生まれ出づる赤ん坊ゆっくり


大人のゆっくりより子供のゆっくり、子供のゆっくりより赤ん坊のゆっくりのほうがいい。
その中でも特にいいのは十分にゆっくりした親から生まれたばかりのやつだ。
もちろんそんなのを見つけられるなんて早々あるもんじゃない。
だから俺はなるべく健康そうなゆっくりを捕まえてきてはつがわせている。
そして子供が茎から生まれ落ちるまで思う存分ゆっくりできるよう心を込めて世話をしてやる。
今飼っているゆっくりは子供ができてからゆっくりさせ続けて今夜で二週間目になる。
そろそろ頃合のはずだ。
俺はゆっくりの部屋へと向かった。

ゆっくり魔理沙とれいむのつがいを飼っている部屋の戸を開けると
「「ゆっくりしていってね!!!」」
というお定まりの声に迎えられる。
しかし今夜は耳慣れたつがいの声のほかにいくつかの小さな声が混じっていたようだ。
ゆっくりれいむを見やると思ったとおり茎に実った5個の赤ん坊たちが口々に
「ゆっくりちていってね!」
「ゆっくりちてるよ!」
「ゆっくり!ゆっくり!」
などと騒いでいる。
もう少しよく見ようとゆっくりれいむに歩み寄って赤ん坊に手を伸ばすと魔理沙が
「すごくゆっくりしたあかちゃんだよ!!!ゆっくりみていってね!!!」
と声をかけてくれる。
今まで世話を焼いてくれた俺を完全に信頼しているのがわかる。
お言葉に甘えて赤ん坊をつまんでゆっくり見てみると、時折くすぐったいのかキャッキャッという笑い声が上がる。
丹精の甲斐があり、どれもこれも色艶が良く元気に満ち溢れていた。
幸福そうに赤ん坊たちを見つめるまりさと霊夢の表情もこの二週間理想的ゆっくり状態にあったことを物語っている。
俺は大いなる満足を感じながらゆっくりれいむをゆっくりと持ち上げた。
「ゆゆっ!!!おふろ♪おふろ♪ゆっくりおふろ♪」
いつものように風呂に入れてもらえると思ったれいむが嬉しそうに体を揺らす。
赤ん坊たちも母親の声に何か楽しそうなものを感じ取ったのだろう、
「おふろ♪おふろ♪」
と皆でかわいらしい声を上げている。
「あかちゃんがいるからゆっくりはこんでいってね!!!」
魔理沙の気遣いを背に受けて俺はゆっくりとれいむを運んでいった。

俺が流し台にれいむを置くとれいむが不思議そうなまなざしを向けてきた。
「ゆゆ?ここおふろじゃないよ?」
確かにここは普段魔理沙やれいむを洗っている風呂場ではなく、厨房だ。
しかし俺がここは赤ん坊の風呂だと告げるとれいむはすぐに納得したようで
「あかちゃんをゆっくりきれいにしてね!!!」
と嬉しげな声を上げる。
俺は赤ん坊を一つ一つ、茎から離れたりしないように丁寧に水で洗っていく。
「ちべたいよ!もっとゆっくりあらってね!」
「すっきりー!」
「わたちもはやくゆっくりあらってね!」
「さっぱりー!」
「しあわせー♪」
初めてのお風呂にはしゃぐ赤ん坊たちを一通り洗い終えると、俺はいよいよ目的に取り掛かった。

まずは鍋に油をたっぷりと入れて火にかける。
そして丈夫な縄をれいむにしっかりと縛りつけ、鍋の上に吊り下げた。
れいむは新しい遊びとでも思っているのだろう、わくわくした表情をしている。
俺は赤ん坊をつついて茎と赤ん坊の癒着がかなり弱ってきているのを確かめた。
これくらいならば丁度いい。あとは待つだけだ。
やがて油が温まって熱気が上がってくるとれいむがのんきな声を上げた。
「あつくなってきたよ!!!そろそろゆっくりおろしてね!!!」
俺が口を開こうとしたその時、丸々とよく育った赤ん坊のうちでも一番大きな赤ん坊が茎から離れた。
当然その体はゆっくりと自然落下を始め、
「ゆゆっ!ゆっくりちて…」
熱した油に飛び込んだ。
ジュウッという食欲をそそる音が上がり、油が周囲に飛び散る。
「ゆゆゆっ!!!れいむのあかちゃんがおちちゃったよ!!!」
慌てふためくれいむの眼前に菜箸でつまみ上げた赤ん坊を持っていってやる。
赤ん坊はこんがりと小麦色に焼けて美味しそうな香りを発していた。
「ゆっ?あかちゃん?」
俺は赤ん坊を口に入れた。
サクッという小気味よい音と共によく焼けた皮が破れ、口の中いっぱいに餡子の上品な味が広がる。
熱いあんまんを食べるときのようにホフホフと息を吐きながら夢中で赤ん坊を咀嚼する。
やはり今回のは会心の出来だった。思わず笑みを浮かべてしまう。
「あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛!!!れいむのあかちゃんがああぁぁぁぁ!!!」
れいむの絶叫が俺を現実に引き戻した。
それを皮切りにまだ茎に残っている赤ん坊たちも一斉に泣き声を上げ始める。
「ぴぎゃあああぁぁぁ!」
「おねぇぢゃん!おねぇぢゃぁぁぁん!」
俺はれいむに向かってゆっくりと口をあけ、赤ん坊がどうなったのかをよく見せてやってからそれを飲み込んだ。
「!!!」
あまりの衝撃に声もなく震えるれいむの茎からまた一つ、赤ん坊が落ちた。
「やぁぁぁ!ゆっく…」
油をさっとくぐらせて持ち上げるとまたも美味しそうなゆっくり揚げが出来上がる。
俺はこの二週間の苦労と共にそれをゆっくりとかみ締めた。
今回は少し急いで上げすぎたか、揚げ団子はサクッというよりプチッという食感を残して潰れる。
赤ん坊だったものが潰れる音が聞こえたか、れいむと赤ん坊は再び絶望的な叫びを上げ始めた。
「どうじてぞんなごどずるのぉぉぉ!!!」
「ゆっくりやめでぇぇぇ!」
泣き叫んでいるうちに一つの赤ん坊と茎の間からかすかにメリメリッという音が響き始める。
それに気付いた赤ん坊は必死に母に助けを求める。
「ゆゆっ!!おちちゃうよぉ゛ぉ゛!!おがあざん、だずげでね!!」
「もっと、もっとゆっくりしていっでぇぇぇ!!!」
しかし熟した実が地に落ちるのを止められるものはいない。
「おがー…」
俺は三個目にありついた。
今までの二つを一息に食べてしまったので今度はもう少しゆっくり食べようと思い、
恐怖の表情で固まっている顔を半分ほど噛み千切って口に収める。
カリカリとした皮からあふれ出てくる餡は舌をやけどしそうなほど熱い。
残りの半分もゆっくり味わって噛み下し、温かいお茶を一口啜った。
この瞬間のなんという幸福感よ。このためならばたかだか二週間ゆっくりの世話をすることなどなんでもない。
「もうやぁぁぁ!!こんなのやぁぁぁ!!」
「おちついてね!!!ゆっくりしてね!!!」
さっきまで震えていた一番小さな赤ん坊が恐怖のあまり暴れだしたようだ。
この状況から逃れようとでもいうかのように小さな体を滅茶苦茶に揺らしている。
しかしそれは己の破滅を更に早める役にしか立たない。
「やぁぁあぁぁぁ…」
茎から千切れるプチッという音と叫び声を残して小さな体は油へと落ちていった。
俺は体の大きさを考えてそれを素早く摘み上げ、ゆっくりと口に放り込んだ。
まだ完全に熟していなかったためか、餡子の甘さの中にほんの少し酸味が混じる。
そういえば以前まだ目も口も開いていない赤ん坊をもいで食べたこともあったが、あれは酸味が強すぎていまいちだった。
目の前で未熟児をかじられたれいむからいい赤ん坊が育つとも思えなかったし、
残りの赤ん坊も叩き落して捨ててしまった。あれは勿体無い経験だった。
回想にふけりつつ小さい団子を食べ終えてしまうともう残っている赤ん坊は一つだけとなってしまった。
さっきの赤ん坊が暴れすぎで落ちてしまったのを見ていたからか、ガタガタと震えつつも暴れる様子はない。
「おちたくない!!おちたくないよ!!」
「もうやめでぇぇぇ!!!」
しかし非情にも赤ん坊の体はゆっくりと茎から剥離していく。
縄で吊られているれいむには死期を悟った赤ん坊の顔がゆっくりと蒼白になっていくのを見守ることしかできない。
「もっとゆっくりしたかっ…」
「あかぢゃぁぁぁああああん!!!」
赤ん坊はれいむの涙と共に落ちていった。
ゆっくりと油の海で泳がせてから引き上げると、
恐怖と諦念が混ざったようなその顔は深い狐色になってパチパチと油のはじける音を立てていた。
俺はよく揚がった至高の団子をことさらゆっくりと頬張る。
最後の一つを食べ終えてしまうのはいつだって少し惜しいものだ。
やがて最後の一片を飲み込んでしまった俺は溜め息を一つつくと、ぬるくなりかけたお茶を流し込んだ。
「うっ…う゛うっ…あがぢゃん…あがぢゃんがぁ…」
れいむは相変わらず吊り下げられたままとめどなく涙を流していた。
絶望の味を知ってしまったこいつには二度とあんな良い赤ん坊は作れまい。
明日はこいつと魔理沙を裏の畑にでも埋めて、また健康そうなゆっくりを捕まえてこなければ。
赤ん坊をゆっくりと生産してもらうために。



あとがき
甘味さえあればこの世は天国。





タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2022年05月03日 17:04