注意
※たぶん罪の無いゆっくりが酷い目に遭ってます。


「ゆっくりしんぶん <1面>」



まだ日も明けぬ頃、ここは町から程近い森の中。
その森のとある洞穴に、1つのゆっくり一家が巣を作って暮らしていた。
家族は親まりさと、親れいむの両親に、子まりさが3匹と、子れいむが2匹の7匹家族だった。
一家は巣の奥で身を寄せ合い、「ゆすぅ・・・、ゆすぅ・・・」とわざわざ声に出して寝息を立てて眠っていた。

まだゆっくりが目覚めるには早すぎる頃、巣の外の遠方から「ブロロロ、ブオオォォン」と音が聞こえてきた。
普段聞きなれないその音に親まりさがゆっくり目を覚ます。
他の家族は音に気がつかないのだろうか、まだぐっすりと眠っていた。
まだ眠り足りず、ねむけ眼の親まりさは巣の外に向かって、

「ゆぅ・・・、うる・・しゃいよ・・・、ムニャムニャ・・・しずかにして・・ね・・・ムニャ・・・」

とつぶやいた。
外から聞こえるその音は、巣の外まで近づくと止み、しばらくして再び聞こえてきたかと思うと、
「ブロロォォン・・・・」と遠ざかっていった。

「ムニャ・・・わかってくれたら・・・それで・・・いいんだ・・・よ・・・ゆぅ・・・ゆすぅ・・・」

巣の中はゆっくり達の寝息だけが聞こえ、親まりさは再び眠りの中へと落ちていった。



それから数刻後、巣の入り口に陽光が差し込み、ゆっくり一家が目を覚まし始めた。

「ゆゆっ?!太陽さんが出てきたよ。おちびちゃん達ゆっくり起きてね。」

親れいむが長女の子まりさの体を頬で揺する。

「ゆぅ・・・ゆ? あっ、たいようさんだ! おかーさん、ゆっくりおはよう!」
「おはようね、まりさ。今日もゆっくり元気だね! かわいい妹達もゆっくり起こしてあげてね。」
「ゆっ、わかったよ! れいむぅ、まりさぁ、あさだよー!!」

元気な声を上げて妹達を起こして回る長女まりさ。
最後に、姉妹で一番後に生まれて、他の姉妹より少し小さな末っ子れいむを起こす。
長女まりさは、少しのんびり屋さんなこの末っ子れいむが可愛く、よく面倒をみてやっていた。

「ゆぅ・・・。まりしゃおねえしゃん、ゆっくちおはよう!!」

一番下の末っ子れいむも目を覚まし、一家揃って朝の「ゆっくりしていってね!」をしようかと思っていた時だった。
親れいむはパートナーの親まりさがまだ起きていないのに気がつく。
普段は親れいむの次に目を覚ますはずの親まりさは、まだぐっすり夢の中だった。

「まりさぁ! 朝だよ! 寝ぼすけさんは恥ずかしいよ!」
「おかあさん、ねぼすけさんだー。キャハハ」

一家全員で親まりさの頬を揺すって、親まりさを起こす。

「ゆぅ・・・少し眠れなかったんだよ・・・。みんなゆっくりおはよう!!」

重たい瞼を持ち上げ、親まりさは家族達に答える。
親まりさも起きたところで、一家は巣の中で輪になる。

「それじゃあ、みんな起きたね。せーの・・・」
「「「「「「「ゆっくりしていってね!!」」」」」」」

一家はそれぞれの顔を見回す。
一家の表情は皆笑顔にあふれ、家族皆が元気である事を確認する。

「じゃあ、まりさはごはんを採ってくるよ!」
「ゆ、わかったよ。おちびちゃん達はお母さんと朝ごはんの準備をしようね。」
「「「「「ゆー! あさごはん!! おかーさん、いってらしゃい!!」」」」」

一家の朝食は、昨夜の夕食の残り物である虫の死骸と、親まりさが採って来る花やその葉、落ちている木の実である。
朝食なので遠くまでは採りに行かず、本当に巣の周りにある花や実を簡単に採って来るだけであった。
残った家族は、巣の中心に葉っぱを敷き詰めて、その上に昨夜の残り物を並べて待っているのだ。
朝食の準備を始めた家族を背に親まりさが巣の外に出ようとすると、
出口のそばに紙束のような物が置いてあるのが目に入った。

「ゆ? なにこれ?」

それは何枚かの紙が折り畳まれ、薄い紙テープで巻かれて止められた物だった。
紙テープには「ゆっくりよんでね!ゆっくりしんぶん!」というコピーと、かわいいゆっくりのイラストが描かれていた。

「ゆー!♪」

初めて見るそれに最初は不審がったが、「ゆっくり」というフレーズとかわいいイラストに喜んだ親まりさは、
その紙束を咥えて巣の奥へと引き返した。



「ゆ? おきゃえりなしゃい、おきゃーしぁん!! おいちいごはんいっぱいとれた?」

葉っぱを咥えて朝食の準備を始めたばかりの末っ子れいむが、期待に満ちた笑顔で迎える。
実際には親まりさは巣の外にすら出ていない。

「ゆっくりこんな物を見つけたよ!みんなで見ようね!」

親まりさの声に一家が集まってくる。

「もー、おちびちゃん達はおなかペコペコだよ。ゆっくり済ませてね。」
「ゆー、これ読んだらゆっくり狩りに行くよ。」

朝食を終えておらず空腹感は否めなかったが、初めて見るそれに家族全員が興味深々だった。
親まりさは口先でゆっくり紙テープをちぎると、その紙束を広げた。
紙の大きさは親まりさより一回りほど大きく、最初に開かれた紙面の右上には

『ゆっくりしんぶん ○月×日号』

と書かれている。その下には

『ゆっくり さいごまで よんでね!!
 よんだあとは すのでぐちに おいておいてね。』

と注意書きがされていた。

「ゆっくり理解したよ!」

と親まりさが紙面に向かって答える。
記事の文字のほとんどは、ゆっくりにも読み易いように平仮名や片仮名が使われており、
文字よりも、大きな写真やイラストが紙面の大半を占めていた。

「おかーさん、これなに?」
「これは『ゆっくりしんぶん』といって、ゆっくりできる物だよ。」
「ゆー!! まりさもゆっくりよむよ!!」

親れいむも初めて見るはずだったが、子まりさの質問にさも親らしく教える。
かわいいイラストも描かれており、ゆっくりできる物だと疑わなかった。

「ゆ、じゃあここから読むよ。」

親まりさが誌名のすぐ横、1面トップの記事に近づくと、子ゆっくり達もその記事の周りに集まった。



『だいこんばたけ またもひがいに』
「ゆ?」

記事のタイトルに少し違和感を感じた親まりさだったが、そのまま読み進める。

『さくじつ ひるごろ ○○さんのだいこんばたけに ゆっくりいっかがはいりこみ そだてていた
 だいこん15ほんが たべられました。(写真1 ○○さん提供)』

記事の横には、畑の大根を食い散らかし、満腹になってそのまま畑で眠るゆっくり一家の写真が掲載されていた。

「ゆーー!!! とってもおいしそうだよ!!」
「そうだね。みんな幸せそうだね。」
「あかちゃんもおなかいっぱいで、しあわせそうだよ!!」

子ゆっくり達は幸せそうな一家の写真に喜び、キャキャと跳ねて喜んだ。

「ゆー、続きを読むね。」
『○○さんは いっかみんなを ゆっくり捕獲しました。(写真2)○○さんによると とうじ いっかは
 「だいこんさん、いっぱいおいしかったよ。おじさんもゆっくりしていってね!!」
 とえがおが たえなかったそうです。(2面につづく)』

記事の横には、小屋の隅で、幸福に満ちた表情で並ぶ一家の写真が掲載されていた。

「みんなゆっくりできてよかったね。」
「まりさもだいこんさん、たべにいきたいよ!」
「こんどみんなで行ってみようね。」
「ゆー!! やったーー!! だいこんさんゆっくりしていってね!!」

親れいむの言葉に子ゆっくり達はコロコロ転げ回って喜ぶ。

「ゆぅ~~まりさもお腹すいたよ~~」
「まりさっ! よだれよだれ! もぅ! まりさがこんなの拾ってくるからだよ!」
「ごめんごめん、ゆっくり読んだら狩りに行ってくるよ!
 今度はつぎのページだね。おちびちゃん達、少しどいてね。」

紙面の上に乗っていた子ゆっくり達が離れると。
親まりさは1面の端を咥えて「ゆーんしょ、ゆーんしょ」と広げた。
再び記事の周りに一家が集まる。
親まりさが続きを読み始めようとした時だった。

「ゆーんと・・・、ゆ゛っ??!!!」
「「「「「「ゆぎゃあああああああああああああああああああああああ!!!!」」」」」」」

1面が開かれ2倍の大きさに広がった紙面には1枚の写真がでかでかと掲載されていた。
その写真は、皮を引ん剥かれて真っ黒の塊となり、泡を吹いて苦悶の表情を浮かべる親ゆっくりと、
その後ろでは鍬を頭に突き刺されたもう片方の親ゆっくり、
2本の串に3匹づつ串刺しにされて囲炉裏で焼かれる赤ゆっくり達の様子が写されていた。
とくに写真の中央にでかでかと占める、皮を剥がれた親ゆっくりの表情は一家にとって衝撃的だった。

「ゆげぇええええええええ??! なにごヴぇえええええええええ!!!」
「ゆっぐりでぎないいいいいい!!!」
「やべであげでねぇぇぇぇ!!! いだがっでるよ゛ぉぉぉぉっ!!!」
「ゆっぐりごわいぎいいいいいいぃぃぃぃぃ!!!」
「ゆぎゃああぁんん!! ゆぎゃあああああん!!!」

一家は涙と涎を撒き散らして紙面の写真を汚しながら跳ね回った。
写真の下には、

『ゆっくりいっかは おしおきされて にどと すにはかえれませんでした。
 ぜったいに まねしないでね!(写真3)』

と書かれている。

「はやぐそんなページめくっでね!!!!!」
「ゆぎぎぎぃぃぃぃ!! ゆっぐりりょうがいいいぃぃぃっ!!!!!」

親まりさはゆっくり急いで紙面をめくる。



「ゆぎぎぎぎぎぎぎぃいっぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!」

今度は串刺しにされて焼き饅頭にされた赤ゆっくりを齧る○○さんの口元がアップで掲載されていた。
口の中に入れてしまわず、赤ゆっくりの左半分ほどを歯を立てて齧っているのが憎らしかった。
赤ゆっくりの左目には○○さんの前歯がささり、熱々に熱せられた眼球が「ブチュッ」と弾けている瞬間が捉えられた。
写真の下には『ゆっくりいっかは おしおきのあと、○○さんがおいしくいただきました。(写真4)』と書かれていた。

「ゆぎゃああああああ!!! だべぢゃだべええええええええ!!!!」
「ブぅぅチュぅぅぅぅぅ???!! だぁぁあぁぁぁぁ??!!!」
「ゆげぇぇぇぇっ!! ゆげぇぇぇぇっ!!!」
「あがぢゃんがあぁぁぁぁ!!! あがぢゃんがぁぁぁぁっ!!!!」

写真の赤ゆっくり達と年の近い子ゆっくり達は、写真中の惨劇が自身の事の様に思え、
喚きながら巣の壁に力一杯体当たりを始めた。
まだ情緒の安定しない子ゆっくり達には刺激が強すぎる写真だった。

「ゆぎぃぃっ!!! ぐぼぁっ!!! ゆぎぃっ!!! ぐぼぁっ!!!!・・・」
「おぢびぢゃんだちぃぃ?! だべええええぇぇぇぇ!!! おぢづいでねぇぇぇぇ!!!」

親ゆっくり2匹は急いで子ゆっくり達を壁から離す。
そして子ゆっくり達の頬をペロペロと舐めてやり、落ち着かせる。
子ゆっくり達はガチガチと歯を鳴らして震えていたが、しだいに落ち着きを取り戻してきた。

「おちびちゃん達、おかあさんがそばに居るよ。ゆっくりしてね。ゆっくり・・・、ゆっくり・・・。
 ばりざぁっ!! 早ぐそのページをめぐっでね!! おちびちゃんがゆっくりできないよ!!」
「ゆっぐり、りょおぉかいいぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

親まりさはゆっくり急いで紙面をめくる。



紙面をめくった後、親まりさは素早く目をつむる。先程のように不意に衝撃的な写真を見たくなかったからだ。
ゆっくりと瞼を上げていく親まりさ。
すると今度は先程までのような写真とはうってかわって、楽しそうなテーマパークのイラストが
右片面いっぱいに掲載されていた。

「ゆー!! こんどはゆっくりできそうだよ!! とっても楽しそう!!」

親まりさの表情に戸惑いながらも、他の家族達も恐る恐る集まってきた。
イラストの中央には大きなお城が描かれており、その周りにはいろんなお店やアトラクションが
所狭しと並ぶ大きな街が描かれていた。
街の中央の噴水からはオレンジジュースが噴き出し、様々な種類のゆっくり達がはしゃぎまわっている。
空からはキャンディーやチョコレートなどのお菓子が降って来ており、お菓子を食べたことが無いこの一家も
よだれを垂らさずにはいられなかった。
イラストの両サイドには、サーカスの団員だろうか、ピエロの格好をした人間のお兄さんとお姉さんが、
それぞれ太いバトンの様な物とムチを持ち、「ゆっくり みんなでおいでよ!!」と吹き出しにメッセージが書かれていた。
そしてその下には「ゆっくり☆ポスタルパーク」と大きく書かれていた。

「「「「「「ゆー!!! すごーーーーい!! とってもゆっくりできそう!!!」」」」」」

ゆっくりが思いつく限りの贅沢が詰め込まれたそのイラストは、ゆっくり達にとって天国そのものの光景だった。

「おっきなおうちだね!!」
「ここのおみず、とってもおいしそうだよ!!!」
「みんなとてもゆっくりしてる!!!」
「れいむあれのりたーーい!!」
「まりさも行きたいよ!!!」

子ゆっくり達はイラストの上で体を揺らしながら、徐々に元気を取り戻しつつあった。
そんな子ゆっくり達の様子を見て、親ゆっくり二人も満面の笑みだった。
親まりさは紙面の角に、地図が描かれているのを発見した。
地図には「もり」と書かれ塗りつぶされた部分と、森に面した池とその横を通る一本の道が描かれていた。
地図に描かれた「もり」が自分達の住む森であるなら、そう迷う事は無い道程だった。森のそばの池にも心当たりがある。

「ゆっくり決めたよ!! 今度のしゅーまつはみんなでゆっくりポスタルパークに行くよ!!」
「「「「「「ゆ゛っ!!!!???」」」」」」

突如親まりさの口から発せられた言葉に、一家は驚きの表情を隠せない。

「まりさ道わかるの!!?」
「ゆっへん!! まりさはこの森を知り尽くしてるんだよ!! みんなをどこへでも連れて行ってあげるよ!!」
「「「「「ゆぅぅぅぅ・・・おきゃーーしゃーーーーーん!! だいすきぃっ!!!」」」」」
「こらこら、みんないっぺんに来るとゆっくりできないよ。」

親まりさの言葉に歓喜の声を上げる子ゆっくり達は、親まりさへと飛びついた。

「さすがれいむの愛したまりさだよ。」

そう言うと親れいむは、親まりさの口唇にキスをした。
ポッと赤くなる親まりさ。トローンと目に力が抜ける。
幾度か舌を絡ませた後、目をつむったまま口唇を離す親れいむ。頬が真っ赤に染まっている。

「ゆぅ・・子供達の前だと・・・、その・・・恥ずかしいんだぜ・・・。」
「いいじゃない、私達の愛が生んだ"えんじぇる"達だもの・・・。」

突然のチュッチュに動揺した親まりさはついつい若い頃の口癖がでてしまう。
子ゆっくり達もそんな両親の様子に頬を真っ赤に染めていた。

「「「「「ゆぅ~~・・・おかあさんたちチュッチュして、とてもゆっくりしてるよ・・・」」」」」

「ゆー!! みんなでしんぶんの続きを読むよ!!」

時と場所を弁えないチュッチュを誤魔化すように、親まりさは左の紙面を読み始めた。



左の紙面は読者の投稿コーナーだった。

『-きょうの ゆっくり いっく-』

「おかーさん、『いっく』ってなーに?」
「ゆぅぅんとねぇー・・・、『いっく』はとてもゆっくりできる物だよ。」
「ゆー!! すごーい!! まりさも『いっく』よむよ!!」

当然、親れいむも俳句の事なんて知る筈も無かったが、少なくとも目の前には『ゆっくり いっく』と書かれているので
ゆっくりできる物だろうと親れいむは考えた。

 『かわいいね
   つぶらなひとみに
       つまようじ』 (△△県 22歳 男性 会社員)

「ゆぅ?」

 『さあにげろ
   そんなはやさじゃ
      たのしめない』 (□□府 18歳 男性 学生)

「ゆあ??」

 『あかゆっくり
   うまれるまえに
       つみとるぜ』 (○○都 20歳 女性 フリーター)

「ゆぐぐ???」

☆『ゆっくりと
   やいたおやこよ
       さようなら』 (△□道 28歳 男性 自営業)

「ゆうぇ・・・」

正直、ゆっくり一家は書いてある事の意味があまり分からなかった。
しかしながら、皆その胸中に何か言い表すことの出来ない不快感が沸いている事だけは感じた。

「ゆぅ・・・。おかーさん、なんだかゆっくりできないよ・・・。」
「ゆぅん・・・、そうだね。次のコーナーを読んでみようね。」

最後に編集者の総評が記されていたが、漢字が多くて親まりさには読めなかった。
胸の中のモヤモヤとした気持ちを引きずったまま、親ゆっくりは次のコーナーへと目を向けた。



『きょうの あかゆっくり』

「「「「「「「ゆぅーーーーーーー!!!」」」」」」」

一家全員から歓声が上がる。
そのコーナーは読者から投稿された赤ゆっくり達を紹介するコーナーだった。
今回は5匹の赤ゆっくりが紹介されていた。

「ゆーーー!! 赤ちゃんとってもかわいいよ!!」
「みんなとってもゆっくりしてるね!!」
「みんなニコニコしあわせそうでよかったね!!」
「かわいいあかちゃん、ゆっくりしていってね!!」
「あかちゃんたち、こんどまりさたちといっしょにあそぼうね!!」

紙面の上でコロコロ転がりながら、"出会えるはずも無い"写真の赤ゆっくりに語りかける子ゆっくり達。
親まりさも子ゆっくり達の様子を見て笑顔だった。
ふと、親れいむが親まりさにぐっと身を寄せて囁き掛けた。

「(まりさ・・・、ね・・・もう2人くらいね・・・。)」

そう囁くと、親れいむは左のおさげの髪先を「キュッ」と口に咥えた。
それは「こ・ん・や・(ハート」のサインだった。

「(れいむ、気が早いんだぜ。もう少しおちびちゃんが大きくなってからだぜ・・・。)」
「(もうっ、りちぎなんだからぁ。)」
「(それでもまりさのれいむへの愛は変わらないんだぜ。)」


「おきゃーしゃん!! れいみゅも、しんぶんしゃんにのりちゃいよ!!!」


不意に放たれた末っ子れいむの言葉に、バッと身を離す親ゆっくり2匹。

「そうだね、おちびちゃんもゆっくりしていれば、きっとしんぶんさんにのれるよ。」
「ゆー!! やっちゃー!! れいみゅ、ゆっくりしゅるよ!!」

適当にあしらわれた事にも気づかず、喜ぶ末っ子れいむ。
実際のところ、この『ゆっくりしんぶん』は誰が発行して、誰が読み、誰が応募しているのか。
ゆっくり達には知る由も無かった。

「ゆ? 次が最後みたいだね。みんなでゆっくり読もうね!」

そう言って親まりさは最後の1面をめくり上げた。



「ゆげえええぇぇぇぇぇ???!!! な゛に゛こべええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「「「「「「ゆぎいぃぃぎゃああああああああああああ!!!!!」」」」」」

先程のゆっくり出来た紙面に、気を抜いた結果がこれだった。
最後の紙面に掲載されていたコーナーは『ゆっくり てんらんかい』という、古典から現代アートまで、
ゆっくりに関する芸術作品を紹介するコーナーだった。
紙面上部を今回の作品の写真が占める。
写真では、大きな親ゆっくりの両方の目玉がくり貫かれ、代わりに小さな赤ゆっくりが埋め込まれていた。
親ゆっくりの口唇は切り落とされ、丸出しになった歯茎からは何本かの歯が抜かれている。
髪はあちこち抜け落ちており、まるで落ち武者のような形相で見る物を怯ませた。
わずかに残る毛髪から、その親ゆっくりがれいむ種だったことを窺わせる。
さらにその抜け落ちた頭皮に、眼孔に埋め込まれた赤ゆっくり達の物だろうか、
小さな黒い帽子が左右に貼り付けられており、それはまるで「鬼の角」を髣髴させた。

『タイトル「おやこあい」』
『なくなった おかあさんの おめめのかわりを あかちゃんたちが つとめるよ。
 もりにかえしてあげたから であったときは ゆっくりしてあげてね。』

「「も゛ういや゛ぁぁぁぁぁぁ!!!!」」
「「「ゆぎいいぃぃぃぃっぃぃぃ!!!!!」」」

再び目にする衝撃的な有様に、子ゆっくり達は地面にその顔面をガリガリとこすりつけ始めた。

「おぢびぢゃんだちっ!!! だべええええぇぇぇぇぇぇ!!!
 ばりざぁぁぁぁ!!! はやぐそのじんぶんすでできでええええ!!!!」
「ゆっぐり、りょうがいいぃぃぃぃぃぃ!!!!!」

親まりさは急いで新聞を畳み込むと、巣の外へと投げ捨てた。
巣の中では親れいむが子ゆっくり達を「ゆっくり・・・ゆっくり・・・」とあやしていた。

「ゆぅ・・・、ゆっくり捨ててきたよ・・・。」
「ゆぅぅぅ・・・。おちびちゃん達・・・。ゆっくりしてね・・・、ゆっくりしてね・・・」
「ゆぅ、まりさはごはんを採って来るよ・・・。れいむはおちびちゃん達のこと、見ていてあげてね・・・。」
「ゆぅ・・・。ゆっくりわかったよ・・・。ゆっくり気をつけてね・・・。」

すでに昼前になっていたが、とても食が喉を通るような気分ではなかった。
しかし1日中何も食べないわけにはいかない。
親まりさは子ゆっくり達の見送りも無いまま、巣を後にした。




翌日未明。

「ブロォォン!! ブロォォォォン!!」

とある民家の軒先にバイクのエンジン音が響き渡る。
一人の青年が愛用のオフロードバイクにまたがっていた。
その後部席には荷物用のBOXが据え付けられており、中には幾束もの紙の束が詰め込まれていた。
この青年こそ『ゆっくりしんぶん』の発行者本人であった。

「さてと・・・、最初の配達先はと・・・。」

青年はジャケットのポケットから「ポケットマップ」を取り出し、行き先周辺のページを開いた。
ページのほとんどの地域が森に覆われていたが、その森の中に10箇所ほど赤いペンでしるしが付けられている。
そのしるしの箇所は、事前に青年が足を運んで調べた、ゆっくりの巣の在り処だった。
その森は青年宅からバイクで10分弱ほどのところにあった。

元々ゆっくりいたずら趣向のあったこの青年は、数週間ほど前にこの「いたずら」を思いついた。
さっそく町の「ゆっくりいたずらサークル」のリーダーに相談し、会員の方からもいくつかネタを貰って、
念願の第1号を発行することが出来た。
ちなみに紙面中の『ポスタルパーク』の地図は、この会員の一人の邸宅への地図だった。
是非とも広告を載せて欲しいと依頼され、快く引き受けた。

初めは様子見ということで、10部ほどだけ発行してみて、ゆっくり達の反応を窺ってみる事にした。
紙面は、提供された画像をリサイズして並べ、テキストを簡単に並べた物で、とても『新聞』とは呼びがたい物だった。
元より素人の自分が作った物である。青年はその出来栄えに悲嘆する事なく、
実際自らの飼うゆっくり達に対して効果は抜群だった。
新聞の制作には編集に1時間、印刷に十数分、配達に1時間の時間を要した。
元々自分の時間をゆっくりいじめに費やしていた青年である、少し睡眠時間を早めるだけで、ほとんど苦にはならなかった。
自分の作った新聞を見て、喚き立てるゆっくり達を想像しながら床に着くのが青年にとっての愉悦となった。

「(今日は仕事も休みだ。配達が終わったら一眠りして、直接ゆっくり達の様子を見に行ってみよう。)」
青年は休日の楽しみを胸に秘め、バイクのアクセルを捻った。

しばらく町道を進むと、辺りは森に囲まれ、だんだんと見晴らしが悪くなってきた。
青年は野池のそばにある細いあぜ道を見つけると、スピードを落として、舗装された町道からそのあぜ道へと飛び込んだ。
普通の新聞配達で使う原動機付き自転車ではこの配達は勤まらない。

何軒か配達して回った青年は、配達先の一つである洞穴のそばに到着した。
洞穴から少し離れたところにバイクを止め、BOXから新刊を取り出した青年は洞穴へと進んでいった。
この巣も他の巣と同じように、巣の外に先日号の新聞が乱暴に投げ捨てられていた。
青年は洞穴の中に聞き耳を立ててみる・・・。

「ゆすぅ・・・、ゆすぅ・・・・」

とわざとらしい寝息の中に、

「ゆぐぅぅ・・ん・・・・、あかしゃん・・・たべないでね・・・・、やめてあげて・・・ね・・・ぅぐ・・」

といった寝言が混じるのが聞こえた。

「(クククククヒヒッ・・・・・・・・・!!!)」

青年は身をよじって、笑いを堪えるので精一杯だった。
投げ捨てられた先日号の新聞を回収すると、代わりに今日の新刊を巣の出口に置いた。
バイクの所まで戻り、回収した先日号をBOXに放り込むと、青年はバイクのエンジンをかけて次の配達先へと向かった。








おまけ

『-きょうの ゆっくり いっく-』より<総評>
(第1回からたくさんのご応募ありがとうございます。今回は多くの力作の中から四作品を紹介させてもらいました。)
(その中でも(△□道 28歳 自営業 男性)さんの作品は、焼いた親子を文字通り焼いてしまったのか、または一部だけを)
(焼いて森に帰したのかと、どちらの意にも解釈でき、想像を膨らます事ができます。今回は(△□道 28歳 自営業 男性))
(さんの作品を「特選星」に選びたいと思います。)

※おまけ2※

『ゆっくり てんらんかい』より<作者からの解説>
(どうもこの度「おやこあい」を制作した××と申します。この作品はゆっくり親子の究極の親子愛を形にしてみました。)
(両目を失い、光を失った親ゆっくりは他者の助けがないと生きてゆくことができません。またその眼孔に埋め込まれた赤)
(ゆっくりも身動きをとる事が出来ず、母親と同様に餓死してしまうでしょう。これら3匹(今では1匹)はこの先ずっと)
(協力して生きてゆかねばなりません。そこに究極の親子愛が生まれると私は考えました。初めは左右の赤ゆっくりそれぞ)
(れが「右だよ」「左だよ」と指示し右往左往していましたが、最終的にもあまり変化は見られませんでした。私は野生の)
(環境の中でこそ真の愛が生まれると考え、この「おやこあい」を野に放ちました。もし森の中でこの「おやこあい」を見)
(かける事があった折には、どうかゆっくり見守ってあげて欲しいとお願い申し上げます。)




今まで書いたもの
  • 「おでんとからし ~おでん~」
  • 「おでんとからし ~からし~」
  • 「トカゲのたまご ~たまご~」
  • 「トカゲのたまご ~とかげ~」






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最終更新:2022年05月21日 23:06