ゆっくりいじめ小ネタ440 見えない

近所の裏山に古ぼけた神社がある。
こんもりとした鎮守の森に入り、鳥居を超え参道を行くと
古ぼけた本殿が見える。
目の前にはこれまた年季の入った賽銭箱が置かれている。
ここは規模がとても小さい神社な為に、拝殿と本殿が一体化している。
本来見かけるべき神主の姿も稀にしか見ない。
地元の人間さえもほとんど立ち入らない神社だ。なのでここはとにかく人がいない。


「んー。ここでいいかな。」
森の中から一本の木に目をつけると、バックからスコップを出し、慎重に木の根元の土を掘り始める。
樹液の出ている木の根元の腐葉土に意外にもよくカブトムシやクワガタが居る。
なので目を付けた木には一度は試しているのだが、今回は見つからなかった。
なので本来の採取法に戻る。
と言っても実に簡単な物で、ピンセットで木の穴からクワガタを取り出すだけだ
このとき、樹皮を剥がしたり不必要に木を傷つけないようにしなければならない。
木の穴はクワガタやカブトムシが好んで住処とする。残しておけばまた他のクワガタが住み着くからだ。


何本かの木を回った結果、結構な数のヒラタクワガタが取れた。
オオクワガタほどではないが、初心者でも飼いやすく中々人気のクワガタである。
オスもメス、それぞれ半々程度取れたので、繁殖して幼虫を売るのも有りだろう。
大きさも50mm程度とそれなりだ。
だいたい4000~5000ぐらいの値がつくだろう。


「いやーなかなか。やっぱここは穴場だからなー。」
この森は昔からクワガタの穴場である。なにせ近所の人間でさえ滅多に寄らない場所だ。
取り放題とはまさにこのことだろう。
なので俺は高校時代からここでクワガタを取ってネットで売ったり業者に売ったりしている。
といっても暇な時にやっている程度なので、収入もそれなりし得ていない。
要は小遣い稼ぎだ。
だが今回はちょっと違う。初めての上京で色々と散財してしまったので金欠気味なのだ。
バイトもしてたが流石にちょっとまずい。なので実家でのこのバイトで金を稼ぐ必要が出てきたのだ。


さて、目ぼしいところは漁ったので、今度は夜に向けて下準備をすることにした。
先ほど周った木をもう一度周る。その時、木にあるトラップをしかけておく。
これは誰もが知っているであろう。
ストッキングの中にバナナを入れ、潰した後に焼酎をかける。
ビニール袋に入れ発酵させたら後は木に括りつけるだけ。
夜に行けば虫たちが群がっているという古典的なアレだ。



さて、トラップも仕掛け終えた。
これで後は夜にもう一度来るだけだ。出来ればオオクワガタでも集まらないものかと期待してしまう。
特にオスだ。大きいのは1万以上で売れる。
と、同時に昔の様に純粋な気持ちで虫取りができない自分が少し哀しくなってきている。
が、哀しんでもいられない。実家に居る期間は短いのだ。
それにこの後は実家の手伝いをしなければならない。帰ってきたら親孝行ぐらいはしておくものだ。


森を抜け、本殿の前に出た。
さてこれから参道をと思ったその時、ふと目に何かが移った。
本殿の方を見てみると、そこには座布団の上にちんまりと座っている謎の物体が居るではないか。
赤を基調としたリボンに黒髪で、口にはお祓い棒を加えてうとうととしている
謎の物体。


確か聞いたことがある。「ゆっくり霊夢」だったかそんな名前の奴だ。
なんだっけか。精霊とか妖精とかそんな奴だった気がする。
滅多に見れないらしいが、あいにく俺はこんな物に興味はない。
無駄に霊感があるせいか、昔からよくこんな物を見てきたせいだろう。
特に何かする訳でもなく、このまま帰ろうかと参道の方へ振り向こうとした。
が、何者かに呼び止められた。



「ゆっくりしていってね!!!」


あの妖精である。もう妖精でいいや。
いやいや後ろを向くと、何時の間にやら俺の足元まで近寄っていた。


「ゆっくりしていってね!!!」
眉毛をキリッとさせてそんなことを俺に言ってきた。この忙しい時に
何故ゆっくりなどしなければならないのか。


「ゆっくりしていってね!!!ゆっくりしていってね!!!」


弾力性のある体をぷるんぷるん動かして、俺の足元で跳ねながらそう言ってくる霊夢。
いい加減うざったくなってきた。
だが、殴るのもそれはそれで気が引ける。一応人の顔をしているのだからだろうか。
はてさてどうしようかと考えていると、参道の脇に何かが捨てられているではないか。
ダンボールの山だ。誰かが捨てたのだろうか。わざわざこんなところに捨てた理由はわからないが
実に嘆かわしい話だ。山は大切にするべきだろうに。
ん?待てよ


「わかったよ。ちょっとそこで待ってろ。すぐ戻るから。」
「ゆ!ゆっくりしていってね!!!」


よほど嬉しいのか、にこっとした顔でこちらを見る霊夢。
そしてダンボールの山に近づくと、片っぱしからダンボールの大きさを調べる。
と、ちょうどよさそうな大きさのダンボールがあった。
それを持ち上げ、霊夢のところへ持って行ってやる。


霊夢はこちらを見るとまたピョンピョン跳ね始めた。
何がそんなに嬉しいのかよくわからない。


「ゆっくりしていってね!!!」
「わかってるわかってる。ゆっくりするからちょっくら目を瞑っててくれ。」
「わかったよ!」


こちらの言うことなど何一つ疑いもせずに目を瞑る霊夢。
その霊夢へそっとダンボールを被せた。
うむ。ぴったりだ。パーフェクトだ。



「おお、もう開けていいぞ。」
少し距離を取って霊夢にそう言った。


「ゆゆ?ゆゆー!まえがみえないー!」
そりゃ頭からすっぽりダンボールを被ってるんだ。


「やめてね! ゆっくりできないよ! ゆっくりどけてね!」


オロオロとしているのかダンボールが微妙に揺れている。
ちょっと笑えるので黙って見ていた。


「くらくてなにもみえないー!おにーさんどこにいるの!」
「やめてね!ゆっくりしてないよ!」
「こわいよ!まっくらはゆっくりできないよ!!!」
「もうおこったよ!!!ゆっくりどかしてね!」


ごそごそとダンボールを揺らしながら聞こえる声。
跳ねてみればいいのになぜしないのかわからないが
そんなことはどうでもよくなってきた。見てるだけで面白いからか。


そんな思いに囚われていたからか、やっと自分が何をしようとしてたのか思い出した。
少なくともこんなところでゆっくりしてる暇はない。
なのでこのまま帰ることにした。


「ていってもこのままはつまん……石だな。」


手短にあった平べったい大きめの石をいくつかダンボールの上に置いた。
まあどうせ夜にもう一度来るんだ。その時ここに居たらどかしてやろう。
そんな気持ちで俺は今度こそ参道を歩き始めた。



「だしてね!だしてね!くらくてゆっくりできないよ!
……もうお゛う゛ぢがえ゛る゛う゛う゛う゛!!!」



結局石を外して帰ることにした。





参道を抜けて森の入口へ。
ここに自転車を止めてある……はずだった。


「なんでやねん。」


目の前には原型がわからないほど大破した自転車が。そして道端に止めてある大型トラックと
40代ぐらいのガタイのいいおっさんが一人煙草を吸っていた。


「いやー!ほんと申し訳ねえ!ちょっとハンドルが滑って引いちまったんだ!
いやでもよかった。兄ちゃんがそばに居なくて!」


知らんがな。ていうか俺歩きで帰るのかよ。4km先なんだけど家。
どうすっかなこれ。もう乗せてもらうしかねーよな。


「ゆっくりした結果がこれだよ……これもあの妖精のせいなのかねえ。」
「ん?どうした?」
「いえなんでも。とりあえず助手席に乗せて家まで送ってください。」
「おーまかせとけって!もう二度と事故らないからよ!」
威勢よく笑うとそのままトラックに乗り込むおっさん。
はぁ。ついてねえ。








れいむはとにかく動いてみた。
もしかしたら見えるようになるかもと、そう思ってただ一心不乱に
地面をすーりすーりと動き続けた。
跳ねて移動しようかと思ったが、何かが頭にぶつかっていたいのでそれはしないことにした。
しかし動けど動けど周りはまっくら。何も見えない。


バサッ!



「ゆ゛ゆ゛!」


普段なら気にすることもしない鳥の羽音にさえ恐怖を感じていた。





ガソゴソガソゴソ
カッコウ。カッコウ
ピョコンピョコンピョコン
ブーンブーンブーンブーン
チロチロチロチロ
シュ!シュ!



まるで今初めて聞いたかのような音。
否。そのようなものだ。なにせそれがなんなのか全くわからないのだ。



「ゆぐぃ!ゆゆー!」



四方から聞こえる音。音。音。
何も見えない暗闇で聞こえる音。



「ゆ゛!やめでね!ゆっぐりでぎないよ!
おにーさんにいいつけるよ!やめてね!おねがいだよ!ゆっくりしてよ!」



ピョコンピョコンピョコン
何かが近づいてくる。
しかしれいむには何も見えない。音しかわからない。




「ゆゆ゛!ゆ゛!ゆっぐりじでよぉおおおおおおお!!!」
ただ泣き叫ぶしかなかった。







【後書き】
最後の最後までこんなSSでした。
実はリアル世界での諸事情によりここを離れることになりました。
こんな拙い文章ですが、みなさんから暖かい言葉をもらったり罵倒されたりと
嬉しかったです。
ではありがとうございました。
最後に




俺の名を言ってみろ!





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最終更新:2009年04月03日 04:32
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