がさ。
がさがさがさ。
「ん……?」
何やら耳元で音がする。
不快感を呼び起こす騒音に、眠気が少しずつ引いていく感覚。
瞼越しに伝わる光量からすると、時刻は丁度目覚めるのにいい時間帯だろうか。
がさがさがさがさがさがさがさ。
しかしなんだこの音は。
まるで何かが這いずり回っているような……
「…………うぉっ!?」
目を開けた瞬間映った光景に、俺は驚いて跳ね起きた。
俺の周囲、円状に集まっている、虫の大群。
カブトムシやらコオロギやらゴキブリやら、その種類は半端なく多い。
生理的嫌悪を催す光景に、鳥肌がぷつぷつ浮かび上がる。
こんなことを仕出かす犯人を、俺は一人しか知らない。
「リ、リグルちゃんか……!」
朝の目覚ましモーニングサービスだかなんだかで、こういう事業を始めたことは知っていたが。
ちゃんと丁重にお断りしておいたのになぁ。
後で文句言わないと……
「こ、こっちに来ないでね! ゆっくり離れてね!」
「……ん?」
何やら慌てた声が聞こえ、俺は声がするほうを向いた。
「ま、まりさは美味しくないよ! ゆっくりしないでどっか行ってね!!」
昨日、透明の箱に閉じ込めたゆっくり魔理沙。
その周囲に、虫たちが群がっていた。
「ゆ、ゆーっ!!?」
「れいむたちはごはんじゃないよぉー!!?」
「ゆっくりできないよぉぉぉ!!!」
赤ちゃんゆっくり霊夢の周囲にも、虫たちが興味津々といった様子で集まっている。
赤ちゃんゆっくりたちは可哀相にすっかり怯えてしまい、中央に固まってゆーゆー泣いていた。
ちょっと萌える。
「お、お兄さん、ゆっくり助けてね!」
そして我が愛しのマイペット、ゆっくり霊夢は眠りから眠りから覚醒した俺に気付き、必死に助けを求めていた。
むっ、これはいかん。
俺は虫を踏まないよう慎重に足元を確認しながら、ゆっくり霊夢を閉じ込めた透明箱を抱え上げ、テーブルの上に避難させた。
「お、お兄さん、魔理沙たちも助けてね!!!」
「おに゛いざん、ゆ゛っぐり゛ざぜでぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!」
他のゆっくりたちからも救助の声が上がるが無視。
だってこいつらの泣き顔見るのが超快感なんだもん。
涙を流しながら必死な表情で右往左往しているゆっくりは、鼻血が出そうなほど可愛いと思う。
こんな光景が見られたのなら、虫たちに少し感謝してもいいくらいだ。
俺は赤ちゃんゆっくり霊夢の箱を開けると、一匹だけ取り出した。
「ゆっ、たかいたかーい♪」
「あ、いいな!」
「れいむたちもたすけてね!」
虫たちの包囲網から救出してもらえたと思ったのだろう、俺に掴まれた赤ちゃんゆっくり霊夢が歓声を上げ、他のゆっくりたちが文句を言う。
俺はにこりと微笑むと、足元でうぞうぞしている虫たちに優しい声で言った。
「お前たち、餌をやるぞ」
「……ゆっ?」
何を言ってるのか分からない、といった感じの赤ちゃんゆっくり霊夢。
俺はそいつが理解するよりも早く、手の中のゆっくりを床にぽとりと落とした。
「ゆっ、ゆ゛ーーーっ!!?」
途端、涙声で逃げ出そうとする赤ちゃんゆっくり霊夢。
虫たちはそれなりに頭が良いのか、いきなり襲い掛かろうとはせずに、逃げ場を少しずつ埋めるように移動していく。
「や、やめてね! 赤ちゃんを助けてね!!!」
ゆっくり魔理沙の慌てた声。
俺はそんなゆっくり魔理沙に指をびしりと突きつけた。
「問題!」
「ゆっ!?」
「ゆっくりアリスは一度の交尾で、ゆっくり魔理沙との子供を六匹作ることが出来ます。七度ゆっくり魔理沙に襲い掛かったら、何匹子供が生まれるでしょうか?」
「ゆゆっ!? まりさは七回もこども生めないよ!?」
「はい、スタート。答えられたら子供は助けてやる」
有無を言わさず開始宣言。
ゆっくり魔理沙は悩みだすが、ゆっくりアリスに襲われる自分を想像してしまうのだろう、時々小刻みにぶるぶる震えていた。
俺は残り五匹となった赤ちゃんゆっくり霊夢たちに近付き、力付けるように言う。
「お前たちのお母さんがあのゆっくり霊夢を助けてくれるみたいだぞ!」
「ゆっ、本当!?」
「で、でも……」
一瞬明るい表情を見せる赤ちゃんゆっくりたちだが、すぐに暗い顔で俯いてしまう。
昨日、妹の一人が見捨てられた(実際は無理難題だったわけだが)ことを思い出したのだろう。
「まぁ、信じてな」
俺はそう言って、虫たちの群れに放り込んだ赤ちゃんゆっくり霊夢を観察し始めた。
涙目でぴょんぴょん飛び跳ねながら、全力で逃げようとしているその姿は果てしなく愛らしい。
しかし逃げようとした矢先に虫たちに回り込まれ、別の方向に逃げようとして、やはり回り込まれる。
……む、面白い趣向を思いついた。
俺は机の引き出しから下敷きを取り出すと、姉妹である赤ちゃんゆっくり霊夢たちの閉じ込められている箱まで下敷きを使って虫を払い除け、道を作ってあげた。
「れいむ、こっちだよ!」
「ゆっくりしないでこっちにきてね!」
「ゆっ、れいむがんばるね!」
姉妹たちの声に勇気付けられ、赤ちゃんゆっくり霊夢は必死の力で床を飛びはね、箱に近付いていく。
しかし後ろから、どんどんと迫る虫たち。
まだ外の世界にいたころ、金曜ロードショーで見たアニメに出てくる王蟲の大群を思い出す光景だ。
やがて赤ちゃんゆっくり霊夢は見事に箱の前に辿り着いた。
が、しかしそこはやはりゆっくりブレインだった。
「ゆっ!? 中に入れないよ!!?」
そう、それが箱である以上、壁の内側に入れないのは当然なわけで。
ようやく姉妹の所に戻れてほっとしたのも束の間、赤ちゃんゆっくり霊夢は涙目で壁に体当たりを始める。
「いれて! そのなかにいれてよ!」
「ゆゆっ、はいれないの!?」
「どうすればいいの!!?」
身体に似合わない滂沱の涙を流しながら、身体を寄せ合うゆっくりの姉妹。
だけどその間は境界を分かつ絶対的な壁が存在し、まるで天国と地獄の様相だ。
そうこうしているうちに、とうとう痺れを切らした一匹の虫が、赤ちゃんゆっくり霊夢にかぶりついた。
「ゆ゛ぅ゛ぅ゛ぅぅっ!!?」
悲鳴。
齧られたのは表面を少しだけ。だが黒い餡子がちょっとだけ漏れ出る。
それまで外の姉妹を何とかしようと壁に張り付いていた赤ちゃんゆっくりたちは、その光景にドン引きしたかのようにゆっくりらしくない素早さで後退した。
「ゆ゛っ!? い゛がな゛い゛でぇぇぇ!!!」
心の支えであっただろう姉妹の身体が遠く離れてしまったことに、赤ちゃんゆっくり霊夢は絶叫する。
そんなゆっくりに追い討ちをかけるように、他の虫たちも赤ちゃんゆっくり霊夢に群がり、ほんの少しずつ咀嚼する。
仲間意識があるのだろう、統率された虫たちの行動は訓練された兵隊のように澱みなく、抜け駆けして丸呑みしようとする虫一匹現れない。
仲間たちにきちんと行き渡るよう、一度噛み付いたらすぐに離れ、別の虫に場所を譲る。
だが赤ちゃんゆっくり霊夢からしてみれば、これ以上ないくらいの嬲り殺し、永遠に続くかのような拷問だった。
「れ゛いむ゛のあ゛んこだべな゛い゛でぇ゛ぇぇ!!! ゆ゛っぐり゛でぎな゛い゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉぉぉっ!!!」
聞いてるこっちまで痛みが伝わるような慟哭。
箱の中で震える赤ちゃんゆっくりたちは、涙に塗れた瞳を母親へと向ける。
「おかあさん、はやくしてね!」
「いもうとをたすけてね!!!」
だがゆっくり魔理沙は、青ざめた顔で動かない身体の代わりに眼を忙しなく震わせるだけだった。
「さ、さんかいめでじゅうはちひき、よんかいめで……ゆーっ!! よんかいもできないよぉぉぉ!!!」
発情したゆっくりアリスの幻影でも浮かんでいるのか、イヤイヤするようにその身体を揺り動かす。
虫たちの餌になっている赤ちゃんゆっくり霊夢は、既に身体が半分になっていた。
「ゆっくりしたけっかがこれだよ……」
そして、トドメなのだろう。
壁際から虫たちの中心に運ばれた赤ちゃんゆっくり霊夢は、虫たちに一斉に飛び掛られ、その短い生涯を終えた。
「ゆ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっっ!!!!!」
今際の際の悲鳴。
どれだけ苦しかっただろうか。
まだ生きたかっただろうに。
またも姉妹を失った悲しみに、赤ちゃんゆっくり霊夢たちは声を上げて泣いた。
そこに間髪入れず、俺が囁く。
「あーあ、またお前たちのお母さんは答えられなかったな」
びくり、と赤ちゃんゆっくりたちの身体が震える。
「答えられたら、あのゆっくりもお前たちと再会出来てたのになぁ。虫に食べられることなく、お前たちとゆっくり出来たのになぁ。お母さんが問題に答えさえしてればなぁ……」
成人したゆっくりだったら、そもそも先程の赤ちゃんゆっくり霊夢を虫たちの中に放り込んだ俺を糾弾していたかもしれない。
だが未だ幼稚な頭脳しか持たないゆっくりたちは、俺の言葉に見事なまでに惑わされ、ふつふつと母親への怒りを充填させていく。
「ひどいよおかあさん!」
「おかあさんがれいむのかわりにしねばよかったのに!!」
「おかあさんはゆっくりしないでしんでね!!!」
昨夜よりも激しい母への憎悪の発露。
あまりに理不尽すぎる状況と、それでも回答出来ていたら子供は助かっていたはずという罪悪感で、ゆっくり魔理沙は狂ったように泣き叫ぶ。
「や゛め゛でぇ゛ぇ゛ぇぇぇぇぇっ、お゛があ゛ざん゛にぞんな゛ごどい゛わ゛な゛い゛でぇ゛ぇ゛ぇぇぇぇぇぇ!!!」
ゾクゾクゾクゾク!!!
背筋に走る衝撃。全身を包み込む恍惚感。
ゆっくりが泣く姿は、どうしてこう、俺に充足感を与えてくれるかなぁ!?
心の内より溢れて垂れ流さんばかりのこの感情を何と呼べばいいのだろう。やはり萌えだろうか。
俺は笑いを抑えることが出来なかった。

一息つき、虫たちが帰ったところで朝食の準備に取り掛かる。
台所から立ち上る香ばしい匂いを呼吸用の穴から嗅ぎ取ったゆっくりたちは、涎を垂らして俺に催促し始めた。
「ゆっくりたべさせてね!」
「おなかすいたよ!」
「たくさんちょうだいね!」
やれやれ、さっき家族が死んだばかりだというのに切り替えの早い奴らだ。
俺は人間二人分の料理を完成させると、一つはテーブルの上に乗せ、もう一つを半分にしてゆっくり霊夢の箱の中に入れた。
ゆっくり霊夢の箱は大きいので、箱の中でそのまま食事をすることが可能なのだ。
ゆっくり霊夢は何か言いたげに俺を上目遣いに見つめていたが、結局無言のまま料理に口をつけ始めた。
頭のいい奴。だから大好きなんだ。
そしてもう半分を床に置き、米粒を五粒だけ掴むと、赤ちゃんゆっくりの箱の中に投げ入れた。
「ほら、朝食だぞ」
「ゆっ、すくないよ!?」
「もっとたくさんちょうだいね!」
目の前にお腹いっぱいになれるだけの料理があるのに、何故これっぽっちしか貰えないのか。
空腹を抱えた赤ちゃんゆっくり霊夢たちはゆーゆー文句を言って飛び跳ねる。
俺はその声を無視して、ゆっくり魔理沙の箱に近付いた。
相変わらず大きさが不釣合いの箱の中に押し込められたゆっくり魔理沙は、息苦しそうに呻いている。
顔面を変形させ、いつもの小生意気な顔から今にも屋上から飛び降りて自殺するいじめられっ子のような弱々しい顔をしたゆっくり魔理沙は、相変わらず俺の心を掴んで放さない。
しばらく眺めていたい衝動に駆られるが、そこはぐっと我慢。
箱に顔を近づけ、赤ちゃんゆっくりたちに聞こえない程度の声量で、そっと耳打ちする。
「今からお前を箱から出してやるが、もし妙な真似をしたり何かおかしなことをしゃべったりしたら、お前ら全員加工所送りにしてやる」
「ゆっ……」
「妙なことさえしなければ、ちゃんと朝食を食べさせてやる。分かったなら二秒間だけ目を閉じろ」
ゆっくり魔理沙は数瞬視線を彷徨わせた後、言われた通り目を閉じた。
よしよし、計画通り。
俺はゆっくり魔理沙を箱から出してやった。
窮屈な箱から解放され、ゆっくり魔理沙はしばらく床を跳ね回る。
「すっきりー!」
だが、すぐにハッとした様子で、慌てて赤ちゃんゆっくりたちの元へ向かおうとする。
「おっと」
だが俺はゆっくり魔理沙の頭を掴み、それを阻止する。
「ゆ、ゆーっ!!?」
何をするんだ、と言わんばかりに俺に講義の視線を向けるゆっくり魔理沙。
しかし俺が加工所、と小声で囁くと、すぐに大人しくなった。
「さぁ、朝食の時間だ。たんとお食べ」
俺はわざわざ赤ちゃんゆっくりたちの前に置きなおした朝食の前に、ゆっくり魔理沙を持ってくる。
野菜炒めや焼き魚など至って普通のメニューではあるが、ゆっくりにとって野生にいたころからは考えられないご馳走だろう。
ゆっくり魔理沙にとって――勿論、赤ちゃんゆっくり霊夢にとっても。
「おかあさんだけそんなにいっぱい、ずるいよ!」
「れいむたちにもわけてね!」
予想通り、何も貰っていないも同然の赤ちゃんゆっくりたちが俄かに騒ぎ出す。
ゆっくり魔理沙はおろおろした様子で、俺を見上げた。
「ま、まりさはいいから、このごはんは赤ちゃんにあげてね!」
「駄目だ」
しかし、俺はぴしゃりと遮る。
「お前が全部食うんだ」
「で、でも」
「さもないと……」
ゆっくり魔理沙は慌てて食べ始めた。
最初は遠慮がちだったが、やがてゆっくりとしての本能が現れ始めたのか、
「うっめ!!! メッチャうっめこれ!!!」
と下品にがっつき始める。
それを見て不満が出てくるのが、無論赤ちゃんゆっくりたちである。
自分たちはこれだけしか食べてないのに、何故お母さんはあんなに食べられるのか?
自分たちの姉妹を見殺しにした母だけが、何故!?
憎悪と殺意が満ち満ちた視線で、己の母親を睨みつける。
「なんでれいむたちにごはんくれないの!!?」
「ゆっくりできないよ!!!」
「ゆっくりできないおかあさんはしねっ!!!」
「「「ゆっくりしねっ!!! ゆっくりしねっ!!!」」」
「ぞん゛な゛ごどい゛わ゛な゛い゛でぇ゛ぇ゛ぇぇぇぇぇっ!!!」
謂れの無い中傷を浴びて、ゆっくり魔理沙は大泣きしながら子供たちの下に駆け寄ろうとする。
だけど俺がきっちりガード。言うこと聞かなかったお仕置きとして、赤ちゃんゆっくりたちから見えない角度でゆっくり魔理沙の背の皮を抓り上げた。
「ゆ゛ぐぅぅぅっ!!?」
「そのまま食事を続けろ。それと、食べ終わったら子供たちに向かって今から俺が言う台詞を言うんだ。いいか――」
「――ゆっ!? そんなこと言えないよ!!!」
「じゃあ、全員加工所送りだな」
「……」
ゆっくり魔理沙は気落ちした様子で、食事を再開した。
止まらない、子供たちからのブーイング。誤解を解くことの出来ないこの状況、親としてどんな気持ちで受け止めているのだろうか。
昨日まで、この家族は幸せの中にいたのだろう。
家族全員でゆっくり出来る、素晴らしい毎日を過ごしていたに違いない。
それが、今ではどうだ。
子供七匹のうち二匹が死に、しかもその責任を負わされ、弁解するチャンスもない。
ゆっくりが、ゆっくりすることが不可能なこの状況。
最高だ。
ゆっくり魔理沙は朝食を食べ終わると、赤ちゃんゆっくりたちのほうを振り向いた。
数秒、躊躇する。
だが俺が少し手を動かすそぶりを見せると、諦めたのか、早口に捲し立てた。
「美味しかったよ! れいむたちはそこでゆっくり餓死していってね!」
「――っ!!!」
怒りを覚えながらも、それでも心の片隅で、信じ続けていたお母さん。
赤ちゃんゆっくり霊夢たちの中で、その信頼という形が、ガラガラと音を立てて崩れ去るのが、俺にもハッキリ伝わった。
「ゆっ……ゆ゛っ……!!!」
「ゆ゛っぐり゛でぎな゛い゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉぉっ!!!」
「な゛ん゛でぞん゛な゛ごどい゛う゛の゛ぉ゛ぉぉぉっ!!?」
「お゛があ゛ざんな゛んでも゛う゛おがあ゛ざん゛じゃな゛い゛よぉぉぉ!!!」
「ゆ゛っぐり゛じな゛い゛でじん゛でね゛っ!!!」
「も゛う゛がお゛も゛み゛だぐな゛い゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉぉぉぉっ!!!」
怒号。悲鳴。絶叫。
ありとあらゆる不の感情の放出。
そしてそれに晒される、ゆっくり魔理沙。
「あ゛っあ゛あ゛ああああ゛あ゛あああ゛あ゛あ゛ああああ゛あ゛ああ゛あ゛あああ゛あ゛あぁ゛ぁ゛ぁぁぁぁ゛ぁ゛ぁぁぁ゛ぁぁぁ゛ぁ゛ぁぁっっっ!!!
一生分とも呼べそうな涙を流し、身を引き裂かれるような心の苦痛でじたばた暴れまわる。
きっと、伝えたいのだろう。
自分が親として、どれほど子供を愛しているのか。
子供が死んでしまったとき、どれだけ哀しみを共有したかったのか。
だけど、言えない。
言ったら、それこそ全てが潰える。
伝えたい、だけど伝えられない、極限のもどかしさ。
「――!!!」
これだ。
俺が求めていたものは。
俺が見たいのは『必死』なゆっくり。
そしてこのゆっくり魔理沙は、他のどのゆっくりも、究極的に『必死』だった。

その後、俺は加工所に赴き、『あるもの』を入手してきた。
その正体は後ほど披露するとして、その前に仕込みをしておかなければならない。
俺はお菓子を与えることを条件に、赤ちゃんゆっくり霊夢たちの生まれた順番を教えてもらうことにした。
そしてその順番通り、赤ちゃんゆっくり霊夢のリボンにマジックで番号を振る。
「ゆゆっ!? れいむのりぼんにいたずらしないでね!」
とか言われたけど無視。
ちなみに最初に死んだのは六女、先程虫に貪られたのは四女らしかった。
現在、箱の中には赤ちゃんゆっくり霊夢1、2、3、5、7の五匹が身を寄せ合って「ゆっくりできないよ!」と騒いでいる。
ゆっくり魔理沙はまた狭い箱の中に閉じ込めた。ご飯をたらふく食べた分体積が増えたので、苦しさが増したようだった。
ゆっくり霊夢は他のゆっくりたちを助けるよう呼びかける声が五月蝿くなってきたので、申し訳ないと思いつつも猿轡を噛まさせてもらった。
後で好物のハンバーグを食べさせてあげるから許して欲しいところである。
「さて、と」
どうせなら、全部奇数にしてみるか。
俺は2の番号が書かれた赤ちゃんゆっくり霊夢を摘み上げた。
「ゆーっ!?」
「おねえちゃーん!」
「お、おにいさん、おねえちゃんをゆっくりはなしてね!」
姉妹たちがぴょんぴょん飛び跳ねて阻止しようとするが、赤ちゃんゆっくり霊夢2は既に俺の手の中だ。
いや、しかし冷静に見てみるとやっぱり可愛いよなこいつら。家を荒らさなければ思いっきり愛でてやったのに。
俺は赤ちゃんゆっくり霊夢2を床に降ろすと、加工所からの帰り道で拾った木の枝に糸と爪楊枝を結びつけただけの即席釣竿を構える。
そして赤ちゃんゆっくり霊夢2のリボンを解くと、素早く爪楊枝に結びつけた。
「ゆっ!? れいむのりぼんかえしてね!」
ゆっくりにとって、付けている装飾品を奪われることは死活問題に繋がる。
人間にとってゆっくりたちが身に付けている装飾品はただ食べられる素材で出来た食品に過ぎないが、ゆっくりたちにとって装飾品は固体を区別するための重要な機能らしい。
装飾品を奪われたゆっくりは目の前で奪われたのを目撃された場合のみを例外として、大抵ゆっくりたちから『ゆっくり出来ない存在』として忌み嫌われることになる。
理由はよく分からないが、そういうものらしい。
たとえ親兄弟だろうと、装飾品を奪われたゆっくりはその時点で『他人』となり、場合によっては暴力を振るわれることすらある。
だからゆっくりたちは装飾品に触れられることを嫌がり、取られた場合は取り返すために躍起になり、酷い時は他のゆっくりの装飾品を奪うこともあるという。
ちなみに死んだゆっくりの装飾品はその時点で死臭のようなものが漂い、身に着けてもすぐにバレるらしかった。
まったく、ゆっくりの生態はワケが分からなくて興味深い。
「かえしてね! ゆっくりかえしてね!!」
赤ちゃんゆっくり霊夢2はジャンプして爪楊枝に結びつけたリボンに食いつこうとするが、俺はギリギリのところで枝を固定しているため、届かずに落下してしまう。
「ゆ、ゆーっ! とどかないよ、どうしてー!?」
無駄な努力だと気付かず、半泣きでリボンに飛び掛る赤ちゃんゆっくり霊夢2。
うはー、かーわえー。
今俺の中では今すぐリボンを返して慰めたい気持ちとこのまま必死なゆっくりを観察したい気持ちが大体4:6くらい。
別にゆっくりが憎くてこんなことしてるわけじゃないしな。
ゆっくりは普通に可愛いと思う。
そして可愛いからこそ、こうして悪戯をしたいと思うのだ。
「ほらほら、どうしたー? もう少しで届くぞー」
「いじわるしないでかえしてね!」
息を切らしながらも、それでも死活問題なので意味の無い苦労を重ねる赤ちゃんゆっくり霊夢2。
姉妹ゆっくりたちも、その光景を固唾を呑んで見守っている。
目の前でリボンを取ったから一応姉妹だということを認識しているらしい。このままリボンを取り返せなかったら姉妹扱い出来なくなるから頑張って欲しい、といったところか。
ゆっくり魔理沙は体積が大きくなった分、箱の中の酸素が薄くなってしまったからか、とても息苦しそうだった。
おっと、これはいかん。
俺はゆっくり魔理沙の箱の蓋を開き、ゆっくり魔理沙の口が蓋側になるよう調節してやった。
「ゆ?」
困惑した様子で俺を見つめるゆっくり魔理沙。助けてもらえたのは嬉しいが、何故お兄さんがそんなことを、といった表情だ。
俺はにこりと微笑むと、爪楊枝からリボンを引き抜き、呼吸のために大きく口を開けていたゆっくり魔理沙の口内に放り込んだ。
「ゆっくり!?」
慌てて吐き出そうとするゆっくり魔理沙を押さえつけ、口が箱に押し付けられるような位置に調整し直す。箱内部はキツく狭いので、これで口を開くことは出来まい。
そして俺は一連の光景を呆然とした様子で眺めていた赤ちゃんゆっくり霊夢に、わざとらしいくらい大袈裟に言った。
「わー、お前のお母さん、お前のリボン飲み込んじゃったぞ!」
「ゆっ!? ……ゆっ……」
「リボンを失ったゆっくりがどうなるか、勿論お前のお母さんが知らないわけないよなぁ? つまり、お前のお母さんは、知っててわざと飲み込んだんだな!」
「んーっ、んんーっ!!?」
違うよ、間違いだよ、といった風に身体を小刻みに揺らすゆっくり魔理沙。己の口で俺の言い分を否定したいに違いない。
リボンを外して口に入れたところをちゃんと目撃したよね、と言いたいのだろう。
だが、赤ちゃんゆっくり脳の単純さを侮ってはいけない。既に母への信頼が0になっていたところに、俺の言葉が乾いた大地に落とした水のように染み渡ったのだ。
赤ちゃんゆっくり霊夢2にとって、俺はもう眼中に入っていない。こいつにあるのは『母が自分のリボンを食べた』その一点だけだ。
「ゆ゛ぅ゛ぅ゛ぅう゛う゛うう゛ううう゛うぅぅ゛ぅ゛う゛ぅ゛ぅ゛ぅう゛うぅ゛ぅ゛ぅぅぅ!!!」
赤ちゃんゆっくり霊夢2は涙と共に絶叫を上げ、ゆっくりにあるまじき凄まじい怒りの表情で母の入った箱に体当たりを仕掛けた。
「ひどい゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉぉ!!! ゆ゛っぐり゛じね゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇぇぇ!!!」
壁に当たって跳ね返っても、また果敢に体当たり。
ゆっくりとしてのアンデンティティを奪った相手を完全に抹殺しようとする、野生の生物としての本能。
憤怒。憎悪。殺意。
そしてそれらの悪感情を一心に浴びせられるのは、
「ん゛んっん゛ん゛ん゛ん゛んんんっー!!!」
今までこの赤ちゃんゆっくりを愛情込めて育て上げた母、ゆっくり魔理沙だ。
これまでの遠くから罵声を浴びせられる、ある意味まだ余裕があった間接的攻撃と比較して、これは直接自分を害しようとする行為を見せ付けられる最上級の拷問だ。
嗚呼、このゆっくり魔理沙の絶望と傷心と阻喪の入り混じったこの表情をカメラに保存して一生残しておきたいっ!
人はこのゆっくり魔理沙を哀れに思うだろうか。
でもしょうがないよね。
悪いことしたのはあっちだし。
この状態で赤ちゃんゆっくり霊夢2が家から逃げ出そうとすることはないだろう。
そう考えた俺は、一旦家の外に出ることにした。
扉の横には、加工所で購入した大小二つの箱が置いてある。
俺はそのうち、小さな箱を手に抱えた。
大きさは掌に収まるサイズ。
遠目から見れば結婚指輪を収納するアレに似ているかもしれない。
もっとも、中に入っているものはそんな幸せアイテムとは似ても似つかないものなのだが……
「ゆ゛っぐり゛じな゛い゛でじね゛ぇ゛ぇ゛ぇぇぇぇぇ!!!」
扉を開けて家に戻ると、まだやっていた。
昨夜から今に至るまでで、ゆっくり魔理沙の精神はどれだけ磨耗しただろうか。
虚ろな眼でただ虚空を眺めているだけの生物になりかけている。
これ以上は危険だな。
破壊してしまっては面白さが半減どころの騒ぎではない。
まだ赤ちゃんゆっくりはたくさんいるのだ、これが終わったら少し休憩にしよう。
俺は体当たりを続けている赤ちゃんゆっくりを摘み上げ、その身体に糸を巻きつけ始めた。
身体を縛るロープ代わりである。
「ゆっ!? はなしてね!」
赤ちゃんゆっくり霊夢2は俺の手からぴょんと逃れて離れようとするが、糸の長さまでしか遠くに行くことが出来ない。
糸がぴんと張ったところで無様にぶしゃっと床に潰れ、ゆーゆー泣き始めた。
「それじゃ、ご開帳っと」
糸の先を左手の小指に巻きつけ、俺は外から持ってきた箱を開けた。
中に入っているのは、
「ちょっと、とかいはのありすをはやくだしなさいよね!」
生後まだ二週間にも満たない、赤ちゃんゆっくりアリスである。
大きさは赤ちゃんゆっくり霊夢2よりほんの少し大きな程度。
俺はその赤ちゃんゆっくりアリスの身体に、赤ちゃんゆっくり霊夢2と同じように糸を巻きつける。
「な、なにするのよ、ゆっくりできないじゃない!」
ぶーぶー文句を垂れる赤ちゃんゆっくりアリス。
だけど俺が用があるのはプライドの高い普通のゆっくりアリスではなく、他のゆっくりから恐れられている性欲魔人としてのゆっくりアリスである。
俺は糸の先を今度は右手の小指に巻きつけると、赤ちゃんゆっくりアリスの身体を人差し指で揺すり始めた。
「ちょ、ちょっと」
最初は嫌がって離れようとする赤ちゃんゆっくりアリス、だが次第に熱を帯び始め、呼吸が荒くなっていく。
ゆっくりを発情させることはゆっくり霊夢にやってあげているので日常茶飯事だが、発情しがゆっくりアリスの様子はゆっくり霊夢のそれとは大分違っていた。
口元のゆるみっぷりは半端無く、熱も溶けるんじゃないかってくらい上昇している。息も荒く、重い病気にかかった人間のようだ。
そして何よりも、目がヤバい。白目の部分を血走らせ、獲物を探して右往左往している瞳の動きは、はっきり言って気持ち悪いを通り越して、怖い。
「ゆっ、ゆっ、ゆっ、ゆっ!!!」
指を離そうとしたら、物凄い勢いで擦り寄ってきた。俺の指を孕まそうとしてるんだろうか。
俺は若干の恐怖を感じながら、赤ちゃんゆっくりアリスを箱から出して床に降ろしてやった。
すっかり発情した赤ちゃんゆっくりアリスの視線の先には、先刻から繋がれた糸をどうにかしようとぴょんぴょん飛び跳ねていた、赤ちゃんゆっくり霊夢2の姿。
「れ、れれれ、れ゛い゛む゛ぅ゛ぅ゛ぅぅぅぅぅぅ!!!」
「ゆ、ゆゆっ!!?」
とても成熟していない赤ん坊とは思えぬ素早さで赤ちゃんゆっくり霊夢2に襲いかかろうとする赤ちゃんゆっくりアリス、赤ちゃんゆっくり霊夢2はその剣幕にビビって逃げ出そうとする。
ピン。
「ゆべっ!?」
糸が最大限まで張り詰められ、赤ちゃんゆっくり霊夢2は勢いよく転倒する。
その間に距離を詰める赤ちゃんゆっくりアリス、その口からはご馳走を前にした獣のように涎が溢れまくっている。
「が、がわ゛い゛ぃい゛い゛いよ゛ぉ゛ぉ゛ぉぉ゛ぉぉれ゛い゛む゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅぅぅぅぅぅぅ!!!」
「ゆーっ!?」
まさに絶体絶命、赤ちゃんゆっくり霊夢2が慄いて悲鳴を上げる。
赤ちゃんゆっくりアリスは狂気の目で、赤ちゃんゆっくり霊夢2に飛び掛った。
「り゛ぼん゛の゛な゛いれ゛い゛む゛もぞう゛じゃな゛いれ゛い゛む゛もあ゛り゛ずの゛ごども゛をう゛ん゛でぇぇぇぇぇぇ!!!」
ピン。
「れ゛い゛っむ゛ぐぅ゛!?」
しかし、ギリギリの位置で糸が届かず、赤ちゃんゆっくりアリスも転倒してしまった。
「ど、どう゛じでぇ゛ぇ゛ぇぇぇぇぇ!!? ごう゛びざぜでよ゛ぉ゛ぉ゛ぉぉぉ!!?」
涙を溢れさせながら、それでも相手を孕ませるために前に出ようとする赤ちゃんゆっくりアリス。赤ちゃんゆっくり霊夢2からすれば、恐怖以外の何者でもない。
「さて、今こうして俺が糸を持っているから、均衡が保てているわけですが」
俺は奇妙な静止状態に陥った空間に、静かに言い聞かせるように告げる。
「俺がこうして少しでも糸を緩めると」
言いながら、赤ちゃんゆっくり霊夢2の糸を結びつけた小指を少しだけ前に出してやる。
「ゆっ、はなれたよ!?」
その分糸にゆとりが出来、赤ちゃんゆっくり霊夢2は危機からほんの少しだけ遠ざかることになった。
ゆっくりアリスは歯をギリギリ食いしばって悔しがっている。怖っ!
「逆にこっち側の糸をゆるめると」
今度は右手を前に。
すると赤ちゃんゆっくりアリスを押さえつけていた糸が緩み、ゆっくりアリスは猛牛のような勢いで赤ちゃんゆっくり霊夢2に接近する。
最初の時に比べてかなり近付いており、吐く息がお互いに届くくらいだ。
だけどくっつくことはかなわない。流石俺、ナイス調節。
「こうなるわけだ」
「や、やめてね! ありすのいとをゆるめないでね!」
赤ちゃんゆっくり霊夢2が涙声で俺に訴えかける。
当の赤ちゃんゆっくりアリスは既に相手を妊娠させること以外頭にないのか、俺の言葉が耳に届いていないようでハァハァ言いながらじっと赤ちゃんゆっくり霊夢2だけを見つめていた。
こいつ本当に赤ちゃんなのか?
まったく、ゆっくりアリスという種族は末恐ろしい。
「では、ここで問題です」
俺は膠着状態に陥った二匹をしばらく観察した後、足で器用にゆっくり魔理沙の入った蓋を開けた。
そのまま足先でゆっくり魔理沙の身体を回転させ、口をしゃべれる位置にまで持ってきてやる。
勿論、ジャンプして逃げられないように押さえつけるもの忘れていない。
「ゆっくり魔理沙が答えられたら赤ちゃんゆっくり霊夢の糸をゆるめてあげます。間違えたなら赤ちゃんゆっくりアリスの糸をゆるめてあげます」
「ゆ……」
ゆっくり魔理沙はまたか、とでも言うように眉を顰めた。
だけど娘の命がかかっている。どうせ選択権もないし、やらざるを得ない状況だ。
ゆっくり魔理沙は何か言おうと口を開きかけ、
「やめてよね!」
と、怒りの篭った声が割り込み、口を噤んだ。
驚いてそちらを見ると、そこには赤ちゃんゆっくりアリスから少しでも離れようと身体をひしゃげながら、母に敵意を向ける赤ちゃんゆっくり霊夢2の姿があった。
「おかあさんがこたえたられいむしんじゃうもん! ゆっくりできなくなっちゃうよ!」
「そ、そんなことないよ! おかあさんはれいむのために」
「だまっててね!」
キッ、とキツい視線を浴びせられて言葉を詰まらせるゆっくり魔理沙。
やがて、じわじわとまた涙が溢れ出してくる。
「ど、どう゛じでぞん゛な゛ごどい゛う゛の゛ぉ゛ぉ゛ぉぉぉ!!?」
「おかあさんがいるとゆっくりできないからだよ! おかあさんはゆっくりしね!」
吐き捨てるような口調。
今まで黙ってことの成り行きをハラハラと見守っていた他の赤ちゃんゆっくり霊夢たちも、賛同したように口を揃えて非難の声を上げた。
「そうだよ、おかあさんはゆっくりしね!」
「いもうとをかえしてね!」
「おかあさんのせいでぜんぶこうなったんだ!」
「おかあさんはもうゆっくりしなくていいよ、ゆっくりしないでとっととしんでね!」
リボンを失って少し時間が経過したゆっくりより、子供を裏切った母への怒りのほうが大きいようだった。
ここに、ゆっくり魔理沙の味方は一人もいない。
そろそろ『そんなれいむたちはまりさのこどもじゃないよぉぉぉ!』とキレるかと思いきや、俺が思ってた以上にゆっくり魔理沙はあくまでも母親だった。
「はやくもんだいだしてね!」
罵声の雨の中、それでも我が子を守ろうとするゆっくり魔理沙の姿に、俺はちょびっとだけ感動してしまった。
まぁ、全員助かった後で説明したらきっと分かってもらえるだろうという、ご都合脳なだけなのかもしれないが。
でも心を動かされたのは事実なので、問題は簡単なやつにしてやろう。
「では問題。答えは簡単、身体が弱くて喘息気味のゆっくり種といえば何でしょう?」
「ゆっ! 答えはぱちゅりーだよ!」
自信満々の回答。余程答えに間違いがないと確信しているのだろう。
ゆっくり魔理沙は今までの陰鬱な雰囲気はどこへやら、明るい表情で「さあ、赤ちゃんをたすけてね!」とのたまっている。
赤ちゃんゆっくり姉妹も、そんな母親を驚いた、だけど少し誇らしげに見つめていた。
やはり、母は母だったのだ、と。
俺はふっと笑い、
「ぶー、残念外れです」
僅かに見えた希望という光を問答無用で叩き潰した。
「な、なんで!? からだが弱いゆっくりはぱちゅりーしかいないよ!?」
納得出来ない様子のゆっくり魔理沙が俺に抗議の目を向ける。
俺はこの場にいる全ゆっくりに聞こえる大きさで、正しい解答を発表する。
「問題はちゃんと聞こうな。最初に言ったじゃないか。『答えは簡単』って。だから答えは『簡単』だよ」
「……ゆっ!?」
そんな馬鹿な話があるか、といったゆっくり魔理沙の表情。
何か変なことを言う前に、俺はまた芝居がかった声を出した。
「本当に赤ちゃんを助けるつもりがあったのなら、ちゃんと答えられたはずなんだけどなぁ。やっぱり赤ちゃんなんてどうでもいいから、助ける気なんてさらさらないんだね!」
「ち、ちがうよ! まりさは」
「はい、罰ゲーム!」
俺はゆっくり魔理沙が言い切る前に、右手の糸を緩めた。
今までお預け状態で気が狂いそうなほど我慢を強いられていたゆっくりアリスの枷が外れ、嬉々とした様子で赤ちゃんゆっくり霊夢2に飛びつく。
「ゆ゛ーっ!!!」
赤ちゃんゆっくり霊夢2は逃れようとするが、そちらの糸は緩めていないので、逃げ場はない。
「はぁはぁはぁ、れ゛い゛む゛ぅぅぅ、がわ゛い゛い゛ごをだぐざんづぐろ゛う゛ね゛ぇ゛ぇ゛ぇぇぇぇぇぇ!!!」
「や、やだよ! れいむはまだあかちゃんなんてつくれないよぉぉぉぉぉ!!!」
「あ゛あ゛っあ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁっい゛い゛よ゛おおぉぉぉぉぉぉれ゛い゛む゛うううぅぅぅぅぅぅぅんほぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「ゆ゛ーっ! ゆ゛っぐりや゛め゛でぇぇぇぇ!!! ゆ゛っぐり゛でぎな゛い゛よ゛ぉぉぉぉぉぉ!!!」
激しい律動。
赤ちゃんゆっくりアリスは摩擦で燃え上がるんじゃないかと心配になるくらい自分の身体を赤ちゃんゆっくり霊夢2に擦りつけ、赤ちゃんゆっくり霊夢2は涙をぼろぼろ流して逃れようとしている。
押し潰して殺してしまわないよう、成長したゆっくりアリスではなくその子供を連れてきたわけだが、そのゆっくりを押さえつける力は親にも引けをとらない
自分が気持ちよくなれば相手はどうなってもいいという身勝手な性行為。
元となったアリスさんとまったく似ても似つかぬ(まぁ、ゆっくりの大半は元の人物と似てないんだが)横暴さに、少し気分が悪くなってきた。
涙目で必死に逃げようとする赤ちゃんゆっくり霊夢2は可愛いんだけどね。
他の姉妹たちはその光景を見て、「はやくにげてね!」「おねえちゃんにへんなことしないでね!」と騒いでいる。
ゆっくり魔理沙は子供を助けようと、俺の足の下でもがいていた。
そうこうしてるうちにやがて快楽の頂点に達したのか、赤ちゃんゆっくりアリスは感極まった声を上げた。
「イグッイグよ゛おおぉぉぉぉれ゛い゛む゛うううぅぅぅぅぅぅぅ!!!」
「や゛だぁぁぁぁイギだぐな゛い゛ぃ゛ぃ゛ぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
「んほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ、……すっきりー!」
「ゆ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!」
一際大きな声を上げたと思ったら、ゆっくりアリスはぶるっと一瞬震え、そして満ち足りた表情で身体を離した。
赤ちゃんゆっくり霊夢2は壮絶な表情で固まっている。
やがて、にょき、と赤ちゃんゆっくり霊夢2の頭から蔦が伸び始め、植物界の常識を覆す速度で実を生らせた。
しかし、本来は子供が生るべきその場所は、泥団子しか存在しない。
当然だ。成熟していないどころか、この世に誕生してまだ一週間以上経過していないゆっくりが、子孫を残すことなんて出来るはずもない。
赤ちゃんゆっくり霊夢2は苦痛としか形容出来ない表情のまま黒く朽ち果て、その短い命を終えた。
「ま゛りざのあ゛がぢゃんがあ゛あ゛あぁ゛ぁ゛ぁぁぁ!!!!!!」
ゆっくり魔理沙はまたもや子供を救うことが出来なかった悲しみで、何度目になるのか分からない涙を流す。
しかしそこに浴びせられるのは当然、
「なにうそのなみだをながしてるの!?」
「おねえちゃんをころしたのはおかあさんだよ!」
「かえして! おねえちゃんをゆっくりかえしてねっ!!!」
更に憎悪を増した子供たちからの罵倒の言葉だ。
先程、俺が言った言葉をまた思惑通りに受け止めてくれたらしい。
ゆっくり魔理沙はその言葉を聞いて、また悲しみに打ち震えて暴れだす。
俺はそんな光景に満足しながら、すっきりして落ち着いた様子の赤ちゃんゆっくりアリスを持ち上げ、残り四匹となった赤ちゃんゆっくりたちの箱の中に落とした。
「ゆっ!?」
予期せぬ闖入者、しかも相手は先程自分たちの姉妹を殺したばかりのゆっくり。
姉妹は警戒して距離を開くが、赤ちゃんゆっくりアリスがその辺を事情を知っているわけがなく。
「しょうがないから、あんたたちいなかもののゆっくりををとかいはのありすのおともだちにしてあげてもいいよ!」
とゆっくりアリス特有の上から目線で話しかける。
しかし、その言葉は姉妹の神経を逆撫でする結果にしたかならなかった。
ゆっくりアリスの丁度後ろに陣取っていた一番の長女、赤ちゃんゆっくり霊夢1が、まったくの無警戒の赤ちゃんゆっくりアリスのお尻に噛み付いた。
「ゆ゛ーっ!?」
突然の痛みに吃驚して悲鳴を上げる赤ちゃんゆっくりアリス、それが皮切りだったように、他の姉妹たちもゆっくりアリスに突撃した。
「ゆっくりしねっ!」
「や、やめなさいよ、やめでぇぇぇぇ!!!」
「ゆっくりしねっ、ゆっくりしねっ!!!」
「あ、あ゛り゛ずいな゛がも゛の゛でい゛い゛がら゛ぁぁぁぁぁ!!! だずげでえええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
四方からのリンチにたまらず赤ちゃんゆっくりアリスが泣き叫ぶが、姉妹たちは聞く耳持たずに行動を続ける。
その様子を眺めながら、俺はゆっくり魔理沙の耳元にそっと囁きかけた。
「おやぁ、子供たちは赤ちゃんゆっくりアリスを殺すつもりだぞ? 止めなくていいのか?」
「ゆっ、ゆーっ!!!」
ゆっくり魔理沙はじたばた暴れるが、閉め直した箱が開くはずもなく、徒労に終わる。
ゆっくりがゆっくりを殺害することは禁忌だ。
例えどのような理由があろうと、ゆっくりがゆっくりを殺害すると他のゆっくりたちから何されようと仕方の無い状態になってしまうらしい。
だからもし他のゆっくりを殺さなければならない状況の場合、親が相手のゆっくりを殺害し、子供たちに非難が及ばないようにする。
それがゆっくりたちの流儀……らしい。
ちなみに性行為は殺害の範疇に当たらない。
「み、みんな、やめてね!」
ゆっくり魔理沙は子供たちを止めようとするが、興奮した子供たちにその声は届かない。
やがて赤ちゃんゆっくりアリスの皮が裂け、中のカスタードが漏れ始めた。
「……ゆっ!?」
漂い始めたいい匂いに、たまらず姉妹たちはごくりと唾を飲み込んだ。
朝は何も食べていないに等しく、一粒の米と少量のお菓子しか食していない空腹のゆっくりにとって、その香りはあまりに魅力的すぎた。
「お、おいしいよ、これ!」
「ひぎぃ!? ありすのかすたーどすわないでぇぇ!!!」
「ゆっくりたべるね!」
「あまくておいしいね!」
「むーしゃ、むーしゃ、しあわせー♪」
「い゛や゛ぁ゛ぁ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
空いた穴という穴からカスタードを吸われ、赤ちゃんゆっくりアリスが悲鳴を上げる。
だが段々力を失って悲鳴が小さくなっていき、そして脱力し、その場に崩れ落ちた。
絶命。
子供たちがゆっくりを殺してしまった光景に、ゆっくり魔理沙はただただ泣き叫ぶしかなかった。
そしてその表情を見て、俺はまだまだ満足するのだった。
残り四匹。
まだまだ快感を味わえる。

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最終更新:2022年05月03日 17:13