ある里の近くで、ゆっくり霊夢の一家が住んでいました。
 一家は皆キチンとしており、人間の畑も荒らさずにゆっくりと暮らしていました。
「おかーさん、おそびにいええくるよ!!!」
「ゆっくりあそんできてね!! くらくなるまえにもどってきてね!!!」
「おねーしゃんいってらっちゃい!!!!」
「いってきます!! ゆっくりしてくるね!!!」
 勢いよくお家から飛び出すゆっくり霊夢。
 今日は魔理沙たちと遊ぶ約束を強いています。
 こちらの魔理沙一家もキチンとしていて、他の魔理沙のように他人の家に上がりこむことはしません。
 二人でくたくたになるまで遊んだ後、霊夢は暗くなる前に魔理沙とさよならして、お家に向かいました。

 ……。
「ゆゆ!! おにーさん!! それなぁに?」
 俺が近くの永遠亭から一本の竹を貰って帰る途中、一匹のゆっくり霊夢が飛び出してきた。
「これかい? これは七夕に使う竹だよ」
「ゆ? たなばた? それってゆっくりできるの?」
「あぁ、この笹に願い事を書いて吊るすと願いが叶うって言われてるんだ」
「ゆゆ!! おにーさん!! れいむもおねがいしたい!! れいむもおねがいしたい」
「ちょうどいいな、……よし一緒においで!!」
「ゆ♪」
 ゆっくり霊夢と連れ立って家路を急ぐ、なんたって今日は七夕だからな。
「ほら、ここが俺の家だ」
「はいっていいの?」
「ああ。遠慮するなよ!」
「ゆ! ゆっくりおじゃまするね!!!」
 まぁ、普通のゆっくりよりは礼儀正しいみたいだ。
「おじさんありがとうね!! れいむはゆっくりおねがいしたよ!!」
 そうだった、こいつは何かお願いしたいことがあってここまで来たんだっけ。
「それじゃあ、今から飾りつけするから手伝ってくれるかい?」
「ゆゆ!! おてつだいするよ!! だかられいむもおねがいさせてね!!!」
「ああ。いいとも」
 何て純粋なゆっくりなんだろうか。
 これが並大抵のゆっくりだったら、早く飾り付けしてね!!、って叫ぶ所だと言うのに。
「それじゃあ、これを引っ掛けてくれるかな?」
 渡したのは七夕飾り、器用に口にくわえ、俺に抱っこされて笹にかけていく。
「ゆゆ!! おにーさんかけおわったよ!!」
「よし、こっちもお願いね」
「うん♪」
 暫く一人と一匹で仲良く飾り付けをしていった、一人でするより大分賑やかだ。
 ……うん、なかなか良い出来だ。
「それじゃあ、短冊を書こうか」
「ゆ~? たんざくってなぁに?」
 短冊が分からない霊夢に一枚の短冊を見せて説明する。
「これの事さ。ここにお願いを書いて竹に飾るんだよ。さて、文字は分からないだろうから代わりに書いてあげようか?」
 筆を持ち直しゆっくりの方へ向き直る。
 が、霊夢はなんだか不満そうだ。
「ゆゆ!!! おにーさん!! れいむもじぶんでかきたいよ!!」
「自分で書けるか?」
「うん!! おにーさんそれかしてちょーだい!!」
 意気揚々と俺から筆を受け取ったゆっくり霊夢は口にくわえてブッ格好な丸を沢山書きだした。
「何だこの丸? まんじゅうか?」
「ちがうよーー!! れいむのかぞくだよ!! この大きいのがお母さんだよ!!」
 別にどっちでも変わらん気がするが、見れば確かに目や口のようなものと髪の毛にリボンが書かれている。
「ふーん。で、これはどういうお願いなんだ?」
「ゆ? !! れーむとおかあさんと、おねーちゃんといもうとたちがずっとゆっくりできますようにっておねがいしたんだよ!!」
 ほー家族ね。コイツラらしい。
「あっ! そうだ!! おにーさん!! たんざくもういちまいもらっていい?」
 遠慮がちに聞いてくる、別にこんなもん何枚でもくれてやるが。
「良いけど、今度は何をお願いするんだ?」
「おともだちのまりさのかぞくもゆっくりできますようにってだよ!!」
 くーー!! 泣かせるじゃねーか!
「家族や友達思いの良いゆっくりだな!! よし、後でおにーさんが食べ物を持って言ってやろう。両方のお家の場所は分かるか?」
「うん、ここから…………」
 ほうほう、結構近くだな。
「よし! 分かった。それと、きちんとお願いが叶うようにおにーさんが文字でそのお願いを書いてやるよ」
「ゆゆ!! おにーさんありがとーー!! これでれいむたちはゆっくりできるね!!」
「そうだな、良い子にしてたらきっと叶うぞ」
「ゆゆ!! れーみたちもまりさたちもかってににんげんのおうちにははいらないよ!! はたけのおやさいだって、かってにたべないよ!!!」
 どうやら、自分たちがそういう事をしてると思われたと思ったんだろうな。
 それにしても、なかなか真面目なゆっくりだな。
「分かってるよ! ……っと、よしかけた。それじゃあ、飾りにいこうか」
「ゆゆ!!」
 無邪気に笑う霊夢を抱えて再び庭へ。
 霊夢に自分の短冊を下げさせた後、俺も自分の短冊を上の方へ下げた。
「ゆゆ!! おにーさんはどんなおねがいしたの?」
 下げる前に、霊夢がそんな事を聞いてきたので短冊を見せてやったら喜んでた。
 文字は読めないのにな。
「これでよし。全部終わりだ」
「ゆ! おじさんのおねがいもれーむのおねがいもちゃんとかなうといいね!!」
「そうだな。お前はこれからどうする? なんなら夕飯でも食っていくか?」
「んーん。おかーさんがしんぱいするといけないから、おうちにかえってゆっくりするよ!!!」
 そうか。
 それじゃあ俺も夕飯の準備に取り掛かろう。
「ゆ!! おにーさんどうしたの!!」
 ゆっくり霊夢を抱きかかえる。
 既に帰ろうと背を向けていた霊夢は少し驚いたようだ。
「んー? これから夕飯にしようと思ってな」
「? れーむはおうちにかえるよ? おにーさんのごはんのじゃまはしないからゆっくりたべてね!!」
「そぉい!!」
「ゆぶっちゃら!!!!」
 真横に図太い荒縄を通して竹へ吊るす。
「ゆゆ!!! れーむのおながにぃ!! おにーざん!! はやぐどってぇーー!!!!」
 このために、わざわざ永遠亭まで言って綺麗なウサギさんと一緒に丁度良い竹を探し回ったんだ。
 あぁ、今度は怪我をして行ってみようかな……。
「ゆ!! いだいよ!!! おにーさん!! ゆっくりおろしてね!!! ゆっくりおろじてねーー!!!」
 痛みに苦しみながら、こっちを見つめる霊夢。
 残念だけど、俺はこれから夕食の準備をしないといけないんだ。
「それじゃあ、そこでゆっくりしていってね!!!」
「ゆっぐりーーー!!!!!!」
 さてと、ビールビール!!

 ……。
「うっう~♪ あうあう♪」 
 暫くビール片手に家の中で待っていると、漸くゆっくりれみりゃがやって来た。
「う~? ぷっでぃ~んどごぉ~? ぷっでぃ~ん!!!」
 もちろん唯のれみりゃじゃない、紅魔館にすんでいる最高級れみりゃだ。
「ゆ!! おにーさん!!! れみりゃだよ!! ゆっくりできないよ!!!」
 そんなに大きな声で呼ばなくたって分かってるよ、コイツをおびき出すためにお前を吊るしてたんだから。
「うっう~た~べちゃうぞ~♪」
「ゆ!! ゆーーっぐりたすげでね!!! れーむはおいしくないよ!!!」
 馬鹿かお前? 大馬鹿な紅魔館れみりゃにそんなこと分かるはずないだろ?
「う~♪ がぶっ♪ !!!……うー!! ぷっでぃ~んじゃないー!!!」
 やっぱコイツ馬鹿だ。
「うーーー!! ぽいっ、するのぽい!!!」
 勢いに任せて、霊夢をズタズタに千切っていくれみりゃ。
 そろそろ頃合か?
「おい肉まん! こっちにぷっでぃ~んがあるぞ!!」
「う!! ぷっでぃ~んだべどぅ~♪」
「そうか、食べるか。ぷっでぃーんはこっちだよ!!」
「うーー!! ぷっでぃーんじゃないの!! ぷっでぃ~んなの!!」
 テコテコと座敷に上がってくるれみりゃ。
 ニコニコしながら俺の前に近づいて両手を差し出してきた。
「う~♪ はやぐぷっでぃ~んくれないと、さぐやにいいつげるどぉ~♪」
 はいはい、ぷっでぃ~んね。
「こぁ!!」
「うー? !!! いだい!! いだいどぉーーーーー!!!!!」
 そりゃ、柱に磔にされたら痛いわな。
「うーーー!!! ざぁぐやーー!!! ぷっでぃーんはどごーー!!!!」
 ……、おい!
「ぷっでぃーんじゃなくて、ぷっでぃ~んだろ?」
 まずは、この羽からいってみよう。
「!!! いだいどぉーー!!!! う゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーー!!!!!!」
 うん、これはビールに合うな!
「そればれみりゃのーー!!! れみりゃはだべものじゃないどぉーーー!!!!!」
 そういえば黒ビールも有ったな、今度はそれで食べてみるか。
「うあーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
 ……。
 ふー、食った食った。
 そういえば、あの霊夢はまだ生きてるのかな?
「おーい霊夢! 生きてるか?」
「ゆー。 !! おにーさん!! れいむはゆっくりできるよ!! れみりゃをおいはらってくれてありがとうね!!!」
 おお! 生きてた、すげーな!!
「でもこの縄を早く外してね!! そうしたら、こんなことしたのをゆるしてあげるよ!!!」
 へいへい。
「ほら、外してやるよ。別に悪気があった訳じゃないんだ。ただ自分を吊るすと願いが叶い易くなるんだよ」
 霊夢の縄を抜いて地面に降ろしてやる。
 縄の抜けた体を満足そうに見た後、目を輝かせて俺に尋ねてきた。
「ゆゆ!! ほんとう!! だったられーむたちのかぞくとまりさのかぞくは、ぜったいにゆっくりできるね!!!」
「U☆SO☆DA☆YO☆ そぉい!!!」
「ふんじゃられったりーーー!!!!!!」
 死なない程度に踏みつけて籠に入れておく、明日の朝には元気になってるだろう。
「じゃあな。明日は家族仲良く加工場に行こうな。願い通り、死ぬまでゆっくりできるぞ!!」
「!! かごうじょーーはやだーーー!! ゆっぐりできないよーーー!!!!」


 ……。
「れいむ、きのかえってこなかったね」
「きっとまりさといっしょにゆっくりしてたんだよ!!」
「やぁ、君達が霊夢の家族かな?」
「!! おじさん!! れーむをしってるの?」
「れーむはどこにいるの!!」
「うん、霊夢は君の家族と魔理沙の家族がゆっくりできるようにってお祈りしてたんだよ。俺は、それに感動して君らもゆっくりさせてあげようと思ってね。魔理沙の家族は、今一緒にいるから君達もおにーさんのお家へおいでよ!!」
「れーむもおにーさんのおうちにおじゃましようよ!!!」
「!! うん、みんなでゆっくりできるね!! おにーさん!! どうもありがとーー!!」
「いいよいいよ! 俺も願いが叶って嬉しいから……」
 翌日、親子共々籠に入れて、願いどおり加工場でゆっくりしてもらうことにした。
 専用の安全な檻に入れられた両方の一家が、嬉しそうに涙を流して喜んでいたのが印象的だった。
 俺の願い?
 高級なゆっくりれみりゃを食べたい事と、纏まった金が欲しい事さ。

 ……。
 昨夜、紅魔館。
 「れみりゃさまーー!! 食後のプディングをお持ちしましたよ!! ……またお出かけかしら?」
 「あ、咲夜さん。れみりゃさんなら、さっきお散歩に行きましたよ♪」
「そう。 ……このプリン食べる?」
「良いんですか? 頂きます♪」
「涎垂らしながら見つめてたでしょ。それより、貴方も短冊に何か書いたの?」
「おいしーです♪ ……あっ、はい! 嫌いな食べ物を見なくて済みますようにって書きました♪」

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最終更新:2022年05月03日 16:57