なのは。

高町なのは。

私の大切な友達。

八神はやて、シグナム、ヴィータ。

「…………誰?」

フェイト・テスタロッサは名簿を確認しながら自分のグル―プに入っている見慣れない名前に首を傾げる。
どうやらこの会場で私が知ってる人間はなのはしか居ないらしい。
少し寂しくなり、幸運にも支給品として鞄に入っていた長年共に戦ってきた相棒をぎゅっと抱きしめる。
でも、このバルディッシュも自分の知っている形とは違う。
そう遠くない未来、名簿に載っていたヴァルケンリッター達との戦いの間で新たな力を渇望したデバイス自身が望んで
今持っているバルディッシュ・アサルトにバージョンアップするのだが、現在の彼女はそのことを知らない。
そう考えるとふと自分の事を思い出して気落ちする。

「これから、もう一度始める所だったのに。」

ジュエルシードを巡る一連の事件が終わってからまだ数カ月。

私はお母さんに喜んでもらうために頑張って魔導師になって。
昔みたいな優しかった母さんに戻ってもらうために、戦った。
でも、お母さんの本当の娘はアリシアで。私はあの娘のクローンの失敗作だった。
……お母さんは最期まで私のことを見てくれなかった。
私は生まれてきちゃいけなかったのかな?
それでも、私を見てくれたのは……。
頭につけている、なのはからもらったリボンに手を触れる。
―――ここに、なのはも来てるんだ。
じゃあ、助けにいかなきゃ。約束したんだ。なのはは私の友達なんだから。
短い詠唱を唱え、バリアジャケットを身に纏う。

「行こうバルディッシュ。
 ……ところで、あなたは誰ですか?」

立ち上がると同時に、座っていた建物の物陰に向けてデバイスの先端を向けた。

「ま、待ってくれ!俺は敵じゃない!」

物陰から姿を現した両手を上げた少年。
それはパーティー会場で気絶した後土御門に運ばれて会場へ連れて来られた上条当麻だった。
油断は出来ないがそのいかにも無害そうな雰囲気を見て、フェイトの緊張が解かれる。

「……手を下ろしてください。」
「あ、ああ。すまない。驚かして悪かった。俺はこんな殺し合いなんか乗ってない。
 俺は上条。上条当麻だ。よろしく。」

当麻はフェイトに手を差し伸べた。それを見て少し考える。
この男、悪い人間には見えないが果して見ず知らずの人間を信用などしていいものなのか。
ましてはここは殺し合いの会場。友好的に接してきていきなりふいをうたれる可能性も。

(……大丈夫。落ち着いて。)

今までの自分のままじゃ駄目だ。なのはや、まだ短い時間しか接してないけどハウラウン艦長とも
仲良くなろうとしていたところだ。この男が怪しい動きを見せたらすぐ魔法で拘束すればいい。
まずは名前を呼ぶこと。相手に名前を呼んでもらうこと。それから始めなきゃ。

(これから新しい私が始まるんだ。だから、信じよう。)
「ええ、こちらこそよろしく上条さん。私はフェイト。フェイト・テスタロッサです。」

にっこり微笑んだフェイトは当麻が差し出した手を握った、


―――その瞬間。






パリーーーーーーン。






「……え?」
「―――んなっ!?」

鏡の砕けるような音と共に、フェイトのバリアジャケットが粉々に砕け散った。

―――幻想殺し(イマジンブレイカ―)。

上条当麻が無計画にもうっかり差し出してしまった右手に宿るこの世のありとあらゆる異能の力を無力化し打ち砕く神の力の片鱗である。
それに触れたものはどのような威力を秘めていようが魔術や超能力の類のものである限り打ち消され消滅する。
当然、それそのものが魔術によって構成されているフェイトのバリアジャケットも例外ではなく。

何が起こったか分からずしばし茫然と佇んだフェイトは視線を下に下げていき、
自分が生まれたままの姿を無防備に晒していることに気付いた彼女はみるみる顔を紅潮させ、

「き……きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「わぁぁぁぁぁぁぁぁ!?ご、ごめっ……うわっ!?」

間が悪い事にフェイトが咄嗟に振りほどこうとした手に引っ張られ、当麻はバランスを崩して倒れこんでしまう。

「いてて……あ……。」

上半身を起こした当麻の瞳に、自分の下敷きになっている少女の怯えた顔が写る。
その右手はフェイトの膨らみかけの乳房を鷲づかみにしていた。

(バルディッシュ!!!バルディッシュ!!!返事をして!!お願い!!)

当然ながらまったく男性に免疫がないフェイトだが日ごろの勉強好きが災いし
少なからず性行為と特殊性癖者の知識がある為、今自分が置かれている最悪な状況を理解してしまう。
恐怖で顔が引きつり、歯をカタカタ鳴らしながら必死で手を伸ばそうと足掻きデバイスに呼びかける。

(どうして!?どうして応えてくれないの!?……なんで!?体が動かない!?)

ありとあらゆる異能の力を封じ込める幻想殺しは人造魔術師であるフェイトから魔力はおろか筋力までも奪っていたのだ。
フェイトの体に当麻の右手が触れている限り、彼女は身動きすらとれない。
当麻がショックで膠着しその場を動けないでいる間に事態はどんどん悪化していく。
なんてことだろう、自分の認識がが甘かったばかりに。
フェイトの瞳にうっすらと涙が溜まっていった。

(……ごめん、なのは。キミを守りたかったのに、これじゃ……。)

覆いかぶさる男の理解不能の力で己の力を完全に封じられ、
残された数少ない信じられるもの、そのすべてを一瞬で失った彼女はもはや只の少女に過ぎず、

「嫌ぁぁぁぁぁぁ!!!離してぇぇぇぇぇ!!!
 助けて!!!!!!!!助けてぇぇぇぇ!!!
 なのは!!!!なのはぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

魔導士のプライドをかなぐり捨て、声の限り泣き叫ぶしかなかった。


◆ ◆ ◆


「なんだ!今の悲鳴は!?」

建物に反響した少女の叫び声を聞いた革のツナギを纏い肩にプロテクターを付けた男、ケンシロウは駆け出す。

ラオウとの決着をつけ、ユリアと最期の時を共に過ごした彼は再び今だ乱世治まらぬ世紀末の日本を彷徨っていた。
だがしかし元々生き方の不器用な男。携帯していた食糧と水が底を尽き、生き倒れそうになっていた所を会場に召喚され
一命を取り留めたのである。食糧も水も碌にない荒廃した世紀末の世界から来た彼は会場での豪華な料理に唖然とし、
本能赴くまま貪り食った。特に幼い頃食べて以来二度と食することはないだろうと思っていたビーフカレーの味は
感動のあまり号泣するほど美味であった。だが幸せな時間はそう長くは続かない。アナウンスとともに戦場に駆り出される
事になる。やや落胆したがさほど気にする事でもない。ここが本来の彼の生きる世界なのだから。

死ぬなら一人戦場で。それが北斗神拳伝承者の宿命である。

しかし最後の一人になるまで殺し合えというルールには迷いが生じる。彼は今まで様々な悪党を残忍な方法で殺してきたが
それは相手が同情の余地のない悪党だったから冷酷になれたのであり、本来優しい性格の男である彼は果してこの会場に
そんな悪人ばかり連れて来られているのかは疑問であった。もし罪もない民衆が戦いを強要されているのなら
彼らを助けてこのゲームの主催者を打倒せねばならない。

だが、悲鳴を聞きつけ駆け付けた先で見た光景はその迷いを払拭させた。

「貴様ぁぁぁぁ!!!何をしている!!!!!!」

ワイシャツを着た青年が歳端もない金髪の少女を全裸に剥いて組み抱き、今まさに襲おうとしていた所だったのだ。
一瞬で怒りが頂点に達したケンシロウは目の前の悪党を殲滅すべく飛び蹴りを放った。

「この変態が!!ホワタァッッッッッ!!」

「うわぁ!?」

突然の襲撃に長い膠着時間からようやく解放された青年、上条当麻は持ち前の反射神経で飛び蹴りを回避し、
地面をごろごろ転がった。

「スマン!俺が悪かった!謝る!でもこれは違うんだ!これはっ……!」

なんとか弁明しようとする当麻から少し目を離し、金髪の少女をちらりと流し見る。
よろよろと上半身を起こした全裸の少女は手で胸を隠してカタカタ震えていた。
その様子を見て、ケンシロウの着ていたツナギが音をたてて軋む。

「貴様…年端もない幼女を襲い純潔を奪うなどと畜生にも劣る外道を働いた上、更に言い訳を重ねるだと…?」

筋肉が隆起して上半身の服がプロテクターごと破け、怒りと共に胸についた七つの傷を露わした。

「テメェに明日を生きる資格はねぇ!!!!」

「う……うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

死の危険を感じた当麻は背を向けて全力で逃走を図る。
だがいつの間にか廻り込んでいたケンシロウの体にぶつかった。

「……逃げられるとでも思ったか?」
「畜生ぉ!!不幸だっ!!不幸だぁぁぁぁ!!!」

ヤケになった当麻は今まで数々の強敵を打ち破ってきたその拳でケンシロウに殴りかかった。
それを廻し受けの要領で軽く受け流し、

「アタァッ!」

当麻の右腕に指を突き刺した。
腕を押さえてよろめく彼にケンシロウは更なる追撃をかける。

「アタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ
 タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ
 タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ
 タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ
 タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタホワタァッッッッッ!!」

―――北斗百烈拳。

一秒間に三十発の連撃が当麻を襲い、彼は後方へ吹き飛ばされた。
なんとか踏み止まり、あれだけの連打を喰らったにも拘らず自分がさほどダメージを受けてないことに気づく。
恐らく男は異能の能力を使い、幻想殺しがキャンセルしたのだろうと安心したのもつかの間。

数秒遅れて、右腕が変色し風船のように脹らみ始めた


「ば、馬鹿な!!幻想殺しが!?」

さて、その引き起こす怪奇現象の数々から誤解されやすいが、北斗真拳は異能の力ではない。
中国拳法をベースにしたれっきとした格闘技術なのだ。
全身に存在する経絡秘孔を突かれた相手は肉体のコントロールを失い内部から破壊される。
やがて筋肉の膨張が全身に広がった当麻に向けてケンシロウは冷酷に告げた。

「―――お前はもう、死んでいる。」


ボンッ!


「そげぶあべしたわばっっっっっっ!!!?」

全身の血管が破裂し、断末魔の悲鳴を上げながら上条当麻は散った。




理不尽な暴力によって善良な人々の命を踏みにじろうとする略奪者の前に立ち塞がり、
その拳をもって悪党どもの頭蓋をぶち抜き、心臓を掴みだす。
勧善懲悪のシンプルな世界観が蘇ったこの時、ケンシロウの魂は興奮に震えた。
この殺し合いを強いる会場でも同じだったのだ。これからも蔓延る悪党を成敗し
力なき民衆を助ける事にしよう。それが力を与えられし者の使命なのだから。

さて、次の問題はその力なき民衆である少女に何と話かけるかである。
こんな場所に全裸の幼女を放置するなどという危険な真似はできない。
だが不器用な男である彼が気のきいたコミュ二ケーションなど出来るのか不安であった。

「やぁお譲ちゃん、もう大丈夫……?」

振り向いたケンシロウは少女を見て違和感を感じる。
いつの間にか立ち上がっていた彼女は黒いレオタード状の衣装を纏っていたのだ。
何かがおかしい。その感じた疑問が致命的な隙となった。

「……バインド。」

突如足元に現出した光の足枷が、ケンシロウの両脚を拘束した。

「何っ!?」

「あはっ。あはははっ。治った!治ったよ!」

顔を上げて高らかに笑う少女の表情は、既に正気の人のそれでは無い。
手に持っている杖に向かって喋りかける。

「ねぇバルディッシュ、あなたの新しい力を見せて。」

その瞬間、杖が光を纏って変形し、自身の身長を遥かに越える巨大な両刃剣と化した。

「な……に……?」

――――バルデッシュ・ザンバーフォーム

バルディッシュ・アサルトが身に付けたアックスフォーム、サイズフォームに続く新形態であり、
文字通りどこかの竜殺しを彷彿とさせる大剣の姿である。その光の刃を、

「せぇーーーーーーのっ!!」

そのまま何の躊躇もなくケンシロウに向けて振り下ろした。

「う……うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

身動きの取れないケンシロウは咄嗟に両手で挟んで刀身を受けとめようとするも、
プラズマで形成された刃は素手で受け止めるなど出来る筈もなく、
北斗神拳の命である五対の指を瞬時に炭化させ、
(―――お前のような幼女がいるか。)

世紀末の救世主は真っ二つに両断された後瞬時に灰塵と化し、その戦いの人生を終えた。


◆ ◆ ◆


…………始めて人を殺した。
でも、だから何だというのだろう。
元々攻撃魔法というのは対象を殺す為に存在するもの。
私は本来の使い方を行使したに過ぎない。

私を助けてくれたあのおじさんには悪い事をしたけれど、
この場には他に試し斬りが出来るいい的が無かったので仕方がない。

あぁ、少しお母さんのことを理解してしまった。
人間ってどうしても叶えたい目的を見つけたら凄く残酷になれるんだね。
あははっ、やっぱり私たちはちゃんと親子だったんだ。

北斗神拳伝承者のごとき残虐な心を手に入れたフェイトにもはや隙はなかった。
デバイスを待機状態に戻し、壊れた少女はバリアジャケットを維持したままふらふらと歩きだす。

――――なのは。

私にたった一つ残ったもの。

この力で、私がキミを守るんだ!



【上条当麻@とある魔術の禁書目録 死亡】
【ケンシロウ@北斗の拳 死亡】


【B-6 市街地/1日目・深夜】

【フェイト・テスタロッサ@魔法少女リリカルなのは】
【状態】 精神崩壊
【装備】バルディッシュアサルト、 バリアジャケット
【持ち物】ランダム支給品1~8、基本支給品一式
【思考】
基本:私がなのはを守る
1:もうなのは以外信じない
2:誰でもいいから参加者を捜して殺害の実践をする

【備考】
※第一期終了直後からの参戦です



チョーシに乗るな 時系列順 命を救うために
チョーシに乗るな 投下順 命を救うために
GAME START ケンシロウ GAME OVER
GAME START 上条当麻 GAME OVER
GAME START フェイト・テスタロッサ こぶし

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最終更新:2014年07月30日 23:00