※ゆっくり以外のネタが、若干含まれています。
※専門的知識がありませんので、マユツバ&SFチックな展開になっております。

 前世紀、科学技術の目覚しい発展により、ついに人類は宇宙空間へ進出した。人跡未踏
の空間への関心は高く、実験と称し、数多くの動物達がスペースシャトルなどの宇宙船に
より、宇宙へと送り出されてきた。無重力空間という、非日常的な状況下にあって、地球
生物の体にどのような変化が生じるのか、これは大変意義深いプロジェクトといえた。
 そんな中、生物実験の対象として選ばれた生き物があった。すなわち「ゆっくり」であ
る。これらは構造的には「まんじゅう」という和菓子に酷似しており、そもそも生命体で
あるのか、食物であるのかよく分かっていない連中である。「ゆっくりしていってね!
!!」という標語を唱えることを旨とし、ほうっておけば日がな一日、文字通りにゆっく
りし続ける。特に体も動かさぬのに、すぐ腹を減らし、他人に食い物をねだる。倫理的に
度し難いほど怠惰な生き物なのである。昆虫に劣る知能しか持ち合わせておらず、輪をか
けて愚鈍である。野生の世界において、よくまあ命をつなげてこられたとお思いになる事
であろう。このまんじゅうどもの唯一の武器は、その繁殖力なのである。出産の形態には
二通りあるのだが、そのうちの一つ、「植物型」と呼ばれる出産法は恐ろしくインスタン
トなものであり、交尾から数日経過した時点で、自立的に行動しうる幼体が誕生するので
ある。このようにして現代、鼠算式に増え続けたゆっくりは、様々な社会問題を生み出す、
主たる要因の一つであった。そして、ある学者が気付いたのである。「宇宙に捨てればよ
くね?」と。

 この学説は一長一短、賛否両論であった。確かに激増するゆっくりを処理する目処が立
つという意味においては有用だったのだが、宇宙ゴミをますます増やしてしまうことにも
なるわけで、発表以来、国家レベルの議論が続けられていた。そして、ようやくひと段落
し、ためしに宇宙へ送ってみようということになったのである。
「捨てぬか」
「う、うむ」
「捨ててみぬか」
「うむ」
「捨てよう」
「捨てよう」
そういうことになったのである。
 かくして、宇宙に送られるゆっくりの選抜作業が開始された。まさか「試しに宇宙に捨
ててみる」と本音を語る事は出来ないので、名誉ある「宇宙飛行ゆっくり」を探している、
と近辺の群れに触れて回り、有志を募る事になった。最終的には、首都近郊の森林に住ま
う、ぱちゅりーを筆頭とする群れの中から選抜されることになった。

「君達にお願いするが、体力・知力ともに優れたゆっくりを紹介してもらえないか?」

「むきゅっ!!おにーさん、それならぱちゅがいちばんよ!むれでいちばんあたまがいい
のは、このぱちゅをおいてほかにないのよ!!」

「いやいや、頭は良いかも知れんが、君には体力がなさすぎる。他の者を頼むよ」

「きゅうっ…それじゃ、ゆっくりちぇんはどお?すばしこくて、れみりゃをおいはらった
こともあるのよ!!」

「うーん、あいつは分かってるフリした馬鹿だからなあ。やはり他の者を頼むよ」

 本当に話を聞いていたのか、疑いたくなる。どっちもと言ってるのに。紆余曲折あって、
選び出されたのはゆっくりまりさとれいむのつがいであった。体力・知力ともに平均以上
だったし、実験しては初回を迎えるわけだから、出来る限り一般的な種類のゆっくりであ
ることも、条件のうちにあったからである。群れを挙げて送り出されるまりさ&れいむ。
まりさと仲良しのありすなどは号泣していたものの、同胞の運命を知っていたわけでは当
然ない。腕の中でふんぞり返る二匹が、これほど小さく、みじめなものに思えたことはこ
れが初めてであった。宇宙って広いんだもんなあ~。

 選抜から一年間、二匹のゆっくりは過酷な訓練を耐え抜いた。いくら宇宙に投棄すると
は言え、生物実験も兼ねるわけであるから、野生そのままの状態で送り出すわけにもいか
なかったからである。すっきりすることも、ましてやゆっくりすることも許されぬ時間が
続いたが、ようやくそれも今日で終わった。二匹にはご褒美のオレンジジュースと、フレ
ンチトーストが振舞われた。一年ぶりに口にする、至福の「あまあま」であった。

「ゆっ!まりさ、れいむたちとうとううちゅーへいくんだね!!れいむどきどきしちゃう
よ!!!」
「ゆふふっ!れいむはおちつきがないんだぜ!まりさはもう、かえってきたあとのことを
かんがえて、すごくゆっくりしてるんだぜ!!」

 にこにこ顔で言葉を交わす二匹。しかし、出発するが最後、二度と大地を踏む事はない
のである。私が直属の上官となって、二匹に指令を下す立場となった。あくまで建前は、
ゴミではなくて名誉ある「宇宙飛行ゆっくり」なのである。

「よし、今日はもう就寝しろ。それから出発当日は外国の宇宙飛行士と同乗することにな
るから、粗相のないようにするんだぞ。返事は"Yes,sir!"だ。わかったな。」

「「いえす、さー!ゆっくりりかいしたよ!!!」」

「よし。試しにやってみるぞ。ヘッロー、エッブリワ~~ン!」

「「ゆっ!!!!!」」

 とにかく、私の務めも明日が最後なのである。かたいベッドに身を横たえ、帰投後のこ
とを考えるうち、私は眠りに就いていた。ゆっくり達も、既に夢の世界にあるようだった。

 翌朝、宇宙ステーションでは既にロケットの発射準備は完了し、後は乗組員の搭乗を待
つだけになっていた。ゆっくりを含めた総勢10名の宇宙飛行士達が、今しも、リフトから
船内へ乗り移ろうとしている。少し離れた館内のデッキには、大勢の見送りの者が来てお
り、中にはゆっくりの群れから、代表者のぱちゅりーや、ありすなどの姿も混じって、一
様に国旗を振り回していた。

「れいむ!!ゆっくりのなまえをけがさないように、しっかりやるのよ!!!」

「ばりざあああああ!!!ありずのごどわずれないでねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

 もはや声援も届かぬ距離ではあったが、見送りゆっくりの過剰なボディー・ランゲージ
のため、それに気付いた二匹もにこやかな微笑みを返す。

「ゆっ!!れいむがんばるよ!!のーべるしょうをもっておうちにかえるからね!!!」

「まりさもがんばるんだぜ!!ありす…いいおんなだったんだぜ!!たっしゃでくらすん
だぜ!!」

 別れの挨拶もそこそこに、私は二匹を抱えて、船室の特別製のシートに据えてやった。
シートベルトを締めてやると、十字に紐をからげたお土産か何かの様で、いささか苦しそ
うではあったが、生命維持には欠かせぬものと説き伏せた。同乗したアメリカ人の飛行士
が二匹のゆっくりを見て、とても驚いていた。和菓子に目がない男であり、「このまま捨
てるのはもったいないな」と私に耳打ちした。

 いよいよ発射の時とあいなった。激しい振動。ここで問題が発生する。当然、それはゆ
っくり二匹に限られた事なのである。

「「ゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆ゛」」

 シートベルトでがんじがらめとなった二匹のゆっくりを強烈な揺れが襲う。見ればアヘ
顔となり、発情してしまっていた。一年の間、禁欲生活を強いられ、過剰に性的なフラス
トレーションが溜まってしまっていたので、まあ想定の範囲内の事である。自動的に伸び
てきたロボットアームが、二匹に鎮静剤を注射した為、たちまち静かになる。

「おにいさん!れいむすっきりしたかったよ!!」

「そうなんだぜ!!どうしてすっきりさせてくれないんだぜ!!」

「はいはい。この任務が終わったらな。お前達は英雄になるんだろ?だったら任務に集中
しろ。すっきりはその後だ」

「ゆぅっ!にんむ!!!」

「そうだったんだぜ!!まりさたちはえーゆーをめざしてたんだぜ!!」

 乗せられ易い二匹。それはともかく、点火したロケットは次第に速度を増してゆく。揺
れに加え、物凄い重力が乗組員を襲う。その力の影響を受けるのは、むろんゆっくりも例
外ではない。

「ゆぎぎぎぎぎ!!!な゛にごれ!!!ぎいでないよおおおおおおおおお!!!!!」

「おにいざん、ゆっぐりやめるんだぜえええええええええええええ!!!!!」

 これまで訓練を重ねてきたゆっくりとは言え、この状況は過酷であったらしい。ゲロゲ
ロという音が響き渡る。どうやら嘔吐しているようだ。すかさず、ロボットアームがオレ
ンジジュースを注射する。こんな段階から既に虫の息と言うのでは、これから先が思いや
られたのであるが、そもそもこの饅頭達に「先」はないことを私は思い出し、安堵した。

 ロケットが宇宙空間へと脱出し、軌道に乗った頃、既に船内は無重力状態である。二匹
のゆっくりは嘔吐したばかりとは思えぬほど、その状況を楽しんでいた。訓練の成果など、
結局その程度のものである。その時私は、一年と言う時間が確実に無駄になったのだと悟
った。

「ゆっっ!!おにいさん、まりさたちういてるんだぜ!!すごいんだぜ!!!」

「ゆぅぅ、おそらをとんでるみたい!!すごくゆっくりできるよ!!」

 おきまりのセリフが炸裂する。お空どころか、突き抜けた先を漂っているのであるが、
餡子のつまった頭では、到底理解できないだろう。キャッキャと笑い声をあげ、ぷーかぷー
かなどとはしゃぎまわるれいむ&まりさ。おもむろに船長が、私達ゆっくり班に船外作業
を命じた。

「よし、それでは一度船外へ出てみてくれたまえ。れいむ隊員、まりさ隊員に頼もうか」

「「ゆっっっ!!!!!」」

 だから、そこは「はい」だってば。これも幾度となく、噛んで含めるように聞かせたの
であるが、とうとう分からずじまいとなった。しかし、これが最後の「ゆっ」である。私
は二匹に指示を下し、宇宙服を着させる。私の所属する宇宙センターは予算が乏しい為、
ゆっくり専用の宇宙服などはあつらえてもらえなかった。人間用の宇宙服の、ヘルメット
部分におさめるのである。スーツを着用した二匹のゆっくりは骨なし・頭でっかちのギン
ギラギンであり、一見するとかの有名な宇宙人の姿を想起させる。その奇怪な二人組みを
エアロックに閉じ込め、私はおごそかに命じた。

「それでは、これより船外の様子を偵察してきて貰う。これは成功すれば前人未到の偉業
となるはずであるから、しっかりやるように」

「「ゆっくりりかいしたよ!!!」」

 タメ口も直っていない。それはともかく、宇宙船は二匹のしゃべる饅頭を船外に排出し
た。宇宙服に内蔵されたレシーバーを有効にすると、二匹のあのキンキン声が響いてくる。

「ゆゆっ!!おにいさん、あれがれいむたちのちきゅーなの!?」

「ああ、そうだよ。丁度、弓形になってるあの島からここまで来たんだ」

「ゆみってなあに!?ゆっくりできるもの?」

 私は既に疲れ切っていたので、通信を切り上げ、船室に戻った。丁度窓の外に、二匹の
ゆっくりの姿が見えている。船長からの合図があり、私はとうとう、二匹に最後の指令を
下す事となった。

「れいむにまりさ。お前達とはここでお別れだ」

「ゆっ!!?おにいさん、ばかなこといわないでなかにいれてね!!」

「そうだぜ!!さっさとここをあけるんだぜ!!」

「ここを開けたら我々の命がない。とにかく、お前達への最後の指令だ。ヘルメット内に
取り付けた、赤いスイッチを押せ。そうすれば、とてもゆっくりする事が出来るぞ」

「ゆっっ!!?まりさゆっくりしたいんだぜ!!ゆっくりしないでおすんだぜ!!」

 何かもうしんどい。ヘルメット内のスイッチというのはつまり、毒ガスを噴射・充満さ
せるためのスイッチであり、背中のガスタンクとパイプを介して通じ合っている。毒ガス
というのはつまり、ゆっくりれみりあの屁なのであるが、これを集めて液化するのには随
分骨を折ったそうだ。近々生物兵器に指定されるそうである。気の早いまりさは、真っ赤
なスイッチを舌でポチッとやってしまった。液化していた屁がたちまち昇華し、黄土色の
気体となって、まりさのヘルメット内に噴射される。

「ゆっくり、ゆっく………!!!!!!!??????ぶばあああああああああああああ
あああああ!!!!!!ぐざい!!!ぐっざああああああああい!!!!???」

 鼻歌が大音量の断末魔に切り替わる。うっかりレシーバーの接続を切り損ねていたイタ
リアの隊員が昏倒した。奴はマンドラゴラか。しかし、用心深いれいむはスイッチを押さ
なかったようであり、伴侶の絶叫に動揺しはじめた。

「ゆううううううううう゛!????ばりざ!!!ばりざ!!!どぼじでごんなごどずる
のおおおおおおおおおおおおおお!!!!!????」

 踏み切ったのはまりさ自身なのだが。当のまりさは餡子を吐き過ぎて、既に他界してい
た。宇宙空間で絶命したまりさの魂は、一体どこへ行くのであろう。やっぱり地球の方へ
向うのであろうか?そういう意味では、二度と地球の土を踏まぬと言ったのは嘘になると
言えるかもしれない。そんなことを考えていると、船長が次なる合図を送ってきたので、
私はれいむに最後の宣告を行った。既にロケットのエンジンは点火の準備に入っている。

「れいむ、まりさはもうお前を置いて死んじゃったよ」

「うぞだああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

「嘘じゃないって、ホラ」

 ロボットアームが漂うまりさの宇宙服をつかまえ、その顔が良く見えるように、れいむ
の前に据えてやった。

「ああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

 発狂したかのように泣き叫ぶれいむ。しかし、もう出発の時は迫っているのだ。

「れいむ、これでお別れだ。自分でスイッチを押す気がないのなら仕方ない。酸素がある
うちはゆっくり出来るだろうが、酸素が切れればお前はおしまいだ。窒息して死ぬのは苦
しいぞ。良く考えるんだな。それじゃあな」

「ゆっ!!いじわるしないで、れいむにもさんそをちょうだいね!!」

 まりさの死因も、屁による窒息死には違いなかったが、この際どうでもよい。私がれい
むに今生の別れを告げると、おもむろにロケットが点火し、発進した。

「ゆぅぅっ!!!まっでえええええええええええええええええええええ!!!!!!」


 それから後、ゆっくりれいむがどうなったのかは私は知らない。酸素がなくなるまでの
時間、餡子脳は恐らく考える事をやめたに違いない。とは言え、無酸素状態になった後は、
まりさに匹敵する苦しみを味わって死んだことであろう。この宇宙実験によって得られた
結果はひとつ、「ゆっくりはとりあえず宇宙でもゆっくりできる」ことだけである。そし
て予算の少ない宇宙センター発の、「ゆっくり投棄計画」はあっさりご破算になり、プロ
ジェクトの担当官だった私はその任を解かれた。予算を浪費した責任を問われ、残業に追
われる毎日を送っている。もう一つ得られた教訓はすなわち、「ゆっくりの処分は専門家
に任せよ」ということである。素人がゆっくりに関わると、痛い目を見るだけなのだ。












―蜂の人です。宇宙での描写をもっと充実させたかったのですが、知識不足の為断念しました。そして、
虐待成分も極薄いですよね…。反省してます。

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最終更新:2022年05月18日 21:30