ぶちり、ぶちり
ぶちり、ぶちり、ぶちり

ぶちりぶちりと脛毛を抜く音がごくごく狭い空間に鳴る。
その音を脛毛を抜く僕だけが聴いていた。

「いてて」
脛毛を抜く痛みに少し眉を潜める。
毛を抜かれた脛の毛穴の周りがぽつりぽつりと赤い斑点になって浮かび上がっていた。

「よく伸びたもんだな」
人差し指と親指の間につまんだ脛毛を見てつぶやく。
人差し指の一節半ほどの長さの脛毛が指の間に束になっていた。
滑らかに、細く鋭利に伸びた黒い毛先と、ぷつりと丸くなった乳白色の毛根が対照的だった。

僕は脛毛を剃るのは嫌いだった。
剃刀で剃ると毛根が残ってしまうからだ。
脛毛は毛先から毛根まで綺麗に抜かないとすわりが悪い。

ティッシュの上に抜いた脛毛を集めてそのまま捨てようと包んで思わず手を止める。

「………」
ティッシュ越に感じるもさり、とした感触に僕はそれを捨てるのを躊躇った。
ティッシュを開いてもう一度抜いた脛毛を見た。
毛先から毛根までスルリと伸びた見事な脛毛達だった。


僕は、それを捨てるのがもったいなくて仕方ない気がした。
だからといって脛毛をとっておくわけにも行かないのは分かっている。
ましてや一度抜いた脛毛を脛に戻すことなどできるはずもない。
僕は言葉にしがたい何か取り返しのつかないことをしてしまったのではないかという感覚に苛まれた。

もうこの見事な脛毛達が風呂の中でゆらゆらとゆれる姿をみることはできないのだ。

「………そうだ」
僕はふとあることを閃いてそれまで陰鬱に沈ませていた表情を明るくした。
この脛毛達はよみがえるかもしれない。
僕は立ち上がると財布を持ってすぐに駄菓子屋へと向かった。


駄菓子屋につくと僕は脇目も振らずに水あめとゆっくりを買い
ついでに紐くじを10回ほどやってその際に出たタコ糸をそっとポケットに入れた。
当たりは出なかった。
少し残念だった。

「ゆっくりしていってね!おにいさんどこにいくの?」

僕はゆっくりの挨拶を無視して紐くじで出た糸同士を結び合わせて長い糸を作った。
「ゆゆ?おにいさんそれなぁに?たべもの?れいむにもちょうだいね!」
長い糸を作っているうちに家に帰り着く。
僕は無言で戸を開けると、ゆっくりに糸を巻きつけた。
「ゆゆ!?やめてね!いたい!おうちかえる!!」
それを無視してゆっくりを糸でがんじがらめにしてから糸の両端をそれぞれ机の脚に結び付けて
ゆっくりを動けないように固定した。
「どおしてこんなことするの!?れいむおむがむがむが」
うるさかったし、口を動かされると厄介なのでガムテープを取り出して一切れ千切りゆっくりの口に貼り付ける。
とりあえずゆっくりが固定されたのを確認して僕は高い割りに使いどころがなくて
棚の中で埃を被っていた工具入れを取り出すと中から極細ピンセットを取り出す。
そして、僕はティッシュの上にたっぷりと盛り付けられた脛毛に目を向けた。


「――~~~!?」
声にならないゆっくりの悲鳴が、ガムテープ越しに見て取れた。

僕は、極細ピンセットで脛毛をつまみ、毛先に水あめをつけると
一本ずつゆっくりに植毛し始めた。
毛根が極細ピンセットごとぷす、と饅頭の皮に埋まり
その傷穴を水あめが埋めていった。
一本ずつ、一本ずつそうして脛毛を植えつけていく。
ゆっくりは目を血走らせて見開き、目元に涙を溜めながら必死にもがいていた。

新たな地を得てゆっくりが震える度にゆれ動く脛毛を見て笑みを抑えることができないのを自覚する。

僕はゆっくりに黙々と脛毛を植えつける作業に没頭した。

やがて、ゆっくりの顔中から脛毛が生い茂る。
ふっくらとした頬、人で言う鼻のあたり、前髪に隠れたおでこ
目蓋、顎、頭、リボン、ありとあらゆる場所に脛毛を植えつけた。
「……」
何かもの足りないものを感じて僕は首を傾げた。
そして脛毛の植えつけられていない場所に気付く。

「ここか」
そこに脛毛を植えつけることに興奮して極細ピンセットを持つ手が震えた。
僕は深呼吸してから、白目をむいて痙攣するゆっくりの目玉にピンセットをそっと突き刺した。

ゆっくりが一際激しい痙攣をした後
その目玉から17本の脛毛が生えてビクンビクンと揺れるゆっくりにあわせて揺れ動いていた。

左目は不便だろうと思ってそのまま残しておいた。

一通り満足してそろそろ放してやろうかと思って僕はそっとガムテープを外す。
ぼーっと虚空を見てだらしなく開かれたゆっくりの口の中には未だ脛毛を植えつけられていない空洞が広がっていた。

僕はティッシュの上にまだたっぷりと残されている脛毛をちらりと見ると同時に再びあの興奮が蘇ったのを自覚した。

もうろくに動こうとしないゆっくりに脛毛を植えつけるのは簡単だった。
口の中が唾液で濡れているのも具合がよかった。
ただ植えつけた脛毛がそよがずに唾液にまみれてべったりとくっついてしまうのが残念だった。
うまく脛毛がそよいだのは喉チンコにたっぷりと植えつけた脛毛だけだった。


今度こそ本当に満足して僕はゆっくりれいむを拘束していた糸を解いた。
「さ、お行き」
外に出て、森の近くまで行くと僕はゆっくりの頭を優しく撫でながらそう語りかけた。
「……――!?」
それまで虚空を眺めていたゆっくりは僕の言葉にはっとしたかのように目を見開いた。
「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?!?!?!?」
ゆっくりは叫びだした。
瞳は焦点を合わせきれずに震えて、それと一緒に右目の脛毛も震えた。
そのために大きく開かれた口を除くと喉チンコに植えつけた脛毛がふよふよと揺れていた。
僕はそれを見て名状しがたい快感を覚えた。
ゆっくりが僕の手の中を飛び出して森へと走っていく。
僕の脛からむしりとられ、ゆっくりれいむに植えつけられた全身の脛毛が新たな命を得て動いているように見えた。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
ゆっくりれいむはあっと言う間に森の中へと消えていった。

「うわああああああああああああああ!?」
「ぐるなあああああああああああああ!!」
「ばげぼのおおおおおおおおおおおお!?」
「なにごれゆっぐぢでぎないよぉぉお!!」

森の中からゆっくりれいむでない悲鳴も聞こえてきた。
僕は、僕だけにしかわからないであろう充実感と満足感を覚え
この感覚はきっと僕だけが独占しているという事実を自覚して悦びに震えた。

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最終更新:2022年05月03日 15:57