とあるマジックの話
ジャカジャカジャカジャカ・・・ジャーン!!
「すっぱーーー!!!」
「成功!!成功です!!!」
テレビの画面には激しい爆発と共に、箱の中から飛び出すゆっくりらんが映されている。
新聞の番組欄には世紀のゆっくりマジシャン、『すっぱてんこー危機一髪、ポロリもあるよ~風雲偏~』の文字が大きく踊っている。
「わふわふ!!」
「おお、すっぱすっぱ」
千切れんばかりに尻尾を振るもみじ。
きめぇ丸に至っては、シェイクが激しすぎて火がつきそうだ。
「興奮するのはいいけれど、火事だけは簡便な」
むぎゅりと、きめぇのと可愛いのの頭に手を乗せる。
彼の言葉は届いているのやら、2匹はテレビに釘付けだ。
「すっぱ、爆発、大脱出・・・マジックの花形ですね」
「わん、わふん!! わっふるもっふる!!」
「すっぱは違うんじゃ・・・しかし、お前等マジックなんて好きのね」
無機質な音声で流れるニュースを背に、未だ興奮冷めやらぬ2匹は熱く語る。
「ふふふ・・・ブームは密かに訪れるものですよ。そう、風呂場のカビのように・・・」
「わっふー!!」
何かえらく後ろ向きな例えである。
まぁ、この2匹がマジックにどっぷり胸キュンキュンなのは確定的にに明らか。
きめぇ丸のボンボンを揉みながら、ほんの気紛れを口にしてみる。
「じゃあマジック、やってみるか?」
1時間後、机に並ぶはありとあらゆるマジックグッズ。
初心者用入門書1200円、スターターパック2980円、野生のまりさプライスレス・・・溢れんばかりに積み上がる。
「オラすっげぇワクワクしてきたぞ!!」
「随分買い込みましたね」
「わっふ~!!」
「ゆっくり、ゆっくりー!!」
みなぎる少年、はしゃぐもみじ。きめぇ丸は呆れた風を装いつつも、ウズウズと落ち着きが無い。
「きれいな いしさんだよ!! これは まりさの たからものにするよ!!」
まりさはコロコロと舌先でダイスを転がす。そして起用に巻き取り、口に運ぼうとし・・・
「スタァッピィーットゥッ!!」
「んゆっ!!?」
舌を摘まれた。
「へひへへひょ~!!」
グイグイと腕を引き・・・リリース!!
ベバチコーンッ
「ゆんぶ!!? いきなりなにするのー!!?」
「どこから沸いて出た・・・てかうちに何の用?」
カメレオンのように舌を飲み込み、抗議の声をあげるまりさ。
逆切れの上こちらの質問も無視ときた。そんな聞き分けのないゆくりには・・・
「先生、お願いします」
「残・像・拳」
シュババババ
「ゆぎゃあああああ!!?」
「つまり、だ。 お前さんは楽しげな声に釣られて、窓から我が家にダイバーダウンと」
「ゆぅ・・・まりさをひどいめにあわせて、ゆっくりしてないおうちだね!!」
「・・・トランザム」
「ゆぐぃ!!?」
青白くやつれたまりさが悲鳴を飲み込む。目蓋の裏には先程の光景が焼きついていることだろう。
「み、みんなであそんだほうが、もっとゆっくっりできるよ~!! ゆ、ゆ~ゆ~♪」
「・・・ま、いいか。 そんかわり邪魔はすんなよ」
「ゆっくりわかったよ!!」
こうして闖入者を交えつつ、楽しい楽しいマジック大会が開かれた。
「耳が・・・でっかくなっちゃった!!」
「おお、でかいでかい。しかし私たちは耳がありませんよ」
姉さん、クールです。
「やぁ僕ラッキーちゃん、○ッキーて書くと何だか甲高いね!! ハハッ!!」
「うー、わふ!! あむあむ・・・」
会心の一撃!! ラッキーちゃん人形は涎にまみれた!!
「このコインを・・・ふんぬぁ!!」
「ぱく!! むーしゃ、むー・・・ゆべぇ!? おにいさん、これおいしくないよ!?」
「んああああ!! フールハーウスッ!!」
「ゆぎゃああああ!!?」
まりさの額にカードを突き刺し、少年は咆哮をあげる。
「え? 自分ダメッスか? 自分のマジックへっぽこですか!?」
「わ、わふわふ!! わふーう? わっふる」
「『駄目じゃないよ? お兄さんのマジック素敵だよ? もみじ、だーい好き!!
でもやっぱり火が出たり、爆発したり、巨大水槽にダイブするようなスリリングなアクションも見てみたいの』
・・・と、もみじは言ってます」
「ながっ!? そんなに意味あったの!? てか、さり気なく要求レベル半端ないっすもみじさん!!?」
気遣うように見上げるもみじ。そんな上目遣いで見つめられたら・・・たら・・・んんんーーー!!!
「よし来たドッコイ!! あれ行こう!! 脱出系!!」
「おお?」
「わふぅん!!?」
ビッと立てた親指で、グリグリともみじの おでこを擦る。
男は黙っていい日カニ玉、やぁってやろうさファンタスティック。
「ドロー!! 死者蘇生!!」
「ゆぽん!?」
トランプ引き抜き鷲づかみ。
「そんなわけで強力してくれ」
「ゆ? ゆゆ???」
「レディース エーンド レディース!! 今宵あなたは世紀の脱出ショーの目撃者となる!!」
「ゆっくりみていってね!!」
テカテカの衣装に包まれた少年とまりさ。
ボストンバックを引っ張り出し、おもむろに口を開く。
「取り出すバックは小細工無し、穴も無ければ棒もない!!
そこに まりたんinするお。 いざぁ、割れ目でポン!!」
「いんするよ!!」
「おお、ひわいひわい」
「わふ?」
「はいそして、ファスナーを閉めまーす!!」
ジジィィーーーーー・・・キュッ
「ん?」
「・・・ゆっばああああああ!!!??」
何ということでしょう。
まりさの先っちょが、ファスナーの隙間にガッチリマンデーではありませんか。
凸と凹に食い込まれたその姿は、まさしくセイキ末。
この体を張ったダイナミックな表現には、さすがの匠も驚きをかくせません。
おのれ、謀ったなゆかり。
ガチャガチャ・・・
「いだ!!? やべで!! やべでえええ!!!」
まりさの先っちょセンチネル、
おまけに傷つきクロマティ。
「うわぁ・・・何だか大変なことになっちゃったぞ・・・こりゃあ明日はペタジーニだな」
「おお、たまひゅんたまひゅん」
「わっふるわっふる」
どうしたものかと腕を組む。
その時、彼の中で小宇宙が目覚めた。
『若さってなんだ』
(若さ・・・振り向かないことさ)
『愛ってなんだ』
(ためらわない・・・ことさ!!)
「まだだ!! まだ終わっちゃいねぇってばよ!!」
再度その手に金具が握られる。
「覚悟は出来たか? 俺は出来てる!!」
「できてるわけないでしょおぉぉぉ!!?」
彼の上体が左右に振れ、やがてその軌道は∞を描く。
2つの円の中心、彼のバネが弾け━━━━━駆け抜ける!!
「うおォん!! 快速電車が通過しまぁす!! 危険ですのでファスナーの内側に収まりくださぁい!!」
「ゆっぽおぉぉぉおう!!?」
「ユニバアアァァァァァスッ!!!」
これなんてチンチン電車?
「ふぅ・・・何かもう満足したわ・・・」
「おお、なげたなげた」
「わふ!?わっふー!!」
けだるくも、そこはかとなく、ここちよし。
魅惑の賢者タイムに後ろ髪を引かれつつ、彼は最後の仕上げのために庭へと赴いた。
「火ぃを着~けろ~ぃ♪」
まりたんのボストンヴォルケイノ。
パチパチと火の粉を上げるバッグ、縁側に腰掛け遠目に眺める。
後は上手くやってくれるだろう、たぶん。
「出てこんねー」
「おお、じらしじらし」
「わふ」
「まだかなまだかなー」
「学研のー」
「わっふるもっふるー」
「・・・これ事故じゃないですか?」
「ははは、こやつめ。そんなことがあるわけワカメ」
ふと、バックに入る前のまりさの姿が脳裏をよぎる。
(ゆっふっふ・・・らくしょうだよ!! おにいさんは しゅやくのまりさのために おっきな すてーき よういしておいてね!!)
うん
(おにいさん、まりさ この だっしゅつげきが おわったらね・・・)
うん?
( れいむにね、いっしょに ぱんやを ひらこうって・・・こくはくしようと おもうん だぜ!!)
んんー???
(ゆ、かっこいい おふねさんだよ!!)
オ、ナイスボート
立った、立った、クララが立った!!
立った、立った、フラグも立った!!
「はいアウトォーー!! 死亡フラグってレベルじゃねーぞ!!?」
「おお、緊急緊急」
より取り見取り、フラグのバーゲンセールじゃねーか!!
鎮火後、そこには半生のまりさの姿が!!
「もう火遊びはしないよ☆」
「ゆあああああ!!? まりざのぼうじがああああ!!!」
「大丈夫!!レアだレア!! 食べごろマンマだ!!」
「あれ打ち切りじゃないですか、アウトですよ」
「ひどいめにあったよ・・・」
「てへ☆ごめりんこ!!」
落ちこむすまりさに、顔を寄せそっと囁く。
「せめてもの詫びだ、最後は大食いマジックで閉めよう」
「ゆゆ?」
「それでは本日最後のマジック、物質消失を行いまーす」
「ゆっくりみていってね!!」
皿の上には山盛りのシュークリーム、程よく冷えて実に旨そうだ。
「このハンカチを被せると、なんとシュークリームが一瞬で消えます!!」
「わふっ!? わふわふー!!」
もみじの涎に心が痛む。後であげるからね。
バサリと重々しくハンカチを被せる。
「3,2,1,ドカポーン!! はい、あの日の友情のごとく見事なくなりましたー!!」
「おお、みごとみごと」
「わふ!? きゅうんきゅうん・・・」
ハンカチをどけると、そこには大きく膨らんだ得意顔のまりさ。
「スターまりさ、ありがとうございましたー!!」
「ゆっふっふ!! これぐらい、まりさにかかれば・・・ゆ?」
急にまりさは震え出し、その頬を冷や汗が伝う。
「おにいさん・・・これ、なんだか しゅっごく へんだよ・・・?」
「むしろお前の口調が変だが・・・どした?」
次第に震えは大きくなっていく。そして遂に
「ゆぶ!?・・・ぼえああああああああ・・・・・・」
勢いよくラストスペル発動、空の果てまで駆け上っていった。
「何と言うファイナルスパーク・・・あいつ、すげー隠し玉もってんな」
「文字通りのスターになりましたね。 ところでさっきのシュークリーム、新発売のロシアンシューでは?」
「ああ、何か確変大サービス増量キャンペーンって書いてあった。また買って来るから一緒に食べよ」
「・・・今日はプリンの気分です。プリンにしましょう」
プリンの気分なら仕方ないね。
たまには贅沢にクリームとフルーツでも添えてみるか。
東の空には大きな星が輝いていた。
終わり
最終更新:2022年05月19日 14:24