ゆっくり加工場系24 ゆっくり達の生涯『加工場脱出編』 (後編)

中編 

~ゆっくり達の生涯『加工場脱出編』(後編)~

 最終話 ~光を目指して~

 注意:最終話のみ主要ゆっくりは「まりさ、れいむ、ありす、ぱちぇ、ちぇん、みょん」と呼びます。
    主要ゆっくりは皆平和に暮らしていた良いゆっくりです。嫌いな方はUターンをオススメします。 
    最終話は6匹が森で暮らしていた頃から始まるため、一部プロローグと被る部分がありますがご了承下さい。

 魔法の森の少し奥の滅多に人間が足を踏み入れない場所。 
 ここには6匹のゆっくりが暮らしていた。
 まりさは群れのリーダー、どんな時も決して仲間を見捨てない。
 れいむは群れのムードメーカー、持ち前の素直さと明るさで群れを盛り上げる。
 ありすは群れのアイドル、綺麗な歌声でみんなをゆっくりさせる。
 ぱちぇは群れの頭脳、体は弱いが持ち前の頭の良さでみんなを助ける。
 ちぇんは群れの狩り名ゆっくり、すばやい動きで逃げる虫を捕まえる。
 みょんは群れの用心棒、ゆっくりを襲う小~中型の動物から群れを守る。
 大きな群れではなかったが、6匹は楽しくゆっくり協力して暮らしていた。
 しかしそんな平穏な日々も長くは続かなかった。


 6匹が巣にしているのはとても古い大木の洞、広さは6匹が一緒に暮らしても余裕があるほどである。
 朝、巣の中でみんなと仲良く寝ているまりさが異変に気付いた。
「みんなおきて!なんだかゆっくりできないよ!」
 まりさの声を聞いて皆が目を覚ます。
 巣の中は火事ではないが白い煙で充満していた。
「むきゅ!このけむりにはゆっくりできないものがまじってるわよ!」
 ぱちぇの発言を聞き、急いで巣の外目掛けて走り出した。・・・それが罠とも知らずに。
 まりさは煙にやられて苦しそうにしているぱちぇを助けながら巣の外へ脱出した。
 しかし、巣の外では悪夢のような光景が広がっていた。

 人間だ!しかも3人!

 れいむは既に姿がなく、人間の傍にある籠かられいむの苦しそうな声が聞こえてきた。
 ありすは金属製の板で挟まれ中身が飛び出ないぎりぎりの所で固定され、今まさに籠に入れられようとしていた。
 ぱちぇはあまりの衝撃的な光景に気を失った。
 ちぇんはすばやい動きで人間の手を躱していたが、尻尾を掴まれて捕まってしまった。
 みょんは抵抗したのか傷だらけで人間の足に踏まれて死んではいないがひしゃげていた。
「みんなをはなせ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ !」
 まりさは果敢にも人間に飛び掛った。
 しかし、人間とゆっくりでは力の差は歴然、まりさは蹴り飛ばされ巣である大木にぶつかった。
「先輩、巣の中にはもうゆっくりは居ないようです。」
「よし、それじゃそこで気絶しているぱちゅりーと私の足の下でひしゃげているみょんを籠に詰めるんだ」
「わかりました。しかしゆ取り線香(正式名:ゆっくり取り線香)にこんな使い方があったんですね。」
「うむ、ゆ取り線香は本来ゆっくりが屋内や畑に近づかないように煙を炊く物だ。しかしこのように巣の中にいるゆっ
 くりを燻り出す事にも使えるんだ。おっとぱちゅりーは皮が薄いから破けないように気をつけろよ。」
「わかってますよ。今日は2人の研修最終日なんですから少しは信用してくださいよ。」
「先輩、れいむとありすとちぇん、共に籠に詰め終わりました。」
「よし、それじゃあそこでくたばっているまりさを籠に詰めるんだ。」
「了解です。」
 職員の手がまりさを掴もうとした時、まりさは最後の力を振り絞って手を躱し走り出した。
 そしてみんなが閉じ込められている籠目掛けて体当たりを仕掛けようとした。
「ほぉ、そんなボロボロになってまで歯向かうか。感心だが我々も仕事だゆっくり眠れ!」
 まりさの目には籠ではなく先輩と呼ばれた職員の足が飛び込んできた。


「・・・さ!・・・りさ!しっかりしてまりさ!」
「うわ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ !」
 まりさは飛び起きた。
「ま、またあのときのゆめ・・・」
 まりさの周りにはありす以外の仲間が心配そうに取り囲んでいた。
「むきゅ!すごいあせよ、だいじょうぶ?」
「わかるよーわかるよー、こわかったんだね。」
「しんぱいしたみょん、だいじょうぶみょん?」
 まりさは加工場の職員に捕まってから毎日同じ夢を見続けていた。・・・そう、捕まった時の悪夢を。
「み、みんな、ごめんね、ごめんね、まりさのせいで。」
「むきゅ!それはもういわないやくそくよ!」
「そうだよまりさ!まりさはみんなのためにたたかってくれたよ!」
「わかるよーわかるよー!まりさはわるくないよー!」
「ゆうかんにたたかったみょん!ほこっていいみょん!」
「あ、ありがとうみんな。」
 4匹に励まされたまりさであったが、その表情は暗かった。
 皆を守るという責任を果たせなかった後悔がまりさを打ちのめしていた。
「ありすはいまごろどうしてるかな・・・。」
 まりさはありすがまだ加工されていないことをひたすら願っていた。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!

 ピキッ!ガチャッ!

 突如加工場を襲った地震により檻の南京錠が破損した。
 さらに檻の設置してある部屋の扉も開け放たれたままであった。
 1匹のゆっくりが二重の扉が開いている事に気が付いた。
「みんな!そとにでられるよ!」
 その言葉を聞き、檻の中のゆっくり達は響(どよめ)きだした。
 そしてある結論に達するまでにそう時間はかからなかった。
「「「ゆっくりだっしゅつするよ!!!」」」
 忽(たちま)ちゆっくり達は荒れ狂うゆっくりウェーブと化し、先を競って檻からの脱出を開始した。
「まりさ!ちゃんすだよ!」
「だっしゅつよ!むきゅー!」
「でられるよー!でられるよー!」
「たちあがるみょん!」
 4匹はまりさが行動を起こすのを待っていた。
「・・・みんな・・・まだまりさをしんじてくれるの?」
「「「「まりさはわたしたちのりーだーだ(よ!、よー!、みょん!)」」」」
 まりさの瞳に再び炎が灯った。
 まりさは誓った、今度こそ皆を守る、そして皆一緒に森に帰ると。
「せんとうはまりさがいくよ!ぱちゅりー、れいむ、みょんのじゅんばんでついてきて!」
 こうしてまりさ達の脱出が始まった。

 まりさは体の弱いぱちぇを気遣いながら前へ進んだ。 
 ゆっくりウェーブの先頭付近では近くの扉から脱出したゆっくりアリスが合流、さらに捕まえようとする人間も加わ
 りカオスと化していた。
 人間に捕まったゆっくりの悲鳴、発情したアリスに無理やり子供を作ることを強要されるゆっくりの悲鳴、すっきり
 出来ないまま捕まるゆっくりアリスの悲鳴が混ざり合い、恐ろしい悲鳴が木霊していた。
「むきゅ!とまって!」
 ぱちぇの言葉を聞いて5匹は他のゆっくりに押しつぶされないように壁際に固まった。
「このままいってもぜったいそとにはでられないわ!にんげんたちがたくさんまちかまえているわ!」
 ぱちぇの判断は正しかった。
 加工場ではゆっくりが脱走した場合の訓練もきちんとされているため、ひたすら前へ進むだけでは脱出はほぼ不可能
 であった。
 群れの頭脳の言う事なので4匹はすぐさま理解した。・・・このままでは捕まると。
「ぱちゅりー、じゃあどうしたらいいの?」
「あそこをみて!あながあいてるのがわかる?」
 ぱちぇの目線の先には通常は格子状の蓋が填(は)まっているはずの通気孔が口をあけていた。
 格子状の蓋はゆっくりウェーブの衝撃で外れてしまったのか転がっていた。
「あそこにはいるのよ!このまますすんでももりにはかえれないわ!」
 このまま進むか通気孔に入るか、判断はリーダーのまりさに委ねられた。
「あのあなにはいるよ!みょんがせんとうになってみんなをせんどうして!」
「みょん!まりさはどうするみょん?」
「まりさはありすをさがすよ!みんなはさきにあなにはいって!」
 まりさの言葉を聞いて4匹はすぐに考え直すように説得した。
 しかしまりさは頑なに拒否した。そして・・・
「ごめんね、ありすはああみえてとってもさみしがりやなの。だからひとりにはさせられないよ!」
 4匹は理解した。・・・まりさの決意は固いのだと。
「ぜったいまりさもくるみょん!」
「むきゅ!ぜったいくるのよ!」
「まりさ!いきてあおうね!」
「わかるよーわかるよー、まりさはぜったいくるよー!」
 4匹はまりさを心配しながら通気孔の中へ入っていった。

 まりさは4匹が通気孔の中に入ったのを確認するとすぐに行動を開始した。
 ありすを探すためにまりさは前方のゆっくりアリスが合流した地点を目指して進んだ。
「まりさあ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ !」
「ありずのあいをうげとめてぇ ぇ ぇ ぇ ぇ!」
 まりさを発見したゆっくりアリスが2匹同時にまりさに襲い掛かった。
「ゆ!く、くるな!」
 まりさはゆっくりの中では力がある方だった。
 しかし、本能のままに迫る2匹のゆっくりアリスには敵うはずもなく、あっという間に押し倒されてしまった。
「あ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ !かわいいよお ぉ ぉ ぉ ぉ ぉ !」
「はずかしがらないでいいのよぉ ぉ ぉ ぉ ぉ !」
 2匹のゆっくりアリスに板挟みにされ、意識が遠のきかけたその時だった。
「まりさになにするの!あなたたち!」

 ブチュッ!

 まりさに頬ずりをする1匹のゆっくりアリスは声がした方に目を向けた。
 一緒にまりさとすっきりしようとしていたゆっくりアリスが潰されていた。
「あなたもきえなさい!」
 ゆっくりアリスは声のした上を見上げた。

 ブチュッ!

 瞬く間に2匹のゆっくりアリスはカスタードクリームを撒き散らしてその生涯を終えた。
「まりさ!まりさ!しっかりして!」
「ゆ・・・ありす?」
「そうよ!ありすよ!ほかのみんなはどうしたの?まりさひとりなの?」
 ありすの言葉を聞いてまりさの朦朧としていた意識が一瞬で正常に戻った。
「ゆ!まりさはありすをさがしにきたんだよ!みんなはぶじだよ!」
「わ、わたしをさがしに?まりさがひとりで?」
「そうだよ!ここはきけんだからまりさについてきて!」
 ありすは顔を赤らめながらまりさの後について行った。


 まりさの無事を信じ4匹は狭い通気孔の中を進んでいた。
「でぐちみょん!あんぜんかみょんがしらべてくるからみんなはそこでしずかにじっとしてるみょん!」
 みょんは警戒しながらゆっくりと通気孔から体を出した。

 ガタガタガタ、ゴゴゴゴゴゴ、ゴトゴトゴト

 部屋の中には様々な機械音が鳴り響いていた。
 通気孔の通じていた場所、それは加工場の動力中枢である機械室だった。
 みょんは初めて見る光景に言葉を失っていたが、すぐに今自分がすべき事を思い出し周囲の確認を始めた。
「・・・ひとやゆっくりのけはいはしないみょん。みんなでてくるみょん!」
 みょんの言葉を聞くと待機していた3匹はむくっと通気孔から顔を出し、機械室へ足を踏み入れた。
「とってもひろいばしょだね!」
「ひろよー!おおきいよー!」
「むきゅ、みんな、まりさがくるまでここでやすむわよ。」


「むきゅ!まりさ、ありすもぶじだったのね!。」
 まりさとありすは無事に4匹の待つ機械室へたどり着いた。
 6匹は無事に再開できたことを喜び合った。
 しかし喜んでばかりはいられない、ここなまだ加工場内なのだから。
「・・・どうやったらそとにでられるかな?」
 まりさは重い口をあけたが、それに答えるゆっくりは1匹もいなかった。
 それもそのはず、怖い人間はいないものの部屋にはゆっくりにはどんな目的の物かもわからない大きな機械が設置さ
 れ轟音を上げており、さらに部屋の中はとても広く、どちらへ行けば出口があるのか皆目見当がつかないのであった。
 6匹の周りに重苦しい空気が漂い始めた時だった。
「ひかりだよー!ひかりだよー!うえをみてー!」
 ちぇんが突然上を見上げ声を上げた。
 5匹もちぇんの目線の先へ目を向けた。
 天井近の近くにある壁の穴から太陽の光が差し込んでいた。
「みんな!あそこまでいけばそとにでられるよ!」
「むきゅ・・・ここからみえるぶんではなんとかあそこまでいけそうよ。」
 かくして6匹は差し込む一筋の太陽の光を目指して進み始めた。

 6匹は先頭からまりさ、ぱちぇ、ありす、れいむ、ちぇん、みょんの順で一列になって作業用の階段を上っていた。
 しかし、ある程度の高さまで上ると階段はそこで途切れてしまった。
「みんな、あのほそいぼうのうえをすすむよ!ゆっくりついてきてね!」
 まりさはパイプの上に飛び移り、安全を確認した後みんなを飛び移らせた。
 しばらく進むとまりさは立ち止まった。
 足場が途切れ、次のパイプへ飛び移らなければならなかった。
 まりさが勢いをつけて飛び移ろうとしたその時だった。
「むっきゅーーー!まって!とばないで!」
 ぱちぇの大声に驚いたまりさはその場に踏みとどまった。
「むこうのあしばはきけんよ!ねっきがつたわってくるわ!」
 ぱちぇの皮はゆっくり中一番薄い、更に中身が生クリームということもあり、とても熱には敏感だった。
 まりさが飛び移ろうとしたパイプ、それは機械から発する高熱を逃すためのパイプだった。
 もし気が付かずに飛び移っていたら命はなかっただろう。
「ぱちゅりーがいうならまちがいないね、とめてくれてありがとう!」
 ぱちぇのとっさの判断により、まりさは無事で済んだ。

 最短ルートが危険だとわかり、ぱちぇが急遽導き出した迂回ルートをを進むことになった。
「ゆゆ!したからつよいかぜがふきあげてくるよ、みんなきをつけてね!」
 パイプの下には大型機械の熱排出用プロペラが勢いよく回っていた。
 まりさ、ぱちぇ、ありす、れいむが無事に通過し、ちぇんがプロペラ地帯へ踏み込んだ時だった。

 ズルッ

 ゆっくりの中では体の小さなちぇんが風に煽られてバランスを崩してしまった。
「おちるよお ぉ ぉ ぉ !」
「ちぇーん!」
 後ろにいたみょんが急いで引き上げようと噛み付いた。
 しかしみょんの口にはちぇんの帽子しか残っていなかった。
 5匹は急いで下を覗いた。
 プロペラには巻き込み防止のため、網目状のカバーが取り付けられていた。
 それを見た5匹はこれならちぇんは助かると誰もが思った。
 しかし・・・。
「わからないよ!わがらないよお ぉ ぉ ぉ ぉ ぉ ぉ !」
 突如ちぇんの悲鳴が響き渡った。
 ちぇんには他のゆっくりにはないあるものがついている。・・・尻尾である。
 下に落ちた際、その尻尾が網目状のカバーの中に入り込みプロペラに巻き込まれたのだ。 
 プロペラに巻き込まれたちぇんは小さな網目からカバーの中にぐいぐいと引っ張られていった。
 5匹はそのおぞましい光景をただただ見ていることしか出来なかった。
「わ が ら な・・・・・。」
「「「「「ちぇーーーん!!!」」」」」
 ちぇんの声が聞こえなくなると辺りはチョコレートクリームの甘い匂いで包まれた。

 プロペラ地帯を抜け、休憩できそうなスペースを見つけた5匹は休むことにした。
「うぅ、うぅ、すまないみょん、みょんがもっとはやくつかんでいたら・・・すまないみょん。」
 4匹にはみょんにかける言葉はなく、みょんが泣いているのを見守る事しか出来なかった。
 ちぇんが死んだのは誰のせいでもない。・・・それは皆わかっていた。
 しかし、みょんはひたすら自分を責め続けていた。
 一緒に楽しい時を過ごした仲間がいなくなってからどれくらい時間が過ぎたかわからない。
 みょんは泣き止んでいた。
「もうなかないみょん、まりさ!これをうけとってほしいみょん。」
 みょんの口には紐が銜(くわ)えられていた。
 この紐はちぇんの大切な帽子の紐だった。
「これをまりさがみにつけててほしいみょん、ちぇんもきっとよろこぶみょん。」
 みょんは口を器用に動かしてまりさの髪に紐を結びつけた。
「みょん、ありがとう。ちぇんはいつまでもまりさといっしょだよ!」
 5匹は再び光を目指し進み始めた。

 パイプや機械の上を飛び跳ね5匹は着実に光に近づいていった。
 光に近づくという事は高い位置に上っていくという事、既に5匹は落ちたら助からない高さまで進んでいた。
「みんな、ゆっくりすすむよ!おちないようにきをつけてね!」
 5匹は慎重にゆっくりとパイプの上を進んでいた。

 チュウ・・・チュウ・・・チュウ、チュウ!チュウ!チュウ!

 5匹はその音を聞いて息を呑み、恐る恐る後ろを振り返った。
「「「「「!!!!!」」」」」 

 チュウ!チュウ!チュウ!チュウ!チュウ!チュウ!チュウ!チュウ!チュウ!

 パイプを器用に伝い後方から5匹目掛けて大量のネズミが襲い掛かろうとする光景が5匹の目には映っていた。
 先程のちぇんのチョコレートクリームの甘い匂いが機械室に住み着いていたネズミを呼び寄せてしまったのだ。
「みんな!いそいですすんで!」
 まりさは皆に急ぐように指示するが、高さから来る恐怖のせいで自身を含め進む速度はなかなか上がらない。
 このままでは大量のネズミに食べられてしまう。・・・誰もがそう思った。
 その時、必死に逃げるれいむの頭にフワッと何かが乗せられた。
 そして後ろからみょんの声が聞こえた。
「おわかれみょん、みょんがここでねずみをくいとめるみょん。かざりはまりさにわたしてほしいみょん。」
 その言葉はみょんの前を進む4匹にも伝わった。
「だめだよみょん!みんなでもりにかえるんだよ!」
「むきゅ!むぼうよ!」
「だめよ!しんじゃうわ!」
「だめだよ!かざりはかえすよ!」
 みょんは優しく微笑んだ。・・・そして。
「はやくいくみょーーーーーん!!!」
 みょんの覚悟は4匹に伝わった。
 そして皆涙を流し必死に前へ進んだ。

 みょんはネズミの集団を待ち構えていた。
 30秒もしないうちにみょんとネズミの集団は接触した。 
 みょんは必死にネズミを下に蹴り落とした。
 しかし健闘もむなしくみょんの体は少しずつネズミの集団に飲み込まれていった。
 それでもみょんは最後まで戦った。・・・大切な仲間を守るために。
「てぃむぽお ぉ ぉ ぉ ぉ ぉ !」
 ネズミの集団に飲み込まれたみょんは断末魔の叫びを上げ動かなくなった。

 4匹は途中何本かのパイプへ飛び移りながら必死に進んだ。
 みょんがネズミをの進行を妨げてくれたおかげで4匹はネズミが上ってはこれない場所まで進むことに成功した。
「む、むきゅぅ、こ、ここまでくればあんぜんよ。」
 ぱちゅりーの言葉を聞き、ちょうど休めるスペースを見つけた4匹は休むことにした。
「まりさ、みょんのかざりをわたすよ。」
 れいむは頭に被せられたリボンのついたカチューシャの飾りをまりさの帽子へ取り付けた。
「ありがとうれいむ、みょんはずっとまりさといっしょだよ!」
 10分程休んだ時、まりさはぱちぇの異変に気が付いた。
「ぱちゅりー!かおいろがわるいよ!だいじょうぶ!?」
 まりさの言葉を聞いたありすとれいむも心配そうにぱちぇを取り囲んだ。
 もともと体の弱いぱちぇが体に鞭打って必死にここまで進んできたが既に体は限界であった。
「む、むきゅぅ、もうからだがうごかないわ。あしでまといでごめんね、ぱちゅりーはここにおいていって・・・。」
「ゆ!だめだよ!ぱちゅりーをおいていけるはずないよ!」
「そうよ、そんなことできるはずないじゃない!」
「もうともだちがいなくなるのはいやだよ!」
 3匹は必死にぱちぇを説得した。
「みんなありがとう、でもからだがうごかないの。だからここに・・・」
「まりさがぱちゅりーをはこぶよ!ふたりとものせるのをてつだって!」
 ありすとれいむはぱちぇをまりさの上に乗せた。
「むきゅぅ、ごめんねめいわくかけて。」
「ぱちゅりーはめいわくじゃないよ!ゆっくりそこでやすんでてね!」
 頭にぱちぇを乗せたまりさは再び光を目指し進み始めた。

 4匹は立ち止まっていた。
 今足場にしているパイプは下に曲がっており、前へ進むには次の足場であるパイプまで飛ばなければならなかった。
 しかし、その距離が問題であった。
 ゆっくりのジャンプ力では届くかどうかが微妙な距離である。
「ゆ・・・とぶよ!ぱちゅりーはしっかりつかまっててね!」
「むきゅぅ。」
 まりさはぱちゅりーを乗せたまま次の足場目掛けて思い切り飛んだ。

 まりさを後ろから見守っていたありすは気が付いた。
 あの跳躍では次の足場まで届かないと。
 ありすの体は自然に動いていた。
 そしてゆっくりらしからぬスピードでまりさ目掛けて飛んだ。

 ドン!

 まりさは突如後ろから加わった衝撃により無事次の足場へ着地した。
 着地と同時にまりさの横には見覚えのあるヘアバンドが音を立てて転がっていた。
「ありすーーー!」
 突如後ろかられいむの悲鳴が聞こえ、まりさはすぐさま理解した。・・・ありすの身に何かが起こったのだと。
 れいむが見詰める目線の先にまりさも目を向け、その光景を見て言葉を失った。
 ありすの体は機械から飛び出した細い棒に突き刺さり、中身のカスタードクリームが流れ出ていた。
「ま、まりさ、ぱ、ぱちゅりー、ぶ、ぶじだったのね・・・よかった。」
 まりさとぱちゅりーの無事な姿が目に映るとありすは穏やかな笑顔を作った。
「ありすまっててね!すぐにたすけにいくから!」
「・・・だめよ・・・もうたすからないわ・・・いままでありが・・・まりさだ・す・・・。」
 言い終える前にありすは力尽きてしまった。
「「ありす ぅ ぅ ぅ ぅ ぅ ! ! ! 」」

 3匹はひたすら光を目指して進んでいた。・・・死んだちぇん、みょん、ありすの分もゆっくりするために。
 まりさの髪にはありすのヘアバンドがつけられていた。
 そして3匹は光の差し込んでいる穴と同じ高さまでたどり着いた。
「このぼうをわたればそとにでられるよ!」
 光が差し込む穴まで直接続くパイプを2匹(ぱちぇはまりさの頭の上)は進みだした。
「ゆ!つめたい!このぼうはすべるよゆっくりきをつけて!」
 そのパイプは軽く水滴を帯びており滑りやすくなっていた。
 2匹は滑り落ちないようにゆっくりとゆっくりと進んだ。
 そしてついにまりさは最後の足場へ到達した。
「ゆっくりーーー!」
 後ろを進むれいむの目にはまりさの嬉しそうな顔が飛び込んだ。・・・しかしそれがいけなかった。

 ズルッ

 まりさの嬉しそうな顔を見て油断したれいむは足を踏み外してしまった。
「いやあ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!」
 悲鳴を上げながら霊夢は落下・・・しなかった。
「ゆゆゆゆっ・・・!」
 まりさが間一髪の所でれいむの髪を銜えるのに成功していた。
「ゆ、ゆ、ゆ、ゆ!」
 しかしぱちぇを乗せここまで進んで疲れ切ったまりさにとってれいむは重すぎた。
 必死に引き上げようとするが、れいむの体はむしろまりさもろともゆっくりと落ちそうになっていた。
「・・・まりさ、いままでありがとう。このままじゃいっしょにゆっくりできなくなっちゃうよ。」
「ゆ!ゆ!ゆ!(なにいってるのれいむ!)」
「まりさといられてれいむはとってむゆっくりできたよ・・・さようなら。」

 スポン!

 れいむは髪の毛と胴体部分を分離し、つるっぱげ饅頭となり奈落の底へ落ちていった。
 まりさの口にはれいむの髪の毛とリボンだけが残されていた。
「れいむ ぅ ぅ ぅ ぅ ぅ !」

 ぐちゃっ!

 下からはれいむの潰れた音が聞こえてきた。

「ぱちゅりー・・・ふたりだけになっちゃたよ・・・。」
 目に涙を浮かべながら壁に凭(もた)れさせておいたぱちぇに弱々しく話しかけた。
「・・・・・。」
「ぱちゅりー?」
「・・・ま・さ、もうだめみたい。さいごのおねがいきいてくれる?」
 ぱちぇは弱々しくも最後の力を振り絞りまりさに話しかけた。
「なんでもきくよ!だからさいごなんていわないで!」
「わたしのぼうしについてるかざりをとってまえにおいて。それとれいむのかざりもね。」
 まりさは言われた通りぱちぇの帽子についている月の形をした飾りとれいむのリボンをぱちぇの前に置いた。
 ぱちぇはその二つの飾りをまりさの帽子へ取り付けた。
「これでれいむも、わたしもずっとま・さとい・・・。」
「ぱちゅり ぃ ぃ ぃ ぃ ぃ !」
 ついにまりさは1匹になってしまった。

 まりさは自分のために死んだ皆の命を無駄にしないために光の差し込む穴に入っていった。
 少し進むとそこには換気扇の残骸と見知らぬゆっくり霊夢のボロボロになったリボンが落ちていた。
「まりさたちのまえにもここまできたこがいたんだね・・・。」
 しばらく感慨にふけっていた。
 そしてまりさは光の中へ飛び込んでいった。

 空は日も傾きかけ、オレンジ色に染まっていた。 
 まりさは加工場の最上部に立ち、頬には無意識のうちに涙が伝っていた。
「れいむ、ありす、ぱちゅりー、ちぇん、みょん、みんなのぶんもまりさはゆっくりするからね!」
 どうやって下まで降りようか考えていたまりさの頭に以前ぱちぇから教えてもらった高い場所から降りる方法が浮か
 び上がった。
 それは一部のゆっくりにしか伝わっていない秘技であった。
 まりさは垂直の壁を伝い転がり降りた。・・・そして、地面が近づくと壁を体の底で蹴り衝撃を逃しながら今度は地
 面を転がった。
 まりさは無事地面に着地することに成功した。
 そして人間に見つからないように森を目指して急いで進みだした。・・・しかし。

 ガコン!

 まりさは突如何もない場所で壁にぶつかった。
「どうして?なんで!?」
 必死に抜け道がないか探した。・・・しかしどこも通れる場所は無かった。
 そう、これは万が一ゆっくりが脱走した場合に備えて博麗霊夢によって張られた結界である。
「ゆぅぅぅ、これじゃまたつかまっちゃうよぉぉぉ・・・。」
 まりさが弱々しく泣いている時だった。

 ※バッドエンド→★
  グッドエンド→☆

 ★

「あら、たくさん飾りをつけてかわいいゆっくりね。」
 俯(うつ)むいて泣いていたまりさに結界の向こう側から一人の女性が話しかけた。
「ゆぅ、おねえさんだれ?おねがい!まりさをたすけて!」
 加工場の職員ではないと判断したまりさは藁に縋る思いで助けを求めた。
「あのね、わたしお友達になってくれるゆっくりを探していたところなの。もしお友達になってくれるなら助けてあげ
 てもいいわよ?」
「なります!おともだちになるからたすけてください!」
「わかったわ。上海!蓬莱!」
 女性は近くに飛んでいた人形に指示すると高いところまで上昇させた。
「やっぱりね、高い場所には結界は貼られてないわ。今助けるから待っててね。」
 上海、蓬莱人形は結界の中へ進入するとまりさを持ち上げて女性の手の上まで運んだ。
「おねえさんありがとう!ゆ!?」
 突然まりさは女性がどこからともなく取り出した透明な箱へ入れられてしまった。
「おねえさんどうして?おともだちになったらたすけてくれるんでしょ!?」
「えぇ、だからどこにも行けない様に箱に入れたのよ。これからはずっといっしょよ。」
 女性の言葉を聞いてまりさは必死に抵抗して箱から脱出しようとした。
「いやだあ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ !おねがいだじでえ ぇ ぇ ぇぇ ぇ !」
 悲鳴を上げるまりさの入った箱を抱えた女性は森の中へ消えていった。
 その後、まりさを見た者は誰一人としていなかった。


 ☆

 途方にくれているまりさは空からゆっくりの様な物体が向かってきているのに気が付いた。
 そして絶望した。・・・空を飛ぶゆっくりといえば捕食種以外思い浮かばないからである。
 まりさは覚悟を決めて目を瞑った。
「・・・ゆ?」
 想像していた衝撃や痛みはいつまで経ってもやってこない。・・・ゆっくりと目を開けた。
 そこには初めて見るゆっくりが立っていた。
「どうも、清く正しいきめぇ丸です。」
「きめぇまる?」
「はい、きめぇ丸です。空からたくさんの飾りをつけたゆっくりが目に留まりましてね、興味がわいたのでこうして降
 りてきたというわけです。」
「このかざりはみんなのかたみだよ!」
 まりさは今までのみんなで協力して加工場から脱出する様子をきめぇ丸に語った。
「ふむ、死んだゆっくりから奪い取ったものではない様ですね。これはまたすごい!あなたは相当皆に信頼されていた
 のですね!」
 きめぇ丸は興奮し、高速で反復運動を開始した。
 その光景を見てまりさは少々ひいていた。
「おっと失礼、興奮した時の癖が出てしまいました。ふむ、あなた、私と一緒に来る気はありませんか?」
「たすけてくれるの?」
「私の条件を飲んだ場合は助けてあげましょう。私は人間に被害を与えるゆっくりが大嫌いです。そんなゆっくりをゆ
 っくりさせないのが私の使命です。あなたには私の手助けをしてもらいます。どうです、一緒に来ますか?」
「・・・いいゆっくりはゆっくりさせてくれるの?」
「もちろんです。」
 その言葉を聞き、まりさは決心した。
 大切な仲間はもういない、ならば良いゆっくりを守るためにがんばろうと。
「ついていくよ!」
「よろしい、ではいきましょう。」
 きめえ丸に銜えられてまりさは加工場からの脱出に成功した。
 その後、まりさときめぇ丸がどうなったかはまた別のお話で。

 ※補足

 Q:どこかで読んだようなSSの気がするのですが?
 A:「ゆっくり加工場系3,4 ゆっくり脱出」を参考にして書かせていただきました。

 Q:死んだゆっくりの飾りを身に付けているのにまりさはどうして無事でいられるの?
 A:正確に言うと死ぬ間際に託された飾りだからです。ゆっくり達は死ぬ間際に自分の飾りを愛するゆっくりや信頼
   するゆっくりへ託すことで、そのゆっくりとずっと一緒にいられると考えているのです。

 Q:道中まりさを除く5匹の口数が少ないように感じたのですが気のせい?
 A:初めは6匹すべての会話を書こうと考えていたのですが、容量がやたらと増える上にひらがなばかりで読みにく
   いと感じ、最低限の会話のみを書かせていただきました。


 -エピローグ-

 様々な装飾品が飾られた部屋で風格のある男が椅子に座りある報告書を読んでいた
「・・・思ったより被害が出ているな、天然ゆっくりの2割が死亡か。しかたがない、天然ゆっくりの買い取り価格を
 上げて不足分を補おう。」
「実は所長、妙な事を交代のため出勤してきた職員から聞いたのですが。」
「妙な事とは?」
「その職員が言うには工場に来て初めて地震があった事を知ったようなのです。念のため他の出勤してきた職員にも聞
 いてみたところ皆同じ事を言うのです。」
「・・・つまり地震は工場周辺のみで起きたと言うことか?」
「はい、なんとも信じがたい事なのですが・・・。」

 その頃天界では・・・。
「これは総領娘様、お出かけとは珍しい、いったいどちらへ?」
「霊夢から宴会の誘いを受けたのよ。」
「・・・総領娘様、いったい何をなさったのですか?博麗の巫女がわざわざ総領娘様を誘いに来るなんて普通では考え
 られませんよ。」
「な、なによ!私を疑う気?私はただ霊夢の手伝いをしただけよ。」

 その頃霊夢は・・・。
「ふぅ、これだけ集まればいいかしら?今日は宴会よ♪」
 霊夢の背中には巨大な風呂敷が背負われていた。
 そしてその風呂敷の中からは何やら悲鳴のようなものが聞こえてくるのであった。

 ※東方を知らない人のための補足

  総領娘様と呼ばれているのは比那名居 天子、東方緋想天のキャラクターです。
  大地を操る程度の能力を持っています。簡単に言えば地震を故意に起こすことが出来る能力です。


 ~ゆっくり達の生涯『加工場脱出編』~ END                        
                                               作成者:ロウ



 後書き 

 最後まで読んでくださった方々にまずはお礼を申し上げます。
 ゆっくり達の生涯シリーズ第8弾『ゆっくり達の生涯「加工場脱出編」』はいかがだったでしょうか?
 他の職人様のSSを参考にするということもあり、気合を入れて書きました。・・・その結果がこの量だよ!
 しかし霊夢は登場するたびにどんどん守銭奴になっていくorz
 さすがに疲れたので次回は短編SSを1本挟み、その後あまり登場しないゆっくりレティにでも登場してもらおうか
 なぁと思っています。
 グッドエンドのその後はSSが書けそうですね。(書き始めた当初はバッドエンドしか考えてなかったので^^;)

 ちなみに私は余程の長編にならない限り、前編だけをUPするようなことはいたしません。
 昨今SSが大量に投稿されるようになり、以前のSSがどのようなものだったのか読み直すのが大変になっています。
(そう感じるのは私だけ?)
 また、書いている途中で既にUPしたSSを修正しないと矛盾が生じるという事態も避けたいという理由もあります。
 前編だけをUPする職人様を批判しているわけではありません。
 あくまでこれが私のスタイルということです。どうかご了承下さい。 
 wikiへの編集容量が限界に近いので今回はおまけはなしです><。

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最終更新:2008年09月14日 05:53
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