トキ

  • ギリシア語でトレスキオルニス「神聖なthreskos鳥ornis」と呼ばれる。
   オウィディウス『変身物語』で、ヘルメス神は怪物テュポンの接近を知り、
   トキに姿を変えてオリュンポス山を脱出したという。

  • 一方で、湿地に棲む雑食性の不潔な鳥というイメージもあり、
   キリスト教世界では肉欲、不浄、冒涜の象徴でもあったとか。

  • 古代エジプトではこの鳥を神聖視していたらしく、ナイル川の氾濫を人々に知らせたともいわれる。
   エジプト神話トート神は、トキの頭にヒヒの体を持つ。
   また、オシリスが人間の魂の重さをはかる際、この鳥が書記を務めるとも言う。

  • 日本では、『延喜式』に、伊勢神宮の神宝である太刀の柄にはこの鳥の羽を使うように、
   との記載がある。現在も伊勢神宮の式年遷宮の際には、そうした太刀が儀式に使われているという。

  • 『重修本草綱目啓蒙』に、トキの糞には毒があるため、生息地には草木が生じない、という記述がある。

   昔、左甚五郎がこの地に神社を建てる事になった際、作業中に腹が減ったので
   近くにいた農民に握り飯を乞うたが断られ、仕返しに杉の赤味を削り、
   その屑で鳥をいくつも象り、息を吹き込むと、鳥は生命を得て田畑を荒らしまわったという。
   ただ甚五郎は怒りのあまり鳥に鼻孔を開けるのを忘れてしまい、だからトキは今でも
   鼻声でドウドウと鳴く、という。
   東北地方ではこの鳥をドウ、あるいはドウドウと呼ぶという。
   実際にはこの種の鳥の鼻孔はくちばしの上面にあり、長い溝状をなしているとか。

(『世界大博物図鑑 鳥類』荒俣宏)


最終更新:2012年05月04日 16:27