竹取り男とゆっくり 10(最終回・前編)


 *登場人物
   男・・・主人公。竹切って売って生活してる人。餡子好き。
   甘味屋の店主・・・ゆっくり饅頭を売ってる人。虐待好き。
   ゆっくり全般・・・ヒロイン(笑)

 *最終回です。ここまでお付き合いくださったみなさま、本当にありがとう!



「ここをあけるのぜ!」
「ゆっくりしないででてくるんだぜ!」

 2匹のゆっくりまりさが、石を咥えて男の家の窓に体当たりしていた。
 ぱちゅりーとれいむは道中まりさたちに追いつかれながらも、子れいむと子ぱちぇを守ってなんとか家の中まで逃げのびることができた。
 そうして今、怯える子ゆっくりを勇気づけながら男の帰りを心待ちにしていた。

「でてこないならかんがえがあるのぜ?」
「ゆっへっへ、このはたけをめちゃくちゃにしてやるぜ!」

 まりさたちは下品な笑い声をあげながら菜園に跳ねていくと、おおきな白菜に齧りついた。

「やめてね! ゆっくりやめてね! それはおにいさんのおやさいだよ!」
「ゆげっへぇ、やめてほしかったらでてくるのぜ!」
「ぐーちゃぐーちゃ…ぐーちゃぐーちゃ…これめっちゃうっめ!」

 男のために育てた白菜を食い散らかされ、れいむは悔しさに涙をにじませた。
 このままでは全部食べられてしまうと思ったれいむは、ぱちゅりーの制止をふり切って飛び出した。

「ゆがーっ!! はたけをあらすまりさはゆっくりしねええ!!」

 ぱちゅりーはあわてた。
 敵のまりさはれいむと同じバスケットボール・サイズ。
 体当たりが武器のゆっくりは体の大きさと攻撃力が比例するため、数の多いほうが有利だ。
 ぱちゅりーは覚悟を決めた。

「むきゅ、こどもたち、ここからうごいたらだめよ」
「む…きゅ?」
「おかーさん、どこいくの?」
「れいむおかーさんをたすけてくるの。なにがあってもここでゆっくりしてるのよ?」

 そうしてぱちゅりーはれいむに加勢するために飛びだした。
 2匹と2匹は互角に戦っていたが、男に飼われて栄養状態の良いぱちゅりーとれいむは徐々にまりさたちを圧倒していった。

「ゆっ! かてるよ! まりさたちをゆっくりやっつけようね!」

 よろける敵を見て歓声を上げたれいむ。だが、ぱちゅりーはある光景を目にして硬直した。

「ゆげっへっへっへっ、ぼっこぼっこにしてやんぜ!」

 茂みの向こうから現れたのは、4匹の新手のゆっくりまりさだった。
 タケノコを掘り終えたドスまりさ偵察隊のガングロぱちゅりーが応援をよこしたのである。

「ぱちぇ……れいむはとってもゆっくりできたよ」
「むきゅ?」
「れいむはね……ぱちぇとおちびちゃんとおにいさんと、いっぱいゆっくりできたよ」

 突然なにを言いだすのか、ぱちゅりーにはれいむの意図がよくわからなかった。

「だからこんどは、れいむのゆっくりをぱちぇにあげるよ! ぱちぇはさっさとにげてね!」
「むきゅう!? なにをいうの!? ぱちぇもいっしょにたたかうわ!」
「ぱちぇはにげて、おにいさんをよんできてね! れいむはここでゆっくりまってるよ!」

 ぱちゅりーは揺らいだ。
 おうちに子供を残している以上、ここから逃げることはできない。
 だが、二人でまりさたちに勝ち目のない戦いを挑むよりは、片方が一刻もはやく男を呼びに行ったほうが助かるかもしれない。

 ……でも、本当にいいのだろうか?
 ……そのあいだに、れいむがやられてしまったら?

 ぱちゅりーはどうするべきか迷った。だが、事態はぱちゅりーに時間を与えなかった。

「まりさがくるよ! ぱちゅりーさよなら! ゆっくりしていってね!」
「「「「「「ゆっくりしていってね!!」」」」」」

 まりさたちが横から叫んだ。

「ゆゆ? まりさはかんけいないでしょ! じゃましないでね!」
「ち、ちがうのぜっ!! いまのはひとりごとなのぜ!!」

 敵にご挨拶してしまったまりさたちは赤面した。

「むきゅ、わかったわ! れいむもしなないでね! ゆっくりしていってね!」
「「「「「「ゆっくりしていってね!!」」」」」」

 あぁ…餡子脳。
 餡に練りこまれた本能にあらがえず、逃げるぱちゅりーまで笑顔で見送ってしまう。

「だからまりさはかんけいないでしょお!? "ふうふ"のあいだにはいってこないでね! ぷんぷん!」
「ち、ちがっ! いまのはっ……………………ゆがーーーーーっ!!!」

 羞恥心で真っ赤なまりさたちが歯茎をヒン剥いた。

「「「「「「でいぶぅ!! ゆっぐりじねええええええええええ!!!」」」」」」

 襲いくる6匹の凶暴なまりさ。
 れいむはプク~ッと体をふくらませて立ち向かった。

          *          *          *

 …男が山の麓までたどりついたそのとき。
 斜面を転がり落ちてきた全身土まみれ、生クリームまみれのぱちゅりーと出会った。
 幸運だった。
 もう少し遅ければ、物言わぬ饅頭と化したぱちゅりーと再会する運命にあっただろう…。
 男は咳こんでいるぱちゅりーを抱きかかえると、山の中腹にある家を目ざした。
 れいむと別れ、約半刻…。
 ぱちゅりーは男の腕の中でれいむの無事を祈りつづけた。

 だが、幸運はつづかなかった。
 メチャクチャに荒らされた菜園、割れた窓ガラス、そして…………無数の茎を生やして朽ち果てた黒いかたまり。
 まりさたちの影はすでに消えていた。

「れいむ!!」

 震える手でそれに触れると、苦しみをはりつけた亡骸が砂のように散った。

「おにいさん、こどもたちは!?」

 男は弾かれたように立ちあがると、割れた窓を蹴り倒して家に入った。
 そして名前を呼びながら食料庫に入ったとき、視界の隅でなにかが動いた。

「チビ! 無事だったか!?」

 残念ながらそれは1匹のまりさだった。
 おなかが減ったので群れに戻らず、白菜を食べてゆっくりしていたのだった。

「てめぇ…!」
「ゆひぃ! ゆ、ゆっくりびっくりしたぜ!」
「2匹のチビはどうした。正直に言わねえと…」
「ゆっへっへ、このまりささまにそんなくちをきくなんて、みのほどしらずもいいところだぜ! "たいあたりぢごく"におとしてやるぜ!」
「やってみろ」
「ばかなじじいだぜ! ゆっくりしねぇ!!」

 ビシッ!!

「ゆげええええええ!!? ぶぎゃんっ!!!!」

 男のビンタ一発ではね飛ばされたまりさは、壁に叩きつけられてからツツーッと餡子の線を引いて落ちていった。

「ゆげぇっ…だ、だめぇじがおおきすぎるぜ…………ゆげぇぇ!」

 男は餡子を吐いているまりさに近づいていった。

「ゆ゙っ!? ば、ばでぃざがわるかったんだぜ! ばでぃざはゆっぐりはんせーしてるんだぜ! だからこっちこないでねっ!」

 バチン! バチン! バッチィン!!

「ゆぶっ!? ゆぶゔっ!! ぎゅぶゔゔゔっっ!!! ………………ゆぐっ……おぶっ……ゆぷぷぷっ」
「もう一度聞くぞ。2匹のチビはどこだ」
「しょうじきにいうがら……ばっちんはやべでぐれだぜ……こ、こどぼは…ながまがつれてったんだぜ…」
「どこにだ」
「ばぢゅじーのところだぜ…ばぢゅじーはどすのさんぼうで…どすはまだきてないけど…ばぢゅじーは"ていさつたい"をひきいてて……」

 まりさの話では…街に向かっていたドスまりさの一群は、途中である野良ゆっくりからタケノコの噂を聞いたらしかった。
 ドスはたいへん美食家らしく、さっそくこの山にぱちゅりー率いる偵察隊をよこしたが、渋くてマズいタケノコしか見つからなかった。
 そんなおり、土の中のタケノコを掘りだして美味しそうに食べているれいむ一家を見つけた。
 偵察隊長ぱちゅりーは土の中にこそおいしいタケノコがあるのだと知り、それを見つけられる子れいむと子ぱちぇを拉致させたという。

 …ビンタされて顔をパンパンに腫らしたまりさは、命惜しさに聞かれてもいないことまでペラペラしゃべっていた。

「ぞういえば…ここのおやざいざんはすごくおいじぐて…まりささまはしあわせだったぜ…」
「"びゆっくり"なれいむともずっぎりできで…まりささまへぶんじょうたいだぜ…」
「ついでに…そこにいるびぱちゅりーと…ずっぎりしてみたいぜ…」

 男は無言で睨みつけていた。

「ゆっ…これでぜんぶだぜ……ぜんぶはいたから…まりささまはびぱちゅりーといっしょに…ゆっくりむれにかえるぜ…」
「待て。お前にはもうひとつ吐いてもらうものがある」
「ゆ…? すなおでしょうじきなまりささまは…いまならなんでもはくぜ…?」
「吐いてもらうのは…………てめぇの餡子だこのクソがッ!!!」

 ブチャアァァァッ!!!

「ぷゆげえっ!!!!????」

 渾身の力でブン殴った瞬間、まりさの体が破裂して餡子を盛大にぶちまけた。
 れいむとぱちゅりーが育てた白菜の上に、まりさの黒い餡子が点々と振りかかった。

 男はぱちゅりーを抱いて庭に出ると、朽ちたれいむを葬ってやった。
 こんもりと盛り上げた土の上に竹の切り株を立てる。
 墓前には、れいむが育てた白菜と、大好きだったタケノコ…。
 ぱちゅりーは大粒の涙を浮かべていた。

『ゆっくり……たけをかっていってね!』

 思うように竹が売れなかったあの日、れいむが街の人々にかけてくれた言葉がよみがえる。
 たぶんあのとき、男とれいむのあいだに最初の絆が生まれたのだろう。
 最初は生意気でワガママだったれいむ…。

「一緒に暮らして子供もできて…だんだんいいゆっくりになってきたのにな」

 饅頭が天国に行けるのかは知らないが、男はれいむが安らかに眠れるように祈った。
 それが終わると、準備にとりかかった。
 ドスまりさを迎え撃つのだ。

          *          *          *

 時刻は午後2時。
 初春の太陽はやや西へと傾いていた。
 明るい陽ざしの下、200匹はくだらないと思われる群れの中心に、ひときわ巨大な影。
 これが本隊。そして中央にいるのがドスまりさだった。

「どす、ここが"たけとりやま"よ」

 隣にいた直属の部下・ありすがドスを見上げて言った。
 ありすの体は並外れて大きく、体長1メートル以上はある。
 だが、それを遥かにしのぐのがドスまりさだ。
 長い年月を生きてきたということは、後ろ髪にビッシリと結わえられた飾りを見ても明らかだった。
 ドスだけではない。ありすも含め、この群れのゆっくりは総じて体が大きかった。
 食糧にも困らずヌクヌクとゆっくりしてきた証拠だろう。
 すなわち、このドスの管理能力がすぐれていることを意味する。

「ゆ゙ふぅぅぅっ! ありすしょうぐんんん? ぱちぇはまだかえってこないのおおおお!?」
「たぶんもうすぐ……ゆ! どす、ぱちゅりーがかえってきたわ!」

 妙に間延びした声でたずねていると、山の上から偵察隊を率いていたガングロぱちゅりーと十数匹のまりさが戻ってきた。

「むきゅ、いまもどったわ」
「ゆ゙ふぅぅぅっ! おそいよおおお! ゆっくりしすぎだよおおおおお!」
「むっきゅっきゅ。そのかわり、たけのこをみつけるぎじゅつをうばったわ」
「ゆ゙っふん! こどものことだねえ!? ぱちぇはおてがらだよお! こどもはどうしたのお!?」
「ごうもんにかけたわ。あと、にんげんがすんでるみたいだわ」

 ぱちゅりーの「にんげん」という言葉に、ドスたちは色めき立った。

「ゆ゙ゆ゙ううっ!? にんげんはいないってきいてたよおおお?」
「むっきゅ、たったひとりよ。どすのてきじゃないわ」
「ゆ゙っゆ゙っゆ゙っ、それならかんたんだねええ! いつもどおり、じゃまなにんげんはゆっくりぶっとばそうねええええ!!」

 ドスは全身をブルンブルン震わせて武者震いした。

「ゆ゙ふんっ! それじゃあみんなぁ、ゆっくりぜんしんするよおおおおおおおおおおおお!!!」
「「「「「「「「ゆーーーーーっ」」」」」」」」

 ドスの群れは、雲霞のごとく広がってゆぅゆぅと山を登りはじめた。

          *          *          *

「むっきゅ!? おにいさん!!」
「来たか…」

 窓の外を見ると、竹林の向こうから無数のまるい影がぞくぞくと近づいてくる。
 大きいのから小さいのまで多くのゆっくりがひしめいており、それはそれは不気味だった。
 男は武器を入れた布袋を体に巻いた。

「ゆ゙ふぅっ! おうちのなかのにんげんにつぐよおおお! ちょっとそとにでてきてぇ、どすとゆっくり"おちゃ"しようねえええええ!」
「お茶ってどこのナンパ野郎……げえっ、まりさ!?」

 初めてドスまりさを見た男。
 デカイデカイとは聞いていたが、こんなに巨大なゆっくりがいることに愕然とした。
 うす汚れた巨大な帽子、たゆんたゆん揺れる巨大な下あご、ニンマリ笑った巨大な口、だだ漏れの涎…。
 男は総毛立った。

「おいぱちゅりー、あれホントに饅頭か?」
「むきゅ、あれがどすまりさよ。でもちょっとおおきすぎるわ。ぱちゅりーのよそうがただしければ、じゅうごさいぐらいだとおもうわ」

 だれも家から出てこないので、ドスはありす将軍に目配せした。
 すると、十数匹の成体ありすが道中掘りだしたタケノコを咥えてきて、家の前で盛大にタケノコパーティーをはじめた。
 まぎれもない挑発だ。

「あぁぁ、俺の収入源が…」
「むきゅう…?」

 ドスまりさに関する知識を持つぱちゅりーは首を(無いけど)かしげた。
 力を見せつけてくるならまだしも、こんな些細な挑発をしかけてくるのは妙だ。
 そうこう考えているうちに、ドスは再度呼びかけてきた。

「ゆ゙ふぅっ! あんしんしてねえ! どすたちはひどいことをするつもりはないんだよお! ちょっときょうていをむすんでほしいだけだよおおおお!」
「饅頭と協定だと!? バカにしてら!! あの醜いツラのデカ饅め、下っ腹ひっぱたいてやる!!」
「むきゅっ、おにいさんおちついて! ちょうはつにのっちゃだめよ!」

 だが、男はぱちゅりーを抱いて飛びだした。
 家を囲んでいたゆっくりたちがニヤニヤと笑った。
 男とぱちゅりーが見たのは憎らしい笑顔のドスまりさではなく、太陽が地上に落ちたかと見まごうようなまばゆい光だった。

「おにいさん!! にげてえっ!!」

 男は反射的に飛んだ。
 同時に、ドスまりさの口から強光度の波動が放射される。
 直撃を受けた男の家は凄まじい大爆発を起こし、爆風は周囲の竹林を一挙に薙ぎ倒した。
 燃えさかる火炎と黒い煙……
 ドスまりさは満足な表情を浮かべて、その惨状に見入っていた。


 間一髪、ぱちゅりーの叫びで直撃をまぬがれたものの、爆風にあおられて数分間意識を失っていた男は頭を振って周囲を見まわした。

「ゆ゙っふん? ぶじだったみたいだねえええ!」

 声のほうに視線をやると、ドスまりさがニヤニヤしていた。

「こんちくしょう…クソ饅頭め…」

 軽い脳震盪を起こして視界がかすんでいる。
 しかも抱いていたぱちゅりーがいない。

「ぱちゅりー…ぱちゅりーはどこだ! ドスまりさ! チビ2匹も返せ!!」
「ゆ゙っゆ゙っゆ゙っ! ぱちぇぇ、めいどのおみやげにみせてあげるといいよおおお!」

 参謀のガングロぱちゅりーが咥えてきたのは、生クリームを垂らしてボロボロになった男のぱちゅりーだった。
 …ぱちゅりーがぱちゅりーを咥えているのは意外とレアな光景だ。

「くっ…チビはどうした!?」

 さらわれた子れいむと子ぱちぇも連れてこられたが、さんざん拷問されたせいですでに中身を流し尽くしていた。

「てめぇら…れいむだけじゃなく子供まで…」
「ゆ゙ーっゆ゙っゆ゙っゆ゙っ!!」
「協定とか言ってたのはどういうわけだよ…」
「ゆ゙ふんっ! なにいってるのお? ここはどすたちがみつけたゆっくりぷれいすだよおお! きょうていなんてむすぶひつようないでしょおおお!」

 家どころか、山ひとつおうち宣言したドスまりさ。

「このやろう…じゃあハナッから不意打ちねらいだったわけか…」
「ゆ゙ーっゆ゙っゆ゙っゆ゙っゆ゙っ!! ゆ゙ーっゆ゙っゆ゙っゆ゙っゆ゙っ!!」

 そう…このドスまりさは確実に男にドスパークを当てるため、「協定」を口実として家から誘い出したのだった。
 もともと協定を結ぶつもりなどなかったのだ。

「聞いたぞ…なんで里を潰して回ってるんだ。てめぇらが住んでた場所でおとなしく暮らしてりゃいいじゃねえか!」
「ゆ゙っゆ゙っゆ゙っ! じじぃはばかだねえ! どすは"ぐるめ"なんだよお!? まいにちおんなじごはんじゃあきちゃうでしょおおおお!!?」
「ガキかっ! 計画的に食べりゃいいじゃねえか! 俺だって捕まえたれいむとまりさとありすを分別して、その日の気分で食べ分けてるんだ!」
「ゆ゙っふん!! それだけじゃないよお!! どすは"たいしょくかん"だし、むれもおおきいからごはんなんかすぐになくなっちゃうんだよおおお!!」
「ばっかやろ! それだってちゃんと計画的に…」

 そこまで言って、男は悟った。
 こいつらはイナゴだ……と。
 これだけ強力なドスまりさが後ろ供えしていれば、数にまかせて遮二無二突撃すれば小さな里の住人ぐらいなら追い出すこともできる。
 そうして人里を襲っては田畑を食い荒らし、食い潰すと次の里を襲ってまた食い荒らす…。
 それを延々とくり返しながら、群れをここまで肥大させてきたのだ。
 限りある食糧を計画的に食べて群れを維持しようとするドスもいれば、力をふるって無限の食糧を手に入れようとするドスもいるのだった。

「くっそ……ぱちゅりー! ぱちゅりぃ!!」

 男の呼びかけに、気を失っていたぱちゅりーが目を覚ました。

「むきゅ……おにいさ……」
「無事か!? 今助けてやるからな!!」
「おにいさん……ぶじなのね……?」
「あぁ、お前のおかげで助かったぜ」
「むきゅーーーん! おにいさぶぎゅうぅぅぅっ!!?」

 希望に輝いたぱちゅりーの顔が、突如苦痛にゆがんだ。
 山のようなドスまりさがニヤニヤしながら、ぱちゅりーの小さな体にのしかかっていたのだった。

「やめろ!! ぱちゅりーを放せ!!」
「ぶぎゅっ、ぶぎええ!!! ごぼっごぼっ!!!」
「ゆ゙ーっゆ゙っゆ゙っゆ゙っ!! にんげんはうごいちゃだめだよおおお!! うごいたらぱちゅりーをつぶしちゃうよおおおお!?」

 ドスまりさは少しずつ少しずつ、弄るようにぱちゅりーを潰してゆく。

「ぶぎゅゔゔゔゔっ!!」
「わかった! 動かないから……頼む!! そいつは助けてやってくれ!! 頼むっ!!」

 男は懇願したが、ドスまりさは無言だった。

「この山が欲しけりゃくれてやる!! タケノコでもなんでも好きなだけ掘りゃあいい!! だから…!!」

 ドスまりさが身を引いた。

「ぱちゅりー!!」

 男はよろめきながら、ぱちゅりーのもとへ駆けつけた。

「ぱちゅりー!! しっかりしろ!!」
「おに…い……げぼぉぉ!」
「死ぬな! お前まで死んだら…」
「む…ぎゅ…」

 ほんの少し動かしただけで、ぱちゅりーは咳きこんで中身をぶちまけた。
 もう長くないことは明らかだった。
 男は泣いた。
 ゆっくりのために泣くなんて、つい最近まで考えられなかった。

「ごめんなさ…ぱちぇのぶんまで…ゆっくり……ごぶっ! ぎゅぶぅっ!」
「ぱちゅりー…!」
「む…ぎゅ…」
「おまえ…いいやつだったよ…いいゆっくりだった…」
「…………」
「れいむも、チビも、本当にいいゆっくりだった…」
「…………」
「おまえらなら、次は人間にだって生まれ変われるかもな」
「きゅ…?」
「人間でもいい、ゆっくりのままでもいい。もし生まれ変わって、俺のこと覚えててくれたら…」
「む…きゅ…」
「みんなを連れて、もう一度俺のところに来てくれ」
「…っ!? む…きゅぅぅぅぅぅん…!!」

 ぱちゅりーの目から、とめどなく涙があふれた。

「ぱちぇ、きっと…え゙ほっえ゙ほっ…にんげんさんにうまれかわるわ! おにいさんと…ごぽっ…おともだちに…なるわ! きっと…!」
「そうだ、人間に生まれてこい…! 友達でも何にでもなってやる…!」
「むきゅぅぅん…おにいさん…ぱちぇって…よんでほしいの…」
「ぱちぇ…」

 ぱちゅりーはもう一度、男に「ぱちぇ」の呼称を許した。
 そしてニッコリと微笑んだ。
 生クリームの中に満ちているのは、初めて男と出会ったあの日…。
 思い出だけではない。
 あのときの想いもまた、よみがえった。  *(第4話)

 前回はこのあたりで裏切られた上に、『メスブタ饅頭』とまで罵られたものだったが、

 ……ぱちゅりーは死ぬけど、今度は人間さんに生まれたい。
 ……また、おにいさんと逢うために。

 来世の約束をつむぐため、ぱちゅりーは薄れゆく意識を必死に保ちながらたずねた。

「おにいさん……こんどはぱちぇを……およめさんにしてくれる?」
「友達以上、恋人未満な」

 ぱちゅりーは一瞬微妙な顔になったが…

「むきゅきゅっ…それでいいわ…ありがとぅ…………おにいさん…もういちど…ぱちぇって…………………………」

 ………………その先は、永遠に閉ざされてしまった。

 ぱちゅりーの体から、最後の生クリームが飛び散った。
 呆然と上を見上げると、タイミングをはかってぱちゅりーにトドメを刺したドスまりさが、ニタニタ笑いながら男を見下ろしていた。
 そして潰れたぱちゅりーを踏みにじるように、太った下あごを揺らした。

「お゙お゙お゙お゙お゙……お゙あ゙あ゙あ゙あ゙……っ!!」

 男は紫色の帽子に顔を押しつけてむせび泣いた。
 そんな姿に、ゆっくりたちは潮のように嘲笑を浴びせた。

「ゆ゙ーっゆ゙っゆ゙っゆ゙っゆ゙っゆ゙っ!!!」
「いいきみだわ!」
「いなかものらしいさいごね!!」
「にんげんとなかよくするぱちゅりーとはゆっくりできないよ!!」
「ゆっくりできないぱちゅりーはゆっくりしね!!」
「このじじぃないてるよ?」
「こんなぱちゅりーといっしょにいたなんて、じじぃはばかなの!? しぬの!? なまくりーむふぇちなの!?」
「きっとふぇちなんだよ!! ゆっくりしね!!」
「さっさとしね!!」
「「「「「「「「ゆっくりしねえ!!!!!」」」」」」」」

「ぱちぇ…」

 男の耳にはなにも届いていなかった。
 男は震える手で、顔についた生クリームの飛沫をこすって、口に入れた。

「マズ…」

 それは、ものすごくマズかった。
 マズくてマズくて、まるでパサパサしていて、賞味期限が切れて1年も経ったメレンゲのようだった。
 男は嬉しさに震えた。
 つまり、ぱちゅりーは幸せのまま、逝ったのだ…………。



 不意に男が立ちあがった。
 群れのゆっくりはビクッと震え、一瞬だけ押し黙った。

 ズバアァァァァァムッ!!

「ゆぎゃあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ!!!??」

 油断してノコノコ近くに寄ってきて悪態をついていたゆっくりまりさに、男のジャーマン・スープレックスが炸裂した!
 よほどの衝撃だったらしい。
 脳天から地面に叩き落とされたまりさは、平べったく変形したまま、泡を噴いてピクピク痙攣していた。
 男は腹筋の力だけで、音もなく体勢を戻した。

 ブシャッ! ぷしゅうううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ…

 地面にめりこんだ圧力で、まりさのあにゃるから餡子が噴水のように噴き上がった。
 ガングロぱちゅりーが叫んだ。

「むきゅう!! みんなきをつけて! このにんげんはぎゃくたいおにいさんよ!」
「違う、虐待じゃない」
「むきゅ?」
「俺は……虐殺お兄さんだ!!!! ヒャッハァァァァァァァァァァァァァァッッ!!!!!」


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最終更新:2022年05月21日 23:42