「やっとおじさんとれいむがいったよ」
草陰から一日中青年たちを覗いていたまりさ一家がモゾモゾと出てきた。
この一家も一日中様子を見ているとは相当の暇饅頭である。まあ、それでこそゆっくりと言えるのかもしれないが……
一家が一日中覗いていたのは、何も青年やれいむが気になっていたからではない。
いや、初めこそそれもあったが、今ではそんなことは頭の片隅に追いやられていた。
むしろ、何度も悪口を言われるは、こっちはこんなに一生懸命監視しているのに向こうではそろってゆっくりしているはと、見ていて二人に腹が立ってきたくらいだ。
なら、なぜいつまでもこの場所を離れなかったのか?それは、今の一家の行動がすべてを物語っている。
ゆっくり一家が我先にと向かうは、昼時にれいむが落としたシュークリーム。
そう、一家はこのシュークリームを食べるために、長い間、草陰に隠れてチャンスを窺っていたのだ。
青年とれいむが寝ているすきに取ればいいと思うかもしれないが、もし途中で青年が起きたらどうしようという考えが過ぎり、勇気が出せなかった。
そこで、青年たちが帰るのを今か今かと待っていたのである。
先に飛び出したのは子ゆっくりだが、親のほうが足が早いのは当り前で、父まりさは後方から出たにも関わらず子ゆっくりを追いぬくと、一番手にシュークリームにたどり着き、その一個をパクリと一口で平らげる。
「むーしゃむーしゃ!!! うっめ!! めっちゃうっめ!! しあわせ~♪♪」
子供に分けてやれよと言いたいが、そこがゆっくりクオリティ。
こと食に関しては、自分が最優先だ。
母ありすや子ゆっくりはそんなまりさに文句を言うが、まりさはもう一度このシューを味わいたいと、次のシューに狙いを定める。
そんな父に負けじと、ありすや子ゆっくりたちも、さんざん土まみれになったシューを平らげていく。
「「「「「「むーしゃむーしゃ!! しあわせ~~~♪♪」」」」」」
家族全員のハーモニーが川辺に響き渡る。
それほど、このシュークリームという食べ物は、一家にとって衝撃的な味だった。
正に人生観を変える食べ物と言っても過言ではない。
父まりさや母ありすは、子供たちの口や頬についたクリームを丁寧に舐め取っていく。
普段も子ゆっくりを綺麗にするためよくしてあげるのだが、今日に限っては、少しでも多くのクリームを舐めたいが為の行動である。
「ずるいずるい!!」と、子ゆっくりは子ゆっくりで、他のゆっくりの顔に付いたシューを舐めたり、自分の顔がふやけるまで、舌で舐めまわしたりしていた。
非常に醜い光景だ。所詮、都会派(笑)なんてそんなものだろう。
全員でかかれば、たった数個のシューなど腹の足しにもならず、返って少量を口にしたせいか、いっそうお腹が空いてきた。
一旦食べ物が入れば他のことが考えられなくなるらしく、すでに一家は青年に悪口を言われたことや、れいむがゆっくりしていることに腹を立てることも忘れ、夕食のことで頭がいっぱいだった。
「おなかがすいたよ~!!」とか「もっとほしいよ!!」という子ゆっくりの大合唱に、ありすが「はやくかえってごはんにしようね」というと、一家は父まりさを先頭に巣に戻って行った。
巣に戻ったまりさ一家。
母ありすが巣の保存庫に蓄えてあった食べ物を、巣の中央に持ってくる。
しかし、今朝の朝食時は全員でこれに貪りついた一家だが、今はたくさんの餌を目の前にして、ちびちびとしか口に運ばない。持ってきたありすですらそうだった。
イナゴやムカデは子ゆっくりの大好物だ。父まりさの好物である、キノコもちらほら入っている。
腹が減っていないわけではない。そもそも、腹が減ったから急いで帰ってきたのだ。
それでも一家の顔はなぜか浮かない。
父まりさが自分の大好物である、キノコを口にする。
「むーしゃむーしゃ…………」
朝はこれを食べて「しあわせ~~~♪♪」と叫んだものだ。しかし、今回はそれがない。
子ゆっくりたちも腹が減っているので、浮かない顔をしつつ、イナゴやムカデを口にしていく。
「「「「「むーしゃむーしゃ…………」」」」」」
子ゆっくりたちも、今朝はイナゴやムカデに舌鼓を打っていた。しかし、今回はやはり浮かない顔をしている。
この原因は言わずとも分かるだろう。
昼に嗅いだお弁当のいい香りを忘れることが出来ず、また先ほど食べたシュークリームがあまりにも旨くて、目の前に山積みされた物に今一食欲が湧かないのだ。
さっきのシュークリームに比べたら、今目の前にある代物など、腐臭を放つだけの虫の死骸でしかなかった。
しかしここにはそれしかなく、腹ペコの一家は、仕方がないというように、それらをチビチビ咀嚼していく。
「むーしゃむーしゃ」と、ゆっくり独特の擬音だけが巣に充満し、他に一切の言葉が出てこない静かな食事風景。
騒がしいゆっくりらしからぬ食卓であったが、もう耐えられないと言わんだかりに、一匹の子ゆっくりありすがこの静寂を破壊した。
「もうがまんできないわ。こんなしょくじ、とかいはのありすにはふさわしくないわ!!」
その言葉を皮切りに、ため込んでいたものを吐き出すように、次々と子ゆっくりが口を開く。
「そうよ!! こんなまずくてくさいもの、とかいははたべないわ!!」
「そうだよ!! もっとおいしいものがたべたいよ!!」
「おとうさん!! さっきのおかし、もっとほしいよ!!」
一度、騒ぎ立ててはもう鎮まることはなく、子ゆっくりたちは次々に文句を口にする。
子ゆっくりたちを宥めつつも、その言葉が痛いほどわかる両親。
自分たちだって、さっき青年とれいむが捨てたシュークリームの味を忘れられずにいるのだ。
そんな中、一匹の子ゆっくりまりさが、れいむのことを蒸し返した。
「だいたい、ぐずのれいむがまりさたちのごはんやおかしをたべるのがわるいんだよ!!」
すでにこのまりさの中では、青年とれいむの昼飯やシュークリームも自分の物になっているらしい。盗人猛々しいとは正にこのことである。
その言葉に他のゆっくりにも火が付いていく。
「そうよ!! ぐずのくせして、あんなやわらかそうなものにのるのもなまいきだわ!!
「そうだよ!! ぐずのれいむのくせに、たかいたかいもしてもらってたし!!」
「にんげんはあんなぐずより、ぷりてぃーなありすたちをかわいがるべきなのよ!!」
「だいたいなにがこううんのゆっくりよ。いなかものはやっぱりばかね!!」
「おお、おろかおろか!!!」
一度思い出せばそれこそ湯水の如く思い出し、先ほどの二人の情景がしっかりと頭に焼きついて離れない。
一家はみじめにも青年と子れいむを罵倒することで、その気を晴らそうとしている。
負け組の遠吠えという言葉を知らん奴らは、ある意味最強である。
しかし、どんなに叫ぼうが目の前に食べ物が降って出てくるはずもなく、叫べば叫ぶほどカロリーが消費され、腹が減ってくる。
姉妹たちは腹が減って再び黙りこくると、先ほどこんなものは食べ物ではないと否定したものを口にした。所詮は都会派(笑)だ。
静かにチビチビと食事をしていく一家。そんな食事も中頃に来たころだろうか? 突然、父まりさが何かを決意したように立ち(?)上がった。
「あした、みんなであのにんげんのいえにしょくりょうをうばいにいこうね!! ついでにぐずのれいむもいっぱいいじめてこようね!!」
まりさの言葉に、一瞬場が鎮まるも、すぐに子供たちが同意の反応を示す。
「そうだ!! まりさたちのごはんをたべにいこうね!!」
「おかしもいっぱいたべるわ!!」
「だいたい、あのおうちはありすたちのおうちなのよ!! とかいはのありすたちにこそふさわしいわ!!」
「こんどこそ、ぐずのれいむをゆっくりできないようにしようね!!」
よほど、フラストレーションが溜まっていたのだろう。子供たちがあの夜何をされたかも忘れ、騒いでいる
しかし、母ありすが反対の意を示す。
「まりさ、ありすははんたいよ。おいしいものはたべたいけど、またあのわるいにんげんにこどもたちがころされるかもしれないわ!!」
一応、最愛の子供が殺されたことを忘れていないあたり、親ということなのだろう。
母ありすの言葉を聞いて、騒いでいた子供達もあの惨劇を再認識したのか、再度静まり返る。
しかし、父まりさは得意げな表情を崩さない。あらかじめ、そう言われるのはわかっていたのだ。
「だいしょうぶだよ、ありす。まりさにはひさくがあるよ!!」
「ひさく?」
「ゆっ!! あのにんげんがいないときをねらってはいればいいんだよ!!」
どうやらまりさは、男が仕事に出ている隙をねらって侵入しようとしているようだ。
別に秘策でも何でもなく、至極当たり前なことを言っているが、まりさは得意満々だ。
しかし、母ありすはそんな父まりさの言葉を聞いて、「それはめいあんね!!」と目を輝かせ、頭がいいまりさに再度惚れ直したと言わんばかりに、体を密着させている。
子ゆっくりたちも、「すごいよ、おとうさん!!」と、尊敬の眼差しを投げる。
ゆっくりの知能の低さを窺わせる一場面である。
「あしたはいっぱいゆっくりしようね!!!」
いい気になったまりさは、そんな家族全員の顔を見渡し、宣言した。
翌日の朝、まりさ一家は青年の家の庭の穴に落ちていた。
「さて、お前たち。いったいここに何しに来たのかな?」
取り替えれいむの飼い主の青年が、まりさ一家を部屋に上げ、尋問していた。
家に帰ってきた青年が、穴に落ちているまりさ一家を発見し、この部屋に連れ込んだのだ。
ちなみに、子れいむは離れた部屋でゆっくり休んでいる。
今朝、まりさ一家は早起きをすると、朝食を食べずに青年の家に向かいだした。
朝食は青年の家で取るつもりだったのだ。
まりさ達は、青年の家を監視でき、なお且つ隠れることができる木陰に陣取ると、青年が家から出てくるのをじっと待っていた。
隠れること数十分後。家の玄関が開くと、見覚えのある青年が出てきた。
一度後ろを振り返り「行ってくるよ!!」と、家の中に呼び掛けている。
家の中は見えないが、おそらく子れいむに言っているのだろう。
玄関を閉め、きっちりと鍵を閉めて、職場に行く青年。
そんな青年が見えなくなるのを確認すると、まりさ一家は玄関に向かいだした。
しかし、以前はすんなり侵入できたドアは固く閉ざされている。
子供たちがドアに体当たりをする。しかし、そんなことで破壊できるほど、玄関のドアはやわではない。
子供たちは「どうするの、おとうさん!?」と、訴えると、まりさは今こそ出番と言わんばかりに庭の方に家族を誘導した。
例え玄関から入れなくても、まりさには侵入するための更なる秘策があった。
以前、友人のゆっくりが人間の家の窓は石などで簡単に破壊できると言っていたので、まりさもその手で侵入しようとしていたのだ。
まりさはちょうど手ごろな高さの窓を見つけると、「あそこからなかにはいるよ!!」と、家族と共に窓に近づき、そして……
……窓の前の深い落とし穴に落ちた。
青年が家の門に着くと、庭の方から「くるしいよ~!!」とか「ゆっくりしないでたすけてね!!」といった間抜けな声が聞こえてきた。
青年は例の穴に野良ゆっくりが落ちたのだろうと、庭の方に向かった。
このまりさ一家が落ちた落とし穴、言うまでもなく青年が掘っていたものである。
以前は盗まれる物など何もない家だったが、今ではご利益を生み、最愛のパートナーでもある子れいむがいるのだ。
知人に、ゆっくりは悪知恵だけはよく働くらしく、窓などを割って侵入してくることがあるという話を聞かされていた。
子れいむはとても真面目なゆっくりなので、侵入者が入ったら、追い出そうとするだろう。
気絶させられるくらいならまだいいが、最悪の場合、殺されたり、すっきり!! させられたりしないとも限らない。
れいむはまだ子供なので、万が一すっきり!! させられたら、養分を子供に取られ、絶命してしまう。
そのため、ゆっくりの侵入可能な個所にはしっかりと対策を施してあったのだ。
玄関さえキッチリ閉めれば、後は入れそうな場所は縁側と窓だけなので、その前には落とし穴を掘り、さらに縁側や窓は強化ガラスにして、ゆっくりでは決して入り込めないように用心していた。
まりさ達は間抜けにも、その犠牲者第一号となったのである。
青年が穴の中を覗くと、案の定、ゆっくりが落ちていた。
どうやらゆっくりまりさとゆっくりありすの大一家のようだ。
一番下のおそらく親であるまりさは、早く助けないと家族の重みで死んでしまうだろう。
まあ、どちらにしろゆっくりは穴から出したら処分するつもりだったので死んでいてもどうでもいいのだが……
青年が覗いていることに気づいた一番上にいる子まりさが青年に助けを求める。
「ゆゆっ!? おじさん、まりさたちをゆっくりしないでここからだしてね!!」
子まりさの言葉にみんなが青年に気づき、一斉にここから出せコールを叫ぶ。
青年からすればふざけんなと言いたいところだが、どうせここから出したら殺すのだ。束の間の平穏を味あわせてやろうと、無言でまりさ一家を穴から出してやった。
穴から出された一家。しかし、喜びもつかの間、物置から持ってきた大きな木箱に入れられてしまう。万が一、地面に置いたらそのまま逃げられるかもしれないからの処置である。
そんな青年に、今度は箱から出せと大合唱をするまりさ一家。
父まりさも半日ぶりに、狭く重苦しい穴の中から出れた開放感を、精一杯青年にぶつける。
「おじさん、ゆっくりしないでまりさたちをここからだしてね!! それから、れいむにはあげないで、まりさたちにごはんをちょうだいね!!」
まりさの言葉に青年はおや? と首をひねる。
なぜ、この家にれいむがいることを知っているんだ?
もしかしたら、こいつら家を物色しに来たんじゃなくて、れいむ目当てに来たのだろうか?
もしかしたら、自分の知らぬところで、れいむに危険が迫っていたのだろうか?
箱詰めのまま、一家にそのことを問いただす。
そんな青年の質問に答えることなく、さっさと箱から出せと煩い一家。
青年は仕方がないと、一匹の子ありすを手に取ると、自分の胸元に持ってくる。
無事箱から脱出でき、「おそらをとんでるみたい!!」とご満悦の子ありす。
家族たちも自分の状況を忘れて、「いいないいな!!」と羨ましそうだが、次の瞬間、子ありすの体に電流が走る。
青年がソフトボール大の子ありすを、手で握り締めてきたのだ。
「いじゃあぁいよおおぉぉぉおおぉぉ!!!!」
顔面を歪ませ、泡を吐いて、絶叫を上げる子ありす。
目や口から、少しずつクリームが漏れ出している。
「おじさあああああぁぁぁぁん、やめでえええぇぇぇぇ!!!!!!」
子ありすの絶叫に負けずとも劣らない、母ありすの悲鳴。
他の家族も泣き叫んでいる。
「もう一度質問しよう。お前ら、なんでれいむを知っているんだ?」
「ぞんなごどどうでもいいがら、はやぐありずのごどもをばなじでええぇぇぇ!!!」
「そうか、なら仕方ないな」
青年は更に力を込めて、子ありすを潰しにかかる。
遂に圧力に耐えられなくなったのか、子ありすの片目からクリームが飛び散った。
「いやああああぁぁぁぁぁぁ―――――――、ありずのぷりでぃいなおべべがあああぁぁ――――――!!!!!」
「ありずのごどもがあああああぁぁぁぁぁ――――――!!!!」
「おでえぢゃんのおべべがあああぁぁぁぁ―――――!!!」
うるさい一家にもう一度青年が口を開く。
「もう一度聞こう。ちなみにこれが最後だ。なぜれいむのことを知っている?」
「ぞんなごどより、まりざのごどもをがえじでええぇぇぇ―――――!!!」
「ふう……所詮は饅頭か。恨むなら馬鹿な家族を恨めよ……」
青年はさらに手に力を込める。すでに子ありすの原型は留めていない。
子ありすは体中の穴という穴からクリームをまき散らすと、完全に青年の手の中で絶命した。
完全にまりさ一家はパニック状態に陥った。
しかし、青年はそんな一家の精神状態など気にすることなく、次の生贄を箱から取り出すべく、手を入れる。
これ以上、大切な子供を失うわけにはいかないと、母ありすは恐怖で竦みそうになる体を支え、男に声をかける。
「もうやべてねええぇぇ――――!!! なんでもいいまずがらああぁぁ―――――!!!」
「本当だろうな?」
「ほんどうでずううううぅぅ!!!!」
「なら、なんでれいむがここにいることを知っている?」
「でいぶはありずどばりざどごどもだがらでずううぅぅ―――!!!」
それを聞いて、青年は驚いた。
まさか、あのれいむの家族だとは全く思っていなかったからだ。
人間からすれば、ゆっくりの顔など全く見分けがつかないし、この一家は以前、数匹の姉妹を青年によって殺されているのだ。
再び来るなどだれが思うだろう。青年が分からなくても仕方がない。
しかしそうなると、なぜこんな所にれいむの家族がいるのかが気になった。
この家族は一度れいむを捨てている。今さら返せなどと言うはずはないだろう。
しかも、いくら餡子脳のゆっくりとはいえ、あれだけのことをされて、何度もここに来るのはある意味解せない。
まあ、そこまでの馬鹿だったと言われれば、納得してしまいそうではあるのだが……
何か目的があるのでは? と考えた青年は、とりあえず箱を閉めることにした。
いろいろと聞きたいことはあるが、もしれいむが一家と再会すれば、ショックを受けるだろう。
絶対にあの一家と会わせたくはない。
それに、いい加減れいむは腹を減らして、青年のことを待っているに違いない。
ご飯を食べてれいむが寝た後、じっくりとこの一家を尋問すればいい。
青年は、箱からまりさ一家が出られないことを確認すると、「ただいま、れいむ!!」と玄関のドアを開けた。
れいむは腹いっぱい食事をとると、疲れたからもう休むと言ってきた。
青年はそんなれいむにある物を渡す。耳あてだ
これからあのまりさ一家を尋問しなければならない。万が一、その声が聞こえてきて、れいむが来たらいけないからと、青年が渡したものだ。
れいむは寝るときに何でこんなものが必要なのか? と不思議そうだったが、青年が今夜近くで工事があってうるさいからだというと、特に疑いもなく耳あてをして眠りについた。
れいむが完全に寝たのを確認すると、青年は玄関を出てまりさ一家の入った木箱の元に向かう。
木箱からは一家の喧しい声が漏れていた。
どうやら責任のなすりつけ合いをしているようだ。
「まりさがいこうなんていわなければよかったんだよ!!」だとか「ありすもめいあんっていってたよ!!」だとか「おでえぢゃんん――――――!!!」と、未だ死んだ姉を悲しんでいる者などとにかく喧しい。
青年はそんな一家の入った箱の封を開ける。すると、今までの喧騒が嘘のように静まり返った。
全員が青年を見て、ガタガタと震えている。
「お前たち、今から家の中に入ってもらう。初めに言っておくが、絶対に騒ぐなよ。騒いだ奴はさっきの子ありすと同じ目にあうと思え!!」
青年の恫喝に首をというか体を縦に振るまりさ一家。
箱をキャスター付きの台座に乗せ、家の中に運んで行く。
れいむの寝室と最も離れた部屋に入れると、部屋の扉を完全に閉め、箱を返して、一家を畳の上に投げ出した。
落とされた衝撃で痛そうな一家。青年はそんな一家のことなど気にすることなく、目の前に並べと命令する。
しかし、一家は部屋の一角に集まり、ガタガタと震えて青年の言うことを聞こうとしない。
青年は仕方がないと、そんな一家の元に行くと、一匹の子まりさを手にとって、家族に見せつける。
「もう一度言おう。俺の目の前に一列に並べ。聞かなければ……分かるだろ?」
青年は手に力を入れ、子まりさに圧力を加える。
大して力は入れていないが、子まりさの絶叫が部屋中に響き渡る。離れてはいるが、れいむに聞こえてないか心配だ。
父まりさと母ありすは「ならぶがらやべでえええぇぇぇ――――!!!」と叫び、自身の後ろで震えている子ゆっくりたちを青年の目の前に連れてくると、そこに一列に並んだ。
「な、ならんだから、ゆっくりしないでこどもをはなじでね!!」
「お前らが俺の言うことに正直に答えたら放してやろう」
「ぞんなああああぁぁぁぁ―――――――!!!!」
「お前たち、俺がさっき騒ぐなと言ったのを忘れたのか? 死にたいのか?」
「じ、じにだぐないでずううぅぅ―――!!」
「なら静かにしてるんだな。お前らが正直に俺の質問に答えたら、こいつは解放してやる。分かったか?」
「わがりまじだああぁぁ――――!!!」
青年は両親に質問する。
なぜ再びこの家に侵入しようとしたのか? あの時の恐怖は忘れたのか? 本当に食べ物だけが目的だったのか? 本当はれいむに会いに来たんじゃないのか?
青年の言葉に、涙と涎をまき散らしながら、質問に答える一家。
ここに来たのは偶然だ。おじさんの家だということは忘れていた。ここに来るまでれいむのことは忘れていた。ついさっき、れいむのことを思い出した。
両親は少しでも自分達が有利になるよう、無い知恵を絞って嘘八百を並べていた。
無論、青年には一家が嘘を付いているかなど分からない。
これが人間ならともかく、ゆっくりならあの時の恐怖やれいむのことを忘れていたとしても、何ら不思議ではないからだ。
しかし、青年の直観では、こいつらは確実に嘘を付いている。そこで青年は嘘発見器を使うことにした。
青年は子まりさを握っている右手に力をいてれる。子まりさは悲鳴を上げる。
「ゆうううぅぅ―――!!! なにずるの? まりざのごどもをはなじでね!!」
「俺は正直に答えたら放すと言ったんだが?」
「まりざだぢ、うぞなんでいっでないよおおぉぉぉぉ―――!!!」
「ほう、ならこうするまでだ」
青年は一層力を込める。子まりさの口から少しずつ餡子が漏れてくる。
「ちなみにこいつが死んだら、次はお前たちだからな」
子供たちに言って聞かせる。子供たちは脅え、両親の後ろに隠れようとする。
青年は一層力を加える。
子まりさの悲鳴が聞こえなくなってきた。餡子を漏らしすぎて、悲鳴すらあげられなくなったらしい。
「やめでえええぇぇぇぇ!!!」
「なら、さっさと本当のことを言うんだな」
「いいまず!! いいまずがら、はなじでくだざいいいぃぃぃ!!!!」
「いいだろう。今度嘘をついたら、子供たちは全員処分するからな」
嘘発見器は効果てきめんだ。
一家の言い分が本当なら、なんども嘘ではないと言ってくるだろう。まあ、完全に言っていることが嘘ではないと分かるまで数匹は殺すことになるだろうが、それは別にどうでもいいことだ。
逆に嘘ならすぐに本音を吐いてくるはずだ。饅頭であるが、子供への愛情は人並みにある。子どもの悲鳴を聞いてまで、嘘はつけないだろう。
案の定、嘘を付いていた一家の処分は後で考えるとして、まずは本当のことを言わせる。
無論、手の中の子まりさは解放していない。ただ、力を拭いただけだ。
今度嘘をついたらこいつの命はないと、両親の目の前でチラつかせながら、言い訳に耳を傾ける。
両親ははっきりとしない言葉で、青年に説明する。
昨日、川原でゆっくりしていたら、たまたま青年と愚図のれいむを見かけたこと。
愚図のれいむのくせに、ゆっくりしていたり、美味しいものを食べているのが許せなかったこと。
落ちたシュークリームが美味しすぎて、御飯が美味しくなくなったこと。
この家に侵入して、美味しいものを食べて、愚図のれいむをゆっくり出来ないようにしようとしたこと。
両親が少しでも嘘をついたと思えば、青年はすぐさま握っていた子まりさを締め付ける。
そんなこんなで聞きだしたことだが、一家の言い分を聞いているうちに、青年はとても胸糞悪くなってきた。一家が嘘を付いていなくても、自然と両手に力が入る。
家に侵入して食べ物を奪おうというくだりは、まだ我慢が出来た。
しかし、れいむのことに関しては怒りを抑えることが出来なかった。
つまりこいつ等は、自分等の身勝手でれいむを捨てたばかりか、今を幸せに生きてるれいむに八当たりで復讐しようとして来たのだ。
れいむは、初めこそ青年にとってご利益を生むための道具でしかなかったが、今ではそんなことを抜きにしても、何よりも大切な存在となっている。自分の半身と言っても過言ではない。
青年の怒りで、握られていた子まりさが、一瞬にして餡子の塊に変貌する。
「まりざ(ありず)のごどもがああぁぁ―――!!!!」と何やら騒いでいたが、青年は考え事に夢中で気がつかなかった。。
本当なら、一通り事情を聞いたら、痛みを感じることなく一瞬で殺してやるつもりだった。
こんなクズでも、一応れいむの家族だ。せめてもの情けというやつである。
しかし事情を聞いて、そんな生半可なことでは済ます気はなくなった。
徹底的に苦しめてやる。苦しめて苦しめて苦しめまくってやる。
それこそ、今まで一家がれいむにしてきた仕打ちなど、生ぬるいというくらいの絶望を味あわせてやる。
再び一家を木箱の中に仕舞うと、家の物置に持って行った。家の中はれいむが歩き回るので、声が聞こえたら困るからである。
物置の中にしまい鍵をかけ、家に戻っていく。
青年の頭の中は、ひたすら一家を苦しめる方法を考えることで一杯だった。
最終更新:2008年09月14日 07:16