ふたば系ゆっくりいじめ 297 あまあまスイッチ

あまあまスイッチ 39KB


【注意】
  • 冗長です
  • ネタ被りはご容赦を





ある日、近所に住む菓子職人が箱一杯の飴を持ってきた。
時々あることなのだが、こいつが持ってきたものが美味かった例がない。

「美味しかったら店に並べるに決まってるだろう」
「正直者はホントむかつきますね。てか何で俺のとこに?」
「君なら使い道があると思ったんだけど」
「自分とこのゆっくりの餌にするべきだそうするべきだ。だからもって帰れ」

こいつの家には菓子の材料用のゆっくりが大量にいる。
どうせこの飴もゆっくりが材料なのだろうし、還元すればいいだろうに。

「あれらの餌にこういうものをやると、次から餌を食べなくなるんだ。
 死んだほうがマシ、と思うのかは知らないけれど、餓死されるのは困る」
「だったら飼いゆにやれば? この前子供が産まれたらしいじゃないの」
「ゆっくりの餌にゆっくりをあげるとか、よくそんなひどい事言えるね」
「どうせ巡り巡ってゆっくりの腹に収まるのに。ショートカットくらいいいんじゃね?」
「それについてはあんまり触れないでくれよ」
「とにかく産業廃棄物なら産廃業者にお願いするのが世の中の常識であり俺んちに不法投棄すんな」
「わかったよ。はいこれ」

わさビーフ1袋。
なめとんのか。

「ふぉまえふぉふぁいふふぁふぃっふぃりふぁなふぃふぉふふぇふぁいふぉいふぇふぁいふぉうふぁな」
「食べるか喋るかどっちかにしてくれよ」

食べた。

「じゃあそれが代金ってことでよろしく頼むよ。たまにはうちのケーキでも買いに来てよ」
「甘いものは嫌いなんだよ」

ホントにどうすんだ、この飴玉ども。
今は家にゆっくりはいないし、愛で兄の家に持っていくとデブが蘇るし。
森に持ってってばら撒いても、ゆっくりがしあわせーとか言い出すとムカツクし。
ああ、不法投棄とか言われるのも勘弁だな、また警察で説教されたくない。

とりあえずネットでも見ながら使い道考えるか…。





「…はっ!?」

気がついたら一心不乱にクリック連打していた。
げに恐ろしきサイトがあったもんたい。

クリックするとお金がもらえる。
いや、別に本当にもらえるわけじゃない、表示される単位が「万円」というだけだ。
そして、たまに死ぬ。
これも当然本当に死ぬわけじゃないし、死ぬと金額がリセットされる。

ただこれだけの、リアルとは何の関係もないスイッチを、気付けば1時間もクリックしていた。
なんかこう、欲望の琴線に触れるストレートすぎる内容にハートが鷲掴みされたのだな、うん。



で、ここで思いついた。
これ、ゆっくりにやらせたら面白いんじゃね?










【あまあまスイッチ】










「という仕組みのものなのだよ」
「にんげんさん、どこむいてはなしてるの?」

という事で場所は家の裏手の森を奥深く進んだところ。
規模の大きな複数の群れなど、結構な数のゆっくりが住んでいるので、こいつを置くにはちょうどいい。
さすがに俺が張り付いて観察するわけにはいかないので、開けた場所に機械を置いた後、周囲を観察できるように仕掛けをした。
盗撮用の、無線で映像を飛ばせるタイプのカメラと、盗聴用の無線マイクをセットでだ。
大した距離を伝送できるわけではないが、中継器を置いてそこから有線すれば、後は自室に居ながらにして観察し放題だ。

手持ちの小型モニタを確認すると、カメラに向かって話していた俺の顔が映っている。
スピーカーは切ってあるが、横のレベルメーターが動いているので問題は無いだろう。

振り返ると、俺がその辺にいたゆっくりに声をかけて集めさせた群れが大集合している。
後はこいつらに仕組みを教えて帰るだけだ。

「そこのぱちゅりー、ちょっといいか?」
「むきゅ、ぱちぇになんのごよう?」
「お前ら全員が仕組みをきちんと覚えられるかわからんからな。
 もちろん全員に説明はするが、お前には近くでよく見てもらう」
「むきゅ、そういうことならしかたないわね」

のんびりと這って近付いてきたぱちゅりーを抱えあげると、群れの中の1匹が声を上げた。

「ずるいよ! ぱちゅりーがあまあまさんをひとりじめするよ!」

いきなりこの調子でげんなりするが、今だけはちょうどいい。

「よし、じゃあお前。そう、そこのれいむ。お前に最初にあまあまをとらせてやろう」
「ゆ! さすがかわいいれいむはちがったね!!」

当然他のゆっくりからはブーイングの嵐だが、全員分のあまあまがあると言って黙らせる。
ウソは言っていない。
全員が生きて帰れるかは別問題だが。

「じゃあ、よく聞けよ、お前ら」
「「「ゆっくりきくよ!!」」」



まずは機械の外観から。

見た目には巨大なコーヒーメーカーだ。

上のコーヒーを抽出する部分に相当する場所が、飴玉タンクだ。
押し付けられた飴玉が、片栗粉をまぶした上で全部入っている。
片栗粉は飴玉同士の貼りつき防止のためだ。
最近涼しくなってきたし、近頃雨も少ないので、中で融けたりして出てこなくなるということは当分無いだろう。

下のポットを置く部分に相当する場所はスイッチになっている。
耐久性と誤動作防止の関係上、子ゆっくり程度の重量では反応しないが、これについては致し方ない。
ここに大人のゆっくりが乗ると、スイッチが反応して仕組みが作動する。

「れいむ、ここに乗ってみろ」
「ゆっくりのるよ!」

れいむはぽよんと飛び乗ったが、そんな勢いをつけなくても重さだけで反応するように出来ている。
スイッチが沈み込むと、中の機械が動く音が聞こえた。

ガコン!
カラカラカラ…コトン

「ゆ、まんまるさんがでてきたよ!」
「それがあまあまさんだ」
「ゆゆっ!! ゆっくりたべるよ!!
 むーしゃ…がだいいいいいいいいいいいいいい!!!」

まあ、飴の歯で飴玉かじったらそうなるよな。
ていうか教えるの忘れてた。

「くそじじいいいいいい!! こんなのたべられないでしょおおおおおおお!?」
「悪い悪い。それはむーしゃむーしゃするんじゃなくて、ぺーろぺーろするあまあまさんなんだ」
「ゆゆ? ぺーろぺーろ…ししししあわせええええええええええええええ!!」

最初は飴玉を地面に置いたまま汚らしく舐めていたれいむだが、転がって食べにくいのに気がついたのか、すくい上げて頬張った。
しあわせーな顔がムカツク。



「むきゅ、あそこにのるとあまあまさんがでるのね。りかいしたわ」
「ま、それだけじゃないんだけどな」
「きゅ?」
「れいむ、そこで跳ねてみろ。あまあまさんがもっとでるぞ」
「ゆゆ!? ゆっくりりかいしたよ!」

聞くが早いか、れいむがぽゆんぽゆんとその場で飛び跳ねる。
跳ねるたびに出てくる飴玉を、跳ねながら器用に舌で拾い上げて口の中に放り込んでいく。

「しあわせーーー!!!」

周囲で見ているほかのゆっくりたちも、我慢できずに機械に群がってくる。
その時、それは起きた。

「…9、10」
「ゆべっ!!?」

元ネタだって死ぬことがあるんだから、この機械でも死なないはずが無い。
れいむは機械正面から飛び出した何本もの鉄槍に貫かれていた。

「「「ゆうううううううううううううううううううううううううう!?」」」
「むぎゅっ!? えれえれえれ…」
「おっとっと、こいつに死なれたら困るな」

ショックで吐き出したぱちゅりーの口元を押さえ、落ち着いたところでオレンジジュースをかけてやる。
その間に、れいむを串刺しにしていた鉄槍は機械の中に戻り、代わりに横から板が振るわれ、れいむの死体を弾き飛ばした。
死体に居残られると次のゆっくりが怯えて機械を使わないかもしれないので、そのための処置だ。



「…に、にんげんさん! なんなのこれはああああああ!?」
「実はな、これはゆっくりの神様からお前たちに持って行ってほしいと頼まれたんだ」
「むきゅ!?」
「ゆっくりしているゆっくりにご褒美だってな。
 でも、ゆっくりの神様でも、どうしてもご褒美だけには出来なかったそうだ。
 だから、時々罰があるようにもなっているんだ」
「むきゅう…そうだったの…」

こんな出鱈目でも信じるから餡子脳って素敵です。

ちなみに時々は時々だ、具体的には10回に1回。
こんな機械に乱数出すためにだけ電子機器乗せるの面倒だったので、歯車でカウントして定期的に罠が発動するようになっている。
どうせ3以上は数えられない餡子脳が相手だ、連中には乱数も同然だろう。



こうして準備は整った。
ぱちゅりーに群れ全体への説明を任せて、俺は家に戻った。










[初日]



「ゆうぅ…あまあまさんたべたいよ…」

群れの大半がこんな調子だった。
死んだれいむのしあわせー!な様子を見ているので、やはり自分も食べたいのだろう。
だが、死んでしまうのも間近に見たので、怖くてスイッチを押すことが出来ない。

「ゆん! まりさがあまあまをたべるよ!!」

機械を遠巻きに囲んでいる群れをかき分けて、1匹のまりさが機械に寄っていった。
このまりさ、狩りの腕前は群れ随一だが、おつむのダメさ加減も群れ随一。

「まりさまってね! えいえんにゆっくりしちゃうかもしれないんだよ!」
「まりさはとってもゆっくりしてるよ! だからだいじょうぶなんだよ! そんなこともわからないの?」

とまあ、こんな調子である。
群れのみんながはらはらしながら見守る中、ためらいも無くスイッチに飛び乗った。

ガコン!
カラカラカラ…コトン

「ゆゆーん、しあわせー!!」

出てきた飴をひとつ頬張ると、まりさは意気揚々と巣に帰っていった。



こうなると後は早い。

「つぎはれいむがたべるよ!」
「ありすがさきよ!」
「まりさもたべたいんだぜ!」
「「まりさはさっきたべたでしょ!!」」
「それはまりさじゃないんだぜえええええええ!!」
「わからないよー!!」

次を争って群れ全体が一斉に機械に迫っていく。
遠景からのカメラの画像は、波が押し寄せていくようだった。

「や、やべっ! おざな…おさばびゅううっ!!」
「いぢゃい!! じんじゃう!! じにゅううううううう!!」

そのあちこちで、勢いに押されて潰れていくゆっくりが多発する。

「あまあまざん! じあわぜ! じあばびゃああああああああああああ!!」

爆心地であるスイッチの地点はなおひどいことになっていた。
スイッチに乗ることが出来たゆっくりも、四方八方から押し寄せるゆっくりの波に一方的に押し潰される。
運良く逃げる、などと期待できるような生易しい状態ではない。
全方位から来るゆっくりの津波から逃げられるはずも無い。



「そこまでよ!!」

ぱちゅりー渾身の大声で群れの動きが止まったとき、機械の周囲は潰れたゆっくりで埋め尽くされていた。





[2日目]



「やれやれ、これは手間だな…」

実に群れの3割が潰れ死んだ大惨事の翌日、俺は機械に積もった餡子の掃除に来ていた。
正直、欲望に忠実なゆっくりの性格を甘く見すぎていた。

「どうしてこんなことに…」
「全くだ」

隣では最初に機械の説明をしたぱちゅりーが嘆いている。

「にんげんさん、おねがいがあるわ」

さらにその隣から声をかけてきたのはありす。
このありすが、ぱちゅりーたちの群れを統治している長だった。

「ありすのむれに、とかいはじゃないゆっくりがたくさんいることがわかったわ。
 せっかくのごほうびだけど、みんながゆっくりできなくなるからもってかえってほしいの」

おお、なかなか賢いありすだ。
ドスでもないのにこの規模の群れを率いているだけはあるということか。
なんでも昨日は群れの赤ちゃんの面倒を見るために残っていたが、ぱちゅりーに呼ばれて今日は来たらしい。
こいつがあの場にいればあんな混乱は無かったと思うのだが、ままならない。

「そうは言ってもな、神様からのお願いだから、俺が持って帰るわけにはいかないさ」
「ゆぅ…」

神様にかこつけているが、要するに機械の引越しをするのが面倒くさいだけだ。
別の群れに持ち込んだところで、初日の大混乱は大して変わらないだろう。
だったら、学習したこの群れに継続使用してもらったほうがいい。

「神様がせっかくくれたご褒美なんだぞ、お前がみんなをまとめて使わせればいいんじゃないか?」
「ゆううぅぅ…」

こんな感じで言いくるめて、機械を押し付けて帰った。



「ゆぅ、どうしようかしら…」

ありすは困っていた。
参謀のぱちゅりーに聞いた話によれば、昨日は群れの誰も彼もがご褒美に押し寄せたという。
特別に素行の悪いゆっくりだけ、というわけではないのだ。

今日は群れの誰もここに来てはいないが、いずれ誰かがここに来る。
そうすれば、先を争って殺到するようになるのも遠くない。
来てはいけないと制限することもできるが、いずれは破綻するだろう。
今群れに強いているすっきり制限がみんなにかけている負担を、ありす種の長だからこそ理解できた。
この上あまあま禁止などといっては、群れの統治が立ち行かなくなるだろう。



「ゆっ! ゆっ!」

そんなことを考えている間にゆっくりが1匹やってきた。
昨日の大混乱の引き金になった、あのまりさだ。

「ちょ、ちょっとまちなさいまりさ! どこにいくの!」
「ゆ、おさ? まりさはあまあまをとりにいくんだよ!」
「だ、だめよまりさ! いま、あのあまあまさんをどうするかかんがえているのよ!」
「あまあまはかみさまがくれたんだよ! みんなのものだよ! おさのものじゃないのになにいってるの?」

そう言って、長ありすの言うことなど全く聞かずに、まりさは機械に向かって跳ねていった。

「むきゅ、これはもうしかたないわ、おさ」
「ぱちゅりー…」
「むれのじゅうちんでこうたいで、かみさまのごほうびをみはるしかないわ。
 そうしないと、きのうみたいなことになるとおもうの。
 ぱちぇはもう、あんなのみたくないわ」
「そうね……そうするしかないわね」



「しあわせー!!」

無事に飴玉を手に入れたまりさが歓声を上げている。
それを聞きながら、長ありすと参謀ぱちゅりーはため息をついた。










[3日目]



昨日の長と重鎮たちの会議で、機械に見張りが付くことに加え、もうひとつだけルールができた。
それは「あまあまさんをもらいに行ったら、次は太陽さんが2回上がるまでもらいに行けない」だ。
一度に機械に集まるゆっくりを少しでも減らすための策で、参謀以外に重鎮の中にもう1匹いるぱちゅりーから提案された。

「これなら、ならぶのはだいたいはんぶんくらいですむわ。
 むれのみんなも、このくらいならがまんできるとおもうわ」

早速群れにはルールが伝えられ、見張りの言うことを聞かないと群れから追放という罰も伝えられた。
不満を言うものがないでもなかったが、群れの大部分が一昨日の惨禍の当事者だけあり、そのことを持ち出されては黙って従った。



「まりさはきょうもいくの?」
「もちろんいくよ! れいむはいかないの?」
「みんないっぱいならんでるから、あしたにするよ」
「ゆん、じゃあまりさはれつさんにならぶよ!」
「れいむはかりにいってくるね!」

こうして重鎮ぱちゅりーの目論見通り、列を成すのは群れのおよそ半分のゆっくりたちだった。
今日の見張り担当はちぇんで、長い列を前後に走り回って割り込みやけんかを仲裁していった。

「しあわせー!」
「しあわせー!」
「しあわせー!」
「ゆびゃああああああああああああああああああ!!」

こんな具合に、適度に悲鳴をはさみながら、列は徐々に短くなっていく。
と、その列が半分ほどになった頃。

「ねえ、ちぇん」
「よんだんだねー?」

順番になったれいむが見張りちぇんを呼んだ。

「あのね、あまあまさんはたくさんもらってもいいの?」
「にゃ?」

このれいむは初日に、実験台になったれいむがスイッチの上で何度も飛び跳ね、あまあまをたくさん出していたことを覚えていた。

「れいむのはにーのまりさは、あのときにつぶれてえいえんにゆっくりしちゃったよ。
 れいむのおうちにはおちびちゃんたちがいるよ。れいむはかわいそうなしんぐるまざーなんだよ。
 れいむはおちびちゃんたちみんなのぶんのあまあまさんがほしいよ!」
「にゃにゃにゃにゃ!? ちぇんにはわからないよー!」

実を言うと、これは重鎮たちは誰も考えていなかった。
神様のご褒美は時々罰が出ることもあって、その時には永遠にゆっくりしてしまう。
なので、余計なリスクを負ってまでたくさんほしいというものが出るというのは想定外だったのだ。

「ちょ、ちょっとまってほしいよ! おさにきいてくるよー!」

そう言ってちぇんは長の巣目指して跳ねていったが、れいむはそれを待ってはいなかった。
あまあまさんを出してしまえばこっちのもの、そういう短絡的な思考でスイッチに飛び乗った。



「れいむー! おさがいいって……にゃ?」

ちぇんが戻ってくると、れいむはいなかった。
れいむの後ろに並んでいたありすが、顔を青くして震えている。

「ありす、れいむがどこにいったのかおしえてほしいよー?」
「れいむは……」
「……にゃっ!?」

ありすの見る先をちぇんも追うと、そこには体中を穴だらけにしてなお息のあるれいむが転がっていた。

「れいむううううううううううううう!?」
「…どぼぢで……でいぶは…がわいぞうな……じんぐ……まざー…な……に…」

駆け寄ったちぇんに恨み言を残して、れいむは永遠にゆっくりした。

この有様を見ていたゆっくりたちは、理解した。
かわいそうだとかは関係ない、ゆっくりしていないゆっくりは永遠にゆっくりさせられる、と。

もちろんそれは思い込みで、実際は10匹ごとに1匹が淡々と殺されるだけだ。
だが、機械を神様のご褒美と信じているゆっくりたちは、目の前の出来事を関係ありそうなことと結び付けて考えた。

「あ…ありすは、あまあまさんはいいわ。ゆっくりかえるわ…」

とかいはじゃない、とかいはじゃないと繰り返しつぶやきながら、ありすは列を離れて帰っていった。



リスクを考えられる頭の良い個体は、自分が本当にゆっくりできているかに悩み、列を離れていった。
残ったのは、自分がゆっくりできていると信じて疑わないゆっくりばかり。

「ゆぎゃああああああああああああああああああああああああああああ!!」

その後1匹が犠牲になり、都合4匹の犠牲でこの日を終えた。










[7日後]



その後も頭の良い個体から列に並ばなくなり、比較的おつむが残念な個体ばかりが列に陣取るようになっていた。

一度にもらえるだけもらっても構わないという長のお達しもあり、その手の個体は死ぬまでスイッチの上で飛び跳ねる。
こうしてこの頃になると列に並ぶゆっくりは片手の指で足りるほどになっていたのだが、この日は様子が違っていた。
いつもの面々に加えて、やけに悲愴な面持ちのゆっくりが混じっているのだ。

「おちびちゃんたち……かならずあまあまさんをもってかえるよ……」

これらは、この機械が原因で親を失い、孤ゆとなった子供たちを引き取ったゆっくりたちだった。
このゆっくりたち自身も子供を抱えており、そこに親類の子供を引き取ったため、餌がとても足りていない。
そのゆっくりできない毎日の慰めに少しでもと、あまあまの列に並んだのだ。

「ゆげえええええええええええええええええええええええええええええええ!!」
「ゆごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

結果は語るまでもない。

ゆっくりは子沢山だ、自身の子供に加えて親類の弧ゆまで引き取れば、10匹を超えるのが当たり前だ。
都合10匹以上もの子ゆっくりに行き渡るように、あまあまを用意しようとすればどうなるか。

こうして数日のうちに、善良だがあまあまの誘惑に抗えない個体が全滅することになる。










[14日後]



「どうだった、おさ?」
「だめね…みんなはなしをきいてくれないわ」

戻ってきた長や参謀、重鎮たちに声をかけたゆっくりたちは、長の返事にうつむいた。

長たちを待っていたのは、群れの弧ゆ院を担当するゆっくりたちだ。
群れの中で弧ゆが爆発的に増加し、弧ゆ院では育てきれなくなったのだ。

その弧ゆたち、総勢100匹あまり。
わずか2匹の弧ゆ院担当ゆっくりで賄いきれるはずもない。

弧ゆ院として用意された大きめな巣穴には収まりきらず、空き家となった巣のいくつかに分散して暮らしている。
それらの巣を順番に回り、世話をするのだが、とても足りない。
ぺーろぺーろでの身繕いは2,3日に1度が精一杯で、餌を届けるだけでほぼ1日が終わってしまうのだ。



その、餌の問題のほうが遥かに深刻だ。
2週間前、弧ゆ院の子供たちは10匹もいなかった。
それが、たったこれだけの間に群れの成ゆが半減し、弧ゆが10倍となる事態となったのだ。

単純に考えて、狩り手が半減したのだから、群れ全体の集める餌の量も半減している。
だが、すっきり制限のおかげで、孤ゆの数は幸い100匹で済んでいるとも言え、今なら群れ全体の協力で支えられないこともない。

しかし、長たちによる説得は失敗に終わった。
長たちの命令に従順な善良個体は、このときすでに全滅に近い状態だった。
残っているのは、ご褒美のあまあまに通い続ける極わずかな生き残りと、早々にあまあまを諦めた比較的頭の良い個体たちだ。

まず、あまあまに通い続ける個体たち。
これはダメだ、端から当てには出来ない。
すでに味覚があまあまで破壊されており、以前にはご馳走だったおはなさんやいもむしさんさえ受け付けなくなっているという。
また、あまあまへの中毒症状も出ており、性格も攻撃的になっていて、群れでの生活に支障が出ている。
数少ない例外が、あの最初に自分からあまあまを取りに行ったまりさだったが、先日とうとう永遠にゆっくりさせられてしまった。
彼女らがあまあまに通い続ける限り、いずれ同じように永遠にゆっくりしてしまうだろう。

そして比較的頭の良い個体たちだが、これらが実に始末が悪い。
そもそも彼女らがあまあまを諦めたのは、ゆっくりしていないゆっくりは永遠にゆっくりさせられる、という思い込みからだ。
つまり彼女らには、自分がゆっくりしていないゆっくりだという自覚が、多少なりともある。
自己中心的な、あからさまに言ってしまえばゲスの素養があるゆっくりだと、彼女らはこの時に自分で認めてしまったのだ。

それからというもの、彼女らは徹底的に保身に走っている。
今のこの現状を予測できたものも少なくないのだろう、彼女らは決して身内の弧ゆを引き取らず、自分の子供だけを養ってきた。
そしてまだ秋も始まったばかりだというのに、今冬篭りをはじめても十分なほどの食料を溜め込んでいた。
当然、その食料は長たちには秘密だ。
その上で、冬篭りが出来なくなると、弧ゆたちへの援助を求める長の要求を跳ね除けた。



「おさ、けつだんしないといけないわ」
「でも……でも、ぱちぇ!」
「むきゅ、わたしだってつらいわ。でも、このままだとみんな、ふゆをこせないわ」

参謀ぱちゅりーが長に迫っているのは、間引きだ。
今は長と参謀が弧ゆの世話を手伝い、重鎮たちが狩りに奔走することで辛うじて食い繋いでいる。
だが、冬に備えての蓄えとなると絶望的だ。
日ごろのわずかな備蓄自体、弧ゆの急増のために吐き出してしまったのだ。

参謀ぱちゅりーの言うこともわかる。
長ありすは群れの長の子として生まれ、先代の長ありすから徹底的に長の心構えを叩き込まれてきた。
その教えの中には、大を生かすために小を捨てるというものもある。
だが、長ありすにとっては群れのみんなは全て家族で、それを切り捨てることなど今まで考えたこともなかったのだ。



「…ひとつだけ、かんがえがあるわ」

声を上げたのは、群れのみんなにご褒美のあまあまに並ぶことを許したとき、ルールをひとつ加えた重鎮ぱちゅりーだった。
今ではあまあまに通うゆっくりが減ったため、監視もルールも無くなっていた。
が、次の参謀と目されている重鎮ぱちゅりーの発言に、皆が注目した。



「そ、そんなことできるわけないでしょおおおおおおおおおおおおお!?」
「ぱちゅりーのいってることがわからないよーーー!!」
「でも、ぱちゅりーにはこれくらいしか、みんながふゆをこせるほうほうはおもいつかないわ」
「ゆーーーーん……」
「……やるわ」
「おさ!?」
「みんながえいえんにゆっくりしないですむなら、それをやりましょう」










[15日目]



夜まで続いた会議の翌日、長ありすの群れから重鎮ちぇんが跳ねて行った。
向かう先は、神様のご褒美をはさんで群れの反対側、この森で2番目に大きい──今では最大の群れだ。

「ちぇんはとなりのむれのちぇんだよ! おさにあわせてほしいよ!」

その声に、この群れのゆっくりたちが集まってきた。
ちぇんを囲んで遠巻きに集まり、特に近寄って来ようとはしない。
ひそひそと何事か話しながら眺められることに居心地の悪さを感じながら待っていると、その壁を割って1匹のまりさが現れた。

「まりさのむれになんのようなのぜ?」
「ちぇんのおさから、おくりものをしにきたんだよー」

そのちぇんの言葉に長まりさが眉をひそめる。
隣の群れとは餌場を巡って対立することが多く、こんな贈り物の申し出など今までに無かったからだ。

「じつは、ちぇんのむれにたいへんなことがあったんだよー」
「たいへんなこと?」

ちぇんは参謀ぱちゅりーに教わったことを思い出しながら話していた。
曰く、隣の群れの長は疑い深いから、まずこちらの弱みを話して、それに対するお願いということにしろと。
そのためにみんなで考えた言葉を、長まりさの態度に注意しながら一つ一つ話していった。

「そうなんだよー。
 はぐれれみりゃがやってきて、むれのみんながたくさん、えいえんにゆっくりしちゃったんだねー」

ここで長まりさがにやりと笑う。
隣の群れの勢いが弱まったのなら、この秋は餌場を拡大することが出来る。
今年の冬は楽に越せそうだ、と。

「それでおねがいがあるんだよー。
 おとなのみんなはへっちゃったけど、こどもはたくさんいるからたいへんなんだねー。
 だから、ちぇんたちのむーしゃむーしゃぽいんとにはこないでほしいよー」
「ゆ? それはできないそうだんなのぜ!
 まりさたちだって、ふゆさんをこすのはたいへんなのぜ!
 ごはんさんはあるところからとるんだぜ! ひつようだったらちからずくなのぜ!」
「ただとはいわないよー。そのためのおくりものなんだねー」

そのちぇんの台詞を長まりさが鼻で笑い飛ばす。

「ゆっはっは! おもしろいことをいうのぜ!
 ちぇんがどこにおくりものをもってるのか、まりささまにはみえないのぜ!」
「ここにはないんだよー。あんないするからついてきてほしいんだよー」



罠かもしれない、そう構えた長まりさだったが、道々ちぇんの話を聞くうちに、見るだけ見てみようという気持ちになった。
何でも、ゆっくりの神様がご褒美にくれたあまあまだという。
ただあまあまさんを出すだけでなく、時々罰があるというのが気に入らないが。
ともかく、本当にあまあまだったら、ちぇんたちの群れのいうことを聞いてやってもいい。
あまあまがあればゆっくり出来る、つらい冬篭りを楽しく過ごせるかもしれない。

「これなんだよー」

ちょうど、長ありすと長まりさのそれぞれの群れの真ん中辺りに、それはあった。
ここに置かれたのはお兄さんの計算ずくなのだが、それについては今は触れない。

銀色にぴかぴかしたそれは、普通の森の中にあるものではない。
長まりさが街に出たことがあれば、人間の実物などを見て、これが人間に関係するものと気付けたかもしれない。
だが、生まれてからずっとこの森で過ごしてきた長まりさには、この見たことの無いものが神様のものだと信じてしまった。



「こうするとあまあまさんがでてくるんだよー」

そう言ってちぇんが平らな部分に飛び乗ると、小さな丸いものが出てきた。
ちぇんはそれを長まりさの前においた。

「これがあまあまさんだよー。ぺーろぺーろしてみてほしいよー」
「ゆん、どれどれ。
 ぺーろぺーろ……ししししあわせえええええええええええええええ!!!」
「むーしゃむーしゃすると、かたくてゆっくりできないんだよー。
 おくちにいれてぺーろぺーろしてるといいんだよー」
「むぐむぐ、んぐ……ふぃあふぁふぇええええええええええええええええ!!!」

一心不乱にあまあまを食べる長まりさの反応に、ついて来た取り巻きたちが驚いている。
そして、自分も食べたいと、物欲しそうな顔を長まりさに向け始めた。

「ゆぐん、しあわせー!!だったのぜ!! みんなもたべるといいのぜ!!」
「ちょっとまってほしいよ!!」

長まりさの言葉で機械に取り付こうとしたゆっくりたちが、一斉に不機嫌な目をちぇんに向ける。
自分の言葉を止められた長まりさも同じだ。
だが、これは参謀ぱちゅりーに特に言われたことなので、ちぇんも言わないわけにはいかなかった。

「そのあまあまさんは、ときどきばつがあってえいえんにゆっくりすることがあるんだよ。
 それはおぼえておいてほしいよー」
「それはさっききいたのぜ!」
「じゃあ、このあまあまさんはまりさたちのものなんだよー。
 ちぇんたちのおねがいもきいてほしいよー」
「ああもうわかったのぜ! むーしゃむーしゃぽいんとはいまのままでいいのぜ!
 まりさたちはあまあまでいそがしいからさっさとかえるんだぜ!!」



「というかんじだったんだよー」
「むきゅ。ありがとう、ちぇん。おつかれさま」

群れに戻ってきたちぇんを出迎え、一通り話を聞いてから参謀ぱちゅりーはねぎらいの言葉をかけた。
隣の群れの長まりさの反応は、大体ぱちゅりーたちが予想したとおりだった。

「でも、わからないよー」
「どうしたの、ちぇん?」
「となりのおさは、こわいけどかしこいんだよー。ほんとうのことにきづくかもしれないんだよー。
 ちぇんたちのむれにせめてこないか、しんぱいなんだよー」

ちぇんの心配とは、長ありすの群れが激減した原因がご褒美のあまあまだと、隣の群れに気付かれるかもしれないということだ。
そのときに罠にはめた報復をされるのでは、と恐れているのだ。

「むきゅ、それはしんぱいないとおもうわ」
「にゃ? どういうことなのかおしえてほしいよー」
「となりのおさがかしこいからよ」










[20日目]



長まりさは満足していた。
こんな素晴らしいあまあまをもらえるまりさは、きっと特別な存在なのだと感じていた。
隣の群れの後というのが気に入らないが、それも大したことではない。
どうせ隣の群れは、神様のご褒美を使いこなせなかったのだろう、その程度なのだ。



「ゆん! さっさとくるのぜ!」
「いやああああああぁぁぁぁぁぁぁ…」

長まりさと取り巻きたちに、1匹のありすが連れられてきた。
このありすは群れの掟を破って、群れ以外のゆっくりとすっきりしようとしたのだ。

「ごべんだざいぃぃ、もうじばぜんんん…ゆるじでぐだざいいいいぃぃぃぃぃぃ…」

この群れで罰を受けるということは、すなわち永遠にゆっくりするということだった。
そのため、ありすは自身の末路を悟りながらも命乞いを続けていた。

「ゆふん、まりささまのいうことがきけるなら、ゆるしてやってもいいのぜ!」
「ゆ?」
「まりささまがいいというまで、あそこではねることができたら、ついほうだけでゆるしてやるのぜ!」
「ゆぅ…もうすぐふゆさんがくるのに、ついほうされたらゆっくりできなくなっちゃうわ…」
「ゆあーん!? ばつをうけたいというなら、まりささまはかまわないんだぜ!!」
「ゆぴいいいいぃぃぃぃぃ!! やりばずうううぅぅ!! だがらだずげでぐだざいいいいいい!!」

長まりさに凄まれたありすは、泣きながらスイッチに飛び乗った。
何か出てきたが、今はそんなものを気にしている場合ではない。
こんなところで跳ねるだけで命が助かるなら、いくらでも跳ねる。
だからありすは長の合図も待たずに飛び跳ね始めた。

「ゆっ! ゆっ! ゆっ! ゆっ!
 ゆっ! ゆっ! ゆっ! ゆっ!
 っゆぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

ありすが飛び跳ねていた場所は、ご褒美のスイッチの上だった。
長まりさは、群れの罪ゆっくりの処刑をここで行うことにしたのだ。



長まりさの群れでは恐怖政治が敷かれている。
群れの勃興期には見せしめの処刑を頻繁に行っていたが、それも群れの規模が大きくなりすぎた今では逆効果だった。
締め付けすぎると、その分反発も強力になるからだ。

そのため、処刑は取り巻きたちだけで密室で行っていたが、これがなかなかに手間がかかる。
動けない程度に痛めつけてから群れから離れた穴に閉じ込め、誰も助けに来ないように死ぬまで見張るのだ。
直接手を下してしまっては、死臭が体についてゆっくり出来なくなる。
だからこんな手順を踏んでいたが、面倒なので別の方法を考えていた。

そこに、神様のご褒美がやってきた。
罪ゆを簡単に処分できる上にあまあままでもらえる、まさに一石二鳥のご褒美だった。

中から出てきたあまあまは、1個ずつ取り巻きに分け、残りは長まりさの分となる。
初めての日に取り巻きが1匹、永遠にゆっくりしてしまったが、今となってはそれもいい教訓だ。
取り巻きの誰もがこのやり方に文句を言わず、1匹でこっそりあまあまを取りに来ようとすることもない。

群れの一般のゆっくりには、神様のご褒美のことは教えていない。
元々、特別なご馳走が手に入っても長まりさの総取りだったので、ちぇんの話をきいたゆっくりたちも気に留めていない。
知っている取り巻きたちは、今のやり方で十分に満足している。
長まりさも、全てがうまくいっていることに満足だった。

だから長まりさは気付かなかった。
あまあま欲しさに微罪で罰せられるゆっくりが増えていたことに。
物陰で様子を伺っている視線があることに。



「…ゆ、いったよ」

物陰の視線は、長ありすの群れの重鎮まりさだった。
その後ろには重鎮みょんと重鎮ちぇんの姿もある。

3匹の視線の先には、隣の群れの長まりさ一行がいる。
あまあまを手にして帰っていくところで、もう少し待つと完全に見えなくなった。

茂みの陰から姿を現した3匹は、それぞれ朴の木の落ち葉をくわえている。
向かった先は処刑されたありすの死骸。
持ってきた落ち葉をその隣に重ねると、ありすの死骸を落ち葉の上に乗せた。

「じゃあ、さいしょはまりさとみょんがはこぶよ」
「わかったみょん」
「ちぇんはみちをみるんだね。わかるよー」

そうして3匹は、ありすの死骸を運んでいった。
弧ゆたちの食料にするためだ。



当然、同属食いの禁忌はこの群れの中にもある。
だが、何にでも例外はある。
過去に群れが飢餓に陥ったとき、餓死した仲間の死骸を食らって生き延び、そこから再興して今の群れがある。
長も参謀も重鎮たちも、そのことは代々引き継ぎ、群れの歴史として知っているのだ。
だから重鎮ぱちゅりーは、この非常時を乗り切るために提案したのだ。

群れの中から死骸を出すのは抵抗があるし、何よりこれ以上の死ゆは出したくない。
ならば、他の群れから死骸を調達すればよいのでは?

さすがに死骸をくれなどと真正直に話しては、群れ全体がゆっくり出来ないとして敬遠されてしまう。
だから、神様のご褒美を隣の群れに送ったのだ。
きっと隣の群れでもあまあまに目がくらんで、死ゆを出してでも手に入れようとするだろう。
その死骸を、こっそり頂戴するわけだ。

惨めだなどと嘆いている場合ではない、100匹もの弧ゆの命がかかっているのだ。
もちろん同属1体分のあまあまなど、100匹の弧ゆの前には焼け石に水だ。
なので、これは普段なら食べないような美味しくない草さんに混ぜて出される。
これは不要に舌を肥えさせないためでもあるが、死骸を死骸と思わせないための処理と、少ない餌を可能な限り補うことも兼ねている。
今も他の重鎮たちが、手伝ってくれない群れの仲間の代わりに、必死になって狩りをしているのだ。

正直なところ、このままではまともに冬を越せる個体は少ないだろう。
それでも、まともな成ゆが壊滅状態の長ありすの群れでは、次代のために弧ゆたちの命を諦めるわけにはいかないのだった。










[25日目]



「ゆっくりできないおさはでていってね!」
「ゆっくりできないおさはでていってね!」

長ありすは窮地に陥っていた。
群れのゆっくりに、死骸を集めていることを知られてしまったのだ。



群れで生き残った頭の良いのゆっくりたちは、豊かな餌場を少ないゆっくりで独占しているうちに、完全にゲスとなっていた。
冬の蓄えをたっぷりと溜め込んだ上での日々のたっぷりの餌に、我慢することをどんどん忘れていった。
また、長たちも弧ゆのために日々奔走しており、誰もそれを正すことが無かった。

そしてある日、あるゆっくりが、長たちが何か隠していることに気付いた。
思えばあれほどの数の弧ゆが、誰も永遠にゆっくりすることなく育っている。
長たちはとてもゆっくりした餌場を、自分たちに秘密にしているのでは?
そう勘繰ったのだ。

そして、見たものは死骸をあさる重鎮たち。
ゆっくりを食べるゆっくりはゲスだ、ゆっくりしていない。
だからあの弧ゆたちは全部ゲスだ。
ゲスを育てる長たちもゲスだ。
ゲスは群れにいらない、出て行け。
そういうことだ。

長たちはぱちゅりー種まで含めても10匹ほどで、弧ゆたちのための重労働で疲れきり、栄養状態も悪い。
対して群れのゆっくりは、ぱちゅりー種を除いても20匹あまりで、長たちより一回りも大きいほど肥えていた。
群れのゆっくりの子ゆまで含めれば数は圧倒的で、一斉に襲い掛かられては弧ゆも含めて全滅は必至だった。



「…いきましょう、おさ」
「ゆぐっ…ゆうううぅぅぅぅぅぅ……」

父祖の地を追われる長の心境、如何ばかりか。

長ありす以下、重鎮・弧ゆを合わせて総勢100匹以上。
この日、あても無く群れを去っていった。










[27日目]



「どういうことなんだぜえええええええええええ!?」

神様のご褒美の前で、隣の群れの長まりさが激昂していた。
罪ゆを処刑したのに、あまあまが出てこないのだ。

何かの間違いと思った長まりさは、立て続けに3匹を処刑した。
だが、あまあまは全く出てこなかった。

この日、ついに機械の中の飴玉が尽きたのだ。



「どういうことなの、おさ!」
「ありすもあまあまさんがほしいわ!」

取り巻きたちが騒いでいるが、無いものはどうしようもない。
長の巣にためてあるあまあまを使うか?
いや、あれはダメだ、あれは冬篭りの間に長のかわいいおちびちゃんたちが食べるのだ。
だが、このままでは取り巻きたちの収まりが付かない。
どうすれば。

「…となりのむれがわるいんだぜ!!」
「「「ゆ!?」」」

短い時間で必死に考え、長は隣の群れに転嫁することを選んだ。

「このごほうびは、さいしょとなりのむれがつかっていたのぜ!!
 やつらがつかわなければ、あまあまがでなくなったりしなかったはずなのぜ!」
「ゆーん、そういうものなのかしら?」
「そうにきまってるのぜ!
 となりのむれがまりささまたちのぶんのあまあまをたべたのがわるいんだぜ!!」
「ゆ、なんだかそんなきがするよ!!」
「だからとなりのむれをせいさいしにいくんだぜ!!」
「「「ゆ゛!!?」」」

勢いに乗りすぎた長まりさがとんでもないことを言い出した。
今まで隣の群れとは小競り合いはあっても、全面戦争にまで発展したことは無い。
長まりさの周りで安穏と暮らしていた取り巻きたちは、自分に危害が及ぶようなことを経験したことが無い。
だから、自分が死ぬことがあるかもしれない事態に驚いた。

「お、おさ! れいむはあまあまさんはいらないから、せいさいはかんがえなおしてほしいよ!」
「ゆぁーーーん!? れいむはとなりのむれのすぱいなのかぜ!?」
「ぢぢぢぢがうでじょおおおおおおお!? せいさいはれいむがゆっくりできないからやりたくないよおおおおお!!」
「うるさいうるさい!! やるといったらまりささまはやるのぜ!!
 げすのむれはねだやしにするのぜ!! いますぐもどってせんそうのじゅんびをするのぜ!!」

踵を返して群れに戻ろうとする長まりさの後姿を、取り巻きたちは暗澹たる思いで見ていた。
元々取り巻きたちは、長の周りで調子のいいことを言っているだけでゆっくりできるので、そうしていただけだ。
それが、本当に戦争になってしまったらゆっくりどころではない。
実際には元長ありすの群れはすでに群れとして機能していないので、一方的な蹂躙で終わるだろうが、それを長まりさの群れが知る由は無い。



どうやって群れから逃げ出そうか、何を持って逃げ出そうか、どこへ逃げていこうか。
顔を真っ赤にした長の後ろで取り巻きたちが顔を青くしているとき。

「まつんだよ!!」
「ゆぅーーーん?」

長まりさ一行の前に、1匹のゆっくりが立ちふさがった。
厳しい目をした、長とは別の若いまりさだった。

「どうしてかってにこんなところにくるのぜ! せいさいされたくなかったらさっさとむれにかえるんだぜ!!」
「まりさはしっているよ! おさたちがここで、みんなをあまあまにかえていたことを!」
「それがどうしたのぜ! ざいゆっくりはせいさいされてとうぜんなのぜ!!
 ついでにあまあまがでてきても、かんけいないのぜ!!」
「じゃあ、きょうえいえんにゆっくりしたありすはなにをしたの!?
 きのうえいえんにゆっくりしたれいむは!?
 そのまえのぱちゅりーは!?」
「ゆぎっ!?」

長まりさは咄嗟の言葉に詰まった。
ここ数日はあまあま欲しさに、ほとんど言いがかりで罪ゆを仕立て上げていたからだ。

「ぱちゅりーはまりさのおかあさんだったよ! とってもかしこくてゆっくりしたおかあさんだったよ!
 れいむはまりさのいいなずけだったよ! とってもやさしくてゆっくりしたれいむだったよ!
 ありすだって……それを…それををををををををををを!!」
「ゆがああああああああああああああああああ!!
 うるさいうるさい!! まりささまはおさなのぜ!! えらいのぜ!!
 おさにさからうげすはしねええええええええええええ!!」

言うが早いか、長まりさが目の前の若まりさに飛び掛る。
だが、若まりさはそれを冷静に避けると声を上げた。

「いまだよ!」
「ゆん!?」

長まりさは横から飛び出してきた影に気付いた。
気付いたが、そこまでだった。



「ゆっくりしねみょん!!」

ざくっ
「ゆっぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」



横の木陰に潜んでいたみょんが口にした木の枝で、長まりさは貫かれた。

「ゆばあああああああああああ!! だれがばりざざばをだずげろおおおおおおおおおおお!!」
「むりだよ」
「ゆ!?
 ゆびゃあああああああああああああ!!
 いぢゃいいぢゃい!! おずなあああああああああああ!!」

枝に貫かれたままの体を若まりさに押され、長まりさは悲鳴を上げる。
そうして無理矢理後ろを向かされて、目に入ったのは木の枝で武装したゆっくりに囲まれた取り巻きたちだった。

「だ…だずげで……おざ…」
「ゆああああああああああああああああ!!
 おばえらがばりざざばをだずげるんでじょおおおおおおお!?
 ばがなの!? じぬの!?」
「しぬのはおまえだよ」
「ゆ゛っ!?」

若まりさは長まりさから枝を引き抜くと、長まりさの上に飛び乗った。

「ゆぴゃあああああああああああああああああああああ!!
 でぢゃう!! あんごでぢゃう!!
 やべで!! だずげでええええええええ!!」
「いのちごいなんてきかないよ」
「どぼぢで!?」
「どうしてそんなこときくの? ばかなの? しぬの?」
「ばりざはばがじゃな……ゆぎょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!



若まりさは何度も長まりさの上で飛び跳ね、念入りに押し潰していった。
やがて長まりさの声が聞こえなくなり、目玉も潰れて真っ平らになり、土に混じって原形を留めなくなるまで、何度も、何度も。



「おまえたちはむれにつれてかえるよ」
「おでがい…いのぢだげば……」
「おまえたちのしょけいは、むれのみんなでするよ」
「「「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」」」










[30日後]



隣の群れあたらしい長となった若まりさは、長ありすが統治していた群れを訪れた。
長まりさの苛烈な統治で半減してしまった群れの安堵を担保するために、平和条約を結ぶためだ。

そして、隣の群れの現状を見て愕然とした。

これ程広大なゆっくりぷれいすに、いるのはわずかに十数の家族だけで、その誰も彼もがゲスだった。
聞けば、長たちはゲスが追い出したという。
賢く立派な長がいると評判で、いつか移り住みたいと思っていた若まりさの理想郷の、現実がこれだった。

ゆっくりの群れなんて、どこもこうなのかもしれない。
長まりさに家族の全てを奪われた若まりさは、復讐を終え、理想の結末を見、全てが空しくなった。



こうして、隣の群れはわずか3日で新しい長を失った。



この後、統率を失ったゆっくりたちが餌場を巡って散発的に争っていたが、やがて来た冬が全てを雪の白の下に包み隠してしまった。
いずれ来る春に新しい秩序が生まれるかは、その時にならないとわからない。










[後日]



「いや、なかなかドラマチックだったね」

観察記録の編集を終えた俺は、ため息混じりにつぶやいた。
もちろん、満足満腹のため息だ。

2つの群れの中央に機械を置いたのは、機械を巡って群れ同士が醜い争いでもしてくれないかと期待してのことだった。
だが、現実は俺の予想をはるかに超えて劇的だった。

こんなおもしろいものを俺一人で見るのはつまらない。
最近、愛で兄が虐待に目覚めたので、これを見せて反応を見てみよう。
愛でと虐、どちらに振れるかはわからないが、どっちにしても面白いだろう。



面白いといえば。

モニタの画像を切り替える。
赤外線カメラの白黒画像に映っているのは、長ありすとその御一行様だ。

裏手の広大な森は、人里近いにもかかわらず純野生種に極めて近いゆっくりを観察できる、貴重な土地だ。
そこであれほど大きな群れを維持できた長ありすを使い捨てるのはもったいない。
以前別の実験のために誰も住まなくなってしまったゆっくりぷれいすに、人間の仕業と気付かれないように誘導したのだ。

長ありすたちは、かつて熊の巣穴だった場所で冬篭りをしている。
かつての主は、猟友会の手にかかってすでにこの世にはいない。
巣穴の置くにはたっぷりの餌が溜め込んである。
数年は放置されていたゆっくりぷれいすなので、餌だけはたっぷりと集めることができたのだ。

当然、それだけでは100匹以上の群れを維持できない。
なので、森に仕掛けたあれこれの罠を使い、適正と思える数にまで俺が間引いた。
新作の罠の動作確認にもなり、一石二鳥だった。

長たち大人のゆっくりの輪の中で、30匹ほどの子ゆっくりが眠っている。
全てが冬を越せないとしても、これだけの数がいれば、春には新しい群れとして機能し始めるだろう。



その新しい群れは、一体どんなドラマを見せてくれるのだろう。
来るべきその時のために、新作の開発に余念は無い。










(完)





作者:元ネタ → 「98%の確率でお金がもらえるが、2%で死ぬボタン」
   (記事:ttp://internet.watch.impress.co.jp/docs/yajiuma/20090916_315857.html)
   作者は898万円で死にました。

by (め)の人





想定以上に長くなったので、せっかくなので拙作一覧もつけておきますね。

ふたば系ゆっくりいじめ 166 ゆっくり繁殖していってね!
ふたば系ゆっくりいじめ 179 にんげんさんはゆっくりできない
ふたば系ゆっくりいじめ 203 まりさのだいじな
ふたば系ゆっくりいじめ 207 ゆっくりせいいをみせてね!
ふたば系ゆっくりいじめ 215 ゆっくりほいほい
ふたば系ゆっくりいじめ 219 ゆっくりアップダウン
ふたば系ゆっくりいじめ 244 ぽんぽんいたいよ
ふたば系ゆっくりいじめ 251 ゆゾンデートル
ふたば系ゆっくりいじめ 255 れいむのラッキーライフ
ふたば系ゆっくりいじめ 259 れいむのアンラッキーライフ
ふたば系ゆっくりいじめ 262 目と目で通じあう
ふたば系ゆっくりいじめ 269 約束しよう
ふたば系ゆっくりいじめ 278 れいむの性格改善教室



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このSSへの感想 ※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね!
感想

すべてのコメントを見る
  • 最高の作品の1つに出会えた -- 2012-11-19 01:41:10
  • 俺1億5000万超えた! -- 2011-05-30 20:15:12
  • 物語性が素晴らしいなぁ。
    仕掛けも良いが、その後のゆっくり達の考えも素晴らしい -- 2010-10-03 22:05:02
  • すごく完成度が高くてゆっくりできたよ!
    こういう読み応えがある作品はうれしいね!
    -- 2010-07-31 09:05:47
  • 面白かった!

    こういうのを読みたかった -- 2010-07-11 12:10:34
  • フォローは『あの向こうへ』をどうぞ -- 2010-03-07 02:18:18
最終更新:2009年10月24日 01:47
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