寓話「フィッシュ・オア・ミート」
無署名小論
週末の午後、あなたは
いつもの銀行のATMに立ち寄りました。
いちばん前に並んでいるのは、画面を見つめる年配の方。
スマートフォンを握りしめ、相手の指示を確かめるように操作しています。
その光景に、あなたは嫌な予感がし、
ガラス戸越しに行内の銀行員さんの姿を目で探すかもしれません。
しかし、あなたが予感を押し殺し、黙って順番を待ち続けても─
法律的な罪になることはありません。
別のあなたは、コンビニでアルバイトをし、レジで接客しています。
そこへ、何枚もの電子マネーのカードを抱えたお客様が現れました。
「全部満額でチャージしてください」
お客様の焦った声と、スマートフォンを離さない手。
あなたは一瞬、「あれ?」と思うでしょう。
ですが、言われたとおりに販売しても─
あなたは犯罪に加担したことにはなりません。
もしかすると、
あなたは家路を急ぐヒールのプロレスラーで、
パンケーキの入った袋を持って駅を歩いているのかもしれません。
見るともなく、視界の端に、初老の男性と若い女性の揉める姿が映りました。
女性の口から、かすかに「たすけて」という声が漏れ聞こえた気がします。
あなたが、そのまま家に帰り、パンケーキを
一人でおいしくいただいたとしても─
何の罪にも問われません。
(報道によると、実在のプロレスラーの方は、
その後、地元の警察署から感謝状を授与されたそうです)
* *
あなたがこのウィキを目にしたのは偶然ではないでしょう。
あなたの画面上には「虎柱」を名乗る「しまむら」が
既に存在しているに違いありません。
もし、あなたが、お腹を空かせたツキノワグマに「どんぐり」を与えた場合、
あなたは “人道的な罪” を犯したことになりますか、なりませんか。
このウィキはATMの張り紙であり、
電子マネーの注意書きであり、
あなたはただの一般人です。今は、まだ。
さあ、おいしいパンケーキを食べましょう。
最終更新:2025年11月28日 00:24