みょんの朝は早い。
早朝の人通りの少ない時期。捕食種もいないこの時間帯は野良ゆっくりたちの狩りの時間だ。狩りといってもゴミを荒らすだけなのだが
みょんは、いつもの散策ルートを駆け抜ける。十字路を抜け、公園の近くまで行くと、公園の向かい側のゴミ収集場にいつもの糞袋がもぞもぞしているのを発見した。
「あいつらまたいるみょん。やっつけるみょん」
そしてみょんは、はくろーけんを口に咥えると、全速力で糞袋たちの方に突入した。どすん!どすん!どすん!!
「ゆぎゃあああああ!!!!」「こわいのじぇええ!!」「くそにんげんさんたすけてぇええ!!」「おねがいしますぅうううう!!!」
「うるさいみょん!ここににんげんさんはいないみょん!とっとときえるみょん」
そう言って、みょんは、ゆっくりたちを蹴散らしていく。
「いだいぃいい!」「ゆ”っ…」「おかあさまぁあ!」
一匹まりちゃを踏み潰したような気がするが、収集場から糞袋たちが退散した。
「ふん、これでもうここらはあんぜんになったみょん。あとは、このへんののらをぜんめつさせるだけだみょん」
みょんの朝の仕事は、街に住む野良ゆっくりの駆除である。最初に野良を逃がしたのは、彼女らの居場所を突き止めるためだ。
みょんは、こっそり逃げていく糞袋のあとを追う。実際のところ、ゆっくりは基本的に鈍いので、真後ろにいても気が付かないこともよくあるが、一応念のため距離をあけていた。
糞袋たちは、公園から少し離れた路地裏に入っていった。
「ここ、このあいだくじょしたばしょみょん。またすみついてるみょん」
みょんは、数日前に駆除をした路地裏へと入る。路地裏の中腹に一つ、行き止まり付近に一つ、行き止まりの塀に沿って一つ、それぞれ段ボール箱のおうちがあるのを発見した。
「きりがないみょん…さっさとおわらせるみょん」
みょんは、はくろーけん…ではなくペーパーナイフのようなものを取り出し、咥える。そして、手前の段ボールハウスの入り口に向けて駆け抜け、一気に切りつける。
「みょんっ!」
「「ゆぎゃっ!!」」
おうちの中にいた糞袋2体は、あっけなく切り裂かれ動かぬ饅頭となった。
続けてみょんは、行き止まりに向けて駆け出す。行き止まり付近のおうちには、まりさとれいむ、2匹の子であるまいちゃが暮らしていた。
れいむは元飼いゆっくりであったが、子どもを作ることを飼い主に禁止されたことに反発し、げっとわいるどの挙句、まりさと知り合い、2分間の大恋愛の末、即合体。
こうして、2匹の子であるまいちゃと慎ましやかではあるが、ゆっくり暮らしていた、とかいうテンプレを嫌ったみょんに即切り裂かれた。
「てんぷれすぎてあきるみょん!さっさとしぬみょん!」
「まりさまともにしょうかいされてないのぜえ!もぶさんのまま、しにたくないのぜえええ!!」
「れいむちゃんとしょうかいされたよ!れいむ、かわいくってごめんねー!」
「まいちゃをたしゅけろおお!このくしょおやぁぁ!」
各々に好き勝手なことを言い残して滅された一家を尻目に、みょんは最後のおうちに標的を定める。
「これでおわりみょん」
路地裏のゴミを狩ったみょんは、ゴミ袋にゴミを詰め、収集場に持っていった。
「みょん…つぎのぽいんとにいくみょん」
立ち去ろうとしたみょんに『おー。みょんか。お疲れさん!』と声がかかる。
振り向くと、加工所の制服を着た職員がいた。
「おはようだみょん」
『ああ、おはよう。こっちも早起きして来たつもりだったが、また先を越されたなあ。これ以上早く来ても給料でないし、まあいいや』
「にんげんさんもいろいろたいへんだみょん」
『人手不足だからな。この業界もいろいろあんだよ。特にこの街ではな』
みょんに加工所業界の事情など分かるはずもないが、とりあえず適当に相槌を打つ。
『加工所所属でもないお前が何でゆっくりハンターを続けてるのかは知らんが、最近この辺の事情がキナ臭いから注意しておけよ』
「わかったみょん。さっきのろじうらは、このまえかりをしたところみょん。さいきん、ごみがふえるのがはやいみょん」
『予算不足で忌避剤が撒けないんだよなー。それにしても数日は早いな。一応上には報告しとく』
「ありがとうみょん」
みょんは、加工所の人間と別れると、街の中心にある大きな公園に向かった。公園には、ゆっくりの餌となる雑草が大量に生えている。これを狙って沢山の野良ゆが集まってくるのだ
「きょうは、ゆっくりできそうだみょん」
ベンチの上に寝転び、目を瞑りながら、これからのことを考える。
まず、野良ゆが多く集まるポイントを把握し、迅速かつ確実に一網打尽にする。一斉駆除のような人海戦術は使えないので、いかに効率的に駆除を行うかがキモとなる。「う~ん…」
しばらく悩んだ後、あるアイデアを思いつく。
「そうだみょん!みんなまとめてぱくっといってしまえばいいんだみょん!」
みょんは、はくろーけんを手に取ると、勢いよく飛び上がった。
みょんが向かったのはこの公園の長の家。ドア(笑)を叩き割り、侵入すると、長をはくろーけんで切り捨てる。そして、長のおかざりを奪い、自ら被った。
長に変装したみょんは、公園のゆっくり達をすべて公園の中央に集める。
「きゅうにみんなをあつめてどうしたのぜ?」
「きっとおさはだいじなはなしがあるんだねー わかるよー」
「でいぶにさっさとあまあまもってこい!!」
ワーワー言っている糞袋達をみょんはじっと観察する。考えるのは効率的な狩り方。そして腕が立ちそうなものの位置を把握し、シナリオを構築する。何事もリスク管理は大事だ。
そして、方針が定まったみょんは、集まったゆっくり達に、一気にはくろーけんを振り下ろしていく。
「「「ゆぎゃっ!!?」」」
「「「ゆぴぃっ!?」」」
「さっさとしぬみょん!」
「「「ぐぎゃっ!!」」」
「「「ゆげぇっ!」
急に偽物の長に襲撃された糞袋達は成すすべもなく切り捨てられた。
「まりささまをかばえっ!!」
「まりささまにちかづくなぁ!!」
「どぼじて、まりささまをきるのぉ!!」
数匹のまりさが勇敢にも立ち向かってきたが、いずれも瞬殺された
ほかにも抵抗したものはいたが、ペーパーナイフに武器を切り替えたみょんの前には無力であった
10分後、全ての糞袋を滅したみょんは園内の清掃をしていた。
「みょん♪みょん♪みょん♪♪」
予定よりも早く事が済んだのでみょんはご機嫌だ。気分よく掃除を終わらせ、公園を出る直前に『ヒャアア!!お前なかなかやるじゃねーか』と声がかかる。
「みょん?」
みょんが振り向くと、目の前にはモヒカンヘアーの男。全く気配を感じることができなかったみょんは一瞬動揺するも、すぐに立ち直る。
「こんにちはみょん」
『おう。それにしてもさっきのお前のアレ、すごかったぜ。あんなにアクロバティックに動いてるゆっくりは久々だ!』
「どういたしましてだみょん?」
『褒め言葉として受け取ってくれ。てか、そもそもお前は何者なんだ?』
「みょんは、みょんだみょん。ゆっくりはんたーだみょん!」
『ゆっくりハンターか。飼いゆっくりっぽいし、飼い主の趣味だろうなあ。飼い主はこの辺にいないのか?』
「おにーさんはおうちにいるみょん!」
『本当はいろいろ聞きたいことはあるんだが、用事があってな。また機会があったらあの動き見せてくれ』
「わかったみょん!」
モヒカンは満足そうにすると、一瞬でどこかに飛び去ってしまう。みょんも次の獲物を求めて歩き出す。
その日の夜、加工所の職員が街の見回りを行っていた。
『最近、野良ゆっくりの活動が盛んになってるらしいから気をつけろよー 普通の野良じゃないような報告も上がってるからな』
『ゆっくりハンターも巡回してるようだし大丈夫じゃないですか?』
『それでもだよ。最近は色々と物騒だからな。というか、ゆっくりハンターに頼りすぎるのもどうなんだって話だ。こちらの存在意義がなくなるからねえ』
『そうですけども。ゆっくりハンターってなんであんな強いんですかね』
『そんなの知るか。希少種じゃなくても、たまに変な性能を持っているやついるだろ。そんな感じだろ』
『よくわかんないです…』
「みょん?」
『うおっ、噂をすれば』
偶然通りかかったみょんが反応する。
「みょんがどうしたみょん?」
『いや~何でそんなに強いのかって話』
「みょんはただのゆっくりだみょん。かこうじょのどうぐをつかってるみょん」
『やっぱあの武器は加工所製か。飼い主の趣味で作れる代物じゃないからな』
『それにしても、”ただのゆっくり”の概念が…』
「ところで、さっきのはなしみょん。ふつうののらじゃないってどういうことだみょん?」
『ああそれか。それなんだが、普通の野良よりも耐久性が高くて繁殖が早いやつらが現れたっていう噂だ。俺は見たことないが情報提供がされてる。まあ眉唾物だけどな』
「ふーん。どんなゆっくりみょん?」
『なんか赤い帽子をかぶってるそうだぞ』
「ありがとうみょん」
『おう。気をつけて帰れよー』
『じゃあなー』
みょんはその場を離れ、再びあの路地裏に向かう。
路地裏につくと、そこにいたのは糞袋、ではなく、知り合いの行商ちぇんだった。
「そこにいるのはみょんなんだねー ひさしぶりなんだねー」
「ひさしぶりだみょん。ちょうしはどうみょん?」
「しょうばいあがったりなんだねー わかれよー」
「なにかあったみょん?」
みょんと行商ちぇんは野良時代からの長い付き合いである。行商ちぇんは、当時放浪の旅をしていたみょんが必要とする道具を用意してくれた非常にありがたい存在であった。もちろん代金はそれなりに取られたが
別の街まで遠征し、各所に隠れ家を作っているという噂であり、裕福であるイメージがあったが、商売あがったりとは一体どういうことなのか
ちぇんは不満げに語りだす
「さいきんのらのちょうしがおかしいんだねー なかなかかいわがつうじなくなってるんだねー わかってねー」
「もともとかいわなんてつうじないみょん」
「もっとつうじなくなってるんだねー しょうばいにならなくていらいらするんだねー わかれよー」
「まあまあみょん、おちつくみょん」
「わかったねー でも、このろじうらがおかしいんだねー わかるよー」
「みょん?とりあえず、ここをはなれるみょん」
「わかるよー」
路地裏の入口まで引き返す2匹。人間もまばらな夜なので、特に蹴り飛ばされる心配もないし、れみりゃに襲われても粉砕するのは容易い。
「ろじうらのなにがおかしいみょん?」
「さいきん、よるにへんなおとがきこえるってはなしだねー へんなおとがするのはここだけじゃないけど、おとがするところののらはかいわがつうじなくなってるんだねー」
「おと?」
「ちぇんは、げんいんをみつけるためにいろいろさがしてるんだねー はやくみつけないとしょうばいできないんだねー わかってねー」
「でもここにはなにもいなかったみょん。べつのところをさがしたほうがいいみょん」
「たぶんここなんだねー ここがいちばんおとがおかしいんだねー わかるよー」
「みょん…あしたまたくるみょん」
「きょうもきてるはずなんだねー」
「みょん!?…」
「ほら、そこなんだねー うしろにいるんだねー」
行商ちぇんの指差す方向、路地裏の奥には、確かに何かがいた。もぞもぞとする何かがそこにはいたのだ。しかしそれは一瞬にして消えてしまう。その光景を見たみょんは確信した
「やっとでてきたみょん!」
「ゆわぁぁああ!!どぼぢでばれてりゅのおおお!?」
普通にれいみゅだったのでハズレだった。でも、さっきは誰もいなかったはずなのに、何故こいつはわいてきた…
みょんはれいみゅを潰すと、おかざりを行商ちぇんに渡す。行商ちぇんは臭そうにしながらも受け取った。
「はずれなんだねー あしたまたくるんだねー」
「もうはずれはこないでほしいみょん…つぎはきっとみつかるはずだみょん」
「がんばるんだねー じゃあみょん、さようならだねー」
「さようならだみょん。じゃあみょん」
2匹のゆっくりは解散する。
そして次の日の夜、路地裏にて。
「やっぱりいないみょん」
「おかしいねー どこいったんだろうねー わからないよー」
「わからないみょん。でも、あそこになにかいたのはまちがいないみょん。たぶんきしょうしゅだみょん」
「きしょうしゅあいてだとたいへんなんだねー」
「きしょうしゅはほかくするひつようがあるみょん」
「またあしたくるんだねー」
そして3日目の夜
みょんと行商ちぇんが路地裏に向かうと、奥の方で何か大きな影がうごめいている。何やら激しく動いており、甲高い音が鳴り響いている
「これなんだねー かなりやばいおとなんだねー」
「いったいなにがいるみょん…?」
みょんは、ペーパーナイフを咥え、おそるおそる路地裏を進む。そして相手との間合いを詰めると、一気に相手のもとへと突入する
姿がはっきり見える位置まで進み、みょんが相手の方を見ると…
そこには…
全裸の男が必死にまりさのケツを叩いている現場であった。
「み、みょおおおん!?」
みょんは急停止する。みょんの声に男も気が付いたようで、驚いた様子でこっちを見てきた。
「に、にんげんさん。いったいなにをしてるみょん?」
男は落ち着きを取り戻した。
『どうも。俺は、まりさのケツを叩いていたんだ。別に変質者じゃないよ』
「どうみてもへんしつしゃだみょん。やばいみょん…」
『いや~警察とかはやめてほしいなあ。せっかくの執行猶予中なんだから』
何と言ってよいかわからないみょん。後ろから行商ちぇんがやってくる
「なにがいたんだねー だまってないでおしえるんだねー わかれよー」
「これがすべてのげんきょうだみょん。このにんげんさんのせいで、いろいろゆがんだみょん」
「だいぶさがしたんだねー」
『元凶って何!? 俺、数日前まで拘置所だったんだけど。何が起きたかは知らないけど、無関係だよ』
「じゃあなんでここにいるみょん!」
『いや~それは~ちょうどよい隠れスポットだなあと思って』
「たぶんちがうんだねー いろんないみではずれなんだねー わかるよー」
「はずれだみょん。たぶんにんげんさんのせかいのゆがみだみょん。けいさつよぶみょん」
『警察はゆっくりできないからやめてね!』
泣きそうになる男。交番までは少し距離がある。どうしようかと悩むみょんに男が提案する。
『じゃあ、俺が渾身のまりケツ叩きを披露するから、それで手打ちはどうだ』
「いみがわからないみょん」
『そんなこと言うなって。見てみろ。これが俺のライフワークだ』
「よくわからんみょん」
そう言いながらも、とりあえず見ることにしたみょん。行商ちぇんも、興味津々の様子である。
男は、自分のバックパックの中から取り出したのは…
赤い帽子だった。
「これ、だうとみょん!めっさだうとだみょん!」
数日前に加工所の人間から教えられた情報はたぶんこいつだ。執行猶予中に何をやっているんだ。行商ちぇんも、びっくりしている。
「すごいひとだねー あれはれあなおぼうしだねー」
『ああ、これは確かにレアな帽子だ。まりさの変種の帽子そう手に入らないぞ?』
「むかしにみつけたことがあるんだねー なつかしー」
『まあ、これで許してくれよ。頼むよ。俺が悪かったからさ。ほら、ケツを叩くよ?いくぜ!!』
男はちぇんに帽子を渡すと、両手を振り上げながらまりさに向かって走り出す。そして全力でまりさの尻を叩いた!!
「ぴぎゃあ!!」
まりさと男の体が宙に舞う。そして地面に激突した。
「はげしすぎるんだねー」
「あまりにもひどいみょん」
『イエエエエエアアアアアア!!』
落下した痛みに目もくれず、ひたすらケツを叩く男
「ぴぎゅあ!!!」
1人と1匹は再び地面を転がる。そして、壁にぶつかる。
「もうやめるみょん」
みょんは止めに入った。だが、それを止めたのは行商ちぇんであった。
「ちょっとまつんだねー ここからがほんばんなんだねー」
「どうみてもあたまおかしいみょん!みてるみょんまでおかしくなるみょん!」
『ふぅ…なかなかいいケツだ…』
「だめだみょん…」
「おもしろいひとだねー でも、じんせいおわってるんだねー」
『ありがとう…君たちのことは忘れない…』
「すぐにでもわすれたいみょん」
起き上がり、息を調える男。そして、奇妙なポーズをとる
「まさかみょんたちもおそうみょん!?」
すると、男はポカンとしながら
『まりさのケツ以外興味ないよ。ここからがメインパートだ!』
再びまりさに飛び掛る男。
「ぴきゃあ!」
1人と1匹はまた吹っ飛んだ。今度はみょんの頭上を飛び越えて行った。
『はぁはぁはぁはぁ…』
「はやすぎなんだねー ついていけないんだねー」
跳躍しながらもケツを叩き続ける男の姿はもはや芸術の領域に達していた。
『あー気持ちー』
男は満足そうに言う。
「ぜんぜんきもちよくないみょん…」
辟易するみょんであったが、確かにあの人間の腕裁きは素晴らしい。一糸乱れぬ動きは、ゆっくりハンターであるみょんにとって、参考になるものであった。非常に不快ではあるが…。
『はぁはぁはぁ…ふう』
「そろそろしんでほしいみょん」
『よし、次行くぞ!』
「まだやるのかみょん!?」
『おうともさ』
「にんげんさん、たのしそうだねー」
行商ちぇんは、新たなビジネスを思いついたようで嬉しそうにしている。
男はまた奇妙な体勢をとり、まりさに語りかける
『よおまりさ、元気か?』
「どおみてもげんぎなわげないでしょおおおお!?」
ケツが腫れ上がったまりさがウネウネ動きながら抗議する。
『そうか。それは残念だ』
「まったくざんねんそうじゃないみょん」
『じゃあ、次は俺の番だ』
「いみわからないみょん」
『いくぜえ!!』
男はバックパックから取り出したのは、赤い帽子だった。さっきのものよりも大きめだ
「まだもってるみょん!?」
『この帽子は俺の大切な宝物なんだ。だから大切に使わせてもらうぞ』
「だからいみわからないみょん」
『さあ、こいよまりさ。俺はお前のことなんか、何とも思ってねえ。ただのケツ太鼓だ。俺が好きなのはお前のケツだ。遠慮なく叩かせてもらおう』
「なにいってるのぜ!やめるのぜええ!」
『さあ、来い!さあ!!』
「いやあああ!!」
まりさの絶叫が響く中、男とまりさの気持ち悪い死闘が始まった。
「なにやってるんだみょん…」
呆れるみょん。だが、戦いを見守るうちに、男のケツ叩きに魅入られている自ゆんがいることに気付いた。
「すごいみょん…なんでこんなにうまいんだみょん?」
みょんは気付いたのだ。彼のケツ叩きの極意を。
『うおおおお!!』
男のケツ打ちは、まりさを宙へ打ち上げていた。
「す、すごすぎるみょん…」
そして男は着地と同時に振り向き、再び尻を叩く。
『まだまだあああ!!』
「ゆべええええええ!!」
「こいつ、できるみょん!!」
みょんは感動していた。あの男の動きを自分のものにしたいと。
『うりゃあ!』
「ゆべっ!」
『おりゃあ!!』
「びぎゅあ!!」
そしてついに決着がついたようだ。
『そろそろ終わりだ!さっさとゆごくにイゲエエエ!!』
男が思いっきり振りかぶり、まりさのケツにクリーンショットをかます。
「ゆびょおおおおおおおお!!!」
まりさの身体は勢いよく上にぶっ飛び、そのまま爆散した。汚らしい餡子が周囲に撒き散らされ、みょんたちに襲い掛かる。
みょんは、軽やかに餡子を避けつつ、はくろーけんで塊を弾き飛ばした。
「とってもくさいんだねー わからないよー」
何ともいえない表情で行商ちぇんが文句を言う。しかし、どういう訳か、ちぇんには全く餡子はかかっていない
「そのからくりをおしえてほしいみょん…」
「きぎょうひみつなんだねー わかってねー」
一方、まりさをぶっ飛ばした男は、餡子まみれで仁王立ちをしたまま動かない。
「にんげんさん、だいじょうぶかみょん?」
『…』
返事がない。どうやら意識を失っているようだ。
男はしばらく気絶しているようだったが、やがてゆっくりと動き、みょんに話しかけてきた。
『あーびっくりした。あまりの衝撃で死んだかと思ったよ。ところで君、誰?見たことないけど……』
「みょんはみょんだみょん。さっきからずっといたみょん」
『え…?あーそっか。うん。わかった。』
(絶対わかってないみょん)
『それで、君は俺を助けてくれたのか?』
「まあ、そうみょん(めんどいからそういうことにしとくみょん)」
『ありがとう。助かったよ』
「みょんは、ゆっくりはんたーだみょん。さいきんこのへんがあぶないから、ぱとろーるしてたみょん。でもいちばんあぶないのとそうぐうしたみょん」
『この辺も治安が悪くなってるのか。そうか…俺も気を付けなきゃなー』
(いちばんあぶないのはこのにんげんだみょん…)
能天気な男に呆然としつつも、
「じゃあみょんはもうかえるみょん」
「ちぇんもかえるんだねー」
『そうか。夜も遅いから用心しろよ。達者でな!』
みょんと行商ちぇんは、路地裏をそそくさと離れた。あんな変質者といてもロクなことにはならない。
近くの公園につくと、みょん達は解散した。
「じかんをそんしたきぶんだみょん…」
「ちぇんはおぼうしをてにいれたから、もうかったんだねー みょんはけっこうみとれてたんだねー」
「さすがにえるものよりも、うしなうもののほうがおおいみょん。もうこりごりみょん」
そして男はというと…
『ふう、さて俺も帰るか。あれ、なんで全裸なんだ?』
驚いた男が振り返るとそこにはいつもの警察官。
『ちょっと君さあ、何回言えば分かるの?刑務所に行きたいのかい』
『どおしてお巡りさんがここにいるのおお!?』
「どうして、じゃないよ。最近この辺は変な音が聞こえるって通報が多くなってるんだよ。やっぱり君だったよ」
『俺、今日しかいないっすよ。最近やっと拘置所から出たんだから。執行猶予取り消されちゃうから逮捕はやめてね!』
『だめだ。今回もちゃんと連れてく』
『ごべんなさいいい!俺が悪かったんですううう!!許してください!!!』
『いや、来なさい』
『許してくれないとぷくーするよ!ぷくーー どおしておまわりさんいなくならないのおおお! ゆんやあああ!!』
こうして今日も町には平和が戻ったようだ。
たぶん。
最終更新:2022年06月02日 23:57