雑草だらけの部屋で眠る七匹の小さな紅白饅頭。
気持ちよく寝ているところに一人の男が声をかけた。
「ゆっくりしていってね!」
「ゆ?」「ゆ!」
「「「ゆっくりしていってね!!!」」」
聞きなれない声に少し驚いたもののすぐに挨拶する赤ちゃんゆっくりたち。
その半分はまだ寝ているが。
しかしすぐにいくつかの疑問が生じる。
「おかあさんはどこ?」「ここどこ?」「おじさんだれ?」
このゆっくり達はここで生まれたゆっくりではない。
大木の洞に棲み、近くの虫や草花を食べて生活していたのだ。
まだ小さく、巣から一度も外に出たことない自分達が外に出られるわけもなく、母親が見捨てるわけもない。
「ここは育児場だよ。」
「いくじじょう?」「いいからおかさんはどこ?」
すると男はとても残念といった顔でうつむいてしまう。
それをゆっくりは不審に思い聞いてみる。
「おじさん、おかあさん…どこなの…?」
少しだけ声が震えてるのは気のせいではないだろう。
男ゆっくり、はっきりと答えた。
「お母さんはね、悪いれみりゃに食べられちゃったんだよ…。」
「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛!!!」
「どお゛じでぞん゛な゛ごどい゛う゛の゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!」
「おじざんのばがあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
「ででい゛っでえ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!」
まだ寝ていた赤ちゃんたちもその声に気づき叫ぶ。
「ゆ゛っぐり゛でぎな゛い゛びどぎら゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!!」
「ゆ゛っぐり゛じん゛じゃえ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!」
やれやれといった表情で男はその場を後にした。
泣き声はしばらく止まらなかった。


数十分後、男は大きなを持って部屋に入る。すると泣き疲れたのかほとんどのゆっくりは眠っていた。
起きていた内の一匹が顔をぐちゃぐちゃにしながら言う。
「ゆ゛っぐり゛…ででげぇ…」
どうやら説明したにもかかわらず男が食べたと思っているらしい。
またかと思いつつ男は言った。
「僕はね、君達のお母さんに頼まれたんだよ。『赤ちゃんを助けてて』って。
 さあおなかがすいただろう?食べ物をあげるよ。」
「ゆ!たべもの!」「みんなたべものだよ!」
甘い匂いに気づいたものが寝ているものを起こし、全てのゆっくりが目を覚ました。
「おじさんそれなに?」「いいにおいだよ!あまいにおいだよ!」
「これは饅頭って言うんだよ。」
「まんじゅー?ゆっくりできる?」
「ああ、ゆっくりできるとも。」
そういって男は包み紙を外し、赤ちゃんゆっくりたちに与えた。
「うっめ!これめっちゃうっめ!」「むーしゃ♪むーしゃ♪」
「あー!それれいむの!れいむのなのー!!」「あまあまー♪」
「めー!とったらめー!めなんだからー!」
「そんなに取り合わなくてもいっぱいあるよ。ほおら。」
「おじさんありがとう!れいむたちのいえでゆっくりしていってね!!!」
「「「ゆっくりしていってね!!!」」」
どうやら自分を信用してるようだ。そう思いつつ男はゆっくりを見ていた。


数ヶ月後。
「「「おじさん!おそとにでたいよお!」」」
立派なゆっくりになったゆっくりたちは口々に叫ぶ。
この部屋には滑り台や砂場、水場、ジャングルジムにトランポリンもあったが次第に飽きてきたのだ。
「もっといろんなところにいきたいよ!」
「あたらしいおうちがほしいよ!」
「あたらしいおもちゃがほしいよ!」
「あたらしいおともだちとあそびたいいよ!」
「でも外は危ないぞ?何があるかわからないからな」
「だいじょうぶだよ!れいむたちはつよいんだから!!」
「「「つよいんだから!!!」」」
そうだなあ。もう充分かなあ。
「よし。おじさんに任せてくれ。おじさんがゆっくりさせてやるからな!」
「「「ゆっくり待ってるね!!!」」」
親切で優しくていい笑顔のおじさん、ゆっくりたちはそう思っているのだろう。
だがゆっくりたちはその裏を見抜くことができなかった。


「まずは君と君、それに君もだ。」
外に出る許可を貰ったゆっくりはきゃっきゃと楽しそうにはしゃいでいた。
「おそとでゆっくりあそぼうね!」
「れいむがおうちさがすね!」
「れいむもさがす!れいむもさがすのー!」
残されたゆっくりたちも不満を言わずにわくわくしていた。
「れいむたちをゆっくりまっててね!」
「あたらしいおうちでゆっくりさせてね!」
「みんなでいっしょにくらそうね!」
「またゆっくりあそぼうね!」
どのゆっくりも知らなかった。これからもう会えなくなるとは…


最初の三匹は給水用のストローがついた、ゆっくりサイズの回し車の中に一匹づつ入れられていた。
「おじさんせまいよ!でられないよ!」
「おそとにいかせてよ!」
「それはね車っていうんだよ。その中を走ると車も前に進むよ。
 外にいる普通のゆっくりはそれを動かせて当たり前なんだよ」
「なあんだ!おしえくれてありがとう!ゆっくりまわしてすすむね!」
そう言って勢いよく回し始めるゆっくりたち。
「まわった!まわったよ!おそとにいけるよ!」
「でもぜんぜんすすまないよ!ぜんぜんうごかないよ!」
「がんばってもっとはやくまわそうね!」
だがゆっくりたちはその回し車の横が固定され、進むことができないことに気がつかなっかた。
……
あれから数時間、ゆっくりたちは疲れながらも時折ストローから砂糖水を吸っては回し続けていた。
「おじさん…これすすまないよ…」
「おかしいよ…こわれてるよお…」
「ふつうにはねておそとにでたいよ…」
「そんなことはないよ。だってちゃんとエネルギーは溜まってるからね。」
意味不明の答えに不満が爆発する。
「なにそれ!きいてないよ!どういうことなの!」
「おじさんきらいになっちゃうからね!」
「あやまってね!はやくあやまってね!」
にやにや笑う男に問うゆっくりたち。すると男は答えた。
「その車を回すとエネルギーができるんだよ。君達は死ぬまでそれを回して働くんだよ。」
エネルギーが何かはわからなかったがゆっくりたちには死ぬという言葉だけで充分だった。
「い゛や゛だあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!も゛う゛い゛や゛だあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
「れ゛い゛む゛がえ゛る゛!!!お゛う゛ぢがえ゛る゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛!!!」
「ゆ゛っぐり゛じだい゛の゛!!!ゆ゛っぐり゛じだい゛の゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになる三匹。だが男はまたもにやにやして言う。
「そんなのんびりしてると…ほら、後ろ後ろ。」
振り返る三匹、壁が少しづつ上がりそこには…
「「「「う゛ー!う゛ー!う゛う゛う゛う゛う゛ーーーーー!!!!」」」
「「「ゆぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」」」
そこにいたのはこちらに近づこうとする大量のれみりゃ。
その恐ろしさを赤ちゃんのころから教えられていたためにゆっくりたちは急いで逃げようと車を回す。
「ゆ゛っぐり゛じだい゛!!ゆ゛っぐり゛ざぜでよ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!」
恐怖のせいかゆっくりたちはれみりゃが透明な車を回していることが、こちらに来ることができないとはわからなかった…。


そのころ…
「「「ゆっくりしてくるね!!!」」」
「ゆっくりいってらっしゃい!!!」
別の男に運ばれていく三匹のゆっくりたち。これらは先ほどと違う方向に向かっていった。
「ゆゆ?おじさんそっちじゃないよ!」
「みんながいったのははんたいだよ!」
「はやくもどってね!はやくもどってね!」
「大丈夫だよ。君達は特別だからこっちに行くんだよ。」
笑顔で答えるおじさんの答えにゆっくりは嬉しかった。
「とくべつ!れいむとくべつ!」
「わくわく♪わくわく♪」
「はやくいこうね!どんどんいこうね!」
大きな扉を開けた先には甘い香りが広がっていた。
「おまんじゅー!おまんじゅーだあ!」
「そうだよ。さあ!いっておいで!お饅頭がたくさんあるからね!」
そういってゆっくりをベルトコンベアの上に置く。
「「「おじさんありがとう!ゆっくりしてくるね!!!」」」
ゆっくりを見送る男の笑顔はゆっくりたちの見せた無垢なそれとは違っていた。

道の途中でシャワーを浴びる三匹。
しゃあああああ!
「「「ひんやりー!!!」」」」
自分の体が消毒されたのにも、そして横の壁が高くなるのにも気づかない。
そして巨大な穴へ迫っていった。
「ね!なにかきこえるよ!」
「ゆ!きこえるね!『ゆ!ゆ!』っていってるね!」
「おまんじゅーのにおいもするね!みんなでたべてるんだね!」
「「「いっせーの!それ!」」」
「「「ゆっくりしていってね!!!」」」
わくわくした三匹は一緒に飛び込んでご挨拶、だが…
「ゆひゅ…ゆひゅ…」
「う゛ー?あ゛ー?」」
「ゆぐり…じでい゛っで…」
異常な温度の中で、ゆっくりたちの海で所々見えるそれを見て三匹は理解した。
「おま゛ん゛じゅ!!お゛ま゛ん゛じゅう゛がれ゛い゛む゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う!!!」
「どお゛じでごん゛な゛ごどずる゛の゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!」
「お゛う゛ぢがえ゛る゛!!お゛う゛ぢがえ゛る゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛!!!」
やがて悲痛な叫びは聞こえなくなった。


そして最後の一匹は…
「ゆゆう…さびしいよお…」
たった一匹では何もすることはない。ぽつんと扉の前で待っていた。
ガチャリ!
「ゆゆ!」
ついに自分の番、そう思ったれいむは目を輝かせた。
ぼすん!ガチャリ!
何かを投げ込み、無情にも扉は閉まる。
「ゆゆ!あけて!あけて!おそといきたいの!」
叫んでも扉は開かず自分の声しか聞こえない。
そういえばさっき何か投げ込まれた。そう思ったれいむはそれに近づいていった。
「ゆっくりしていってね!!!」
投げ込まれたものがゆっくりだとわかり、ありったけの声で叫ぶれいむ。
「ゆう…ゆうう…」
「ゆゆ?どしたの?ゆっくりしないの?」
帽子を被り、目をとろんとさせたそれはれいむを確認すると襲い掛かった。
「ゆ゛ゆ゛ゆ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」
「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
しばらくして数匹の子供が生まれることになる。




地球温暖化や食糧不足、エネルギー不足の中に突如発生の謎の生命体、ゆっくり。
初めはその異常な数と雑食性により人々は大いに苦しめられた。
しかし、現在はこのような有効利用法が見つかっているのだ。

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最終更新:2018年08月10日 23:00