ある男のゆっくりレポートのおまけ ゆっくり霊夢一家の越冬(誤算編)


 ゆっくり霊夢一家は師走の寒さの中家路を急いでいた。
「さむい! さむいよおかあさん!」 
「おうちにかえったらゆっくりしようね!!」
 そんな返事しか出来ないお母さんゆっくり。
 それも当然だ、今までこの時期は巣の中で皆でゆっくりしていたのだ。
 しかし今年はそれが出来なかった、出来なくなってしまった。
「いそいでかえってゆっくりしようね!!!」
 ともかく家路を急ぐ事しか出来ない、雪に埋まってうまく進めない中、懸命に家まで進んでいく。
 日が完全に落ちようとしていた頃、ようやく自分達の巣に到着できた。
「ゆー?」
 中を覗いてみるが気配はない、入り口にはドアを塞ぐのに毎年使っている石と松葉が転がっていた。
 しかし、既に外気にさらされて冷え切っているが、確かに先ほどまではゆっくり魔理沙一家が居た形跡が感じられた。
「いまのうちにうちにはいろうね!」
 のんびりもしていられない、雪の中を進んできた体は凍りそうなほど冷たくなっていた。
 今か今かと待っていた母親の号令で、急いで中に入る一家。
 お母さんとお姉さん達が急いで入り口を塞いでいく。
 何時もならゆっくりしながら数日かかる作業が、あっという間に終わり入り口は綺麗に塞がれた。
 これで外気が入ってくる心配はない。
 依然として寒い室内だが、だんだんと暖まってきている。
 次第に、一家の顔にも暖かさが戻ってくる。
「よかったね!」
「あったかいね!」
「はるまでゆっくりしようね!!!」
「はるになったらみんなでゆっくりしようね!!!」
 無事に巣が戻ってきたことが嬉しいのだろう、口々に出るのは越冬の間の楽しそうな計画と、春になってからのゆっくりする計画だった。
「いっぱい歩いて疲れたからごはんにしようね!」
 お母さんゆっくりが提案する。
 ふと、ゆっくり魔理沙一家が蓄えておいた食糧はどこだろう、と巣の中を見渡す。
 綺麗な鳥の羽、大きくて綺麗な石、そんな素敵なものは多々あったが肝心の食料は何処にもなかった。
「たべものがないよ!」
 焦るお母さんゆっくり、何時もなら冬の前に実り豊かな山の幸をたっぷりと蓄えて冬を越す。
 いや、蓄えなければ途中で凍死か餓死してしまう。
 その大事な備蓄が今年は出来なかった、何時までも暖かい部屋に居た所為で季節感覚が狂ってしまっていたのだ。
「おかあさん、たべものならあるよ!!」
「ゆっくりできるよ!!」
 今年生まれた子ゆっくり達だ。
 当然、この六匹はまだ越冬を経験していない。
 明日にでも取りに行けば良い位に思っているのだろう。
「だめだよ! それたべたらゆっくりできないよ!!!」 
 あの男から貰ってきた綿菓子の袋に口を伸ばそうとしたところを、お姉さんゆっくり達が止める。
 小さくても、越冬の経験だけは頭に残っているらしく皆の表情は必死だった。
「これはれいむがもらったおかしだよ!!」
「れいむのだもの!!!」
 口々に文句を言ってくる、お母さんゆっくり達が何とか今の状況を伝えようとするが、なかなか伝わらない。
「あしたになったらみんなでおさんぽにいって、そのときにあつめればいいよ!」
「あしたゆっくりあつめるよ!!!」
「それよりも、おうちさむいよ!!!」
「すとーぶをつけてね!!!」
「おかあさんすとーぶつけてゆっくりしようよ!!!」
「すとーぶ♪ すとーぶ♪」
 お母さんゆっくりは困り果てた、どうしても今の緊急事態が理解してもらえなかったからだ。
 今も、お姉さんゆっくり達が懸命に説明しているが、おそらくは徒労に終わるだろう。
「おねえちゃんたち、れいむのおかしかってにたべようとしてるの!!?」 
「ずるい! ずるいよ!」
「ゆっくりできないなら、おうちからでていってね!!!」
 同時に、お姉さんゆっくりに飛び掛る。
 妹とはいえ、既に十分成長したゆっくりの攻撃を食らった数匹のお姉さんゆっくりは壁まで吹っ飛んだ。
「ゆ!! このおかしは、ゆっくりできるれいむたちがたべるんだよ!!!」
「おかあさんたちは、ゆっくりできないからたべれないよ!!」
 プンプン、と再びお姉さん達に襲い掛かろうとする。
「ゆっくりごめんね!!!」
 吹っ飛ばされたのは襲い掛かろうとしていた子ゆっくりの方だった。
「ゅー、ぃたいよ……ゆっくりでぎないよぉ!」
「どうじでゆっぐりざせてくれないの! ゆっくりじだいよぉ」
 弱々しく呟く子ゆっくり達、既に大半の餡子は外に飛び出していた。
 半ば瀕死のそれを、躊躇なく踏んでいく大きなゆっくり。
 先程まで、子ゆっくりと残りのゆっくりを天秤にかけていたお母さんゆっくりだった。
「ほかのゆっくりがゆっくりできなくなるから、ごめんね!!!」
 必要以上に潰してくお母さんゆっくり、姉たちも真意を理解したようで母に倣って他の子ゆっくりを潰していった。
 その一方的な虐殺は、あっという間に終わりを迎えた。
 先程とは打って変わって静寂が辺りを包む。
 泣き叫ぶ子ゆっくりは見る影も無く、床に転がっている皮と餡子が混ざった物体がその名残を残しているだけだ。
「あのこたちのぶんも、ゆっくりふゆをこそうね」
「うん、ゆっくりこそうね」
 今や十匹ほどに減ったしまった巣の中で、お母さん霊夢と他の霊夢達がお互いに口々に話す。
 残念ながら、そこに罪悪感が有るのかは窺い知る事は出来ない。

 それから数日が経った。
 既に潰れた子ゆっくりの餡ペーストを少しずつ食べながら、越冬するゆっくり一家。
 少なくなったことで室内の温度は下がってしまったが、それでも越せないことは無い。
 去年と同じ人数になっただけだ。
 どのゆっくりもそう思っていた。
 だから、誰も不満も言わずじっと寒さに耐えていた。

 大寒時、美味しかった餡ペーストも後僅か。
 その頃には、子ゆっくりとその餡ペーストを結びつけるゆっくりはいなかった。
 殺したことは覚えているが、今食べているこれが野山を駆け巡っていたとは、既に思っていないのだろう。
 巣の中も当初は寒かったが、段々となれてきた一家には徐々に口数も戻ってきた。
「おいしいのすくなくなってきたね」
「だいじょうぶ! もうすぐさむいのおわるから!!!」
「でもこれだけだと、あたたかくなるまえにゆっくりできなくなるよ」
「おじさんからもらったおかしがまだのこってるよ。これだけあればゆっくりふゆをこせるよ!!」
「じゃぁこのおいしいの、いまたべちゃってもだいじょうぶだね!!」
「おかあさん、たべていい?」
「ゆゆ……。 ! なんとかぶじにふゆをこせそうだから、きょうはゆっくりおいわいしようね!!!」
「「「ゆっくりしていってね!!!」」」
 久しぶりにお腹いっぱいご飯を食べれるゆっくり達はご機嫌だ。
「むしゃ、むしゃ、おいしいよ♪」
「むっしゃむしゃ♪ ゆっくりできるね!!!」
「ゆっくりたべようね!!!」
 床がピカピカになるまで舐め終えて、その日の楽しい食事は終わった。
 最後の晩餐は、とても賑やかなモノになったようだ。

 翌日、お昼頃に目を覚ましたゆっくり達は食事を取ろうと、あのわたあめの袋を運んできた。
 一日半分ずつ食べれば間に合う、長年の経験からお母さんゆっくりはそう思っていた。
 本当に袋の中にそれに見合うだけの中身が入っていたならば。
「ゆゆ!!?」
「ないよ! ないよ!!!」
 大きな袋の中身は殆どなく、そこには微かに甘い香りのする中に、米粒程の塊が入っているだけであった。
「なんで!? なんでないの!?」
「これじゃあゆっくりできないよ!!!」
「おいしいわたあめがないよ!!!」
 おじさんの所で出された中でも、特に美味しかったわたあめ。
 そのおいしかったわたあめが、袋の中に入っていない。
 ゆっくり達には無くなった理由など分かるはずもなく、巣の中はパニック状態だ。
「お、おがしがないよー!!!」
「れいむのおがしがーーー!!!」
「もってでるときはあっだのにー!!!」
 必死で他の袋も開け始める、勢いよく飛びつき袋を食い破るゆっくり達。
 が、全て同じ、小さな塊が出てくるだけだ。
 ボロボロに引き裂かれた袋、訳が分からず叫び続けるゆっくり一家。
 丼一杯にも満たない塊、これが今この家にある全食料だった。

 それから、数日が経った。
 既に一家の顔は青白くなり、目もトロンとしている。
「しんだ、ゆっくりたちの、ために、ゆっくり、ふゆを、こそうね」
「「……ゆっくり、こそうね」」
 まるで合言葉のように、死んでいった仲間のためにも、と呟きながら懸命に寒さと空腹に耐え続ける。
 この頃には、自分達で殺した子ゆっくり達が他の原因で死んだと思っているらしい。
 いつもはゆっくりゆっくり騒がしいゆっくりの巣だが、今は雪が降り続ける外の方が賑やかなくらいだ。
 次第に意識が朦朧としてきた、目に映るのはぼんやりとした家族の姿。
 それが、段々と輪郭を失っていく。
「……ゆ!」
 輪郭を完全に失ったそれは、大きな饅頭の姿になってゆっくりの目に映りこんだ。
「たったべもの!!! ゆっくりできるよ!!!」
 一匹が力を振り絞ってもう一匹にかぶり付く、周りでは同じように数匹がかぶり付いていた。
「ゆ! いだいよ! れっ、れいむはたべものじゃないよ!!!」
「やめて! ゆっくりやめてね!」
「むしゃむしゃ、はぁはぁ、うめぇ、めちゃうめぇ!!!」
「ごくんっ! はぁはぁ、ゆっぐりたべるよ!!!」
 既に正常な判断が出来なくなっているゆっくり達は、ただ生きるために目の前の饅頭に貪り付いていた。
 家族なんてものは関係ない、まさに弱肉強食、たべれれている方が霊夢や魔理沙で食べているほうがれみりゃやフラン、それと同じことだ。
「やめてね!!! みんなでゆっくりしようね!!!」
 お母さん霊夢が大きく膨らんで残った数匹の子供達を隠す。
 ゆっくりが子供を守る時の常套手段だった。
「うっめぇ! このおおきいまんじゅうもうっめぇ!!!」
「これだけあればゆっくりできるよ!!!!」
「ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛! み゛ん゛な゛でゆ゛っぐり゛じでよ゛ーーーー!!!」
 突進するでもなく、殴りつけるでもなく、ただただその大きな饅頭を食べていく。
 後ろに隠れていた子供達も、段々と母親の声が小さくなっていくのが分かる。
 か細くなっていく声、それがあるときぴたりと止んだ。
 今聞こえるのは何かを咀嚼する音のみ、その音はどことなく、ゆっくりれみりゃのそれと酷似していた。
「……ぷはぁ!」
「!!!」
 今まで守ってくれていたお母さんゆっくりの背中から、ゆっくり霊夢が顔を出した。
 一匹、また一匹とその数は段々と増えていく。
 おそらく全員が顔を出したのだろう、一匹のゆっくりがこう叫んだ。
「みんなでゆっくりしようね!!!」
「…………!!!」
 巣の中にはゆっくりが数匹、これが巣の中に残っている全ての食料だ。


「むっしゃむっしゃ♪ う~すっきり~!!!」
 最後の一口を綺麗に食べ終え、ご満悦のゆっくり霊夢。
 どうやら、これで最後の晩餐が終わったようだ。
 だが、ユダさえも居ない一人さびしい晩餐だった。
「!! おかあさんたちどこ? どこにいるの?」
 正気に返った霊夢は辺りを見回すが、母親達の姿はない。
 皆、お腹の中に入っているのだから。
「わかった! たべのもさがしにいったんだ! れいむはゆっくりまってるよ!」
 キラキラと目を輝かせて部屋の真ん中に佇む。
 時折、体を揺らしてリズムを取りながら母達の帰りをワクワク待つ。
 このゆっくり霊夢が犯した間違いは二つ。
 一つは、家族は全て自分が食べてしまったという事。
 二つ目は、大事な食料を何の考えもなしに全て食べ尽くしてしまったという事。
「ゆっくりまってるから、はやくかえってきてね♪」




 雪が津々と降る二月の山の中、あと一ヶ月以上も続くこの冬は、彼女をいったい何時まで生かしておいてくれるのだろうか。

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最終更新:2019年10月08日 01:51