竹取り男とゆっくり 9

 *登場人物紹介
   男・・・主人公。竹切って売って生活してる人。餡子好き。
   甘味屋の店主・・・ゆっくり饅頭を売ってる人。虐待好き。
   ゆっくり・・・ヒロイン(笑)



 梅の花散る幻想郷で……。
 竹取り山の竹取り男は、暖かい陽ざしを浴びて縁側で体を伸ばしていた。

「ゆぅ~ん」
「むきゅ~ん」

 その隣では、れいむとぱちゅりーが男のマネをして体を上下に振っている。

「……お前ら饅頭だろ? 体伸ばせるのかよ?」
「ゆ? おにいさんしらないの? れいむはのびるよ!」
「ぱちぇものびるわよ」

 ぐにゅ~う…

「きめぇ!」
「ゆゆ!? れいむはきもくないよ! ゆっくりていせいしてね!」
「むきゅ! ぱちぇだってきもくないわ!」

 こうしてウチで冬を越したれいむとぱちゅりーは、ワガママを言わない、なかなかいいゆっくりだった。
 もとはといえば、この2匹は繁殖させて子供を食べるつもりで買ってきた。
 だが……

 両親と瓜ふたつなれいむ種とぱちゅりー種の赤ちゃんが1匹ずつ生まれた朝のこと、2匹の親は生まれたばかりの子供を見せようと、
男の枕もとで男が起きるまで待っていた。
 2匹の赤ちゃんは元気に「ゆっくりしていってね!」を言い、2匹の親は幸せそうに笑っていた。
 そんな姿を見てしまうと、もはや子供を奪って食べることはできなかった。
 2匹の子ゆっくりは、今ではソフトボールサイズにまで育って家の中でゆっくり寝ている。
 両親が言うには「とってもゆっくりしたこどもたち」だった。

「むきゅ、おにいさん、おやさいをしゅうかくしてくるわ」
「ゆ! れいむもゆっくりてつだうよ!」

 太陽を浴びながら餡子でふっくりしたおしりをウニウニ振っていた2匹は、そう言って縁側から飛びおりた。


『むきゅ、おにいさん、ぱちぇたちに"さいえん"をつくってくれないかしら』
『れいむに"さいえん"をちょうだいね!』
『サイエンって、畑のことだよな? 俺に畑作れってか?』
『むっきゅ、そうよ。れいむとゆっくりそうだんしたの。ぱちぇたち、おにいさんのためにおやさいをつくろうとおもうの』
『おやさいをたべて、いっしょにゆっくりしようね!』
『けっ! 饅頭が野菜づくりたぁ驚きだぜ』
『むきゅう!? ぱちぇをばかにしないでね! ちゃんとごほんでおべんきょうしたのよ!』
『そうだよ! ぱちぇはかしこいよ! おにいさんもしってるでしょ!』
『ちょっとその本持ってこい。 ……なになに、家庭菜園のススメ? 肥料はどうすんだよ。生クリームとか餡子は勘弁な!』
『むっぎゅーん!!』
『ゆっぐりぃ!!』


 ……結局、男は2匹のために、家の前に小さな菜園を作ってやった。
 その菜園で、ぱちゅりーとれいむは共同して冬の定番お野菜…白菜を作りはじめた。
 自分たちを養ってくれる男に恩返しをしたかったのだ。
 あれから約2ヵ月。
 2匹は子供の面倒をみながら一日に何度も菜園を見回って、今ではこうして収穫の時期を迎えている。
 ぱちゅりーとれいむ、そして子ぱちぇと子れいむの4匹は、おおきく育った収穫済みの白菜のそばで最高の笑顔を見せていた。


 その日のお昼、オレンジジュースを入れた水筒を用意すると、男は4匹をつまんで荷車に乗せてピクニックに出かけた。
 飲み物だけ持っていって、食べ物は現地で手に入れるつもりだった。

「むっきゅむっきゅ! おにいさん、ぱちぇたちをどこにつれていくの?」
「今日はタケノコをご馳走してやろうと思ってさ」
「むっきゅ? たけのこってなにかしら?」
「ばっかお前、普段から物知り博士みたいなツラしてるくせにタケノコも知らねえの?」
「むぎゅ!? たっ、たけのこぐらいしってるわ!」
「じゃあどんなヤツか説明してみろよ」
「むぎゅうんっ!? む…むぎゅむぎゅ……もちろん……たけのこはたけのこよ」
「うわっ、ばっかだな~」
「むぎぃ!」

 道中そんなやり取りをしながら深い山奥まで入ると、男は歩みを止めてあたりを踏みはじめた。

「…………あった」

 タケノコを知らない4匹が固唾を飲んで見守っていると、掘り出されたものは茶色くて先のとがったツノのようなものだった。
 男は幾重にも巻かれたツノの皮を剥がしてしまうと、中の真っ白な身を小刀で切って、ぱちゅりーの前にさし出した。

「たべてみな」
「むきゅ? はむ! むきゅむきゅむきゅ、こきゅん! ………………むっきゃー!!」

 ぱちゅりーが恍惚とした顔で飛びあがった。

「でっ、でいぶもたべるよっ!」

 ぱちゅりーを見て、涎を撒き散らしながらタケノコに突撃するれいむ。
 そして大口を開けてかぶりつこうとした瞬間、男がヒョイとそれを取り上げた。

「ゆゆうっ!? れいむのたけのこさんをとらないでね!!」
「子供の前でみっともないぞ。ちゃんと切り分けてやるからそこで待ってろ」
「ゆゆっ、ゆっくりまってるよ! あんぐり!」

 れいむは体をのけ反らせて、関節もへったくれもないその大口をガバッと開けて催促してくる。

「でっかい口だな…」
「おにいさん、ゆっくりしないではやくちょうだいね! あんぐり!」
「うぜぇ! おいチビども、お前らから先に食っていいぞ」
「ゆー♪」
「むきゅ~♪」
「どぼじでぞんなごどっ…!? ゆ、ゆぅ…かわいいおちびちゃんのためなられいむはがまんするよ。ゆっくりがまんだよ…ゆっくりがまんだよ…」

 これは子供のためなんだと自分に言い聞かせ、れいむは涎をダバダバ流しながら必死に自制していた。
 男は小さく切ったタケノコを、お行儀よく待っていた子れいむと子ぱちぇに投げてやった。
 見事にジャンピングキャッチした2匹は、ほっぺたをふくらませてムシャムシャ食べた。

「ゆっ! おにいざん! つぎはでいぶのばんだよ! でいぶはゆっぐりまっでだよ! はやくでいぶにもぢょうだいね!!」
「わかったわかった。ほら、口開けろ」
「あんぐり!!」
「うぜえ!!」

 ドボッ!!

「ゆぼお゙っ!?」

 直径15センチ・長さ25センチの巨大なタケノコが、口を開けて待っていたれいむの喉に叩きこまれた!
 れいむは喉の奥の餡子に突き刺さったタケノコを必死に噛みきろうとするが、飴細工でできた歯では文字どおり歯がたたない。
 抜こうにも手足がないので抜けない。

「ゆ゙ーっ!? ゆ゙ーっ!?」

 饅頭ができることなど多くはないが、万策つきたれいむは泣き声をふり絞って、すがるような目で男を見上げた。
 男は目をそらした。

「お゙お゙い゙え゙あ゙ゔえ゙え゙ゔえ゙あ゙い゙お゙お゙お゙お゙お゙!!!??」(どぼじでだずげでぐれないのおおおお!!!??)
「むっきゅ! おにいさんやりすぎよ!」
「はいはいわかったよ。ほられいむ、抜くぞ? よっ!」

 ゆぽん!

 タケノコの先端にはれいむの餡子と涎がこびりついて、かなり汚かった。
 泣きべそれいむはまだそれを目で追っている。
 餡子汁でマーキングされたことだし、その執念にも免じて全部れいむにやろう。

「よし、取ってこい!」

 犬に骨を持ってこさせる要領でタケノコを投げると、れいむは一目散に飛びはねていった。
 …もちろん、犬のように持って帰ってくることはなかった。

「もうひとつ掘るか。 …………ここかな?」

 男は先ほどと同様に地面をポンポン踏んでいたかと思うと、鍬をもって掘りはじめる。
 狙いたがわず、またも大きなタケノコが姿を見せた。

「むきゅん! すごいわ! どうしてわかるのかしら?」
「経験だな」

 ぱちゅりーは感心したように男を見つめていた。



「おにいさん、こんどはれいむたちがたけのこさんをつかまえるよ!」
「やめとけよ」
「「「「ゆがーん!!」」」」

 自分たちでタケノコを掘る気まんまんだった一家は、一斉に絶望の表情になった。

「あのな、3ヵ月も俺と一緒に暮らしてて忘れたのかもしれないが、お前らはただのゆっくりだぞ? 饅頭だぞ? 餡子脳なんだぞ?」
「ゆぐっ、ゆっくりをばかにしないでね! れいむにだって"ほこり"はあるよ!?」
「れいむのいうとおりだわ! ぱちぇたちはちゃんと"ぷらいど"をもってじんせいをかっぽしてるのよ!?」
「あっそ。たしかに土埃まみれだな。じゃ、好きにやってみな」
「ゆゆっ! おにいさんはあとでゆっくりこうかいしてね!」
「たけのこさんをみつけたって、おにいさんにはあげないわ!」

 生意気な顔で宣言したれいむとぱちゅりー。
 それから4匹は男の真似をして地面をポンポン踏んでいたが、そもそもその行動の意味がわかっていないので見つかるはずもない。
 30分も意味もなく地面を踏んでいたれいむとぱちゅりーがそろそろ泣き言をはじめたとき、遠くにいた子ぱちぇと子れいむが声をあげた。
 子供のもとに集まると、土から10センチほど顔を出したタケノコがあった。

「ゆっゆっ! たけのこさんだよー!」
「むっきゃっきゃ! さすがはぱちぇのこどもたちだわ!」
「あぁ~そいつは……いや、なんでもない」

 男は注意しようとしたが、なにごとも経験だと思いなおして口をつぐんだ。

「れいむがほるからゆっくりまっててね! がぼ! ゆぺっ! がぼ! ゆぺっ!」
「むきゅむきゅ! がんばるのよれいむ!」

 家族に応援されたれいむは、今までで一番大きくて立派なタケノコを掘り出した。

「むっきゃー! ふとくておおきくて、とってもりっぱよ!」

 ぱちゅりーが意味深なことを叫んでいるのをよそに、子供たちは協力して茶色い皮を剥ぎはじめた。

「ゆっゆー♪ おにいさん! とってもゆっくりしたたけのこさんでしょ! ゆっくりこうかいしてね!」
「むきゅ! やくそくどおり、おにいさんにはあげなくていいわよね!?」

 勝ち誇った顔で勝利宣言する2匹。

「いらねーよ。ま、切ってやるからためしに食ってみな」
「「「「ゆっくりいただきます!!」」」」

 4匹は小さく切り分けられたタケノコにがっついた。

「「「「むーしゃむーしゃ! しあわ…」」」」

 さっき食べたタケノコの味を期待していた4匹は、笑顔のまま凍りついたかと思うと、

「むぎゃんっ!?」
「ゆげえ!?」
「むぴょお!?」
「ゆぴぃっ!?」

 一斉にひっくり返った。
 毎日お外を駆け回っている運動神経抜群のれいむは、勢いあまって3回転もバク宙をキメながらひっくり返った。

「む…むぎゅぎゅぎゅ…ぶぎょおっ……ぐぽぇっ……げべっ……え゙れ゙れ゙れ゙れ゙れ゙えれえれえれえれ……!」
「ゆげろげろげろげろぉ!」

 ぱちゅりーとれいむはタケノコと一緒に自分の中身を吐き出した。

「むきゅっ……むきゅっ……」
「ゆ゙っゆ゙っゆ゙っゆ゙っゆ゙っ」

 子ぱちぇと子れいむは舌をピンと伸ばして泡を噴いて痙攣している。
 とりあえず、男はぱちゅりーの背中を優しく叩いてやった。

「お~い、いきてるか?」
「むぎゃっ!? おにいざっ、だだがないで!! ……ぶえろろろろおおろろろろおおおろおおろおおおおおろろろろろぉっ!!」
「げっ、ナマあったかいクリームが!」
「ばぢぇぇぇ…あんこさんはいたらゆっぐりでぎなぐなっぢゃうぅぅぅ…」
「そりゃマズいな。ぱちゅりー、ちょっと我慢しろよ?」
「むぎ!? ぽえぇっ!!!」

 男は地ベタの生クリームをすくってぱちゅりーの口に流しこむと、これ以上吐かないように手でフタをした。
 男にとってはただの生クリームでも、ぱちゅりーからすれば嘔吐物。
 一度リバースしたものをふたたび体内に戻される気持ち悪さに、ぱちゅりーは目を白黒させて悶えていた。
 ゆっくりは中身の量さえ足りていれば死ぬことはない。
 れいむもなんとか無事な様子。
 あとは痙攣している2匹の子供だけだ。
 男は子れいむの丸いおなかを片手で挟むと、ポンプのようにギュッと握った。

「ゆぽっ!?」

 すぼんだ口から小さなタケノコが飛び出し、子れいむはハッと意識を取りもどした。
 子ぱちぇも同様に握ってやると、かたまりを吐き飛ばして目覚めた。
 だいぶ弱っているので水筒のオレンジジュースを飲ませてやると、4匹はすぐに元気を取りもどした。
 …単純構造なやつらだ。

「むぎゅ……おにいさん、これどくがはいってたわ……」
「毒ねえ…甘党のお前らには毒かもな。お前らが掘り出したのは、渋すぎて生じゃ食えないタケノコだ」
「むぎゅ? どういうことなの…?」

 男は齧りかけのタケノコを持って先端を指した。

「ここが緑色になってるのは生じゃ食えないんだ。地面から顔を出してるのもダメ。生で食いたいなら土に埋まってるやつな」
「むきゅう…うまってるたけのこさんをどうやってさがすの?」
「だから、経験だよ」
「むっきゅうぅぅぅ……」
「こうやって土を踏んでるとな、ふかふかの土の中に、なにか固いものがあるのが分かる。たとえば………………ここだ」

 男はその1ヶ所を探しあてた。

「れいむ、足元に集中してちょっと跳ねてみろ」
「ゆっくりりかいしたよ!」

 れいむは男が指した地面の上でボヨンボヨンと跳ねてみた。

「ゆっゆっゆっ! ……ゆぅ、わからないよ」
「こんの鈍感饅頭がっ!」
「どぼじでそんなごどいうのおおお!!?」
「ぱちゅりー、お前はどうだ。なにか感じるか?」
「むきゅん、やってみるわ!」

 ぱちゅりーはれいむと同様に土の上でポヨンポヨンと跳ねてみた。

「む…むっきゅ…かんじるわ…こうしてはねていると…むっきゅりしたなにかが…したから…ぱちぇのからだを…」
「そりゃ小石だ!」

 ドゴッ!

「むぎゃはぁぁぁ!!」

 それ以上言わせないとばかりに、男はぱちゅりーを蹴っ飛ばしてあげた。

「とまぁ、そういうわけだ。さてと、鈍感饅頭にムッツリ生クリーム。そろそろ帰るぞ」
「ゆわぁん!! れいむはどんかんまんじゅうじゃないよぉ!!」
「ぱちぇだってむっつりじゃないわよ! むぎゅーーっ!」

 泣いて怒ったれいむとぱちゅりーを引っつかんで荷車に乗せると、遠くでウロウロしていた子れいむと子ぱちぇが声をあげた。

「むきゅ、おにーさん、ここになにかあるわぁ!」
「ゆっゆっ! たけのこさんかな!?」

 2匹が跳びはねている地面を確かめてみると、なんとタケノコの手ごたえがする。
 まさかと思って掘ってみると、立派なタケノコが出てきた。

「むっきゃっきゃっ!!」
「ゆっくりー!」

 2匹の子ゆっくりは自慢げな表情で飛び跳ねていたかと思うと、再びあたりをポインポイ~ンと飛びはねる。

「むきゅ! ここにもなにかあるわぁ!」
「ゆゆ! れーむもみつけたよ!」

 掘ってみると、いずれもタケノコが出てきた。

「すげぇな、俺でさえ最初は時間かかったのに……」

 おそらく、体も小さく皮も薄い子ゆっくりは、地中の感触を敏感にとらえられるのだろう。
 一刻も過ぎるころには、荷車にはたくさんのタケノコが積まれていた。

「暗くなってきたからもう帰ろうな。チビども、今日はお手柄だったぞ」
「「ゆっへん!」」

 男はタケノコを積んだ上に2匹の子ゆっくり、そして子供を褒めたたえている2匹の親ゆっくりを乗せて、家路を急いだ。
 いつもはれいむたちが育てた白菜づくしの食卓が、今晩はタケノコづくしだった。

 子れいむと子ぱちぇは、タケノコご飯を猛烈な勢いでかきこんだ。
 親ぱちゅりーと親れいむは、タケノコの甘露煮を一口食べて「しあわせ~!」と叫んだ。
 4匹はそろって、白菜を男にすすめた。

「俺にもタケノコよこせ!」

 …毎日、笑顔が絶えなかった。
 そんな笑顔を見ているうちに、男はなんとなくゆっくりたちの言う"ゆっくり"の意味がわかったような気がした。
 "ゆっくり"を言葉で理解するのは難しい。
 しかしそれは、男のそばにも当たり前にあるのかもしれなかった…。

          *          *          *

「「「「ゆっくりいってきます!」」」」

 翌朝、れいむ一家は水筒をぶらさげて家を出た。
 すっかり自信をつけた子ゆっくりたちがタケノコを掘りに行きたいとせがんだのだ。
 男のほうは、あいにく用事があった。

「暗くなる前に帰って来いよな」

 4匹が和気藹々と竹林に消えるのを見とどけると、男は荷車に『ありす』と書かれた麻袋を積んで、山を下りていった。


 昨日と同様、子ゆっくりたちは面白いようにタケノコを探しあてた。
 子供が探し親が掘る、という役割分担ができるのに、そう時間はかからなかった。
 一家のまわりにはたくさんのタケノコが散乱した。

「「「「しっ…しあわせぇ!!」」」」

 ヘブン状態の4匹は心ゆくまでタケノコを堪能すると、おなかをパンパンにふくらませて仰向けに寝っころがっていた。
 森の中に、ぷっくりとふくらんだ饅頭が4つも転がっている様子は、たいそう滑稽だった。

「ゆぅ…たけのこさんほりすぎちゃったね。どうしよう…」
「むきゅ、あなのなかにかくしておいて、こんどおにいさんにはこんでもらいましょう!」
「ゆゆ! めいあんだね!」

 一家は大きな穴を掘ると、その中にタケノコを放りこんで土をかけた。
 そうしてニッコリ微笑むと、持てるぶんだけ咥えてポインポイ~ンと帰っていった。

 ……幸福なぱちゅりーたちは、とうとう気づかなかった。
 ……物影からジッと様子をうかがっていた、たくさんの目に。

 一家がいなくなると、それらは姿を現した。
 浅黒い肌のすさんだ目をしたゆっくりぱちゅりー。
 それに十数匹のゆっくりまりさだった。

「おうのよ」
「おうちをみつけたら、どうするのぜ?」
「こどもはつれてきなさい。たけのこをみつけるぎじゅつを、でんじゅしてもらうわ」
「おやはどうするのぜ?」
「えいえんにゆっくりさせるのよ」
「「ゆっくりりかいしたぜ!」」

 ガングロぱちゅりーに命じられた2匹のまりさは、竹林に消えていった。

「むきゅ! のこりのまりさは、どすのためにたけのこをほりだすのよ」
「「「「「ゆっくりりかいしたぜ!!」」」」」

          *          *          *

 街はいつになく騒がしかった。
 往来は人ゴミであふれ、どこもかしこも喧騒に満ちている。
 なにかあったのだろうとは思ったが、男はさして注意も払わずに目的地へと向かった。

「おや…? お客さま、おひさしぶりですな」
 ちょうど店先に出ていた甘味屋の店主が、男に気づいてニッコリ笑った。
「今日はこいつを売りに来たんだ」
 男が荷台の麻袋を開けると、中に入っていたのは、冬の間に駆除した大量のゆっくりありすだった。
「これはまたずいぶんと…」
「ぜんぶ半殺しにしてある。それなりに甘くなってるはずだ」
 店主は手近な瀕死のありすの下膨れたほっぺを擦った。

「むほっ」

 スベスベの下あごに、ピンッと現れたぺにぺに。
 店主はそのぺにぺにを指先でちぎった。
 …別に変な趣味があるわけではない。加工用ゆっくりを品評をするには、この部分の特濃カスタードを味見するのが手っ取り早いのだ。
 ぺにぺにをちぎられたありすは「やべでえ…」とか涙目で呻いているが、店主は無視してカスタードをギュウギュウしぼり出して味見する。
「いくらになる?」
「ひとまず、中へどうぞ」
「ぺにぺにが…ありずのぺにぺにが…とかいはのぺにぺにが…ぺに…ぺに…ぺにぺにぺにぺにぺにぺにぺにぺに」
 アイデンティティーのひとつを喪失したありすは、袋の中で発狂していた。

 奥座敷に落ちつくと、若い店員がお茶と3個のゆっくり饅頭を出していった。
 ゆっくり饅頭はすべてれいむ種の赤ちゃん。
 …やり手の店主のことだ。
 男が最初に食べて感動した商品がこの赤れいむだったことを、しっかりと記憶しているのだろう。

「「「ゆっくちちていっちぇにぇ!」」」

 男は1匹つまんだ。

「ゆ~♪ ゆ~♪ れーみゅおしょらをとんでりゅみちゃい~♪」

 赤れいむは指のあいだでウニウニと体を振って、キャッキャッとはしゃいでいる。

「いっしょうれーみゅとあしょんでにぇ!」

 キラキラ輝く目。
 薄皮につつまれた、瑞々しい餡子の感触。
 甘いにおい。
 そんな赤れいむを口に入れてすり潰すと、「ゆぴっ」という可愛らしい断末魔とともに初々しい餡子がはじけて、なんとも言えない風味が広がる。
「筆舌に尽くしがたいぜ…!」
 野生のゆっくりとは違う洗練された味……この店のゆっくり饅頭はやはり格別だった。

「ゆんやぁ~っ!?」
「どぽちてしょんなことしゅりゅのぉ!?」

 てっきり、遊んでくれる優しいお兄さんだと思っていた赤れいむ。
 姉妹を食べられた恐怖でぷるぷる~っと震えていた2匹目、3匹目を口に入れると、中の餡子はますます美味しくなっていた。

「なつかしいな。この店で、ちょうどこれと同じ赤れいむをもらって、俺はゆっくり饅頭にハマったんだっけな」
「あのときのお客さまは、まだゆっくり饅頭をご存知ありませんでしたね」
「それが今じゃあ飼い主だ」
「れいむとぱちゅりーは繁殖できていますか?」
「2匹、子供を産んだけどな…」

 そう言ってお茶をすすりながら窓の外を見る男。
 …まさか情が移ってしまったとは言えなかった。

「それより、なんだか街が騒がしいな。なにかあったのか?」
「お気づきになられましたか。じつは…」

 店主の話は驚くべきものだった。
 一昨日、ここから5里も離れた隣の里にゆっくりの大群が押しよせ、里が壊滅したというのだ。
 それだけではない。以前にも同様の襲撃を受けて崩壊した里がいくつかあるらしい。
 その大群の中心にいたのは、人間の家以上もある巨大なゆっくり…ドスまりさだったという。
 街に逃げこんできた里の住人の中には『次のターゲットはこの街だ』と叫ぶ者もおり、とにかく情報が錯綜していた。

「たかが饅頭相手に里が壊滅…?」

 家で飼っている貧弱なれいむ一家を思い浮かべた男に、そろばんを弾いていた店主が小さな紙きれを見せてきた。

「どうです?」
「いい値だな。いいのか?」
「お得意さまですからな」

 金をもらって男が立ちあがったところ、さきほど饅頭を運んできた若い店員があわただしく駆けこんできた。
 男は二人を残して店を出た。そして荷車を引いて帰ろうとした時だった。

「お客さま」

 追ってきた店主が男の腕を止めた。

「たしか、竹取り山にお住まいでしたね?」

 5分後、男は甘味屋に荷車をうち捨てたまま、飛ぶように走っていた。
 若い店員が持ってきた最新の情報。
 それは、この街へ向かっていたドスまりさの大群が急に進路を変えたというものだった。

 ……口々に「たけのこ」と叫びながら。

 男は竹取り山へ向かった。





~あとがき~
読んでくれてありがとう!
感想までくれる人もホントにありがとう!
このシリーズももうすぐ終わりです。
遅筆ですけど、ゆっくり待っててくださいね! (*´ω`)ノシ


~書いたもの~
竹取り男とゆっくり1~9(執筆中)
暇なお姉さんとゆっくり
せつゆんとぺにこぷたー
悲劇がとまらない!
あるゆっくり一家のひな祭り

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最終更新:2022年05月21日 23:42