※注意
現代ゆっくりモノ。
オリジナル設定あり。
ゆっくりまりさの中味が黒蜜になっていますが、俺設定です。
SS初挑戦です。
ブザーが鳴り響いた。
ゆっくりたちが目を覚ますと、そこは箱のなかだった。
「……ゆ!」
箱は天井低く、狭く、暗かった。そこに饅頭サイズの子ゆっくりばかりが8匹ほど入れられていた。
箱は横広の長方形だが、壁の一方が外に繋がっている。そこから見える景色は陽光きらめく新緑の森。
外に気づいたゆっくりたちが跳ね寄るが、箱と外界は鉄格子によって隔てられていた。
箱はゆっくりの牢屋だった。
「ここはどこ? せまくてゆっくりできないよ!」
「おそとはゆっくりできそうだよ! ゆっくりだしてね! おそとにだしてね!」
がちゃり、と音がして、鉄格子が自動的に外へと開いた。
「!? ――ゆ!」
「ゆ!?」
顔を見合わせるゆっくりたち。しかし警戒することはなく、自分達の行動が結果に繋がったのだと
結論付け、われ先にと光り輝く草原の中へと飛び出していった。
自分達の背後、先ほどまで入っていた箱牢が、静かに地面に沈みこんだ事に気づかないまま。
※
『さあ始まりました全国高校ロボットバトル・準決勝、第一試合です』
『バトルフィールドは森。舗装されていない草原と木立のステージです。二足歩行とローラーダッシュ
が移動手段の西日暮里高校には若干不利な状況です』
屋内に作られた人工の森林。天井には青空が映し出され、太陽代わりの照明が森を明るく照らして
いる。森のあちこちには状況を確認するための隠しカメラが設置されており、そのうちの数台が森の
地面から浮き上がったゆっくり牢から、ゆっくりの群れが飛び出すのを映し出した。
『各地点でゆっくりがリリースされました。数は合計で31体。れいむ種とまりさ種です。全て同じ親から生まれた姉妹となっております』
『子ゆっくりしかいないのにはなにか理由があるんですか?』
『親ゆっくりですとバレーボールほどにもなりますから、体当たりでロボットが破損してしまう可能性
があるわけですね。それは競技目的からすると望ましくない』
『なるほど。事故による不戦勝は好ましくないと』
『そういうことです。では解説席にお越しいただいている、親ゆっくりまりさ・れいむ両氏にコメントをいただきましょう』
解説の男はそういうと、足元から透明な箱に収まった二匹の親ゆっくり持ち上げ、解説席の上に置いた。
『やべでねぇぇっぇぇぇ!!』
『ゆっぐりじないでね! みんなにげで!』
だくだくと涙を流し、鼻を赤くして自らの子供らを案じている。
『おっほ! これは……』
『キモイですね~。では試合を見てみましょう。最初に群れを捉えるのはどちらになるのでしょうか!?』
※
「ゆっゆ~♪」
「ゆっ、ゆ~♪」
子ゆっくりの群れが楽しそうに移動している。
いずれもまりさ種で、心地よい自然のなかをきょろきょろしたり蝶を捕らえたり三つ葉をくわえたりしながら跳ねていた。
『おっとー。鼻歌を歌っている。のんきに鼻歌を歌っているのは? 6番グループのまりさ群ですか?』
『ひーふーみーよー・・・・・・10体? これは多いです』
『よくみると8番グループのまりさもいます。2グループ、2グループいます』
『これは大漁ですね。全体で31匹ですから、三分の一がここに集まっていることになります』
まりさの群れが移動しているのは茂みと茂みの間に不自然にあいた道だ。
獣道でもないのに歩きやすく道が出来ていることに何の疑問も感じないまま、群れは目的もなく進む。
やがてゆっくりたちは開けた草原に出た。
人間にしてみれば狭い、しかしゆっくりにとっては大草原ともいえる空間だ。しかもその中央、木漏れ日の直下には畑がある。
『6番8番がたどり着いたのは、畑。ゆっくりが好む野菜をゆっくりが好んで荒らす畑を模して配置しています』
『状況を把握しているわけがないですから、これは間違いなく喰いつ――、!? あぁっと、これは!!』
嬉々として畑に駆け寄るまりさの群れ。しかし、その畑の作物の間から見える赤白のリボン。
『ゆっくりれいむです! これは2番グループ総勢・・・6匹!』
『これは……』
畑で食事中のれいむ群が、来客に気づく。跳ね寄っていたまりさ達も先客の存在に気づき、歩みを遅めた。
畑のそばに揃って、まりさ種が言った。
「「「おじゃまかな!?」」」
れいむ種は畑を見回し、れいむ種同士で頷きあった。
「「「ゆっくりしていってね!!」」」
にこやかな挨拶が取り交わされ、まりさ種は畑に入ることを許された。
大根を掘り出し、薩摩芋にかじりつき、白菜に包まりながら、暴食の宴が繰り広げられる。
「うっめ! めっちゃうっめ!」
「むーしゃむーしゃ」
「んっがぐっぐ」
「「「しあわせー!」」」
ゆっくりたちはこの世の春を謳歌した。畑の中央にある立て看板「にんげんのはたけ ゆっくりしたらしぬ」には見向きもしない。
『これは思ってもみない展開。この畑に過半数のゆっくりが集合してしまいました』
『総ゆっくり数31体ですからね。この16体が一つのチームに一網打尽にされると、その時点で逆転が不可能になります』
『そしてこの畑はF大付属のスタート地点近く――』
突然、畑近くの茂みが大きく動いた。
その音と動きにゆっくりたちが1匹また1匹と食事を止め、ついには全員が注目しだした。
茂みはなおも揺れ動き、その音を大きくする。まるで何かが隠れているかのよう。
ゆっくりたちは一向に姿を現さない何者かに痺れを切らし、茂みを囲むようにして待ち受ける。
その顔には友好的な笑みがうかんでいる。何かを示し合わせるように互いに視線で合図する。
ついに一匹のゆっくりが茂みから跳び出した。
「「「ゆっくり――・・・・・・」」」
サプライズをねらった子ゆっくりたちが、その闖入者を見上げた。
それは親ゆっくりよりも大きい、バランスボールほどもあろうかという・・・・・・ゆっくりゆゆこだった。
「「「――していかないでねええええぇぇぇ!!!」」」
瞬間、ゆっくりの春は終わりを告げた。
『キターーーー!!』
『F大付属工業高校のメカゆゆこがここで登場です! おおきい! でかい! いたしかたない!』
『下馬評ではゆっくりの警戒心を煽りすぎるとしてベスト16にも残れないと酷評されたメカゆゆこ!
しかしふたを開けてみればどうでしょう! 並み居る強豪を押しのけての準決勝進出!
ストイックなまでに削減された機能とこだわりぬいたゆっくりゆゆこへの偏愛!
幾重にも織り重ねられた狂気という名の錦が、この準決勝の舞台にも飾られてしまうのか!!?』
『にげでえぇぇぇあがじゃんんんんんんんん!!』
『だずげであげでよ"尾"お"お"おおおぉぉぉぉぉぉおぉ!!』
蜘蛛の子を散らしたよう――――。メカゆゆこを前にした子ゆっくり達の様は、そう表現すべきものだった。
統率もなく、策もなく、ただ泣き叫び散り散りに逃げ出すゆっくり。しかし1匹のれいむが取り残されていた。
「ゆっ、ゆっ、ゆっ、ゆ・・・」
地面に仰向けに倒れ、笑顔のままひきつけを起こしている。
その目に光る涙の粒が流れ落ち、土に吸い込まれるかと思われた刹那、メカゆゆこの開きっぱなしの口から
飛び出した銀色の触手が逃げ遅れいむを貫き上げた。
逃げながら後方を窺っていたゆっくり達、あまりの光景に立ち止まる。
触手の先でいまだ痙攣するれいむ。その涙をにじませた微笑みが――、瞬きのうちにメカゆゆこの口内に消えた。
咀嚼の動作を行い、嚥下したような震え。
1匹を飲み込んだ機械仕掛けのゆゆこは、舌なめずるように銀色の触手を口から出した。
見せ付けるように突き出した触手の、餡子にまみれた先端が今、ゆっくりと三股に分かれる――。
「ひぎいいいいいいいいいいいいいいい!」
「い"やべでええぇえぇぇぇっぇぇぇぇぇぇ!!!」
「どうじでぞんなごどずるのおおおおおおおおおお!!」
『これは酷い! ノリノリの精神攻撃! あぁーと! メカゆゆこ動いた。回転しながら高速で移動し、
ゆっくりたちを取り囲む軌道! 徐々に輪を縮めてゆっくりの群れをひとつ所に集めてゆく!! ゆっくりは恐慌状態です!!』
『メカゆゆこの触手ですが、医療用のロボットアームを改造したもので自在に動きます。
現在メカゆゆこが見せている武装はこの触手1本。あとは転がりによる体当たり攻撃のみです。美しいまでのシンプルさ!』
『なんでごんだごどずるのおおおおおおおおおお!!! ・・・・・・まりざだずげであげでっ!』
『ゆっぐううううううううううううううううっ!!』
透明箱の中、おもいっきり膨らんで箱を破ろうとする親まりさ。息を止め顔を赤くし、箱の中で体をほぼ四角形にしながらがんばる。
しかし解説役ふたりが動じることなく実況を続けている事が、箱の信頼性をあらわしていた。
メカゆゆこの包囲旋回によって逃げ場を失ったゆっくりたち。身を寄せ合うようにしてかたまり、
恐怖に身を震わせながら泣き喚いている。その目の前で、メカゆゆこが止まった。土に汚れた顔面は、
ゆっくりたちには目元に影が浮かんだ凶悪な表情に映る。
「ひいいいぃぃぃぃっぃいいい!!」
円陣を組むように集まったゆっくりの群れから、数匹が先んじて離れた。
「まりさはおいしくないんだぜ!」
「そこのれんちゅうとよろしくやってるといいんだぜ!!」
「ゆっくりしね!」
仲間を見捨てたのはいずれもまりさ種。珍しくもない行動だ。
しかしメカゆゆこは見逃さない。閃光となって駆け抜けた触手が、逃げ出そうとした3匹のまりさを滑らかに襲った。
「けぺっ!」「ぉぶろっ!」「ゆっぐ……! やめえええぇぇぇ!」
細身の触手はゆっくりの形状を保ったまま貫いた。
触手はそのまま地面に先端を突き刺し、ずぶずぶとめり込んでいく。
触手のまちまちな位置に刺さっていたまりさたちは地面に押され、一列に並んだ。
そうしてから触手を抜いたメカゆゆこ。まりさ3体を並べるようにして口にくわえると、一気に触手を引き抜いた。
「だずっ、だずげっ・・・ぺええぇ!!」
「おがじゃ! おがぢゃあああぁぁぁぁん!」
「やめえぇ! かえりゅ! かえりゅぅぅぅぅぅぅ!!!」
べそをかき、絶望に塗れ、裏切った仲間達に命乞いをしながら、傷口から黒蜜を垂れ流すまりさ。
そのまりさたちが、ゆっくりとひしゃげてゆく。苦悶、懺悔、後悔。中身と共に流れ出すさまざまな感情。
その全てを絞り抜かれ、まりさたちは絶命した。触手の先が残骸を口内に招きいれ、念入りな咀嚼が始まる。
それが終わると、そこには口元を黒蜜で濡らしたメカゆゆこが残った。
「…………」
子ゆっくりたちは声もない。
あるものは髪と瞳を白く変色させて放心し、
またあるものは涙にまみれた顔をこれ以上ないほどゆがめたまま自身の舌を喉に詰まらせて窒息しつつある。
諦観にくすんだ微笑でその場の草を食む者や、
なぜかヘブン状態に至った者。
違いはあれど、皆逃走への意志を失っていた。
それを確認すると、メカゆゆこは一際おおきく口を開けた。
そのときである。
鉄のかたまりが、横合いからメカゆゆこを突き飛ばした。
『こ、これはーーーー!!』
『これ以上ないタイミングで! そして瀬戸際のタイミングで! かけつけました西日暮里高校、間に合ったーっ!』
鉄塊。
それは無骨なロボットだった。左手にドリル、右手にはサブマシンガン。
足短く、横広で頭部がない。骨格をむき出しにしたような外観はお世辞にもスマートとは言い難い。
その機体の上半身が、ゆっくりと子ゆっくり達の群れを向く。
ほぼむき出しのコックピット。
そこに鎮座しているのは一匹の子ゆっくりれいむだった。
「ゆっくりあんしんしてね!!」
その力強い言葉に、ゆっくり達の瞳に希望が点った。
ゆっくりをのせた機体『テイクイットEZ8』は向き直る。
いましがた突き飛ばした敵、メカゆゆこへ。
いまだ転がり続けている球体は木にぶつかって止まった。逆さまのメカゆゆこ。その両眼が鈍い輝きをもってEZ8を捉えた――。
最終更新:2022年05月03日 15:45