幻想郷にゆっくりたちが現れて早数年。
そんなゆっくりに対して、人は愛でたり、駆除したり、いじめたりと十人十色な対応をした。
私はというと正直生活に関わってくることも無かったし特にかわいいとも思わなかったので
別にどうでもいいという態度を取っていた。
ただ、夜空の星を眺めているようなゆっくりとなると話は違った。
星好きの私は、夜、平原で星を眺めていたゆっくりの隣に座って尋ねた。
「何をしているんだい?」
「ゆ?おそらのおほしさまをゆっくりみてるよ!」
そのゆっくりは笑顔を浮かべて私の質問に答えた。
「星、好きなのか?」
「ゆ~!まりさはおほしさまだいすきだよ!
おにいさんも?」
「ああ」
星のことを尋ねられてゆっくりはぷよんぷよんと跳ねた。
私はそれを見ながら軽くうなずく。
余り周りに星好きの仲間が居ない私はそのゆっくりに興味を覚え、色々と教えてやろうと思い立った。
「星座って知ってるか?」
「ゆ~しってるよ!みせてあげるね!
………………
まりさのあしじゃできないよぉ…」
ゆっくりはしゅんっとして俯いた。
その正座じゃない。
「そういうのじゃなくてだな、星と星を繋げると動物なんかの形に見えるんだ」
「ゆ!?ほんとに!?」
「ほんとほんと、例えばあの星と星をつなげるとだな…」
俺は指差して星座を示した。
「こーなってそーなって…と、あれがやぎ座」
「ゆ~~ぜんぜんやぎさんにみえないよぉ~~」
ゆっくりはぷく~っと頬を膨らませて不満を言った。
「でもおもしろいよ!ゆっくりしてる!」
が、それなりに気に入ったようだ。
「あっちが射手座でそっちだな…」
「ゆ~!すごいすごい!」
ゆっくりは目を輝かせて私の話を聞きながら星を眺めた。
「やぎさん!おそらでずっとゆっくりしていってね!
まりさもふゆごしがおわったらまたあいにくるよ!」
「いや、冬越えたら見えなくなるんだけどね
一年中見えてる星座ってそんなにないから」
「ゆぅ!?」
俺の何気ない一言にゆっくりは口を大きく開き、愕然とした表情を見せた。
一体何事かと俺が話しかけようとすると、突然ゆっくりは泣き叫んだ。
「どおぢでゆ゛っぐり゛ぢでいっでぐでないのおおおおおお!?
やぎざんどばがああああああああああああああああ!!」
「いや、だって秋の星座だしあれ」
私は額から汗を垂らして困ったように頭をかいた。
「ゆぅぅぅううう!ゆっくりしてないやぎさんはしね!!」
ゆっくりは憎しみを込めた顔で天を仰いで唾吐いた。
さっきとは打って変わって酷い言い草である。
「そうは言うけどさ、そんなこと言ったらこの星だってゆっくりしてないことになるぞ」
「ゆぶぇ?!ど、どういうこと!?」
ゆっくりはガタガタと震えながら不安そうな顔でこちらに向き直った。
「いやそんなに怯えなくてもいいから」
私は手でゆっくりの頭を撫でて落ち着かせた。
「ゆぅ~、ゆっくりせつめいしてね!」
「わかった、この地面も実はあの空の星みたいに空に浮いてる球体なんだけどさ
わかるか?」
「ゆっくりりかいしたよ!」
ゆっくりは顎を膨らまして自慢げに言った。
「そうか、理解が早くて有難い
で、その地面は実はすごいスピードで太陽の周りをぐるぐる廻っているんだ」
「ゆうううううううううう!?どお゛い゛う゛ごどおお!?」
「こういう風にさ、お前を太陽に見立てると…」
私は指をぐるぐると回しながらゆっくりの周りをぐるりと一周させた。
「とまあこういう風に動いてるわけだ」
「ゆ…ゆ…い、いいいいいつゆっくりするの!?いつゆっくりするの!?」
「いや、ずーっと動きっぱなしだからゆっくりすることはないな
で、そういう風に地面が動くから星が動いているように見えたり
星座が時期によって見えたり見えなかったりするだけで別に星座がゆっくりしてないということは」
「い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
そこまで言って、ゆっくりの悲鳴が私の話をばっさりとさえぎった。
「お、おいどうした?」
私は慌ててゆっくりに話しかけたがもはやそれどころではないらしく
ゆっくりは白目をむいてガタガタと震えながら絶望の表情を見せていた。
「ごごじゃゆっぐりでぎないいいいいいいいいいいいいいいい!!!」
そう叫ぶと、ゆっくりは凄まじいスピードでゴロゴロとどこかへと転がっていった。
「おーい!星は丸いからどこまで転がっていっても同じ星の上だぞー!!」
「ゆ゛っぐり゛いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?!!?!?!?!?」
そう言うとゆっくりはさらにスピードを上げてどこへともなく消えていった。
「いらんこと言ったかなぁ…」
私はせっかくの星好きの仲間があんなことになってしまって残念だなぁ嘆きつつ頭をかいた。
それから数日後
どこかの平原で
「ここじゃゆっくりできない!ここじゃゆっくりできないよおおおおお!!」
と叫びながら空にむかって必死にジャンプし続けるゆっくりまりさが目撃されたとか。
最終更新:2022年05月03日 15:09