「ゆっくり水難事故」







「ゆっくりー♪ゆっくりー♪」
「きょうもみんなでゆっくりしようね!!」
「「「ゆっくりしていってね!!」」」

草原を縦断する、饅頭の列。
先頭に立っているのは、母親のゆっくりれいむ。
後ろの子供たちがちゃんとついて来られるように、ゆっくりと前進していく。

「ゆっくちー♪」「きょうはどこでゆっくりするんだろうね!!」「ゆっくりたのちみだね!!」

にこやかな笑顔を浮かべて、母親についていく5匹の赤ちゃんゆっくり。
生後2週間になる赤ちゃんゆっくりたちは、外に出るのは今回で3回目である。
最近になってやっと巣の外に出してもらえるようになったので、お出かけが楽しみでしかたないのだ。

「おちびちゃん!!ゆっくりついてきてね!!ゆっくりでいいからね!!」
「ゆっきゅりついていくよ!!」「ゆっくちいこうね!!」

母れいむは、赤ん坊を連れて外に出るのが不安ではあったが、同時に嬉しくもあった。
子供の成長を喜ぶのは、人間だろうとゆっくりだろうと親なら当然のことなのだろう。

「ゆっ!!きょうはここでゆっくりしようね!!」

到着したのは、巣からそれほど遠くない小川の畔。母れいむは、水の流れがよく見える場所に子供たちを整列させる。
赤ちゃんゆっくりたちは初めて目にする水の流れに興奮気味だが、母の言いつけを守ってその場に並んだ。

「ゆ!!きれいだね!!」
「とてもゆっくちできそうだよ!!」

太陽の光を反射して煌きながら、穏やかに流れる川。
綺麗に透き通っているそれは、ゆっくりでなくても目を奪われるほどの美しさだ。

「ゆんっ!これは“おみず”というものだよ!!とてもゆっくりできるものだよ!!」

母れいむが、赤ちゃんゆっくりに向かって説明する。
今日ここへやってきた目的は、赤ちゃん達に水について教えてあげるためだったのだ。

「ゆゆ~!!ゆっくちできりゅの!?」
「しゅごい!!おみずさん!!れいむたちをゆっきゅりさせてね!!」
「はやくゆっくちしたいよ!!おかーさんいいでしょ!?」

ゆっくりできるものだと聞いて、赤ちゃん達は興奮を抑えるのがやっとだ。
中には、もう小川に飛び込もうとしているゆっくりもいる。

「まだせつめいがおわってないよ!!ゆっくりおはなしをきいてね!!」
「ゆん……」

今すぐにでも小川でゆっくりしたかったのだが、母れいむに咎められてしゅんとする赤ちゃん達。
しかたなく、母れいむの説明を聞くことにした。

「おみずはとてもゆっくりできるけど、ずっとさわってるとゆっくりできなくなっちゃうんだよ!!」
「ゆゆ~!?いやだよ!!ゆっくちしたいよ!!」「おみずさんどうしてゆっくちさしぇてくれないの~!?」

水は、冷たくて気持ちいいし汚れも洗い流してくれる。
しかし、ずっと水の中にいると水分を吸収して膨張したり溶けたりしてしまい、最終的には皮が破れて中身が漏れてしまう。

母れいむはこれを子供の頃に自分の母親から聞き、そして実際に水遊びしすぎて溶けてしまったゆっくりも見た。
水はとてもゆっくりできる。しかし、同時にゆっくりにとって危険なものでもあるのだ。

「ゆ!でもだいじょうぶだよ!!ながいあいださわらなければ、とてもゆっくりできるよ!!」
「ゆ~?ほんとう?」「ゆっきゅりできるの?」「ゆっくりできなくならない?」

心配そうに母れいむに問いかける子供たち。
母れいむは、無用な心配を取り払うべく笑顔で子供たちに呼びかけた。

「だいじょうぶだよ!!おちびちゃんたちはしんぱいしないで、おみずでゆっくりしていってね!!
 おかーさんがおわりっていうまでは、ゆっくりできるからね!!そのときは、おみずからゆっくりはなれてね!!」

子供たちは、いつまで水に触れていられるのかを自力で判断できない。
だから母れいむは、ゆっくりできなくなる前に自分が子供たちに合図を送ることにしたのだ。
そうすれば、子供たちは何も恐れることなくゆっくりすることができる。
母れいむが水から離れるよう呼びかけたときに、その声に従えばいいのだから。

「おちびちゃん!!ゆっくりあそんでいってね!!」
「ゆっきゅり~♪」「ゆっくちあそぶよ!!」「みんなでゆっくりしようね!!」

母れいむの許可が下りたので、我先にと小川へ飛び込んでいく赤ちゃんゆっくりたち。

「ゆ~♪ちべたい~♪」
「おみずさんおいちいね♪」
「それー!!ゆっくりぴゅ~♪」
「ゆゆ!やったな!!ゆっくりー!!」

ころころ転がって、水の冷たさを味わう赤ちゃんれいむ。
好奇心から水を口に含み、その染み渡るような美味しさに感動する赤ちゃんまりさ。
水鉄砲のように、水を吹き出して遊んでいるものもいる。

「ゆー!!あまりとおくにいっちゃだめだよ!!ゆっくりできなくなっちゃうよー!!」
「「「ゆっくりりかいしたよ!!おかーしゃん!!」」」

元気に返事を返してくる赤ちゃんゆっくりたち。
とてもゆっくりしている姿を見て、母れいむはとても幸せな気持ちになった。
ゆっくりした子供を見ていると、自分もゆっくりとした気分になる。それこそが親ゆっくり共通の幸福なのだ。

「ゆぅ~!とてもゆっくりしてるね!!」

片親で5人の子供を養えるか、母れいむは不安に思ったこともあったが…何とかここまで育てる事が出来た。
きっとあっという間に大きくなって、おうちも狭くなってしまうだろう。
自分達で狩りに出かけるようになって、もっとたくさんご飯を食べるようになるに違いない。
そしたら子供たちは独立して、自分だけで生きていくようになる。
そのことを考えると少し寂しくなったが、それ以上に母れいむは子供たちの成長が楽しみだった。

思い描いた将来を現実のものにするためにも、子供たちは自分が守っていかなければ!
母れいむは、強く決意した。

「ゆゆっ!!みんな!!おわりだよ!!そろそろもどってきてね!!おみずからはなれてね!!」
「ゆゆ~!ゆっくちもどるよ!!」
「こんどはおかーしゃんとゆっくりするよ!!」

母れいむの呼びかけに応じて、赤ちゃんゆっくり5匹はみんな母の周りに集まった。
ぶるぶると犬のように身体を振って、水気を飛ばす赤ちゃん達。
若干の湿り気は残っているが、この程度なら大丈夫だと母れいむは判断した。

「ゆ~♪しゅっきりしたよ!!」「すっきりー!!」「もっとあそびたかったよ!!」
「ゆっ!!からだがかわいたら、またゆっくりしてもいいよ!!それまでゆっくりまっててね!!」

母れいむの言いつけどおり、水に触れない場所で身体が乾くのを待ち始める赤ちゃんゆっくりたち。

その時、対岸にひとりの青年が現れた。
短パンにTシャツという、とても涼しそうな格好をしている。

「ふぅ~涼しいなぁ~」
「ゆ!?おにーさんはゆっくりできるひとなの?」

飴細工が溶けたようなだらしない顔をして、水中に脚を投げ出して座っているお兄さん。最高に気持ちいいらしい。
真夏の家屋の中は、風通しがよくてもそれなりに暑い。人里で空調設備を持てるのは、村の重役か金持ちぐらいである。
だから、一般村人であるお兄さんは、夏はこうして小川で涼むのを日課としていた。

「おー、最高にゆっくりしてるぞー」

寝言ではないかと疑いたくなるぐらい、間延びした声で答えるお兄さん。
その様子を見て母れいむは目の前の人間が敵ではないと判断した。

「ゆぅ……ゆ!おにーさんもゆっくりしていってね!!」
「おにーしゃんもゆっきゅりできるんだね!!」「ゆっくちしちぇいってね!!」

本当は自分達だけのゆっくりプレイスにしたかった。
だが、子供たちの前で人間を追い出すのは教育上あまりよろしくない。
そういった理由で、母れいむは目の前のお兄さんを渋々受け入れることにした。
こちらから何もしなければ、向こうも危害を加えてこないだろうと判断したのだ。
何より、子供たちがお兄さんに懐きつつあるので、彼を排除する理由はなくなった。

「ゆゆん!そろそろかわいてきたね!おちびちゃん!!もういちどゆっくりしてきていいよ!!」
「ゆゆーい!!」「ゆっくりぃ~♪」「おみずでゆっくりするよ!!」

頃合を見て、再び赤ちゃんゆっくりに川で遊ぶよう呼びかける。
畔でうずうず我慢していた赤ちゃん達は、一斉に水の中へ飛び込んでいった。

「ゆゆーん♪」「ちべたいー♪」「ぴゅるる~♪」
「おぉ、みんな楽しそうだな!」

お兄さんも対岸から川の流れを横切って歩いてきて、赤ちゃんゆっくりの輪に混ざる。

「ゆー♪おにーさんもゆっくちしていっちぇね!!」
「おみずはとてもゆっくりできるものだよ!!おかーしゃんがいってたよ!!」
「おにーしゃんもいっしょにゆっくちしようね!!」
「そうかそうか。それじゃ、お兄さんも一緒にゆっくりしようかな」

もう赤ちゃんゆっくりたちは、完全にお兄さんに懐いている。
お兄さんもかわいいゆっくりと遊ぶ事が出来て、とても嬉しそうだ。

「ゆー…すごいゆっくりしてるよぉ…」

やっぱり、お兄さんをここから追い出さなくて正解だった。子供たちは、皆すごく楽しそうにゆっくりしている。
母れいむは、自分の判断が正しかったのだと確信した。

「それ!お兄さん負けないぞ!」

バシャァ!!

「ゆーゆっくちー♪」「おにーさんつよいね!!」「でもれいみゅたちもまけないよ!!」

お兄さんと水を掛け合って遊んでいる子供たち。

「ゆらゆらぁ~」「ゆらゆらゆっくりぃ~」

その傍らでは、水に漂ってゆっくりしている2匹の子供たち。
ここは流れがとてもゆっくりしているので、気づかないうちに遠くへ流されてしまう、という心配はない。

「……ゆゆ!」

母れいむの本能が、そろそろ頃合だと告げた。

「みんな!!そろそろこっちにあがってきてね!!ゆっくりできなくなっちゃうよ!!」
「ゆ~!」「みんなであがろうね!」「みんなでゆっきゅりしゅるよ!!」



「あ、皆待ってよ!」

お兄さんが、陸に上がろうとする赤ちゃん達を呼び止めた。
180度振り返って、赤ちゃん達はお兄さんを見上げる。

「どうして戻っちゃうんだい?皆でもっとゆっくりすればいいじゃないか」

お兄さんは、どうして赤ちゃんゆっくりが急いで陸に上がろうとしているのか、疑問に思っているようだ。
逃げるように陸へ跳ねていく赤ちゃんゆっくりの行動が、彼にはまったく理解できなかったのだ。

「ゆ!ずっとおみずにさわってるとゆっくちできなくなりゅんだよ!!」
「そうだよ!!おかーしゃんがいってたよ!!ゆっきゅりできないのいやだよ!!」
「え、そうなのか?……でも、お兄さんはずっと水に触ってても平気だったぞ?」



「「「ゆゆぅ~?」」」

5匹揃って、首を傾げる。
お母さんは確かに言っていた。お水にずっと触ってるとゆっくりできなくなる、って。
でも、お兄さんはずっとお水に触ってても、ゆっくりできている。

………どうして?

その疑問の答えを、赤ちゃん達は自分なりに考え…そして、結論を出した。自分の都合のいいように。

「おちびちゃん!!はやくこっちにもどってきてね!!ゆっくりしてたらだめだよ!!」
「ゆゆ!でもおにーさんはゆっくちできりゅっていってるよ!!」
「だったられいむたちもゆっくりできるはずだよね!!」
「ゆゆ!?おちびちゃん!!なにをいってるの!?」

赤ちゃん達がいきなり変なことを言い出したので、母れいむは驚いてしまった。
さっきあれほど言い聞かせたのに……どうしてそんなことを言うのだろうか?

「おちびちゃん!!いいかげんにしてね!!はやくもどってこないと、ゆっくりできなくなるよ!!」
「お母さんはあんなこと言ってるけど、気にしないで一緒にゆっくりしようよ。みんなももっとゆっくりしたいだろう?」

母れいむの再度の呼びかけをかき消すように、お兄さんは赤ちゃん達に呼びかける。
赤ちゃんゆっくりたちもまだまだ遊び足りないので、再び陸から離れて水の中へ飛び込んでいく。

「ゆ~♪もっとゆっきゅりするよ~♪」
「ゆん♪おにーしゃんもいっしょにゆっくいしようね!!」



「おちびちゃん!!おかーさんおこるよ!!さっさとこっちにもどってこないと、ほんとうにゆっくりできなくなるよ!!
 おにーさんもへんなこといわないでね!!おにーさんにもおきゅうをすえることになるよ!!」

母れいむは本気で怒っていた。言いつけを守らない赤ん坊は、きつく叱ってやらなければならない。
おかしなことを言うお兄さんもだ。これ以上子供たちのためにならないことを言うようであれば、ゆっくりできなくさせる必要がある。

これぐらいきつく怒鳴りつければ、赤ちゃん達は怖がって言うことを聞くだろう、と思っていたが…
返ってきた声は、母れいむがまったく想像していなかったものだった。

「ゆっ!!でもれいむたちはちゃんとゆっくりできてるよ!!」
「おかーさんはうそをついてるね!!うそつくおかーしゃんとはゆっくりできないよ!!」
「うそつきはむこうにいってね!!まりさたちはおにーさんとゆっきゅりするよ!!」
「おかーしゃんはばかだね!!れいむたちゆっくちできりゅもんね!!」

赤ちゃんゆっくりたちは、完全にお兄さんが言っていることを信じきっていた。
実際、赤ちゃん達の体にはまだ変化が現れていない。そのため赤ちゃん達は、水が100%安全だと勘違いしてしまったのだ。

「どぼじでぞんなごどいうのお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!??」

こんな聞き分けのないことを言われるのは、赤ちゃんゆっくりが生まれてから初めてのことだった。
いつもはちゃんと言いつけを守ってゆっくりしていたのに…どうして今日は言うことを聞かないの?
母れいむは、子供に反抗された事がショックだった。

「ゆっきゅりぃ♪」「ゆっくちできるよ~♪」
「だろう?お兄さん、水に触っててゆっくりできなくなったことなんてないよ」
「ゆー、やっぱりおかーしゃんはうそをついてたんだにぇ!!」
「おにーさんがゆっくりただしいんだね!!」
「そうそう。大体水に触ってどうにかなっちゃう生き物なんていないって!」

「どうじでええ゛ええ゛え゛えええ!!!おがーざんはほんどうのごどをいっでるどにい゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!!」

母れいむは、子供たちの信頼を失っていた。
自分は正しいことを言っているのに、子供たちはそれを理解してくれない。
とてもゆっくりした賢い子供たちなのに、何故かこれだけは理解してくれない。
そればかりか、自分を嘘吐きだと罵倒してくる。どうして?どうして?
母れいむの目には、うっすらと涙が浮かんでいた。

「ゆ゛!!しかたな゛い゛ね゛!!むりやりにでもゆっくりつれてもどる゛よ゛!!」

だが、いつまでもショックに打ちひしがれているわけにはいかない。
早く川から引き上げなければ、本当にゆっくりできなくなる。子供たちの命がかかっているのだ。
母れいむは自ら川に飛び込むと、ばしゃばしゃ水飛沫を飛ばしながら赤ちゃん達のところまで跳ね寄ってきた。

「ゆっ!?おかーしゃんもゆっくちするの!?」
「おかーしゃんはうそつきだけど、れいみゅはやさしいからゆるしてあげゆよ!!」

「ばかなこといわないでね!!ゆっくりしないでみずからはなれるんだよ!!」

子供たちの戯言にまったく耳を貸さず、母れいむは5匹の中で一番近くにいた赤ちゃんれいむをがっしりと咥えた。
言うことを聞かないのなら、無理やり陸の上に連れて戻る。子供に嫌われることを恐れている場合ではなかった。

「ゆーん!!ゆっくちはなして!!れいみゅはおみずのなかでゆっくちするー!!」
「おかーしゃん!!まりさたちのじゃまをしないでね!!」
「うそつきおかーさんとはやっぱりゆっくりできないよ!!いもうとをはなして、むこうでゆっくちしててにぇ!!」

赤ちゃんを無理やり連れて行こうとする母れいむに対し、残りの4匹は体当たりし始めた。

「ゆっくちはなしぇ!!」「ゆっくりはなせ!!」「うそつきはむこうにいってね!!」

ドン!ドン!ドン!

バラバラの攻撃では殆ど効果がないが、4匹は息を合わせて同時に母親に体当たりしている。
皮を突き破るような致命傷には至らないが、母れいむのバランスを崩すには十分な攻撃だった。

「ゆゆ!!ゆっぐりやめでね!!ゆ!?…ゆぎゃんっ!?」

赤ちゃんゆっくりを咥えたままではまともな抵抗も出来ず…母れいむは勢いよく転んでしまった。
その衝撃で開放された赤ちゃんれいむは、姉妹の助けを借りて急いで母親から離れていく。

「ゆああああああああ!!!いうごどをぎいでね!!ほんどうにゆっぐりでぎなぐなるのお゛お゛お゛お゛お゛お゛!!」

「こんなことするおかーしゃんとはゆっくちできないよ!!」
「うそつきおかーしゃんはむこうにいってね!!こっちにこないでね!!」
「れいみゅたちだけでゆっきゅちするからね!!うそつきはじゃまだよ!!」

もはや、母れいむの真実の叫びに耳を傾ける子供はいなかった。
誰もが母れいむの言葉を嘘だと決めつけ、罵り、排除する。その言動に躊躇いは無い。
赤ちゃんゆっくりにとっては、自分が“今”ゆっくりできればそれでいいのだ。

再びお兄さんとゆっくりし始める赤ちゃん達。母れいむに邪魔されないように、どんどん離れていく。

「いがないでええええええ!!!ゆっぐじじないでおみずがらはなれでねえ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛ええ゛え゛ええ゛!!!」

母れいむの直感が告げていた。今から追いかけても間に合わない、と。
可能な限りの大声で必死に呼びかける母れいむだが、赤ちゃんゆっくりたちは取り合わない。

「ゆんゆん♪」「ゆっくちー♪」「じゃぶじゃぶ~♪」
「みんなとてもゆっくりしてるね。水はとても気持ちいいもんなぁ」

「おみずはとてもゆっくちできゆよ!!」
「ずっとさわっててもゆっきゅりできるんだよ!!」
「れいみゅはずーっとおみずのなかでゆっくしするよ!!」

「がああ゛ああ゛あ゛ああ゛ああ゛あ゛あ!!!もうだめえ゛ええ゛え゛え゛え゛!!!
 はやぐおみずがらでてえ゛え゛え゛ええ゛ええ゛ええ゛え゛え゛!!!」



その時だった。一匹の赤ちゃんれいむが、自分の身体の異変に気づいたのは。

「………ゆ?」

なんだかムズムズする。最初はその程度だった。
だが……その感覚は、既に致命的な量の水分を皮が吸ってしまったことを意味している。

ドロォ…!

「ゆ!れいみゅのからだがどげでるう゛う゛う゛う゛!!!どぼぢでえ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!??」

ドロリと底部が溶け、身体の一部だったものが川の流れに乗って流れていく。
こんなのおかしい!信じられない!という表情の赤ちゃんれいむ。
母れいむの言っている事が嘘であると信じて疑わない赤ちゃんれいむにとって、今起こっている現象は“ありえない”のだ。

「ゆ゛ん゛!?まりじゃのがらだもおがじいよ!!なんだかうごきづらいよ゛!!」

真っ先に水分を吸うのは、ゆっくりの底部である。そこはゆっくりに言わせれば『足』にあたる部位だ。
そこが過剰な水分によってふやけ、溶けていくようなことがあれば……あとは言うまでもないだろう。

「ゆっ!!ゆっぐりおみずがらはなれるよ゛!!ゆゆ!?どぼじでうごげない゛の゛おおお゛お゛お゛お゛!!??
「ゆがああああ゛あ゛あ゛!!!れいぶもうごげな゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!!」

気づいたときには、5匹全員が移動不可能になるぐらい底部を水に侵されていた。
ゆっくりにとって水が大敵となりうる一番の理由は……底部(足)に自覚症状が出たときには、もう手遅れだからだ。

雨に濡れて、全身が少しずつ溶けるのとは違う。
川や池でこの状態に陥ると、もう自力では脱出できずに死に至るのだ。

「どぼじでえええええええ!!!おにーざんはだいじょうぶっでいっでだのにい゛いい゛い゛いいい゛!!!」
「やだあああああああ!!!じにだぐないよおおおおおお!!!おがーじゃんだじゅげでえ゛え゛え゛え゛え゛!!!」

さっきまで罵倒していた母れいむに対して、助けを求める赤ちゃんゆっくりたち。
母れいむも、先の罵声にショックを受けたとはいえ、赤ちゃん達への愛情は失っていない。
自分の身を犠牲にしてでも赤ちゃんを助けようと、母れいむは大きく跳びはねた。

「ゆっぐりまっででね!!おがーざんがだずげにいぐがらね゛!!んぎゃあ゛!?」

川底の石を強く踏んでしまい、全身を走る激痛に身を震わす母れいむ。
底部に亀裂が入ってしまったのか、うっすらと餡子が漏れて川の下流へと流れていく。

「んぎゅうううううう!!!でもまけないよ゛!!あがぢゃんだちはれ゛い゛む゛がだずげるよ゛!!!」

身体はその激痛に悲鳴を上げている。涙がとめどなく溢れ、前が見えなくなる。
それでも母れいむは諦めなかった。苦労して産んで、苦労して育てた5人の赤ちゃん達。それを見捨てるわけにはいかない!

「おがーぎゃああん……れいみゅをだづげでねっぇ……!」
「までぃざは……もっど…ゆっぐじじだいのおおおぉぉ…………!!」
「まっででね!!もうずごじだがらね゛!!それまでゆ゛っぐり゛がんばるんだよ゛っ!!」

赤ちゃんゆっくりたちには、未来があるのだ。
これから成長して、すぐに母れいむと同じぐらいの大きさになるだろう。
そうすれば子供たちも自分で狩りをするようになる。
やがては皆巣立っていき、愛し合うパートナーと共にゆっくりとした家族を築くことになる。

母にとって、それはとても寂しいこと。でも、祝福すべきことだ。
だから母れいむは、やがて訪れるであろうその日まで…一生懸命子供たちをゆっくりさせてあげると決めた。
赤ちゃん達が成長して、やがて大人になって、その子供もちゃんとゆっくりできるように、と願って。

だから、母れいむは諦めなかった。

母れいむは、諦めなかった。

……諦めなかった。

























「………ゆゆ?」

母れいむがお兄さんのもとにたどり着いた時、目の前を流れる変なものを発見した。
スゥーっと川下へ流れていくのは、赤いリボン3つと黒い帽子が2つ。
よく見ると、周辺の水が茶色く汚れている。水面には黒い粒が浮かんでいるのを見つけた。

それらを見て、母れいむは目の前の現実をゆっくりと理解した。


「ゆ……ゆっぎゃあああぁぁぁあああ゛あ゛あああ゛あ゛ああ!!!れいぶのあがぢゃん゛がっ!!
 あぎゃぢゃんがああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あああ゛あ゛あ゛ああ゛あ!!!」


気が狂ったように暴れだし、バシャバシャと水を跳ね飛ばす母れいむ。
その間、一部始終を目撃していたお兄さんは気だるそうに川岸から離れていく。

「あーあ、なんだか気持ち悪いもの見ちゃったな…」
「おまえのぜいだああああ!!!おまえがへんなごどいうがらあ゛あ゛ああ゛あ゛あ゛ああ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

背後からお兄さんに飛び掛ろうとする母れいむだが、華麗に回避されて顔面から水に突っ込んでしまう。
母れいむはすぐさま起き上がり、再びお兄さんに向けて口が裂けるぐらいの大声で叫んだ。

「おまえがうぞをおじえるがら!!あがぢゃんだぢはじんだんだぞ!!ゆっぐりごろじでやるう゛う゛ぅぅ!!」
「え?別に僕は嘘なんてついてないよ?『水に触っても大丈夫』っていうのは、僕のことだし」




「……ゆ?」

確かにその通りだった。
お兄さんは、『ゆっくりが水に触れていても大丈夫』などとは一言も言っていなかった。
ただ自分の経験で、自分に関することだけを述べていたに過ぎない。それをゆっくり一家は取り違えたのだ。

「ゆっぐぐぐぐ……いいわげじだってゆるざないぞお゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!」

子供を失ったショックと怒りに支配されている母れいむが、そんな理論的な説明を受け入れるはずがない。
いや、心の底では理解しているのだが、自分以外の誰かに責任を押し付けたいという無意識の願望が、その理解を阻害した。
再びお兄さんに噛み付こうとする母れいむ。あっさりと避けられ、蹴り飛ばされて川底に顔面ダイブする羽目になった。

「母親ならちゃんと教育しておけよなー。何も知らない赤ちゃん達はみんな、水に溶けて死んじゃったぞ?」
「ぢがぅ……れびぶは…ぢゃんどおぢえであげだも゛ん゛!れいぶのせいじゃない゛!!おばえがわるいんだぁ゛!!」
「いやいや、『ずっと水に触ってると死ぬ』って教えなきゃ、ちゃんと教えたことにはならないだろ」
「うるざいい゛い゛いい゛い゛い゛い゛いぃ……だまれえ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛っぇえ゛ぇ!!!」
「だいたいさぁ、子供が死んだぐらいで怒らないで欲しいんだよね。死んだらまた作ればいいじゃん。
 作るの簡単でしょ?すっきりー♪すればいいんだもんな。そこらへんのゆっくりとすっきりしてさっさと作っちゃえよ」
「ゆ!?ぶぎゅうぅぅ……ごろず…ごろじでやるぅ……ゆるざないぞお゛お゛お゛お゛お゛お゛っ……!」

ぶくぶくと泡を吹く母れいむを放置して、ばしゃばしゃと対岸へと渡っていくお兄さん。
ゆっくりすることも忘れ、自分が泳げないことも忘れ、川の深いところへ進んでお兄さんを追いかける。
家族の絆を踏み躙る心無い言葉に、母れいむの怒りは頂点に達していた。

「ゆっぐりにげるなァ!!ごっぢにごいィ!!あがぢゃんのがだぎい゛い゛い゛い゛ぃぃ!!!」

と同時に、母れいむの身体も限界に達した。

ブチャァ!

今まで無茶して跳ね回ったのが祟ったのか、耐久力の落ちていた皮は水分を吸ってあっさりと破れてしまった。
その傷口は大きく、一気に大量の餡子が川の下流へと流れていく。

「ゆっぐぢ…ごろず……おにーざん……ゆるじゃない!!」

もがけばもがくほど漏出する餡子。動かなくなる身体。遠のく思考。

「も……ゆるざ…ない……あがぢゃんを………ゆっぐりざぜ…………」

程なくして、母れいむの身体は完全に溶けきった。

驚くほどあっさりと。驚くほどきれいに。

そこに漂うのは、大きな赤いリボンのみ。




6匹いたゆっくり一家は、一匹残らず全滅した。















「あー涼しかった。さて、そろそろ晩飯の準備でもするか!」



お兄さんは、満足げな顔をしてその場から立ち去った。







(終)



あとがき

赤ちゃんゆっくりが「ゆっくり~♪」とか言って遊んでる場面を書いてる時は、すごいイライラしました。

すぐストーリー変更して赤ちゃんをぶっ潰す話にしようかと思ったけど、鋼の理性で耐えました。

短くまとめようと思っていたら、いつの間にか20KB越え……ゆっくりしすぎちゃったよ!!

ちなみにwikiを探したら『一家全員が水の恐ろしさを知らず、水の犠牲となる』作品がありましたね。

作:避妊ありすの人

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最終更新:2022年05月03日 15:26