fuku2325の続きです






一旦部屋を出た隣人が戻ってきた時、その両手にはボウルが抱えられていた。
ボウルは水で満たされており、中央には正方形の小さな木の板が浮かんでいる。
そしてその各辺に向かい合う形で、数センチ離れて4枚の木の板がこれまた浮かんでいる。
そしてその中の3枚は、中央向きの辺に垂直になるように木の板の壁がある。

「これがレベルハード……クォータージャンプ…………!」
「さて、これからルールを説明するぞ」
「うー!うー!」

食事が運ばれてくると思ったら謎のボウルが運ばれてきて、いぶかしげに見る赤ゆっくり達に男と隣人が説明を始める。

「まず、この中央の板に1匹、他の4枚の板に1匹ずつ配置についてもらう。
 中央の1匹は目隠しをしてこの4方向のうちのどれかに向かって飛ぶ。見ての通り、壁がないところに飛べればゲームクリアだ。
 中央の板との差は数センチ、助走をつけなくても十分飛べる距離だ」
「クリア出来た者には豪勢な食事等、れみりゃと同じ扱いをしてやろう…………」
「ゆ!とべばごはんもらえるの!」
「ゆっくちとばせてね!」

食事と聞いて、赤まりさ達の目が輝き始める。当然だろう、もう丸3日も何も食べてないのだから。
しかし、親まりさと赤ぱちゅりーは不安げな表情だ。

「むきゅ…………でも、ほかのところにとんだら?」
「ああ、それは見ての通り、飛んでも虚しく板の壁にぶつかるだけだ。当然飛べば落下、水の中に落ちる」
「ゆゆ!そんなゆっくりできないこと、まりさのあかちゃんにやらせないでね!」
「心配はいらない。他の4枚の板にもそれぞれ赤ゆっくりがいる。そしてそいつらは、中央の赤ゆっくりに助言できる。
 つまりセーフエリアにいる者が『こっちは大丈夫』、他の者達が『こっちは危険』と言えば平気さ。
 ついでにサービスとして親まりさ、お前もセーフエリアの情報を教えていいぞ」
「そんなことしていいの!?それならかんたんだね!」

随分と有利な条件を出され、親まりさは完全に安堵の表情である。
赤まりさ達は、早く始めろと言いたげだ。赤ぱちゅりーは……まだ不安げである。

「ククク……それでは配置についてもらおう。では飛びたい者はいるか……?」
「むきゅ!ぱちゅりーがとぶわ!」

真っ先に立候補したのは、意外にも赤ぱちゅりーだった。
この賢いゆっくりは気付いていた。あまりに有利すぎる、何か罠があるに違いないと。
それなら、この危険な役目は自分が引き受けるべきだ。妹達には任せられない、そう思い立候補した。
だが、そんな心は赤まりさ達には知る由もない。

「おねーちゃん、ずりゅいよ!」
「まりさもとびたいよ!ごはんほしいよ!」
「むきゅー!だめよ、きけんだわ!」

赤まりさ達も条件を聞き、それなら楽勝だと我も我もと立候補し始めた。
赤ぱちゅりーが必死に説得するも、全く聞き入れられず、喧嘩を始めている。
このまま見ているのもそれはそれで面白いが、今回の目的はクォータージャンプだ。
男は適当な赤まりさをつまんだ。

「よし、じゃあ今回はお前に飛んでもらうか」
「やった!ゆっくちとぶね!」
「ゆゆ!?おねーちゃんだけずりゅいよ!」
「ごめんね!こんかいはおねーちゃんにまかせてね!」
「むきゅ!きをつけてね!なにがあるかわからないからね!」

つまんだ赤まりさに布の切れ端で作った目隠しをし、方向感覚を失わせるため何回かくるくる回し、中央の板に置く。
そして他の4匹を手に乗せ、ニヤリと笑ってゆっくり達に話しかけた。

「そうだ、一つ言い忘れた。もしセーフエリアに飛べたら豪勢な食事が出ると言ったよな。
 あれはあの赤まりさを自分のところに飛ばすことができたゆっくりにも同じ条件を出してやるよ」
「ゆ?どういうこと?」

ゆっくりにとっては難しい言い方だったのだろう、皆きょとんとしている。

「つまり、お前らが『こっちが安全だよ』と言ってあの赤まりさを自分のところに飛ばすことができれば、
 そいつにも豪勢な食事など、れみりゃと同じ扱いをしてやるってことだ。
 セーフエリアにいなくても、自分のところに飛ばせればOKだ。まぁその場合、あの赤まりさは水の中だがな」

要は、姉妹を殺して自分が食事を得ることができるということである。
少しの静寂のあと、赤ぱちゅりーの顔が青ざめていった。一方、赤まりさ達は目の色が変わっている。
親まりさと、目隠しされた飛び役の赤まりさは少し慌てたが、相変わらず平静を保っているようだ。
この2匹は信じていた。いくら空腹でも、姉妹を殺してまで食べようとはしないだろうと。
赤ぱちゅりーも同様に信じていた…………いや、信じることにした。



「それでは……GO……!」
「うー!」

隣人とれみりゃの合図により、ついにゲームが開始される。
この時、飛び役まりさは安心しきっていた。姉妹が助けてくれると信じていたからだ。
その期待に応えるように、早くも声が聞こえてくる。

「むきゅー!こっちがせいかいよ!」

赤ぱちゅりーの声だ。
実はこの赤ぱちゅりーこそが、セーフエリアに割り当てられた赤ゆっくりである。
懸命に声を振り絞る。それは自分のところに飛ばせて食事を貰おうという気はなく、純粋に妹を助けようとした行為だ。
透明ケースの中で見ていた親まりさも、セーフエリアのぱちゅりーの声に安堵した。
早速飛び役まりさが赤ぱちゅりーの声の方へと慎重に歩いていくが、そこに予想外の声がかかる。

「だまされないでね!こっちがあんぜんだよ!」
「どっちもちがうよ!まりさのほうだよ!」
「おねーちゃん、だいじょうぶだからこっちにきてね!」

飛び役まりさ、赤ぱちゅりー、親れいむはびっくりした。
何せ全員が全員、自分の方こそセーフエリアだと主張しているのだ。
しかし、セーフエリアはただ一つ。必然的に3匹は嘘をついていることになる。

「むきゅー!しまいよりもごはんのほうがだいじなの!?」
「ぱちゅりーおねーちゃんはうそちゅきだよ!きをちゅけてね!」
「まりさのほうだっていっちぇるでちょおおお!!!」
「みんなだまそうとちてるよ!しゃいてーだね!でもこっちはだいじょうぶだよ!」

飛び役まりさはパニックに陥った。
皆でセーフエリアを教えて簡単に食事にありつけるはずが、全く逆の展開だ。
一体誰を信じればいいというのだろうか。

「おいおい、困っているみたいだぞ。お前の出番じゃないのか?」

男が親まりさに耳打ちする。
赤まりさ達の裏切りに呆然としていた親まりさだが、その声で我に返ったようだ。
自分が飛び役まりさにセーフエリアを教えれば、助けることができるのだ。

「せいかいはぱちゅりーのところだよ!おかーさんをしんじてね!」

皆が一斉に親まりさの方を向く。
餡子を分けた自分の子供達、最後には自分を信じてくれると思っていた。
3日前のゲームで姉まりさを助けられず、今まで一人だけ食事を摂っていた親まりさは、飛び役まりさにはもはや信頼を得られなかった。

「おかーしゃんはだまっちぇね!」
「ひとりだけごはんをたべるおかーしゃんは、ゆっくちできないよ!」
「おかーしゃんのいうこちょはむちちてね!」
「むきゅん!ひどいわよみんな!」
「どぼちてえええええ!!!!!!」

愛する我が子に自分の意見が全く信用されないのはどんな気持ちだろうか。
親まりさは必死に泣き叫んでいるが、もはや赤ゆっくり達には雑音でしかないようだ。
飛び役まりさは誰の言うことも信じられず、右往左往するばかりであった。



5分ほど経っただろうか。ついに飛び役まりさは、意を決した。
向かう先は、末っ子の赤まりさ。姉妹の中で最も可愛がっていた最愛の妹である。
きっと自分を騙すことはないだろう。そう思い込み、声の方へと向かっていく。

「そうだよ!おねーちゃん、こっちだよ!」
「まっててね、今行くよ!」
「むきゅううう!!!そっちはだめよ!」
「やめてええええええ!」

赤ぱちゅりーと親まりさ、そして他の姉妹達の警告を無視し、ついに板の縁へとたどり着く。
この先こそが安全に違いない。そう信じ、飛んだ。



そしてその直後、跳ね返された赤まりさは絶望を抱えたままボウルの中へ落ちていった。






「どぼちて…………こんなことに…………」
「やっちゃね!これでおいちいごはんをくれりゅんだね!」

悲痛な表情の赤ぱちゅりーと親まりさ、沈んでいった赤まりさや口汚く罵る赤まりさ達には目もくれず、末っ子まりさは大喜びだ。

「ククク……見事だ、では……」
「ああ、分かってる。それじゃあ仲良くな」

男は末っ子まりさを摘むと、隣人の側にいるれみりゃのすぐ近くに置いた。
れみりゃは末っ子まりさを目の前にし、うーうー楽しそうに唸っている。

「ゆ!れみりゃはこわいよ!ゆっくちできないよ!はやくたちゅけてね」
「いやいや、わしは言ったぞ……れみりゃと同じ扱いにしてやる、と……」
「まずは今まであんな狭い箱に閉じ込めていたから、れみりゃと同じ広い所に出してやらないとな。
 喧嘩はほどほどに、な。喰われるかもしれんが、まぁそれも喧嘩の範疇だ」

しばらく末っ子まりさはポカンとしていたが、自分が喰われそうだ、ということは理解できたようだ。
一転、大声で泣き叫び始める。

「ゆううううう!!!!なにちょれえええええ!!!!」
「んじゃー俺らは食事を持ってくるから、それまで仲良くな」
「ククク……もちろん、それまで生きていたらだがな……」
「うー!うー!」

男と隣人が部屋を出て行き、れみりゃが舌なめずりをする。
十分後、二人が戻ってきた時に部屋にいたのは満足そうなれみりゃと泣いている赤ぱちゅりーに親まりさ、そして大笑いしている二匹の赤ゆっくりだけで、末っ子まりさの姿はなかった。

「おやおや……せっかく食事を持ってきたというのに、どこへ行ったものだか……」
「しょうがないな。んじゃれみりゃ、喰うか?」
「うー!」

食事を食べるれみりゃとそれを眺める二人へ、ケースの中の親まりさがか細い声で聞いた。

「おにいさんたち……どうしてこんなことするの……」
「んー……、まぁ、楽しいからかな」
「え……たのしいから、まりさのあかちゃんたちをころしたの……」

隣人がニヤリと親まりさに笑いかける。

「ククク……ゆっくり崩壊のパターンはいろいろあってじつに興味深い……
 わしはその様を現場、あるいはTVで眺めながられみりゃと遊ぶのを人生最高の愉悦と感じておる……
 ゆっくりが崩壊していく様は、楽しい…………」

パートナーのぱちゅりーを失って悲しみにくれる自分を支えてくれた赤ゆっくり達。
幸せだったあの時は、この二人の人間によって壊された。
それも、自分達が楽しいからなどという勝手な理由で、赤ゆっくり達を殺した。
7匹もいた自分の家族。2匹はこの飼いれみりゃに喰われ、その命を落とした。
1匹はノミで打たれ真っ二つに。1匹は水の底へと沈んでいった。
そして2匹は姉妹の命より自分の食事を優先するようになり、まともなのは1匹の赤ぱちゅりーのみ。
自分達の家族は、たった3日で崩壊したのだ。

「むきゅー……おかあさん、しっかりして……」

赤ぱちゅりーが慰めてくれても、親まりさはただ涙することしかできなかった。






翌日の昼。
隣人は男を招き、最後の仕上げに入った。

「ゆっくち……したいよ……」
「ごはん……まだ……」
「むきゅ……」

再び箱に入れられた赤ゆっくり達には昨日も全く餌を与えず、もう餓死寸前である。
おそらくあと何時間ももたないだろう。

「おにーさんたち……まりさはいいから、あかちゃんにごはんをあげてね」
「ククク、喜べ……今日でお前達は解放してやろう……」

予想外の申し出に、親まりさは目の色を変えた。
それはもちろん、瀕死の赤ゆっくり達も同様である。

「ゆ!ほんとうに!?はやくおうちにかえしてね!」
「いいだろう……それでは、助けたい赤ゆっくりを一匹選ぶがいい…‥」

意味が分かっているのか分からないのか、親まりさは固まっている。
男が補足をした。

「この3匹の中で1匹だけ、お前と一緒に逃がしているからそいつを選べってことだ。
 残り2匹はどうなるかっつーと」
「うー!うー!」
「我がれみりゃのランチだ……ククク……」
「そんなのえらべないよお゛お゛お゛おお!!!!!!」
「んじゃ全員殺すか」
「それもだめえ゛え゛え゛ええ!!!!!」

一方、2匹の赤まりさ達は先ほどの瀕死の様子はどこ吹く風。
我先にと親まりさにアピールを始める。

「おかーしゃん、まりさをたちゅけてね!」
「そんなやちゅほっちょいて、まりさにちてね!」

先日まで散々罵倒していたというのに、この変わり身の速さ。
幼いながらもまりさ種といったところだろう。

「おかーしゃん、はやくまりさにちてね!」
「うるちゃいよ!まりさにきまってるでちょ!」

親まりさは大騒ぎする赤まりさ達を困りながら眺めていると、ふとその横の赤ぱちゅりーが目が合った。
赤ぱちゅりーは弱々しい、しかし強い意志を感じる声で言った。

「むきゅ……ぱちゅりーはいいから……いもうとをたすけて……」

その瞬間、親まりさにはパートナーだったぱちゅりーの姿が脳裏をよぎった。
すっきりする直前、親まりさに向けたぱちゅりーの最後の言葉。
「もしぱちゅりーがしんでも、あかちゃんたちをまもってね……」
親まりさは常に自分より他人を優先した、心優しいぱちゅりーを愛していた。
そして今ここに、同じく自分の身より妹を優先する赤ぱちゅりーがいる。もう迷うことはなかった。

「ぱちゅりーを……たすけてください……」






「さいちぇーなおやだね!ふじゃけないでね!」
「ちねえええ!ゆっくちちねええええ!」

もはや死を逃れられない2匹の赤まりさは、最後まで親への罵倒を続けていた。
玄関へ置かれた親まりさと瀕死の赤ぱちゅりーに隣人が問う。

「ククク……あいつらはいいのか……」
「まりさは、ぱちゅりーをがんばってそだてるよ……」

親としての愛情は全く無くなったわけではない。
それでも、最後まで自分を責めることのなかった赤ぱちゅりーとは比べものにならなかった。

「んじゃ、達者でな」
「うー!うー!」
「ごめんね……あかちゃんたち……」

親まりさは歩く体力も残っていない赤ぱちゅりーを口の中に入れ、森の巣へと急いで駆け出した。
あそこなら保存してある食料がある。赤ぱちゅりーを助けられる。



親まりさが出て行った後、隣人の家では。

「「ちね!ちね!ちね!ちねえええええ!!!!!」」

数分後れみりゃに喰われる運命となった赤まりさ2匹が、ひたすら出て行った親を罵倒し続けている。

「それにしてもいいのか?あの親まりさと赤ぱちゅりーを逃がしちまって」
「いいんですよ。今回の目的はあのノミで突くゲームとクォータージャンプですから。
 1匹だけ逃がすなんてのは最後のちょっとした思い付きです。目的は果たしました」

ゆっくりへの虐待が一段落し、隣人は平常モードへ戻っていた。

「それもそうだな。あの赤ぱちゅりーも巣まではもたないだろうし」
「あの家族には随分楽しませてもらいました。また何か面白いゲームを考えたら招待しますよ」
「ああ、俺も考えとくさ」

笑いあう二人の周りを、れみりゃが楽しそうにうーうー飛び回っていた。






(もうすぐだよ……がんばってね……)

親まりさは巣への道を必死の形相で走っている。
ただ一人残った、最愛の子。この赤ぱちゅりーだけは命に代えてもゆっくりさせてあげたかった。
口に含んでいるため喋れないが、心の中で強く呼びかけたその時。

(おかあさん……いままでありがとう……)

その言葉を本当に口の中の赤ぱちゅりーが発したかは分からなかった。
ただでさえ体が弱い赤ぱちゅりー、喋れる元気があるかも分からない。だが、親まりさには聞こえた気がした。
自然と足が速くなる。この子だけは助けたい、と強く思いながら。



「ついたよ!しっかりしてね、ぱちゅりー!」

口からそっとぱちゅりーを巣の中の地面に置く。
目は閉じられており、安らかに眠っているようにも見えた。

「ほら、ごはんだよ!これをたべてげんきになってね!」

ぱちゅりーの好物だった、でも妹達に優先させて食べさせていた木の実を口元に近づける。
しかし、赤ぱちゅりーが目を覚ますことはなかった。

「ほら、ぱちゅりーのだいすきなものだよ……いっしょにゆっくりしよう……」

赤ぱちゅりーはやはり目を覚まさなかった。

「ぱちゅりー……そろそろおきようね……」

やはり目を覚まさない。

「ぱちゅ……りー……」



何度も何度も、親まりさは赤ぱちゅりーに呼びかける。
しかし、赤ぱちゅりーが目を覚ますことはなかった。












あとがき
多分次からは普通の作品で行きます。
福本ネタを続けるとしたら欠損ルーレットあたりか。

過去作
ゆっくり鉄骨渡り
ゆっくりアトラクション(前).txt

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最終更新:2022年05月03日 15:16