ゆっくりというのは非常に都合のよい生物だ
というのも、多少の語弊があるとはいえ、人語を解するだけの知能がある
それに目を付けたのがこの街の警察である
この港町はこの国の水際であり、近年麻薬組織が暗躍することによって
夜8時を過ぎると湾岸地域に立ち入るものはいない程だった
警察は手を焼いていた、それこそゆっくりのように麻薬組織は警察の網の目をかいくぐり
また、次から次へと生まれる、いたちごっこが続いていた。
そろ〜り そろ〜り
そのあたりでみかけるゆっくりならば、おなじみの擬音を口にしそうな慎重な速度で
まりさは換気ダクトの中を進んでいた、自慢のとんがり帽子には金ぴかのバッジが光っている
まりさは指示された場所に到着したので、本部と連絡を取るべく帽子の中からマイクを取り出した
「こちらはまりさだよ、聞こえる?」
「きれいだ、声は拾えるか?」
「今集音マイクを向けたよ。」
「よし・・・。」
『ずいぶん小口だな、本当に120キロあるのか?』
『監視が厳しいんだ、船から降りる人間を全員写真に撮ってる、公安だ。』
「録音しろ」
インカムを付けたお兄さんが隣のお兄さんに指示を出した。
とうとう尻尾を掴んだ、こいつらを捕まえるためにもうゆっくり隊員が5名殉職している
やたらと勘のよいこの組織は、犯罪捜査には画期的だったゆっくりによる捜査活動をことごとく見破り
気取られたゆっくり隊員は翌日、皮だけになった無残な姿を警察署前の四つ角に晒した。
『ゆ゛っ!ゆ゛っ!』
「なんだまりさ、何かしゃべったか?」
「あれだよ・・・あいつら”あれ”でくすりをはこんでいるんだよ・・・」
『ゆうぅぅぅ、やめてね!ゆっくりできないよぉ!』
まりさのまんまるの瞳には、あわれなゆっくりれいむの一家が映っていた
バスケットボール大の親れいむとまりさ、それに8匹の子供たち
そのどれもがその体をいびつに膨らませゆっくりにあるまじきうめき声を上げている
『”これ”が食っちまわないように苦労したよ、ビニール袋に入れて体の中に入れてある。”これ”はまあ腹が減ったときに食べてよ、オマケね。』
『れいむはものじゃないよ!ゆっくりていせいして!ぎゃあっ!』
まりさは目を瞑った、抗議した親れいむは、ここまで薬を隠匿するお役目御免のお礼とばかりに
男二人から殴る蹴るの暴行を加えられている、まりさと子供たちの悲鳴が倉庫にこだました
しかし彼女たちを待ち受ける未来は更に苛烈なものだ、それと比べればこのような仕打ちなどケシの実のような物だろう
ゆっくりたちの中には飼い主の都合で、自力で交通機関を利用して移動する者もいる
突然捕まり、ビニール袋を食わされたこのゆっくりたちは
そんな世相を逆手にとった犯罪の片棒を担がされているのだ
数キロ離れた国外便の着く突堤から、鉄道を使ってここまで来させられた
もしも自分が今腹の中に納めているものを口外すれば命はないという、従わないわけには行かない。
繰り返すがゆっくりは都合のよい生き物だ、人語を解するのである。
はれてお役御免となったゆっくりは、彼らの悪行を警察に通報する可能性がある
したがって男たちがこのゆっくりを生かしたまま、もとのゆっくりぷれいすに返す可能性はまずゼロだ
やっと男たちの暴行が止むと、傷だらけの体でゆっくりれいむは思った
海の見える丘に家族でぴくにっくに来ていただけだと言うのに、どうしてこんな目にあわねばならないのだろう
わたしが家族を誘いさえしなければ、こんな事にはならなかったかもしれないのに・・・。
「まりさ、あと10分程でパトカーが臨場する、そろそろ引き上げてくれ。」
「りょうかい・・・。」
最終更新:2009年01月05日 02:22