「エサだぞ、マロン」
「ゆっ・・・!ゆっくちたべりゅよ!」
俺は、
ゆっくり専門ペットショップの店員だ。
店員といってもアルバイトなので、本職ではない。
「どうだ?美味しいか?」
「ゆーん、とってもゆっくちしてるよぉ!」
主に、赤ゆっくりや子ゆっくりなど、成体になっていないゆっくりの飼育をしている。
アルバイトに任せられるくらい、ゆっくりの飼育は簡単なのだ。
今、目の前の水槽に1匹のゆっくりが入っている。
昨日生まれて俺に割り振られた、赤ちゃんのゆっくり魔理沙だ。
「そうか。しあわせーか?」
「ゆゆ!まりしゃ、とってもしあわしぇー!・・・・・・・ゆっ!!」
赤まりさの顔が青くなる。
中身の少ない餡子でも、生まれてから体罰ばかりされては覚えるのだろう。
小刻みにぷるぷると震える姿が面白い。
「まりさ・・・?お前、まだそんなこと言っているのか!?」
俺は大げさに驚くフリをして、スプーンを手に取った。
ティースプーンなので、あまり大きくない。
「ち、ちがうよ!まりしゃはまりょんだよ!?」
「まりさはマロンだと!?マロンなのにまりさを名乗るなんて、なんて悪いゆっくりだ。お仕置きしないとな」
水槽の隣に置かれているポットに入っているお湯を、コーヒーカップに注ぐ。
さっき沸かしたので、かなりホットなはずだ。
そしてコーヒーカップにスプーンを突っ込み、しばし待つ。
「ゆー!やめちぇね!!やめちぇねえええ!!もうあちゅいのはいやだよぉお!!」
スプーンの持つ部分まで熱くなったのを確認し、俺は赤まりさを左手に取った。
「やめちぇ!!おきゃーしゃんたちゅげでぇええええっ!!!」
ちなみにそのお母さんも、昨日、地下室で同じように助けを求めていた。
もう赤ちゃん産みたくないとかなんとか、妊娠用ゆっくりの癖に生意気なことを言うものだ。
スプーンを反転させ、盛り上がった部分を赤まりさの底部に近付ける。
恐怖心をあおるため、赤まりさも反転させて底部が上にくるようにした。
「自分の名前を言えない子はゆっくりできないんだよ!嘘の名前を言う子はお仕置きだよ!」
丸出しになった底部が、地面を探してもぞもぞと動いている。
実に不気味だ。
宙に発散されていく、底部に込めた力。
あまりにも可哀想なので、足場を押しあててあげることにした。
「ゆっぴぃぃいいっ!?!!??」
熱いスプーンが、赤まりさの底部に沈んでいく。
皮の薄い赤ゆっくりには、さぞかし辛いことだろう。
「あちゅいよぉおお!!あちゅいっ!!!おぎゃーじゃんだじゅげでぇええ!!あんよ!!あんよがぁああ!!!」
虐待目的ではないので、死んだり障害が残ることもない。
軽い火傷をする程度だ。
「嘘つきはこうやってお仕置きするんだよ。お前はマロンなのに、まりさって嘘をつくからこうなったんだよ。ゆっくり理解してね」
その言葉を、俺は延々と赤まりさに吹き込む。
ボロボロと赤まりさの目から、涙がこぼれる。
が、俺はそんなことで止めるわけがない。
二本目のスプーンをコーヒーカップに突っ込んでおく。
いま使っているスプーンが冷めたとき、すぐに交換できるように。
「ゆひっ・・・!ゆひっ・・・!ゆふゆ・・・ゆっふ・・・・くひっ・・・」
10分間のお仕置きが終了した。
赤まりさは、もはや声も出ないほど衰弱している。
「さて、これはマロンのためのご飯だからな。嘘つきにはあげないよ。返してもらうね」
「ゆ・・・どぼじで・・・ごひゃん・・・ちょおらい・・・ね・・・」
べにょっとナメクジのように潰れた体を、少しだけ起こしながら赤まりさは言う。
体力回復のためには食事が一番だ。
とりあえずご飯食べとけば死なないのがゆっくりだ。
「だってお前、まりさなんでしょ?そんな名前のゆっくりにはあげられないよね」
「ち・・・ちぎゃうよっ!!まっ・・・まりょんだよ!!まりしゃじゃなくちぇ、まりょんっていうなまえだよおぉ!!だがらっだがらごはんちょうだいねっ!」
意外と素直なゆっくりだ。
俺は仕事がうまくいきそうな予感を感じて少し嬉しくなる。
「自分の名前がマロンだって分かったの?」
「しょ・・・しょうだよっ!!まりょんは・・・、とってもゆっくちちたまりょんなんだよ!」
エサの入った箱を、俺は赤まりさに見せつけた。
「そうか、じゃあ許してあげる。もう嘘の名前なんか言っちゃダメだぞ」
「ゆ!ゆっくち!」
エサを返してもらえると思ったのか、ぱあっと笑顔になる。
仕上げにもう一度、刷り込んでおこう。
「まりさなんて、マロンに全然似合わない名前だしね」
「ゆ゙・・・・・・・っ!」
返事を返さず、媚びた笑みを貼り付けている。
まりさという名前を、声に出して否定したくないらしい。
だが、それではダメなのだ。
「どうしたの?まりさってマロンには合わない、全然ゆっくりできない名前だと思うよね?」
「ゆ゙っゆ゙っゆ゙っ・・・!!」
今にも泣きそうな顔で、震え始める赤まりさ。
俺はさらにプレッシャーをかける。
「え?何で応えないの?マロンなら、まりさって呼ばれるの嫌だよね?嘘の名前じゃゆっくりできないよね?」
「ゆ゙っ・・・・!ゆ゙っ・・・!」
声こそ出していないものの、もう涙がボロボロとこぼれている。
そんなにまりさという名前が大切なのか。
だが、いつまでも遊んでいるワケにもいかない。
俺は最後の問いをした。
「もしかして、マロンじゃないと思ってるのかな?」
「・・・ッ!」
目をまんまるにして、俺を見上げる赤まりさ。
その表情は、ころころと変わり定らない。
コイツの中で、変な感情が葛藤しているのだろう。
またお仕置きか。
そう思い、俺がスプーンに手を伸ばそうとした、その時。
「ま゙っ!まり゙ょんは、ま゙り゙ょん゙は・・・まり゙しゃな゙んて、ゆゆ゙ゆ゙ゆっゆゆ゙ゆ゙っくちできな゙い・・・な゙まえっ!だいっきりゃいだよっ!!!」
部屋中に響き渡るほど大きな声で、赤まりさは宣言した。
「そうだよな。マロンはとてもゆっくりしてるね。ご飯をおたべ」
エサ箱を水槽に戻し、赤まりさに食べさせてやる。
食べ終わった後は、名前を理解したことを褒め、すりすりをしてあげた。
「マロン。ちゃんと自分の名前がいえる子は、ゆっくりできるんだよ」
あれから2週間。
赤まりさことマロンは、子ゆっくりといえるほど大きくなっていた。
今日は、引き渡しの日。
飼育係の俺も立ち会うことになる。
「こちらがマロンです。生後2週間、ご要望通り子ゆっくりです」
「ゆゆ?おにーさん、このおねーさんはだぁれ?まろん、ゆっくりできる?」
子まりさは、今では自分のことをちゃんとマロンと呼ぶようになっていた。
少し前までは、気を抜くと自分のことをまりさと言ったりしていた。
特に緊急事態のときなどは、体罰も恐れずまりさまりさと言う。
なので、「まろんをゆっくりたすけて!」というまでゆっくりレミリアを連日けしかけたりもした。
「ゆー?おねーさん、まろんとゆっくりしようね!」
笑顔の客に、敵意がないと判断したらしい。
子まりさは楽しげに歌など歌い始めた。
「マロン、ちょっとそこで待っててね」
「ゆっくりりかいしたよ」
客を連れて、レジへ行く。
お会計だ。
「すごいですね、あの子。ちゃんとマロンって言ってるなんて、ちょっとビックリです」
客は子まりさに感動したのか、ぺらぺらと自分の話を始めた。
「以前、れいむ種を飼ってて「ここあ」って呼んでたんですけど、全然理解してくれなくて・・・」
「赤ちゃんからすりこめば大丈夫って思って試したのに、やっぱり自分のことはれいむって言うんですよねぇ」
「生まれたときから名前を持ってるって、なんだかすごくやりにくい・・・」
「やっぱり、ペットなら自分が愛着持てる名前にしたいじゃないですかー?あの子、凄く好きになれそう」
普通、ゆっくりに名前を付けることは難しい。
なぜなら生まれたときから、れいむ種なられいむ、まりさ種ならまりさと、名前を理解しているからだ。
結果、体罰的に押しつけなければ名前を変えることは難しい。
だが、愛好家にそのようなことができるはずもない。
その点に目をつけたのが、このゆっくりショップだ。
赤ゆっくりのうちから体罰たっぷり染み込ませているが、外からは見えない。
多少値は張るが、それでも自分の好きな名前を付けられることは嬉しいもの。
金に糸目をつけない愛好家がこぞってこの店にやってくる。
レジを終え、子まりさを引き渡してから控室に戻った。
「ん?」
テーブルに、紙が張ってある。
いつもと同じ、ヘッタクソな字だった。
れいむ種
名前:クッキー
引き渡し:子ゆっくり
よろしくね☆ 店長より
俺は給湯室に向かった。
おわり。
最終更新:2009年01月23日 14:53