ゆっくりいじめ系631 ゆっくりマウンテン

ゆっくりマウンテン

  • 以前書いた『ゆっくり焼き土下座』から派生した話ですが、別に読んでなくても大丈夫です。多分。
  • 虐待成分薄め。制裁成分高め?
  • むしろ因果応報系。
  • 終盤、一部パロディを含みます。
↓それでもよろしければ、どうぞ。










 ここは地獄の一丁目……ではなく、地獄でも端の端に位置する場所である。
 そこに、死んだゆっくりの魂が集められる、ゆっくりマウンテンがある。
 ゆっくり達はこの山を登ることで己の罪を清算し、再び蘇ることを許されるのだ。



 ゆっくりマウンテン、山頂。
 ここには大きな光の球が浮かんでいる。この中に飛び込むことで、ゆっくりは転生できるのだ。
「ゆっ! やっとついたよ!」
「がんばったねれいむ! らいせでも、まりさといっしょにいてね!」
「いっしょにゆっくりしていってね!」
 生前からつがいであったれいむとまりさが、光の中に飛び込み、そして消えた。
 罪の清算を終えた二匹は、再びゆっくりとして生まれ変わることを許されるであろう。
「ゆっくりしていってね!」
 また他のゆっくりまりさが光に飛び込む。だがそのゆっくりの魂は他と違い、光の球よりさらに上方へ上っていく。
 ゆっくりには滅多にいないことだが、生前、悪行より善行を多く積んだゆっくりは、ゆっくり以外に転生することを許されるのだ。
 このまりさは来世では、ゆっくりよりもっとマシな畜獣として生まれ変わることだろう。
 光に飛び込むゆっくり達には、疲労の表情もあるが、そのどれもが未来への希望へ満ち溢れている。
「らいせもゆっくりしていってね!」
 そのとおりになるとは限らないが。



 ゆっくりマウンテン、九合目。
 この辺りともなれば、目前の安寧を目指し、ゆっくり達は最後の力を振り絞って山を駆け上がっていく。
「ゆっくりはやくのぼるよ!」
「もうすぐちょうじょうだよ! ずっとゆっくりできるよ!」
「みんながんばろうね!」
 苦楽を共にした仲間を励ましあいながら、ゆっくり達はせっせと登っていく。
 そんな中、一匹の幼いゆっくりまりさが他のゆっくりと共に駆けていた。
「ゆっくりうまれかわって、またみんなといっしょにゆっくりするよ!」
 他のゆっくりの半分程度の大きさしかないというのに、しかしその速度は成体ゆっくりと全く同じだ。
 ゆっくりマウンテンでは、全てのゆっくりの身体能力は同じになる。
 生まれや育ちによって、死後の贖罪に差があってはならぬとの閻魔の配慮である。
 どのゆっくりも、ひとたび跳躍すれば同じ距離だけ跳び、同じ分だけ疲労する。赤子でもドス級でもそれは変わらない。
 よってこのゆっくりマウンテンを登るのに必要なのは、ただひたすら前に進もうとする意気である。



 ゆっくりマウンテン、八合目。
 だがどのような境遇であろうと、怠けるものというのは確実に存在する。
「もうすぐちょうじょうだね! でもあせらずゆっくりしようね!」
「ゆっくりしちぇいっちぇね!」
 ここにいるのは、五匹のれいむの姉妹である。どれも幼く、うち二匹はまだ生まれたてである。
 巣の中で育ち、自然の厳しさを知る前に死んでしまったこの姉妹は、どうにも甘えが抜けていないのだ。
 頂上まで上れば転生できる、というのは分かる。だが五匹は、そうまで頑張る必要もないではないか、と思っていた。
 ゆっくりマウンテンにいる魂たちは、日中と夜は空腹に苛まれるが、翌朝になれば満腹感を得、体力が回復するのだ。
 他のゆっくりに襲われて殺されることもないため、ある意味、最高にゆっくりできる環境だとも言えよう。
 そんな風に思っている姉妹達は、転生することより、ここでゆっくりすることを選んだ。
 焦ることはない。ゆっくり登っていけばいい。それに、もう頂上は目の前なのだ。生き返りたくなったときに急げばいい──そう考えたのだ。
 だが姉妹達は、まだ気づいていない。
 ゆっくりマウンテンの地面は、実は時間経過と共に徐々に下がっていく。
 全方向に伸びる、下りエスカレーターのようなものである。
 その速度は実にゆっくりとしていて、およそ七日で一合分ほど降下する。
 ゆっくりの速度なら一日一合は登れるから、真面目に登っていけばあまり気にする必要のないことではあるが──
「ゆ~……ゆ~……」
「みんなあんなにいそがなくてもいいのにね~」
「ゆっくりしていってね! ゆっくりしていってよー!」
 姉妹達がくつろぎ始めて、既に四日。
 自分達がどんどん山頂から遠ざかっていることに気づくのに、あと何日かかるだろうか。



 ゆっくりマウンテン、七合目。
「ぱちゅりー! がんばって!」
「むっきゅ、むっきゅ、むっきゅ……」
 一所懸命に山肌を登るぱちゅりーを、それより少し上にいるありすが励ましていた。
 ぱちゅりーの速度は、他のゆっくりに比べて明らかに遅い。
 身体能力は横並びになっていても、しかし、生まれつき虚弱なぱちゅりーは、突然得た健常な肉体を使いこなせないのだ。
 そのため、どうしても他のゆっくりに比べて遅れがちになってしまう。
 こればかりは、いかに閻魔と言えどどうしようもなかった。ぱちゅりーという種そのものの業であるが故だ。
 ありすの親友であったこのぱちゅりーにしても、それは同じだった。
「むきゅ~、わたしはからだのつかいかたをおぼえてからおいかけるから、ありすはさきにいってね」
 だからそう言って、ありすを先に行かせようとしたのだが、ありすはそれを拒んだ。
 説得の末、ありすはぱちゅりーより先に行くことを一度は受け入れたものの、結局十メートルほど進んだところで止まってしまった。
「ぱちゅりー! やっぱりぱちゅりーといっしょにいたいわ! ありすはぱちゅりーといっしょじゃなきゃだめなの!」
 そう告げる友の笑顔に、ぱちゅりーは勇気付けられた。そして一刻も早く、ありすと一緒に生まれ変わりたいと思った。
 ありすは、声を張ってぱちゅりーを応援している。ぱちゅりーもそれに応えようとしている。
 ところで、そんなに友人が大事なら戻ってやればいいと思われるかもしれないが、しかしここにもこのゆっくりマウンテンのルールが存在している。
 ゆっくり達は山を登ることはできても、下ることはできない。
 何故ならば、ゆっくりが今いる高さが、ゆっくりの罪の少なさを測る指針そのものであるからだ。
 登った分だけ罪を清算したことになるのだから、捨てた罪の場所に戻ることはもうできない。
 だがもし、ゆっくりがこの山を下ることがあるとすれば──
「のろまなぱちゅりーはじゃまだよ! ゆっくりどいてね!」
「むきゅっ!?」
 大急ぎで駆け上がるれいむが、進路上にいたぱちゅりーを突き飛ばした。
「ぱちゅりぃー!?」
 ありすが叫ぶ。突き飛ばされたぱちゅりーが転び、山肌にその身体を投げ出す。
 転がり落ちてしまう──そう見えたその瞬間、不思議なことが起こった。
「「「────────!!??」」」
 ぐにゃりと空間が歪んだかと思うと、ぱちゅりーとれいむの位置関係が入れ替わった。
 突き飛ばされたはずのぱちゅりーは平然と元の位置におり、逆にれいむが突き飛ばされたかのような格好になっている。
「ゆゆゆゆゆー!?」
 何が起きたか理解できないまま、れいむは山肌を勢い良く転がり落ちていく。
 ──ゆっくりがこの山を下ることがあるとすれば、それはこの山で新たに罪を重ねた場合のみ。
 自分のことを優先し、犯さなくてもいい罪を犯したれいむは、その罪の分だけ山を転がり落ちていく。
 ぱちゅりーとありすは唖然とした表情でそれを見送ったが、やがて気を取り直し、二人一緒に山を登り始めた。



 ゆっくりマウンテン、六合目。
「ゆゆゆゆゆーーーーー!!!!」
 先程のれいむが、まだ山を転がり落ちている。
「ぢぢぢぢぢぢぢんぼーーーー!!!」
「わからないよー! わからないよぉぉぉ!」
「「「「ゆ゛あ゛あああああああああああんん!!!」」」」
 それとは対照的に──まるで落下の逆回しを見ているかのような速度で、山を登っていく集団があった。
 二十匹ほどからなるこの集団は、かつて人里を襲い食物を奪ったゆっくり達である。
 本来なら三合目からの登山を言い渡されるほどの罪であるが、しかし反省が認められ五合目からの登山となった。
 その五合目に来たのが、今から六時間ほど前である。
 ゆっくりが一日のうち、十二時間を行動し、十二時間を眠るのであれば、このゆっくり達はおよそ倍の速度で一合分を走破したことになる。
 それだけ急がなければならない理由が、このゆっくり達にはあったのだ。
 見れば六合目にいるゆっくり達は、どれも大体同じような顔をして、大急ぎで登っていっている。
「「「「「ゆっぐりでぎないよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」」」
 叫ぶ内容も、また同じであった。



 ゆっくりマウンテン、五合目。
「ゆべっぶ!!」
 れいむの転落も、ようやく終わった。
「ゆゆ、いたいよぉ……」
 一体何が起きたのかれいむは理解できていなかったが、確かなのは、転生により時間がかかるということだけだった。
 めげずに頂上を目指そうと顔を上げたとき、
「──ゆ?」
 それが、いや、それらが目に入った。
「どうも」
「清く正しい」
「きめぇ丸です」
「ゆ゛ぅえ゛ぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!??」
 れいむの絶叫に合わせて、きめぇ丸達の首がヒュンヒュンヒュンと風を切って動く。その光景に、れいむはさらに怖気を走らせる。
 気づけばれいむは、十数匹のきめぇ丸の群れに取り囲まれていた。
「おお、このれいむは上から落ちてきたようですね」
「おお、無様無様。何か馬鹿なことをしでかしたんでしょうねぇ? ですよねぇ?」
「いやいや全く、ああ勿体ない勿体ない。自分から転生の機会を遠ざけるなんて、なんてお馬鹿さん」
「おお、お馬鹿お馬鹿」
 普段なら激昂に値するであろう嘲笑にも、れいむはろくに反応を返せない。
 今更説明することでもないが、ゆっくり達にとってきめぇ丸は天敵である。
 そこにいるだけでゆっくりできない上に、自力では追い払えない程度には強い相手だからだ。
 そのきめぇ丸に取り囲まれているこの状況は、れいむにとって果てしなく地獄だった。
 最初三合目から登山をスタートしたれいむは、既に一度この地域を通り抜けているが、それでも恐怖が抜けるわけではない。
「ゆ、ゆ、ゆ、ゆっくりでぎないぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
 いっそ哀れなほどに悲壮な叫び声を上げて、一目散にれいむは逃げ去った。
「フフフ、ゆっくりできないですか、ですよねー」
 それを見て、きめぇ丸達は楽しそうにニヤニヤと笑う。
 このゆっくりマウンテンにいる以上、きめぇ丸達も魂のみと化した存在である。
 頂上に到達しなければ転生できないことにも代わりはない。
 だというのにきめぇ丸達がこんなところにたむろしている理由は、ひとえに「ゆっくりできないゆっくりを見れるから」である。
 ここは言わば、ゆっくりの煉獄である。ゆっくりは罪を贖うため、ゆっくりしている訳にはいかないのだ。
 それは、ゆっくりをゆっくりさせないことを信条とするきめぇ丸達にとって、ある意味天国のような状況なのである。
 そのため、わざわざ生き返ろうとするきめぇ丸は一匹もいない。
 これは完全に閻魔の誤算であり、後ほど、知能の高いきめぇ丸については通常の生物と同様の裁きを行うように変更された。
 しかし既にゆっくりマウンテンに放り込まれていたきめぇ丸については、もうどうしようもないのだ。
 最近では、「これはこれで罰として機能しているから、別にいいか」と閻魔も思い始めているようである。



 ゆっくりマウンテン、四合目。
 ここから下は、上よりも地面に対するゆっくりの割合が高い。
 というのも、性格の悪いゆっくりは他人を押しのけて上に行こうとするため、新たな罪が堆積し続け、いつまで経っても上に登れないのだ。
 悪循環という言葉のいい例である。
「じゃおっ、じゃおっ、じゃおっ」
 そんな中を、一匹のめーりんが登っている。
 基本的に善良であるめーりんが、何故このような場所にいるのかと言えば、ここよりもっと上で他のゆっくりの手助けをしてしまったからだ。
 ゆっくりマウンテンは、己の力のみで登らなくてはならない。
 他者を助けるという行為は、一見すれば善行であるが、それは助けられた者から努力の機会を奪う『甘やかし』である。
 そのため、最初七合目あたりにいためーりんは、まず五合目まで転げ落ちてしまった。
 さらに五合目で、きめぇ丸に怯えるゆっくり達を見て、思わずきめぇ丸に体当たりを敢行してしまったのである。
 それもまた罪とみなされ、めーりんは更なる転落を余儀なくされた。
 しかしそんなめーりんを、体当たりされたきめぇ丸が哀れんだため、一合転落した辺りで止まることができた。
「じゃおっ、じゃおっ、じゃおっ」
 めーりんはそんな境遇に落胆することなく、己の行いに後悔することもなく、ただひたすらに上を目指し続ける。
「ゆっ! くずめーりんがいるぜ!」
 だがそんなめーりんを、まりさ・れいむ・ありす・ぱちゅりーの四匹が見咎めた。
「じゃおっ!?」
「おいくずめーりん! おまえなんかがこんなところでゆっくりしていていいわけはないんだぜ!」
「おちてにどともどってこないでね!」
「このいなかもの!」
「むっぎゅーん! ゆっくりしね!」
 四匹がいっせいに跳びかかる。
「じゃおっ!? じゃお、じゃおー!」
 めーりんは必死な顔で四匹を止めようとするが、四匹はそれをめーりんの怯えと受け取った。
 そして、
「「「「ゆ????」」」」
 四匹がめーりんに衝突したかに思えた瞬間、四匹は何故かひっくり返って岩肌に投げ出されていた。
「「「「ゆぅぅぅぅぅうぅぅうううーーーーーー!!!!????」」」」
 自分が急ぐという理由でもなく、ただ気に喰わないからという理由でめーりんを排除しようとした四匹は、凄まじい勢いで転落していく。
 この速度では、一合目付近まで落ちてしまうことは避けられないであろう。
「じゃおーん……」
 めーりんは悲しげに啼いた。このようなこと、既に一度や二度ではすまないほど起きている。
 七合目付近のゆっくりは既に改心していたり、この山の仕組みを理解している者が多いため、めーりんに余計な危害を加えたりしない。
 だがこの四合目付近のゆっくりは、めーりんを見かけるたびに排除しようとし──そしてさらに落ちていくのだ。
 無論、それはそのゆっくり達が悪いのだから、めーりんが気にするようなことではない。
 だが自分がここにいることそれ自体が、ゆっくりに罪を重ねさせている原因であることもまた確かなのだ。
「じゃおっ、じゃおっ、じゃおっ……」
 だからめーりんは、一刻も早くこの場を離れようと、山を登り続けるのだった。



 ゆっくりマウンテン、三合目。
「みんな! ゆっくりがんばってのぼっていくよー!」
「ゆっ! どすについていくよ!」
「がんばろうね!」
 ここには、ドスまりさとその周りにいるたくさんのゆっくりの姿を見ることができる。
 雪崩によって全滅したある群れが、そのまま閻魔の裁きを受けることになったのだ。
 しかしそこで、群れの一部が人里で盗みを働いていた事実が発覚する。
 それにより、盗みを働いたゆっくりと、それを看過していたゆっくりは、この三合目まで落とされたのだ。
 その事実を知らなかったその他のゆっくり達は、ドスの教えに従い人間に迷惑をかけることなく暮らしていたため、六合目からの登山を許された。
 しかしドスまりさは、群れのリーダーでありながらその事実を知らなかったことを咎められ、三合目からの登山となった。
 だがドスまりさはその裁きに納得していた。
 生前導けなかった群れの仲間を、今ここで導くことが自らの責務と思えたのだ。
「みんな! がんばってね! またみんなでいっしょにゆっくりするよ!」
 ドスまりさは皆を励ましながら、同じ速度で登っていく。
 速度を落としているのではなく、ドスもまた同じ身体能力に揃えられているからである。
 そのため傍目には、体躯に反してひどくのろまであるようにも見えた。
「ゆっ、ゆっ、ゆっ、ゆっ」
 群れはそうして、同じ速度でゆっくりと山を登っていたのだが、
「ゆーっ! もうつかれたよ! うごけないよー!」
 若いまりさが、地面に突っ伏して疲労を訴えた。
「ゆ! れいむもだよ! もうここでやすもうよ!」
「ゆっくりしようよー!」
 それを見て、他の何匹かもまた同様の訴えを起こした。
 無論、ただの我が儘である。体力が同じなら、動けなくなるタイミングも同じはずだからだ。
「ゆっ! だめだよ、がんばってのぼって! ちゃんと、みんなでいっしょにゆっくりしなきゃ!」
 ドスは動かなくなったゆっくり達を励ますが、皆ふてくされたように動こうとしない。
 動かないのは、主に盗みの実行犯や、まだ若く甘えの抜けないゆっくり達であった。
「ゆっ! そうだよ!」
 そのうちの一匹が、何か閃いたように身体を起こした。
「どうしたの?」
「どすにのせていってもらえばいいんだよ!」
「ゆ゛っ!?」
 うろたえたのはドスまりさである。しかし他の我が儘ゆっくり達はそれに賛同した。
「さすがれいむだよ! あたまいいね!」
「どす! ぼうしのうえにのせてね!」
「のせてね!」
「だだだだだだだめだよぉぉぉぉぉ!!!」
 近づいてくるゆっくりから、ドスまりさは必死になって遠ざかる。
 そんなことをしたら何が起きるか、歩きながらも周囲のゆっくりを観察していたため、理解しているのだ。
 しかし我が儘ゆっくりはそれを知らない。
「どーして!? まえはいつものせてくれたじゃない!」
「けち! どすまりさのけーち!」
「もういいよ! かってにのるよ! ぷんぷん!」
「だめぇーーーー!!!」
 ドスまりさの懇願も虚しく、ゆっくり達はいっせいにドスまりさの髪の毛に噛み付き、
「「「「「「ゆぁーーーーーー!!!???」」」」」」
 当然のように弾き飛ばされ、山肌を転がっていった。
「だから……だめだっていったのに……」
 落ちていく仲間を追いかけることもできず、ドスまりさは悲しげに呟いた。
 残った他の仲間達も、同じ表情で見ている。
「むっきゅ、しかたないわ……あのこたちがわるいんだもの……」
「どすがきにすることじゃないよ。だいじょうぶだよ、みんなまたのぼってこれるよ」
「ありがとう……」
 群れはしばらく、仲間が転がっていった方向を見ていたが、やがて一匹、また一匹と登山を再開した。
 最後にドスまりさが登り始める。後ろ髪を引かれるように、何度も振り返りながら。



 ゆっくりマウンテン、二合目。
 この辺りともなると、より性格の悪いゆっくりの数が増えてくる。
 この山に放り込まれるのは、まだ矯正の見込みがあると見なされたゆっくりばかりだ。
 矯正の見込みがないとされたものは、こことは比べ物にならないくらい厳しい罰を受けている。
 正しい心と行いを以て山を登るだけで転生できるというのは、ある意味破格の条件であろう。
 だが山を下るに従って、悪辣なゆっくりの数は増えてくる。
 生前は大きな罪を犯さないまま死んだとしても、それは機会がなかったからで、充分に悪辣なゆっくりというのもこの山には存在する。
 ある意味、この山はゆっくりが二度目の生を送る場所なのである。
 ただしここは、かつていた場所ほど思い通りにはならない場所なのだが。
「「「「「「ゆべべっ!!!」」」」」」
 先程ドスまりさを頼ろうとしたゆっくり達が二合目まで落ちてくる。
「ゆぐぐ~、いたいよ~」
「ゆっぐりでぎながっだぁぁぁ!!!」
 顔を打ち付けた痛みにそれぞれが泣き叫ぶ。魂だけでも痛みはあるのだ。
「それもこれも、どすがのせてくれなかったせいだよ!」
 一匹のまりさが怒りもあらわにそう口にする。
 それを皮切りに、他のゆっくり達もいっせいにかねてからの不満を口にした。
「そうだよ! どすのせいだよ!」
「だいたいまえから、れいむたちになんでもかんでもいいすぎだよ! あれじゃゆっくりできないよ!」
「どすがどしゃくずれにきづけなかったせいで、みんなしんじゃったんだよ!」
「やくたたずのくせにりーだーづらして、ひどいやつだったね!」
「あんなやつ、もういちどしんだほうがいいよ!」
 地団太を踏みながら口々にドスまりさの陰口を言うゆっくり達であったが──
「「「「「「ドスまりさは、ゆっくりしね!!!!!!」」」」」」
 有無を言わさず、再びゆっくり達は山肌から弾き飛ばされた。
 ここでは、閻魔が罪と判断したあらゆる所業は成立しえない。
 罪に対する処罰が即座に下り、結果、罪を重ね続けるゆっくりはいつまで経っても山を登りきることができない。
 例えば、
「んほぉぉぉぉぉぉぉ!!! すっきりしようねぇ、まりさぁあああああああ!!!」
「やべでぇえええええええええええ!!!」
 ここに、まりさをレイプしようとする一匹のありすがいる。
「いぐっ、いぐっ、ずっぎりしぢゃううぅぅぅううう!! ああー! すっき──り?」
「……ゆ?」
 今まさにすっきりしようとしたその瞬間、ありすからは快楽の波が消え去り、さらに身体は宙に浮いていた。
 そして腹の底から、すっきりできなかったがためのむず痒さがじわじわと這い上がってくる。
「どうじでずっぎりでぎないのぉぉぉぉおぉ!!!???」
 姦淫の罪を犯そうとしたありすは、こうしてさらに山を下っていくこととなった。
「ゆっ! ばかなありすなんだぜ! このまりささまをおかそうなんてひゃくねんはやいんだぜ!
 そこでえいえんにゆっくりしていってね!」
 そしてありすの悪口を言ったまりさも、また落ちていった。



 ゆっくりマウンテン、一合目。
 ここから下は、ゆっくりマウンテンでも一番の混沌と叫びにまみれた場所である。
 下から来たれいむが、上のまりさを押しのけようとして落下し。
 それを嘲笑うまりさもまた落ちていく。
 懲りずに姦淫に耽ろうとするありすも落ちていく。
 争うゆっくりを眺め、思わず憎まれ口を叩いたぱちゅりーも落ちていく。
 前を行くちぇんに嫉妬して、尻尾に噛みついたみょんも落ちていく。
 落ちてきたみょんを口に入れようとしたゆゆこも落ちていく。
 寝てばかりいるれてぃは、あと一週間もすればゆゆこと同じ場所まで下っていくだろう。
 そしてその行き着く先は──



 ゆっくりマウンテン、麓。
 そこにあるのは平原などではなく、沸騰寸前まで熱されたお汁粉の湖だ。
「ゆびぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
「あぢゅいよぉぉぉぉぉ!!!」
 落ちてきたゆっくりが湖に落ち、叫びを上げる。
 だが岸に近い場所に落ちたゆっくりはまだいい。なんとか自力で這い上がることができるからだ。
「んほあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
 先程二合目から転がり落ちてきたありすは、勢いがつきすぎていたため、水面を跳ねるようにしてより遠い位置に落ちた。
 これでは、山に戻ることさえままならない。
「あづいいいいいいい……!」
「だずげでぇええええ……」
「ゆっ、ゆっ、ゆっ……」
 湖は、そんなゆっくり達で満たされている。
 夕暮れ時となった今、もはや叫ぶ体力もろくに残っておらず、ゆっくり達はひたすら低い声で喘ぐばかりだ。
 顔を上に向けて、茫洋とした表情でただ空を見つめるばかりだ。
 だがそんなゆっくり達も、一時的に活力を取り戻す瞬間がある。
 ギィ、ギィと船を漕ぐ音が、ゆっくり達の耳に届いた。
「ゆっくりだずげでぇええええええ!!!」
「ごごがらあげでぐだざいいいいい!!!」
「おねがいじばずぅぅぅぅうううう!!!」
 口々に、船に向かってゆっくりは叫ぶ。
 その小さな船に乗っているのは、櫂を咥えたゆっくりこまちと、どうやって保持しているのか、勺を持ったゆっくりえーきである。
 ちなみにこのえーきとこまちも魂だけの存在だが、きめぇ丸と違い、ちゃんと地獄に雇われている身である。
 ゆっくりのことはゆっくりに任すのが良いと判断されたためであった。
 えーきは叫びに耳を貸さず、湖に浮かんでいるゆっくり達を順に眺めていく。
 そして船が、一匹のれいむの前で止まる。
「だずげでぐだざい! おねがいじばずっ!」
「はんせいしたかー?」
「じまじだっ! れいぶがわるがっだでず! もうほがのゆっぐりのじゃまじだりじまぜんっ!」
「んー……」
 えーきはしばらくれいむを眺め、そして、
「よいぞっ!」
 勺を立てると、その動きに釣られるようにれいむの身体が湖から浮き上がる。
「ありがとぉぉぉお!!!」
 れいむは感謝の言葉を述べながら、不思議な光に包まれて、山のほうに飛んでいった。
 えーきはそれを見てにっこり頷き、またこまちに指示してお汁粉の湖を渡り始める。
「どうじでれいぶはだずげでぐれないのぉぉぉぉぉ!?」
「いがないでぇえええ!!! だずげでぐだざいいいいい!!!」
「やだぁああああああ!!!」
 後ろから放たれる哀願の声にも、えーきは耳を貸さない。
 この湖には、えーきとこまちが百八組放たれており、それぞれが閻魔から授かった仕事をこなしていた。
 えーきには、閻魔の手によって、他のゆっくりの罪悪感を知る程度の能力が与えられている。
 えーきとこまちの仕事は、こうして毎日お汁粉の湖を渡り、きちんと反省したゆっくりに再びチャンスを与えることだ。
 なので反省していないゆっくりに欠ける情けなど微塵もないのである。
「どうじであんなれいぶをだずげでまりざはだずげでぐれないのぉぉぉぉ!!??
 はやぐだずげろ、ごのばがああああああ!!!」
「…………」
 同時に、罰を与える権能も僅かながら与えられている。
 こまちの船が、醜い罵声を放ったまりさの前に横付けされる。
 えーきはまりさを、何かを見定めているようにじっくり眺めている。
「なにみでるのっ!? はやぐだずげろっ!! だずげないならじねええええ!!」
 見ているだけで一向に何も言わない二匹に、まりさは激昂する。
 この湖に落ちて、もう二週間以上。既に限界だった。
「だずげろっ! ごのぐずっ! だざいぼうじなんががぶっでぢょうしのっでんじゃねぇえええええ!!!!」
 真っ黒な憎悪を込めてまりさが叫んだところで、えーきは告げた。
「 堕とせ 」
 その瞳に光はない。
 こまちはすぐさま応じた。
 咥えていた櫂を高らかに持ち上げると──勢いよくまりさに向かって振り下ろす。
「ゆべぇっ!」
 まりさの顔がへこみ、身体が沈む。
 それからも立て続けにこまちの櫂が炸裂する。
「ゆべっ! べびっ! びゅッ! びゅっ!」
 身体が沈みきり、見えなくなったところで、こまちが櫂に船が傾くほどの力を込める。
 しばらくお汁粉の表面はぶくぶくと泡立っていたが、やがてそれも絶えた。
 こまちは無言で櫂を引き抜き、再び船を漕ぎ始める。
 周囲は、しばし静寂に包まれていた。



 ゆっくりマウンテン──マイナス十合目。
「ぶびゃっ!」
 お汁粉の湖の底まで沈んだそのまりさは、何故か地面の上に落下した。
 湖の下に水底はなく、広い空間が広がっていたのだ。
「ゆぎぎぎ!! あのくそえーき!! ここからもどったら、ゆっくりしかえししてやるぜ!!!」
 憎悪も新たに、まりさは猛る。
 だがはたと気づく。戻るといっても、ここはどこだ?
 ──その答えはすぐに与えられた。
「ぶぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
「ごぼぼぼぼぼぼおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「ぎゃっべ、ごべっ、びぎゃっ、っぎゃあああああああああああああああああああああ!!!!」
 絶叫。
 空間中に轟く絶望の咆哮。
 身を強張らせたまりさが見たのは、そこかしこで繰り広げられるゆっくり達の大虐殺であった。
 怖ろしい姿をした鬼達が、金棒や素手でゆっくりを潰して回っている。
「ゆぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」
 まりさは思わず後ずさる。だがその背中が、何かにぶつかった。
 振り返ると、それは大きな石臼だった。
「アそーれ、アそーれ、アぁどっこいしょー!」
 その横では、鬼が巨大な杵を臼に向かって振り下ろしている。
「ゆーゆゆゆーびぇっ! ……ゆーんゆーゆっびゃ! ……ゆゆーゆゆーんぼっ!」
 臼の中では、一匹のまりさがひたすら潰されている。
 まりさは杵の一撃を受けるたびに餡子をぶちまけて絶命するが、しかし鬼が杵を振り上げるたびに再び蘇る。
 潰されるまりさは、何かに取り憑かれたように歌い続けている。その瞳に正気の色はない。
「っこらしょー!」
「ゆんびゃっ!」
 一際強く杵を振り下ろしたところで、鬼は一息ついた。
「ハァ、遣り甲斐のねぇ仕事だこと。なんの反応も返さないし。かといって他のも弱っちいしなぁ。
 あーあ、人間殺す仕事に戻りてぇ。まだしも、あっちのほうが歯応えあるって話だよ」
 ぼやきながらも、再び歌うまりさに向けて杵を振り下ろす仕事を始めようとして、
「ン?」
「あ、あ、あ、あ……」
 臼の陰で震えている、別のゆっくりの姿に気づく。
「ンだ、新入りか。おぅい! 新しいのが来たぞー! そっち連れてけー!」
「あいよー!」
 別の鬼が、まりさを回収するために足を向けたその直後、
「ゲットだぜぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「ゆぅぅぅぅぅ!!」
 スライディングで割り込んできた人間が、まりさを横から掻っ攫っていく。
「「げぇっ、虐待お兄さん!」」
 呼んだ鬼と呼ばれた鬼の声が重なる。
 まりさは、立ち上がった虐待お兄さんの顔の高さまで持ち上げられた。
 にっこりと虐待お兄さんが笑う。助けてくれた。まりさは一瞬そう思った。
「ゆっくりしていっ」
「 少 林 寺 撲 殺 拳 ! ! ! 」
「でぶぇっ!!??」
 直後、まりさは粉砕される。
 まりさの意識が途絶え、しかし一秒後には再び元の身体を取り戻していた。
「ゆっ? ゆっ!?」
「フラッシュ・ピストン・マッハパンチ!!!」
「ゆぼぉっ!!!」
 戸惑っていると、あまりの速さに十本に分裂した右ストレートが、全方向からまりさを叩き潰す。
「……っぶぁぁぁぁあ!!!??? どうなっでるのぉぉぉぉぉぉ!!!???」
「豪ォォォ熱!!! マシンガンパンチパンチパンチパンチパンチィィィーーーーーー!!!!」
「ぶぎゃべぎぼごばぎゃあああああ!!! ……あ゛あ゛あ゛あ゛!!! どうじでまりざじなないのぉぉぉぉぉ!!!」
「一・撃・必・倒!!! ディバィーンバスタァァァァァァァァ!!!」
「ぼびゅうぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!???」
「T-LINKナッコォ!!!!」
「ちぇ・げばらっ!!」
「ファールコーンパーンチ!!!」
「どぼふ!!!」
「フタエノキワッミ!!! アーーーーーーー!!!」
「ぴぎゃあああああああああああ!!!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァァアアア!!!!」
「ヤッダーバァァァァア!!!」
 ボグシャア、とまりさが地面に落下し、しかし一秒で全ての傷が癒える。
「フゥ……ンッンー、久しぶりだからちょっと殺リすぎちゃったカナッ☆」
 実にいい笑顔で汗を拭う虐待お兄さんであったが、たまらないのは鬼達である。
「テメェエエエエ!!! また地獄抜け出してきやがったなあああああ!!!」
「来るなっつってんだろ! 仕事邪魔すんなっつってんだろ!」
「大人しく転生してよぉ! 頼むから!」
 生前、あまりに多くのゆっくり(万単位)を殺したお兄さんは、当然のように地獄に落とされたのだが、
「この程度! ゆっくりを虐められない苦しみに比べたら! なんでもないんだよォォォォォォォォォォォ!!!」
 と言って、たびたび地獄を抜け出しては、ここ──『ゆっくり専用無間地獄』にやってくるのだ。
 ここのゆっくり達は、正気を保ったまま一万回死ぬまで転生することはない。しかし逆に言えば、その間は殺したい放題なのである。
 主に直接的手段によってゆっくりを虐待することを好みとしていたこのお兄さんには、まさに天国のような場所である。
 が、鬼達にとってはたまったものではない。鬼にもノルマが課せられており、それを達成しなければこの場所を出ることはできないのだ。
 ゆっくりの相手など、正直鬼にとっても願い下げなのである。
 なので早々に終わらせて早く転属したいのだが、お兄さんに殺された分はカウントされないので、お兄さんがいるとその分転属が遅れるのだ。
「ウルセェ────────!!! ゆっくりがいなきゃどこだって地獄だあああああ!!!」
「逆ギレすんじゃねぇよ! 帰れよ! あと死ねよ!」
「いや殺すッ、ここで殺してやるッ!!! そしてさっさと転生しやがれぇええええええ!!!」
「やってみろ! ことゆっくりに関しては、俺は神にも勝てる自信があるッ!!!」
「ほざけ! ウォォォォォ!!!」
「ぬわりゃあああああああ!!!」
 とうとうお兄さんと鬼達が乱闘を始めた。
 その足元では、さっきのまりさが逃げ遅れた他のゆっくりと一緒に踏み潰されまくり、既に五十回ほど死んでいる。
「ゆっゆーんゆー、ゆゆっゆーんんー♪」
 気の狂ったまりさの歌い声が、阿鼻叫喚の地獄に響いていた。



 このようにして、地獄は今日も地獄絵図である。



 なお虐待お兄さんは、後日正式に転生し、虐待鬼さんとして新たな生を得たとか得ないとか。








  • あとがき
 テラカオス

 この話は、焼き土下座のときにチラッと出した『ゆっくりマウンテン』の話です。
 特に深く考えてたわけじゃなかったんですが、なんの気まぐれか書いてしまいました。
 しかしこれ、虐待にも制裁にもなりえない話だなぁ……
 制裁というのは、罪に対して過剰・過激な罰が与えられるくらいが楽しいと勝手に思っています。



 ちなみに九合目の子まりさ、六合目の逃げるゆっくりの群れ、無間地獄の歌うまりさは、多分皆さんが想像している通りのゆっくり達です。
 あとこの虐待お兄さんの名前はきっとギャクターイ・アニメスキーとかそんなん。







  • 今までに書いたもの
 ゆっくり実験室
 ゆっくり実験室・十面鬼編
 ゆっくり焼き土下座(前)
 ゆっくり焼き土下座(中)
 ゆっくり焼き土下座(後)
 シムゆっくりちゅーとりある
 シムゆっくり仕様書
 ゆっくりしていってね!


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最終更新:2008年09月14日 08:01
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