ゆっくりいじめ系2596 白まりさと黒まりさ(後編)

前編より






 「どうだ?あそこ程じゃないが、そんなに悪くないだろ?」


 「…………!!」



お兄さんが白まりさだけを連れて2時間ちょっとも歩いた先には
流石にあのゆっくりプレイスには劣りますが、
群れの皆が住むのに良さそうな、立派なゆっくりプレイスがありました。

前の野原のよりは小さめですが、白まりさが住めそうな洞窟もあり、
お家に出来そうな隙間も沢山あります。
何より、白まりさの中の何かが"ここはゆっくりプレイスだ"と教えているのです。



 「すごいよっ…!ここなら皆でまたゆっくり出来るよ…!」



お兄さんは白まりさの相談を受けてから
今まで何もして来なかったワケでは無かったのでしょう。

ゆっくりの好みそうな場所は大体分かっているので、暇を見つけては山に入って
いずれ来るであろうこの事態に備えたゆっくりプレイスを探していたのです。


 「…ありがとう、」

 「…いいんだよ」





 「あ”り”がどう”…おにいざん…!!」




お兄さんは、先程の群れのゆっくり達以上に
涙でぐちゃぐちゃになった白まりさの頬をポン、と叩いて
またあのゆっくりプレイスに、二人で笑いながら帰っていきました。





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次の日の朝、白まりさの群れのゆっくり達はお兄さんのお家にまで
お別れの挨拶をしに来ました。
その中には一番仲の良かったありすや、子れいむもいました。

ここから新たなゆっくりプレイスまで歩いて3時間以上掛かります。
ですのでこれからはもう、今までの様に簡単に会う事は出来ません。


 「最後までお世話になりっぱなしで御免ね」

 「いいんだよ別に、気にするな」


 「…ありがとうお兄さん、何度も言ってるね、ごめんね?
  これ、まりさ達からの今までのお礼のつもりだよ
  ゆっくり受け取ってね!」


そう言ってまりさが銜える帽子の中に入っていたものは、山で採れる美味しい草。
ゆっくり達にとってその草は、比較的柔らかく甘い御馳走です。
人間にとっては雑草でしかありませんが、群れのゆっくり達の大好物だったもの。
しかし残念ながらお兄さんが食べられる物ではありません。


 「…いや、いい」

 「ゆ?…どうして?
  お兄さんはこれじゃあゆっくり出来ないの?」


 「そうじゃない、その草はお前等があそこに辿り着くまでの食料に使え
  これから大変になるんだから、食料は大切にしな」


それを聞いた白まりさとその群れのゆっくりは、また目を涙で潤わせると
皆でお兄さんに向かってお礼の代わりの"飛び跳ね"を始めました。
いよいよお別れの時です。



 「それじゃあ、お兄さん、今まで色んな事…
  皆とゆっくりしてくれたり、ちびちゃん達の面倒を見てくれたり、
  まりさの傷を治してくれたり、ゆっくりプレイスを教えてくれたりして…
  本当に、ありがとう」


 「「「ありがとう!!」」」




あのありすはただ、じっとお兄さんを見つけていました。
都会派を気取るだけあって涙は見せたくないのでしょうが、
その目からは今にも零れ落ちそうなのが遠目にも分かります。

皆の跳ねる音にかき消されて聞こえませんが、
小れいむはただただ泣くばかりでした。

他にも川で遊んだまりさ、大家族の末っ子のちぇん、
家族思いのお母さんれいむ、絵本で喜ぶぱちゅりー。



 「皆元気でな、またいつか会いに行くからな
  こっちは危ないからもう来るんじゃないぞ」



お兄さんは群れのゆっくりひとりひとりの頭を撫でると
白まりさに向かって、もう行くように言いました。



悲しい事ですが、人間や動物の世界も同じ様にゆっくりの世界もまた、弱肉強食なのです。
弱いものは駆逐され、強いものが栄える。
勧善懲悪な話ばかりとは限らず、正義が勝つとも限りません。
力だけがものを言う世界がここにはあるのです。

今回のケースはまだ優しい方でしょう。
ゆっくり同士でも、殺し合いの戦争が起こる事もあるのですから。
敗者は去るか、若しくは殺されるか…。

白まりさの群れがそうされた様に、
いつかあの黒まりさもいつか、更に強い者に食い物にされる時がきっと来るのでしょう。


 「…………」


群れをその体だけでは守りきれなかった不甲斐なさからでしょうか、
その少し悔しそうな白まりさの大きな背中を、

そして生まれ育った故郷を捨てる群れのゆっくり達の
可哀想な後ろ姿が小さくなっていくのを、


お兄さんは扉の前で、ただ見つめていました。







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 「ギャハハハハハハハ!!!
  ほんっとバッカじゃねぇーのかアイツ等!!アハハハハハハハ!!!
  要らねぇーッつーの!!テメェ等の食う雑草なんてよォ!!」






白まりさの背中を見送った男は、
家に入るとまるで爆発したかの様に笑い出しました。

この場にあの群れのゆっくりがいたら目を疑った事でしょう。
その笑い方は黒まりさがそうするよりも、遥かにゆっくり出来ないモノだったからです。


 「…クク…あーハラいてぇ、…ククク、」


今までとは人の違った様な歪んだ笑みを浮かべる男は
隣の部屋にある押し入れの方まで大股で歩いていくと、ガラッ、と必要以上に強い力で
押し入れを開けました。


 「馬鹿とゆっくりは揺すれば金が出る、
  そう言ったヤツはホント大したモンだ…クク…
  オイ、オメェ等もそう思うだろ?」


 「……………」


押し入れの中にはあの黒まりさの部下だったゆっくりありすとゆっくりまりさ。
しかし今の二匹は飾り以外、殆ど原型を留めない程に痩せていました。
ガリガリの頬には正体不明の笑みを浮かべ、
目は何かを求める様にギラギラと充血しています。


 「…お!お兄ざん!お兄ざん!ゆっぐり、ゆっぐり『お薬』を打ってね!」

 「はやぐあのゆっぐりぶれいずにいぎだいわ”ぁ…!!」


男は二匹のゆっくりの意味不明な言葉を聞くと
微笑みを浮かべながら胸ポケットから四角いケースを出しました。
そして中から小瓶と注射器を出し、瓶の中身を吸い上げてありすに針を差し込みました。


 「あ”は”ぁ”ぁ……!!」


何の抵抗もせずにそれを受け入れたありすはぐるんと眼球を反転させると
まるで極上のゆっくりを楽しむかの様に、口の端から涎を垂らし始めました。


 「ここにこんな極上のゆっくりぷれぇすがあるってのによ…
  あの白まりさも黒まりさも、節穴かよってんだよ、なぁまりさ」

 「はやぐぅ…はやぐ頂戴ね”ぇ!!」


 「分かってんよ…ちょっとそこでゆっくりしてろ」

 「ゆっぐりなんでどうでもいいよ”!!
  おぐずりざえあればまりざはしあ”わ”ぜなんだよ!!」



『ゆっくりなんてどうでもいい』
ゆっくりにとって聞いた事も無い、あり得ない言葉をあっさりと言うまりさ。



 「フヘへ…ほれ、お待たせまりさ
  極上のゆっくりぷれぇすでゆっくりしていってねー…」

 「え”へ”ぇ…」


ゆっくりありすは今では病的なまでに活発な動きは見せず、
虚ろな目で押し入れの隅を見つめていました。
男はゆっくりまりさもそれと同じ状態にしてやると
直ぐに注射器をケースにしまい込んで、押し入れを閉めました。


 「おっと、お客さんだ
  また押し入れの中でゆっくりしてろ」

 「ゆっふひひはひしたよー…」


そのやる気のカケラも無い返事を聞いているのか聞いていないのか。
男はコンコン、と丁寧にノックされた家の扉を
今度はゆっくりと丁寧に開けて客人を招き入れました。



 「やぁ夜分遅くにすいません○○さん
  部下の者から連絡を受けましてね、例の件…」


お客様は初老の男性。
綺麗な衣服や蓄えた髭から裕福な人間だと分かります。



 「こんばんわ○○さん、先程あの野原から消えましたよ、
  一匹残らずね…時間は少し掛かってしまいましたが
  特にご希望が無かった様でしたので、追い出すと言う形に致しました」

 「本当ですか!良かった良かった…!
  私は彼等のあの悲鳴が苦手でしてねぇ…殺さずに済んで良かった、」

 「…よく分かりますよ、
  まぁひとまず、これにて取引終了ですね」

 「ええ!そりゃあ勿論!
  ○○さんが格安で請け負ってくれて助かりましたよ!
  ありがとうございます!」


そう言って握手を求める初老の男性の手を、
男は片手で制して次の様に言いました。
先程まで笑顔だったその顔からは笑みが消え、表情は真剣そのものです。


 「それなんですがねぇ…どうやら明後日か、明々後日にでも
  他の群れがあそこの野原に来るみたいでしてねぇ…
  これが先の群れよりも多くて、主もデカいんですよ…
  今度はその群れを片付けなきゃならないみたいですね、○○さん」


 「…………!?
  そんな…!?約束が…!!」



 「ハハ、契約に沿って私らがやるのは『あの群れを野原から消す事』
  次にやってくるゆっくり達まで追い返すのにあの金額じゃあ、とてもとても…」





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 「遅いんだぜ…なぁにやってるんだぜぇ!?」


その頃、黒まりさは狭い野原の中で苛立たしそうに
銜えた枝を上下させていました。
手酷く白まりさを痛めつけてやった日から自主的に
白まりさの群れの監視役を申し出て来た兵隊ありすと兵隊まりさの帰りが遅いからです。

明日の昼までには戻るとの事でしたが
今にもあのゆっくりプレイスが手に入ろうとしているこの時期、
黒まりさのワクワクは頂点に達しており、
待ちきれない気持ちが抑えきれないのも無理もない事でしょう。


 「ゆっくりしないで帰ってくるんだぜ…はやく、はやく!」


兵隊ありす達が帰ってくるのは約束通り次の日の昼。
その日、黒まりさは今までで最高の喜びを味わう事になりました。



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 「毎度ありがとうございます!
  まぁ、そうお気になさらず、
  これでもまだまともな組織に頼むよりもお安いモノですよ
  4日後には全て終わってますので楽しみにお待ち下さい!
  そしたらあそこは邪魔者無し、完全に貴方達のモノに戻ります」

 「…………」



 「まぁ…『あんなもの』をお建てになるのですから
  まともな組織にはお任せ出来ないのは分かりますがね…クク…」

 「…………!!」



 「今回のは即効性のモノじゃないんで4日程も掛かってしまいますが、その分確実ですよ
  デカイのも1mmも動けなくなります、他は全て死にますがね。
  このクスリじゃデカイのだけは飽くまで動かなくなるだけなんで
  そいつの処分と、ゆっくり達の死骸の処理で…まぁ、このくらいでしょうね」

 「………ぐ…」



 「よろしければ先程の群れの様に殺さずに追い出しましょうか?
  それですと先程のお代金と同じ額ですが、いかがなさ




 「勝手にせい!!この詐欺師!!業突く張りが!!!」



 「おおっと!」


そう怒鳴った初老の男性は、男に膨らんだ封筒を乱暴に投げつけると
顔を真っ赤にしたまま、ドカドカと家から出ていきました。


 「怖い怖い…それじゃあ簡単な方に致しますよ、
  そんじゃまた御用があったらいつでもどうぞ!


  まぁ…その内また呼ぶ事になると思うがね…」


そのせいで、そう呟いたお兄さんの言葉も
彼の耳には届かなかった様です。



 「オラ、いつまでも飛んでんじゃねぇぞ
  良く聞いて一回で理解出来る様になれよ?
  明日の朝まで憶えてたらもう一発打ってやるからな」


 「「ゆ っ ぐ り 理 解 す る よ ぉ ーー!!!」」


 「静かにしろ
  遅れずに明日の朝、黒まりさに報告しに行け
  『白まりさは出ていった』分かったか?」



 「「白まりざは出ていった!!白まりさは出ていっだ!!」」






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 「む~しゃ♪む~しゃ♪しあわせ~♪」

 「ゆっ!れいむれいむ!ここなんて良いお家になりそうなんだぜ!!」



白まりさの群れは新しいゆっくりプレイスに無事辿り着いてから
既に数日経っており、皆新しい環境に馴染みつつありました。


 「お兄さん、いつ来るのかしらね…」

 「寂しいんだねー?わかるよー…」


皆、かつて黒まりさに怯えた日々の事なんて忘れた様に
お引っ越し気分でお家を作ったり、周囲を友達と探索したり、追いかけっこをしたり、
かつての様にお花飾りを家族のプレゼントの為に作ったり、とても楽しそうにしています。



その光景を見て白まりさは幸せでした。
奇跡的に誰ひとり欠ける事無く、また皆でゆっくり出来た事に。
そしてその手助けをしてくれたお兄さんに心から感謝していました。



 「(お兄さん…皆ゆっくりしてるよ…)」




白まりさがその命を終えるのはこれよりずっとずっと後の事ですが、
彼女は最後まで知りませんでした。

黒まりさを呼ばせたのはお兄さんだった事に
初めからお兄さんが仕事で群れに近づいた事に
お兄さんが黒まりさの手下をクスリで操っていた事に
村人に相談など一言も持ちかけなかった事、
それどころか白まりさの群れをも滅ぼす相談を一人の人間から受けていた事、
このゆっくりプレイスはもうずっと前から用意されていたものだと言う事に。


それでも白まりさは最後までお兄さんに感謝し続け、
最後まで幸せに暮らしたのでした。



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 「む~しゃ♪む~しゃ♪しあわせ~♪」


 「む~しゃ!む~しゃ!
  …ゆゆ?まりさぁ!ここのご飯すっごく美味しいよ!
  人間さんのところにあるご飯よりもずっと!!ごくらくー!!」


その頃、黒まりさ達の群れのゆっくり達は野原の草を啄んでいました。
それは昨日お兄さんに幸せの水を撒かれた草。
その味はまるで麻薬のようにゆっくりを魅了して離しません。


 「ゆ?本当なんだぜぇ!むーしゃ!むーしゃ!…まったく!
  こんなゆっくりプレイスをむーしゃむしゃ!独り占めしてたあのまりさどもは
  とんだゲス共なんだぜ…!むーしゃ!むーしゃ!」


黒まりさもまた、幸せでした。
ちょっと痛めつけてやっただけで簡単に白まりさの群れを追い出せた事、
面倒な戦争など起こさず、群れの戦力を一匹も失わずに
城になるゆっくりプレイスを得られた事に。



黒まりさがその命を終えるのはもう間も無くの事ですが、
彼女は最後まで知りませんでした。
兵隊ありすにゆっくりプレイスの話を聞いた時に、既にありすはクスリ漬けだった事を、
子分のまりさがどうして人間の家と、白まりさと人間の密会について知っていたかを、
何故あの日、人間が反対側の窓から逃げず素直に全てを話したのかを、
自分ですら行動不能にするゆっくり用の毒物が人間界の極一部で生まれている事を。



 『(ゆへへ…!この"お城"から…れみりゃでも人間でも何でも…
   あの弱虫人間の様にどいつもこいつまりさ様の奴隷にしてやるんだぜ…)』



そして、その城はあと数日で人間の手に渡る事を。
    その夢はあと数日で砕かれる事を。




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 「――そんな感じの馬鹿共が居るから、俺らみたいのは食いっぱぐれねぇんだよ
  …まぁ、4日後まで俺の機嫌が良いままだったらいいなぁ?…クク…」



水撒きの仕事を終えて家に帰って来たお兄さんは
机の上に脚を投げて、貰ったお札をまた数え始めました。
その中で考えるのは最終的な黒まりさの処分の方法などでは無く、白まりさの群れの事。



 『ゆゆ!人間はゆっくり出来ないよ!皆逃げるよ!!』


初めは警戒心の強い、面倒な仕事だと思っていました。
男の足音を聞いただけで逃げる厄介な群れ。
あの男達がかつて力づくで追い出そうしたからだと、腹を立てたものです。


 「コレで村の連中にも恩が売れるな…ゆっくり様様よ…
  俺がタダで施しくれてやるワケねーだろが!フヘへへへ…」


 『お兄さんみたいな優しい人間さんは初めてだよ!ゆっくりしていってね!』



しかし一度打ち解けると
群れの事はどんな内緒話でも話してくれる、馬鹿な群れ。
手放しで信用してくれる馬鹿なゆっくり達。



 『お兄さん!皆で見つけた綺麗なお花さんだよ!お兄さんに上げるね!』


 「…クク…ハハハ……」




素直じゃないが誰よりも自分を頼ってくれたありす
自分を本当の親の様に思ってくれた子れいむ
いつも樹の側で待っててくれたちぇん
誰も恨む事の出来ない真っ直ぐな親まりさ。
花を持って来てくれる小ありす






 『…ありがとう、あ”り”がどう”…おにいざん…!!』




  「………………」





そして最後まで自分を信用してくれた白まりさも、
本当にお人好しばかりの、平和ボケした馬鹿な群れでした。




                   ー完ー

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最終更新:2009年05月06日 03:30
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