ゆっくりいじめ小ネタ426 ゆっくりしてください

都会の朝は忙しい。
真夜中は人が殆ど通らない駅前の交差点も、朝になれば通勤ラッシュの影響を受けて
たくさんの人々が行きかう。
足早に横断歩道を渡る。
朝ごはんのおにぎりを頬張りながら歩く学生。
携帯電話を片手に走る女性。
中年の男性はタバコの吸殻を地面に落としながら歩いていた。


人間だけではない。
早朝出されたゴミを求めて野良犬やカラスなどの動物がゴミ捨て場にやってくる。
生きる為に必死でゴミを漁る。最近では動物避けの対策をしている場所は少なくない。
彼らが果たして朝飯にありつけるかはわからない。


人と動物。やってることは違えど、その目的は一緒だ。
生きる為だ。
その為に働くか、飯を探すか。ここに違いなどそれほどない。
誰も彼もゆっくりしていないのだから。





そんな中、周りの忙しさなどテレビの向こう側の話とでも言いたいかのような
のんびりとしていたナマモノが居た





「ゆっくりしていってね!!!」
「ゆっくりしていってね!!!」
交差点の近くにある自販機の下。れいむとまりさはいつも通りに起きた。そうしてお互いに挨拶を交わす。
眉をシャキンとさせて、お互いに微妙な距離を取る。そしてキリッとした顔で挨拶を交わすのだ。
この挨拶は実はかなり重要である。
返事の有無や声の大きさでそのゆっくりの状態を確認する。また、微妙なニュアンスの違いにより
そのゆっくりの喜怒哀楽などの複雑な感情まで読み取る。
故にこの挨拶はゆっくりの中ではとても重要な物として扱われている。
時には自らの生存さえも無視するほどに。


「ゆゆっ!! ゆっくりたべるよ!!」
「ゆー! ゆっくりたべようね!!」

そういってれいむとまりさはアスファルトからちょこっと出ている雑草を食べ始めた。
果たしてこれで満足できるのかと言うほど少ない量だ。
草の食感を口で何度も味わいながら、ゴクリと飲み込む。
とたんに

「ゆー!」
「しあわせー!!」

本人達は満足そうだった。その笑顔はまさに幸せの絶頂といったものだろう。



「ゆー! ゆっくりまってね!!!」
「ゆっくりにげるよ!!」


どうやら食後の運動の時間のようだ。
まりさがポヨンと動き出すと、れいむがその後を必死に追う。
人間で言う鬼ごっこだ。


「ゆゆっ!! まってね!!」
「ゆん! れいむはゆっくりおいかけてね!!」
どうやらまりさの方が早いようだ。真剣な目で追いかけるれいむに対して
まりさの顔には若干の余裕が見られる。


「ゆがっ!!!」
突如れいむが奇声を上げながら前へと飛び跳ねた。
いや、正確に言えば蹴られたといった方が正しい。
れいむを蹴った人間は、どうやら蹴った事には気づいていたようだ。
しかし忙しさの為かそのまま通りすぎていった。


れいむはそのまま吹っ飛ぶと、ちょうどまりさの目の前へと着地した。


「ゆぐぅ……」
「ゆゆっ! つかまっちゃったね!!」


どうやらまりさはれいむが吹っ飛ばされた事に気づいてないようだ。
それどころか

「ゆっへん!! とってもゆっくりとべるよ!!!」

れいむ自身どうやら勘違いしているようだ。


彼女らはそのまま他愛もない話に夢中になっていった。
その周りでは沢山の人が歩いたり走ったりしている。
交差点のど真ん中なのだから当たり前の話だ。


「ゆーん!! かぜさんゆっくりしてね! ぷんぷん!!」
「ここはゆっくりできないよー! ゆっくりにげるよー!」


涙目で移動を始める二匹。二匹は無事に交差点を渡り終えると、そのまま駅へと向かっていった。
彼らが車に轢かれずに無事に交差点を渡れたのは紛れもなく奇跡である。



駅についた彼女らは、人ごみを避けながら、どこでゆっくりしようかと悩んでいた。
すると、なにやら美味しそうな匂いがすることに気づいた。


「ゆゆっ! おいしそうだね!!!」
「ゆっくりいってみようね!!!」


向かった先は立ち食い蕎麦屋である。
数人の男達が立ったまま無言で蕎麦を啜っていた。
その様子はゆっくりの目から見て、とてもゆっくりしてないと判断された。


「ゆゆっ! ゆっくりしてないね!」
「ごはんはゆっくりできるよ!!」
「でもゆっくりしてないよ!!」
「ゆゆ? どうして?」
「わからないよ!」


ご飯はとってもゆっくり出来る。それが当たり前である。
にも関わらず、彼らはゆっくりしていない。何故だろう?
結局答えなど見つかる訳もなく、とりあえず一緒にゆっくりしようと試みた。
何はともあれ、ゆっくりできればどんなことも万事解決だ。
少なくとも彼女らはそう思っている。事実彼女らのゆん生はそうだった。


「「にんげんさん!! ゆっくりしていってね!!!」」


声をそろえた完璧な「ゆっくりしていってね!!!」
しかし当の人間は誰一人として彼女達の方を振り向こうとさえしなかった。
蕎麦を食べ終えた人たちはそのまま足早に去っていく。
その光景に二匹はショックを隠しきれなかった。


「ゆっぐじじでよぉ……」
「ゆっぐじできないよぉ……」


涙を瞳に溜めつつ、彼女らはがっくりと肩を落として駅を去っていった。




「ゆっくりかえろうね!!」
「ゆっくりしようね!!!」

歌うように楽しげに会話しながら二匹は先ほどと同じ道を跳ねていた。
しばらくすると、目の前にたくさんに人間さんが止まっていることに気づいた。
ある男性はイラついているのか、忙しなく貧乏ゆすりをしていたが
れいむとまりさにはそれがリズムを取って踊っているように見えた。


「にんげんさん! ゆっくりしていってね!!!」
「ゆっくりしようね!! れいむゆっくりおうたをうたうよ!!」


そう言った瞬間、急に周りの人間達は動き始めた。
れいむとまりさはまたも自分達のゆっくりへの誘いを断られた形になった。


「どうしてなの……」
「ゆっくりしていってよぉ……」


れいむとまりさは意気消沈のまま、家路についた。
しかし彼女らはその事を2時間もすれば忘れてしまうだろう。
そうして彼女らは昼も夜も次の日も同じ事を繰り返す。


いつになったら気づくのか。人間はゆっくりできないものだと。






【あとがき】
田舎物なんで都会の朝の風景とかわかんねえ。例大祭の時のりんかい線は違うだろうし。
by バスケの人

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最終更新:2009年03月23日 07:52
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