喫茶店で昼食を済ませた後は、適当に町をぶらついた。特に事件も無く、ゲラ子の耳を結んで遊んでいた悪ガキに拳骨をくれてやるくらいだった。
日が沈んできた頃、そろそろ自宅(事務所)に戻って夕飯を食べて、日誌とお上への報告書でも書いて寝ようと思い、喫茶店のドアを開けた。
朝からずっと入り浸っているのがいれば、紅茶やコーヒーで酔えるのか顔を紅潮させているのもいる。
「よぉ、儲かってるねぇマスター!」
「ケッ、人数の半分も儲けてねぇよ」
「この町も経営が乗ってきたんだ。もう少しの辛抱さね。オーダーはカレーとニンジンにするわ」
この町で取れる様になった鉱石は高く売れるのだが、最近まで掘削の費用がかさんで金欠状態になっていた。
道具も技術も確立し、商売先も安定したのでそろそろ町人の懐が温まってくるだろう。
都市の人間はここの町人を賊を見る様な眼で見るが、私にゃ人情深くて良い連中だ……と思う。
育ちが良いからってエバるし、こっちより肥えてる癖にツケの一つも許しちゃくれない。
「へい、お待ち!」
カレーとニンジンスティックとトマトサラダが運ばれてきた。ゲラ子はサラダを指差し笑いだした。
「カレーとニンジン以外の金は払わないよ」
「そのサラダはゲラ子ちゃんに俺からの奢りだ」
『ゲラゲラゲラゲラ!』
ここのマスターはゲラ子にだけは甘い。どんな客でもツケはするが、奢りはしなかった。
当のゲラ子も気に入っているらしく、私を除けば唯一懐かれている人物だろう。
調子付いてきたのか、私を指して笑いだした。流石にカチンときたから大きくあけたスイカ口にカレーを突っ込んでやった。
『~~ッ!? ~~ッ!!』
「ゲラゲラゲラ!」
ゲラ子は声にならない叫びを上げながら、ゆっくりらしからぬスピードで走りまわった。
それに対し、私はお株を奪ってゲラゲラと指差し笑ってやった。周りもつられて笑いだし、一気に賑やかになった。
「そういやお前ぇ宛てに『ゆービン』が来てたぜ」
「私にゆービン?」
ゆービンとは、主にうーぱっくなどの空を飛べる種のゆっくりによる輸送法である。まぁ、手懐けやすさからうーぱっく以外に運び屋は務まらないだろう。
何でも、手紙などをビンに入れて運ばせたことが由来だとか……
ビンには粘土で栓がしてあった。中身は、古くなりすぎて触るだけで崩れそうな紙で書かれた手紙だった。
「何々? “けさわめゐはくおかけてすびはせんでした。おわびがしたぃのでもりまできてください……まりき”」
どうも、今朝のまりさかららしい。ただのならず者だと思ったが、誠意を表わしたいのなら無碍(むげ)にするわけにもいくまい。
それなりに知識もあるようだし、誠心誠意謝ってくれるのなら傷も目立たぬようにしてやるかな。
少量のお菓子と各種薬品を持参することにした。
「ゲラ子は留守番してな」
『ケラケラケラ』
「今日は満月だろう?」
『ゲラゲラゲラゲラ!』
留守番という言葉に疑問を覚えた様だが、すぐに理解したことを表す笑い声を上げた。
このゆっくりれいせんという種は満月の夜に最も活発に行動するらしく、いつも餅つきをするのが決まりになっていた。
軽く身支度をすると、マスターに留守を頼み出発した。
―――ふもとの森
この森には薬草を採りにゲラ子を連れて何度か来たことがある。ゲラ子はあれで、薬草のことについては町の誰よりも詳しかった。
村からそんなに遠くない場所ではあるが、用もないのに来るにはかったるい。
そんな位置に森は存在した。入口には記憶に新しいまりさが震えながら待っていた。
捕食種が存在しないとはいえ、日が落ちてからも巣に戻らない姿勢はすごく真摯に見えた。
『ゆゆ?おねえさん!きてくれたんだね!!』
「ああ、悪いゆっくりをたくさんしょっ引いてきたけど、お詫びがしたいなんてのは初めてだからねぇ」
『まりさのおうちにしょうたいするよ! ゆっくりついてきてね!!』
「ああ、良いよ。運んであげるから道だけ教えてね」
それからしばらくの間、まりさの世間話(主に自慢話)を聞きながら指示どおりに歩いた。
だんだんと自分の知らない道にそれ、どんどん森の深くまではいって行った。
まりさが会話の中で、これからはこの森のみんなと一緒に暮らすことにしたと言ったところで、その事に気づいた。
『おねえさん、あたまのきずがいたむの。なんとかならない?』
「傷は残っちゃうけど、これを塗れば痛みは引くわ」
ズボンに取り付けている薬品入れから、青いチューブの軟膏を取り出した。
「帽子が邪魔だから、持ってるわよ?」
『ゆ・ゆ・ゆ♪ゆーゆーゆー♪ゆ・ゆ・ゆ♪』
薬を塗ってもらえるのが嬉しいのか、まりさは独特なリズムで歌い始めた。
ゲラ子以外のゆっくりの歌を聴くのは久しぶりなので、新鮮な気分になった。
ハテ?どこかで聞いたことのあるリズムだな。記憶の奥底に何か引っかかる物がある。
軟膏を塗ってやっている時、周りの茂みからガサガサと生き物の気配がした。
『『『『ゆっくりまりさをはなしてね!!』』』』
「お?おぉう?」
『『『『さっさとばうしをかえしてあげてね!このおばん!!』』』』
「な、なな……!?」
一斉に私を囲むようにして飛び出してきたのは、ゆっくりの群れだった。しかもそれぞれ前科者の傷を負っていた。
不意に頭に鈍い衝撃が走り、その場に倒れこんでしまった。何が起こった?
霞む視界の中で確認したのは、ゆっくり種の中でも重量級であるれてぃと帽子をかぶったまりさ。
『ふん!おばさんばかだね!!まりさにかてるとおもったの!?』
おまえは何を言っている?
『まりさのいったとおりにんげんってよわいでしょ! けさもみのがしてあげたのにのこのこしかえしにくるなんてほんとうにばかだね!!』
見逃してあげただって?
私はお前が詫びたいからと、手紙を受けたからここに来たんだぞ!?
『みんなでいけば、あのこぎたないまちをまりさたちのゆっくりぷれいすにできるよ!!』
『あそこにはにんげんにしたがってるぐずのゆっくりたちがいるからどれいにしようね!!』
私の故郷であるあの町が小汚い!?
人間と共存しているゆっくりたちが愚図だって!?
「お、お前……何を―――」
『しぶといばばあはえいえんにゆっくりしていってね!!』
上手く呂律が回らないうちに、まりさは口から煙幕の様な物を私に吹きかけ、続いて森中に響く程の口笛を吹いた。
間もなく、空が黒い影で覆い尽くされた。
『『『『『『うー♪うー♪』』』』』』
今まで見たことが無いほどのうーぱっくの群れだ。
既にゆっくりを積んだ者は、町の方へ飛んでいく。
私の鞭ならば、まだ叩き落とせる。
「このぉ――」
何とか起き上がり、鞭を振るおうと構える。
……が膝がガクリと折れた。
しまった……この森には人間にも麻酔効果のある薬草が群生している。
揮発性が高く、主に嗅がせて使うものだが、それなりの知能を持ったゆっくりならば効能も知っていただろう。
しかし、目に見えるほどの濃度の使用例は聞いたことが無かった。下手したら二度と覚めない眠りに落とされるかもしれない。
「く、クソォ……」
死に物狂いで這い出し、ようやく煙幕から抜け出した。
まだ体中に痺れが残っていたが、持ち合わせていた気つけ薬で意識を失わぬ様にしながら町へと急いだ。
すでに第一陣のうーぱっくは町に降下していた。
「チクショウ……チクショウチクショウ! 間に合ってくれぇ!!」
思わず情けない声が漏れてくる。
いかにゆっくりと人間だと言っても、出だしで遅れ、慣れぬ道、不自由な体とハンデが揃っては勝負にならなかった。
他の者が心配でないと言えば嘘だが、町に残してきたゲラ子のことで頭がいっぱいになっていた。
―――廃炭鉱町
恒例となった餅つきは、町の中央の広場でやることになっていた。
町の住人もこの時ばかりは、この広場に全員集まっていた。
それがアダとなり、町を外側から囲むように降下してきたゆっくりに気付くのが遅れてしまった。
例のまりさが指揮を執り、各地にあるゆっくり舎を占領し、労ゆっくりを人質に取った。
町人たちが異変に気づいたのは、人質の半数を引き連れたゆっくりに囲まれてからだった。
「お、遅かった――」
肩で息をしながら町にまで辿り着いた私は、その光景に目を疑った。
ならず者ゆっくりが町の施設を占拠し、真面目な労ゆっくり達を奴隷の様に扱っていた。
その中でも喫茶店は酷いものだった。
『れいむたちはおなかがすいてるんだから、ゆっくりしないでさっさとたべものをもってきてね!!』
『そんなことをしたらまちのひとがこまっちゃうよ! ゆっくりりかいしてね!!』
『ゆゆっ!?うるさいよ!ばかなにんげんたちのみかたをするやつはゆっくりしね!!』
『やっやべてびゅ!!』
『どうじでごんなことするのぉぉぉ!』
食べ物を催促し、逆らう者に罵倒を飛ばす者。
皿を割って遊ぶ者。
フォークで労ゆっくりを突き刺して笑う者。
様々な方法で、傍若無人に振舞っていた。
ふと、見覚えのある皿が目に付いた。
『ゆゆ? このおやちゃいはなぁに?』
『これはさらだっていうりょうりよ!とまとをつかってるからとかいではとまとさらだっていうわね!!』
『『む~しゃ♪む~しゃ♪』』
『あんまちおいちくないね!』
『いなかもののおろかでぐずなにんげんのにおいがするからよ!!』
『『ゲラゲラゲラゲラ!』』
小食なゲラ子のために、棚にとっておいたトマトサラダを赤れいむと親ありすが咀嚼していた。
途中で私の存在に気付いたらしく、旨そうに喰っていたにもかかわらずにサラダの皿を蹴落とした。
さらに二匹揃って、それに唾を吐き、こちらに嘲りの表情で大笑いした。
やめろ……
お前らみたいなド畜生が、ゲラ子と同じ様に笑うんじゃない!
私の中で何かが切れた。
床にぶちまけられたトマトが、張り付いた様に視界が真っ赤に染まった。
鞭をしならせ、眼前の二匹に向かって振るう。距離が離れていたが、先端がかすめるだけでも十分に致命傷だ。
『そのふたりにけがをさせたらこどものいのちはないよ!!』
ビシィッ!
背後からの声に我を取り戻し、鞭の軌道を曲げた。二匹の頭を掠めた鞭は側面の壁を抉った。
白目を剥いてガタガタ震えているが、二匹にケガはない様だ。
振り向けば、巨大れいむが昼の悪ガキの上に圧し掛かっていた。
『ぐずでおろかなおばさん! むだなていこうはやめてきりきりあるいてね!!』
巨大れいむの上に例のまりさが乗って支持を出した。
まるさが跳ねるたびに、呻き声が聞こえた。
指示通りに進むと、広場に出た。町人はみな広場の中心に集められていた。
本来ならば進化したとはいえ、ゆっくり如きは簡単に駆除出来る屈強な連中だが、私のせいで手を出せないでいた。
ゆっくりーだーのいる市町村の住人(ゆっくりを除く)は基本的に、許可が無ければ駆除することができず、あくまで悪いゆっくりを生け捕りにしなければならなかった。
その許可も私がお上に申請して、数日かかる。ルールを破れば全てゆっくりーだーの責任となる。
愛好家や労働力として重宝される様になってから、加工所としての資源の不足を補うための措置である。
周囲には理不尽な暴行を受け死んだのであろう、労ゆっくりの死骸が散らばっていた。
その中にはちらほらとならず者ゆっくりの残骸も混じっていた。
町人がやったので無いのならば、半ベソを掻いているゲラ子が手に持っている杵でやったのだろう。
衣服はボロボロで傷だらけ、肩で息をしながらも生き残った労ゆっくり達を守るように、杵を両手に仁王立ちをしていた。
助けられたのは二、三匹だけの様だ。
「お疲れさん、ゲラ子。あんころ餅はいくつできた?」
『ゲラ!ゲラ!ゲラ!』
「そうか三つかぁ」
周りのゆっくり達には数でやられたのだろう。
ゲラ子の頭を撫でてやる。髪の毛もバサバサになってしまっていた。
とりあえず応急処置をしてやろうと、先程の軟膏のチューブを取り出した。
『おばさん!なにかってなことしてんの!?ばかなの?ひとじちがいることをわすれないでね!!』
「こいつは怪我をしている。同じゆっくりなんだから治してやってもいいでしょう?」
『そんなゆっくりできないやつをまりさたちといっしょにしないでね!!』
「せめて人質を放してやってくれないか?」
『じゃあおばさんとげらげらうるさいやつのどっちかがしんだらはなしてあげるよ!!』
遠まわしに言ってるが、ありゃ私とゲラ子で殺しあえと言っているに等しかった。
せめて人質さえ取り戻せたらと思い、質問したが墓穴を掘ってしまったかな?
しかし、追い詰められている時に限ってまともな考えが出てこない。
了承する前だと言うのに、既に町中の野良ゆっくり達は私とゲラ子の周りに集結していた。私達に選択権は無いらしい。
「絶対に何とかするからこれから何が起こっても、私とゲラ子、そしてこの野良達に手を出すんじゃないよ!」
グイグイと円の中央へ追いやられる私は、最後に町人達に釘を刺した。
日ごろの行いが良かったお陰か、みんな私の言う言葉に静かに頷いてくれた。
少し離れた所にゲラ子が杵を構えて、ガタガタ震えていた。
「ゲラ子ぉ~あなたは私の力を知ってるよねぇ~」
『―――!』
私は薬品入れから、黄色いテープが貼られた小瓶を取り出し、これ見よがしに握り割った。
野次馬のゆっくり達はそれを見るなりザワザワと、震えだした。
ゲラ子は対照的に、震えが止まった。
他のゆっくり達にはともかく、ゲラ子は気づいてくれたようだ。
『ごたくはいいからさっさとはじめてね!!』
痺れを切らしたまりさの怒声が、合図となり二人同時に飛び出した。
ビチィッ!
ドゴォッ!
一瞬の出来事だった。
そこに立っていたのはゲラ子だ。
振るわれた鞭より早く、杵が頭に命中したのだ。
「うげぇ……」
情けない呻き声が口から洩れる。
私は力なく、ドサリと崩れ落ち、意識が遠のいていった。
『ほんとうにしんでるかたしかめてね!!』
巨大れいむの上から見下ろしていたまりさが下のゆっくり達に確認を取らせる。
何匹かのゆっくり達が恐る恐る近づき、つついたり、かじったり、上に登って跳ねたりした。
仕上げにれてぃを上から落としても無反応だ。
『『『ほんとうにしんでるよ!!』』』
うれしい誤算だ。
首謀者のまりさはニヤリと口元を歪めた。
朝の仕打ちを見る限り、勝つのは人間だろうと思っていた。
制圧する上で最も邪魔な存在が消えたのだ。
残ったのは笑うしか能がない愚図に、まりさたちに手を出すことができない町人。
あさやられたのはたまたまだったんだ!
まりさよりつよいやつはいないんだ!!
もうここは、まりさたちのゆっくりプレイスなんだ!!!
『ふん!なにが“いちばんつよいのはわたしなのよ”だ!まりさよりよわいくせに!!』
『みんな!もうここはまりさたちのゆっくりぷれいすだよ!!』
『うーぱっくもここをすきにしていいよ!!』
『おろかなにんげんはさっさとでていってね!!』
物言わぬ死体に罵倒し、その上を誇らしげに跳ねた。
まりさが『じぶんのまち』宣言を上げると、ゆっくりたちは町人を追い出すようにジリジリと町の入口まで追いやる。
報酬を待ちわびていたうーぱっくの群れは、ようやく畑として実り始めた作物に向かって飛んでいく。
『『『『『『うー♪うー♪』』』』』』
ヒュン――
『『『『『『う゛ー!う゛ぁぁぁああ!』』』』』』
空を切る音と共に、うーぱっく達の断末魔の叫びが響いた。
『ゆゆ!?』
まりさが振り向き見たものは、正に地獄絵図だった。
五十匹近くのゆっくりを運んだうーぱっくは、目標である畑が近かったので低空飛行をしていた。
そのことごとくが、黒い旋風に細切れにされ、叩き落されていた。
旋風を起こしていたのは先程死んだはずの人間だった。
いや、鎌こそ持っていないがあれではまるで妖怪の……
『かまいたち……』
「ゲラゲラゲラゲラゲラ!」
『ゲラゲラゲラゲラゲラ!』
女はうーぱっくを切り刻みながら笑い、ゲラ子は狼狽するまりさを指差し笑った。
ゲラ子の眼は紅さを増し、怪しい眼光を湛えていた。
うーぱっくを打ち落とし終えた女が、ゆっくりと振り返り目が合った。
口は三日月の様にニュッと歪み、眼はゲラ子と同様に紅く光っていた。
『どぼじでいぎでるのぉぉぉ!?』
目先のことしか見えぬゆっくり達には一生分かるまい。
先ほど砕いた薬瓶の中には、このまりさも使用した麻酔が入っていた。
適量のそれを吸い、死体の演技をしていたという訳だ。
『み゛んな゛かたぎをうづよ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!』
まりさは震えを抑え、指導者としての最後の号令を出した。
『う、うそだぁ……』
『ゆ゛ぅ、ゆっぐぢぢゃぢぇでぇぇえ!』
『あがぢゃんは、ばびすぐぁまもるがらねぇぇ!!』
今まともに動いている野良ゆっくりは三匹。
首謀者のまりさと、喫茶店で私を嗤った赤ゆっくりと親ありすだ。
ありすはどうやら、真っ先に突っ込んできた巨大れいむとのつがいだったらしかった。
今では目と口の間から横一文字に両断されてしまっているが……
「ふう……久しぶりに大声出して笑っちゃたわ」
『よぐも゛――』
「ん?」
『よぐもべびぶをごろじだな!ゆっぐりじねぇ!!』
「あらぁ?ウフフ、人聞きがわるいわぁ。私は一匹も殺しちゃぁいないわよ?」
『うぞづぐなぁぁ!』
分かったわよと、ありすを巨大れいむの前に運ぶ。
横薙ぎに払われ、上の部分がずり落ちそうなところで乗っていた。
「ほぅられいむ、愛しのありすちゃんよ?』
優しい猫なで声でれいむの髪を撫でてやる。
不格好なダルマの様に巨体が揺れた。
『……あ゛…り………ず』
なんとれいむは捻りだす様な声を絞り、涙を流した。
『れ、れいぶ!?びゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
『どぉぢでぇぇぇぇぇぇぇぇぇええぇぇぇぇ!!』
『にんげんはおろかで、ぐずで、まりさのあしもとにもおよばない……』
それを見たありすは絶叫し、赤れいむもそれに続いた。
その様子をまりさは呆然として眺め、ぶつぶつとうわ言を流していた。
私はありすと赤れいむを上に放り投げ、鞭を二回しならせた。
二匹は空中でど真ん中から両断された。
その瞬間から皮の再生が始まり、落ちてくる頃には四つの饅頭片となっていた。
再生する際に、少しでも接点があれば巨れいむの様に奇形になるだけですんだだろう。
『『びゃっ……びゅ…』』
餡子が無くならなければ死なないと言うのは本当らしく、饅頭片となった今でもピクピクと動き奇声を発している。
その饅頭片をかき集め、巨れいむの眼前に置いてやる。
「ウフフ、末永くお幸せにね」
『まりさは、まりさは……』
なんでまりさはこんなばかなことをしたんだろう?
いたいめにあったばかりではないか、なぜかてるとおもったんだろう?
おおぜいいたから?
ちがう
みんないちどにんげんをだしぬいたことがあるから?
ちがう!
どんなにこうげきされてもたおされないじしんがあったから?
そうだ!!
あのときなんどもたたかれてもまりさにきずはのこらなかった!
むきずでかえることができたんだ!
むきずならまけるわけがない!!
なのになんで!?
「ねぇ?まりさぁちゃん?」
『ゆ゛!?』
声をかけられ、まりさは我に返り無残な現実に引き戻された。
まりさはこの時心底後悔した。
愚かしくも今になって、後頭部の火傷が痛み出したのだ。
そして、傷の残らぬ痛みがどれほど恐ろしいかを理解した。
『おね゛ぇざん!』
「なぁに?」
『ばりざにはやけどびだいなきずがづぐようにおじおぎじでぐだざい!!』
「わかったわぁ」
まりさの反骨精神は粉々に砕かれていた。
私は少々残念な気もしたが、仕方がない。
まりさの意見を尊重することにした。
まりさを町のトーチに入れ、帽子に油を染み込ませ、火種を落とした。
『ゆぎゃ―――』
悲鳴は最初の一瞬だった。
全身に火が回ったまりさは、焼きつく度に火傷が回復し、再び焼き付くの連鎖を始めたのだ。
同じ量の薬でも使う個体によっては、効き目が違うと聞いたことがある。
鞭から摂取した分だけでも既に全身に馴染んでしまったようだ。
パチパチとまりさの焼ける音のみが聞こえていた。
「ゲラゲラゲラ!」
『ゲラゲラゲラ!』
一晩明けて、町中には悲惨な野良ゆっくり達で溢れていた。
痛みを訴えるもの、なんとかもがいて逃げようとするもの、餡子を吐いて自殺しようにも体が歪みすぎてそれすらできないもの……
「なぁ、マスター。私このケジメを付けたらこの町を出て行くわ」
「何だよ突然」
「見聞を広げたくなったの。そして探しものもね……」
正直に言うとあれだけの大立ち回りをしたのに、ほとんど何も覚えていないのだ。
しかし、やったことの重大さは理解している。
そして、これまで持っていた信念が揺らいでしまった。
少しでも償うために、私にできることはまず町の復旧だ。
次には、世界を回り、各地のゆっくりの姿を目に焼け付け、最良の関係とは何かを知ることだ。
「それが見つかれば、すぐにでも戻ってくるわぁ」
最後に、この組織の大元を知ることだ。
もし噂どおり、ゆっくりを品物として扱っているのならば、それを見極めることだ。
傷物である前科者はそれこそ、思いもよらぬような実験の材料としているという噂もある。
こんな哀れなゆっくりをこれ以上世界に出してはいけない。
独善的と言われれば、否定はしない。ただ、この目で確かめたいだけなのだ。
今思えば、あの新聞の少年に抱いた思いも、ただ羨ましかったのかもしれない。
「ゲラ子ちゃんを大事にしなよ」
『ゲラゲラゲラ』
「この子は私なんかよりもずっと強いわよ」
それからしばらくし、町が以前と同じ状態に戻る頃、この町から一組の流れ者ゆっくりーだーが誕生した。
それを見送る様にトーチの炎が一瞬大きく煌いた。
~ゆっくりデータファイル~
No.3 ゲラ子(ゆっくりれいせん種)
能力:はっきり言って未知数。現在でも珍種とされ、目撃例すらほとんど無い。
人の言葉を話すことができず、口を開けば常に笑う。
意外と博学な面があり、特に薬草の知識には目を見張るものがある。
体付きとしては珍しく、道具を使用することができる。
特殊:『狂気を伝染させる程度の能力』
普段は温厚なゲラ子だが、強い精神的ショックを受け、狂気に駆られると発動する。
近くにいる人間(主にパートナー)に狂気が伝染する。
ちなみにこの能力は本人は知らないし、伝染した者もその間の記憶を無くす。
備考:満月の夜に活発に個体ごとの行動を取るらしい。(ゲラ子の場合、餅つき)
今後はこの個体を観察していく上で解明されるものがあるだろう。
No.4ならず者まりさ(ゆっくりまりさ種)
能力:まりさ種で言う裏切り等の、短所が見事に欠落している。
持前の身体能力の高さとリーダーシップで、ならず者ゆっくり達をまとめ上げた。
特殊:「遠くの味方に命令を出す程度の能力』
本作中では歌や口笛として使用している。歌のリズムは某信号から
特殊2:「どんな傷でもすぐに治る程度の能力」
先天的な能力ではなく、外科的に付与された能力。
その名の通りの能力で、強力すぎるがために悲劇を生んだ。
備考:本作品の序盤のセリフに嘘偽りはなく、仲間のための行動だった。
新たな能力に目覚めなければ、もっと違う結末になっていたかもしれない。
後書き
ようやく、後編が完成しました。
薬品ネタとまりさの結末から作っていったので、変に疲れた。
描写が伝わりにくくしてしまったかもしれない。
どうしても救いのある話にしたかったので、後半の描写はイランて人が多そうだなぁ……
ネタ切れなので、虐待スレを見てビビッときたらまた書きます。
最終更新:2022年05月03日 15:41