ディープボンド(競走馬)

登録日:2023/07/24 Mon 02:38:48
更新日:2024/04/28 Sun 18:10:58NEW!
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ディープボンド(Deep Bond)とは日本の現役競走馬である。
ディープボンドという名前だが、父はディープインパクトではなく、ディープインパクト産駒のキズナであり、この馬の名前は、祖父と父の名前(絆を英語に訳すとBondになる)を繋げたものである。

目次

【データ】

誕生:2017年2月18日
父:キズナ
母:ゼフィランサス
母父:キングヘイロー
調教師:大久保 龍志 (栗東)
馬主:前田 晋二*1
主戦騎手:和田 竜二
生産者:村田牧場
産地:新冠町
セリ取引価格:1,782万円 (2018年 セレクションセール)
獲得賞金:6億7,568万円 (JRA) 6億8,505万円(海外含む)*2
通算成績:24戦5勝 [5-5-2-12]
主な勝鞍:20'京都新聞杯、21' & 22'阪神大賞典 22'フォワ賞
特記事項:21'-23'天皇賞・春 2着 21'有馬記念 2着

【誕生】

父はキズナ、ノースヒルズ所有の2013年ダービー馬で種牡馬として一線で活躍している一頭。
母はゼフィランサスで、キングヘイローを父、名牝・モガミヒメを母に持つ。

ディープボンドはキズナの初年度産駒であり、その持ち味の体躯に反した頑丈さなど、キズナの種牡馬としての切れ味以外の優れた特性を証明している。
また、ディープボンドの登場から母父のキングヘイローの価値が急上昇。ディープインパクト/ブラックタイドとのニックスが明らかとなり、同じく母父キングヘイローであるイクイノックスの登場前夜にして、現在の人気を決定付けた一頭と言えるだろう。
キズナもキングヘイローも瞬発力とキレ味に優れていた馬なだけに、後述する代名詞とも言えるズブさが誰の遺伝なのかは永遠の謎

牝系のモガミヒメは他にもローレルゲレイロやノースブリッジなど活躍馬を増やしており、その先祖・クリヒデはまだ3200mだった頃の天皇賞・秋を制したステイヤーの牝馬。
さらに遡ると戦前に日本に移入されたセレタと「英月」の名も持つテツバンザイを出身とする、いわゆる古き良き在来牝系の一つである。
キズナもキングヘイローも牝系も気性難として知られるが、そのプボあじがどこから来たのかも永遠の謎

【戦績】

クラシック前夜まで


2019年10月13日の2歳新馬戦でデビュー。この時は3着と勝ち上がりを逃すも、次の2歳未勝利戦で勝ち上がりを果たす。
未勝利戦で2着のアイアンバローズとは今後も同じステイヤー路線で幾度となく戦うライバル関係となり、後にはアイアンバローズの弟のジャスティンパレスも巻き込んだ因縁の始まりとなっている。

その後は皐月賞まで特に勝利もなく、皐月賞では優先出走権を得られずに抽選での出走となった。

クラシック ~遥か遠き戦友の背中~


なんとか出走権を手に入れて迎えた皐月賞。これまでに特に目立った活躍もなかった上に、鞍上の和田竜二騎手は制裁による騎乗停止中*3で横山典弘騎手に乗り替わり。最低人気の18番人気で出走となってしまう。
それでも騎手はディープボンドの戦法を見抜いていたのか、果敢に前に出る先行策を取る。後々のレースも自らのズブさを補う先行策で好走し続けたことからも、自分のお手馬でないとはいえ横山典弘騎手の経験が生きたといえるか。
結果は同馬主にして後の三冠馬コントレイルの勝利。ディープボンドは10着であったものの、後々適性外のレースであったことが明らかとなったことと、それでも10着と人気よりも遥かに高い着順を得たことから、その当時としてはよく戦ったと言えるだろう。

さて、ディープボンドは当時一勝クラスで、重賞の2着経験もない。明らかな問題として、日本ダービーの出走権を手に入れるのは極めて困難であった。
そこで選択したのが京都新聞杯(GⅡ)であった。皐月賞と日本ダービーの間にあり、各中二週と過酷なローテーションになるが、何としてでも日本ダービーに出たいディープボンド陣営にとっては他に選択肢はなかった。

鞍上は和田竜二騎手に戻り、迎えた京都新聞杯。良いスタートを切るもののハイペースと見たか、中団で待機することとなる。
そして迎えた第3コーナー、ディープボンドは京都名物の下り坂を利用して先行勢と横並びに。
スタミナを切らして垂れた他の馬を抜き去り、最後は一着でゴール。ただの一勝馬から、一気に重賞馬の仲間入りを果たした。
良いスタートから好位に付け、下り坂を利用してズブさを補いながらスタミナを切らした他馬を置き去りにする、という戦法はディープボンドが古馬に至るまで一貫して貫き続けているものであり、そのスタイルはここで一つの形に至ったと言えるだろう。

迎えた日本ダービーは8番人気。
スタートから3番手につけ、2番手には同じくノースヒルズの前田幸治氏のコルテジアと4番手にコントレイルが来たことで、ノースヒルズの勝負服が3つ並ぶ珍事となった。
第3コーナー以降は2着まで登ってくるものの、スローペースでスタミナを温存したコントレイルとサリオス、ヴェルトライゼンデ他に抜き去られて5着に終わる。
2着のサリオスに3馬身差をつけたコントレイルの強さはもちろんだが、スタミナが足りていたとしても足がキレないズブさに悩まされる結果となった。

続く神戸新聞杯はやはりコントレイルとヴェルトライゼンデに悩まされて4着となり、クラシック最終戦・菊花賞に向かった。

7番人気の菊花賞。
ディープボンドは5番手からの競馬となり、そのすぐ後ろにコントレイルとアリストテレスが付く形に。一周目の下り坂で逃げ馬との差を近づけるなど、順調にレースを進める。
そしてやはり淀の下り坂から加速、一時は2番手まで上がるなど好走する。
そこで上がってきたコントレイルとアリストテレス。この二頭はディープボンドの後ろで、末脚を発揮させる機会を今か今かと待ち構えていたのだ。
コントレイルとアリストテレスの叩き合いの末、コントレイルが三冠馬となる一方でディープボンドは4着という結果。しかしながら鞍上の和田竜二は、他に切れる馬がいただけでディープボンドは長距離でもスタミナを切らさずに最後まで戦い抜けると見抜く。
そしてディープボンドは古馬では、主に長距離に活躍の馬を置くことになった。

4歳 ~遠くを望めど、未だその景色だけが~


4歳最初は中山金杯に挑むも、2000mは短すぎたか、あるいは古馬の壁が厚かったのか14着。

本格的なシーズン開始は阪神大賞典から。菊花賞2着馬アリストテレスの影に隠れ、3番人気、単勝は10.3倍とそれほど高い期待を寄せられていたわけではなかった。
そして馬場は重馬場、長距離でもあって非常に負担の大きいレースとなる。
しかしながらいつものように好位に付けると、逃げるツーエムアロンソとそれを追うシロニイの生み出す馬場に比して早いペースに順応して先行をキープ。
他の馬が思うように末脚を発揮させられない中、上がり3位の36.9とペースを落とさずに走り抜け、壊滅する後ろを置き去りに5馬身差を付けて一着。
大番狂わせでありながらも、強みを見せたレースとなった。

続く天皇賞・春では、阪神大賞典の圧勝を受けて1番人気に。今回は良馬場であったが、5馬身差の衝撃は大きかったのだろう。
今回も4番手~3番手の先行につけ、逃げるディアスティマの作り出すハイペースに追随。
前半1000m59秒台という3200mとしては超ハイペースであったが、これを逃げ馬から少し離れた距離で追うことで順応した。
最終直線、他の馬が壊滅していく中でディープボンドは着々と順位を上げ…と、そうは問屋が下ろさない。
ディープボンドの後ろから機を見たワールドプレミアがぬるりと現れ、レコード勝ちをかっさらって行ってしまった。
結果は2着と、最後の最後で強い馬に及ばなかった。

天皇賞の後、選んだ次走はなんとフランス。同馬主の父・キズナの取れなかった凱旋門賞を目指し、まずは前哨戦のフォワ賞へ向かうことになった。
フランスへ到着し、流石にガレているかと思われたが、その馬体はむしろふっくら。フランスでの動画撮影の場でも道草を食むなど、長距離輸送に対して全く応えていない様子を見せた。

フォワ賞はC.デムーロを背に、なんとまさかの逃げを敢行。…というよりも、スローペースに対してマイペースで走った結果だろう。
そしてフォルス・ストレートの長い下り坂を利用して加速、最終的にはGⅠ・サンクルー大賞馬のブルームを下してなんと一着となった。
父・キズナ譲りのフランス芝適性を見せ、続いては本番の凱旋門へと挑む。

…が、凱旋門賞のロンシャン競馬場は重馬場。ディープボンドは日本の重馬場での勝利経験があるが、フランスの重馬場は日本、特に整備された阪神の比にはならないほど重い
ヨーロッパの芝は天然の芝を少しいじって利用しているため、芝にとどまらず土まで重く、それに慣れていない日本馬にとってはあまりにも厳しかった。
結局、鞍上のバルザローナはディープボンドを無事に日本に帰すために勝負をしないことを選択。大差でのしんがり負けとなってしまった。

日本に帰国したディープボンド。コントレイルがジャパンカップで最後の軌跡とともにターフを去り、迎えた有馬記念。
ディープボンドは5番人気、コントレイルを下したエフフォーリアが1番人気であった。
まずはパンサラッサが先頭に立ち逃げる形。パンサラッサの適性距離よりは長いものの、それでも最初のスピードは健在。それをタイトルホルダーが追う形となるが、ディープボンドは5-6番手を維持。
そして最終直線、タイトルホルダーを捉えようとするディープボンドにエフフォーリアが待ったをかけた。
一度抜かれたディープボンドは再びエフフォーリアを差し返そうとするも、エフフォーリアは最後にさらに加速。ディープボンドはまたも2着に泣くことになった。

5歳 ~されど時代は猛威を振るい~


始動は阪神大賞典。連覇を狙うディープボンドは1番人気。
逃げ馬キングオブドラゴンにアイアンバローズが先行し、ディープボンドは中団6番手でレースを進める。
スタミナをもたせたまま軽々と追走し、最終コーナーに入ってから一気に前に出る。
そして最終直線、上がり最速、ディープボンドの国内最速の上がりでアイアンバローズを抜き去り一着入線。強い競馬を見せつけた。
特にこれまでのディープボンドのスタイルとは真逆の、スローペースからの瞬発力戦を制したこの内容は、着差こそ小さいものの同じ阪神大賞典組との確かな格付けの終わりを示すものであった。

続いて挑むは昨年惜敗した天皇賞・春。
追い切り前にモーイと聞こえる鳴き声を撮られて後々に様々な議論を呼び起こすことになったり、さらには馬体について怪文書を書かれたり(後述)色々とあった。
さて、このレースは昨年の菊花賞馬・タイトルホルダーとディープボンドの一騎打ちと見られていた。お互い前哨戦を強い内容で勝利していただけに、別路線組含めて伏兵の介入余地が小さいレースだったのは間違いない。
ただそんな中でも有馬記念で先着している事や、日経賞でのタイトルホルダーの勝ち方より阪神大賞典でのディープボンドの勝ち方の方が馬券購入者には好印象となったか、最終オッズはタイトルホルダーが4.9倍なのに対し彼は2.1倍の1番人気。一強に近いオッズで落ち着いた。枠順はタイトルホルダーは8枠16番、ディープボンドは8枠18番に入る。
波乱を起こしたのは、8枠17番のシルヴァーソニックだった。スタート直後にシルヴァーソニックが躓いて鞍上の川田将雅騎手が落馬。逃げるタイトルホルダーの直後にぴったりとくっついてしまったのだ。
これでは空馬の危険性を考えて追うものも追えず、特に唯一シルヴァーソニックよりも外枠だったディープボンドには大きな不利となってしまう。
最終的に、3着・テーオーロイヤルを抜き去るもタイトルホルダーと、空馬のシルヴァーソニックに7馬身差をつけられてしまう。
タイトルホルダーはたしかに強かったし、落馬も全力を尽くしてもどうにもならないこともある。不完全燃焼感は否めないものの、タイトルホルダーが天皇賞で見せた強さは本物。これを打ち破らなければ1着はない、そう考えた陣営は次の宝塚記念である奇策を見せることになる。

そして迎えた宝塚記念。宝塚記念は芝2200mで距離こそ短いもののタフなレースであり、長距離馬であることがそれほど不利につながらないレースとされる。
故に、ディープボンドと和田竜二騎手は手を打った。稀代の大逃げ馬、令和のツインターボ改め世界のパンサラッサとそれを焚き付けつつ追うタイトルホルダー。その後ろにぴったりとつけたのである。しかもスタートから鞭を打ちながら
大逃げ馬にステイヤー二頭がぴったりとつけたことによって、他の馬もこれを追わざるを得なくなる。ついにそのペースは前半1000mが57.6という宝塚記念ではまずありえない、狂気のハイペースとなった。
最終直線でついにパンサラッサが音を上げ、タイトルホルダーを抜き去れば…とはならなかった
タイトルホルダーは最終直線でさらに加速。さらにヒシイグアスとデアリングタクトにも抜き去られて4着。
結果、タイトルホルダーが最強の名を轟かせることとなった。勝ちに行った結果とはいえ結果は馬券外入線。鞍上の和田も「無茶をさせた」と振り返る程の激しいレースは終わり、ひとまず彼の夏休みが始まることとなった。

次走は、この年もフランスに向かうことになった。ただし、今回はステップレースを挟まずに凱旋門賞に直行している。
同じく遠征したのはタイトルホルダーと2022年ダービー馬・ドウデュース、そして当時珍しくなっていたステイゴールド産駒・ステイフーリッシュ。特にタイトルホルダーとは、ストーカーか何かと見紛うばかりの路線被りである。
…が、今年もまたしても雨。ヨーロッパの芝の特性上、事前の干ばつで水撒きを行わなければならなかったことも相まって、またしても日本馬には無理なレベルの重馬場になってしまった。
それでも、鞍上・川田将雅騎手はタイトルホルダーを追い、前目での競馬を行う。最後3ハロンは追うのをやめて18着になったものの、おかげで重篤な不調もなく帰ってくることが出来た。

2022年最後のレースは有馬記念。鞍上は川田騎手のまま挑むことになる。
相棒の和田は人気投票でなんとか出走権利を手にした同期の牝馬・ウインマイティーに騎乗し、今度はライバルとして戦うことになった。
相手は宿命のタイトルホルダー、エフフォーリア、そして天皇賞・秋でパンサラッサを差し切り、圧倒的な強さを見せたイクイノックス。
そして運命の枠順発表、引いた枠順は8枠16番。有馬記念はスタート直後の直線が短いため、大外が極めて不利とされており、1着どころか3着以内に入った馬すらいない死の枠順を引いてしまった。同じく大外芸人と言われていたイクイノックスとタイトルホルダーとの大外争いに勝ってしまったとにわかに話題になった。
しかも前日の輸送時、雪による交通規制で馬運車が雪の中で止まってしまう。なんとか中山競馬場にたどり着くものの、絶不調でレースを迎えることになってしまった。
だがしかし、それでも闘魂が衰えないのがこの馬の強みである。3番手から果敢に競馬を行い、常に先行を保ち続けた。
それでも、有馬記念の大外不利を体現するかのように、常にコーナーの内側を馬で塞がれ、ずっと外を回り続けた結果、さすがのディープボンドも疲れが出てしまった。
それでもなんとか垂れずに粘り、結果は8着。この状況で8着ならば、凱旋門賞の疲れが出た結果ではないように見える。

6歳 ~深く、絶えず、紡ぎ続ける 故に絆~


2023年も始動は阪神大賞典で、3連覇を目指す。
しかし、2023年の菊花賞馬、および好走馬は粒揃い。菊花賞馬のアスクビクターモアは日経賞に行ったが、3着ジャスティンパレスと2着ボルドグフーシュが阪神大賞典に出走した。
展開としては、アフリカンゴールドが逃げ、ディープボンドは2番手で追う形となる。
しかし、アフリカンゴールドがそもそも極端な逃げ馬というわけではなかったため、良馬場の阪神大賞典としてはスローペースの1000m64.9秒。ディープボンドとしては苦手な展開の上がり勝負となってしまう。
結果としてはジャスティンパレスやボルドグフーシュに次々と抜かれて、5着に終わる。後に調教師が語ったことによると、冬休み明けで調子が上がりきっていなかったことも敗因の一つだという。

3度目の天皇賞・春。阪神大賞典のジャスティンパレスとボルドグフーシュ、そして去年のタイトルホルダーへの雪辱、何よりGⅠ初勝利を目指してディープボンドは挑む。
まずはタイトルホルダーが逃げ、それをアスクビクターモアとアイアンバローズが追う。…が、ディープボンドは中団5番手。因縁を持つタイトルホルダーを無理に追わない。
それもそのはず、天皇賞・春としてはかなり早めの1000m59.7のハイペース。速いと見たか和田竜二、である。
レースも中盤頃、アクシデントが起こる。タイトルホルダーがハ行を起こし失速、競争停止となってしまう。
その隙を付き、アイアンバローズが先頭に立つが、ほどなくして淀の最後の下り坂。ここはディープボンドの射程圏内である!
最終コーナーにして先頭に立ったディープボンドであったが、それを虎視眈々と狙っていたのは阪神大賞典馬にしてアイアンバローズの弟、ジャスティンパレス。鞍上ルメール騎手は、はじめからディープボンドのペースを利用して抜き去るのが狙いだったのだ。
そして最終直線にして上がり最速でぶっちぎり、結果は2馬身半差、ジャスティンパレスの一着。前年の空馬・シルヴァーソニックも上がり二番目で突っ込んで来たが、こちらは振り切ってディープボンドは2着となった。
なお、これによりディープボンドは賞金が6億4591万円となり、GⅠ未勝利馬最高賞金となっている。同時に、同一GⅠ三連続2着の記録も達成する、ある意味では歴史的な2着となった。

さて、2023年春シーズンの最後のレースに選んだのは宝塚記念だった。
2023年の宝塚記念はジャスティンパレスにイクイノックス、前年の最優秀4歳牝馬のジェラルディーナまで出走するドリームマッチとなった。
前年のようなハイペースとはならないというのが大方の事前予想だったが、蓋を開けてみれば前半58.9秒と比較的ハイペースの部類。それほど大逃げではないとされながらも、立派な逃げ馬であったユニコーンライオンをドゥラエレーデが追った結果である。
ディープボンドは7番手と中団で待機。ハイペースだけでなく、宝塚記念特有の暑さと馬場に比したペースからの判断か。実際、ディープボンドより前にいた馬はいずれも二桁着順に沈んでいる。
途中ジェラルディーナに前を譲り、迎えた最終直線。その時、恐ろしいことが起こった
イクイノックスが大外をぶん回して天才の末脚で撫で斬りにかかったのである。
潰れた前方を差し置いて後方はよーいドンの末脚勝負、これはディープボンドに分が悪い。
最後の最後で何頭か差し返したものの、結果は5着。1着のイクイノックス、3着のジャスティンパレス、そして伏兵・2着のスルーセブンシーズの末脚に叩き伏せられた形だった。


2023秋競馬はGⅡ・京都大賞典から参戦。
注目の上がり馬・プラダリアや前年の覇者・ヴェラアズールなど味わい深いメンツとのレースとなる。
当日の雨もあって馬場は渋った重馬場で得意なコンディション、ディープボンドも復帰戦にして和田騎手をパドックで振り落とすなど*4気合が入っているようだった。
いつもの通り集中して抜群のゲートの出を見せたものの、どうしたことかポジションを下げ、二頭に挟まれる形で後方に待機する羽目になってしまう。これにはディープボンド自身も少し驚いたようで、走りながらあたりを見回す様子がカメラに収められている。
そのまま後方で待機したまま第3コーナー。和田騎手の闘魂注入、手綱ガシガシ*5の合図でぐいぐいと前へ。淀の坂も手伝ってさらに加速、重馬場にも関わらず上がり3F35.1、上がり3位の長く強い末脚(!)で前方のプラダリアとボッケリーニを差しにかかる。
しかしながらわずかに距離が足りず、結果は3着。勝てずとも賞金は積み上げられるレースとなった。
実はディープボンドが位置を下げたのは今後のレースに対する布石であり、控える競馬を試したことを和田騎手から明言されている。図らずも二頭に挟まれてディープボンドも困惑するほど位置を下げる結果となってしまったものの、(得意な重馬場の京都とはいえ)閃光の切れ味と評されたヴェラアズールに迫るほどの末脚を発揮した。そしてディープボンドファンはズブいと思っていたディープボンドの意外な末脚に頭を抱えた。


その後はジャパンカップと有馬記念へ参戦。
ただ、GⅠの壁は昨年以前や春より高かった。


ジャパンカップは世界最強の馬イクイノックスを筆頭に、三冠牝馬リバティアイランド、二冠牝馬スターズオンアース、ダービー馬ドウデュース、ご存知ライバルのタイトルホルダーというGⅠ複数勝の馬に加え、世界の逃げ馬パンサラッサ、ディフェンディングチャンピオン・ヴェラアズール等が参戦。現役最強を決めるに相応しい超豪華メンバーが集結し、レース開始前からこの年のベストレースになる事は確実と目された。
果たして本番のレースもその前評判に違わずパンサラッサの大逃げが会場を沸かし、2番手から先頭に立つタイトルホルダーがペースを引き継いで粘りこみ、それを現役最強のメンバー達が追って差す。
その中でも突き抜けたイクイノックスが世界最強の実力を証明し電光掲示板の着順表を豪華メンバーが華々しく彩った。
しかし、彼はその裏でリバティアイランドに序盤ポジション争いを譲ってしまった事もあって後方から見せ場なく10着敗退。経験が薄い東京コースも味方しなかった。


そのまま有馬記念へ転戦。ここでは一足先にターフを去ったイクイノックスと年内休養を決めたリバティアイランドは参戦しなかったものの、ジャパンカップでその後ろで掲示板に載った3頭も共に参戦。
加えて天皇賞・春を制したジャスティンパレスに、今年の凱旋門賞で健闘を見せたスルーセブンシーズ。更にはこの年のクラシックを盛り上げた皐月賞馬ソールオリエンス、ダービー馬タスティエーラも参加し、ジャパンカップに見劣りしない豪華な顔ぶれとなった。また、4歳の有馬記念以降、今年の宝塚記念以外の全てのGIを共にかけたライバル、タイトルホルダーのラストランとなる事も発表されていた。
本レースでは鞍上が主戦の和田から短期免許で来日したトム・マーカンドに交代。加えてブリンカーが装着され、これまでとは全く違う体制が試される事に。
しかしこれは実を結ぶことなく、かつてのライバルが精一杯のラストランを駆け抜け、これをドウデュースとスターズオンアースが制してそのバトンを受け継ぐ中、国内最低着順となった15着敗退。
マーカンドがディープボンドという馬を把握出来ていなかった事や、ブリンカーがレース結果を好転させる結果を生まなかったこともあるが、明らかに春以前とは違う行き足に、それとなく忍び寄るピークアウトの影を見せるものとなってしまった。


多くの同期もかつてのライバルもターフを去ったが、彼の進退は特に発表されず、2024年も現役続行の見込み。


あと少しながらも、未だGⅠに手が届かないディープボンド。
だが、彼の目と背に宿る闘魂が尽きない限り、彼の紡いだ絆が断たれない限り、彼は戦い続けるのだ。
これからも、彼がロングストライドをもって走り続ける道を見続けたい。


【評価】

切れ味のないズブさ、あるいはプボ味?

戦績の項にそりゃあもうしつこいくらいに書いてあるが、この馬は滅茶苦茶ズブい。
武豊いわく、ズブ馬巧者の和田竜二でしか乗りこなせないとまで評されている。
ズブ馬…というと闘争心が足りなかったり、人間の言うことを聞きたくなかったりという馬も多い中、しかしながらこの馬は真逆。
スタートがよく、鞍上の指示もよく聞き、調教師いわく最後までよく走ってくれる馬と言われる。
そのズブさの源は他の馬の比ではない超々ロングストライド。一完歩があまりにも長いため、直線での速度が乗りにくいのだ*6
気性面ではなくストライドの問題で切れ味がないが、むしろ根性についてはある方。最終直線で一度抜かれても最後の1ハロンで差し返そうとする姿が見られることも。
このロングストライドは裏返すと、この馬のスタミナの秘密の一つでもある。

そのズブさを補う走法こそが好位につけて第3コーナーから加速するというもの。スタミナがあるディープボンドより前の馬は総崩れ、後ろの馬は届かないという状況を作り出すのがこの馬の理想とする戦術なのだ。
そして、それを可能にするのが鞍上・和田竜二騎手の体内時計の正確さである。ハイペースであっても、あまりに速すぎる場合は中団に待機することでスタミナを温存できるのも強みの一つとなっている。
故に、他の馬のスタミナを潰せるハイペースや重馬場はこの馬の得意とするところであり、ディープボンドより前にいた馬がタイトルホルダー以外軒並み2桁着順などということもしばしば起こる。
阪神大賞典や21'&23'天皇賞はこのような展開となっている。

だが、だからこそ敗因も分かりやすい。
ディープボンド同様にハイペースに耐えられ、かつディープボンドを上回るスタミナがあるならば、ディープボンドを目標にディープボンドを抜けば勝ちという状況を作り出せば勝てるのだ。
たまにディープボンドが同馬主のコントレイルのためにペースメーカーを買って出たなどという2頭と馬主と陣営と競馬法を愚弄するような発言をするアンチがいるが、これは誤り。
確かに日本ダービーと菊花賞についてはディープボンドがコントレイルに利用されたように見えるが、コントレイルのような強い馬ならディープボンドの後ろの位置に付くのがそりゃ最適解となる。
現に、ワールドプレミアやジャスティンパレスにも同様の負け方をしている。特に、2023年天皇賞・春についてはジャスティンパレス/C.ルメール騎手のジョッキー目線の映像がJRAから公開されているので、ディープボンドのペース取りがいかに優れているかとプボケツの美しさが非常に分かりやすいはずだ。
加えて主戦騎手の和田竜二からはソラを使う節がある事を仄めかされている。故にズブいので早めに加速したいのは山々だが、逆にあまり早くに先頭に立つと標的にされたまま減速してしまう*7。典型的なのが2023年天皇賞・春であり、タイトルホルダーを最後に差し切るプランがマーク対象の故障により想定より早め先頭となってしまい、その結果は上述の通りである。

最強のGⅠ未勝利馬

ディープボンドは2023年7月現在、国内で6億5,854万円、フランスのフォワ賞も含めれば6億6,791万円と、いずれもGⅠ勝利がない馬の中で最高の賞金額を得ている。
しかも、凱旋門賞を勝たなければ賞金がほとんど出ないフランス遠征を2度も挟みながら、というあたりディープボンドの記録は凄まじいと言える。
ちなみに、GⅠ未勝利馬賞金ランキングの2位はキョウトシチーで(地方含め)6億2870万円、おなじみ3着3位はナイスネイチャで6億1918万円である。特にナイスネイチャは賞金が安かった時代であるものの、それでも(特に中央に限っては25年以上抜かされることはなかった)記録を抜き去ったディープボンドが凄いGⅠ未勝利馬であることは疑いようがないだろう。

さらにもう一つディープボンドは記録を持っており、天皇賞・春で3年連続で2着を取っている。
平地の同一GⅠの3年連続2着は非常に珍しい記録であり、他にはワンダーアキュートのジャパンカップダート、クロコスミアのエリザベス女王杯、フリオーソの川崎記念(4度目の挑戦で制覇)の3例のみ*8
勝利がないとはいえ、長い間に渡り強さを保ち続けられることは非常に困難なことであり、それを成し得たことは一つの大記録と言えるのではないだろうか。
なお、3頭の3年連続2着レースのうち、どの馬も最低一度は和田竜二騎手が騎乗している。
また、出走歴がほとんどない東京競馬場はともかく、それ以外の主要四場*9の内三場で高い適正を見せ、毎回安定した走りを見せる為馬券師からも軸馬として頼られがちな馬でもある。でも重不良のロンシャンは勘弁な

桁違いの強靭さ

ディープボンドには戦績や戦法面以外においても特筆すべき競走馬としての高い素質があり、それがとにかく頑丈で強固で回復の早い馬体(身体)である。
彼は2019年の秋にデビューして以来1度も目立った怪我をする事なく2023年の夏までずっとコンスタントに走り続けており、特に3歳春には条件戦とGⅠを含め2ヶ月の間で4回出走という非常に過密なローテーションを好走も挟みつつ完走し、古馬になってからも長く一線級で安定した活躍を続ける現役屈指の無事之名馬を体現する存在。

特にディープボンドが出走したレースには所謂『死のレース』と評される程に過酷な展開やコンディションのレースも多く、特に顕著なのが2022年の宝塚記念と凱旋門賞、2023年の天皇賞(春)の3つ。
'22年の宝塚記念ではレース後に2着のヒシイグアスが過度な消耗による熱中症で半年以上戦線離脱し、13着のメロディーレーンと14着のアリーヴォもその後故障*10
加えて怪我には届かずとも出走後に成績不振に陥る馬も上位勢、実績上位勢含めて一定数おり、
同年の凱旋門賞も同様、1着のアルピニスタはその後故障で引退し、2着馬と4着馬も揃って年明け以降調子を崩しており、日本から出走した馬の中でもステイフーリッシュが繋靭帯炎を発症する等、地元勢含め多くの出走馬がその後の競争生活に支障をきたす極悪馬場状態のレースであった。
更に23'年の天皇賞春では先述したようにタイトルホルダー、アフリカンゴールドの2頭がアクシデントで競争を中止し、レース後も6着のボルドグフーシュ、10着のヒュミドール、15着のトーセンカンビーナがそれぞれ蓄積疲労や過酷なレース展開の影響で故障を発症してしまった。

このように、多くの出走馬達にとって一際タフで負担の大きい競馬やレースを使っても疲労を引きずらずに走り続けることができるのは立派な才能の1つであり、ディープボンドの優れた長所、武器と評せる一面であろう。


【稀代の愛されホース】

そんなズブズブした個性を持つ善戦馬が人気にならないわけがない。
ディープボンドは非常に高い人気を持つ馬の一頭であり、ネット内外を問わず人気が覗える話が聞かれる。
インターネット発祥の愛称ではあるが「ディープボンド」の間を取った「プボ」、あるいは「プボくん」が愛称として知られ、その独特の雰囲気や走法を「プボ味がある」「プボプボしている」と呼ぶ向きが一部にある。その流れで大量に居る「ディープ」冠を持つ馬が「プイ(ディープインパクト)」「プスカ(ディープスカイ)」「プブ(ディープブリランテ)」などと言った略称で呼ばれるようにもなった。

そして、愛される理由の最も大きな理由がギャップ萌え。
普段はマイペースで賢く手のかからないおっとりした性格であり、ズブい馬、ということもあってかのんびり屋の第一印象を受ける。
しかしながら、レースごとに毎度吠えるがごとき熱意を見せ、抜かれても最後まであきらめないその姿に心を打たれたファンが多数。
そして、よく見ると整った顔立ち、毛艶が美しい青鹿毛でふっくらしているように見えながらもよく見るとスラッとして仕上げられた肉体美も忘れてはならない。
その馬体は、ある評論家に「黒いスーツを着たジェームズ・ボンド」に譬えられたこともあるほど。ファンは専らこしあん呼びだが
さらに、2023年の宝塚記念の時期に公開されたインタビューでは、調教助手によるディープボンドの評が綴られているが、知られざるディープボンドの姿にギャップ萌えを発症させるファンも多くいたという。
グランプリ投票でも、投票方法の都合上1年以内にGⅠを制覇した馬が有利、とされる中でGⅠ未勝利ながら毎回一桁上位に食い込むのはこの愛されぶりの表れだろう。

2023年春に発売されたプライズ商品のぬいぐるみである「サラブレッドコレクション」では、同時発売されたGⅠ馬のタイトルホルダー、エフフォーリア、シャフリヤールを差し置いて真っ先に狩り尽くされたとの報告が多数見られた。

【余談】

モーイの真相

2022年天皇賞・春の直前、twitterに一つの動画が投稿された。
ディープボンドがトレーニングセンターで歩いており、首を上げて口を開けるや否や明らかに「モーイ」と聞こえる声が捉えられたのである。
これは馬の鳴き声なのか!?と話題となり、ディープボンドの変わった鳴き声としてモーイが拡散されることになった。

それから1年と少し後、ディープボンドを担当する調教助手にnetkeibaがインタビューを行ったのだが、その調教助手によると、「ディープボンドはほとんど鳴き声を出さず、モーイと言うのも聞いたことがない」と説明した。加えてヒヒーンとも鳴かなければ馬っ気も出さないという補足もあった
この発言は「やっぱり偶然どこかから人の声が入ったのではないか?」「別の馬が声を出したのではないか?」「カメラと馬上では聞こえ方が異なるのではないか?」との様々な憶測を呼ぶこととなった。



追記・修正は天皇賞・春を3年連続で連対してからお願いします。

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最終更新:2024年04月28日 18:10

*1 ノースヒルズ代表・前田幸治氏の実弟

*2 2023年 10月現在

*3 この半月前に行われた高松宮記念においてクリノガウディーを駆り1着入線。2年振りのGⅠ制覇かと思われたが、斜行による他馬妨害が認められてしまい4着降着&騎乗停止となってしまった。

*4 ディープボンドはレースに対してスイッチのオンオフが得意であり、調子が良いときほどチャカつくと言われている。

*5 ちょうど当時は馬の苦痛を減らす観点から鞭の使用可能な回数が規定により減らされており、鞭を多用することはできなくなっていた。

*6 なお、祖父のディープインパクトは同じロングストライドながらピッチ走法レベルの速さで足を回すことでとんでもない加速力を生み出していた。つまりロングストライド自体は祖父譲りと言えば祖父譲り。

*7 実際2023年の阪神大賞典では逃げるアフリカンゴールドに何度か並びかけるがその度に制され、位置取りが中途半端になってしまう事象が発生している。

*8 障害競走まで含めればゴーカイの中山大障害も該当する。

*9 東京、中山、阪神、京都

*10 特にアリーヴォの方は怪我の重症度も非常に大きく、このレース以降1度も競馬を使えないまま引退を余儀なくされている。