ゆっくりまりさが上目遣いというか妙に顎の部分を強調した伸びのような姿勢をとっているところを目撃した。
なんだろう、その顎にはどんな思いが込められているのだろう。
私は話しかけたがまりさは一向に返事をしない。
おなじみのゆっくりしていってね!で語りかけてみるも一瞥さえしなかった。
コレは一体どういうことなのだろう。
私はまりさの顎に触れてみたい衝動に駆られた。
だがそれをしたらこの顎の意味が永遠に失われてしまうような気がして私は伸ばしかけた手を引っ込めた。
そしてひょっとして置物ではないかと思い鼻前辺りに指をかざしてみる。
息をしている気配はしない。
だがよく考えればゆっくりが息をしているのかなど私は知らない。
これではこのゆっくりまりさが生きているのかどうかわからないではないか。
私は苛立ちついにまりさの帽子を持ち上げた。
まりさの視線が動く。
やった、生きているぞ。
帽子を動かしてみるとまりさの視線は帽子の方へと動いた。
そこには焦りや不快感は見られない。
ただ淡々と機械的に目で追って見ているだけだ。
その目を見ているとなんだか私は段々と気分を悪くしていった。
限界はすぐだった。
私はガマンしきれずにその場で嘔吐してしまった。
地面を汚すわけには行かなかったのでとりあえずまりさのとんがり帽子の中に吐き出す。
胃液が出るまで吐き続けた。
とりあえず帽子の中が私の嘔吐物で一杯になったので私はそれをまりさの頭にかぶせた。
どろりとした嘔吐物がまりさの髪と帽子の間からたらたらと流れていった。
リアクションを期待したのだがまりさはまたもとの場所に視線を戻しただけだった。
困った。
これは一体どうしたものだろうか。
そうだ、とふと私は思いついた。
ひょっとして眠っているのではないだろうか。
目を開けたまま寝ているというのはありうる。
どうすれば起きるだろう。
これだけしてもまだ起きないのだからよほどのことでないとならないだろう。
そうだ、私はぽんと手を打った。
眠り姫を起すのは白馬の王子のキスと決まっている。
そうと決まると私はゲロまみれで異臭を放つまりさに口付けをした。
しかしただのキスでは起きないかもしれない。
私はまりさの口中に舌をねじ込んで胃液の香りがする唾液とまりさの甘い唾液を交換し混ぜ合わせた。
どれほどそうしていただろうか。
私はその内また吐き気がしてそのまま吐いた。
もう殆ど胃液と言っていい私の嘔吐物がまりさの口中へと注がれた。
そしてごくり、とそれが喉の奥へ流し込まれる音がする。
ゆっくりに喉はあるのか、それを気にしだすと私は恐ろしくなってまりさから口を離した。
「何故まりさの純潔を奪うの?」
初めてまりさが言葉を発した。
やったぞ。
成功だ。
とりあえず私はあふれ出る歓喜の念を抑えながらこう言った。
キスくらいで純潔とは少々潔癖すぎるのではないのかね、と。
まりさは表情は愚か体勢一つ変えずにこう返した。
「おおこわいこわい、このケダモノめ」
無機質な声音だったがどこか強い嫌悪感が感じられた。
だが今重要なのは私のことではない、まりさの顎だ。
私は尋ねた。
その顎はなんだ、と。
まりさは応えた。
「顎は顎だろう、お兄さんにはこれが顎以外の何かにみえるの?」
足に見えなくも無い。
「そうか、だがこれは足ではない」
ならばなんだ。
「顎だ」
顎か。
それでは何故そんな風に顎を伸ばしている。
「ぐぐれかす」
スポーツ平和党のアントニオ猪木が出てきたぞ。
「つまりそういうことだ」
わからん。
「ならば永遠にわかるまいまいまい」
そうかお前はマイマイか。
「それは違う」
ところで、と私は前置きを置いて少々気になっていた点を指摘した。
溶けているぞ。
「お前の吐き出した胃液のせいだ
あれは物を溶かす」
そうか。
ゲロまみれのまりさは見る見るうちに溶けていった。
さて、このまま溶けていってしまえばもうあの顎の謎は永遠に解けまい。
だが私は湧き上がるもう一つの疑問をまりさに尋ねた。
そこで私のゲロに溶かされていくと、お前は私のゲロなのか。
胃液なのか。
「それは違う」
何故だ。
「お兄さんの胃液もゲロもお前の中から出たものだ
まりさはまりさだ、おにいさんから出たものではなし」
なるほど、と私は手を打った。
ならば、と私は溶けていくまりさに再び口付けをした。
「むくぅ、何をする
またまりさの純潔を奪う気なの?」
違う、と私は断りを入れてどろどろに溶けていくまりさをゲロごとじゅるじゅると吸っていった。
「何をする、何をする」
一度私の中に入れてからまた吐き出せばどうなるのだ。
私はそう問いかけながらまずまりさの唇を舌を使って嘔吐物に混ぜ合わせながら啜った。
「なるほど、そうなればまりさはまりさではない、ゲロだ」
やはりそうか。
私は満足して口をすぼめて唇の無くなったりさの口の中に侵入させるととまりさの舌をぢゅるんと吸い込んだ。
ゲロが混じっているせいか、喉が胃酸で焼けるような痛みを訴えたがそれでもまりさの舌の喉越しは最高だった。
喋らなくなったまりさをじゅくしじゅくしと吸い上げ頬張り喉を下らせ胃に治めて行く。
まりさの表情は変わらなかったしもがきさえしないが、それでも耐え難い不快感をその目の光が訴えていた。
私は最後に残ったまりさのカケラをゲロと地面に無限を思わせるほど大量にある土ごと吸い込んだ。
これでお前は私のゲロか?
私はゲップをした。
『馬鹿め、それは違う』
ゲップはまりさの声だった。
なんだと、どういうことだろうと私は頭を悩ませはたと気付いた。
そうか、これではゲロではなく単なる胃の内容物だ。
私は眩暈と吐き気を催しその場に倒れこんでまたゲロを吐いた。
最終更新:2011年07月27日 23:56