ゆっくりれいむは思い出の中にいた。
かつて幸せだった頃の、ゆっくりまりさとの思い出。
夜、家族が寝静まってから二人で巣を抜け出した、あの特別な夜のことを思い出していた。
「ゆっ、ゆっ、まってよまりさぁ~」
「ゆゆっ、ごめんねれいむ。ほら、こっちだよ」
かつては傷だらけで衰弱しきっていたまりさだったが、その頃には既にれいむよりも逞しく運動能力も高くなっていた。
遅れて後ろからやってくるれいむが横に並ぶまで待ってから、二匹並んで丘の上へと登っていくゆっくり二匹。
二匹が住んでいた辺りは捕食種が出ないため、夜に出てもあまり危なくはなかった。
そのためこの二匹は、両想いになってから後、夜になるとちょくちょく巣を二匹揃って抜け出していたのだ。
「ついたよ、れいむぅ」
「ゆゆっ、やっぱりまりさはすごいね」
丘の上まで辿り着くのにかなり疲れたれいむに比べてまりさはまだまだ余裕があるように見えた。
好きな相手からの賞賛の言葉にまりさは嬉しく思いつつも、
「そんなことより、ほられいむっ。つきがきれいだよっ!」
話題を変えてつい照れ隠しをしてしまう。
れいむはそんなまりさが大好きだった。
「ゆ~、ほんとだぁ、まんまるできれい~。まりさみたいだね」
まりさの照れ隠しに付き合い夜空を見上げたれいむは、視界に入った満月に心奪われた。
自分達のように真ん丸いお月様。とってもゆっくりできる綺麗な月だ、と。
「ゆゆっ……つきなんかより、れいむのほうがきれいだよっ」
そのため、まりさの言った言葉がすぐには耳に入らなかった。
しかし、一拍遅れて発言内容に気づくと、れいむは顔を真っ赤にした。
「も、もう……まりさぁ。そんなこといってもれいむはゆっくりしかできないよ」
照れ隠しなのか嬉しくてたまらないのか、真っ赤にした顔をいやいやするように左右に振るれいむ。
今まりさと視線を合わせるとこの場ですっきりしてしまいそうだった。
そんなれいむの口を、まりさの口が塞いだ。
「…………ゆっ!?」
最初は驚いたれいむだったが。やがてまりさに身を委ねた。
くちゃくちゃと艶かしい音がしばらく響き、丘の上には幸せの絶頂にいる二匹のゆっくりの姿が満月に照らされていた。
しばらくして口を離すまりさとれいむ。
れいむはさっきよりも更に、りんごのように真っ赤な顔で呟いた。
「ゆぅぅ……いまのれいむのふぁーすとちゅっちゅだよ……」
「まりさもだよ。れいむ」
「ゆぅ、まりさぁ……」
「れいむぅ……」
トロン、とした顔で見詰め合うれいむとまりさ。
やがてどちらからともなく身を寄せ合い、頬をくっつけて満月を見上げ始めた。
どれだけそうしてゆっくりしていただろうか。しばらくしてまりさが、重くその口を開いた。
「ねぇ、れいむ。おおきくなったら、ずっといっしょにゆっくりしよう」
「一緒にゆっくりしよう」。
それはゆっくりにとってプロポーズ同然の言葉。
れいむはやはり、最初は驚いたものの、
「うん。ずっといっしょにゆっくりしよう、まりさ。まりさとなら、ずっとずっと、とってもゆっくりできるよ」
まりさの気持ちを受けいれた。
プロポーズの後、これ以上ないというぐらい近かった二人の距離は更に縮まったようにれいむは思えた。
さっきよりも更に強くほほを寄せ合うれいむとまりさ。
「れいむのことは、まりさがまもってあげるからね。まりさのほうがつよいんだから」
れいむは自分だってまりさのためにたくさんの事をしてあげたい。自分だってまりさを守りたい。
そう思ったが、今はまりさの気持ちを全て受け入れようと思った。
自分の気持ちを伝える時間は、まだまだこれから一杯あるのだから、と。
「ゆぅ、たのもしいよ、まりさぁ」
「うん。れいむのことは、まりさがまもってあげるんだから。まもって、ゆっくりさせあげるんだから。ぜったいだよ!」
言っているうちに照れてきたのか体を離してれいむの前に回りこむまりさ。
そんな恥かしさを紛らわすためか、その場でぴょんぴょんと跳びはねながら言う。
「ぜったいだよ!」
「ばりざぁ…………だづげで…………」
現実世界のゆっくりれいむは、泣いていた。
体中に刺された釘が内部を蹂躙する。
体中に巻かれた有刺鉄線が外部を抉り喰う。
糞尿にまみれたリボンが嗅覚を、精神を壊し、切れた頬から垂れる餡子が命を奪っていく。
失われた目がかつてあった眼窩には何も映らない。虚ろな暗闇だけが広がっていた。
残された目からは涙が流れていた。その目には何が映っているのか。
木に吊るされたれいむに自由は無い。
為すがままこの地獄を甘んじて受けるほかない。
「ねぇ、ばりざぁ…………どごにいる゛のぉ……」
呟く声は誰にも届かない。
過去にも未来にも、現在にも。
伝えたいことがまだあった。言いたいことがまだあった。
居たい世界が、あった。
だがどの願いも、もう叶わない。
「ねぇ、ばりざ……でてきでよぉ……いっじょにゆっぐりじよう…………」
ズタボロになったれいむに出来ることは、涙を流すことだけだった。
流した涙は傷口かられいむを苦しませる。
「だづげで…………だづげでよ゛ぉ…………ばりざぁぁ……」
垂れた涙が、地面に降った。
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あとがきのようなもの
思っていたよりも長くなってしまいました
今回の虐待お兄さんは根性腐れきった本当の下種になってしまいました
少年マンガに出たら間違いなく敵役です。噛ませ犬的な。
今までに書いたもの
ゆっくり合戦
ゆッカー
ゆっくり求聞史紀
ゆっくり腹話術(前)(後)
ゆっくりの飼い方 私の場合
虐待お兄さんVSゆっくりんピース
普通に虐待
最終更新:2022年05月03日 20:21