【六十年目のゆっくり裁判】

 そこには、今まさに命の灯火が消えようとしているゆっくりれいむがいた。

 「ゆ…っゆ…っ。」
 ゆっくりれみりゃに捕食されながら、そのゆっくりれいむは虚ろな目で虚空を見つめていた。
 既に体の三分の一以上が喰われ、中身の餡子が飛び出している。
 体が重い…。
 湖のほとりで、蝶々さんと遊んでいただけなのに…どうして…?
 ゆっくりれいむは自分の不幸を怨めしく思った。
 「うー!うー!」
 既に、ゆっくりれみりゃの鳴き声も、ゆっくりれいむには聞こえていなかった。
 「(もっとゆっくりしたかったよ!)」
 そんなことを思いながら…
 ゆっくりれいむは死んだ。


 「ゆっ!?」
 ふと、ゆっくりれいむの目が覚めた。
 そこは、赤い花が一面に広がっていた。
 「ゆっくり!?」
 そして、先程までの自分との状況の変化に気付いた。体が軽い、どこも痛くない。
「ゆっくりー!!」
 おまけに体がスイスイと動く。
 先程までの苦痛が嘘のようだ。
 「ゆっくりできるよ!!!」
 ゆっくりれいむは幸せいっぱいに、赤い花畑を飛び回った。
 しかし、自身の体の外見の変化には気付いてはいなかった。
 額に白い三角の布をつけ、体の底がたなびいているその姿に…。
 そう、ゆっくりれいむは死に、魂となってこの彼岸に来たのである。
 「お、またゆっくりかい。」
 「ゆっ?」
 楽しそうにしているゆっくりれいむに、ガタイの良い、肩に大きな鎌を担いだ女性が近づいてきた。
 「最近多いんだよね~。ゆっくりの魂が。」
 その女性は、ヤレヤレといった表情だ。
 「おねえさんだれ?」
 「あたいは小野塚小町。死神さ。」
 「しにがみ?おねえさんもゆっくりしていってね!!!」
 「クスッ、ゆっくりはみんな同じことを言うねぇ。でも生憎、あたいはゆっくりしてられないんだ。あんたを
この川の向こう岸に連れていかなきゃならないんでね。」
 「むこうぎし?そこはゆっくりできるの!?」
 小町に問いかけるゆっくりれいむ。
 「ああ、ゆっくりできるさ。お前のお友達もみーんなゆっくりしてるよ。」
 「わぁい!れいむもゆっくりしたい!!」
 「そんじゃ、そこの舟に乗った乗った!お代はいらないよ、ゆっくりだしね。」
 そう言うと、小町はゆっくりれいむを舟に乗せ、舟を対岸へと向かわせた。
 胸にゆっくりが二匹入っているんじゃないかと言いたくなるような豊満なバストを揺らして、小町は舟を漕い
でゆっくりを対岸へ運んでゆく。
 「…でね!…だから、ゆっくりしたんだよ!!」
 「ほお~そうかいそうかい。」
 途中、小町はゆっくりの自慢話のような話に付き合ってやる。もうゆっくりの自慢話は聞き飽きたよと言わん
ばかりの顔で。
 …そうこうしている内に、舟は対岸へと到着した。
 「ほら、着いたよ。後はあんた一人で行けるだろ?あのでっかいお屋敷の中がゆっくりできる場所だよ。」
 「ありがとうおねえさん!ゆっくりしていくよ!」
 そう挨拶すると、ゆっくりれいむはピョンピョンと屋敷へ向かっていた。
 小町は、去ってゆくゆっくりれいむの後ろ姿を眺めながら、ポツリ。
 「ま、あんたがゆっくりできるかどうかは映輝さま次第だけどね。」


 屋敷の門に辿り着いたゆっくりれいむ。
 「ゆっくり?」
 門をくぐり抜けると、ゆっくりれいむの目の前に、大きな扉が立ちはだかる。
 「ゆっくりさせてね!」
 と、ゆっくりれいむが、少し怒りぎみで声をあげると、大きな扉はギギギ…と、音を立てながら開いていった。
扉の奥へと入るゆっくりれいむ。そこにゆっくりできる場所がある。ゆっくりれいむは期待に胸を膨らませた。
 だが、扉の向こうは特に面白みのない無機質な広い部屋だった。正面には5mほど台があり、その上の机には、
立派な装飾の施された帽子を被った緑髪の女性が座っていた。
 「ゆっ?おねえさんだれ?」
 また知らない女性がゆっくりれいむの前に現れた。
 「私の名は、四季映輝・ヤマザナドゥ。幻想郷の閻魔です。」
 「し…え…やまだなどう?」
 映輝の肩書き付きの長い名前を復唱できないゆっくりれいむ。しかし、
 「おねえさんもゆっくりしようね!」
 気にも止めずに、いつもの台詞だ。
 「残念ですが、ゆっくりしているヒマはありません。」
 「ゆっ?」
 「これから裁判を始めます。」
 映輝がそう言うと、ゆっくりれいむの背後の扉がギギギと閉じてゆく。同時に、ゆっくりれいむの立っている
場所がせり上がってゆく。
 「ゆゆゆっ!?」
 3m程持ち上げられたところで、ゆっくりれいむを乗せた台は止まった。
 「ゆっくりれいむよ、よくお聞きなさい。私はこれから貴方の生まれてから死ぬまでの行いを、この浄瑠璃の
鏡で見渡します。貴方の行いによって、私は貴方の今後の行き先を決定します。」
 「おねえさん!ゆっくりできないよ!はやくおろして!」
 まるで聞いてないゆっくりれいむ。
 「ゆっくりれいむよ、今一度言います。これは貴方がゆっくりできるかどうか大切なことなのですよ?」
 「ゆっくりできるの!?」
 ゆっくりという言葉に反応するゆっくりれいむ。
 映輝はゆっくりれいむが聞く耳を持ったことを確認すると、説明を続けた。
 「生きている間の貴方の行いによって、あなたはこれから二つの道のどちらかを行かねばなりません。」
 そう言って映輝が右手の手の平をバスガイドが案内するかのように上げると、楽しげな極楽の様子が写し出さ
れた。
 そこは、お日様いっぱいの花畑。ゆっくりゆゆこやゆっくりレティ、ゆっくりフランがニコニコと楽しそうに
遊んでいる。正にゆっくり天国だ。
 「わあっ!たのしそう!!れいむもそこでゆっくりしたい!!!」
 次に、映輝は左手を上げる。そこには…。暗くてよくわからない。しかし、とにかくあまり楽しそうではない
ことは確かのようだ。
 「いかがですか?ゆっくりれいむよ。」
 「そっちでゆっくりしたい!」
 ゆっくりれいむは天国の様子が写し出されたほうを向いてピョンピョンとその場を飛び跳ねる。
 「そうですか、ゆっくりれいむよ。しかし、私は今、あなたの人生をすべて拝見しました。…判決を下します。」
 キラキラとした目で映輝を見つめるゆっくりれいむ。その顔は、自分がゆっくりできそうな場所へ行けると信
じきっている顔だ。
 「あなたには、地獄へ落ちてもらいます。それも、最も過酷な“ゆっくり無限焦熱大大地獄”です。」
 「ゆっくり!?」
 映輝が何を言っているのかよく分からないゆっくりれいむだが、自分がゆっくりできなさそうな場所へ連れて
いかれることは、何となく理解した。
 「貴方は生前、たくさんの虫を殺して食べました。たくさんの田畑を荒らしました。そして何より、『ゆっく
りしていってね!!!』と大声で叫び、人々を不愉快にさせてきました。………そう、貴方は少しウザすぎる。
地獄に落ちて、終わることの無い様々な苦痛を永遠に受けること。これが今の貴方が積める善行よ。」
 映輝がそう言うと、ゆっくりれいむの足元の床に穴が出現した。
 「ゆうーーーっ!」
 そのまま落下するゆっくりれいむ。
 文字通り、ゆっくりれいむは地獄へと落ちていった。



                                    六十年目のゆっくり裁判・下へ続く。


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最終更新:2025年02月03日 09:11