注意
「ゆっくりしんぶん <1面>」の続きです。
※確実に罪の無いゆっくりが・・・。



「ゆっくりしんぶん <2面>」



今朝も巣穴の出口に日の光が差込み始め、普段なら元気な長女まりさの声が巣穴に響き始める頃だった。
その日ゆっくり一家のほとんどが悪夢に悩まされ、十分に睡眠をとる事ができなかった。

「ゆうぇぇぇぇぇん!! おきゃーしゃんこわきゃったよぉぉぉおお!!!」
「大丈夫だよ、おちびちゃん。今日もおかあさんとゆっくりしようね。ゆっくり・・・ゆっくり・・・」
「おきゃーしゃぁぁぁん!! いぎでいだんだねぇぇ!!!」
「もうブチュゥゥゥいやあぁぁぁぁあ!!!」
「ゆっくりだいじょうぶだよ・・・。ゆっくり・・・ゆっくり・・・」

子ゆっくり達は親ゆっくり2匹に飛びつき、わんわんと泣きじゃくっていた。
親ゆっくりは子ゆっくりの流す涙をペロペロと舐めとってやった。

「ゆ!! みんな悪い夢の事は忘れて、ごはんを食べて元気になるよ!!」
「ゆぅぅぅ!♪ まりさおなかいっぱいすいたよ!!」
「れいむもいっぱい食べるよ!!」
「ゆっくりわかったよ。きょうはおかあさん、いっぱいごはん採って来るね!!」
「やったー!! おきゃーしゃん、いってらっしゃい!!」

そうして親まりさは巣の出口へと向かった。
そして昨日と同じ、きれいに畳まれた紙束を発見するのだった。

「ゆぅぅぅ・・・」

昨日の衝撃を完全には忘れる事が出来ず、その紙束に不安を覚える親まりさであったが、

「ゆっくりよんでね!!ゆっくりしんぶん!!
 きょうも ゆっくりできるニュースが いっぱい!!」

というコピーと昨日とは違う可愛いイラストを目にすると、そんな気持ちもすっかり吹き飛んでしまった。
親まりさはその紙束を咥えると、巣の奥へと引き返した。



「ゆ? おきゃえりなしゃい、おきゃーしぁん! おいちいごはんいっぱいとれた?」

葉っぱを咥えて朝食の準備を始めたばかりの末っ子れいむが、期待に満ちた笑顔で迎える。
実際には親まりさは巣の外にすら出ていない。

「ゆっくりこんな物を見つけたよ!みんなで見ようね!」

親まりさの声に一家が集まってくる。

「「「「「「ゆぅぅぅ・・・」」」」」」

はじめは親まりさと同様に不安を隠せない一家であったが、紙テープに書かれたコピーと
イラストを目にすると「ゆっくりみんなで読もうね」と嬉々として新聞の周りに輪になった。



『ゆっくりしまい ビーだまと たわむれる』
「「「「「「「ゆぅーー!♪」」」」」」」

見出しの横には、水槽に敷き詰められたビー玉の中にまじり、3匹のゆっくり達がはしゃぐ写真が掲載されていた。

『さくじつ ×□さんのおうちで ゆっくりビーだまであそぶかい がひらかれました。』

「ゆわぁーー!!! きれーーーーぃ!!!」
「ビーだまさんキラキラしてるぅ!!」
「まりさもビーだまさんとあそびたい!!」
「れいみゅもキラキラコロコロしちゃいよ!!」
「とってもキレイキレイだね。それじゃあ次のページをめくるよ。」

そう言って親まりさは紙面をめくった。

「「「「「「「ゆぎゃあぁぁぁぁああああっぁぁぁぁ!!!!」」」」」」」

さもありなん。そこに広がった光景は昨日のものにも匹敵する惨状だった。
昨日と同じように”一盛り上がり”した一家は、ゆっくり急いで紙面をめくった。



『きょうの ゆっくり いっく』

 『きょうもまた
   かえってみたら
       だいさんじ』 (□□県 26歳 男性 会社員)

「ゆぃ?」

 『こまりさの
   ちいさなあなるが
       きもちいい』 (××村 3ヶ月 女性 とはいは)

「ゆごぇ??」

 『ブチブチと
   れいむのかみを
       ぬきとるぜ』 (○○都 20歳 女性 フリーター)

「ゆげぇ!??」これにはさすがに反応したようだ。

 『やめてよね
   そんなしぐさが
       にくらしい』 (○×県 24歳 男性 HPデザイナー)

「ゆうぇうぇ・・・」
「やっぱりゆっくりできないよ・・・」

相も変わらずゆっくり一家は、その胸中にモヤモヤとした不快感を覚え、記事を読み進めた。



『ありすの とかいは てくにっく』
「ゆぅ?」

そんな見出しと共に、可愛いゆっくりありすのイラストが描かれている。
昨日ならここで『きょうの あかゆっくり』が掲載されていたのだが、今日は違うコーナーが掲載されていた。
赤ゆっくりを見るのが楽しみだった一家であったが、とりあえず読んでみる事にした。

『とかいはありすは れんあいじょうず。きょうはそんなありすの 「とかいはれんあいテクニック」をおしえてあげる。
 まず、はじめてのであいは 「うしろから」。あたりまえのように まえからであっても トキメかないわ。
 おもいのダーリンをみつけたら きづかれないように うしろからアタック!! 「であいはとつぜんに」がコツよ。
 こんかいはここまでね。じかいのつづきを ゆっくりまってね。』

その横には、ありすが他のゆっくりに後ろから飛び掛るまでを再現した4コマ風のイラストが添えられていた。

「ゆぅ、とかいはなありすはこんなテクニックで恋愛してるんだね。」
「まりさは何も考えず、前かられいむにアタックしちゃったよ。アハハ」
「もうっ! まりさったら!」

赤くなる親ゆっくり二人。

「ゆぅ・・・。れんあいってむずかしそうだよ・・・。」
「大丈夫だよ。おちびちゃん達も大きくなったら恋愛できるようになるよ。」
「ゆ!! まりさもがんばって、いっぱいダーリンつくるよ!!」

そんな会話を交わしながら、親まりさはゆっくり紙面をめくった。



『きのうの あかゆっくり』

最後の紙面の見出しにはこう書かれていた。
昨日のコーナーと少し名前は違うが、赤ゆっくりを楽しみにしていた一家にとっては些細な事だった。

「ゆわった~~!! あかちゃんにまたあえるよ!!」
「きのうのあかちゃん、げんきにしてるかな?」
「れいみゅも、あかしゃんといっしょにコロコロしゅるよ!!」

待ち望んでいたコーナーに、一家は笑顔で記事の周りに集まる。
間近で赤ゆっくりの写真を見ようと思っていたのだが・・・。

「「「「「「「ゆぐうぇええええええぇぇぇぇぇぇ????!!!!」」」」」」」
「な゛ぁぁに゛こべぇえええええええぇぇぇぇぇ!!!!!」

そこには”昨日号に掲載された『きょうの あかゆっくり』5匹”の変わり果てた姿の写真が並んでいた。
ある1匹は何本もの釘で貫かれ、ある1匹はぐちゃぐちゃに潰され、ある1匹の顔面は溶けてただれ落ちていた。
どうみても5匹とも無事では済まない状態だった。

「あがぢゃんがぁぁぁっ!!! あがぢゃんがぁぁぁぁぁ!!!」
「どぼぉぉぉぉじでぇごんなごどずるぼぉぉぉぉぉっ!!」
「ゆぼげぇぇぇぇ!! ゆぼげぇぇぇぇ!!!」

再び一家の心は奈落の底に突き落とされ、親まりさはゆっくり急いでその新聞を巣の外に投げ捨てた。



「ゆうぇん・・・、ゆうぇん・・・」

子ゆっくり達が泣き止んだ頃だった。親れいむが一つの提案をする。

「ゆゆっ・・・。きょうはみんなでピクニックに行こうね。」
「ゆぅー!! まりさも賛成だよ。みんなお外で元気になろうね!!」
「「「「「ゆぅっ・・・!!」」」」」

久々の「ピクニック」という単語に反応する子ゆっくり達。
徐々に元気を取り戻した一家は、親まりさを先頭に、親れいむを最後尾にして1列に並んで巣を後にした。

「「「「「「「ゆぅ~♪ ゆゆ~♪ ピ~クニ~~~ク~~♪」」」」」」」」

一家揃って歌いながら森の中を進む。目的地の大きなどんぐりの木の下に着く頃には、皆いつもの元気を取り戻していた。
どんぐりの実をおなか一杯にたいらげ、子ゆっくり達は仲良く「だるまさんがゆっくり」をやって遊んでいる。
そんな子ゆっくり達の様子を、親ゆっくり2匹は寄り添って眺めていた。

子ゆっくり達が「だるまさんがゆっくり」にも飽きて、次の遊びを考えていた、その時だった。
すぐそばの茂みがガサガサと音を立てたかと思うと、キラキラと光るいくつかの球体が、
子ゆっくり達の輪の中へと飛び込んだ。

「ゆゆゆ!??」

親ゆっくり達は、はじめ危険な捕食動物かと身構えたが、よく見るとそれは5つのビー玉だった。

「ゆゆぅーー!! ビーだまさんだよ!!」
「ゆわぁーーー!! きれーーーぃ!!!」

子ゆっくり達は初めて見るビー玉に歓声を上げた。
しかし喜びもつかの間だった。
今朝見た新聞の記事が、ゆっくり一家の脳裏に蘇る。

「おぢびぢゃんだぢぃぃぃぃ!!!! にげでえええええぇぇぇぇ!!!」
「ゆぎゃあぁぁぁぁん!!!! ビーだまざんごないでぇぇぇぇ!!!」
「ゆぎいいいいい!!! ビーだまざんに裂かれぶぅぅぅぅぅぅ!!!!」
「ゆわぁぁぁん!! ゴロゴロはいやぁぁあぁぁっ!!!」

今朝の記事が相当ショックだったのだろう、ゆっくり一家は散り散りばらばらに逃げていった。



長女まりさはカタツムリより早く、ウサギよりも遅い速さで茂みの中を跳ね抜けていた。
跳ねつかれて、立ち止まった長女まりさは、家族の姿がどこにも見当たらなくなっている事に気がついた。

「おかーーーさーーーん!! れいむーーーー!! どこーーーー???!!」

返事は返って来ない。
突如一人ぼっちになってしまい、泣き出したい気持ちに駆られる。
しかし長女まりさはそれを我慢して、来た道を引き返す事にした。

「おね゛ぇぇえ゛しゃぁぁぁん!!! おぎゃぁぁぁじゃぁぁぁん!!! ゆわ゛ぁぁぁぁぁん!!」

しばらく進んでゆくと、茂みの向こうから末っ子れいむの泣き叫ぶ声が聞こえてきた。

「も゛ういや゛ぁぁぁぁぁ!!! おうぢがえるぅぅぅぅぅぅ!!!!」
「れいむぅぅぅぅっ!!! まっててね!! いまいくよーーー!!!」
「ゆわぁぁ?? ばりざおねぇぇじゃあぁぁぁん??!! だずげでぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

茂みの中を跳び抜けた長女まりさは、わんわんと泣き叫ぶ末っ子れいむの姿を見つけた。

「れいむぅ!!もうだいじょうぶだよ!!おねぇさんが・・・、ゆわっ???」

末っ子れいむの横には2本の長い足がそびえ立っていた。
長女まりさが初めて見るその足を見上げると、そこには一人の青年がこちらを見下ろして微笑んでいる。
青年の握る指の隙間からはキラキラと光る球体が覗いていた。



思い思いに逃げ回っていたゆっくり一家だったが、
親ゆっくり達の呼びかけで、なんとかどんぐりの木の下に集まる事ができていた。
しかし長女まりさと末っ子れいむの姿が見当たらない。

「ばりざぁぁぁぁ!!! れいぶうぅぅぅぅ!! どごおおおおぉぉぉ???!!」
「おぎゃぁぁぁさんはごごだよお゛おおおおぉぉぉぉ!!!!」
「「「おねえええじゃぁぁぁん!!! れいぶぅぅぅぅ!!! ぼうでできでねぇぇぇぇ!!!」」」

必至に呼びかける一家であったが、2匹の声はどこからも聞こえてこない。
やがて日も傾き始め、一家は已む無く巣へと帰っていった。
日が沈んでからも、一家は巣の中でわんわんと泣き続けた。

その夜、2匹の姉妹が巣に戻る事は無かった・・・。



翌朝。
ゆっくり一家は絶望の空気に包まれていた。
元気に姉妹を起こしてまわる、長女まりさの声も聞こえない。
最後まで起きない、寝ぼすけ末っ子れいむの姿もそこには無い。

「ゆぅ・・・。まりさぁ・・・、れいむぅ・・・。」
「・・・・。まりさはごはんを採って来るよ・・・。みんなげんきだし・・・て・・・」
「・・・・・。」

親まりさはそれ以上何も言わず。巣の出口へと向かった。
そこには昨日までと同じ様に、新しい新聞が置かれていた。

「ゆぅ・・・」

新聞を止める紙テープには、

『ゆっくりよんでね!!ゆっくりしんぶん!!
 きょうも げんきがでるニュースで いっぱい!!』

と書かれていた。
もしかしたら、本当に元気がでるニュースがあるかも知れない。
そう考えた親まりさは、その新聞を咥えて巣の奥へと引き返した。

「・・・・・。」

無言で紙テープを解く親まりさ。
他の家族も少し離れたところでその様子を見守る。



『○△さんちの ゆっくりありす 1さいのたんじょうびパーティー』

その記事は○△さんの飼うゆっくりありすが1歳の誕生日を向かえ、近所の飼いゆっくり達を集めて
誕生日パーティーを開いたという愛で記事だった。
最後まで、幸せそうなゆっくりありすと、招待された飼いゆっくり達の楽しげな様子が伝えられていた。

「ゆぅ・・・。ありす、ゆっくりできて良かったね。」
「みんなとてもゆっくりしてるよ・・・。」
「おっきなケーキさん、おいしそうだよ・・・。」
「おちびちゃん達も、もうすぐ誕生日だね。」

実際には生まれて3ヶ月も経ってない。

「おちびちゃん達も、お母さん達がお誕生日パーティーを開いてあげるよ。」
「その時はきっと、お姉ちゃんもれいむも一緒にね。」
「「「ゆっ!!ほんとうに!?ありがとうおかーさん!!!」」」

親ゆっくり達の言葉に、少しだけ元気を取り戻した子ゆっくり3匹。
今日の記事は愛でニュースで占められ、ゆっくり一家はゆっくりと記事を読み進めた。



『きょうの ゆっくり いっく』

「・・・・。」



『ぱちゅりーの ことわざ じてん』

「ぱちゅりーは物知りだね。」



『きょうの あかゆっくり』

「「「「「ゆわわぁぁぁ~!!」」」」」

そこには、先日の赤ゆっくりとは別の赤ゆっくり5匹が、幸せそうな顔で写っていた。
知る人が見れば、それは「死の宣告」以外の何物でもなかった。

「ゆぅ~!! みんな可愛いね。」
「みんな”てんしさん”みたいだね。」
「おちびちゃん達もおかあさん達の”てんしさん”だよ。」

可愛い赤ゆっくり達の写真を見ていると、ふと、いなくなった2匹の姉妹の事が思い出される。

「まりさぁぁ・・・・、れいぶぅぅぅぅぅああああああぁぁぁん・・・」
「おかーさんなかないでぇ、まりさたちもかなしぐ・・ぅぅううぁぁぁぁぁぁぁん!!」

滝のように涙を流し、泣き出す一家。
ひとしきり泣き続けると気も落ち着いたのか、一家は再び新聞を読み始めた。



親まりさが最後の紙面を開くと、そこには目を疑う写真が掲載されていた。

「ばりざっ?!!!!れいぶ??!!!」
「「「「ゆわわっ?!!!」」」」

一家は最後の記事に釘付けになった。
『さがしています』という見出しの下に、何故か黒いビニールテープで目隠しをされた、
長女まりさと末っ子れいむが『ゆっくりしんぶん』デビューを果たしていた。
普通、捜索願いの写真を掲載する場合は、その人が無事な時の写真を掲載するのが常識である。
写真中の姉妹は明らかに強制的に目隠しをされており、これではまるでテロリストの脅迫状だった。
しかしそんな深い事は餡子脳では考える由も無く、写真からは2匹が生きている事が確認できた。
それだけでも一家にとっては朗報だった。

「ゆわぁぁん!! ばりざもでいぶも生きでるんだねっ!!!」
「「「おねえぇぇぇぢゃぁぁぁん!!! れいぶぅぅぅぅぅ!!!!」
「みんなゆっくり落ちついてね!! ゆっくり読むよ!!!」

そう言って親まりさが記事を読み進める。

『さがしています』
(写真)
『そーさくねがい
 まりさとれいむの かわいい しまいが いなくなったよ
 みつけたひとは ゆっくり おしえてね!!』

もちろんこのゆっくり一家には捜索願いを出した覚えなどなかった。
しかしどこかの誰かがこの事に気づいて、代わりに「そーさくねがい」を出してくれたのだろう。
そのどこかの誰かに一家は感謝した。

「ありがどうございまずっ!! ありがどうございばずぅぅ!!!!」
「ゆわぁぁぁん!! おねえちゃんたち、いきてるんだね!!!」
「これならすぐに二人も見つかるよっ!!!」
「みんなでゆっくりして待ってようね!!」

思いがけない報せに、一家に活気が戻ってきた。
その日の午後、近所に住む別のゆっくり一家がやって来て、自分達も協力する旨を伝えてきた。

「ゆっくりありがとうね!! ゆっくりありがとうねっ!!」
「『ゆっくりしんぶん』のおかげだね!!」

その一家はこの後「ゆっくりポスタルパークに行く」と言い残して巣を去った。
協力すると言っておいて、さっそく遊びに行くとは何事か。
しかしながら親まりさ達は着実に「そーさくねがい」の効果がでていると確信した。



翌朝。
親まりさはゆっくり急いで『ゆっくりしんぶん』を取りに行った。
しかしこの一家、朝飯喰わなくていいんだろうか・・・。
『ゆっくりしんぶん』を咥えて巣の奥へと戻る親まりさ。

「みんなぁ!! ゆっくり読むよ!!」

新聞の周りに集まる一家。親まりさが紙テープを破り、新聞を開く。

『ゆっくりしんぶん ○月△日号』
『まいごの ゆっくりしまい みつかる!!』

と1面の見出しを読んだ家族は、歓喜の声を上げて、はしゃぎ回った。
親ゆっくり2匹は、わんわんと泣いて喜び、
次女の子まりさに至っては、巣の外まで跳ねていってしまう喜びようだった。

「ゆわったぁー!! やったね、おかーさん!!!」
「ゆっくりよかったよ!! ゆっくりよかったよ!!! ゆぐっゆぐっ・・・」
「おねーちゃんたち、みつかってよかったねっ!!」

しかしである。しかしである。
当の一家の前に、いなくなった姉妹の姿は無かった。

「ゆぅ?・・・おねーちゃんたちどこ??」

シーン・・・と静まり返る巣の中。

「ゆ? ゆっくり待ってね。ゆっくり続きを読むよ。」

再び新聞の周りに集まる一家。

『おととい まいごになった にひきのゆっくりしまい(写真1)が
 さくじつ みつかりました。』

(写真1)には、妹をかばって頬を膨らます長女まりさの姿と、
その影から覗く末っ子れいむの姿が写されていた。

「「「「ゆー!!やったぁぁぁぁー!!」」」」

再び一家から歓声が上がる。

『にひきは それぞれ とうめいなはこに いれられていました。(写真2)(2面につづく)』

(写真2)の中では、2匹はそれぞれ別の透明な箱に入れられて並べられている。
箱のサイズは子ゆっくりにとっては大きく、いくらかの余裕があった。
写真右の箱には長女まりさ、左の箱には末っ子れいむが入れられていた。
しかし安い印刷のため、ゆっくり一家には透明な箱がよく見えない。
泣き叫ぶ末っ子れいむと、怒りを爆発させた長女まりさの顔がこちらを向いていた。

「ゆゆゆ??」
「ゆぅ? おねーちゃん「ドッカーン」してるよ!!」
「れいむもすっごく、こわがってるよ。やめてあげてね・・・」
「れいむのかわいいおちびちゃん、どうしたの?? ゆっくり喜んでねっ!?」

せっかく見つかったというのに、2匹がこんなにも怯えている理由が
ゆっくり一家達にはわからなかった。
親まりさは、早く娘達に会いたいと紙面をめくった。



2面には5枚の写真が掲載されていた。

(写真3)
写真のアングルは(写真2)と同じだったが、長女まりさの両目には
1本ずつ赤い筒のような物が刺さっていた。
さらにその口には同じく赤い筒がありったけに詰め込まれ、
そこから伸びたひもに火がついているのが確認できた。
となりの箱では末っ子れいむが、長女まりさの入った箱の方に顔面を押し付けて、
凄まじい形相で泣いている。

「「「「「ゆぎゃああぁぁぁあぁぁわぁぁぁあっ!!!!!!!!!!」」」」」
「なにごれべえええぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
「おげええぢゃんがぁぁぁ!!! おげええぢゃんがっぁぁぁぁ!!!」
「やべであげでべっ!!! やめであげでげっ!!!」

(写真4)
右の箱の中では閃光に包まれた餡子の塊が炸裂していた。
左の箱では、驚いて反対側の壁まで吹っ飛んだ末っ子れいむが転がっていた。

「ばりざのがわいいおぢびぢゃんがぁぁぁっぁ!!!」
「でいぶのがわいいおちびぢゃんがぁぁぁっぁ!!!」

親ゆっくりは必至に叫びながら、記事の上で跳びはねる。
子ゆっくり達は目の前の光景に反応が追いつかず、泣いた表情のまま固まっていた。
15秒ほどすると、ふたたび声を上げ始める。

(写真5)
右の箱は餡子が飛び散り、中の様子が分からなくなっている。
代わりに今度は左の箱の上の方から、黒く長い物体が進入してきているのわかった。
それは末っ子れいむの5倍もの大きさのムカデであった。
写真手前の壁に背中を寄せて怯える、末っ子れいむの後姿が確認できた。

「でいぶぅぅぅ!! にげでえ゛え゛え゛えぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
「でいぶにはぶりだよぼおおおおおああああああ!!!!」
「「「ゆぎゃあああああああ!!」」」

(写真6)
左の箱の真ん中では、末っ子れいむがムカデに雁字搦めにされて食べられていた。
すでに左半分を失っている。

「でいぶうぅぅぅx!!! でうぶぅぅっぅぅ!!!」
「ブカデざあぁぁん!!! じねえええぇぇぇぇぇぇ!!!」
「やべであげでねぇ!! いだがっでるよぉっ!!!」
「がわいいいぼうどがぁぁぁぁぁ!!!」
「どうじでにげないのおぉぉぉぉぉっ!!!!」

(写真7)
左の箱に末っ子れいむの姿は無く、ムカデが箱から出たそうに壁をよじ登っていた。
箱の角には小さな赤い髪飾りが転がっていた。

『ゆっくりしてたら たすけるのが まにあいませんでした。
 (写真3)(写真4)(写真5)(写真6)(写真7)』

「「「「「ゆがあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」」」」」

親まりさは記事の上で跳びはね、『ゆっくりしんぶん』を押し潰そうとした。
それが叶わないとわかると、今度は『ゆっくりしんぶん』の端に齧りつき、ブンブンと振り回す。
ビリビリと破れる『ゆっくりしんぶん』。

「ごれでもがぁぁぁ!!! ごれでもがぁぁぁぁ!!!!!」

やり場の無い怒りを『ゆっくりしんぶん』にぶつける親まりさ。
『ゆっくりしんぶん』はズタボロに引き裂かれていった。

子ゆっくり3匹は、仲良く並んで力一杯に巣の壁にその身を打ちつけていた。

「「「ゆばげぇぇぇっ!!! ゆばげぇっ!!!! ゆぼがぁぁっ!!!・・・」」」

親れいむはと言うと、子ゆっくり3匹の隣で、同じくその身を巣の壁に打ちつけていた。

「お゛ぢびっ!! ゆがっ!! ぢゃん!!! ゆぐぅっ!!! がぁっ!!! ゆべっ!!・・・」

親まりさはビリビリに破れた『ゆっくりしんぶん』の破片を集めると、巣の出口へと向かった。

「も゛ぉぉぐるなあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

巣の外に『ゆっくりしんぶん』の破片をぶちまけた親まりさは、
散乱する破片に向かって怒りの限りに叫んだ。
そして「ゆぜぇ・・ゆぜぇ・・・」と息を荒げたまま、巣の奥へと戻っていった。

巣の外に散乱する『ゆっくりしんぶん』の破片に、一粒の灰色の染みができる。
空は雲に覆われ、ゆっくりと雨が降り始めていた。



翌朝。
外はゆっくり一家の心境を映したかのような激しい大雨だった。
ゆっくり一家は丸1日何も食べていなかった。
壁にその身を打ちつけていた子ゆっくり3匹は、皮肉にも同じく壁に頭をぶつける事で正気を取り戻した
親れいむによって、なんとかその一命をとりとめていた。
しかしながらその内の1匹はもはや虫の息だった。

「・・・・・ゅぅ・・・・・。」
「・・・・・。」
「・・・・・。」
「「・・・・・・。」」

巣の中には、ザァァァ・・ザァァァ・・ザァァ・・・・と雨の音だけが虚しく響き渡る。
親まりさは無言で巣の出口に向かった。

「・・・・・。」

巣の外の紙片は無くなっており、
出口にはビニール袋に入れられた紙束が置かれていた。

「・・・・・。・・・・・ゅぅ?」

ふと親まりさはそのビニール袋の横に、二つの物体が置かれているのに気がついた。
近づいて見ると、それは破れた小さな黒い帽子と、さらに小さな赤い髪飾りだった。
見間違えようが無い。それは長女まりさと末っ子れいむの物だった。

出口でワナワナと震える親まりさを不安に思ったのか、親れいむと2匹の子ゆっくりが巣の奥から出てきた。
そしてそこに置かれた、2つの見覚えのある物体に気がついた。
一家4匹は揃って、暗雲に覆われた天を仰いだ。
そして大きく口を開いて・・・・。

別にのどが渇いて雨を飲もうとした訳ではない。
一家の叫び声を激しい雨の音が打ち消していった・・・。



おわり



おまけ
『ゆっくりしんぶん』○月△日号1面下部<お詫び>より
(昨日号の『さがしています』記事内にて、誤って別の画像が掲載されておりました。)
(編集者の餡子脳をゆっくり反省すると共に、ここにゆっくりお詫び申し上げます。)
(修正したけどまだまだありそう・・・。)



今まで書いたもの
  • 「おでんとからし ~おでん~」
  • 「おでんとからし ~からし~」
  • 「トカゲのたまご ~たまご~」
  • 「トカゲのたまご ~とかげ~」
  • 「ゆっくりしんぶん <1面>」
  • 「ゆっくりしんぶん <2面>」





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最終更新:2022年05月21日 23:06