※最初で最後の
ゆっくり虐待に挑戦中です。
※どくそ長いです。
※うんうん、まむまむ描写あり。
※標的は全員ゲスです。
※虐待レベルはベリーハードを目指します。
※虐待パート小休止中。もはや虐待メインではない。
※以上をご了承頂ける方のみどうぞ。
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『永遠のゆっくり』13
「ゆっくりこっちだよ!どすはこっちだよ!!」
施設を抜け出すのは簡単だった。
博士として信頼、優待されている娘のおかげで、警備の目はたやすく抜けることができた。
いったん家に帰って身辺を整理し、計画に集中したい、という名目を奴らは信じ、
車さえ提供してくれた。
車で森の中を走る。
助手席には娘の春奈、その膝に私のれいむ。
後部座席では十三匹のゆっくりががなっていた。
「まりささまはまちくたびれたんだぜ!!しーしーするんだぜ!!」
「くそどれいはゆっくりしないでさっさとしてね!!ついたらしんでね!!ごみくず!!」
「とかいはなゆっくりぷれいす!!いなかものはとうぜんゆっくりさせないわよ!!くやしいかしら?ばーか!!」
その声は、人間の感性では聞くに堪えない。
生まれてから一切の躾を受けず、その上人間に迫害を受け続けた。
人間への侮蔑と憎悪が、このゆっくり達から拭い去られることは永久にないだろう。
心の中で、私はこのゆっくり達に詫び続けていた。
「ゆっくりしていってね!!ゆっくりしていってね!!」
私たちに罵声が飛ぶたびに、私のれいむがゆっくり達を必死になだめようとする。
しかし無益とわかると、やがて残念そうにあきらめ、道案内のみに集中するようになった。
あの呪われた施設から、すでに数十キロほども離れている。
向こうではすでに感づかれているだろう。
本来、提供されたのは車だけでなく、運転手もついていた。
送り迎えと言えば聞こえはいいが、ただの監視役だ。
私が変な気を起こさないように監視するためである。
施設から充分に離れたところで、私は後部座席から武器をつきつけた。
数万ボルトを流せる強力なスタンガンは、施設から持ち出したものだ。
ゆっくりを苦しめるための道具だった。
首筋にスタンガンをつきつけられた運転手の男は、
私に促されるまま車を降り、私たちが走り去っていくのを見送った。
街に近いところで下ろしたし、どうせ携帯電話かなにかですぐに連絡するだろう。
男を降ろしてからしばらく後に、
後部トランクに隠していたゆっくり達を引っ張り出した。
大きく成長したゆっくり達は、袋の中にぎゅうぎゅう詰めにせざるをえず、
どうしても騒ぐので、口をテープでふさぐしかなかった。
今、後部座席のゆっくり達が罵詈雑言を叫んでいるのはこのためも大きい。
何日もの準備期間で、春奈がじっくりと根回しをして連中の注意をそらしていたので、
ゆっくり達が監禁されていた部屋の警備は甘かった。
隙をついてゆっくり達を逃がし、車のトランクに詰めるのは造作もなかった。
今、車は人里離れた森の中を走っている。
助手席のれいむの道案内で、目的地ははっきりしていた。
これだけ遠ければ問題ないだろう。
「ゆっくりできるよ!!ゆっくりできるよ!!どすはもうすぐだよ!!」
ドス。
私が探しているのはそれだった。
突然変異で異常に大きくなったゆっくりは(ほとんどがまりさ種である)、
リーダーシップを発揮するようになって、多くのゆっくりを従え、群れのボスとなる。
ドスの統制する群れは行き届いた統制のもと安定した食糧確保が保障されており、
ゆっくりにとっては最上級のゆっくりプレイスとなる。
道案内はれいむがしてくれた。
ドスの発する「ゆっくりオーラ」は、ある程度離れたゆっくりにも影響を及ぼし、
ゆっくりできると感じたゆっくり達はドスのもとに自然と集まる。
なるべく人里離れた道を走っていたが、思ったよりは早く見つかった。
「ゆゆゆっ!!ゆっくり!!ゆっくり!!」
「くそどれい!!かわいいれいむをおろしてどすのところへつれていってね!!」
「はやくしなさいよ!!ぐず!!のろま!!」
後部座席のゆっくり達が騒ぎ始めた。
彼女たちもドスの存在を察知しているようだ。
私たちは車の中で夜明けを待つことにした。
ゆっくりの住むところには、時として捕食種のれみりゃ種やふらん種が住んでいることがあり、
それらは夜行性で、非捕食種のれいむ種やまりさ種を襲ってしまう。
ドスのところに連れていくにせよ、少なくとも夜のうちは動くわけにはいかない。
「なにとろとろしてるんだぜええ!!まりささまのありがたいめいれいがきけないのかぜえ!?」
「おろしてね!!おろしてね!!ごみくず!!あんこのう!!ゆっくりしね!!」
自分からは一切動こうともせず、後部座席で騒ぎつづけるゆっくり達には正直辟易させられた。
「この子たち、森で生きていけるかな」
春奈がつぶやいた。
人間のもとで、ずっと甘やかされ、その後虐げられつづけてきたこのゆっくり達。
どちらにせよ、自分では何もせず、なにもさせてもらえず、ただされるがままの生活だった。
今、この子たちに自分たちで生きていく力があるだろうか。
それは賭けではあった。
ドスの率いる群れの統率力、指導力に期待するほかない。
群れのルールに従ってさえいれば、ドスの群れは野生にとっては一番の良環境だ。
どちらにせよ、もう人間の元においておけないのは確かだ。
人間への憎悪を溜め込んだこのゆっくり達の世話を人間がしようとしても、互いにいら立つだけだろう。
このゆっくり達の侮蔑と憎悪が、同じゆっくりに向けられないことを祈るばかりだ。
ドスが強者、指導者として上に立ってくれれば大丈夫だとは思うが。
「信じましょう」
私はそう言うしかなかった。
何時間が経っただろうか。
うとうととしはじめていた時、突然強い光が視界に広がった。
車の前方に光るそれは、バイクのヘッドライトだった。
目が慣れるまでに時間がかかったが、
バイクに乗っているその男は知った顔だった。
「長浜圭一……」
長浜圭一はバイクから降りると、車のほうへ歩いてきた。
ぐずぐずしてはいられない。
私もすぐに車から降りると、スタンガンを構えた。
「近づかないで!」
スタンガンを突き付けられ、長浜圭一は両手を上げた。
どうやら丸腰のようだった。他に人がいる気配もない。
「一人で来たの?」
「そうだ」
「どうやってここがわかったの」
「車に発信機がついている。その車でどこへ行こうとすぐに足がつく」
周到な話だ。
心の中で舌打ちをしながら私は言った。
「ゆっくり達を取り返しにきたのね?」
「そうだ。そして須藤春奈博士もね」
「娘は渡さない。娘も、もうあなたたちに協力はしないわ」
長浜圭一が車の中の娘に目をやる。
娘はうなずいてみせた。
「逃げられると思うか?」
「逃げてみせるわよ」
「そのゆっくり達を逃がしたところで、別のゆっくりを使うまでだよ」
「すべてを公表するわ。世間にね。
一般市民たちが、あなたのしていることを聞いてなんと言うかしら?
人を殺したわけでもないゆっくりを使って世論は納得する?」
「さあね」
「あなたがしようとしていることは、人類の歴史上最悪の迫害よ。
あなたたちは平気らしいけど、普通の人間がその罪悪感に耐えられるものじゃないわ!」
「ゆっくりを苦しめるのが、そんなに嫌かい」
愚問だ。
「人の言葉を使う、人間以外では唯一の生き物よ。
価値観は多少違っても、共存の道があるはず、共に生きるべきよ!」
「あんたは、ゆっくりが友達だとでも言う気か?」
「そうよ。人間は、初めて対話できる別の生物と出会ったのよ。
その奇跡を、あなたたちの悪意と私欲で汚させはしないわ。世間に判断してもらいます」
「同じ言葉を使う、ただそれだけでそこまで感情移入できるとはね」
「それだけじゃない。私はずっとゆっくりと向き合ってきました。
子供のころからゆっくりは友達だった。
ゆっくりブリーダーとして、何千匹のゆっくりと対話したこともある。
あらゆる個性のゆっくりと、考えうるかぎりの接し方を経験して、仲良くする方法を学んできたわ。
あなたに何がわかるの?
あなたたちなんかよりもずっと、私はゆっくりをよく知ってるのよ!!」
両手を上げたまま、長浜圭一は肩をすくめた。
「それはご立派なことで」
「本当に何も持たないで来たの?」
「そうだよ」
「私を説得できると思っていたわけ?」
「どうかな。正直わからない。
もしかしたらあんたの話が聞きたかったのかもしれない」
「話すことなんかないわ。後ろを向きなさい」
長浜圭一に背中を向けさせ、その背中にスイッチを切ったスタンガンを押し付けた。
「少しでも妙な動きをしたらスイッチを入れるわよ」
「わかった」
「春奈、出てきて」
車から出てきた春奈に指示する。
「れいむも一緒に連れてきて。
それから、あのゆっくり達をまた袋に入れてちょうだい」
「入れるの?」
「あの子たちにこの男を見せたら刺激させてしまうわ」
「わかった」
「ゆゆっ!!だすんだぜ!!だすんだぜえええ!!」
「ぐぞどれいいい!!ごみぐずうううう!!だぜえええええーーーーっ」
「とかいはなありすになんてことするのよおおおお!!!しね!!しね!!いなかものおおおお!!」
大きな袋に再びつめられ、文句を言うゆっくり達。
「ごめんなさい。後で出してあげるわ」
袋の口を縛ると、長浜圭一に持たせた。
これだけ成長したゆっくりが十三匹というのは相当重い。
一人だけでは辛いようなので、結局は私と春奈が加わり、三人で運ぶことになった。
中で暴れているのでさらに大変だ。
長浜圭一に先を歩かせ、森の中に入りこむ。
夜中の行軍になったが、人間がついていれば捕食種のゆっくりを撃退するのはわけない。
「ママ、森に行くの?」
「そうよ。あの車に乗っているかぎり足がつくわ。
この子たちを森の中に離して、そのあとあの車でなるべく遠くに逃げましょう」
「この人が群れの場所をバラしちゃわない?」
「そうね」
私は手荷物の中からハンカチを出し、長浜圭一に目隠しをした。
「あなたはこのままで歩きなさい」
長浜圭一は抵抗しなかった。
結局、これが間違いのもとだった。
「こっちだよ!!こっちだよ!!ゆっくりできるよ!!」
朝が近づいてきたころ、れいむがさらに声をはりあげた。
いよいよドスが近いようだ。
「あなたたちでも歩いていける?」
「ゆゆっ!れいむでもすぐにつくよ!!ゆっへん!!」
「そう。なら、ここで放しましょう」
袋から出されたゆっくり達は、堰を切ったように叫んだ。
「よくもまりささまをとじこめたなあぁ!!しね!!いますぐあんこはいてしねぇ!!」
「ぐずぐずしないでとっととどすのところにつれていってね!!それからしんでね!!」
「ゆっくりぷれいすがすぐそこよ!!いなかもののどれいはさっさとえすこーとしなさいよ!!ぐず!!」
口々に罵り、私に体当たりをしてくる。
幸い、薄暗い中で長浜圭一には気づいていないようだ。
目隠しをしているのも識別を妨げているのだろう。
「自分たちで歩いていくのよ」
私が言うと、ゆっくり達は文句を言った。
「はあぁぁああ!?ありすが!?ありすたちにあるかせるのおぉぉ!?
ばかなの!?ほんもののばかなの!?ぶっさいくなかおよね!!」
「まりささまがめいれいしてあげてるんだぜぇ!!ありがたいとおもわないのかだぜぇ!?」
「ばかはかんがえなくていいよ!!れいむのいうことをきくんだよぉ!!」
やはり、ずっと閉じ込められたせいで積極的に動かなくなっているようだ。
それでもこれだけ元気なら、すぐ側のドスのところには行けるだろう。
私は背を向け、歩き出した。
「まつんだぜぇ!!どれいのしごとをほうきするのかだぜぇ!?」
「かわいいかわいいれいむがめいれいしてるんだよぉ!?たちばかんがえてねぇ!!」
ドスのところに、私が行くわけにはいかない。
人間の姿を見せると警戒させてしまう。
善良なドスほど、ゆっくりオーラは強くなる。
あれだけ遠くかられいむが察知できたなら、よほどよくできたドスだろう。
このゆっくり達はすでに野生の食べ物に慣らしてあるし、問題なくやっていけると信じるしかない。
「帰りましょう」
長浜圭一にそう声をかけ、二人で空き袋を持った。
そうして帰ろうと振り向いたところで、突然の衝撃が襲った。
全身を襲う痛みで、しばらくは動けなかった。
呻きながら、苦労して周囲を見渡す。
辺りは真っ暗だったが、頭上を見ると、2メートル以上はあろうか、
高みに穴が開いていて、そこから白みはじめている空が見えた。
状況を理解するのに少しかかった。
どうやら地面に穴が開いていたらしい。
目隠しをしたままの長浜圭一が足を踏み外し、
一緒に袋を掴んでいた私も、それに引っ張られて穴の中にずり落ちたのだ。
それなりに広い穴で、深さは3メートル近く、広さも3メートルはありそうだった。
自然にできたものにしては、入口の穴が内部に対して狭い。
どうやら誰かが掘った穴のようだ。
恐らく、ゆっくりが掘ったものだろう。
穴の内壁は壺状になっており、上方にかけてすぼまっている。
これではとてもよじ登れそうにはない。
全身を打ちつけ、声を出すのにも苦労したが、
なんとか長浜圭一を見つけ、声をかけた。
「大丈夫?」
長浜圭一はうずくまって呻いている。
その足に触れると、びくりと震えて悲鳴を上げた。
「触るな!」
見ると、長浜圭一の左足が微妙におかしな方向に曲がっていた。
着地の衝撃で折れたらしい。
「大変……ごめんなさい」
「………目隠しを取ってもいいんだろ」
「あ、ええ」
自分で目隠しのハンカチをはぎ取り、長浜圭一は穴を見渡してから穴の内壁にもたれて溜息をついた。
「あんたが俺をここに落としたのか?」
「いいえ、違うわ。足を踏み外して落ちてきたみたい」
「お母さん!」
「おねえさん!!どこ!?ゆっくりしていってね!!」
上から声がする。
見上げると、春奈がれいむを抱えてこちらを見下ろしていた。
「お母さん、大丈夫?」
「私はなんとか大丈夫よ。でも、この人の足が折れたようなの」
「大変じゃない。どうしよう……電話で助けを呼ぶよ」
「駄目よ、春奈」
「なんで!?」
「誰に助けを呼ぶの?住所もわからないのに。
捜索を待ってたら、あの連中に捕まっちゃうわよ」
「でも、あたしじゃ助け上げられないよ」
「どすならたすけてくれるよ!!」
れいむが叫んだ。
「どすはゆっくりしてるよ!!れいむがたのめば、きっとおねえさんをたすけてくれるよ!!」
果たしてそうだろうか。
ドスの群れに関わりたくはなかったが、今となっては命と、ゆっくり達の未来がかかっていた。
一刻を争う状況でさえなければ、人間の助けを待つのだが。
それでも、どのみちここにいればゆっくりに見つかるかもしれない。
この穴はゆっくりが掘った公算が高かった。
「くそどれいはなにしてるんだぜ!?さっさとあがってまりささまをはこぶんだぜぇ!!」
「いいきみだね!!ばぁ~か!!ばぁぁ~~か!!べろべろばぁ~♪」
「とってもとかいはなあなね!!にげだしたいなかものにはおにあいよ!!」
あのゆっくり達が穴の淵から見下ろして叫んでいた。
あの連中に捕まれば、このゆっくり達は地獄に叩き落とされ、人間は拭えない罪を背負うことになる。
選択の余地はなかった。
「春奈。ドスを探してくれる?」
「お母さん」
「ゆっ!どすはすぐそこだよ!!あんないするよ!!」
「ドス達にお願いしてみて。なにか太いロープか蔦をを下ろしてもらえればいいわ。
ここから抜け出せれば、あとはその子達を預けて、車で町へ行ける」
「わかった。待っててね」
春奈はそう言うと、れいむを抱えたまま姿を消した。
他のゆっくり達も、しばらく私たちを罵っていたが、
やがてドスまりさのオーラに惹かれたのだろう、春奈に呼ばれて穴の淵から退いていった。
ドスは助けてくれるだろうか。
私も、ドスゆっくりに会ったことはない。
ドスにも善良なドス、悪いドスがいて、
田舎のほうだと、悪いドスが人里に下りてきてドススパークをたてに「きょうてい」を結ぶことを要求することもあるという。
人里から離れたこのあたりのドスが、人間に対してどういう認識を持っているか未知数だった。
「足は大丈夫?」
「……痛い。叫び出したいぐらいだ」
長浜圭一は辛そうだった。
「接ぎ木ができればいいんだけど。何もないし、暗くて」
「俺のことは気にするな。あんたとは敵同士なんだ」
「たとえ敵でも、怪我人を放っておくほど冷酷にはなれないわ。あなたと一緒にしないで」
「…………」
「痛む?」
長浜圭一は笑った。
「面白いな」
「何が面白いのよ?」
「俺があのゆっくり共にやろうとしていることを考えれば、この程度で痛がってちゃお笑いだよ」
「別に痛がっていいわよ。絶対にやらせないもの」
「いい人だな、あんたは」
「皮肉?」
「いや。本心から言ってる。あんたはいい人だ。好きにはなれないが」
意外に素直なことを言うかと思えば、やはりねじくれた男だ。
上から声が降ってきたのは、完全に朝になったころだった。
恐らくは朝になり、夜行性の捕食種が巣に帰るのを待っていたのだろう。
「ゆゆっ!!ほんとににんげんさんがいるよ!!」
「わかるよー、おちちゃったんだねー」
「ちーんぽ!!」
大小さまざま、数十匹、あるいは百匹以上のゆっくり達が穴の淵を取り囲んでいるようだった。
れいむ種、まりさ種、ありす種、そしてちぇん種やみょん種といった希少種もちらほら見受けられる。
「お母さん!大丈夫?」
「おねえさん!!ゆっくりしていってね!!どすがくるからゆっくりできるよ!!」
春奈と私のれいむが姿を現した。
「ありがとう。呼んで来てくれたのね」
「ドスまりさに事情を話したの。来てから考えるって。いま来るわ」
果たして、大きな足音が聞こえてきた。
巨大なものが、ゆっくりと地面を這いずってくる音。
「ゆゆっ!!」
重低音の声とともに、巨大なドスまりさがぬっと顔を見せた。
この穴の底からでは目測しにくいが、身長3メートル以上はあろうか。
「ゆっ、ほんとだね!にんげんさんがおちてるよ!!
ゆっくりしていってね!!」
「ゆっくりしていってね!」
私は笑顔で挨拶を返した。
さん付けで呼んでくれ、最初に挨拶をしてくれた。期待していいかもしれない。
「初めまして、ドスさん。とってもゆっくりした群れね」
「ゆっ?ゆっへん!!ドスのむれはゆっくりしてるよ!!
おねえさんはみるめがあるね!!とくべつにみていってもいいよ!!」
素直なドスらしく、胸を反らしていい気分のようだ。
春奈がドスまりさに対して訴える。
「ドス、お母さんを助けて!」
「ゆっ?どうすればいいの?」
「ロープとか、なにか丈夫な蔦とかない?」
「ゆゆ?う~ん、あったようなきもするよ。みんな、つたさんをさがしてみてね!!」
「ゆっゆ~!!」
群れのゆっくり達が声を上げる。
どうやら助けてもらえそうだ。
そう安心しかけたところに、制止する声が響いてきた。
「むきゅ!どす、ちょっとまつのよ!」
特徴のある鳴き声は、ぱちゅりー種のものだった。
声量は小さかったが、鋭いその声に群れが一斉に注目した。
「むきゅ、にんげんさんはゆっくりできないわ!!」
「ゆゆっ?どういうこと?」
「ぱちゅりー、ゆっくりせつめいしてね!!」
ドスまりさの傍に寄り添うようにしているぱちゅりーが、群れに向かって講義をはじめた。
尊敬されている個体らしく、ドスを含めた群れはその声に耳を傾けている。
善良ではあるがどこか緊迫感のないドスを、知識に優れるぱちゅりーが参謀として補佐している。
恐らくはそんなところだろう。
これはよく見られるケースで、ドスが一人で何もかも取り仕切る群れよりも、
むしろこうした形式の群れのほうが成功しやすいようだ。
「もりのけんじゃであるぱちゅりーのことばをよくききなさい、むきゅ!
にんげんさんはゆっくりできないの。
このむれはにんげんさんのむれからはなれているから、
にんげんさんをしらないゆっくりのほうがおおいとおもうけど、
ほかのところからうつってきたゆっくりのなかには、にんげんをみたことがあるゆっくりもいるはずよ」
「ゆっ!!まりさはみたことがあるよ!!」
「ちぇんもみたことがあるんだねー、わかるよー」
「れいむもにんげんさんをみたよ!!ゆっくりできなかったよ!!」
数は少なかったが、何匹かのゆっくりがぱちゅりーに同意していた。
「にんげんさんは、まったくゆっくりできていない、きけんでかとうなせいぶつよ。
おやさいさんをひとりじめしたり、
おなかをすかせているゆっくりにあまあまをあげないでむししたり、
ゆっくりのおうたをきいたのにおれいをしなかったり、
あとからやってきたくせに、ゆっくりぷれいすをよこどりしたりするわ、むきゅ!
にんげんさんは、めにうつるものはなにもかもじぶんのものだとおもっているやばんないきものなのよ!」
ぱちゅりーの演説に、移住組らしきゆっくり達が声をあげる。
「そうなんだぜ!!まりさはおやさいさんをよこどりされてつまをころされたんだぜ!!」
「れいむはおうたをうたってあげたのにあかちゃんをつぶされたよ!!」
「ありすはにんげんをかってたわ!!
ゆっくりぷれいすでにんげんのめんどうをみてあげてたのに、
ありすがとかいはなおよめさんをつれてきたとたんにうらぎって、
ゆっくりぷれいすをのっとってありすをおいだしたわ!!」
人間と接したことのある移住組のゆっくり達の話を聞いて、
群れのゆっくり達は口ぐちに悲鳴をあげた。
「ひどすぎるわぁぁ!!にんげんはぜんっぜんとかいはじゃないわああぁぁ!!」
「わからないよ!!にんげんさんはわからないよー!!」
「どぼじでぞんなびどいごどがでぎるのおおぉぉぉ!!?」
「ゆゆっ!!にんげんさんはゆっくりできないんだね!!」
群れを見渡してドスまりさが叫んだ。
「どすすぱーくをうつよ!!ゆっくりできないにんげんさんはしね!!」
「ま、待って!!」
なんて事だ。
こんなところで殺されてしまうのか。
やはりドスのいる群れに不用意に近づくべきじゃなかった。
「ゆっくりまってね!!」
その時、さらに制止の声が響いた。
ドスまりさの前で飛び跳ねているのは、見間違えようもない、私のれいむだ。
「ゆゆっ!!よそもののれいむはだまっててね!!」
「ゆっくりきいてね!!おねえさんはとってもゆっくりできるんだよ!!
おねえさんはずっとれいむにゆっくりさせてくれたよ!!ころさないでね!!」
「ゆぅぅ!?」
「みんなもきいてね!!にんげんさんはゆっくりできないにんげんさんばかりじゃないよ!!
おねえさんみたいに、ゆっくりをゆっくりさせてくれるにんげんさんもいるよ!!」
群れは静まり返った。
余所者のれいむの言葉だったが、たしかに効果があったようだ。
それはおそらく、れいむが丁寧な手入れをされている美ゆっくりだったからだろう。
美人に弱いのは人間もゆっくりも同じようだ。
「むきゅ!どす!まようことはないわ、どすすぱーくを!」
「ゆゆっ!?でも、このれいむはすごくゆっくりできるよ!!」
「む、むきゅう……!」
会話になってないように聞こえるが、ぱちゅりーは返答に詰まっている。
ゆっくりできている、ということはすなわち説得力につながるらしい。
「ゆっへっへ!!どす!!どすならはやくまりささまをゆっくりさせるんだぜ!!」
「ゆふぅ、ゆふぅ……ありすはつかれてるのよおお!!なんであるかせるのおお!!」
また新しい声が加わった。
聞きおぼえのあるその声は、施設から連れてきたあのゆっくり達のものだった。
遅れてやってきたのは、自分で跳ねるのは久しぶりで思うようにいかないからだろうか。
「ゆゆっ!ようやくついたよ!!どす、はやくにんげんさんをころしてね!!」
施設のゆっくり達の声が聞こえる。
やはり、この子達は私たちが助かることは望んでいないようだ。
「むきゅ!あなたたち、ぱちゅりーのしつもんにこたえなさい!」
「ゆ!?なんでもきいてね!!」
「このにんげんさんたちはゆっくりできる!?」
「ゆゆっ!!もちろんゆっくりできな――」
改めて穴をのぞき込み、私たちの顔を見た十三匹のゆっくり達は眼をむいた。
「ゆぅあああああああぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!?」
「むっきゅうぅ!?どうしたの!?きゅうにさけばないでね!」
「なんでおまえがここにいるんだぜえええええぇ!!?」
その子達が見ているのは、明らかに長浜圭一のほうだった。
昨晩は目を隠していたのと、宵闇であること、穴の底の暗がりだったために判別できなかったが、
太陽の下、いまや長浜圭一の正体は文字通り白日のもとにさらされていた。
自分たちをさんざん苦しめた長浜圭一を前にして、ゆっくり達はいきり立った。
「しね!!しね!!しね!!しね!!ひきょうなにんげんはいますぐくるしんでしねぇぇ!!!」
「かえせ!!かえせ!!れいむのあかちゃんかえせぇぇぇ!!!ゆっくりするなぁぁぁぁ!!!」
「よくもよくもよくもありすのとかいはなぺにぺにをいじめたなああぁぁーーーーーーっ」
悪罵を投げつけられながら、長浜圭一はどこか疲れた無表情で上を見上げていた。
「どういうことなの……」
十三匹の恐ろしい剣幕に、群れのゆっくり達はたじろいでいた。
「む、むきゅ!ぱちゅりーにせつめいしてね!」
「ゆっ!!このくそにんげんをいますぐころしてね!!」
「きゅうにいわれてもわからないわよ!このにんげんがなにをしたの!?」
「ゆっくりせつめいするよ!!れいむたちはとってもかわいそうなひがいしゃなんだよ!!」
十三匹のゆっくり達は群れに向かって、
自分たちがあの施設で長浜圭一にされていたことをすべて話した。
ゆっくりの、しかも感情的な説明なのでなかなか要領を得なかったが、
長浜圭一が恐ろしい人間である、という認識自体はたやすく群れに浸透した。
群れのゆっくり達は悲鳴をあげ、憎悪の声をあげはじめた。
「ゆうううぅぅぅ!!ゆっくりできないいいいいいぃぃ!!!」
「わからないよー!!わからないよー!!」
「ころせぇぇ!!ゆっくりしないでころせえええーーっ!!」
最悪の事態になりつつあるようだった。
私はなんとか弁解したかったが、火に油を注ぐだけだろう。
本来、野生のゆっくりが人間の論理に耳を傾けることはまずない。
どうすべきか迷っているうちに、ドスまりさが再び口を開いた。
「こんどこそどすすぱーくをうつよ!!むれのみんなはゆっくりはなれてね!!」
「やめてね!!やめてねぇぇ!!」
私のれいむが必死に止めようとして、ドスまりさの髪飾りに捕まっていた。
「ゆゆっ!れいむははなれてね!!」
「はなれないよ!!れいむのおねえさんをころさないでね!!
おねえさんはこのまりさたちにはなにもしてないよ!!
おねえさんがまりさたちをたすけだしてここにつれてきてくれたんだよ!!」
「そうなの?ゆっくりこたえてね!」
ドスまりさに問われて、施設のゆっくり達は飛び跳ねながら答えた。
「ゆっ!あのおねえさんはどれいなんだぜ!!」
「れいむたちがめいれいしてここまでつれてこさせたんだよ!!」
「でもにげだそうとしたわ!!やくにたたないいなかもののかちくだからころしてもいいわよ!!」
「ちがうでしょおおぉぉ!?おねえさんがいなかったらにげられなかったでしょおおぉ!!」
私のれいむが訂正しようとするが、施設のゆっくり達は悪びれる様子もない。
「にんげんさんがかわいいれいむをたすけるのはあたりまえでしょおおぉ!?」
「まりささまのみりょくにめろめろになったからたすけたんだぜ!!
だからこれはまりささまのちからなんだぜぇ!!」
しばらく言い争っていたが、やがてドスまりさが言った。
「どすはゆっくりわかったよ!!
あのおにいさんにどすすぱーくをうって、あのおねえさんをたすけるよ!!」
「ゆゆっ!!すごいめいあんだよぉ!!」
「かんどうてきなおおおかさばきだよ!!さすがどすだね!!」
迷っていた群れは、解決策を打ち出したドスまりさを称賛して飛び跳ねた。
しかし、またも制止の声が上がった。
「むきゅう、おまちなさい!」
「ゆゆっ!?どすのめいあんだよ!どこもおかしいところはないよ!」
「あのおねえさんをたすけたあとはどうするのかしら、むきゅ?」
「ゆっ?おうちにかえらせてあげるよ!」
「だめよ、どす!おねえさんをにがしたら、ほかのにんげんさんたちにこのむれのことをいうわ!
おそろしいにんげんさんたちがこのゆっくりぷれいすのことをしったら、よこどりしようとするにちがいないわ!」
「言わないわ!絶対に秘密にしておくわ」
私はそこで口を挟んだが、黙殺されてしまった。
「それに、にんげんさんはゆっくりできないけど、ちからだけはあるわ。
にがすよりも、このむれでかってあげたようがいろいろとやくにたつわ、むきゅ!」
「ゆゆっ!ぱちゅりーはかしこいね!そういえばそうだよ!!」
「ゆゆっ!!すごいめいあんだよぉ!!」
「てんさいてきなゆっくりできるひらめきだよ!!さすがぱちゅりーだね!!」
ドスまりさ以下の群れのゆっくり達は、ぱちゅりーの提案に満足して飛び跳ねていた。
「じゃあ、おねえさんはここでかってあげるよ!おにいさんにはどすすぱーくをうつよ!」
「むきゅ、まって!つがいがいないのはかわいそうだわ。
せっかくおにいさんとおねえさんがそろっているんだから、つがいでかってあげましょう!
かわいいあかちゃんがうめないと、すとれすでにんげんさんがしんでしまうわ!」
「ゆゆぅ~!!ほんとにそのとおりだよぉ!!」
「さすがぱちゅりーだね!どすはそこまできがまわらなかったよ!!」
「あかちゃんがうめなかったらゆっくりできないもんね!!」
「すっきりができなかったらすとれすでしんじゃうところだったわ!あぶないところだったわね!!」
ドスまりさが穴の口からこちらを覗き込み、満面の笑みを浮かべて猫なで声をかけてきた。
「ゆゆぅ~♪よかったね、にんげんさん!
にんげんさんたちはこのむれでかってあげるよ!!
こわいあめさんやれみりゃからまもってあげるからね!!もうあんしんだよ!!」
「ゆっゆっ♪ゆっくりしていってね!!」
「にんげんさんも、こうしてみるとかわいいかもしれないのぜ!!」
「がんばっておせわするんだねー、わかるよー」
ペットを手に入れたゆっくり達は浮き立っていた。
冗談ではない。ここから出られなければなにも解決しないのだ。
あの車の発信機をたどって、この群れはすぐに発見されるだろう。
あの十三匹のゆっくりが再び施設に連れ戻されてしまう。
「みんな、お願い、聞いて!私たちはここに住めないの。
お願いだから家に帰らせて!」
「ゆっ、れいむのおねえさんをかえらせてほしいよ!」
私のれいむがドスまりさに要求するが、ドスまりさ達は答えた。
「ゆゆっ!だいじょうぶだよ!ちゃんとゆっくりできるごはんをあげるよ!
おねえさんをいじめるゆっくりはどすがゆるさないよ!だからあんしんしてね!」
「ゆっ、がんばってかわいがってあげるよ!」
「でも、れいむのおねえさんにはおうちがあるよ!かえりたがってるよ!」
「しらないところでふあんなんだねー、わかるよー」
「むきゅ、れいむ、よくきいて。
じこちゅうしんてきでみがってでらんぼうでちせいのないにんげんさんたちにかこまれて、
おねえさんはほんとうにゆっくりできていたかしら?」
「ゆゆっ?」
「もちろん、にんげんさんは、さいしょはにんげんさんのなかにいたいとおもうでしょう。
でも、それではにんげんさんはずっとやばんなかとうせいぶつのままだわ。
ゆっくりのなかでそだてて、にんげんのしらないしんじつのゆっくりをおしえてあげれば、
いままでよりもずっとずっとゆっくりすることができるのよ。
ながいめでみれば、それがにんげんさんのためなのよ!むきゅ!」
「………ゆっくりわかったよ!」
私は耳を疑った。
何を言った?
私のれいむは、今、何を言ったのだ?
「このむれはすごくゆっくりできてるよ!おねえさんもゆっくりさせてあげてね!!」
「だいじょうぶだよ!!どすたちにまかせてね!!」
「ゆっくりしていってね!!ゆっくりしていってね!!」
穴の淵を取り囲み、「ゆっくりしていってね」を連呼する群れのゆっくり達。
その表情には心底からの善意と愛情が浮かんでおり………私はぞっとした。
「れいむ!!聞いて、れいむ!!
私はここにはいられないのよ!!帰らなくちゃいけないのよ、れいむ!お願い!!」
「だいじょうぶだよ!!このむれはほんとうにゆっくりできるむれだよ!!
おねえさんがすんでいたおうちよりもずっとずっとゆっくりできるんだよ!!
れいむもここにすむことにしたよ!
れいむがずっといっしょだよ!だからあんしんしてね!!」
私のれいむ。
お祖母ちゃんのれいむも、お母さんのまりさも、そしてこのれいむも、
生まれてからずっと私が面倒を見てきた。
ずっとれいむは私になついていた。
私もれいむも互いに愛し合い、人間とゆっくりではあっても、家族だった。
家族だった、そう信じていたのに。
「駄目なのよ、れいむ!お願いだから私の話を聞いて!本当に時間がないの!」
「ほんとうにだいじょうぶだよ!!むれのみんながおねえさんのめんどうをみてくれるよ!!
とっても、とってもゆっくりできるんだよ!!れいむのいうことをしんじてね!
あんまりわがままをいうとどすにしかられちゃうよ!!」
信じていたのに。
それなのに今、私のれいむは、私を裏切って――
裏切って?
なにを裏切った?
なにが変わった?
「もりのなかでくらすのはふあんだとおもうけど、
むれのみんながなんでもおしえてくれるからね!
これからはゆっくりみんなのいうことをきいてね!!だいじょうぶだからね!!」
いや、れいむは裏切ってはいない。
れいむは依然として家族だった。
家族として、私を愛し、私の幸福を第一に考えていた。
変わったのは立場だけだ。
今ここでは、ゆっくりが人間よりも強い。
そしてこの場では、あらゆる幸福と正誤は、ゆっくりの基準で定められることになる。
今、恐ろしい実感が背中を這い回り、私は震えていた。
完全な善意に対しては、一切の反論が無力だ。
逃げ場はなかった。
最終更新:2011年07月28日 19:51