前半、かなりグダグダと前置きが続きます。
 ▲■●-をしおりにしておきましたので、
 とりあえず痛い目に遭うゆっくりが見たい方は後半の▲■●-からご覧ください。

前半の粉からしの薀蓄も読み飛ばしてもらってオケです。

作者は元ネタの知識も無く、設定等適当なところがあります。
 また、もしかすると過去の作品とネタが被っているところがあるかもしれません、
 すいません、ご了承ください。




▲■●-「おでんとからし ~おでん~」▲■●-


今年も北の森からの風が吹き始め、ひんやりとした涼風に枯葉の匂いを乗せ、
人々に秋の終わりを知らせていた。
日も沈みきった頃、家々からは食卓を囲む子供達の黄色い歓声と共に夕食の匂いが漂い始めており、
家路につく人々は橋の上で奇声を撒き散らすゆっくり一家を気にも留めずその足を速めた。

私も早々に帰宅し、台所で夕食の支度をしていた。
肌寒さを感じるようになったこの季節、恋しくなってくるのは"鍋物"だ。
さらに戸を開けて涼しい室内で食べるこの季節の鍋物は最高の贅沢だった。
そんな今夜の献立はずばり「おでん」だ。
すでに土鍋からはほかほかと湯気が立ち上っており、だし汁の香りが我慢している食欲を刺激した。
大根は琥珀色に染まり、たまごもほんのり肌を焦がし、ちくわやはんぺんはその身にだし汁を
たっぷり飲み込みふっくらとふくらんでいた。
もういいかな。と調理の完成を見定めた私は調味料棚にある黄色い丸い缶に手を伸ばした。
ビールジョッキほどのサイズのその缶は業務用の"粉からし"の缶だった。
おでんに限らず、豚の角煮、肉まん、豚カツなど食事にからしを欠かせない私は、
この業務用の粉からし缶を買いだめしておくのである。


最近ではチューブのからしが普及し、「粉からし」を知らない人が増えてきているらしい。
からしとは「からし菜」の種子を乾燥させて粉にした物を水で溶いて練った物である。
それをチューブに詰めた物が今我々がよく目にする「練りからし」である。
「粉からし」とは水で溶く前の粉を缶に詰めて販売されている物である。
からし菜の種子には「シニグリン」と呼ばれる苦味を持つ物質が含まれており、水と反応すると
「アリル芥子油」と呼ばれる辛味をもつ物質に変化する。これがからしの辛味成分の正体だ。
「アリル芥子油」は揮発性が高く、口にした時に鼻にツーンとくるのはこの為である。
その性質のおかげで一度水に溶いたからしは辛味が逃げやすくなり、製品の練りからしは食用油
などでこの辛味成分が逃げないよう調整されている。
粉からしはその場で水に溶いて利用するため辛味成分が逃げておらず、
”練りからしよりも刺激の強い辛味”を味わうことができるのである。


粉からしをいくらか小鉢に取り、ぬるま湯で溶く。
小指の先に、出来上がったからしを少し取り舐めてみる。
新鮮な辛味が口腔内にじわっと広がったかと思うと、一気に鼻腔へとに突き抜けた。

「くぅぅぅぁぁぁぁ!!!」

チューブのからしでは味わえないこの強烈な辛味。
あつあつプリプリのこんにゃくにこのからしをたっぷり乗せて・・・。
そう考えると食欲の我慢も限界だった。
早速私は水で濡らした手拭いを土鍋にかぶせ、居間の卓袱台(ちゃぶだい)へと運んだ。
卓袱台にはガスコンロが用意しており、いつでも熱々のおでんを味わうことが出来た。
いそいそと畳に敷いた座布団に座した私は、傍らの炊飯器から白飯を茶碗によそった。
そして箸を手にとり、それを土鍋の中へと走らせた。

「さぁ~て、まずは何から・・・こんにゃくにぃ・・ちくわぁ・・・大根にぃ・・・はんぺんと。」

本能に任せて選んだおでん種をお椀にとり、そこにお玉でだし汁をひたひたにかける。

「いただきまぁぁ[ピンポーーーン♪]ぁ・・・・?!」

幸せの絶頂にあった私をインターホンのチャイムが邪魔をする。

「こんばんわー、相良急便ですぅ。お届け物にあがりあしたー。」

折角の幸福の瞬間を妨害され、苛立ちながらも私は「はいー」と返事をしながら玄関へと向かった。
扉を開くと配達員の若い男がトースターほどの大きさの小包を抱えていた。

「えー、加工所オンライン様からのお届け物です。」
「あー・・」と私は先日インターネットのオンラインショップで買い物をした事を思い出した。
「ハンコ持って来るんで少し待っててもらえますか。」

そういって私は奥の部屋へと向かった。
ハンコをしまってあるはずの棚の引き出しを開き、ガサゴソと漁った。
しかしハンコは見当たらない。
「あぁー?」とますます募る苛立ちを抑えながらさらに引き出しの奥へと手を伸ばした。
荒々しく音を立てる。

ガサゴソ、ガチャカラン、ギチャン、ガチャン、ゆっ、ぺた、チャリン!

(他所から変な音が聞こえた気がするが・・・)
「あ、5円玉・・・、いつの間に・・・。」

偶然見つけた5円玉を手に取り見つめる。
すると5円玉の穴ごしに目的の物を見つけた。ハンコは棚の上に置きっ放しにされていた。
わずか1分ほどの出来事であったが、「あぁもうっ!」と苛立ちを抑えきれず、
頭をポリポリ掻きながら玄関へと向かった。
配達員の若い男はこちらに背を向け、玄関先で爪先を"ペタペタ"鳴らしながら煙草を吸っていた。
こいつの音か・・・?しかしこいつ・・・。

「・・・。あの・・・、ハンコあったんですけど・・・。」
「んぉ?あーじゃあこちらにお願いしあす。」

吸い始めたばかりであろう煙草を玄関先に投げ捨て、足で踏み潰しながら小包を差し出してきた。
踏み潰された煙草と配達員の顔を順々に睨みつけながら私は受領書にハンコを押した。
配達員は小包から受領書をはがし、小包を私に放り投げた。

「おっと・・?!」
「あざーしたー!」
「おいっ!!待ておまえっ!!!」

バタン!とドアのしまる音と共にトラックは走り去っていった。
一体どうなっているんだと踏み潰された煙草に向かって喚いてみるがどうにもならない。
もう今は煙草を片付ける気にはなれない。
届けられた小包は大きさの割りに軽く、片手でも軽々と持って入る事が出来た。
私は玄関の鍵を閉め、居間へと向かった。
何をしていたんだっけ・・・?
そうだ、おでんだ!
おでんの事を思い出し、少しだけ苛立ちが和らぐ。


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早速、居間に戻り卓袱台の方へと視線を向けると、つい数分前までの幸福な光景は無くなっていた。

「おかあちゃん、あたらちいおうちとってもかいてきだよ」
「そうだね、いっぱいゆっくりしようね。そろそろご飯にするよ」
「とっちぇもおいちそうなにおいだよ」
「れいみゅ、いっぱいたべるよ」
「まりしゃのほうがいっぱいたべるよ」
「おちびちゃんたち、慌てないでね。ゆっくり食べるよ」
「「「「ゆー!ゆっくちたべるよ」」」」

「な・・・。」

立ち尽くす私。
開けっ放しの戸から進入したのだろう。
卓袱台の上ではピン球ほどの小さな子まりさ1匹と子れいむ3匹が土鍋の周りを跳ね回っていた。
卓袱台の横ではサッカーボール大ほどの親れいむが子供達を笑顔で見つめている。
居間の畳は泥で汚れ、倒された炊飯器からは泥と混じった白飯が湯気を立ててこぼれていた。
子ゆっくりが跳ね回る卓袱台からは、箸も湯飲みも弾き飛ばされ、部屋の隅々で粉々に砕け散っている。
幸い、土鍋の中のおでんとお椀に取られたおでんは無傷で健在していた。
そういえばハンコを探していた時、他所から変な音がした気がしていたが・・・。
数分前の事を思い返し、頭の中で情報を整理していたその時。

「ゆ?おにいさんだあれ?さ、おちびちゃん達、おにいさんに挨拶するよ!」
「ゆ?」

卓袱台の上の子ゆっくりたちが一斉にこっちを向く。

「せーの・・・。」

「「「「「ゆっくりしていってね!!」」」」」


私は初めて経験するゆっくりによる被害に呆然とする。

「ゆゆゆ?おにいさんどうしたの?ここはれいむ達のおうちだよ。
 今からおちびちゃん達とご飯だから、おにいさんも自分のおうちに帰ってね。」
「おにいちゃんゆっくちちたいの?」
「でもれいみゅたちがみつけたごはんはあげないよ」
「じぶんのごはんはじぶんでみつけなきゃだめなんだよ」
「おにいちゃんはにおいだけでがまんちてね」

そんな子供達の言葉を聞いた親れいむは、はっと子供達の方を向き感心した。
まだ小さいながらも自然の掟をその身に刻み、そしてそれを人間に説き語る子供達を自慢に思った。

「(おちびちゃん達は本当にゆっくりしたいい子達だよ。)」

親れいむはそう心の中で囁いた。

「きさまらぁ・・・」

私は言い表すことの出来ない怒りに全身を震わせていた。
とりあえず卓袱台の上の子ゆっくりを除けようとしたその時・・・。

「まりしゃ、もうがまんできないよ!」

そう言うなり、子まりさがお椀の縁からはみ出すちくわの先に跳びついた。
ちくわの先は大きく開かれた子まりさの口にがっちり嵌った。
じぶんの体より大きなちくわの先を咥えたまま、お椀の外に着地する子まりさ。
すると熱々のだし汁に浸かっていた反対側のちくわの先が、さながらシーソー遊びのように
ぐにゃと持ち上がった。

「ほがうがうーひー(とってもじゅーしー)」

子まりさが咥えた端は、ほどよく冷めており、子まりさでも食べられる熱さだった。
しかし幸福の時は1秒も経たず過ぎ去った。
子まりさが咥えた側と反対側の端が持ち上がった事により、ちくわの穴の中に残った
高熱のだし汁が子まりさの口腔内へと一気に流れ込んだ。

「ぢょばづぎひうごぶぎゅほがあぐびゅげ(ちょあつっひゆごふぎゅおががぐゆげ)?!!!!!」

昆布だしを素にすじ肉などの旨味もたっぷり溶け出した極上のだし汁は、小さな子まりさの口腔内を
焼くのに十分な熱を持っていた。そして・・・。

「ぐぼげぼば(ゆごげぼは)!!!!」

身の危険に瀕し、咄嗟に驚異的な肺活量が子まりさの体から発せられ、
口腔内のだし汁を一気に噴き出した。
子まりさの口から噴き出されただし汁は、ちくわの穴の中を駆け上っても
そのエネルギーを失わず、反対側の口から水鉄砲のように「ぶしゃっ!!」と噴出した。

「あー!まりしゃだけじゅるい!」
「れいむもたべる!」

一人抜け駆けした子まりさの元に2匹の子れいむが跳び寄り、子まりさとは反対側のちくわの先に跳びついた。
そして2匹とも「熱々だし汁鉄砲」をその顔面にもろに喰らった。

「ゆ゛びょべええええええ?!!」
「ゆ゛ぎゃつ゛いいいいい!!!!」

滞空中に撃墜される2匹の子れいむ。
まるで射出された素焼きの円盤を撃ち落す「クレー射撃」競技だ。
しかも初挑戦で2枚抜きをやってのけるなど、この"ちくわまりさ"只者ではない。
もはや私の論理回路はショートしていた。

「おちびちゃん達!お願いだからゆっくりしてね!」

親れいむが卓袱台の上で跳ね回る子れいむ達に叫ぶ。
そんな願いなど聞けるはずも無く、撃墜された2匹の子れいむ達は火傷の痛さに耐えられず、
全身の神経、筋肉(どちらも餡か皮)に身を任せて跳ね回る。

「れいぶのがわい゛い゛おきゃおぎゃああああ!!!!」
「おめ゛め゛にばいっだぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

その内の1匹が卓袱台から転げ落ち、こぼれた白飯の山に飛び込んだ。

「っ゛っ゛ゆびぎょべばあぁぁがっぁぁ!!?!!?!!!?!!」

炊飯器から出たばかりの米粒は一粒でもそうとうに熱い。体の小さな子れいむにとってはなおさらだった。
白飯の山から"握り飯"が跳び出した。

「く゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ぼごべばあああああああああああ!!!!!!」

意味不明な叫び声を上げている。
もがけばもがくほど熱々の米粒が頬、唇、瞼、髪の毛にこべりつく。

「おちびちゃん!!ゆっくりしなきゃダメだよ!!」

そう言うと親れいむは暴れまわる子れいむを顎の下で押さえ込んだ。

「ゆぎひぃぃぃぃぃ!!!ゆぎぃぃぃ!!!おがあしゃんはなじでええええええ!!!」
「今ゆっくりさせてあげるよ。」

親れいむは舌を出し、子れいむの体の米粒を舐めとろうとした。

「ぅわあっち!!!!」

思いのほかの熱さに思わず跳び退いた。
しかし全身にその米粒をまぶしてもがく子れいむは自身以上に苦しいはずだ。
再び子れいむを押さえ込んだ親れいむは、熱さを我慢しながら、子れいむの体にこべり付く米粒を
すべて舐めとって喰った。

「ゆ、めしうま・・。おちびちゃん!もう大丈夫だよ。とってもおいしいよ!」
「ぐゆっ・・・ゆぐっ・・・」

米粒を舐めとられた子れいむは、全身に赤い斑点をつくり火傷を負って痙攣していた。
親れいむは口唇と舌の先を少しひりひりする程度に火傷しただけであった。

もう片方の子れいむはというと、ついにおでんの入ったお椀と激突し、卓袱台の下へと落下していった。
空中へと弾き飛ばされ、中身を撒き散らしながら吹っ飛ぶお椀。
そして今まで無傷で済んでいた残りの子れいむに、舞い上がったはんぺんが襲い掛かった。
(ここで言うおでんの"はんぺん"は各地方によりそれぞれ違うと思うので、)
(各自脳内変換してください。ちなみにうちは天ぷらの薄はんぺんです。)

「ゆゆ!!」

まるで燦燦(さんさん)と照りつけるお天道様の下で干された、ほかほかでふわふわの掛け布団のように、
ふわっと子れいむを包み込む。

「ふわゅ・・?!!ぐびげぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

中央が盛り上がったはんぺんの下から曇った子れいむの叫び声が聞こえる。

「あづういぎぎっぎいいぎいい!ぶぎょあげえ゛え゛え゛ええ!!!」

ぼてっ♪
さらにその上にたっぷりだし汁を吸った大根が落ちてきて圧し掛かる。

「はぎぐぐぅぅ、たじゅけ、ぎゅ、で、ぐぎゅぶっ、おぎゃあ゛じゃああぁぁぁん!!!」
「待っててね、おちびちゃん達、今助けに行くよ!」

我が子の助けを聞き、親れいむが跳び上がる。
それを見て、はっと我にかえる私。

「あっ、バカ、よせ・・・!!」

ピン球サイズの子ゆっくり4匹が跳ね回れていたとはいえ、たかが卓袱台、その大きさは知れていた。
さらに今は極上のおでんがたんまり入った土鍋とガスコンロがその中央に鎮座している。
そこにサッカーボール大の親まりさが跳び乗ったらどうなるか・・・。

卓袱台の上へと跳びあがった親れいむは、卓袱台の上の土鍋とガスコンロを弾き飛ばした。
熱せられた土鍋ととコンロの熱が頬の皮を少し焼いたが、我が子が目の前で苦しんでいる時に、
自身の身体の事など二の次だった。

幸い、滑り止めの付いたガスコンロは押し退けられただけで卓袱台から落ちることは無かった。
我が家を失うという最悪の事態は避けられた。
しかしその上の土鍋は違った。
まるでカーリングの石のように何の抵抗も無く滑り落ちた。
私は手を伸ばすが間に合わない。

「いや゛あ゛あ゛あああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

と叫ぶは私。
コンロの上から滑り出し、一瞬宙を舞った土鍋は、少し高度を落とし卓袱台の端に当たった。
そしてその身を真っ逆さまにひっくり返し、中身を宙へとぶち撒けた。

「うごおおおあああえええええええがあああああああああ!!!!!!!!!!!」

いろとりどりのおでん種が舞い上がる。
大根、たまご、ちくわ、ごぼう巻、はんぺん、すじ肉、こんにゃく、こぶ巻。
その下ではお椀にぶつかり卓袱台から落下した子れいむが、ようやく火傷の痛みも和らぎ息を整えつつあった。

「ゆぅ゛・・ゆぅ゛・・ゆぅ・・・」

そこにおでんの雪崩が子れいむを襲った。

「ゆ゛ばべ!!!!!」

灼熱のだし汁を浴び、自身の倍以上もあるこんにゃくの角が額に直撃し子れいむは気絶した。
畳の上には広大な琥珀色をした海が広がっていた。
そして、ひっくり返った土鍋と、散乱するおでん種に混じって子れいむが痙攣していた。
私は放心状態になり、おでんの残骸の元へ歩み寄り膝まずく。

「あ・・・あ・・・が・・・・・なん・・で・・・・」

膝元に転がっていた"たまご"を拾おうと手を伸ばした。
別にそれを拾って食べようとした訳では無い。そうせずにはいられなく自然と手が動いた。
しかし・・・。

はんぺんの下敷きになっていた子れいむは親れいむに助け出され、
「これでゆっくりできそうかい?ゆゆ・・・、だしうま」と
全身を舐め回されていた。
だが高熱の羽衣で身を包まれ、蒸し焼きにされたその小さな体は
体内にまで熱気を吸い込み大火傷を負っていた。

「いぎいいえええ、なめぶのやべでぇぇぇぇぇ」

そう言うと子れいむは親れいむの元を離れ、卓袱台の端へと這いずった。

「ゆぼげぇ゛ぇ゛ぇぇぇぇ・・・」

卓袱台の端から身を乗り出すと、子れいむは苦しそうに口から餡を吐き出した。
おでんの残骸が散らばるその上に、さらにドロドロの餡子がぶち撒けられた。
私は手に取ろうとしていた"たまご"が餡にまみれるのを見た。

「ちびちゃん!!しっかりしてね・・・。」

そう言いながら、親れいむが苦しむ子れいむの背中を頬でさする。

「ゆげぇ・・・ゆげぇ・・・」

吐き気が治まったのか、子れいむは仰向けになり「ぜえぜえ」と喘息患者のように
苦しそうな呼吸をしていた。
少し落ち着いたと判断したのだろうか、親れいむは他の子の元へと歩み寄る。
最初にちくわを咥えた"ちくわまりさ"は、そのままちくわを咥えたまま失神していた。
それは真っ赤に熱せられた鉄パイプを口に咥えて呼吸するのと同じだった。
反対側の穴から吸い込まれた空気はちくわの穴を通る間に高温に熱せられ、
"ちくわまりさ"の口腔内に入り、そのまま体内を焼きながら駆け巡った。
"ちくわまりさ"は失神しながらも続けられる呼吸で、自らその身を破壊していた。
親れいむはすでに冷めたちくわを子まりさの口から外してやった。

「ちびちゃんしっかりして!どぼおぢで・・どぼおぢで・・・」

親れいむの目には次第に涙が溢れ出していた。
目の前では4匹の我が子が息も絶え絶えに苦しんでいる。

「ゆぐぅ・・ゆ・・・ぐ・・」
「おみじゅ・・・むじゅ・・ぢょ・・だい・・ぐ・・」
「お水!?そうだね、今お母さんがお水持ってくるよ。おちびちゃん達がんばってね」

親れいむは辺りを見回した。どこにも水場は見当たらない。
実際にはすぐそばに台所の流しがあるのだが、そんな事ゆっくりには理解できない。

「どぼおじておみずない゛い゛ぼお゛お゛おおお!?な゛にごのボロいえ、死゛ぬのおおお?」

それでも必死に、何か子供達を助けられるものはないか見回した。
やがて呆然しているお兄さんの姿が目に入った。
じっと自らの右手拳を、上から下から舐めるように見つめ続けるおにいさん。
その拳には先程の"餡かけたまご"が握り潰されていた。

「おにいざあん!!なにゆっくびしてんの!!ボゲッとづっ立ってないで、こどもたちにおみずを持っでぎでねっ!!」

私の体がビクッと脊髄反射的に反応し、握り潰された"餡かけたまご"を投げ捨てた。
そして目の前に転がる土鍋を掴み上げ、親れいむの頭頂部に叩き込んだ。


▲■●- 「おでんとからし ~からし~」につづく ▲■●-

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最終更新:2022年05月18日 21:21