*警告*
- ゆっくりは何も悪いことをしていませんが、ゆっくりできません。
↓以下本文
れいむはとてもゆっくりしていた。大好きなまりさと力を合わせれば、おなかいっぱい
ゆっくりできるごはんが集まった。ゆっくり育てた十匹の可愛い子ゆっくりはみんな良い
子で、お姉ちゃんゆっくりはもう一緒にごはんを取りに行くこともできる。妹ゆっくりは
おうちでゆっくりお留守番ができる。みんなゆっくり、けんかなんてすることはない。
雨の日も風の日もゆっくりできない日も、家族みんなでゆっくりしてきた。一匹も欠け
ることなく育てあげた家族は、れいむの自慢だった。
「ゆ゙ぴぃ!」
その子れいむが弾け飛んだ。ゆっくり一匹分の枠のなかに、照り返しも艶やかなこしあ
んの餡子が飛び散っている。ぷにぷにですりすりすればとってもゆっくりできた皮も、す
てきなおりぼんも今はあんこにまみれた残骸でしかない。
「お゙ぢびぢゃんどぼじだの゙お゙お゙!?」
れいむは叫ぶ。寒天の目玉をひん剥いて叫ぶしかなかった。叶うならば、今すぐ子れい
むの側に跳ね寄りたかった。しかし、どれほど動こうとしても、黒焦げになるまで焼かれ
たあんよは言うことを聞かない。
「あ゙ん゙よ゙ざん゙! ゆっくりうごいてね! おぢびぢゃんがたいへんだよ!」
れいむは柔らかいおまんじゅうの身体を必死によじり、跳ねようと身をたわめる。しか
しその場でもにもにするばかりで、あんよは決して動くことはない。
「お゙でえ゙ぢゃ゙あ゙あ゙あ゙ん゙!」
一番近くにいた一匹の子れいむが大声で泣き叫ぶ。その子れいむもまた、あんよが炭に
なるまで焼かれており、決して近寄ることはできない。そして、子れいむは泣き顔のまま、
一瞬で中身をぶちまけた。跡にはあんこと破れた皮、ボロボロの飾りが残るばかり。
「ゔわ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!」
わけもわからず、あんよも動かない。一斉に泣き叫ぶ子れいむたち。ゆんゆん絶叫が響
くなか、少し離れた場所が爆発した。
「ゆっぐりでぎないよ゙ぉ゙! も゙お゙お゙うぢがえる゙!」
爆発をきっかけに、一番小さいれいむが大泣きに泣きはじめた。そして、爆発は次第に
子れいむに近づき、二回目の爆発のあと、子れいむは泣き顔の皮をあんこの中に撒き散ら
し、生ゴミとなり果てた。親れいむはそれをゆっくり見ていることしかできなかった。
そして再び、少し離れた別の場所が爆発した。
「ゆっ……! みんな! ゆっくりきいてね!」
「ゆ゙ぁ゙……?」
「おがあぢゃあ゙あ゙……?」
「どっかーん、はゆっくりできないよ! でもゆっくりしずかにしてね! ゆっくりしてな
いと、おちびちゃんみたいにどっかーんしちゃうよ! ちかくでどっかーんしても、ない
たらゆっくりできなくなるよ!」
親れいむの考えは、こうだ。自分たちは白くて広いお部屋にいる。お部屋の床には四角
い模様が書かれていて、その枠はどれもゆっくりひとりぶん。地面の四角い枠からは出ら
れない。時々、地面が爆発してゆっくりできない。もし爆発した枠のなかにいたら、永遠
にゆっくりしてしまう。お部屋には他に誰もいないから、爆発する模様はでたらめなのだ。
でも爆発の近くにいて大きな声を出した子には爆発が近づいてきて、最後には永遠にゆっ
くりしてしまった。
「やだやだやだあああ! ゆっくりしたいよ!」
「ゆっくりしずかにしていれば、ちかくでどっかーんしてもだいじょうぶだよ! みんな
おかあさんのいうとおりにしてね!」
「ゆっくりりかいしたよ!」
まりさと一緒にゆっくり育てた自慢の子ゆっくりでも、近くで爆発したら大声で泣き叫
び、爆発を呼び寄せてしまうかもしれない。それでもあんよを焼かれたれいむには、子
ゆっくりを信じるしかない。
部屋に残っているゆっくりは、親れいむと子れいむが三匹。二匹は既に永遠にゆっくり
してしまっている。床の枠が火を噴く。轟音にどの子ゆっくりも恐怖の表情を張りつけて
身動きのとれない身体を震わせる。親れいむの言うとおりに、ゆっくりできないのを必死
に我慢してガタガタ震えていると、先ほどの一番小さいれいむの時とは違い、爆発は誰か
に近づいてくることはなかった。でたらめな場所が爆発し、親れいむはゆふぅ、と大きく
ためいきをついた。これで爆発しなくなるまでゆっくりできるかもしれない、と。
「おかーしゃんすごいね! どっかーんさんこっちにこないよ!」
それもその次に小さい子れいむがきゃいきゃいと幸せそうな顔で叫ぶまでのことだった。
子れいむの幸せそうな大声に、爆発は一枠一枠、確実に近づいてくる。
「い゙や゙ぢゃ゙あ゙あ゙あ゙! こっちこないでね! れいむ゙はここぢゃないよ゙!」
近づく爆発。動かないあんよ。ゆっくりできない恐怖に、親れいむの言葉も忘れ、子れ
いむは涙を激しく流し、金切り声をあげる。そして、子れいむは盛大に爆ぜ飛んだ。周囲
の枠に、あんこが飛び散る。声もなく見つめる親れいむとれいむ姉妹。
怖くて泣かなくても、しゃべったら永遠にゆっくりさせられてしまうのだ。怖くても泣
けず、永遠にゆっくりしてしまった子れいむのためにゆっくりすることもできない。親れ
いむは涙を静かにこぼし、声を絞り出した。
「こわくても、ゆっくりしずかにしていてね……おはなしするとゆっくりできないよ」
「ゆ、ゆっくりぃ」
残るは大きめの子れいむが二匹と、親れいむが一匹だけ。爆音と共に、近くの枠が火を
噴いた。恐怖の表情で固まり、ガタガタ震える子れいむ。どんなに怖くても、親れいむの
言いつけを守り、お口をぎゅっとつぐんでしずかにゆっくりしている子れいむを心配そう
に見つめながら、れいむは唯一の希望をひたすら待っていた。れいむのすてきなまりさが
助けに来てくれることを。まりさは狩りも上手でかけっこもはやい。れいむたちが動けな
くても、必ずゆっくりさせてくれるはずだった。
「ぴゃ゙ぎゅ゙!?」
遠くの爆発に目をぎゅっと瞑って悲鳴を押し殺していた一匹の子れいむが吹き飛んだ。
爆発は遠かったのに。親れいむは信じられない表情で子れいむだった残骸を見つめる。
そして、気付いた。一度爆発した場所は、黒く焦げていることを。そして、まだ焦げてい
ない場所は、ほとんど残されていないことを。
「ゆっくりしたいよ! ゆっくりさせてね! ゆっくりしていってねー!」
姉妹が全て吹き飛んで、とうとう恐怖に耐えられなくなった最後の子れいむが泣き叫び
はじめた。あんよは動かず、まりさは来ない。親れいむにできることは、もう一つしかな
かった。
「でいぶはごごでず! ぢびぢゃんのかわりに! でい゙ぶをどっがーんぢでね゙!」
子れいむの金切り声よりも、もっと大きな声でありますように。声をかぎりに親れいむ
は叫ぶ。二匹からだいぶ離れた場所が爆発した直後、子れいむは跡形もなく吹き飛んだ。
「ゆ゙あ゙あ゙あ゙……ゆっくりしたけっかがこれだよ……」
不意に、親れいむの正面の壁が開いた。壁の向こうはれいむのいる部屋と全く同じで、
床に格子の模様が描かれ、どれも黒く焦げている。そして、いくつかの格子にはボロクズ
になっても見間違えるはずもない、黒い煤けたとんがり帽子の残骸と、つぶあんだったゴ
ミが飛び散っていた。
「ば、ばでぃざあ゙あ゙あ゙?! ゆっくりしていってね!? ゆっくりしていってね?!」
答える者は誰もいない。朝まではみんな仲良くゆっくりしていたれいむの家族は、今や
一匹残らず物言わぬゴミ。あんよの動かないれいむが一匹、家族の残骸を見つめていた。
「おみずざんはゆっくりでぎないよ! がぼっ、やべでね゙! ゆっくりじでね!」
壁の穴から勢いよく流れこむ水が、床にこびりついたしあわせ家族を押し流し、排水口
に消えていく。奇麗に流れたあとは、爆煙とあんこで汚れた床も元通り。遊技場にゆっく
り一家がいたことを示す物は、スコア表だけだった。
れいむ:1
まりさ:0
[1P WIN]
09/07/20 書き直し
最終更新:2022年05月03日 18:52