ある日の昼時。
縁側で俺がゆっくりしていると、二匹のゆっくりまりさがやってきた。
一匹は俺が飼っているまりさだ。
近くに住んでいる知人の飼っているまりさとぱちゅりーをうらやましく思い、自分もと飼い始めたのだ。
このまりさは水上まりさを育てている人からもらったもので、どうやら帽子に乗ることが下手なのだと言う。
このままでは野性に返すか食べるしかないと言うことだったので俺が貰い受けたのだ。

「おにーさん、ただいま!ゆっくりしすぎてごめんね!」
「あぁ、おかえり。それと、すこしは反省しろ」
「ゆべっ!」

俺のまりさは昼前に帰ってくるはずだったのだが、その時間はすでに過ぎている。
もう一匹いるところを見ると外で食べてきたのだろう。
しかし、約束をやぶった上に反省の色が見えなかったので足で踏みつける。

「ゆぐぐぐうぐぐうぐ!」
「ゆゆっ! ゆ、ゆっくりやめてあげてね!」
「反省したらなー」

踏みつけられて体を凹ませた飼いまりさを野生のまりさが心配そうに見ている。
ここでは何時もの光景だが、このまりさには刺激が強すぎたようだ。
そろそろいいか。

「そらっ」
「ゆ~、ゆっくり!……ごめんなざいいいいいいい!」
「ゆっくりしてね!ゆっくりしてね!」

足をどけると元の形に戻ったまりさはすぐに顔を地面に向けた謝りだした。
その光景も異様だったのか、野生のまりさは飼いまりさにゆっくりしてねとしきりに言い続けている。
俺は冷静に飼いまりさが反省しているかを観察する。どうやらちゃんと反省しているようだ。

「……、まぁいいか。次からは気をつけろよ」
「おにーさんありがとね!」
「よかったね!ゆっくりできるね!」

地面に土の付いた飼いまりさの顔を野生のまりさが払ってあげている。
やがて二匹は仲良く庭で遊び始めた。
しばらく眺めていると二匹は帽子から取り出した木の棒で丸を描き始めた。

「ゆっゆっゆ!」
「そこはちょっととおすぎるよ!」
「まりさはへいきだよ! もしかしてとべないの?」
「そ、そんなことないよ! じゃあまりさはここにかくよ!」
「ゆゆっ!?」

丸を描き終わった二匹は丸の端に向かう。

「まずはまりさがいくよ!」

そう言うは野生のまりさ。
野生のまりさは丸をぴょんぴょんと飛んで移っていく。

「ゆっ! ゆっ! ゆゆゆ!」
「ゆ~……」

離れた丸にもぎりぎり届いたようで、飼いまりさはそれを見て悔しそうな顔をしている。

「つぎはまりさのばんだよ!」

こんどは飼いまりさの番のようだ。
俺はそうやって遊ぶ二匹を横になってみていた。
丸に入っていないと野次を飛ばしてやると二匹は面白いように反応してくれる。
やがてそれにも飽きた俺は一緒に遊び始めた。

「丸を描いてそれを飛べればいいんだよな?」
「そうだよ! おにーさんがかいてみてね!」
「よしきた」

俺は丸を描いて行く。
丸の数は多くはないが距離は遠い。
さらに左右に振って描いたのでゆっくりには飛びにくいだろう。
予想通り二匹は丸を描くたび不安そうな顔をしてくれた。

「ゆゆ……おにーさんちょっととおいよ……」
「うーん、俺にはちょうどいいけどなぁ」
「あんなにとおいととどくわけないよ!」

野生のまりさに飛べるな分けないといわれてしまった。
俺は実際に飛べることを見せてやる。
ゆっくりには遠い距離も人間の歩幅ならちょうどいい。

「どうだ?」
「ゆゆぅ……おにーさんすごいね!」
「さすがまりさのおにーさんだよ!」

野生のまりさは驚きを、飼いまりさはうれしそうな顔を見せる。
その様子に満足した俺は今度はゆっくりでも飛びやすいような距離に丸を付け足してやった。

「これならとべるよ!」
「ゆっくりみててね!」

二匹はぴょんぴょんと飛び跳ねていく。
それからも二匹はさまざまな組み合わせを飛んでいった。
面白いので丸以外の形も描いてやると、二匹は律儀にその形の中に入ろうとしてくれた。
それならばと小さい丸を描くと二匹は爪先立ちのように立てに伸びたまま着地しようとする。
しかし、その状態はきついらしく、やがてぷるぷると震えだして元に戻る。

「はいアウトー」
「「ゆぐぐぐぐ……」」

その後も二匹は小さい丸に挑戦し続けた。

「ゆゆゆ……」
「ゆっくりしてね! ゆっくりしてね!」
「ゆわああああああん!」
「もうすこしだな」

そんなまりさの悲鳴を聞き続けているといつの間にかおやつの時間だ。
今日はミカンである。
ミカンを食べながらまりさ達を見ているとまりさたちもミカンに気づいたようだ。

「まりさも! まりさも!」
「しょうがねぇなぁ」

俺はまりさ達にミカンを投げてやる。
二匹は俺の投げたミカンを上手くキャッチした二匹。
ミカンの皮は剥いていない。わざと剥かなかったのだ。
さてどうやって食べるか。俺は興味深く動きを見守った。

「ゆっくりたべるよ!」
「「!!!?」」

飼いまりさは迷うことなく皮付きミカンを飲み込んだ。
俺は余りにも期待通り過ぎて言葉が出ない。
おそらく野生のまりさも俺と同じ気持ちだろう。

「むーしゃ、むーしゃ……」

そんな俺たちの考えをよそに飼いまりさはミカンを食べ始めた。
本来ならしあわせーと言うはずなのだがその言葉がなかなか出てこない。
俺はじっとまりさの様子を見ていると、やがて飼いまりさは目に涙を浮かべはじめた。

「このみかんあまぐないいいいいいい!」
「そりゃ皮剥いてないしなぁ……」

野生のまりさも予想していた反応とは違ったものだった。

「みかんはおくすりだからにがいにきまってるよ!」
「ゆゆっ!?」
「みかんはのむとげんきになるんだよ!」
「ゆっくりりかいしたよ!」

野生のまりさはミカンを大事そうに帽子の中にしまった。
飼いまりさもまねして帽子の中に食べ残ったミカンを入れて遊び始めた。





それからも庭で遊び続けた二匹はすっかり仲良くなっていた。

「今日会った筈なのにすっかり仲良しだな」
「ゆっ! まりさたちはなかよしだよ!」
「そうだよ! まりさとまりさはともだちだよ!」

二匹はお互いの頬を摺り寄せて俺の返答に答える。
見た目もそっくりな二匹は兄弟のようだった。

「ゆ~、そろそろおうちへかえるよ!」
「ゆゆっ! もうかえっちゃうの!?」
「もうくらくなるからね!」
「じゃあぼうしのこうかんだね!」
「こうかんだよ!」
「帽子の交換?」

今たしかに二匹は交換と言った。
帽子というのは被ってる黒い帽子のことだろう。
水の上に浮いたりいろいろな物が仕舞えたりと便利な帽子だ。

「大事なものじゃなかったのか?」
「だいじなものだからこうかんするよ!」
「ともだちだからだいじなものをこうかんするよ!」
「なるほど」

二匹は帽子をはずして口で咥え、交互に頭に載せてあげている。

「ゆぅ~、ぴったしだよ!」
「まりさのぼうしもとってもゆっくりできるよ!」
「「きょうからあたらしいまりさ!」」


二匹は新しくなった帽子の感触を確かめている。
このままだと野生のまりさが帰ってしまう。
俺は新しい帽子に意識を向けている二匹に気づかれないように後ろから近づいた。
そして、

「ひょいひょいっと」
「ゆっ? まりさのぼうじがあああああああああ!」
「かえしてね! ゆっくりしないでかえしてね!」
「どーしよっかなー」

俺は二匹が力いっぱい飛び跳ねても届かないように帽子を高く持ち上げる。
しかし、本当にそっくりな帽子だな。

「よし、それならじぶんのぼうしがどっちか分かったら返してやるよ」
「「ゆゆっ……」」
「こういうことだ」

そう言って俺は帽子を二匹の前に出す。
すぐに野生のまりさが飛び掛ってきたが軽く交わして腕で叩き落してやった。

「ゆぐぐ……かえしてね!」
「まりさだいじょうぶ?」
「だから、どっちか当てれたら返してやるって」
「そんなのかんたんだよ!まりさのはこっちだよ!」
「まりさのはこっち!」

野生のまりさは右手に、飼いまりさは左手に向かった。
取ったときとそのままにしていたのだから簡単に分かる。

「よし、ルールは分かったな」
「ゆっくりりかいしたよ!」
「はやくかえしてね!」
「よーし」

俺は意気込む二匹を笑って、両腕をゆっくりから隠れるように背中に持っていった。
とたん、まりさ達の顔に焦りが出始める。

「ゆゆっ!」
「それじゃわからないよ!」
「んー。じゃあこれはどっちのだ!」

俺はゆっくりの抗議を無視して一つの帽子を前に出した。
もう一つは隠したままだ。

「ゆゆっ! これはまりさのだよ!」
「ちがうよ! まりさのだよ!」
「ゆぅー……おにーさんもっとよくみせてね!」
「みせてね!」
「いいとも」

俺は出した帽子をまりさの前においてやる。

「どっちか分かったら俺に言いにこい」
「ゆふふ、ゆっくりりかいしたよ!」
「あと勝手に持って行ったらもう一つの方は破って持って逃げたやつは潰すからな」
「ゆぐっ!?」

よほど大事なんだろうが、逃げてもらっては楽しめない。
念を押して俺は縁側に腰掛けた。
二匹は一つの帽子を左右からにらんでいる。

「ゆゆっ、まりさのにおいがするよ!」
「さっきこうかんしたからでしょ!」
「ゆっ、そうだった!」
「ここのきずはまりさのぼうしにあったよ!」
「まりさのぼうしはさっきまでまりさのだったよ!」
「ゆ、ゆゆぅ……」

二匹は変えたばかりの帽子の特徴がどちらのものだったか混乱しているようだった。
持ち上げて被ってみたり、回してみたり。
伸びたり、縮んだり、転がったりして帽子がどちらのものだったか必死に調べている。
ゆっくりに取って飾りはそれほど大事なものらしい。おそらくゆっくりできなくなるのだろう。
俺はニヤニヤと二匹の様子を見て酒を飲んでいた。が、やがて飽きてしまって船を漕ぎ出したしまった……





「…っゆ。ゆっくりおきてね!」
「うるさいなぁ」
「ゆゆっ! おきたね!」
「これでゆっくりできるよ!」

二匹が顔を揺すって起こそうとしていた。まだ眠いのだがもう外は暗くなり始めていた。
そして二匹に顔に乗られて俺は完全に目を覚ました。

「どうしたんだ?」
「ゆうううう! わすれないでね! わすれないでね!」
「そうだよ! ぼうしかえしてね!」
「あー。わすれてたな」
「「わすれないでねえええええええ!!」」

二匹が俺に体当たりしてくる。
そういや、もう一つの帽子どこにやったっけか。

「ゆ゙あ゙あ゙あああああああ! おぼうしがあああああ!」
「あやまってね! あやまってね!」

帽子は俺が背中に踏んでいた。
道理で逃げなかったわけだ。
謝れとわめく二匹には当然無視で通す。

「それで、わかったのか?」
「もちろん、こっちはあっちのまりさのものだよ!」
「そおだよ! これはまりさのものだよ!」

二匹の結論はこれは野生のまりさのものということだった。
何が決定打になったのか分からないが俺は返答する。

「おめでとう。正解だ!」
「やったね! まりさ!」
「これでかえれるね!」

二匹は飛び上がって体全体で喜びを表現していた。
正解といった帽子。実はすでにどっちがどっちだったか覚えていない。
というか、覚えるつもりがなかったといったところか。
どうせ同じだからばれないと思ったが、まさか本当に気にしないとは。
俺はつぶしてしまった帽子を形だけでも整えてやって俺の飼っているまりさに戻してやる。

「これでもとどおりだね!」
「ゆっくりできるね!」
「そうだn……ゆっくりしてるばあいじゃなかったよ!」
「ゆ?」
「はやくかえらないとくらくなっちゃうよ!」
「それはたいへんだね!」
「あぁ、ちょっとまってくれ」
「ゆゆ?」
「虫食いが酷い野菜があるからそれも持って帰ってくれ。捨てるの面倒だし」
「ゆゆぅ~! とってもおいしそうだよ!」

野生のまりさはスィーに乗って森に帰って行った。
残ったのは俺と飼いまりさのみ。
俺はまりさを膝に乗せてやる。

「とってもゆっくりできるよ!」
「その帽子が自分のじゃなくてもゆっくり出来るんだな」
「ゆゆゅ、なにいってるの? これはまりさのぼうしだよ!」
「でもさっきは適当に答えただけなんだ。ほんとは向こうがお前のだったかもしれない」
「そ、そ、ぞんなあああああああああああ!」
「おお、ゆかい、ゆかい」

まりさは帽子が自分のものじゃないと言われてから震えていた体をさらに激しく震わしだした。
俺はもうどっちかわからない帽子を潰しながらまりさを宥めてやる。
帽子交換はよくて勝手に取り違えるのはダメとはどういうことなんだろうか。
ゆっくりが考えていることは良く分からない。
まぁもし、さっきのまりさと会えば交換できるだろう。
野生のゆっくりは死にやすいからその確率は低いだろうし、実はこの帽子が本物かもしれないが。
ともあれ、しばらくこれで楽しめそうである。














と、思ってたのが甘かった。

「おに゙い゙ざあああああああああん!」
「ど、どおしたんだ!?」
「ゆっくりー!?」
「まりざのおうぢれいむにどられぢゃっだああああああああああ!」
「「…………」」

この反応は予想外だった。
まりさも帽子が帰ってきた嬉しさとお家を取られたまりさをかわいそうと思う気持ちが渦巻いてなんとも言えない顔をしている。
こうして、俺は二匹のまりさを飼うようになった。


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ゆっくりの川流れ
天井のゆっくり
ゆっくりまりさの水上生活
ゆっくり訓練
ぶるぶる
とりもち
子ゆっくり
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ゆっくりがんばるよ
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最終更新:2022年05月21日 23:10