火浣布

  • 火で焼いても燃えないとされる、伝説上の布。
   使用して汚れても、火の中に投じる事で汚れのみ落とし、布はまた使えるという。

  • 捜神記』にも火浣布の記事がある。

  • 紀元300年ごろの『拾遺記』に、燕の昭王2年に海人たちが献上した油の記事があり、
 そこで竜の脂を燃やした灯火を見せたが、
 そこで使われた灯心は火浣布であったという。

  • プリニウス『博物誌』第八巻の羊に関する記述の中に、
   「自然にフェルトになった羊毛は衣服になる。そしてそれに酢が加えられると、鉄はおろか、最新のクリーニング方法である
   火にも耐える。事実艶出し師の銅釜から出てきた羊毛はクッションの詰め物として役立つ」という記述がある。
(zsphereコメント:素直に読むなら、プリニウスのこの記述は石綿ではない可能性もあり、注意を要する。
          羊の毛から出来た布でも、あるいは軽く炙るような方法が無かったとも言えないし……)


  • 実際には、石綿を使用した布の事を指すと思われる。

  • ヨーロッパでは、早い時期から羊毛を織る技術が発達したため、石綿による織物も早く登場していた。
   古代ローマ時代には、貴族向けのテーブルクロスなどが製作されていたという。



  • 日本では平賀源内が『火浣布略説』などを刊行した事で著名。
   (ただし日本には石綿を織って布にする技術が乏しく、大きな布を織る事はできなかった)


  • マルコ・ポーロ『東方見聞録』にも、おそらくこれを示すと思われる記述が載る。
   「チンニータラス」という地方(恐らくは天山山脈とアルタイ山脈の間のどこか)で、サラマンダー
   産出する鉱脈があるとし、このサラマンダーは動物ではなく、鉱脈から採取して砕く事で見出される
   羊毛状のものであるという(記述から見て、石綿を指していると見られる)。
   これを乾かし、大きな鉄の乳鉢で洗って土をすべて流し去り、残った糸を紡いで布を織る。
   これを火の中に入れてから引き出すと雪のように白くなり、汚れた時はいつでも火の中に入れればきれいになる。
   またマルコ・ポーロは、ローマにはフビライ・ハーンから送られた非常に立派なサラマンダーの布があり、
   これはイエス・キリスト聖骸布を包むために使われている、と記している。



      参考文献

『プリニウスの博物誌 Ⅱ』
『図説中国の科学と文明』ロバート・テンプル
『平賀源内を歩く』奥村正二
『マルコ・ポーロ 東方見聞録』

最終更新:2016年04月12日 05:50