ある問題をご覧ください。平成20年に全国の小学校6年生を対象に文部科学省が行ったテストの中で、正答率が低かった問題です。
約150平方センチメートルの面積のものを、下の(1)から(4)までの中から1つ選んで、その番号を書きましょう。
(1)切手1枚の面積 (2)年賀はがき1枚の面積
(3)算数の教科書1冊の面積 (4)教室1部屋のゆかの面積
この問題、正解は(2)ですが解答の分布は以下の通り。
(1) 1.3% (2)17.8% (3)49.2% (4)30.6%
記事中でコメントしている東洋館出版社・川田龍哉氏によると「今の子どもたちは、計算などの問題はできるけれど、重さや面積といった量の感覚が乏しい」そうです。
そして、それは「生活体験が乏しいからではないか」と川田氏は言います。それはおそらく正しいでしょう。
しかし、それにしても 150平方センチの面積を (4)教室1部屋の床の面積と間違えるなんていくらなんでもあんまりだとは思いませんか?
150平方センチっていうと、えーっと、10×15センチぐらいだから・・・あ、はがき1枚ぐらいか。 と、「150平方センチ」というテキスト(記号による表現)と、現実の物との間で相互に換算することができれば何の難しいところもない問題のはずです。
それが小6で2割を切る正答率、というのは何かがおかしい。
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つまりはこの相互変換が出来てない、ということですね。
では、なぜ出来ないのか? というと、練習してないからでしょう、きっと。
そうは言ってもこの程度の問題、練習するほどのものか? という気もしますが、ここで以下のサンプルをご覧ください。
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せいぜい繰り上がりがある12×7がちょっとだけ難しいぐらいで、いずれもごくごく簡単な掛け算です。
この掛け算を、おはじき図(アレイ図)に表したものを右側に「量イメージ(正)」としてつけておきましたが、問題は
式を計算して答は出せても、量イメージを持っていない子がいる
ということですね。冒頭に紹介した「150平方センチ」の事例が意味するところは、そういうことです。極端なことを言うと、6とか84とかそういう答は出せていても、量イメージとしては(誤)の例のように「6,20,84となんとなく増えるんだよね」という程度のモヤッとしたイメージしか持っていない可能性があります。
というのは、たとえば12×7のような掛け算を計算するときは単なる九九じゃすまないので筆算のやり方を学ぶことになりますが、筆算の手順そのものは単なる記号操作の規則であって、その記号操作の過程の中には「量イメージを確認する機会」はないからです。
だから、記号操作の規則としての筆算をひたすら練習するだけだと、それが現実世界のどのような「量」を表すのか、という実感が持てないままに、記号操作に熟達してしまう恐れがあります。「
お母さんは勉強を教えないで」という本にその事例が書かれています。
「式と答」の範囲で完結するオペレーションをいくらやらせても、「量イメージ」は自動的にはついてきません。
「あ、6と84ってこんなに違うんだ」という量イメージをもたせるためには、上の図の量イメージ(正)のような、「量を視覚的に把握でき、自分が操作できる対象物」におきかえて、それを「切ったり伸ばしたりして操作する」という体験が必要です。
アレイ図を書かせれば自動的にそういう体験が出来るにもかかわらず、実際にはそれが行われておらず、「式と答」だけで完結するようなテストを中心に算数教育が行われてきた、その結果が「正答率2割以下」なのではないでしょうか。
言うまでもないですが、「1つ分×いくつ分」をテキストから読み取る練習をいくらさせても、量イメージはついてきません。
「掛け算順序固定」を擁護する人は異常なほどに「1つ分×いくつ分」にこだわりますが、それは「掛け算」をテキストパターンマッチングと記号操作の体系として教えているだけで、「掛け算」がどのような「量の変化」をもたらすのか、という実感にはつながらないことを認識していただきたいものです。
最終更新:2015年11月22日 12:24