこともノウハウも無いことを加減しろ、というのは難題だったがやるしかない。

考えのまとまったリグルはすっと立ち上がると、幻想郷中の蟲達に呼びかけるために飛び立った。


とりあえず声だけはかけて回って行く最中、はたと気付いてリグルは空中で静止した。
「どこに集まろう」
それなりの数の蟲を集めるのだから結構広くないと色々と困る。
それに出来ればゆっくりの居ない場所がいい。
あと出来れば食べれそうなものもそれなりに要る。
うんうんと唸りながら頭を抱えてふよふよと飛びながら悩み続けるが中々いい場所が思いつかない。
リグルはいきなり小さな問題に躓いてこれから先の前途多難さを思うと溜息でもつきたい気分だった。
蛾やらトンボやら蝶やら適当に近くの空域にいた蟲達を呼び寄せて尋ねてみたが
誰もそんな都合のいい場所は思いつかなかった。
「いきなり蹴躓いちゃったなぁ……」
蟲達と一緒に肩を落としてそのまま適当に飛んで行った。
飛び回ってるうちにいい場所が見つかるかもしれない。

と、適当に飛び回ってるうちに地表に妙なものを見つける。

「へっへっへ、人が昼寝してる間に俺のお菓子を奪った罪は重い
判決!小便ぶっかけてやるぜ!」
「やべでよおおおおおおおおおおおお!!」
一匹のゆっくりれいむが寺小屋にでも通ってそうな年頃の少年に頭を踏みつけられていた。
少年は股間からまだまだかわいいナニを取り出すと今にも発射してやろうと狙いを定める。

「……」
リグルは思い切り顔をしかめながらそちらの方へと降下していった。
一応、少年を止めるためだ。
別に放っておいてもいい、放っておいてもいいが
これから種族をあげて打倒しようとする相手がアレでは、その、なんというか色々といたたまれない。
いかん、なんだか泣けてきたとリグルは顔を腕で拭った。
「あー、ちょっとあんたしょうもないことはやめなさい
この辺は妖怪とか出て危ないわよ、私とか」
少年の後ろにそっと立ってとんとんと肩を叩いた。
「………?ぁ……っきゃああああああああああああああ!!」
振り返った少年は絹を裂くような悲鳴とともに顔を手で覆いながら走っていった。
年頃の男の子が立小便をしている最中に後ろから女の子に話しかければこうもなるだろう。
いや、意外とそうでもないかもしれないが。
その後姿を半眼で見つめながらリグルは不満そうにつぶやく。
「人として、恥ずかしがる前にまず妖怪に怯えなさいっての
っていうか隠すなら顔じゃなくて下隠せ」
思い切り陰鬱に溜息を吐いて、本当に泣けてきそうだと思って天を仰ぐ。
そして空を飛んでいた蟲達が心配そうに見ているのに気付いて慌てて俯いた。

「お、おねえさんありがとう!ゆっくりしていってね!」
まだ頭に足跡の残っているゆっくりれいむは上目遣いにリグルに話しかけた。
「あーもうお礼とかどうでもいいからもうちょっとしっかりしてよ
ほんとお願いだから」
リグルは死んだ魚のような目でそれを鬱陶しがった。
「ゆ!おねえさんにおれいがしたいよ!なんでもいってね!」
「うげぇ」
元気にそう言い放つれいむにうんざりしながらもリグルは律儀に頼みごとを考え始めた。
もっともとっとと願いを言って適当に厄介払いしたかっただけだが。
「じゃああんたらゆっくりが居なくて人気もなくて広くて蟲とかが食べられる物とか一杯ある場所教えて」
「わかったよ!ゆっくりついてきてね!!」
リグルが出した条件を聞くとれいむはすぐにどこかへと歩き始めた。
「あんの!?」
リグルは唖然としながられいむを目で追った。


「ここだよ!」
「へぇ、思っていたよりいいとこじゃない」
そこは魔法の森の中の特に険しい場所を抜けた先にあった。
開けた平原に綺麗な川が流れ、太陽の光が気持ちよく降り注ぐ。
広さも十二分にある。
「いいじゃないいいじゃない、こんないい場所があったなんて全然しらなかった……
あれ、あんた達なんでこんないいところ知っててほっといてるの?」
上機嫌ではしゃぎながらその辺りを見回していたリグルは、ふと気になってれいむに尋ねる。
「ここはゆっくりできるけど、ここにくるのはとってもたいへんだし
それにきのみもおはなもむしさんもいないからすめないの」
なるほど、とリグルは頷く。
確かにいい所なんだが別に花が咲いてるわけでも無くまっすぐ上に伸びている雑草がたくさん生えているだけで
川にもゆっくりが採れそうな魚は別に居ない。
食べれそうな木の実が成る木も辺りには無かった。
リグルが探しても見つからなかったことからわかるように蟲達も殆ど見当たらない。

「変なところねー、誰かが魔法の実験でもしてその影響でこんな妙なことになったのかしら
でもまあここならみんなが集まっても大丈夫ね!」
何か調べれば科学的、もしくは幻想的に説明できるのかもしれない。
例えば草になんらかの毒性があって蟲も動物も食べれないので住むメリットが無いとか
たまに恐ろしい捕食種が訪れるのでみんな恐れをなして逃げ出したとか
魔法実験の後遺症とかそういう結界が貼ってあるとか。
リグルが考えたのはそんなところだった。

リグルは意気揚々とその平原に立ち入ろうとして、そして跳ね返されて地面に転がった。
「んな、何よコレ!?」
「ゆ?おねえさんなにしてるの?はやくこっちにきてね!」
「……悪いけどちょっと待ってて」
不機嫌そうな顔でリグルはそう言うと、リグルを跳ね返した透明な壁を伝いながらその平原をぐるりと回るかのように歩き始めた。

れいむが簡単に中に入れて、リグルが入れなかった原因は大体リグルの思った通りに魔法の実験によるものだった。
大昔にとある魔女がここに住処を作ろうと思いまず真っ先に害虫・害獣除けの結界を張ったのだ。
結局その魔女は別の場所にもっといい住処を見つけてこの場所が使われることは無かったが、結界は放置されて残っていたのだ。
しかしそこまで詳しい事情はリグルが知る由も無く
ただただこんなところに虫除けの結界を張られたことが無性に腹立たしいばかりであった。

適当に歩いたところで、結界の要石と思しき人の頭程度の古い石を見つけた。
リグルはむっとした表情のまま、さっき転がされた鬱憤を晴らすかのようにその石を思い切り蹴り砕いた。
それでもう古くなってしまっていた結界は粉々に砕け散った。

ふう、と一息ついてからリグルはれいむの所へとむかった。

蟲達の居ないその場所は、生態バランスは奇妙なまでに傾き、精々雑草が生えているばかりでろくに他の生き物はいなかった。

誰が見ても素晴らしく、そして誰から見ても特に住処にするほどのメリットは無い。
リグルはそんなこの場所に満足げに腕を組んで頷いた。
「ゆ?おねえさんのおともだちをよぶの?」
「友達ってか同胞ね、そこの子みたいに」
れいむの問いに上機嫌になっていたリグルはほいほいと答えながらついてきていた蝶を指差した。

「ゆ?むしさんいっぱいよぶの?おねえさんむしずき?」
「まあね、多分私ほど蟲が好きな妖怪は居ないわよ」
「ゆー、それじゃおねえさんむしさんをすごくいっぱいよべるの?」
「あーもーそうよ私が呼べば幻想郷中の蟲達が集まるわよ」
「ゆうううすごいすごい!おねえさんすごい!
それじゃおねえさんはむしさんがたりなくてこまることはないね!
ゆー、いいなーれいむのむれはむしさんがへってとってもこまってるのに」
「いや今その蟲さんが減ってめちゃくちゃ困ってるんだけどね」
リグルはそう言って苛立ちながらぼりぼりと頭をかいた。
「ああまあいいか、そんじゃ私はこれから忙しいから
とりあえずあんたを巣まで送っていったらもう行くわね」
いい加減鬱陶しく感じ始めたリグルはとっとと話を切り上げてれいむを持ち上げて
れいむに道を聞きながらスタスタと歩いていった。

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最終更新:2009年03月17日 01:31
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